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7月9日(日) いま闘うことは、いちばん良い時代を生きてきた人間の責任(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『ねっとわーく京都』No.343、2017年8月号に掲載されたものです。聞き手は細川孝龍谷大学教授で、インタビューは6月17日に行われました。2回に分けてアップします。〕

■行政管理情報は国民の財産・知る権利を保障する基本的資産=際立ったずさんさと情報隠蔽

細川 今回問題になった二つの学園疑惑では、首相のみならず昭恵さんも大きな役割を果たしています。

五十嵐 森友と加計、どちらも状況証拠では「真っ黒」です。森友学園の場合、背景には時代錯誤的な国粋主義教育に変えていきたいという共通の思いがありました。教育勅語を暗唱させる籠池さんの教育方針への心情的共感があったのではないでしょうか。そのために便宜を図り特別扱いするという形で動いたのが昭恵さんだったと思います。昭恵さんが5人の秘書役を使って動き、そのことを周りの官僚も知り、意向を忖度して特別扱いをしたということです。昭恵さんを守ったのは財務官僚です。その背景には、消費再増税に向けて恩を売っておこうという下心も見え隠れしています。ですが、ここでの計算違いは籠池さんでした。対応を間違えて「敵」にしてしまったのですから。
 加計学園の場合は利害関係者による便宜供与です。理事長の加計さんは安倍首相の40年来の「腹心の友」で、安倍さんは広島加計学園の監事を務め報酬も受け取っていました。昭恵さんは傘下の御影インターナショナルこども園の名誉園長をしています。新たな条件を加えるように指示を出したと疑惑を持たれている萩生田光一官房副長官は、落選している間、加計傘下の千葉科学大学の客員教授でした。浪人中に救ってもらった恩義があります。萩生田さんは国会で「公的な行事以外では加計孝太郎さんと会ったことがない」と答えていましたが、安倍さんと加計さんと萩生田さんが安倍さんの別荘で缶ビール片手にバーベキューしている映像が報じられました。政権中枢で責任ある人が、これほど平気で嘘、デタラメを言って隠し事をするようなことはかつてなかったと思います。加計問題では首相を守ったのは内閣府でしょう。第1の防衛線である文科省は突破されても、第2の防衛線である内閣府で官邸への追及をストップさせたわけです。ただ、計算違いはメールや内部文書の存在と前川前文科省事務次官で、その結果、政権は追い込まれ、会期延長せず異例の強行採決へと突き進むことになりました。

細川 問題になっている点で言えば、報道や情報管理の在り方も問われています。昨年、いま話題になっている前川前文科省次官がある学会で話されていますが、私は結構見識がある方だなと感じていました。天下り問題で責任をとらされたというのか、自らが辞職されたかたちだと思いますが、この点も真実が見えてきません。

五十嵐 これも行政の劣化ですね。行政関連の文書はできるだけ保管し、その情報をもとに過去の行政の検証ができるようにしておかなければなりません。これは当然のことです。行政関連の情報は国民の財産です。国民の知る権利を保障するための基本的な資産なのですから、これを勝手に処分するのは国民に対する裏切りです。本来、残っているはずの文書の廃棄が、南スーダンPKO部隊の日報をはじめ、いろんなところで起こっています。公文書管理のずさんさと情報隠蔽が際だった国会審議でした。情報管理の在り方に問題があり、行政の透明化という点でも大きな課題を残しました。

■政治を変えられるという期待感を高め、展望を説得力あるかたちで示していくことが重要

細川 いま閉塞感というのか、展望の見えない状況があると思います。少し前になりますが、民主党政権が誕生したときの期待・高揚感以降の国民の意識状況についてはどうでしょうか。

五十嵐 民主党政権に対しては国民の高い期待がありました。ですから、「裏切られた」という失望感も大きかったのです。現在の安倍内閣について国民はほとんど期待していないと思います。ですから、裏切られてもあまり失望しない。若者は特にそうですが、将来に対する希望も見通しも失っているのではないでしょうか。だから、今がいちばん良いと思っているのです。現状維持を望み、現在の安定している状況がいつまでも続いてもらいたいという気持ちがある。これが内閣支持率の高さに反映しているのではないでしょうか。あきらめの気持ちが安倍さんを支えているように思います。

