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8月29日(火) 北朝鮮危機は対話で解決するしかない [国際]

 戦争の危機が間近に迫ってきたような緊迫感に包まれました。日本の上空をミサイルが通過し、太平洋に落下したからです。
 このような危機を高めたのは北朝鮮の金正恩政権であり、国連決議違反のミサイル発射は許されるものではありません。同時に、北朝鮮をここまで追い込んだのはトランプ米大統領の恫喝であり、安倍首相による圧力一辺倒の瀬戸際政策であったということも、同時に指摘しておかなければなりません。

 本日午前5時58分ごろ、北朝鮮は北東方向に向けて飛翔体を発射し、北海道の襟裳岬の東方約1180キロの太平洋上に落下しました。発射されたのは中距離弾道ミサイルとみられ、発射7分後に北海道に達し、9分後に襟裳岬上空を通過したと発表されています。
 米韓両軍は21日から合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」を行っており、演習に反発し対抗した形です。金正恩政権は大陸間弾道ミサイル(ICBM)などミサイル試射を繰り返していますが、金正恩政権下で日本上空を通過させたのは初めてのことになります。
 北朝鮮による弾道ミサイルの発射を受けて全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令され、記者会見した菅義偉官房長官は「わが国の安全保障にこれまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と北朝鮮を強く非難しました。また、安倍首相も「わが国を飛び越えてミサイルが発射されたのは、これまでにない重大な脅威だ」と強調し、国連安全保障理事会の緊急会合を開催するよう要請する意向を明らかにしました。

 とうとう、事態はここまで悪化してしまいました。対話を拒否して圧力一本やりで北朝鮮を屈服させようとしてきた安倍首相の方針が、ミサイル発射の抑止にとって全く無力だったからです。
 このような形で国民の不安を高める結果になったのは、歴代自民党政権の北朝鮮政策が失敗したからであり、安倍首相の対応が間違っていたからです。日朝関係の改善を最優先にして取り組んできていれば、事態は異なった形になり、ここまで危機が高まることはなかったかもしれません。
 かつて、小泉首相の訪朝と日朝平壌宣言、その後の拉致被害者5人の帰国、日朝国交正常化交渉という流れがありました。しかし、拉致問題最優先ということでこの流れをストップさせたために、結局は日朝間の国交正常化に向けての動きも拉致問題解決の可能性も閉ざしてしまことになりました。

 今また、対話を求める国際世論に背を向け、安倍首相は軍事力に頼る選択肢を排除せず、さらに圧力を強化すると言い続けています。しかし、このようなやり方ではミサイル発射を防げないことは、この間の経過がはっきりと示しています。
 今回の発射について、安倍首相は「レベルの異なる深刻な脅威だ」と発言しました。それなら、このような「脅威」を防ぐことができず、エスカレートさせてしまったことについての責任をどう考えているのでしょうか。
 そもそも、安保法制が審議されていた時、安倍首相はそれが必要な理由として日本周辺の安全保障環境の悪化を挙げ、安保法が成立して日米同盟の絆が強まれば抑止力が増大し、このような環境は改善されると請合っていたではありませんか。実際には、日米同盟の強化によって北朝鮮による敵視と警戒感が強まり、軍拡競争が激化して緊張感が高まり続けています。

 今回の例で明らかなように、北朝鮮のミサイルは7~8分で日本に到達します。これをミサイル防衛によって防ぐことは極めて困難です。
 アメリカとはちがって日本にとっての脅威は大陸間弾道弾(ICBM)ではなく、ノドンやスカッドなどの短距離・中距離のミサイルであり、それはすでに早くから配備されていました。このような脅威を防ぐための軍事的な手段は役に立たず、有効な防止策は政治的な手段だけです。
 軍事的抑止と経済制裁の強化には限界があり、そのような対抗措置以上に外交交渉を行う可能性を模索しなければなりません。米朝間の直接対話、南北間の交渉、日本を含む周辺諸国による6カ国協議の再開など、公式・非公式を問わず、戦争の危険性を低減させる可能性を追求するべきです。

 ところが、安倍首相は「対話のための対話は無意味だ」として交渉に反対してきました。相手側が軍事的な挑発だと受け取る可能性のある対応を自制し、交渉のテーブルに付きやすい環境を整備することこそ、何よりも今、求められていることではありませんか。
 一方が牽制し他方が反発するという形での軍事力による応酬が続く限り、このような対話は実現できません。前提条件を付けず、無条件での対話を実現するために、日本政府としても努力するべきです。
 これが憲法9条の求める道でもありますが、安倍首相にそのような意思はうかがえません。北朝鮮危機を解消し、日本周辺の安全保障環境を改善して戦争を防ぐためにも、安倍首相を退陣に追い込むことは急務となっています。

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8月27日(日) 共闘のレベル上げてこそ [論攷]

〔以下のコメントは、『しんぶん赤旗』8月24日付、に掲載されたものです。〕

 これまで4野党は、野党だからということではなく、アベ政治を許さず暴走をストップするという大きな目標があり、この点で一致しているから共闘してきました。それが市民などの願いに沿ったものであったからこそ、参院選1人区、新潟県知事選や仙台市長選などで勝利することができたのです。
 このような共闘によって保守票が逃げることもなく、無党派層を引き付けることができるということは実証済みです。その効果を高めるためには、共闘のレベルを上げ、本気になって力を合わせなければなりません。
 共闘の実現は民進党になってからの大きな成果であり、旧民主党とは異なる重要な到達点でした。
 安倍政権を打倒するという大目標を実現するためには、これまで以上に政策的な一致点の水準を高め、幅を広げることが重要です。
 必要なのは、こうすれば勝てるという確信を持てる陣立てを実現することです。そうすれば、諦めていた人々に展望を示し、政治や投票への参加を促せるにちがいありません。


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8月23日(水) 古い民主党の前原さんと新しい民進党の枝野さんの対決となった代表選挙 [民進党]

 「昔の名前で出ています」という歌を思い出しました。前原さんの出馬に当たっての発言を読んだときです。
 この発言のどこに新しさがあるのでしょうか。この間の運動の到達点が、一体どこに反映されていると言うのでしょうか。

 8月21日告示、9月1日投開票という日程で、民進党の代表選が実施されます。立候補したのは前原誠司元外相(55)と枝野幸男前幹事長(53)の二人で、一騎打ちの様相になりました。
 憲法改正や野党共闘、消費増税などをめぐって、保守系とされる前原さんとリベラル系と見られている枝野さんの主張は対照的になっています。しかし、代表選後にしこりを残さないようにするという配慮もあって、二人の違いはそれほど決定的なものではありません。
 記者会見の冒頭発言で枝野さんが「代表選の相手は、安倍晋三首相であり、自民党だ。同志である前原さんと競うのではない。前原さんと力を合わせ、遠からず政権を奪い返す」と強調しました。2人とも「目指す社会像は同じ」と述べて、党内融和を優先する姿勢を明らかにしています。

