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7月28日(金) 加計学園園疑惑について低姿勢で嘘をつき丁寧にごまかした安倍首相 [首相]

 7月24日と25日に衆参両院で閉会中審査が開催され、安倍首相が出席して加計学園疑惑などについて答えました。これまでの傲慢さは影を潜めたことは評価できますが、低姿勢で嘘をつき丁寧にごまかしたと言うしかありません。

 2日間の質疑について、何も新しい事実が出てこなかったという評価があります。このようなことを言う人は、何も見ていなかったのでしょう。
 この質疑では沢山のことが明らかになり、判明した事実も多くあったからです。何よりも、この疑惑をめぐるやり取りが裁判であったとすれば、安倍首相とその側近こそが被告であるということがはっきりしました。
 政治や行政を私物化して歪めたのではないかという疑惑を持たれているのは安倍首相らであり、その疑惑について告発しているのは前川さんで、それを裏付けているのがメールや内部文書の存在です。

 この疑惑については、すでに多くの物的証拠や事実が明らかになっています。安倍さんらにとっては、それを否定して疑惑を晴らす絶好のチャンスが今回の閉会中審査でした。
 与党や安倍首相の側は、このチャンスを最大限生かそうとする姿勢を示しませんでした。野党の側の要求を拒んだり条件を付けて逃げ回ろうとしたりする姿勢が、すでに疑惑が本物であることを裏付けていたと言うべきでしょう。
 疑惑が疑惑にすぎず事実ではないと言うのであれば、野党の側の要求をすべて受け入れ、正々堂々と対応することができたはずです。やましいところがなく、濡れ衣を晴らすだけの材料を持っていれば、どのような要求にも潔く応えられたはずではありませんか。

 実際には、そのような材料は皆無でした。だから、逃げ回っていたのです。
 疑惑を指摘する側には、メールや内部文書などの物証があり、それらを裏付ける事実もありました。しかし、疑惑を否定する側には、それを裏付ける客観的な物証もなければ具体的な事実もありませんでした。
 重要なポイントになれば、真正面から否定することもできず、「記憶がない」「認識がない」と答えるばかりです。いつか見たような光景ですが、過去の例では「記憶がない」というのはシラを切る時の常套句であり、こう答えた瞬間に「自白」したようなものではありませんか。

 安倍首相に至っては、加計学園による獣医学部の申請を始めて知ったのは今年の1月20日だとし、これと矛盾する過去の発言を謝罪して訂正しました。このような見え透いた嘘を、どうしてついたのでしょうか。
 それは、第2次政権発足以来14回も加計さんとゴルフや会食をしていることが明らかになり、「私がごちそうすることもあるし、先方が支払うこともある。友人関係ですので割り勘もある」と答えてしまったからです。もし、学部新設の申請を知っていておごってもらっていたら大臣規範に抵触し、収賄罪の可能性すらあるということに気づいたからでしょう。
 だから、慌てて今年の初めまで知らなかったことにしたのです。2015年6月4日に今治市が岡山理科大での獣医学部新設を含む国家戦略特区の提案申請を行ったことを知っており、12月15日の国家戦略特別区域諮問会議でも「今治に獣医学部を整備」と発言している議事録があり、これは加計学園によるものだと十分に知り得る立場にあったにもかかわらず……。

 安倍首相のこの答弁こそ、政治家と政治に対する信頼を真っ向から裏切るものでした。もし、そうではないと言いたいのであれば、カギを握る中心人物に証言してもらうしかありません。
 加計学園疑惑でカギを握る重要参考人は加計孝太郎さんであり、森友学園疑惑では安倍夫人の昭恵さんです。この2人の証人喚問を拒み続けていること自体が、これらの疑惑を「推定有罪」だと判断すべき有力な証拠ではないでしょうか。

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7月27日(木) 共謀罪、「森友」「加計」学園疑惑国会の総括と今後の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』No.768、8月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 アベ政治の退廃と混迷

 通常国会では、アベ政治の退廃と混迷も余すところなく示されました。
 第1に、情報の秘匿と隠ぺいです。行政文書など保管されるべき記録が廃棄されたり、隠されたりしました。南スーダンへの自衛隊PKOの「日報」が隠蔽され、「森友」「加計」疑惑での財務省や文科省、内閣府の情報隠しも大きな批判を招きました。行政の透明化、検証可能性、知る権利の保障という意識も仕組みも極めて劣弱であることが改めて明らかになっています。
 第2に、国連関係者からの懸念や批判です。共謀罪については国連人権理事会特別報告者が懸念を表明し質問してきました。特定秘密保護法についても別の特別報告者が批判し改正を提案しました。日本は国際標準から逸脱しつつあり、国際社会から後ろ指をさされるような「醜い国」になってしまったようです。
 第3に、「安倍一強」体制の下での独裁と強権化です。小選挙区制の導入や内閣人事局の新設などによって官邸支配の体制ができ、国家戦略特区によってトップ・ダウンの政治主導が強まりました。多数党の独裁を生む仕組みができ、三権分立の歪み、総理・総裁や公人・私人の使い分けなどによって「法治国家」から政治・行政・司法が私物化される「人治国家」への変容が生じました。
 第4に、マスメデイアの変質です。一部のメディアで劣化が進み、権力の批判・監視を行う「第4の権力」から権力への迎合・走狗へという機能転換が生じています。とりわけ最大の部数を持つ『読売新聞』が安倍首相の9条改憲インタビューや「加計」疑惑で前川さんの「出会い系バー通い」を報ずるなど、安倍首相によって利用され、報道機関として大きな汚点を残すことになりました。

 今後の課題

 長い間、「安倍一強」と言われるような状況が続き、内閣支持率が安定していました。民主党中心の前政権への失望が大きく、国民は諦めて達観し、安倍政権への期待値が低いから支持率が下がらなかったのです。しかし、異常な国会運営を見て、さしもの国民の「堪忍袋の緒」も切れてしまったようです。
 安倍内閣に対する支持率は軒並み急減し、都議選でも自民党は改選57議席を34も減らし、過去最低の38議席を15も下回る23議席という歴史的惨敗を喫しました。決定的に重要なのは世論と選挙ですが、そこでの質的な変化が生じています。
 「安倍1強」の潮目が変わりました。世論を変えて選挙で決着をつけ、特定秘密保護法、安保法制(戦争法)、共謀罪というアベ暴走政治が生み出した悪法を廃止できるような政府を実現する展望が生まれています。
 その出発点が都議選であり、国政にも大きな影響を及ぼすことになります。17議席から19議席へと善戦健闘した共産党をはじめ、立憲野党の前進を背景に解散・総選挙を勝ち取り、アベ政治の「終わりの始まり」を現実のものにすることが今後の課題です。


