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1月30日(火) 国民世論を恐れる首相 [論攷]

〔以下の談話は、『しんぶん赤旗』日曜版1月28日号、に掲載されたものです。〕

 安倍首相は自民党の会合で「いよいよ(改憲を)実現する時を迎えている」と改憲に踏み込みました。
 国会では抽象的な言い方をし、自民党議員の前ではむき出しの本音を語る―。これは安倍首相の常とう手段です。特定秘密保護法、安保法の時も、首相は国会では美辞麗句を並べ立て、国民に本音を隠したまま悪法の成立を強行してきました。
 国民に本音を語れないのは自信がないことの現れでもあります。
 世論調査で「安倍改憲」に反対は賛成を上回っています。急ぎたいけれど無理強いしたら反発を強めてしまうかもしれない。首相と与党は改憲発議できる数を国会で握りながら、このジレンマを抱えています。
 施政方針演説で首相は「50年先、100年先を見据えた」「国の形、理想の姿を語るのが憲法」だと言いました。そう言うならば、現行憲法こそ「戦争なき世界」の「平和国家」という「理想の姿」を70年以上も前に先進的に語ったものではないでしょうか。この理想を根底から破壊する安倍改憲は許されません。

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1月29日(月) 講演と執筆に追われてブログを更新する余裕がない [日常]

 昨日、宮前田園革新懇の学習会で講演した後、帰りぎわに参加者の1人から声をかけられました。そして、こう言われたのです。
 「最近、ブログ更新されていませんね。」
 痛いところをつかれました。前回の更新は1月19日でしたから、10日間近くも更新していなかったことになります。

 更新が途絶えた原因はサボっていたということですが、忙しくてその余裕がなかったということでもあります。その理由は二つあります。
 一つは、講演の依頼が多く、1月20日以降に集中していたということです。もう一つは、学習の友社から刊行する予定の新著の準備に時間が取られているということです。
 しかも、雪が降ったりして、その混乱に巻き込まれることもありました。結局、忙しさにかまけて、ブログの更新にまで手が回らなかったのです。

 1月分の講演の予定は、すでに1月5日のブログでお知らせしてあります。それは、以下のようなものでした。

1月20日(土)14時 産業文化センターホール:埼玉5区市民連合
1月21日(日)13時30分 つくば市ふれあいプラザ:安倍9条改憲NO!市民アクションつくば連絡会準備会
1月23日(火)10時30分 埼玉平和委員会
1月24日(水)19時 文京シビックセンター:出版共産党後援会
1月26日(金)14時 北多摩西教育会館:都教組
1月27日(土)13時30分 秋田県民会館ジョイナス:秋田9条の会
1月28日(日)14時 川崎市宮前市民館:宮前田園革新懇
1月30日(火)19時 吹田市職員会館:吹田市労連春闘学習会

 20日から30日までの11日間で、8回の講演が続く予定でした。このうち、大雪になった翌日の1月23日の埼玉での講演は中止になりましたが、それ以外は実施されています。
 昨日まで3日間、連続での講演がありました。3日前の夜に国立で講演し、一昨日は秋田で講演して一泊、昨日の宮前田園革新懇での講演はそこから帰ってくる途中だったのです。
 実はまだ、このような講演による繁忙期は終わっていません。予定にもあるように、明日は吹田市労連の春闘学習会で大阪に行き、2月1日には戦争法廃止を目指す大島の会、3日には市民連合おうめ、4日にも東京革新懇総会での講演があり、都合、1月20日から2月4日までの16日間で10回の講演をすることになります。

 これほど講演依頼が殺到することは、私の経験でもそうあることではありません。話の内容は、総選挙の総括、情勢の特徴と課題、安倍9条改憲の背景と危険性、3000万署名運動への取り組み、市民と野党の共闘の経験と教訓など、多岐にわたります。
 それぞれの講演は共通する部分もありますが、全て同じだというわけではなく、依頼されるテーマに応じて微妙に異なったレジュメを準備しなければなりません。もちろん、行き先の場所や経路の確認なども必要です。秘書などはいませんので、全て自分で手配しなければなりません。
 というわけで、この間、めったにない講演の集中に忙殺されアタフタしていたというわけです。各地でお世話になった皆さんに、この場を借りてお礼申し上げます。