 改憲問題でも、民進党憲法調査会長である枝野さんは改憲を否定しないとしつつも安倍首相が目指す9条改憲には否定的です。前原さんも「9条3項などの形で自衛隊の明記を」としつつも、安全保障法制については「違憲」だとして安倍首相との違いを強調しています。
 つまり、両者ともに安倍さんの目指す改憲スケジュールには与しない姿勢を示しているということになります。この点では、共産党など他の野党とも共通しています。
 「対照的」とされる2人の候補者ですが、安倍さんの目指す2020年9条改憲施行という方針に対決するという点で共通していることは、今後の改憲阻止の運動にとって極めて重要です。この点で民進党はまとまっており、市民や立憲野党との共闘の基盤が存在しているということを確認しておきたいと思います。

 ただし、その他の消費増税や原発、共産党との共闘については、両者の主張に微妙な違いがあります。消費税増税をめぐっては、前原さんが増税を前提に「相当の覚悟」を要求しているのにたいし、枝野さんは「当面消費税を上げると言ってはいけない」と消極的です。
 また、原発政策では、前原さんが民主党政権時代に決めた「2030年代原発ゼロ」方針を踏襲しているのに対し、枝野さんは「相当早く原発ゼロを実現できる」として具体的な工程表を示す法案を年内にでも提出する考えを明らかにしました。前原さんは、ここでも「昔の歌」を歌っているということになります。
 福島第1原発での事故以降、原発ゼロを目指す運動が継続され、反原発の世論にも依然として大きなものがあるにもかかわらず、前原さんの見解には全く反映されていません。電力関連の労働組合や連合の圧力に屈し、労働組合頼りの姿勢を取り続けているという点で、民主党時代の「体質」と大きな変化はないと言わざるを得ません。

 このようななかで、最も大きな違いが示されているのが野党共闘をめぐる姿勢です。前原さんは共闘を「選挙互助会だ」と批判しています。
 「何を、今さら」と言いたくなります。民進党自体がある種の「選挙互助会」ではありませんか。
 これに対して、枝野さんは「参院選で成果を上げることができたのは理念、政策が違うなか、自民党の暴走を止めて欲しいという市民の声を受け、ギリギリの努力をしたからだ」と反論し、「排除する理由はない」と共闘を評価しています。幹事長時代に野党共闘路線を推進した枝野さんからすれば当然の発言ですが、ここでも連合との腐れ縁に引きずられ、この間の共闘の成果をきちんと評価できない前原さんの弱点が示されています。

 なお、理念・政策について枝野さんは「理念、政策が違うなか」と言い、前原さんも「政権選択をする選挙で理念・政策が合わないところと協力するというのはおかしい」と述べています。おかしくありません。おかしいのは、この考え方です。
 違う政党ですから、理念や目標が異なっているのは当然です。これが一致していれば、別の政党である理由はなく、合流すれば良いだけです。
 しかし、政策については事情が異なります。別の政党ですから全ての政策が一致することはありませんが、全ての政策が異なっているというわけではなく一致できる点もあります。

 この一致できる政策の実現を目指して協力し、必要であれば政権連合も組むというのが共闘の論理であり、連立政権の姿です。自民党と公明党の連立でも世界のどの国の連立政権でも、このような例は普通に見られます。 
 しかも、共産党を含む立憲野党には、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪などに反対するという明確な一致があり、「森友」「加計」学園疑惑や南スーダンPKOの日報隠蔽問題では疑惑解明という点での合意があり、アベノミクスに反対し「中間層」を大切にする経済政策という点でも共通する立場が形成されました。これらの政策的な一致点や合意、共通の立場があったからこそ共闘が可能になったのであり、それはアベ暴走阻止という一点に集約されたのです。
 まさに、枝野さんが「自民党の暴走を止めて欲しいという市民の声を受け、ギリギリの努力をした」と指摘されている通りです。この「市民の声」こそ共闘や連立の基盤であり、それに応えて勝利へと至ることのできる唯一の道が野党共闘だったのです。

 他方、小池百合子東京都知事の「小池新党(日本ファーストの会)」や離党組との関係では、枝野さんが「厳しく対応しなければならない」と述べているのに対して、前原さんは「総合的に判断する」として連携に含みを残しています。小池新党の理念や政策がどうなるかが、全く分かっていないにもかかわらず。
 これはダブルスタンダードであり、矛盾した対応ではありませんか。政策が部分的に共通している共産党との連携については背を向け、一致点があるかどうかも分からない小池新党との連携には前のめりになっているわけですから。
 この点に関連して、本日の『朝日新聞』には細川護熙首相の下記のような興味深いインタビューが掲載されています。「まさにその通り」と言いたくなるような内容です。

 「小池さんは例えば憲法や原発にしても、どの方向を目指しているのか分からない。知事就任後、2人で何度か会った際に『そうしたところをはっきりさせれば、政治的な幅ももっと広がっていく』と伝えたが、小池さんからはまだはっきり聞いていない。
 ――前原さん、枝野さんはどうですか。
 前原さんは小池さんと同様、明確に言っていないところがある。例えば自民党との距離感。『自民党と何が違うんだ』と感じることもあるし、憲法もそう。安倍晋三首相と言っていることは違わないんじゃないかと心配になることもある。野党共闘については、枝野さんの方が現実的に進めるんじゃないか。憲法も、私は枝野さんに考え方が近い。しかし、どちらかに肩入れしているわけではない。
……連立政権ができると政治も変わる。細川内閣の時は8党派で連立を組んだのだから。共産党とも政策的に一致できるところは一緒にやったらいい。同じ小選挙区に民進、共産両党が候補者を立てて、共倒れになるのは愚の骨頂だ。」

 民進党にとって、今回の代表選は「党分裂の危機」を乗り越えるためのものではありません。それは市民や野党との共闘を確固とした基盤の上に据え「党再生の好機」を生み出すためのものです。
 すでに「15年安保闘争」や参院選、新潟・仙台などでの地方選挙を通じて共闘の威力は実証されてきました。これらの取り組みにおいて、共闘実現のために力を尽くして汗を流し誠実に努力してきた民進党の関係者の方も沢山おられます。
 民進党の議員・党員・サポーターの皆さんには、この間の経験や実績を十分に踏まえた賢明な選択をしていただきたいものです。市民や立憲野党とともに「新しい歌」を歌えるような希望の持てる選択を……。