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7月26日(水) 共謀罪、「森友」「加計」学園疑惑国会の総括と今後の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』No.768、8月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 はじめに

 通常国会が閉幕し、直後に都議選が実施され、自民党が惨敗しました。この歴史的な敗北は、安倍首相に都民が「ノー」を突きつけた結果であり、その敗因の一つは国会運営のあり方や国政への批判です。
 共謀罪の構成要件を改めた「テロ等準備罪」法案(共謀罪)の強行採決が象徴しているように、かつてない異常な国会でした。通常国会では、この共謀罪をめぐる与野党の攻防と「森友」「加計」という二つの学園疑惑が焦点だったと言えるでしょう。
 国会での審議を通じての特徴は、政治・行政の劣化とそれへの国民の不信が明確になったということです。情報管理のあり方や国連からの批判、多数党の横暴や行政権の肥大化、マスメデイアの変容など、現在の日本の政治や行政が抱えている問題、アベ政治の退廃と混迷も露わになりました。

 共謀罪法案の成立

 共謀罪は参院法務委員会での採決を省略して「中間報告」を行い、参院本会議で成立しました。会期切れ間際の6月15日の朝のことです。内心の自由を取り締まる法案の内容もそうですが、このような「禁じ手」を用いた強行採決も大きな問題でした。
 確かに「特別な事情のある場合」には、このようなやり方が認められていますが、会期はまだ残っています。延長することもできました。会期を延長しなかったのは「森友」「加計」学園などで追及されたくなかったからです。疑惑追及から早く逃げたいという安倍首相の個人的な都合こそが「特別な事情」だったというわけです。
 この共謀罪の成立は、安倍政権がいかに「凶暴」化し、自由と民主主義を踏みにじろうとしているかを象徴的に示しています。多数なら何でもできるという驕りであり、多数で何でもしてしまうという強引さの現れでもあります。
 安倍政権はテロとオリンピックを口実に、政治・社会運動抑圧のための新たな武器を手に入れました。金田法相が法案の問題点についてキチンと説明できなかった(しなかった)のは、適用段階での拡大解釈の余地を残しておきたかったからではないでしょうか。

 「森友」「加計」学園疑惑

 もう一つの焦点となった「森友」「加計」学園疑惑も、安倍政権のいかがわしさを明確に示しました。政治と行政が一部の人によって私物化されている現状が暴露されたのです。
 「森友」については、籠池泰典前理事長の教育方針に共鳴した首相夫人の昭恵さんが「力になりたい」と考えて「神風」を吹かせ、「加計」では加計孝太郎理事長の30年来の「腹心の友」である「総理のご意向」によって便宜が図られたのではないかとの疑惑が浮かび上がりました。
 昭恵さんを守ったのは、その意を「忖度」して便宜を図った財務官僚ですが、計算違いは籠池さんです。「100万円」の寄付を暴露された腹いせに証人喚問しましたが、「敵」に回したために首相も昭恵夫人も窮地に陥りました。
 他方の「加計」疑惑で安倍首相を守ったのは内閣府です。疑惑追及が「官邸の最高レベル」(おそらく萩生田光一官房副長官)に届かないようにする作戦だったと思われます。文科省(第1の防衛線)は突破されましたが、内閣府(第2の防衛線)でストップさせようとしたのでしょう。
 しかし、「森友」では今井尚哉首相秘書官、「加計」では首相側近の萩生田官房副長官や和泉洋人首相補佐官などの暗躍が疑われています。ここでの計算違いは前川喜平前文科事務次官でした。内部文書は本物で、あったものを無かったことにはできないと言われ、人格攻撃までして否定しましたが、結局は国会を閉じて疑惑を隠すという醜態をさらすことになりました。


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7月22日(土) 都議選結果が示したもの アベ暴走政治は止められる  [論攷]

〔以下の論攷は、『全国商工新聞』第3273号、2017年7月24日付、に掲載されたものです。〕

 国民無視の政治に審判

 驚天動地の結果でした。都議選で現有57議席を34も減らし23議席という歴史的な惨敗を喫した自民党は、まるで地面が割れて地獄に引きずり込まれるような恐怖を味わったのではないでしょうか。
 風に吹かれて舞い上がったのが小池百合子都知事に率いられた「都民ファーストの会」です。現有6から49議席に躍進し、追加公認を含めて55議席になりました。今回ばかりは自民党に入れたくないという「非自民」の手ごろな「受け皿」となったからでしょう。
 このような自民対「都民ファーストの会」という対決構図の下で「埋没」すると見られていた共産党は、現有17を2議席増やして19議席となりました。前回の8から17への倍増に次ぐ2回連続での議席増は32年ぶりのことになります。安倍首相にきつい一発をお見舞いしたいという「反自民・反アベ」の思いを受け止めたからです。

 都民が下した三つの審判

 今回の都議選で都民は3つの審判を下しました。これらが積み重なったから、これまでにないほどの惨敗になったのです。
 第1は、自民党都連が生み出した都政の闇への審判です。石原・猪瀬・舛添という3代の都知事の忠実な「イエスマン」だった自民党と公明党によって都政は支配され、築地市場の移転問題をはじめとした闇は深まるばかりでした。昨年の都知事選のときから高まった都民の怒りは、今回の都議選でも自民党都連に向かったのです。
 第2は、憲法無視、政治・行政の劣化や退廃という国政への審判です。都議選直前まで開かれていた通常国会では「共謀罪」法案への懸念が大きかったにもかかわらず強行採決で幕を閉じてしまいました。このような強引な国会運営や9条改憲の目論み、政治家の不祥事や暴言などの国政上の問題も都議選での大きな争点になりました。
 第3は、忖度の横行や強権化、政治の私物化という安倍首相の政治手法、嘘やごまかしへの審判です。とりわけ「森友」「加計」学園疑惑は、権力者による仲間や友人の優遇、政治・行政の歪みを明らかにし、その中心にいた安倍首相夫妻への不信と怒りを高めました。これにとどめを刺したのが、秋葉原の街頭演説での「こんな人たち」演説だったのではないでしょうか。