 この講演の合間を縫って、時間を見つけては新著の原稿を書きなおしていました。これもブログの更新に手が回らなかった原因です。
 当初の構想では、これまで書いてきた論攷をまとめて出そうというものでしたが、時間が経つにつれて手を入れる必要が出てきました。相互の重複も整理しなければならず、大幅に書き換えています。
 まだ、執筆完了のめどが立っていません。新年草々に刊行するとお知らせしましたが、早くても3月頃になりそうです。

 通常国会が始まり、安倍首相の施政方針演説がありました。代表質問が終わって、いよいよ予算委員会での質疑も始まります。
 沖縄では注目の名護市長選が告示され、2月4日の投票日に向けて激しい選挙戦が展開されています。南城市に続いて名護市でも「オール沖縄」の候補として稲嶺進さんに何としても当選していただきたいと思います。
 このような時期ですからブログで書きたいことは山ほどありますが、その時間がありません。やむを得ず論攷のアップくらいでお茶を濁すことになると思いますけれども、ご理解いただければ幸いです。

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1月19日(金) 改憲 2018年は正念場(つづき) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、農民運動全国連合会(農民連)の機関紙『農民』第1294号、2018年1月15日号、に掲載されたものです。〕

 改憲の危険性を国民に知らせ
 多様な運動で必ず策動を阻止

 改憲策動が危険水域に入ったことは事実です。これをどう押し返していったらよいのでしょうか。4つのハードルを引き上げれば阻止できます。

 3000万署名を広げ数で示す

 第一は、自民党の内部がまとまるのかということです。2012年に定めた自民党の改憲草案から安倍9条改憲論は「後退」しており、石破さんなどの反対があります。
 2番目に、与党がまとまるのか。問題は公明党です。総選挙での不振もあって、「ブレーキ」役を果たすべきだという反省があります。山口代表は国民投票も3分の2を越える賛成が前提だと主張しています。
 3番目に、野党の側の問題です。共産党と社民党は「改憲は必要なし」と明言しています。立憲民主党も「安倍政権が進める9条改憲は反対」という立場です。希望の党は揺れています。野党第一党が同調する見通しはありません。
 4番目は、国民世論です。世論調査では、「9条改憲は急ぐべきではない」が66%を占めています。政治が取り組むべき課題として要求が多いのは、改憲ではなく景気回復や社会保障であり、くらしを守ることです。
 この点で最も大事なのは、改憲論の危険性を広く知らせ、反対の世論を大きく高めることです。「安倍9条改憲ノー!3000万人署名」を広げ、数で示すことが効果的です。
それを軸に学習会や集会などの取り組みを広げ、多様な運動を展開しなければなりません。市民と野党が力を合わせ、与党の一部も巻き込めば改憲を阻止できます。

 ことし18年は重要な年に

 この点で、2018年は重要な年になります。通常国会の後半、秋の臨時国会で改憲発議を許さないたたかいが必要です。2019年7月の参議院選挙までがヤマ場になるでしょう。
 これまで自民党政権は、政治改革・行政改革・構造改革など、さまざまな改革を行ってきましたが、ことごとく失敗し、貧困と格差が広がっています。地方・地域は疲弊し、少子高齢化が進んでコミュニティーが存亡の危機にあります。その大きな要因は、農業・農村が立ち行かなくなっていることです。

 農民連こそが日本社会を救う

 安倍政権のもとで、農地の集約、農業の大規模化、JAの弱体化などが進められてきました。産業として成り立つ農業が目指された結果、小規模・零細農業、兼業農家が切り捨てられ、地方が衰退してきました。
 これを立て直すには農業・農村が元気になることです。私の実家は新潟県の専業農家で、私は長男です。しかし、父は跡を継いで欲しいとは言いませんでした。ころころ変わる「猫の目農政」で展望を失ったからです。
 農民連のみなさんには、農家を守り農業を再生させるために、農政の方向転換に向けてイニシアチブを発揮してほしいと思います。農民連こそが農業と農家を救い、地方のコミュニティーを立て直し、ひいては日本社会を救う力になる――そんな気概をもってがんばってほしいと思います。(おわり)


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1月17日(水) 改憲 2018年は正念場 [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、農民運動全国連合会(農民連)の機関紙『農民』第1293号、2018年1月1日・8日合併号、に掲載されたものです。〕