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8月14日(月) ようやく1週間の帰省と休養、充電期間が可能になった [日常]

 明日、故郷の新潟・上越市に帰省します。1週間ほどの休養を取り、充電に努めたいと思います。
 実家の集落は日本海に近い古砂丘の上にあり、陸側は水田が海のように広がっています。その彼方には頸城連山が横たわり、子ども時代には「その向こう」に思いをはせていたものです。

 そして今は、「その向こう」のはるか遠くに住んでいます。「思えば遠くに来たもんだ」という歌の文句にある通りの人生になってしまいまいました。
 穀倉地帯新潟の専業農家の長男であったにもかかわらず、その家業を継ぐことなく縁遠い大学での研究者生活を送ってきました。その意味でも、「遠くに来た」ということになります。
 その学者人生もすでにリタイアしてしまいました。とはいえ、講演や執筆などに追われる日々を送っており、社会活動や運動からの「引退」はまだまだ先のことになりそうです。

 世界では、アメリカと北朝鮮が互いに挑発しあい、脅しあう「チキン・レース」が始まりました。不穏な空気が漂い戦争の危機が高まっていることに、遠く離れたドイツやフランなどのヨーロッパや中南米の指導者たちまでもが冷静な対応と自制を求め話し合いでの解決を主張しています。
 しかし、すぐ隣の日本の安倍首相は「交渉のための交渉はするべきではない」と述べて話し合いに反対し、故郷に帰って夫婦での盆踊りに興じています。何という大きな違いか、なんという無責任な態度なのかと驚くばかりです。

 安倍政権はアメリカのB1爆撃機と航空自衛隊機との共同訓練を行い、グアム周辺へのミサイル発射に備えてPAC3ミサイルを島根、広島、愛媛、高知の自衛隊基地に配備しました。しかし、PAC3は射程距離数十キロと短いので届かず、ほとんど「気休め」にすぎません。
 日本だけが軍事的対応一本やりである点に危うさを感じている国民は多いでしょう。 米朝ともに戦争を望んでいるとは思えませんが、偶発的な衝突の可能性は否定できません。
 戦争ではなく対話によって問題を解決するべきであるということを、各方面に訴える必要があります。政府は「武力による威嚇」を禁じた憲法9条に沿った冷静な対応に努めるべきでしょう。

 このような時に故郷に帰って休みを取るのはいささか気が引けますが、これも冷静な対応の一環ということでお許し願いたいと思います。情勢に流されず、一喜一憂することなく日常の生活を送ることこそ、私たち庶民にできることなのですから。
 『日刊ゲンダイ』8月12日付は、「『死に体』安倍政権を待つ時限爆弾」という記事で「心ある有権者は、帰省先で先祖に手を合わせながら、「政権打倒」を誓った上で、お盆休みを満喫して欲しい」と書いています。私は「心ある有権者」を自任していますから、「帰省先で先祖に手を合わせながら、『政権打倒』を誓った上で、お盆休みを満喫」させていただこうと思います。

 ということで、しばらくの間、このブログをお休みさせていただきます。来週の中ごろには再開しますので、ご了承いただければ幸いです。


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8月12日(土) 「こんな人たち」の怒りが噴出した都議選 [論攷]

〔以下の論攷は、『東京革新懇ニュース』第424号、2017年8月5日付、に掲載されたものです。〕

 「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかないんです」
 都議選の最終盤、安倍首相は秋葉原駅前でこう叫びました。「こんな人たち」として敵視された都民の怒りが噴出し、驚天動地の結果になりました。自民党は改選57議席を23議席に激減させ、都民ファーストの会は49議席を獲得。その間で「埋没」すると見られていた共産党は改選17議席から19議席へと善戦健闘しました。

 積み重なった敗因

 自民党の敗北はかつて経験したことのないものです。これまでの最低は38議席でしたが、それを15議席も下回りました。文京区と日野市で惜敗した共産党候補が自民党候補を蹴落として当選していれば、21議席で並んでいたのに惜しいことをしました。
 どうしてこれほどの歴史的惨敗を喫したのか。それはいくつもの敗因が重層的に積み重なったからです。築地市場移転問題の混迷など「都政の闇」を生み出してきたことへの責任追及、通常国会での共謀罪法案の強行採決や不祥事、暴言など政治と政治家の劣化への批判、改憲発言や「森友」「加計」学園疑惑での安倍首相と夫人の昭恵氏への忖度や国政の私物化に対する不信感、安倍首相の政治姿勢や体質への嫌悪感などが蓄積され、怒りのマグマとなって爆発したのです。
 これにとどめを刺したのが、秋葉原駅前での安倍首相による「こんな人たち」演説でした。全ての国民を視野に入れ、その生命と生活を守って国全体を統合する役割を担うべき首相が、自分を批判する人々を「こんな人たち」とひとくくりにして非難したのです。国民を線引きして分断し、「味方」や「お仲間」には優しいアベ政治の本質が顕われた瞬間であり、それに対しても厳しい審判が下されました。

 ポピュリズム選挙という「突風」

 今回の選挙では。ポピュリズム選挙という「突風」が吹きました。この風に吹かれて舞い上がったのが小池百合子都知事に率いられた都民ファーストの会です。現有6から49議席に躍進し、追加公認を含めて55議席になりました。「今回だけは支持できない」「安倍首相にお灸を据えたい」と考えた自民党支持者や無党派層にとって「非自民」の「手ごろな受け皿」となったからです。
 このようなポピュリズム選挙の「突風」はアメリカの大統領選挙、フランスの大統領選挙や議会選挙でも吹きました。日本では日本新党、大阪維新の会や名古屋での減税日本などの議員も、ポピュリズムの風に押し上げられ、あれよあれよという間に当選し、議会に送り込まれたことがあります。
 しかし、日本新党の都議はすぐに消え、大阪維新や減税日本のブームもしぼんでしまいました。今回当選した「小池チルドレン」の半分近くは議員経験がなく、きちんとチェック機能が果たせるのか、これから問われることになるでしょう。「突風」による躍進にはポピュリズム選挙の危うさが孕まれていることを忘れてはなりません。