 世論と選挙で潮目が変わった

 都議選が実施される前から安倍内閣の支持率は低下し始めていました。通常国会閉幕後の調査では、『読売新聞』で支持率49%と12ポイント減、『朝日新聞』では41%で6ポイント減になっています。都議選での自民党の歴史的惨敗は、このような世論の動向を投票によって明らかにしたものでした。
 その傾向は、都議選後も変わっていません。『読売新聞』の調査では、内閣支持率が36%で不支持率が52%と半分を超えました。『朝日新聞』でも支持率33%、不支持率は47%になっています。2回連続での大幅な減少でした。
 政治運営にとって重要なのは世論と選挙です。その両方で、安倍政権は歴史的な後退を示しています。長い間、「安倍1強」と言われていましたが、潮目が大きく変わりました。さらに追い詰めて、アベ暴走政治の息の根を止める展望が生まれています。

 9条改憲の阻止に向けて

 このような潮目の変化は、9条改憲阻止の可能性も高めています。秋の通常国会で自民党の改憲案を出して来年の通常国会で発議し、自民党総裁選での3選を経て秋の解散・総選挙と同時に国民投票を実施するというのが、安倍首相の目論みでした。
 しかし、政権の「体力」は急速に衰えており、自民党総裁選での安倍3選すらおぼつかなくなっています。8月早々に内閣を改造して目先を変えようとしていますが、うまくいかないでしょう。批判と疑惑の中心には安倍首相本人がいるのですから。
 改憲発議の必要条件は、衆参両院で改憲勢力が3分の2以上を占めていることです。しかし、来年12月には衆院議員の任期が切れます。安倍首相は解散をできるだけ先に伸ばそうとするでしょう。それを許さず、できるだけ早く解散・総選挙に追い込み、衆院での与党勢力を減らすことが必要です。

 アベ政治に終止符を打つために

 世論調査や都議選の結果は、「非・反自民」「反アベ」の声が急速に高まっていることを示しています。適切な「受け皿」さえあれば、政治的な地殻変動を生みだせることも明らかになりました。「安倍1強」を支えてきたのは、人々の諦めだったのです。変えられるという展望を示せば、人々は立ち上がります。
 ポスト真実とフェイクニュースを打ち破り、事実を伝えなければなりません。「森友」「加計」学園疑惑を解明し、政治の信頼を回復することが必要です。モノ言えぬ社会にしないために、委縮することなくモノを言い続けましょう。
 もし、安倍政権が国民の声を無視し続ければ、さらに大きな「ノー」が突き付けられるにちがいありません。解散・総選挙に追い込んで、その機会を早く実現したいものです。そのためにも、中小業者など市民と野党との共闘を推進し、いつ国会が解散されても勝利できるような準備を進めることが、これからの課題です。

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7月20日(木) 安倍首相が落ち込んでしまった「負のスパイラル」 [首相]

 スパイラルとは、「らせん状の」「うずまき型の」という意味の英語です。「負のスパイラル」というのは、このらせん状になったうずまき型の線がループのように回りながらだんだんと悪くなっていく様子を示す言葉です。
 今の安倍首相こそ、まさにこのような「負のスパイラル」に落ち込んでしまったのではないでしょうか。らせん状に回転しながらだんだん悪くなっていく負の連鎖をなかなか止めることができない状態にはまり込んでしまったようです。

 このような負の連鎖が始まったのは都議選からではありません。通常国会の途中くらいから、森友学園や加計学園など、首相夫妻に関する疑惑が明らかになったころから「潮目の変化」が生じつつありました。
 これに輪をかけたのが、共謀罪審議での国民を馬鹿にしたような対応です。法案の名称をテロ等防止罪として五輪やパラリンピックを名目に成立を図ろうとし、まともに答弁できない金田法相に担当させ、内心を取り締まるのではないか、一般人や市民運動が対象とされ、物言えぬ監視社会になるのではないかなどの懸念や不安にまともに答えることなく、途中で審議を打ち切り委員会採決を省略して無理やり成立させてしまいました。
 これが国民の怒りに火をつけたのではないでしょうか。しかも、通常国会が幕を閉じた後も、豊田真由子衆院議員の暴言と暴行、加計学園疑惑での萩生田官房副長官の発言メモの発覚、下村元文科相の加計学園からの献金疑惑などが明らかになり、都議選の最中には稲田防衛相や安倍首相による暴言などもありました。

 これらが積み重なって、都議選での自民党の歴史的惨敗となったのです。選挙結果が出る前から、安倍内閣の支持率は低下していました。
 それが、都民の投票を通じてはっきりとした形で示されたのが、これまで最低の38議席を15議席も下回った自民党の歴史的惨敗でした。23議席という惨めな敗北の後、さらに内閣支持率は低下しています。
 内閣支持率の急落と選挙での惨敗とが、まさにらせん状に繰り返されています。このような負の連鎖は、これからも続くことでしょう。

 このような「負のスパイラル」に直面して、安倍首相も対抗策を講ずる必要を感じたにちがいありません。加計学園疑惑に関連する閉会中審査の開催に応じ、自ら出席する意志を示しました。
 しかし、開催の仕方や与野党の時間配分、出席者の人選などについて、自民党は条件を付けてゴネ、結局、質疑時間の配分を、これまでの慣例となっていた「与党2、野党8」から「与党3、野党7」と与党側に積み増すことで一致し、このうち衆議院では、文部科学省の前川前事務次官と和泉総理大臣補佐官を参考人として招致することでも合意しました。疑惑をかけられているのは安倍首相や官邸の側であって、「丁寧に説明する」ために開かれるわけですから、疑惑を晴らすべき立場にある側が注文を付けることは、本来あってはなりません。
 あれこれ注文を付けて、結局、開かれなかったなどということになれば、「また、逃げるのか。やっぱり後ろ暗いことがあるのではないか」と、さらに安倍首相への国民の疑惑を深めただけだったということが、自民党の国対関係者には分からなかったのでしょうか。注文や条件を付けず野党の要求通りに開催するという潔い姿勢を示すことが疑惑を晴らして信頼を回復するために不可欠だったというのに、またもや入り口で信頼回復のチャンスを失したというほかありません。