 「戦争できる国」づくりの総仕上げ
 9条改憲を本気で狙う安倍首相

 安倍首相が改憲策動を強めるもとで、2018年は、日本国憲法にとって正念場の年です。憲法をめぐる今の状況と2018年の展望について、全国革新懇代表世話人で法政大学名誉教授の五十嵐仁さん(政治学)に聞きました。

 野党の一部に受け入れやすい案に

 安倍首相は昨年5月3日、憲法9条に自衛隊を明記し、2020年に施行するという改憲案を打ち出しました。
 その後、森友・加計疑惑で追いつめられ、7月の都議選で自民党が惨敗して内閣支持率も3割を切るなど、改憲への動きは一時より後退したかのようにみえました。
しかし、10月の総選挙の結果、「改憲勢力」が8割を占めたため再びギアを入れ替え、攻勢にでようとしています。
 安倍首相は公明党や維新、民進党など野党の一部も受け入れられやすいようにと、4項目を打ち出してきました。自民党の改憲案より実現可能性を優先し、本気で変えようとしているからです。
 その内容は、①9条への自衛隊の明記、②緊急事態条項の創設、③「合区解消」論、④高等教育の無償化――です。その中心は9条改憲論にあります。
 総選挙の結果、「改憲勢力」が衆参両院で3分の2以上を占め、改正発議が可能な、きわめて危険な状況になりました。危機感を高めている方も多いと思います。

 一枚岩ではない改憲勢力の中身

 しかし、次の点をみておく必要があります。
 第一に、改憲勢力といってもその中身はバラバラで、一枚岩ではない。安倍首相のいう9条改憲論を支持している人は決して多くはありません。
 憲法は「不磨の大典」ではなく、96条に改憲手続きの規定がありますから、改正が許されないわけではない。しかし、それには限界があり、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3大理念を破壊するような改正は許されません。
 「改憲勢力」のなかには、平和主義を破壊する9条改憲論者もいる一方、高等教育無償化や地方自治の充実など、理念に抵触しない改正を主張する論者もいます。安倍首相がめざしているのは、憲法の平和主義理念を壊す“壊憲”です。この安倍9条改憲論を支持する最も危険な勢力を、他の「改憲勢力」から切り離して孤立させ、その狙いと危険性を暴露しながら攻撃を集中することが大事です。

 改憲が緊急に取り組む課題か

 第二に、憲法を今変えることが、日本が直面している最大の政治課題なのかということです。取り組むべき緊急にして最重要な課題は景気の回復であり、貧困と格差の是正、社会保障の充実、少子・高齢化の解決、くらしと営業を守り平和と安全を確保することです。決して、憲法改正ではありません。
 憲法を変えれば、これらの問題が解決するのでしょうか。憲法に自衛隊を明記すれば従米・軍事大国をめざすかのような誤ったメッセージを世界に発信し、かえって日本の平和と安全を脅かすことになるでしょう。

 具体的な現れにすべて反撃して

 第三に、9条改憲の問題を、これだけ取り出して単独でとらえてはならないということです。これは、一連の「戦争できる国」作りプロジェクトの総仕上げという位置づけになっているからです。安倍首相は、そのための法律や制度の整備を着々と進めてきました。
 国民の言論の自由や知る権利を脅かし軍事機密を守るための特定秘密保護法、集団的自衛権行使を一部容認する安保法制、戦争反対の市民・社会運動も規制できる共謀罪法などです。国家安全保障会議(日本版NSC)も設立しました。
 そして今度こそ、9条という「本丸」に手をつけ、「戦争できる国」に変えていくことを本気でねらっています。こうした具体的な現れ一つ一つへの反撃が必要です。(つづく)

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1月15日(月) 今こそ思い出すべき憲法9条の「効用」 [憲法]

 私は「安倍9条改憲の前にすでに生じているこれだけの実害」という12月26日のブログで、以下の3点についての「実害」を指摘しました。
 ① 「安全に対する脅威の拡大と国民の不安の増大」
 ② 「米軍と米軍基地の存在は基地周辺の地域、とりわけ沖縄での具体的な被害を生み出してきたという事実」
 ③ 「この間の安倍政権が進めてきた軍事力の拡大による国民生活の破壊という大きな問題」