 共産党の善戦

 共産党は2議席増と善戦健闘し、得票数と得票率も増やしました。前回の都議選で8議席から17議席に倍増していますから2回連続での増加で、32年ぶりのことになります。都民ファーストの会への「追い風」が吹いたにもかかわらず、吹き飛ばされることなく前進したのは重要な成果でした。
 これは強固な組織的基盤の成果ですが、市民や他の野党との共闘の前進も大きな力になりました。無党派層の支持も増え、出口調査(8社共同)では、支持政党なし層の投票先として共産党は19.6%で、都民ファーストの会の20.8%に次ぐ2位となっています。
 「森友」「加計」問題などでの調査と追及、アベ政治に対峙し続けてきたぶれない政治姿勢、9条改憲阻止など国政上の争点も訴えた選挙戦術、豊洲移転に反対して築地再整備を掲げた唯一の政党という政策的立場などが支持された結果です。安倍首相に最も強烈な「ノー」を突きつける「反自民」のための「信頼できる受け皿」として選ばれたということでしょう。
 このような「受け皿」を提供することができれば、総選挙でも地殻変動を起こして自民党を大敗させることができます。市民と野党との共闘によってそのような「受け皿」を生み出すことができるかどうかが問われています。
 内閣支持率が低下し続け、「潮目」が変わりました。いつ国会が解散されても勝利できるような準備を進め、安倍政権を解散・総選挙に追い込むことがこれからの課題です。

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8月11日(金) 幕引きのためのアリバイ作りにすぎなかった日報隠蔽疑惑についての閉会中審査 [国会]

 自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題に関する閉会中審査が衆参両院で開かれました。この隠蔽に稲田朋美前防衛相がかかわっていたのではないかとの疑惑を解明するためのものでしたが、中心人物は招致されず、事実関係ついての説明が拒まれ、再調査もしないなど、結局は幕引きのためのアリバイ作りにすぎなったようです。

 そもそも、隠蔽問題を協議したのではないかという疑惑の中心である稲田前防衛相や防衛省事務方トップの黒江哲郎事務次官、陸上自衛隊トップの岡部俊哉陸上幕僚長の出席が自民党によって拒否されました。疑惑解明のための参考人招致であるにもかかわらず、その疑惑の中心人物を招致しなかったわけです。
 初めから疑惑を解明する気がなかったと言うしかありません。野党の要求に応えたポーズをとり、国民の批判を和らげるためのアリバイ作りにすぎない対応でした。
 自民党は辞任したことを招致拒否の理由としていましたが、田中真紀子元外相を招致した例がありました。今回の対応によって、辞任すれば説明責任を逃れられるという前例を残したことになります。

 委員会の冒頭、小野寺五典防衛相は特別防衛監察の結果を説明して「大変厳しく反省すべきものだと受け止めている。再発防止に努めたい」と述べ、「わが国を取り巻く安全保障環境が厳しい中、国民の皆さまに本当に申し訳ない」と陳謝しました。そのうえで、「情報公開に対する姿勢に疑念を抱かせ、防衛省・自衛隊のガバナンスに対する信頼を損なった」と反省の弁を述べました。
 しかし、質疑では、野党が防衛監察報告の有無やそれぞれの証言者の内訳などを追及したのに対し、防衛監察本部の担当者は「個人が特定され、供述が明らかになる恐れがあるので差し控える」と踏み込んだ説明を拒み、防衛省の辰巳審議官も「これ以上申し上げることは差し控える」と繰り返し、具体的な説明を拒否ました。また、稲田防衛相に日報データを報告した際のやりとりを残したとされるメモや、陸自がまとめた調査結果の公表を要求されると、小野寺さんは「入手した資料を開示すれば、今後の監察業務に支障をきたす」とノーコメントを連発しました。
 新しい事実が出てこない不毛なやり取りが続いたわけですが、それは関係者が新しい事実を出すことを拒み、隠蔽問題の解明にかかわる事実関係についても更なる隠蔽を繰り返したからです。不毛なやり取りは、野党の質問に対して誠実に答え事実を解明すると言う姿勢が欠落していたからにほかなりません。

 野党側は、防衛省が行った特別防衛監察では引稲田朋美元防衛相の関与の有無が曖昧だとして再調査を求めたのに対し、小野寺防衛相は稲田さんにも間違いがないかを確認したとして「しっかり報告された内容だ」と強調し、再調査を行う考えがないことを明らかにしました。
 これで幕引きを図るために開かれた閉会中審査でしたから、こう答えるのは当然かもしれません。しかし、それで世論は納得するのでしょうか。
 国民の信頼を回復するためには、「隠蔽内閣」としてのあり方を一掃しなければなりません。真相を明らかにするために必要なこと、国民が知りたいことを包み隠さず明らかにすることが必要です。

 自衛隊が日報を公表しない判断をした背景には、安保法に基づく「駆け付け警護」などの新しい任務を付与するために撤収するわけにはいかないという政権への忖度があったのではないでしょうか。この判断については稲田さんだけでなく安倍首相も関与していたのではないかという疑惑は残ったままです。
 第三者による再調査や国会による真相解明、稲田さんだけでなく黒江前防衛事務次官や岡部前陸上幕僚長ら関係者らの証人喚問などが不可欠です。幕引きを図ってウヤムヤにしようという「隠蔽内閣」の目論みを許してはなりません。

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8月10日(木) 次々と明らかになってきたアベ暴走政治の破綻 [首相]

 鳴り物入りの内閣改造によって選挙での敗北と支持率の低下という「負のスパイラル」からの脱出を図った安倍首相でした。しかし、それは成功せず、アベ暴走政治の破綻が次々と明らかになってきています。

 その第1は、非核政策の行き詰まりです。6日に広島で、9日に長崎で開かれた原爆犠牲者を追悼する平和式典に参加した安倍首相は7月に国連で採択された核兵器禁止条約について全く言及せず、「どこの国の総理か」と被爆者から鋭く批判されました。
 長崎での式典で平和宣言を読み上げた田上市長は「核兵器のない世界を目指してリーダーシップをとり、核兵器を持つ国々と持たない国々の橋渡し役を務めると明言しているにも関わらず、核兵器禁止条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できません。唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約への一日も早い参加を目指し、核の傘に依存する政策の見直しを進めてください。日本の参加を国際社会は待っています。また、二度と戦争をしてはならないと固く決意した日本国憲法の平和の理念と非核三原則の厳守を世界に発信し、核兵器のない世界に向けて前進する具体的方策の一つとして、今こそ「北東アジア非核兵器地帯」構想の検討を求めます」と日本政府に訴えました。この式典に参加していた国連等国際機関、58の国や地域と欧州連合(EU)等の代表もこの訴えを聞いたはずです。
 唯一の戦争被爆国の政府であるにもかかわらず核兵器の禁止を求める国際社会の大きな波に背を向けて「ゼロ回答」を続ける安倍首相の姿こそ、日本のトップリーダーとしての資格の欠如を明確に示しています。非核の政府を実現するためには、安倍首相を交代させるしかありません。