 このような時に、稲田朋美防衛相についての情報隠蔽と国会での虚偽答弁の疑惑が持ち上がりました。この稲田防衛相の存在も「負のスパイラル」の一環です。
 疑惑の内容は、南スーダンPKO部隊の日報を廃棄したとしながら陸上自衛隊が保管していた問題で、2月に行われた防衛省最高幹部との緊急会議で保管の事実を非公表とするという方針を伝えられて了承し、防衛省・自衛隊の組織的隠蔽を容認していたというものです。それなのに、国会では隠蔽行為の報告は受けていないと否定するうその答弁をしていました。
 これについて、稲田さんは「ご指摘のような事実はありません」と回答していますが、その後の取材で、非公表方針が決まった2月15日の緊急会議の2日前にも、陸上自衛隊側から電子データが保管されていた事実などについて報告を受けていたことが判明しています。2回にわたって報告を受けていたことが明らかになったわけですが、またもや「記録があっても記憶はない」と言い逃れるつもりなのでしょうか。

 とっとと首を切るべきでしょう。内閣改造による通常の交代では、責任を明確にすることができません。
 これまで何度も「大臣失格」の言動を繰り返し、本来であればとっくの昔に首になって当然の人です。安倍首相には任命責任だけでなく、過去の問題発言や不適切な行動を不問に付し、かばって見逃したうえ、えこひいきして居座りを許してきた続投責任も問われなければなりません。
 この問題をきちんと処理しなければ、さらに大きな「負の連鎖」となって安倍首相の足を引っ張ることになるでしょう。それが分かっていながら厳しい処分を行わない安倍首相も、そうなることが分かっていながら自ら責任を取って身を処することができない稲田さんも、政治家としての資質と決断力に欠けていると言わざるを得ません。

 内閣支持率は、一部の調査では3割を切って「順調に」低下を続けています。今のところ、反転できる材料も、そうなる兆しも見えません。
 「潮目の変化」は決定的になりました。安倍首相が落ち込んだ「負のスパイラル」はどこまで続くのでしょうか。
 らせん状に回転しながらだんだん悪くなっていく負の連鎖によって、安倍首相は政権を失うようなことがあるのでしょうか。これが、これからの注目点であり、私たちが目指すべき到達点でもあります。

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7月14日(金) 「残業代ゼロ法案」の条件付き容認に転じた連合は労働者を守る気がないのか [労働]

 労働組合関係者の間に衝撃が走っています。労働組合最大のナショナルセンターである連合の神津会長が安倍首相と官邸で会談し、「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」につて修正を求め、要請が受け入れられれば容認に転ずる姿勢を明らかにしたからです。
 これらの制度は長時間労働を助長して過労死などの危険性を高める「残業代ゼロ法案」だとして、連合も強く反対してきたものです。一定の手直しを前提としつつ条件付きでそれを認めるというのですから、連合は労働者を守る気がないのかと強い批判と憤りが吹き上がるのも当然でしょう。

 連合は制度の修正を求めていますが、今日の『東京新聞』のQ&Aでは、「これで働きすぎは防げますか」という問いに、「そうとも限りません」「過労死の可能性は消えていません」と答え、「導入されれば会社から過大な成果や仕事を求められる心配がありますし、経済界には対象拡大のため年収要件を下げるべきだとの声があります」と指摘しています。
 修正されてもほとんど実効性がなく、過労死対策には効果がないというわけです。電通の過労死問題を契機に世論の関心が高まり、過労死をなくすためのチャンスが訪れているのに、それに逆行するような修正を労働組合の側から提案することに強い批判が寄せられるのは当然でしょう。
 しかも、安倍内閣支持率が急落し、都議選での歴史的惨敗もあって安倍首相は追いこまれています。そのような時に、連合の側から安倍首相に救いの手を差し伸べるようなものではありませんか。

 しかも、この方針転換の経緯は極めて不透明であり、非民主的なものです。今日の『朝日新聞』は、「傘下の労働組合の意見を聞かず、支援する民進党への根回しも十分にしないまま、執行部の一部が『方針転換』を決めていた」と報じています。
 実は、執行部の側は「3月の末から事務レベル」で働きかけており、それを「転換」ではないとして「組織内での議論や了承は必要ない」と強弁しているようです。「水面下の交渉」に当たってきたのは「逢見直人事務局長、村上洋子総合労働局長ら執行部の一部メンバー」で、「神津氏も直前まで具体的な内容を把握していなかったようだという」のも問題でしょう。
 神津会長は10月の連合大会で退任し、後任には逢見事務局長の名前が挙がっています。今回の修正容認の表明は、逢見さんの連合会長就任に当たっての安倍首相への「手土産」ということなのでしょうか。

 労働者の生命と生活、労働条件を守る労働組合のあり方からすれば、まさに変質であり、裏切りにほかなりません。連合組織内からも公然と強い批判の声が出てくるのは当たり前です。
 派遣社員や管理職などでつくる連合傘下の「全国ユニオン」は、鈴木剛会長名で下記のような反対声明を出しました。その批判にどう答えるのでしょうか。
 連合は労働組合として労働者を守る気があるのかないのか。働く者の代表としての存在意義が問われています。
 以下に、「全国ユニオン」が鈴木剛会長名で出した反対声明の一部を紹介しておきましょう。