 そして、結論的に「安倍9条改憲は周辺諸国にとって大きな脅威となり、誤ったメッセージを発して極東の平和と日本の安全を危機に陥れることになります。そのような選択が実行される前にも、すでに多くの実害が現に生じていることを改めて直視することが必要になっているのではないでしょうか」と、書きました。
 この間に、沖縄で起きた窓枠の落下やヘリの不時着などは、まさにこの事実を羅づけるものだったと言えるでしょう。普天間基地については無条件で直ちに撤去し、ヘリをはじめとしたすべての米軍機の飛行を停止しなければ、沖縄県民の不安や事故を無くすこともできません。

 このような「実害」は枚挙にいとまがありませんが、他方で、これとは逆の面もあります。これまで憲法9条によって日本の平和と安全が守られてきたからです。
 改憲論者は直ぐに9条で平和や安全が守られるのかと問いますが、このような問いが生ずるのは過去の歴史について無知だからです。世界と日本の戦後を振り返ってみれば、9条が持っていた平和と安全を守る力をはっきりと確認することができます。
 今回はその「効用」について指摘しておくことにしましょう。安倍9条改憲は、この9条の「効用」を失わせてしまうことを意味するからです。

 その第1は、戦争加担への「バリケード」としての「効用」です。戦後の日本は、アメリカが行ってきた間違った戦争への加担を免れてきました。
 象徴的なのはベトナム戦争です。この戦争での死者は、アメリカ軍5万7702人、韓国軍4407人、オーストラリア軍475人、タイ軍350人、フィリピン軍27人、ニュージーランド軍26人、中華民国派遣団 11人となっています。
 4000人以上の犠牲者を出した隣の韓国とは異なって、日本は自衛隊を派遣せず、死者は1人もいませんでした。戦闘に巻き込まれたりして犠牲者が出なかったのは、湾岸戦争やイラク戦争でも同様です。
 なぜ、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピン、ニュージーランド、中華民国とは異なって日本が犠牲者を出さずに済んだのかと言えば、それは「憲法上の制約」があったからです。憲法9条の「バリケード」によってアメリカも日本に派兵を要請せず、自衛隊は1人の戦死者も出さずに済んだのです。

 しかし、この「バリケード」も完全ではありませんでした。日本にある米軍基地はベトナム戦争への出撃基地として使用され、日本は米軍の兵站・補給・休養拠点としてベトナム戦争に協力させられたからです。
 この戦争では、南ベトナム側で約335万6000人、北ベトナム側で約478万1000人 の戦死者が出ています。この誤った戦争に協力した日本も、これらの人々の死に対して責任を負うべき立場にあり、私たちの手も血でぬれているのです。
 しかも、イラク戦争ではアメリカからの要請に応えて海上自衛隊がインド洋、航空自衛隊がバグダッド空港、陸上自衛隊がサマーワに派遣されるなど、 この「バリケード」は徐々に崩されてきています。それでも派遣先が「非戦闘地域」での非軍事的な任務に限定されるなど、自衛隊員の命を守る点で9条の「バリケード」はそれなりに機能してきたと言えるでしょう。

 第2は、自衛隊の増強や防衛費の増大への「防壁」としての「効用」です。憲法9条によって日本は「軽武装国家」であることを義務付けられ、これを超えるような軍事力の拡大が抑制されてきました。
 その量的な制限は「GNP比1%枠」であり、防衛費は基本的にこれを越えないような額に抑えられてきました。質的な制限は国是としての「専守防衛」であり、空母などの攻撃的な兵器は保有できないという政策上の歯止めです。
 「非核3原則」や「武器輸出3原則」なども、日本の軍事大国化を阻むための憲法上の制約となってきました。これが憲法9条による「平和の配当」となって、日本の財政が軍備増強に費やされ浪費されることを防ぎ、民生中心の高度成長を実現することができたのです。