 第2に、日本周辺の安全保障環境の悪化です。北朝鮮のミサイル発射実験をめぐって国連はかつてない厳しい制裁決議を挙げ、アメリカと北朝鮮は激しく挑発しあっています。
 トランプ大統領は「世界がこれまで見たことのないような砲火と激烈な怒りに直面することになるだろう」と強く警告し、北朝鮮は「米国に厳重な警告を送るため、中長距離弾道ミサイル『火星12』によるグアム島周辺の包囲射撃作戦を慎重に検討している」という声明を出すなど朝鮮半島情勢は緊迫の度を増し、航空自衛隊のスクランブルの回数は過去最多になっています。戦争が始まるのではないか、それに巻き込まれるのではないかという国民の不安が高まっているのも当然です。
 しかし、安保法が審議されているときに安倍首相は、この法律が制定されて日米同盟の絆が強まり「抑止力」が高まれば日本周辺の安全保障環境は改善されると請合っていました。安保法の成立によって実際に強化されたのは「抑止力」ではなく軍事的挑発であり、北朝鮮とアメリカなどの軍拡競争に日本が巻き込まれてしまったというのが現実です。

 第3には、「森友」「加計」学園疑惑の深まりと「佐川隠し」です。閉会中審査の後も、疑惑を裏付ける新たな事実が次々と明らかになっています。
 「森友」学園疑惑では、値引きの根拠とされたゴミは100分の1しか存在しなかったこと、最初から金額を提示しての交渉だったこと、異例の10年分割が提案されていたことなどを裏付ける音声や文書資料が出てきています。「加計」学園疑惑では、愛媛県と今治市の担当者が2015年4月2日に首相官邸を訪れた際に加計学園事務局長が同行していたこと、官邸で対応したのが当時の柳瀬唯夫・首相秘書官(現・経済産業審議官)だったこと、このとき下村文科相がやってきて「やあ加計さん。しっかりやってくれよ」と激励されたという証言があること、2016年6月に開かれた国家戦略特区諮問会議にも加計学園側の幹部3人が出席していたにもかかわらず伏せられており、議事要旨も改ざんされていたことなどが分かりました。
 「森友」疑惑を隠蔽する先頭に立っていた佐川理財局長は国税局長官になりましたが、慣例となっている就任会見を取りやめました。「森友」疑惑について質問が集中することを恐れての措置だとみらており、説明や言い訳ができないから逃げ隠れしているということでしょう。

 第4に、南スーダン日報問題と「稲田隠し」です。この問題では本日閉会中審査が開かれていますが、稲田朋美前防衛相などの当事者は参加していません。
 行政文書の扱いや公文書管理のずさんさ、自衛隊に対するシビリアンコントロールという点でも大きな問題がありますが、それ以上に「戦闘」と書かれた日報が意識的に隠されたのではないかという疑惑があります。陸自などの現場が勝手にやったのではなく、稲田防衛相やさらにその上の安倍首相からの指示によるものではなかったのかという疑惑が生じていますが、当人が出てこないのでは、どれだけ解明されるか大いに疑問です。
 日報に対する情報開示請求が出されたのは安保法によるPKOへの新任務付与が問題になっており南スーダンでの安全性に疑問が出されているときでした。そんなときに「戦闘」と書かれた日報を開示するわけにはいかないということで廃棄したことにして廃棄し、事実を隠蔽したということではないでしょうか。

 第5に、内閣改造の不発と新たな「火種」の発生です。安倍首相の目論み通り、改造後の内閣支持率は軒並みアップしましたが、それは期待されたほどではなく、それどころか前途を懸念させるに十分な不安材料がてんこ盛りとなっています。
 改造による支持率アップは野田聖子総務相と河野太郎外相という「異分子」の入閣が評価されたためですが、これも新たな「火種」となる可能性があります。「異分子」が安倍首相に従えば国民は失望し、もし従わなければ閣内不一致となるかもしれないからです。
 早くも、江崎鉄磨沖縄北方相の失言が飛び出してマスコミの注目を浴び、週刊誌などでも閣僚のスキャンダルなどが報道され始めています。今後、これらの「火種」が大きな「火災」を引き起こす可能性も小さくありません。

 日本ファーストの会の発足と民進党の代表選など、自民党に対抗する新たな動きも生じています。それについて判断し評価を下すのは早計ですが、いずれも「受け皿」づくりの試みであるという点では共通しています。
 どの程度自民党に対抗することになるかは今のところ不明ですが、少なくともアベ暴走政治を支えてきた「一強」体制を崩すものでなければなりません。そうでなければ、結局は国民の期待を裏切ることになってしまうでしょうから。

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8月8日(火) 「政治の劣化」「行政の劣化」とは何か―どこに問題があるのか、どうすべきか(その3) [論攷]

〔以下の論攷は『法と民主主義』No.520、2017年7月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

3 通常国会後に明らかになった疑惑や不祥事

 「加計」疑惑での新たな展開

 通常国会が幕を閉じた途端、「萩生田副長官ご発言概要」という新たな内部文書が見つかりました。「加計」疑惑に萩生田光一内閣官房副長官が関与していたことを示すもので、学部新設について「官邸は絶対やると言っている」「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」などと書かれています。
 萩生田さんはこの内容を強く否定し、加計さんとの関係についても「親しくお付き合いさせていただいているという事実もありません」と答えていました。しかし、安倍首相の別荘で、安倍、加計、萩生田さんの3人がバーベキューをしながら缶ビール片手に談笑している4年前の写真が萩生田さんのブログに投稿されています。
 加計孝太郎理事長が自民党岡山県自治振興支部の代表で、会計責任者も加計学園の理事を務めた人物、支部の事務所が加計学園系列校と同じだったことも判明しています。また、岡山が地元の加計学園が選挙区の逢沢一郎元外務副大臣に100万円を献金しており、獣医学部の新キャンパスの工事を請け負っている「アイサワ工業」は岡山市が本社で逢沢さんのいとこが社長をしているファミリー企業です。しかも、建設費の坪単価は一般的な坪単価の2倍以上もすることが明らかになっています。
 さらに、この加計学園が当時文科相であった下村博文さんに200万円の献金をしていた疑惑も報道されました。この後、加計学園が望んでいた教育学部の新設が認められていたことも分かっています。また、下村夫人の今日子さんは広島加計学園の教育審議委員をやっており、安倍夫人の昭恵さんと一緒に加計学園のパンフに登場したり、年に数回は同施設のイヴェントに参加したりしていました。