 ……7月10日、突如として「『連合中央執行委員会懇談会』の開催について」という書面が届き、出席の呼びかけがありました。開催は翌11日で、議題は「労働基準法改正への対応について」です。
 異例ともいえる「懇談会」で提案された内容は、報道どおり労働基準法改正案に盛り込まれている「企画業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」を容認することを前提にした修正案を要請書にまとめ内閣総理大臣宛に提出するということでした。
 しかし、連合「2018~2019年度 政策・制度 要求と提言(第75回中央執行委員会確認/2017年6月1日)」では、雇用・労働政策(※長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを実現する。)の項目で「長時間労働につながる高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の対象業務の拡大は行わない。」と明言しており、明らかにこれまで議論を進めてきた方針に反するものです。労働政策審議会の建議の際にも明確に反対しました。ところが、逢見事務局長は「これまで指摘してきた問題点を文字にしただけで方針の転換ではない」など説明し、「三役会議や中央執行委員会での議論は必要ない」と語りました。まさに、詭弁以外の何物でもなく、民主的で強固な組織の確立を謳った「連合行動指針」を逸脱した発言と言って過言ではありません。しかも、その理由は「働き方改革法案として、時間外労働時間の上限規制や同一労働同一賃金と一緒に議論されてしまう」「圧倒的多数の与党によって、労働基準法改正案も現在提案されている内容で成立してしまう」ために、修正の要請が必要であるとのことでした。
 直近の時間外労働時間の上限規制を設ける政労使合意の際も、私たちはマスメディアによって内容を知り、その後、修正不能の状況になってから中央執行委員会などの議論の場に提案されるというありさまでした。その時間外労働時間の上限規制と、すでに提出されている高度プロフェッショナル制度に代表される労働時間規制の除外を創設する労働基準法改正案とを取引するような今回の要請書(案)は、労働政策審議会さえ有名無実化しかねず、加えて、連合内部においては修正内容以前に組織的意思決定の経緯及び手続きが非民主的で極めて問題です。また、政府に依存した要請は、連合の存在感を失わせかねません。
 ……
 私たち全国ユニオンは、日々、長時間労働に苦しむ労働者からの相談を受けており、時には過労死の遺族からの相談もあります。過労死・過労自死が蔓延する社会の中、長時間労働を助長する制度を容認する要請書を内閣総理大臣宛に提出するという行為は、働く者の現場感覚とはあまりにもかい離した行為です。加えて、各地で高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の反対運動を続けてきた構成組織・単組、地方連合会を始め、長時間労働の是正を呼び掛けてきた組合員に対する裏切り行為であり、断じて認めるわけにはいきません。また、このままでは連合は国民・世論の支持を失ってしまうおそれがあります。
 シカゴの血のメーデーを例にとるまでもなく、労働時間規制は先人の血と汗の上に積み上げられてきました。私たち労働組合にかかわる者は、安心して働くことができる社会と職場を後世に伝えていくことが義務であると考えます。今回の政府に対する要請書の提出は、こうした義務を軽視・放棄するものに他なりません。全国ユニオンは、連合の構成組織の一員としても、政府への要請書の提出に強く反対します。
以 上

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7月12日(水) 「安倍一強」崩したマグマ [論攷]

〔以下の談話は、『東京民報』第1994号、7月9日付に掲載されたものです。〕

 安倍首相に対し、マグマのようにたまっていた都民の怒りが爆発したような選挙結果でした。自民党として過去最低だった38議席以下だけでも「歴史的敗北」なのに、それをさらに15も下回り、底が抜けたような大敗北です。
 「森友」「加計」疑惑にふたをしたままの共謀罪の強行採決、その後も相次いだ議員や首相側近の不祥事に暴言、疑惑隠しなどがありました。都民は「政権の中枢が腐っているのではないか」「首相を信用していいのか」と不信を抱きました。「信なくば立たず」という政治の土台が揺らいだ。これが地殻変動のような惨敗につながりました。
 都民ファーストの会は、こうした不信や「反自民」の手ごろな受け皿となって躍進しました。ただ、ポピュリズム選挙のような強い「追い風」に乗って当選した新人議員が、大阪や名古屋で当選した議員のようにスキャンダルを起こさないか、知事へのチェック機能が果たせるのか、有権者の点検や監視が必要です。
 共産党はマスコミが現状維持も難しいと予測するなかで、議席を伸ばしました。ポピュリズム選挙の嵐の中でも、立憲野党が健闘できることを示したといえます。
 「安倍一強」の潮目が変わったことがはっきりと示されたことは、市民と野党の共闘にとって大きな励ましになります。市民と野党の共闘を強め、早く解散・総選挙を勝ち取ることが今後の課題でしょう。

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7月11日(火) 加計学園疑惑の参考人質疑で前川「奇兵隊」の逆襲が始まった [国会]

 注目の参考人質義でした。加計学園疑惑での焦点の人である前川喜平前文科省事務次官が国会で初めて証言しました。
 当初、中継しないと言っていたNHKも、世論に押されて中継することになったようです。午前中に衆院で、午後には参院での質疑が放映されました。

 質疑では前川さんと菅官房長官、萩生田官房副長官、山本地方創生担当相などの証言が真っ向から食い違う場面がたびたび見られました。どちらが正しいのか、どちらが嘘を言っているのか、よく分かりません。
 このような質疑を見て、所詮は水掛け論だから真相がはっきりすることはないと思われたかもしれません。しかし、この質疑の開かれ方やそこでの応答から明確になったことがあります。
 加計学園疑惑をめぐる状況証拠からすれば、どう考えてみても安倍首相は「真っ黒」だということです。見解が対立しているということは、どちらかが嘘を言っているということになりますが、今回の質疑によってそれについいての判断材料が沢山提供されたからです。

 まず明らかになったことは、政府・与党が真相解明の場を設定することから逃げ続けてきたということです。野党が憲法によって要求している臨時国会の開会を拒み、当初は閉会中審査もやらないと言い、都議選での敗北を受けて前川さんを国会に呼ぶことになっても証人喚問は避け、質疑での資料の扱いについても難癖をつけて開始時間を遅らせました。
 しかも、重要な主役である安倍首相と準主役である和泉首相補佐官、藤原内閣府審議官は出席せず、前川さんが「在職中に担当課からの説明を受けたときに入手した、目にした文書に間違いない」と存在を確言し探せばあるはずだという「萩生田副長官ご発言概要」という内部文書についても松野文科相は再々調査をしないと答えました。カギを握る重要人物であるからこそ出席させないということであり、見つかっては困るからこそ調べないということなのでしょう。
 答弁についても、菅官房長官はつっけんどんな受け答えに終始し、山本地方創生担当相は聞かれてもいないことに早口で延々と答えて時間稼ぎをするなどの醜態をさらしました。落ち着いて堂々とした態度で正確に受け答えしていた前川さんとは大違いです。