 しかし、安倍政権の下でこのような「防壁」も崩されつつあります。それまで減少し続けてきた防衛費は、安倍政権が発足した2012年の4兆6543億円をボトムに反転し、その後増加し続けて来年度予算では5兆1911億円(前年度比660億円増)となって4年連続で過去最大を更新しました。
 米軍から提供される機密情報を守るために特定秘密保護法を制定し安保法制の成立によって米軍とともに海外で闘うことができる集団的自衛権が一部行使容認となり、「専守防衛」の国是に風穴があけられました。敵基地攻撃に転用可能な巡行ミサイルやステルス戦闘機。オスプレイの購入、ヘリ空母の通常型空母への改修なども計画されています。
 すでに「武器輸出3原則」も「防衛装備移転3原則」に変えられ、武器の原則的な輸出禁止から容認へと方針転換が図られてきました。米軍との共同作戦や訓練の点でも、日本海での米原子力空母や戦略爆撃機との共同訓練、黄海での海上自衛隊による警戒監視活動など法的根拠があいまいな日米一体化が進行し、「戦争できる国」に向けての既成事実づくりが着々と進行しています。

 第3は、国際テロ活動に対するバリアーとしての「効用」です。日本は欧米の先進国とは異なり、思想的な背景を持った国際組織によるテロ事件が起きていないという事実が、このようなバリアーの存在を示しています。
 「オウム真理教事件」という国内組織によるテロ事件はありましたが、それは国際テロとは別物で、しかも20年以上も前のことになります。ホームグローンテロ(イスラム国など国外の過激思想に共鳴した国内出身者によるテロ)とも、ローンウルフ(特定の組織に属さず個人行動を起こすテロリスト)とも、これまで無縁であった稀有の国がこの日本なのです。
 そればかりでなく、外国でも日本の企業や日本人がテロリストに狙われ、犠牲となる例は多くありませんでした。中東地域を植民地として支配したことはなく、アラブ世界との関係は良好で、アメリカと戦い広島・長崎に原爆を落とされた過去と戦争放棄の憲法を持つ「平和国家」であるというイメージが「平和ブランド」となり、テロに対するバリアーとして大きな力を発揮してきたからです。

 しかし、イラク戦争への自衛隊派遣が転換点となり、その後、このバリアーも失われつつあります。イラク戦争に際して高遠菜穂子さんなど3人の日本人が拘束され、その後解放されましたが、残念ながらその後捕まった香田証正さんは殺害されてしまいました。
 その後も、2013年のアルジェリアでの日揮社員10人が殺された日本企業襲撃・殺害事件、2015年のIS(イスラム国)による後藤健二さんら2人の日本人殺害事件が起き、2016年にバングラディシュの首都ダッカでのレストラン襲撃事件に国際協力機構(JICA)の職員など7人が巻き込まれて殺害されています。襲われたうちの1人は「私は日本人だ」と叫んだそうですが、攻撃を避けることはできませんでした。
 2015年9月19日に安保法制が成立していますが、その翌10月にもバングラディシュで農業指導に携わっていた60代の日本人1人が現地のIS支部を名乗る武装集団に襲われて殺害されるという事件が起きました。これらの事実は、米軍と共に「戦争できる国」になることが海外にいる日本人の安全を高めたのではなく危険にさらす結果となったことをはっきりと示しています。

 安倍首相が意図している9条改憲は、平和と安全を守るうえで発揮されてきたこのような「効用」を失うことになります。それで良いのでしょうか。
 戦後、70年以上かけて営々として築いてきた「平和国家」としてのイメージやブランドを失うことが、「新しい時代への希望を生み出すような、憲法のあるべき姿」(年頭会見での安倍首相の発言)なのでしょうか。戦後の世界と日本の歩みをきちんと振り返ることによって、憲法9条が果たしてきた役割や意義、その「効用」を再確認することが、今ほど必要なときはありません。
 戦前の日本が大きな過ちを犯したことは否定しようのない歴史的な事実です。同じように、戦後のアメリカが大きな間違いを犯してきたことも、まぎれもない歴史的な事実ではありませんか。

 アメリカはベトナム戦争という大きな間違いを犯しました。中南米やアフリカ諸国、イラクやアフガニスタンなどの中東諸国に軍隊を送って武力介入し、紛争と混乱を拡大してきました。
 このようなアメリカの間違いに日本が基本的に巻き込まれなかったのは、9条という憲法上の制約があったからです。自衛隊の存在を明記することはこの制約を取り払うことになります。
 安保法制の整備や9条改憲によって、安倍首相は戦後においてアメリカが犯してきた間違いの後追いをしようとしています。そうすれば結局、間違いをも後追いすることになってしまうのだということが、どうして分からないのでしょうか。