 稲田防衛相による自衛隊の政治利用

 選挙戦の応援では、稲田朋美防衛相が演説で「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と投票を呼びかけて大きな問題になりました。自衛隊を「自民党のもの」であるかのように扱って政治利用しただけでなく、指揮権を持つ防衛相が言えば自衛隊員は特定政党を応援しなければならないと誤解してしまいます。
 政治的に中立公平であるべき公務員や自衛隊のあり方からの逸脱という点でも、「党務」と「公務」の混同という点でも、この発言は自衛隊法や公職選挙法に反する暴言にほかなりません。
 稲田防衛相は何回も、閣僚の資質を疑われる言動を繰り返してきました。こういう人を選んだだけでなく、どうして今まで続投させてきたのでしょうか。このような暴言を言い出しかねない人を安倍首相はかばい続け居座らせてきました。きちんとけじめをつけず、放置してきた責任は大きいと思います。
 「森友」「加計」学園疑惑では、権力者の意向を忖度し、一部の人を優遇したりえこひいきしたりして行政を歪めているとの批判が高まりました。安倍首相に近いというだけで稲田さんばかりが甘やかされ特別扱いされている姿こそ、政治責任の取り方まで歪み公平性や信頼を大きく損ねていることを示す実例であるように思われます。

 相次いだ暴言と不祥事

 まだ、あります。選挙中に明らかになった豊田真由子衆院議員の秘書に対する暴言・暴行というスキャンダルです。豊田議員は責任を取って自民党に離党届を出しましたが、辞めるべきは自民党ではなく国会議員の方でしょう。
 夫の宮崎謙介衆院議員の女性スキャンダルが『週刊文春』に報じられたことのある金子恵美衆院議員についても、公私混同疑惑が浮上しました。公用車で子どもを保育園に送ったり、母親を駅に送り届けたりするなど、私的使用が常態化していたというのです。
 これらの若手議員を厳しく監督するべき二階俊博幹事長自身が、都議選の応援演説で「よく変なものを打ち上げてくるキチガイみたいな国がある」と述べ、後で「表現として必ずしも適切でないものが一部あった」と、精神障害者への差別的表現について釈明し、「私らを落とすなら落としてみろ。マスコミの人だけが選挙を左右するなんて思ったら大間違いだ」と居直ったりする始末です。
 末期症状ともいうべき状況が積み重なりました。まさに、政治・政治家の劣化を示す典型的な例だと言うべきでしょう。それに対する国民の批判と怒りが徐々に蓄積されていきました。それが投票という行為を通じて、一挙に噴き出したのが都議選の結果だったのです。

 むすび

 長い間、「安倍1強」と言われるような状況が続き、内閣支持率が安定していました。民主党中心の前政権への失望が大きく、国民は諦めて達観してしまったようです。もともと安倍政権への期待値は低いものでした。ですから、何らかの問題が生じても「まあ、こんなものだろう」ということで、内閣支持率はあまり下がりませんでした。
 しかし、政治・行政の劣化と異常な国会運営を見て、さしもの国民の「堪忍袋の緒」も切れてしまったようです。安倍内閣に対する支持率は軒並み急落し、都議選でも自民党は歴史的な惨敗を喫しました。政権運営にとって重要なのは世論と選挙ですが、そこでの質的な変化が生じたのです。
 「安倍1強」の潮目が変わりました。世論を変えて選挙で決着をつけ、特定秘密保護法、安保法(戦争法)、共謀罪というアベ暴走政治が生み出した悪法を廃止できるような政府を実現する展望が生まれています。
 その出発点が都議選でした。国政にも大きな影響を及ぼすことになります。善戦健闘した共産党をはじめ、立憲野党の前進を背景に解散・総選挙を勝ち取り、さらなる追撃戦によってアベ政治の「終わりの終わり」を実現しなければなりません。
 もし、安倍政権が都議選で示された声を無視し続ければ、次の国政選挙でさらに大きな「ノー」が突き付けられることでしょう。解散・総選挙に追い込んで、その機会を早く実現したいものです。そのためにも、市民と野党との共闘を推進し、いつ国会が解散されても対応でき勝利できるような準備を進めることがこれからの課題です。


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8月7日(月) 「政治の劣化」「行政の劣化」とは何か―どこに問題があるのか、どうすべきか(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『法と民主主義』No.520、2017年7月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

2 通常国会での暴走・逆走

 9条改憲方針の明言

 第193回国会は1月20日に召集され、6月18日までの150日間でした。この通常国会はアベ政治の暴走・逆走が際立ち、政治・行政の退廃と混迷が露わになるという異常な国会でした。
 なかでも、5月の連休中に安倍首相が9条改憲の意図を明らかにして注目されました。改憲に向けてのギアを入れ替えたことになります。与野党の合意をめざして「低速」で慎重な運転を行ってきたこれまでのやり方を投げ捨て、3分の2を占めている改憲勢力だけで突っ走ろうというわけです。
 安倍首相は9条の1項と2項をそのままにして、新たに自衛隊の存在を明記することで公明党を引き込み、教育費無償化を書き込むことで日本維新の会を抱き込もうとしています。これに他の改憲勢力を合わせれば、民進党などの協力を得なくても衆参両院の3分の2議席を占めて発議が可能になります。
 秋の臨時国会で自民党案を提起し、来年の通常国会で発議したうえで衆院選と同時に国民投票で可決するというのが安倍首相の目論みです。それまでは改憲議席を維持しなければなりません。首相の側から解散・総選挙を実施することは避けようとするでしょう
 こうして、9条改憲をめぐる対決の構図は明確になってきました。安倍首相が改憲議席を維持したいと考えて総選挙を先延ばしするのであれば、改憲発議ができなくなるほどに議席を減らすことをめざして解散に追い込み、総選挙で勝利を勝ち取らなければなりません。9条をめぐる「激突の時代」が始まりました。私たちも腹を固めて対抗することが必要です。1人1人の決意と本気度が試される局面がやって来たということになります。

 「共謀罪」法の成立

 このような9条改憲に反対し、憲法を守ろうとする市民運動をあらかじめ取り締まるための武器も調達されました。それが共謀罪を制定した目的の一つだったように思われます。2013年の特定秘密保護法、15年の安保法(戦争法)、そして17年の共謀罪と、アベ政治の暴走は続いてきました。この戦争できる国づくりへの道は9条改憲へとつながっています。
 国民の多くが不安に思い、世論調査では反対が増え、成立を急ぐ必要はないという意見も多い法案でした。心の中が取り締まられるのではないか、一般の人が対象とされるのではないか、拡大解釈によって適用範囲が広がるのではないか、政府に都合の悪い運動などが監視され密告される恐れがあり、委縮してしまうのではないかなどの疑問が出されました。しかし、いくら審議しても、これらの懸念は解消されませんでした。
 これらの疑問や懸念に丁寧に答えるどころか、委員会採決の省略という問答無用の強権的な方法が取られました。異例の奇策による完全な「だまし討ち」です。内心の自由を取り締まる法案の内容も問題ですが、「中間報告」という「禁じ手」を用いた強行採決も大きな問題でした。まさに立法府の劣化というしかありません。
 テロ等準備罪という名前に変えて粉飾を凝らし、オリンピックを名目にして成立を強行しましたが、テロや五輪・パラリンピックという看板を掲げれば国民を騙せると高をくくっていたのでしょう。騙されてはなりません。共謀罪によって取り締まる対象と市民や市民活動との違いを曖昧にしているのは、政府に都合の悪い発言をしたり活動に加わったりする一般市民や正当な市民活動、社会運動を取り締まるためであり、拡大解釈によって共謀罪を適用する余地を残しておきたかったからではないでしょうか。