 テレビでの放映を見ていた人のほとんどは、証言の内容もさることながら、異なった立場にある当事者相互の対応から、どちらが信用できるのかということを感覚的に判断できたのではないでしょうか。閉会中審査によって参考人質疑を行い、その映像を放映したことは無駄ではなかったと思います。
 証言の中身としても、判断材料がたくさん提供されました。おなじみのセリフである「記憶にありません」という言葉も登場しました。
 この言葉は、都合が悪い事実について肯定するわけにも否定するわけにもいかず、さりとて嘘をつくのも避けたいという場合に用いられる独特の用語です。そして、重要なポイントにさしかかるたびにこの用語を多用していたのは萩生田官房副長官と文科省の常盤高等教育局長でした。

 今回の質疑を通じて、安倍首相の関与を示唆する事実が一つ明確になりました。それは和泉首相秘書官の存在です。
 以前から前川さんは、昨年秋、和泉さんに呼ばれて加計学園の獣医学部の開学手続きを急ぐように催促され、その際、和泉さんが「総理は自分の口から言えないから私が言う」と発言したと証言していました。その内容が事実かどうかは分かりませんが、少なくとも国家戦略特区とは職務上のかかわりを持たないはずの首相秘書官が文科省の次官を呼びつけたことは事実です。
 国家戦略特区については内閣府の所管であって官邸や首相秘書官とは無関係のはずなのに、首相秘書官が登場したということ自体、首相の指示なり依頼なりがあったと理解するのが自然でしょう。「自分の口から言えないから君から行ってくれないか」と。

 和泉さんこそ、カギを握る人物なのだということがはっきりとしてきました。だからこそ、政府・与党はこの人の国会での証言をかたくなに拒んでいるのではないでしょうか。
 隠せば隠すほど、そこには真実が存在しているのではないかとの疑いが増すものです。嘘をつき誤魔化しているからこそ、逃げ回っているのです。
 安倍首相本人もやましいところがないのであれば、堂々と国会を開いて疑問に答えればよいではありませんか。「反省している」「丁寧に説明したい」という自らの言葉が嘘でないというのであれば。

 水掛け論になるのは、嘘を言っても罰せられない参考人質疑だからです。真実を語らなければ罪に問われる条件の下で、改めて証人喚問するべきでしょう。
 早急に臨時国会を開いて予算委員会での集中審議を設定し、安倍首相や前川さんをはじめ関係者の証人喚問を行い国民の疑惑に答えるべきです。逃げれば逃げるほど、「私は真っ黒です」と自白しているようなものなのですから。
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7月9日(日) いま闘うことは、いちばん良い時代を生きてきた人間の責任(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『ねっとわーく京都』No.343、2017年8月号に掲載されたものです。聞き手は細川孝龍谷大学教授で、インタビューは6月17日に行われました。2回に分けてアップします。〕

■行政管理情報は国民の財産・知る権利を保障する基本的資産=際立ったずさんさと情報隠蔽

細川 今回問題になった二つの学園疑惑では、首相のみならず昭恵さんも大きな役割を果たしています。

五十嵐 森友と加計、どちらも状況証拠では「真っ黒」です。森友学園の場合、背景には時代錯誤的な国粋主義教育に変えていきたいという共通の思いがありました。教育勅語を暗唱させる籠池さんの教育方針への心情的共感があったのではないでしょうか。そのために便宜を図り特別扱いするという形で動いたのが昭恵さんだったと思います。昭恵さんが5人の秘書役を使って動き、そのことを周りの官僚も知り、意向を忖度して特別扱いをしたということです。昭恵さんを守ったのは財務官僚です。その背景には、消費再増税に向けて恩を売っておこうという下心も見え隠れしています。ですが、ここでの計算違いは籠池さんでした。対応を間違えて「敵」にしてしまったのですから。
 加計学園の場合は利害関係者による便宜供与です。理事長の加計さんは安倍首相の40年来の「腹心の友」で、安倍さんは広島加計学園の監事を務め報酬も受け取っていました。昭恵さんは傘下の御影インターナショナルこども園の名誉園長をしています。新たな条件を加えるように指示を出したと疑惑を持たれている萩生田光一官房副長官は、落選している間、加計傘下の千葉科学大学の客員教授でした。浪人中に救ってもらった恩義があります。萩生田さんは国会で「公的な行事以外では加計孝太郎さんと会ったことがない」と答えていましたが、安倍さんと加計さんと萩生田さんが安倍さんの別荘で缶ビール片手にバーベキューしている映像が報じられました。政権中枢で責任ある人が、これほど平気で嘘、デタラメを言って隠し事をするようなことはかつてなかったと思います。加計問題では首相を守ったのは内閣府でしょう。第1の防衛線である文科省は突破されても、第2の防衛線である内閣府で官邸への追及をストップさせたわけです。ただ、計算違いはメールや内部文書の存在と前川前文科省事務次官で、その結果、政権は追い込まれ、会期延長せず異例の強行採決へと突き進むことになりました。

細川 問題になっている点で言えば、報道や情報管理の在り方も問われています。昨年、いま話題になっている前川前文科省次官がある学会で話されていますが、私は結構見識がある方だなと感じていました。天下り問題で責任をとらされたというのか、自らが辞職されたかたちだと思いますが、この点も真実が見えてきません。

五十嵐 これも行政の劣化ですね。行政関連の文書はできるだけ保管し、その情報をもとに過去の行政の検証ができるようにしておかなければなりません。これは当然のことです。行政関連の情報は国民の財産です。国民の知る権利を保障するための基本的な資産なのですから、これを勝手に処分するのは国民に対する裏切りです。本来、残っているはずの文書の廃棄が、南スーダンPKO部隊の日報をはじめ、いろんなところで起こっています。公文書管理のずさんさと情報隠蔽が際だった国会審議でした。情報管理の在り方に問題があり、行政の透明化という点でも大きな課題を残しました。