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1月13日(土) 安倍首相と9条改憲についての『日刊ゲンダイ』でのコメント [論攷]

〔以下のコメントは、今年に入ってから夕刊紙『日刊ゲンダイ』の記事でつかわれたものです。参考のために、アップさせていただきます。〕

 「あらゆる疑惑が安倍首相に通じる。こんな政治状況は異常です。9月には安倍首相が3選を目指す自民党総裁選が行われますが、これほど疑惑を抱える人物の再選を許し、この国のトップを任せ続けていいはずがない。通常国会で審議される来年度予算案では防衛費が6年連続で増加し、過去最高の5兆2551億円に膨れ上がっている。その一方で、増税や働き方改革などで国民からさらなる搾取を画策し、国民生活を破壊しようとしています。」(1月9日付)

 「国際社会で孤立を深めるトランプ大統領を信頼に足ると評する安倍首相は、世界の信頼を失っています。安倍首相は悲願の憲法改正に乗り出そうとしていますが、安倍首相の言う通りに北朝鮮問題が緊迫し、半島有事が現実味を帯びているのであれば、自衛隊が米軍と一緒に戦う状況が目前に迫っているということ。日本の平和と安全にプラスに働くのか、マイナスに作用するかは中学生でも分かる。国政を私物化し、国会を空洞化させ、平然とウソを重ねるにとどまらず、平和国家の日本をぶっ壊そうとしている安倍首相、安倍政権をのさばらせることが最大の国難です。」(同前)

 「年明け以降、安倍首相の改憲をめぐる発言には一種の執念を感じます。安倍首相は当初、自民党改憲草案に沿った憲法改正を目指していましたが、焦点の自衛隊明記をめぐって実現の可能性が低いとみて軌道修正を図った。それによって憲法改正そのものが目的化していることが改めて浮き彫りになりました。初めて憲法を改正した首相として実績を残し、歴史に名を刻みたい。安倍首相の宿願はこの一点に尽きます。そのためには平然とウソをつく。自衛隊の存在を憲法に書き加えれば平和国家を支えてきたこの国の礎は崩れ落ちてしまうのに、何も変わらないと強弁する。何も変わらないのなら、なぜ憲法に手を加える必要があるのか。安倍首相の手法こそ、いじましくみっともないですよ。」(1月11日付)

 「<戦争が廊下の奥に立ってゐた>という銃後俳句が知られていますが、今この国は<戦争が背広を着て官邸の椅子に座っている>とでも言うべき状況です。」(同前)


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1月11日(木) 昔は「戦争が廊下の奧に立ってゐた」、今は「戦争が官邸の椅子に座っている」 [憲法]

 「戦争が廊下の奥に立ってゐた」
 これはよく知られている俳句です。京都大学俳句会で活躍していた渡辺白泉という学生が1939(昭和14)年に詠んだものです。
 アジア太平洋戦争の開戦は1941年ですから、その2年前になります。戦争へと向かう当時の社会に漂っていた不気味な気配と違和感を表現した名句でした。

 白泉はとくに政治に強い関心を持っていたわけではなく、左翼学生でもありませんでした。戦争を嫌い、平和と文学を好む普通の学生だったといいます。
 しかし、特高警察はこの俳句にまで目をつけ、反戦思想を抱いているとして治安維持法違反の嫌疑で投獄しました。仲間の学生も俳句を作れないほどの弾圧を受けたそうです。
 こうして、日本は戦争へと突入していきました。「廊下の奥に立ってゐた」戦争は、茶の間にまで踏み込んできて国民の生活を滅茶苦茶にしてしまったのです。

 翻って、今の日本はどうでしょうか。「戦争が官邸の椅子に座っている」と言っても良いような状況が生まれつつあるのではないでしょうか。
 平昌オリンピック・パラリンピックに向けての南北対話が始まり、戦争の危機が回避されたように見えますが、安倍首相は依然として対話よりも圧力の強化という異常な立場を取り続けています。朝鮮半島の危機を利用して政権基盤の強化を図り、改憲などの政治目的を達成しようとしている安倍首相にとって、そこでの緊張緩和が進みすぎては困るからです。
 第2次安倍政権が発足して以来、「積極的平和主義」という軍事力優位の軍事大国化路線を掲げ、特定秘密保護法や安保法制、共謀罪法の制定を図り、国家安全保障会議や国家安全保障局などを設置し、自衛隊の敵基地攻撃能力を高めて専守防衛政策をなし崩しに変え、愛国心教育の強化やマスコミへの懐柔と統制によって若者と国民の意識を反戦や非戦から好戦へと転換しようとしてきたのが安倍首相です。まさに、戦争が背広を着て首相官邸の椅子に座っている姿をほうふつとさせるような光景ではありませんか。