 「森友」「加計」学園疑惑

 もう一つの焦点となった「森友」「加計」学園疑惑も、安倍政権のいかがわしさをはっきりと示しています。官庁や役人が安倍夫妻の意向を「忖度」して知人や友人を優遇したり便宜を図ったりして、一部の人によって政治と行政が私物化されているのではないかという疑惑が表面化したからです。
 「森友」疑惑では、教育勅語を暗唱させるような籠池泰典前理事長の教育方針に共鳴した首相夫人の昭恵さんが「力になりたい」と考えて「神風」を吹かせ、国有地を8億円もディスカウントしたのではないかと疑われています。「加計」疑惑では加計孝太郎理事長の30年来の「腹心の友」である安倍「総理のご意向」に従い、「加計ありき」で岡山理科大への獣医学部新設と国有地の取得に便宜が図られたのではないかとの疑惑が浮かび上がりました。
 昭恵さんを守ったのは、その意向を「忖度」して便宜を図った財務官僚だと見られていますが、計算違いは籠池森友学園前理事長です。安倍首相からの「100万円」の寄付を暴露された腹いせに証人喚問するなど「敵」に回したため、財務省への働きかけを示すファクスを暴露されるなど首相も昭恵さんも窮地に陥りました。
 他方の「加計」疑惑で安倍首相を守ったのは内閣府だったようです。交渉の経過を示すメールや内部文書が文科省で発見されましたが、それに対する追及が「官邸の最高レベル」に届かないようにする作戦だったと思われます。文科省(第1の防衛線)は突破されましたが、内閣府(第2の防衛線)でストップさせようとしたのでしょう。
 「加計」疑惑での計算違いは前川喜平前文科事務次官です。文科省内で作成された内部文書は本物で「確実に存在していた」「あったものを無かったことにはできない」「行政のあり方がゆがめられた」と証言しました。官邸は人格攻撃までしてこれを否定しましたが、結局はむりやり国会を閉じて疑惑を隠すという醜態をさらすことになったのです。

 アベ政治の退廃と混迷

 通常国会では、政治と行政の劣化、アベ政治の退廃と混迷も余すところなく示されました。
 その第1は、情報の秘匿と隠ぺいです。行政文書など保管されるべき記録が廃棄されたり、隠されたりしました。南スーダンへの自衛隊PKOの「日報」が隠蔽され、「森友」「加計」疑惑での財務省や文科省、内閣府の情報隠しも大きな批判を招きました。行政の透明化、検証可能性、知る権利の保障という意識も仕組みも極めて劣弱であることが改めて明らかになっています。
 第2に、国連関係者からの懸念や批判です。共謀罪については国連人権理事会の特別報告者であるケナタッチさんがプライバシーを制約する恐れを指摘し、報道の自由に関して懸念を表明しました。人権理事会のケイ特別報告者も特定秘密保護法について改正を促しました。日本は国際標準から逸脱しつつあり、国際社会から後ろ指をさされるような国になってしまったようです。
 第3に、「安倍一強」体制の下での独裁と強権化です。小選挙区制の導入や内閣人事局の新設などによって官邸支配の体制ができ、国家戦略特区によってトップ・ダウンの政治主導が強まりました。多数党が強権を振るうことができる仕組みができ、三権分立の歪み、総理・総裁や公人・私人の使い分けなどによる政治・行政の私物化が生じています。
 第4に、マスメデイアが変質し、一部のメディアの劣化が進みました。政治権力の批判・監視を行う「第4の権力」から権力への迎合・走狗へという機能転換が生じています。とりわけ最大の部数を持つ『読売新聞』が安倍首相の9条改憲インタビューや「加計」疑惑での前川さんの「出会い系バー通い」を報ずるなど、安倍首相によって利用され、報道機関として大きな汚点を残すことになりました。

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8月6日(日) 「政治の劣化」「行政の劣化」とは何か―どこに問題があるのか、どうすべきか(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『法と民主主義』No.520、2017年7月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 はじめに

 「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかないんです」
 都議選の最終盤、秋葉原駅前での唯一の街頭演説で放った安倍首相の言葉が、これでした。「帰れ」「安倍ヤメロ」とコールして自分を批判する人々を指さし、「こんな人たち」と言って非難したのです。
 総理大臣は全ての国民を代表し、批判的な人々も含めてあらゆる国民に責任を負って国をリードする立場にあります。支持者や一部の仲間だけでなく、全ての国民を視野に入れ、その生命と生活を守り、国全体をまとめ統合するという役割を担っているはずです。
 それなのに、自分を批判する人々を「こんな人たち」とひとくくりにし、「私たちは負けるわけにはいかない」と対抗心むき出しにして非難したのです。国民を線引きして自ら分断を持ち込んだということになります。「敵」と「味方」を色分けし、「敵」に対しては厳しく「味方」や「お仲間」には優しいアベ政治の本質が顕われた瞬間でした。
 国会での審議でも、安倍首相は「こんな人たち」と思い込んだ批判者に対し、強い敵意をむき出しにヤジを飛ばしたりして攻撃的な対応に終始してきました。批判する人々や野党の背後にも、多くの国民がいるということを忘れているようです。批判者に対してきちんと答えることを通じて、その背後にいる国民にも理解してもらえるような丁寧な政権運営を行うというのが、本来あるべき姿ではありませんか。
 他方で、安倍首相は「味方」である「私たち」の仲間や身内を大事にしてきました。第一次安倍政権は「お友達内閣」と言われ、今年の通常国会でも親しくしてきた知人や友人を特別扱いしたり優遇したりしたのではないかとの疑惑が持ち上がりました。しかし、疑惑に答えることなく、共謀罪法案の強行採決を行ったうえで強引に幕引きを図ってしまいました。
 こうして、政局は都議選へとなだれ込むことになります。都議選では、アベ政治における政治や政治家の劣化、行政の劣化に対する批判と怒りのマグマが噴出しました。その結果が、自民党の歴史的惨敗という驚天動地の出来事だったのです。
 都議選での自民党惨敗は都民によるアベ政治への明確な審判でしたが、何に対して、どのような審判を下したのでしょうか。都議選に先立つ通常国会では、どのような問題が明らかになったのでしょうか。政治と政治家の劣化、行政の劣化という側面に焦点を当てながら、このような問いへの答えを探してみましょう。答えが見つかれば、それを是正するにはどうすべきなのかも明らかになるにちがいありません。