■政治を変えられるという期待感を高め、展望を説得力あるかたちで示していくことが重要

細川 いま閉塞感というのか、展望の見えない状況があると思います。少し前になりますが、民主党政権が誕生したときの期待・高揚感以降の国民の意識状況についてはどうでしょうか。

五十嵐 民主党政権に対しては国民の高い期待がありました。ですから、「裏切られた」という失望感も大きかったのです。現在の安倍内閣について国民はほとんど期待していないと思います。ですから、裏切られてもあまり失望しない。若者は特にそうですが、将来に対する希望も見通しも失っているのではないでしょうか。だから、今がいちばん良いと思っているのです。現状維持を望み、現在の安定している状況がいつまでも続いてもらいたいという気持ちがある。これが内閣支持率の高さに反映しているのではないでしょうか。あきらめの気持ちが安倍さんを支えているように思います。

細川 その一方で昨年の新潟県知事選挙にみられるような野党共闘の展望についてはいかがですか。

五十嵐 こうすれば政治を変えられるという期待感を高めていく、またそのような展望を説得力あるかたちで示していくことです。そうすれば、あきらめかけている人たちも、これなら何とかなりそうだと立ち上がる。半分まどろみかけていた人たちも、目を覚ますと思います。目を覚ました若者たちの一部は、安保法制に反対する運動で国会の前に立ちましたし、いまも「未来に対する公共」という新しい組織をつくって運動を続けています。こういう目覚める人たちをどんどん増やしていくことです。そのためには、目に見えるかたちで本当のことを伝えていかなければなりません。格好の武器としてインターネット、SNS、フェイスブックやツイッターなどがあります。これで事実を伝えていくことです。先ほどマスコミの問題が出ましたが、メディアを通じて権力は事実を隠そうとする、あるいは偽情報を流そうとしますが、いまはインターネットがありますから長続きしません。すぐに「それは違うよ」とバレてしまいます。隠そうとしても情報の隠蔽は難しい。国民の知る権利を具体化していく上で、こういった手段を活用していくことは非常に重要だと思います。文書も日報もパソコンでつくりますから、データとして残ります。新しい技術的条件が、一面では情報隠蔽や偽情報を流すために使われますが、他面ではそれを覆して事実、真実を明らかにしていく役割を果たしています。これらを武器として活用することは、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

■権力を監視する、委縮せずどんどんモノを言う、悪法廃止に向け政権交代をめざす

細川 共謀罪が成立し、7月には施行されます。共謀罪が通ったもとでいかに運動を展開していくのか。戦争法は重大な問題ですが、それに比べても共謀罪は日常生活に関わってくる問題です。今後、共謀罪の廃止を求めてどのように運動していくのか、重要と思われる点をお聞かせください。

五十嵐 共謀罪の審議では曖昧で明確な答弁がなされませんでした。何を考え、何をしたら捕まるのかよく分からない。これは意図的に曖昧にした面もあると、私は考えています。つまり、拡大適用できるようにするためです。それをまず抑えることです。拡大適用して個人や団体、運動などを取り締まるために使われないように、あるいは国民を監視して萎縮させないようにすることです。権力によって監視されるのではなく、権力を監視することがこれからの第一の課題です。第二はモノ言えない社会を作らないということです。そのために私たちはどんどんモノを言っていかないといけない。萎縮させようとしている相手に対して、萎縮していては話になりません。どんどんモノを言うことでモノを言えない社会づくりに風穴を開けていく。市民運動を取り締まろうとする動きに対しては、逆に運動を活性化し活発化することで反撃する。三つめはこのような誤った法律は廃止する必要があります。廃止できるような議会構成をつくらなければなりません。究極的には政権交代です。これは戦争法廃止という点でもそうです。特定秘密保護法、戦争法、そして今回の共謀罪など、安倍暴走政治、逆走政治によって制定されてきた悪法が多くあります。昔の日本を取り戻すような悪法をなくせるような新しい政府をつくることが、これからの課題だと考えています。次の総選挙で与党を敗北させ政権交代を実現することが必要です。

細川 いまのお話を伺っていて3点目はすんなり思っていましたが、法の拡大適用を許さない、運動をもっと活発化させていく点について言えば、すごく頭が整理された気がします。それがないと、確かにどんどん押し込まれてしまいます。

五十嵐 萎縮させようと思っているのにこちらが自主規制すれば、安倍首相の思うつぼです。自主的な運動を活発化させることが相手の思惑、意図を打ち砕くことになります。恐れずに発言し行動していきましょう。

細川 今号は大学特集ということで、学生とその親世代に対するメッセージを兼ねて、ひとことおっしゃってください。

五十嵐 未来に生きる若者こそが、いまの政治の在り方に対してもっとも発言しなければなりません。この政治が生み出す結果に対して大きく制約され、未来が左右されるのはまさにいまの若者たちです。当たり前の働き方をして当たり前の生活が普通に送れるような社会ではなくなってきていますから、これをもとに戻すこと、自由で民主的で平和な社会をめざすことです。あの廃墟となり荒廃した戦争直後の時期から、これほどの経済大国と言われるところまで再建してきたわけですから、これをきちんと次の世代に手渡していくことが必要です。そういった自由、民主主義、平和を子どもたちや孫たちも享受できるように守り次の世代に伝えていく、手渡していくことが、いまを生きる人たちの責任ではないでしょうか。振り返ってみると、現在の「団塊の世代」と言われる人々は日本の歴史のなかでもいちばん良い時期を過ごしてきたと言えます。まれにみる経済成長で豊かになり、今世紀に入った頃にはもう物質的な豊かさは達成された、あとは心の豊かさだとまで言われるようになりました。最近では、安倍首相の逆行で徐々に失われてきていますが、これをストップさせて次の世代に引き継いでいく責任があると思います。そうでなければ「食い逃げした」と言われますよ。「ご馳走」を食い逃げしてはいけない。次の世代にも味わってもらわないと。そのためにいま闘うことは、私を含めていちばん良い時代を生きてきた人間の責任じゃないかと思います。

細川 きょうは、ありがとうございました。

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7月8日(土) いま闘うことは、いちばん良い時代を生きてきた人間の責任(その1) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は『ねっとわーく京都』No.343、2017年8月号に掲載されたものです。聞き手は細川孝龍谷大学教授で、インタビューは6月17日に行われました。2回に分けてアップします。〕

