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5月10日(水) 安倍改憲論は健康体を手術しようとしている気の狂った医者のようなものだ [憲法]

 世の中には、急ぎすぎたためにかえって遅れてしまうということが、えてしてあるものです。だから「急がば回れ」という格言が、それなりの説得力を持って信じられてきたのです。
 ところが、「回ってばかりでは着かないのではないか」と、不安に思った人がいました。「急がば急げ」という新しい格言を作ろうとしているのかもしれません。

 ひょっとしたら、これも閣議決定されるのかも? というのは冗談ですが、やはり「急がば回れ」というやり方の方が良かったのかな? と思い始めているかもしれません。
 急いだために、色々な齟齬や不都合が生じているからです。一石を投じたことは確かですが、それが吉と出るか、それとも凶と出るか、果たしてどちらでしょうか。
 もう、お判りでしょう。安倍首相、ではなくて安倍自民党総裁による明文改憲(改憲発議と国民投票による憲法条文の書き換え)に向けての新たな提起です。

 このところ、安倍総裁は改憲問題について自制の姿勢を示してきました。自分がしゃしゃり出ていったのでは、まとまるものもまとまらないと、考えたからでしょう。
 96条先行改憲論をぶち上げて改憲派の小林節さんの反発を浴び、かえって反対運動を盛り上げてしまいました。この失敗の経験が、安倍さんを慎重にさせたのかもしれません。
 それからは、緊急事態条項の導入などを示唆する程度で、国会の憲法審査会での論議を見守ってきました。しかし、安保法制への反対運動の高揚などもあって憲法についての論議は進まず、次第に安倍さんに残された時間は少なくなってきました。

 「急がば回れ」ということで回り続けてきたものの、一向にらちが明かないというわけです。次第に焦ってきたのではないでしょうか、安倍さんは。
 来年、自民党総裁に3選されても、任期は2021年までです。来年末までには総選挙を実施しなければなりません。
 それほど時間的な余裕はなく、総選挙をすれば衆院での3分の2という改憲勢力が失われてしまうことは確実です。国会での発議は来年の解散・総選挙前でなければならず、国民投票を経て施行するのは何としても21年までに完了させたい、と思いつめたのではないでしょうか。

 「幸い」なことに、衆参両院では改憲発議に必要な改憲勢力が3分の2の多数を占めています。しかし、この中には、条文を書き換えるのではなく必要な部分を付け加えるにとどめるべきだと「加憲」を主張する公明党と独自の改憲路線を取る日本維新の会がいます。
 この両党を引き込まなければ、3分の2を確保することは不可能です。どうすればそれが可能なのかと考えた末に思いついたのが、両党の案をそのまま盗んでしまえば良いという「盗人作戦」です。
 こうして、9条に自衛隊の保持という3項を加える「加憲」、維新の会が主張していた教育費の無償化を入れるという提案でした。これで公明党と維新の会を引き込めれば、改憲発議は可能だと安倍首相、ではなく総裁は考えたのでしょう。

 しかし、困ったのは自民党です。総裁の言うことは無下にできないけれど、これまでの改憲草案や方針とは全く違うのですから。
 突然、「これでやる」と言われても、「はい、そうですか」というわけにはいきません。早速、「今まで積み重ねた党内議論の中では、なかった考え方だ」「自民党の議論って何だったの、ということがある」(石破さん)、「もう少し慎重であっていただきたかった」(船田元憲法改正推進本部長代行)、「党内手続きをとっていないものを公にするときは、党内の話をやっておくべきだった」(伊吹文明元衆院議長)、「首相が思ったような日程感で『とんとん』といくとは考えづらい」(竹下亘国対委員長)などの不平が漏れてきています。
 でも、今の自民党は「安倍一強」ですから。結局は「右へ倣え」ということで尻尾を巻いてしまうのではないでしょうか。

 問題は「挑戦状」をたたきつけられたような形になった野党と国民です。安倍さんのもくろみ通り、やりたい放題やらせてしまって良いのでしょうか。
 国の基本法である憲法がこれほど軽んじられる現状を認めてしまって良いのでしょうか。「3分の2が確保できる内容でさえあれば、変えるのは何でも良い」と言っているようなものなのですから。
 国権の最高機関である国会がこれほど邪険にされている現状を許してしまって良いのでしょうか。「国会で説明するのは面倒だ。詳しいことは読売新聞を読んでくれ」と言ったようなものなのですから。

 今回の安倍さんの改憲発言ほど、許しがたいものはありません。とにかく「改憲した」という実績をあげて歴史に名を残したいという功名心からの提起に、国民全体が巻き込まれようとしているのですから。
 まるで、新しい術式での手術で実績を残したいという功名心に駆られたマッド・ドクター(気の狂った医者)のようなものです。健康体で悪いところでなくても、どこでも良いから手術しやすいところを切らせてくれとメスを振り回しながら叫んでいるようなものなのですから。

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