1 都議選の結果をどう見るか

 自民党の歴史的惨敗

 7月2日に投開票された都議選の結果は、別表の通りでした。ついに噴き出した「怒りのマグマ」によって自民党が歴史的惨敗を喫したというしかない結果です。

都民ファーストの会:6→49(+43)
自民党:57→23(-34)
公明党:22→23(+1)
共産党:17→19(+2)
民進党:7→5(-2)
東京・生活者ネットワーク:3→1(-2)
日本維新の会:1→1
社民党:0→0
無所属:4→0(-4)
無所属(都民推薦):9→6(-3)

 秋葉原での選挙戦最後の街頭演説で、安倍首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫びましたが、多くの都民は「こんな人たちに、私はなりたい」と考えたわけです。その結果、安倍首相はこれまで経験したことのない厳しい鉄槌を下されました。
 自民党の獲得議席は23でした。過去最低だった38議席を15も下回っています。今回の都議選ほど自民党が選挙の恐ろしさを実感したことはなかったにちがいありません。地殻変動によって地割れが生じ、奈落の底に落ち込んでいくような恐怖を味わったのではないでしょうか。
 こうなった原因は3つ考えられます。第1に自民党都連への批判であり、第2に国政への不満であり、第3に安倍首相への反感です。これらが積み重なって生じた敗北であるからこそ、これまでになかったような歴史的惨敗となりました。不明朗な築地市場移転問題の経緯など都政の闇を生み出してきた自民党都連への批判は、都議選が終わって都政改革が進められればある程度は解消するかもしれません。しかし、国政への不満や安倍首相への反感は、選挙が終わったからと言ってなくなるとはかぎりません。
 石原、猪瀬、舛添という過去三代の都知事を与党として支えてきた自民党都連への批判以上に、都民の怒りは国政とその中心にいる安倍首相に向けられました。9条改憲を打ち出し、「森友」「加計」学園疑惑に頬かむりしたまま共謀罪を強行採決して国会を閉じた強引なやり方や、その後も相次いだ不祥事、暴言、疑惑隠しなどに対しても都民の怒りは爆発したのです。
 選挙後、「THIS is 敗因」という言葉が飛び交いました。惨敗を生み出した「戦犯」はT(豊田真由子)、H(萩生田光一)、I(稲田朋美)、S(下村博文)の4人だというのです。しかし、正確には「THIS is A 敗因」と言うべきでしょう。何よりも、A(安倍晋三)という「大戦犯」がいるからです。
 これに加えて、公明党の裏切りがあります。今回、公明党は自民党とたもとを分かち「都民ファーストの会」を支援したため、公明党の支えを失った自民党は1人区や2人区だけでなく3~5人区でも苦戦することになりました。「都民ファーストの会」とともに上位当選した公明党に蹴落とされてしまったのです。

 「都民ファーストの会」の躍進

 歴史的惨敗に沈んだ自民党にとって代わったのが「都民ファーストの会」です。50人立候補して49人当選、追加公認を含めて55人になりました。自民党が減らした議席の大半は「都民ファーストの会」に流れ込みました。今回だけは支持できない、お灸を据えたいと考えた自民党支持者や無党派層にとって、「非自民」の「手ごろな受け皿」となったからです。
 このような「受け皿」を提供することができれば、今回と同様の地殻変動を国政レベルでも引き起こすことができるにちがいありません。それをどのように提起し、認めてもらうかが、安倍政権打倒に向けての課題になります。
 同時に、今回の選挙では欧米のようなポピュリズムの「追い風」が強烈に吹きました。「都民ファーストの会」は大阪維新の会や名古屋での減税日本と同様に、ポピュリズムの風に押し上げられて都議会に送り込まれたのです。「どうしてこんな人が」と思われるような人もあれよあれよという間に当選し、議員になって議会に送り込まれるというポピュリズム選挙の危うさが孕まれていることも忘れてはなりません。
 1993年にブームを起こした「日本新党」の都議はすぐに消えてしまいました。名古屋市の「減税日本」も4年後に再選されたのは6人だけでした。「都民ファーストの会」で当選した新人議員「小池チルドレン」の半分近くは議員経験がなく、スキャンダルを抱えている「ポンコツ議員」もいます。はたして小池与党としてきちんとしたチェック機能が果たせるのか、これから問われることになるでしょう。 

 共産党など立憲野党の善戦

 このようなポピュリズムの嵐の中で、共産党や民進党などの立憲野党は埋没することなく持ちこたえることができました。共産党は2議席増の19議席となり、民進党は「壊滅するのではないか」と見られていましたが、改選7議席から2議席減の5議席にかろうじて踏みとどまったからです。
 共産党は前回の都議選で8議席から17議席に倍増していますから2回連続での増加で、32年ぶりのことになります。小池対自民党都連という対立構図が喧伝され、「都民ファーストの会」が大量当選するというポピュリズム選挙の嵐が吹き荒れたにもかかわらず、埋没することも嵐に吹き飛ばされることもなく善戦健闘したのは重要な成果でした。
 これは強固な組織的基盤を持っている共産党の強みを背景としています。同時に、市民と野党の共闘の前進も大きな力になりました。無党派層の投票先で「都民ファーストの会」に次ぐ2位でしたから、組織の力だけではない幅広い支持層を得た結果でもあります。
 「森友」「加計」問題などでの調査と追及、アベ政治に対峙し続けてきたぶれない政治姿勢、9条改憲阻止などの国政上の争点も掲げた選挙戦術、豊洲移転に反対して築地再整備を掲げた唯一の政党という政策的立場などで得られた支持の広がりでした。このような、国政上の実績、選挙戦術、都政政策などの点で独自の優位性を発揮し、アベ暴走政治に最も強烈な「ノー」を突きつけたいという「反自民」のための「信頼できる受け皿」として支持されたということでしょう。
 このようなアベ暴走政治の問題点が明確に示され、国民の目に焼き付けられたのが、都議選の直前まで開かれていた通常国会でした。この国会における政府・与党の暴走・逆走とその後も続いた政治や行政の劣化に対する怒りこそが、都議選での自民党の歴史的惨敗という驚天動地の出来事をもたらした最大の要因だったのではないでしょうか。

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