細川 その一方で昨年の新潟県知事選挙にみられるような野党共闘の展望についてはいかがですか。

五十嵐 こうすれば政治を変えられるという期待感を高めていく、またそのような展望を説得力あるかたちで示していくことです。そうすれば、あきらめかけている人たちも、これなら何とかなりそうだと立ち上がる。半分まどろみかけていた人たちも、目を覚ますと思います。目を覚ました若者たちの一部は、安保法制に反対する運動で国会の前に立ちましたし、いまも「未来に対する公共」という新しい組織をつくって運動を続けています。こういう目覚める人たちをどんどん増やしていくことです。そのためには、目に見えるかたちで本当のことを伝えていかなければなりません。格好の武器としてインターネット、SNS、フェイスブックやツイッターなどがあります。これで事実を伝えていくことです。先ほどマスコミの問題が出ましたが、メディアを通じて権力は事実を隠そうとする、あるいは偽情報を流そうとしますが、いまはインターネットがありますから長続きしません。すぐに「それは違うよ」とバレてしまいます。隠そうとしても情報の隠蔽は難しい。国民の知る権利を具体化していく上で、こういった手段を活用していくことは非常に重要だと思います。文書も日報もパソコンでつくりますから、データとして残ります。新しい技術的条件が、一面では情報隠蔽や偽情報を流すために使われますが、他面ではそれを覆して事実、真実を明らかにしていく役割を果たしています。これらを武器として活用することは、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

■権力を監視する、委縮せずどんどんモノを言う、悪法廃止に向け政権交代をめざす

細川 共謀罪が成立し、7月には施行されます。共謀罪が通ったもとでいかに運動を展開していくのか。戦争法は重大な問題ですが、それに比べても共謀罪は日常生活に関わってくる問題です。今後、共謀罪の廃止を求めてどのように運動していくのか、重要と思われる点をお聞かせください。

五十嵐 共謀罪の審議では曖昧で明確な答弁がなされませんでした。何を考え、何をしたら捕まるのかよく分からない。これは意図的に曖昧にした面もあると、私は考えています。つまり、拡大適用できるようにするためです。それをまず抑えることです。拡大適用して個人や団体、運動などを取り締まるために使われないように、あるいは国民を監視して萎縮させないようにすることです。権力によって監視されるのではなく、権力を監視することがこれからの第一の課題です。第二はモノ言えない社会を作らないということです。そのために私たちはどんどんモノを言っていかないといけない。萎縮させようとしている相手に対して、萎縮していては話になりません。どんどんモノを言うことでモノを言えない社会づくりに風穴を開けていく。市民運動を取り締まろうとする動きに対しては、逆に運動を活性化し活発化することで反撃する。三つめはこのような誤った法律は廃止する必要があります。廃止できるような議会構成をつくらなければなりません。究極的には政権交代です。これは戦争法廃止という点でもそうです。特定秘密保護法、戦争法、そして今回の共謀罪など、安倍暴走政治、逆走政治によって制定されてきた悪法が多くあります。昔の日本を取り戻すような悪法をなくせるような新しい政府をつくることが、これからの課題だと考えています。次の総選挙で与党を敗北させ政権交代を実現することが必要です。

細川 いまのお話を伺っていて3点目はすんなり思っていましたが、法の拡大適用を許さない、運動をもっと活発化させていく点について言えば、すごく頭が整理された気がします。それがないと、確かにどんどん押し込まれてしまいます。

五十嵐 萎縮させようと思っているのにこちらが自主規制すれば、安倍首相の思うつぼです。自主的な運動を活発化させることが相手の思惑、意図を打ち砕くことになります。恐れずに発言し行動していきましょう。

細川 今号は大学特集ということで、学生とその親世代に対するメッセージを兼ねて、ひとことおっしゃってください。

五十嵐 未来に生きる若者こそが、いまの政治の在り方に対してもっとも発言しなければなりません。この政治が生み出す結果に対して大きく制約され、未来が左右されるのはまさにいまの若者たちです。当たり前の働き方をして当たり前の生活が普通に送れるような社会ではなくなってきていますから、これをもとに戻すこと、自由で民主的で平和な社会をめざすことです。あの廃墟となり荒廃した戦争直後の時期から、これほどの経済大国と言われるところまで再建してきたわけですから、これをきちんと次の世代に手渡していくことが必要です。そういった自由、民主主義、平和を子どもたちや孫たちも享受できるように守り次の世代に伝えていく、手渡していくことが、いまを生きる人たちの責任ではないでしょうか。振り返ってみると、現在の「団塊の世代」と言われる人々は日本の歴史のなかでもいちばん良い時期を過ごしてきたと言えます。まれにみる経済成長で豊かになり、今世紀に入った頃にはもう物質的な豊かさは達成された、あとは心の豊かさだとまで言われるようになりました。最近では、安倍首相の逆行で徐々に失われてきていますが、これをストップさせて次の世代に引き継いでいく責任があると思います。そうでなければ「食い逃げした」と言われますよ。「ご馳走」を食い逃げしてはいけない。次の世代にも味わってもらわないと。そのためにいま闘うことは、私を含めていちばん良い時代を生きてきた人間の責任じゃないかと思います。

細川 きょうは、ありがとうございました。

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