■自己都合による強行採決、テロとオリンピックを口実に運動抑圧の武器が欲しかった安倍自公政権

細川 私は専門が経営学ですから、きょうのテーマに少しそぐわないかと思うところもありますが、大学の在り方や教職員、学生の未来に大きな影響をもたらす現在の政治の大きな動きを中心に少しお聞きしたいと考えています。まず共謀罪についてですが、法律そのものの問題もさることながら、政治の劣化という問題もあります。そのあたりをどのように見ておられますか。

五十嵐 今回の通常国会全体を通して、政治・行政の劣化がここまで進行しているのかという危機感を持ちました。ひどい状況が露わになったと思います。同時に、そのことへの国民の危機感や不信も広がってきました。安倍首相は外国に行くと、自由と民主主義、法の支配という共通の価値観を口にしますが、それがこの日本では失われつつあります。与党による強権と独裁、行政権の肥大化と歪曲を生み出す仕組みができてしまいました。そうなった根本的な原因は大政党が有利になる小選挙区制にあります。このような選挙制度の導入から始まって、いまや内閣人事局による官僚支配、国家戦略特区による政治介入、内閣府と官邸の肥大化、三権分立の歪み、総理と総裁、公人と私人の使い分けなど、政治はどんどん劣化し続けています。その背後には日本会議という極右集団の支配が存在することも指摘しておかなければなりません。

細川 今回、民主主義や人権の問題もあると思いますが、一方で国会末期のところでは強引な運営が目立ちました。このあたりはどうですか。

五十嵐 多数の横暴と言われますが、究極の強行採決です。本会議での中間報告というかたちで委員会採決を省略し、強引に共謀罪を成立させてしまいました。これは会期を延長したくないからです。安倍首相は加計学園疑惑を追及されるのが嫌だった。しかも、都議選が控えていますから、これにマイナスになるようなことは避けたい。自己都合による強行採決です。運動抑圧の武器がよほど欲しかったのでしょう。テロとオリンピックを口実にすればそれができると。特に、公明党は都議選に影響することを恐れたと言われていますが、そのために議会制民主主義の基本である熟議が損なわれた。特に加計学園疑惑では、国民の前で説明する、真相を明らかにするなど、納得を得るための努力がまったくなされませんでした。国会の歴史に大きな汚点を残したと言えます。本来監視されるべきは国民ではなく、多数を背景に驕りと強引さで突き進む安倍政権と公明党です。

細川 維新の会の役割は、どのようにみたらよいのでしょうか。

五十嵐 維新の会は与党以上にひどい役割を果たしています。今回のような強引な議会運営を行えば批判は与党にいきますが、野党の一部がそれに手を貸せば批判を和らげることができます。一種の「風よけ」です。与党専制に対する言い訳の手段として政権に利用されました。共謀罪の審議では、衆議院の法務委員会で維新の会の議員が討議打ち切りを提案して採決を強行したことも大きな問題を残しました。参議院で維新は質問の途中で問責決議案が出されたと文句を言っていますが、そうしなかったら審議打ち切り動議を出すつもりだったんじゃないでしょうか。野党のなかに送り込まれた与党の「スパイ」のようになっている。野党の在り方としては大いに問題があります。

■マスコミに対しても、読者・視聴者は「主権者」としての力を発揮することが重要

細川 いまの日本の在り方は、国際社会からはどのように映っていると見ておられますか。例えば国連人権理事会の特別報告者が共謀罪について懸念を表明していますが…

五十嵐 これは今までなかったことです。国際社会と協調してテロを取り締まるために共謀罪を制定しようとしているのに、当の国際社会から、これは危ない、こんな法律をつくったらプライバシー保護や報道の自由などの点で大きな問題が生ずると言われたわけです。国際社会から後ろ指を指されるような国に、安倍首相は日本を変えてしまいましたね。「美しい国」と言いながら「醜い国」にしてしまったんじゃないかと思います。

細川 国際社会との関係でみると、日本はマスコミの自由度が減ってきていると指摘されていますが、首相の動向などからみてもしょっちゅうマスコミトップと会食しています。

五十嵐 「寿司友」と言われていますからね。マスコミは安倍応援団と安倍さんを批判する側の二つに分かれています。しかも、安倍応援団のほうが大きな力を持っている。とりわけ『読売新聞』とNHKです。NHKの報道は国民に伝えるべき公共放送としての取捨選択がなされていない気がします。どうでもよいようなニュースが優先される。国会審議が放映されない。経営委員会に安倍さんの友達を入れたりして、籾井前会長以来のさまざまな介入の「成果」が生まれています。『読売新聞』の方は完全にジャーナリズムとしての矜恃、誇りを失ったのではないでしょうか。ここまで安倍さんに利用され、都合良く使われていることに対して、読売の良心的な記者は歯ぎしりして悔しがっていると思います。他方では、菅官房長官に嫌がるような質問を繰り出した『東京新聞』社会部の記者もいます。ところが、その記者に対して記者クラブの側が抗議しようとしたそうです。いったいどちらの側に立っているのでしょうか。そもそもマスコミは「第4の権力」と言われますが、それは権力を監視し牽制する力を持っているからです。『読売新聞』はその力を放棄してしまいました。それでなくても、日本は報道の自由度ランキングでは72位で、G7構成国では最下位ですからね。

細川 そうは言いながらも、マスコミが果たす役割は大きいと思います。私たちはどうマスコミを変えていくのか、どう向き合っていくのかといったあたりは?

五十嵐 やはり読者あってのマスコミです。大きな力を持っているのは、新聞・雑誌などでは読者ですし、テレビでは視聴者です。例えば『週刊文春』などは読者の質が変わってきています。安倍批判を書けば売れる、そうなればさらに批判報道に力を入れるという循環が生まれます。マスコミには読者・視聴者の反応に敏感に反応するという特性があります。良いものを評価し、良くないものに対しては批判する。読者や視聴者からの意見を伝えていくことが大切です。良くないものは見ない、悪いものは読まない、買わない。こういうスタンスで「第4の権力」に対しても、読者・視聴者は「主権者」としての力を発揮することが重要です。

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