 このような軍事大国化路線の総仕上げとして提起されているのが、9条改憲に向けての動きです。安倍首相が政権に復帰して以来、着々と進められてきた「戦争できる国」づくりに向けての一連の流れと戦争政策の構造全体に位置付けることによって、安倍9条改憲構想の狙いと危険性を正しく認識しなければなりません。
 普通の学生が「戦争が廊下の奥に立ってゐた」と詠んだような社会の不気味さと違和感は、今の日本においても次第に強まりつつあるように思われます。それは「戦争が官邸の椅子に座っている」と言わざるを得ないような安倍首相の好戦的政策によって、ますます強められようとしています。
 その核心をなすものとして打ち出されているのが、9条改憲に向けての提案です。その本質は戦争か平和かを問う、未来に向けての選択にほかならないということを、今こそかみしめる必要があるのではないでしょうか。

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1月9日(火) 日本はまだ独立していないと言わざるを得ない沖縄の現実 [在日米軍]

 これでも独立国と言えるのでしょうか。沖縄の現実は、いかに日本の政府が当事者としての自覚を持たず、安倍首相が愛国心と責任感を欠いており、国民の安全を守る気もなく沖縄を見捨てているかということを示しています。
 私は「安倍9条改憲の前にすでに生じているこれだけの実害」という12月26日のブログで、「米軍と米軍基地の存在は基地周辺の地域、とりわけ沖縄での具体的な被害を生み出してきたという事実」を指摘しました。相次ぐ米軍機による事故はまさに「沖縄での具体的な被害」にほかならず、この指摘を裏付けるものとなっています。

 1月8日午後4時45分ごろ、米軍普天間飛行場所属のAH1攻撃ヘリコプターが読谷村の廃棄物処分場敷地内に不時着しました。不時着した場所は読谷村の西海岸近くで、東側約500メートルには住宅地、南側にはホテル日航アリビラがあります。
 その2日前の6日午後4時ごろにも、うるま市の伊計島東側海岸に米軍普天間飛行場所属のUH1Yヘリコプターが不時着しました。現場は日常的に漁や潮干狩りで利用する浜辺で、住民が巻き込まれなかったのは全くの偶然にすぎません。
 1カ月前にも普天間所属のCH53E大型輸送ヘリからとみられる部品が宜野湾市の緑ヶ丘保育園の屋根に落下したばかりです。その6日後には普天間第二小の運動場にCH53Eの窓が落下しています。

 アメリカ海兵隊の普天間基地の所属機は、去年だけでも6月に伊江島、8月に大分、9月に石垣島、そして10月に東村高江での炎上事故や12月の窓の落下など、事故を繰り返してきました。東村高江での炎上事故後の飛行再開に当たって、在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官は「私自身が安全でないと感じる航空機の運用を許可することは決してない」と発言しましたが、その後も米軍機による事故は続いています。
 表向き、日本政府は安全確保の重要性を強調していますが、事故のたびにアメリカ軍がとった対策を追認し、飛行再開を認めてきました。このような対応が、結果的に事故の頻発を許していると言うべきでしょう。
 それどころか、米軍ヘリの窓が落ちた事故の当日、山本防衛副大臣は「今回はCH53Eの事案でありますので、それによって他の飛行機も同じように扱うというのは…どういうロジックなのか私にはわかりません」と言って、機種を問わずすべての米軍機の飛行停止を求める県の要求に反対していました。その後も続いた事故は、このような考え方がいかに誤りであるかを証明しています。

