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10月10日(土) 連合第11回定期大会への感想 [労働組合]

 そこは懐かしい場所でした。連合第11回定期大会が開催された東京国際フォーラムです。

 この場所にはかつて、新宿副都心に移転する前の都庁と都議会がありました。都立大学に入学して東京に出てきた18歳の私は、すぐに学生自治会の副委員長に選ばれ、何も知らないまま先輩に連れられて陳情にやってきたのが、ここだったのです。
 あの時、目黒区選出で都議会議員だった、若き小杉隆さんにお目にかかった記憶があります。その小杉さんは、その後衆院議員となり、今では引退してしまいました。

 大会の会場はAホールでしたが、その立派なことに驚きました。その昔、民間連合の結成大会も傍聴したことがありますが、その時は新宿の厚生年金会館だったと思います。
 それから22年経ちます。この会場の違いが、連合の発展や社会的な地位の向上によるものであれば幸いなのですが……。
 残念ながら、必ずしもそうではありません。民間連合結成から22年、連合になってからでも20年になりますが、労働運動全体としても連合自体としても、その力は強まったというよりもかなり弱まってきているように見えます。

 しかし、大会の会場は、祝賀ムードに包まれていました。政権が交代し、連合が支援する民主党中心の新たな連立政権が発足したばかりですから、それも当然でしょう。
 長年の宿願が実現し、とうとう与党的な立場に立つことになったのですから……。私が、この大会の傍聴にやってきたのも、政権交代後の連合のあり方に注目したからです。
 このように思った方が多かったのかもしれません。代議員よりも傍聴者の方がずっと数が多いように見えました。

 大会は、予定されたタイム・テーブルに基づいて、寸分の狂いもなく進行しました。一昨日も昨日もほぼ予定通りの終了時間で、昨日は予定より3分早く終わったほどです。
 波乱のない進行だったということになります。拍手に次ぐ拍手でしたから、文字通り、シャンシャン大会だったということでしょうか。
 とはいえ、大会での発言などには、それなりに注目される部分がありました。いくつかの点に絞って感想を書いておきましょう。

 第1に、大会での発言者は21人でしたが、そのうち、女性はたったの1人(自治労)です。民間連合の結成大会でも、発言した代議員のうち女性は1人だけだったように記憶しています。
 ただし、急いで付け加えなければならないのは、連合は女性役員を増やそうと特別の配慮を行い、努力しているということです。今回の大会では、会長代行に「女性代表」を新設してNHK労連の岡本直美議長が選ばれ、中央執行委員にも8人の女性代表が選出されています。
 大会に向けて、「私の提言 第6回連合論文募集」が行われましたが、優秀賞、佳作賞、奨励賞の受賞者6人のうち4人が女性です。つまり、女性は多くの問題を抱えており、問題意識も鮮明で的確な問題提起や提言を行っているけれども、実際の運動を担うという点では制約が多く、前線に立てないということでしょうか。いずれ、このような制約が取り払われ、労働組合役員や大会代議員となった女性の発言が殺到する状況が生まれてもらいたいものです。

 第2に、大会の論議では非正規労働者の問題が一つの焦点でした。連合は運動方針で新たに「各論その2」で「非正規労働者の労働条件底上げ・組織化と社会運動の展開」を掲げ、「連合本部に構成組織担当者会議と地方連合会非正規労働センター会議を設置する」「すべての地方連合会に非正規労働センターを設置する」との方針を打ち出しました。
 討論でも非正規労働者の問題について、宮崎地連、サービス流通連合、自治労などからの発言がありました。なかでも圧巻は全国ユニオンの関根秀一郎書記長の発言です。
 その概要は、ご本人が『東京新聞』10月9日付の「本音のコラム」に書かれていますが、関根さんは、①派遣法改正問題、②有期雇用の規制、③均等待遇実現、④非正規労働者への具体的な支援のあり方、⑤年末年始に向けての取り組みの5点について質問し、古賀事務局長は「派遣村のような状況を生まないために政府に働きかけるなど全力を挙げる」と答弁していました。今後、このような取り組みが大きな成果を挙げることを願っています。

 第3に、地域での運動が重視されるようになってきているということです。これについては、新潟地連、宮崎地連、JEC連合、九州ブロック、運輸労連などからの発言がありました。
 これに対して、古賀事務局長は「社会的労働運動をどう展開していくのかが課題だ」と答弁していました。最近、注目されている「社会運動的労働運動」を意識した発言であり、答弁であったと思います。
 運動方針でも、「各論その1」は「組織拡大、集団的労使関係の再構築、連帯活動の推進による社会的影響力ある労働運動の展開」となっており、「地域に根ざした顔の見える労働運動の展開」が打ち出されています。地域での組織や運動を十分位置づけて来なかった連合としては積極的な方針提起だとは思いますが、地域における運動の重視が職域における運動からの逃避という形にならないよう気をつける必要があるでしょう。

 第4に、民主党との距離の取り方、政策的な違いや協議のあり方も問題になっていました。民主党が掲げていたマニフェストと連合の要求とは全てが一致する訳ではなく、民主党の掲げている政策相互の間でも矛盾する部分があるからです。
 活動報告についての発言は電力総連からしかありませんでしたが、そこでは、連合の意見・要望を新政府に伝えることが大切だとの指摘があり、政策制度の実現を図るために政策問題で協議の場を設けることが求められていました。同様の発言は、運動方針についての討論でも、JR連合、国公連合、JAM、自動車総連などからありました。
 特に問題とされたのは、国家公務員総人件費2割削減、国の出先機関の廃止、在日米軍基地の整理・縮小、環境対策、高速道路の無料化、社会保険庁改革、公務員制度改革などの問題です。これらの中には雇用問題に結びつくものもあり、今後の対応が注目されます。

 第5に、発言しなかった単産や取り上げられなかった問題があったということです。そのために、連合内に存在しているはずの異論は大会で表面化しませんでした。
 というより、大会での混乱を避けるために、異論のある単産は発言せず、一致していない問題は取り上げられなかったということかもしれません。結局、私が注目していた電機連合からの発言はなく、電力総連や自動車総連は温室効果ガスの25%削減問題には言及しませんでした。UIゼンセンも派遣法改正問題にはふれず、労働者代表制の法制化など集団的労使関係の強化について発言しただけです。
 労働者派遣法については、「各論その4」で「『日雇い派遣』の禁止、『直接雇用見なし規定』の導入、均等待遇原則の確立など、労働者保護の視点に立った法改正の実現に取り組む」との方針が掲げられていますが、「製造業派遣」については、その言葉すら登場していません。ただ、基幹労連が提起した社会契約的課題について、退任のあいさつに立った高木会長が「社会契約は相互の信頼関係が前提だ」と釘を差したのは流石であり、注目される点でした。

 発言を聞いての感想は以上のようなものですが、これらの発言に対する古賀伸明事務局長の答弁は、「そつがないなー」と感心させられるものでした。発言内容は事前に通告されていたのでしょうが、微妙な問題提起や質問についても、上手くまとめていたという印象です。
 古賀さんには、4月のILO創立90周年記念の祝賀会でお会いして言葉を交わす機会があり、その翌日にはメールをいただきました。如才のないマメな方だという印象を持ちましたが、その印象通りの答弁だったように思います。
 今回の大会で高木剛会長が勇退され、古賀事務局長が次の会長に選出されました。新政権発足後という未体験ゾーンに乗り出す航海の船長さんになられたわけですが、与党的立場を生かしながら、労働組合運動の発展のためにリーダーシップを発揮されることを期待したいと思います。