 今年の年頭に当たって、安倍晋三首相はジャーナリストの櫻井よしこ氏、気象予報士の半井小絵氏、沖縄で活動を続ける我那覇真子氏、産経新聞政治部の田北真樹子記者の女性4人を首相公邸に招いて外交・安全保障や憲法改正などについて語り、対談の模様はインターネット番組「言論テレビ」で放映されました。ここで、安倍首相は次のように語っています。
 「騒音や事故があるので基地を受け入れてくれている方々が負担を感じることは当然あると思います。ですが、もし日本が攻められたとき、自衛隊と米軍が共同対処して命をかけて沖縄を守っていく。このことはぜひご理解いただきたい。訓練は迷惑になることもありますが、それを受け入れてくれる人がいて初めていざというときに対応できるんです。」
 これこそ、住民の安心や安全を後回しにして軍事訓練を優先する論理そのものではありませんか。米軍は沖縄を守っているのではなく、沖縄県民の命と安全を損なう危険な存在であるという現実が目に入らないのでしょうか。

 しかも今、国が全力を傾けて推し進めているのは、このような現実を変えて危険性を除去するのではなく、新たな米軍基地の建設によって危険を増大させる施策です。一体、どこの政府なのか、と言いたくなります。
 名護市辺野古で強行されている新基地建設こそ、その最たるものであり、このような暴挙をストップさせなければなりません。そのためにも、地元である名護市での市長選挙は重大な意義があります。
 米軍に対する事故原因究明と防止のための具体的な方策を求め、全ての米軍機の飛行停止と日米地位協定の改定を求めるとともに、2月の名護市長選挙での稲嶺進候補の圧倒的な勝利を実現することが必要です。そうすることで初めて、日本はまだ独立していないと言わざるを得ない沖縄の現実に風穴を開け、植民地のような従米路線を取り続ける安倍首相に対して沖縄県民の抗議の意思を明示することができるにちがいありません。

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1月6日(土) 真の「働き方改革」のためには「毒」をやめて「薬」を飲ませなければならない [労働]

 安倍首相は4日の記者会見で、憲法問題とともに労働問題にも言及しています。22日に召集される通常国会では労働時間規制の強化と緩和を抱き合わせた労働基準法改正案などが提出されるからです。
 これについて首相は、この国会を「働き方改革国会」と名付け、関連法案の成立に意欲を示しました。この問題も通常国会での焦点の一つになります。

 ここで注目されるのは、不十分とはいえ残業時間の絶対的制限を導入する労働時間規制の強化と、残業時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ法案)の導入という労働時間規制の緩和が抱き合わせという形で提案されていることです。
 先ず、このような提案の仕方が問題です。一方に賛成して他方に反対する場合、賛成したら良いのでしょうか、反対するべきなのでしょうか。
 労働時間規制の強化に賛成する労働側は残業代ゼロ法案に反対で、他方の使用者側は逆の立場です。どちらにしても、一緒に出されたら困るでしょう。

 それなのに、どうして抱き合わせているのでしょうか。それは、一方を餌にして他方を釣り上げ、両方を一括して通してしまおうとしているからです。
 しかし、両者は互いに矛盾しています。なぜ、このような矛盾した法案を成立させようとしているのでしょうか。
 安倍政権は新自由主義的な規制緩和政策と社会民主主義的な分配政策を混在させているからです。その背景には、これまでの規制緩和によるマイナス面が拡大しすぎたため、一定の手直しが必要になり労働再規制を打ち出さざるを得なくなったという事情があります。

 新自由主義的な規制緩和によって働き方が大きく変容し、非正規化の拡大と労働現場の荒廃、長時間労働による過労死や過労自殺、技能の低下や経験の継承困難、個々の労働者のモチベーションの弱まり、実質賃金の減少と購買力の低下などが生じてきました。その結果、貧困化と格差の拡大、中間層の衰退、国内市場の縮小、出生率の低下による少子化問題の深刻化などが大きな問題となっています。
 こうして、これまでの新自由主義的政策を継続することが難しくなってきました。安倍首相が「地方創生」「一億総活躍社会」「人づくり革命」などのスローガンを打ち出し、「再分配」や女性の活躍、「働き方改革」などに言及せざるを得なくなってきたのは、そのためです。労働時間の規制強化を打ち出さなければならなくなったのも、過労死や過労自殺に対する世論の批判を弱め、少子化問題の解決に向けて役立てたいと考えてのことでしょう。
 それなら、規制緩和をやめて規制強化に転ずればよいわけですが、他方で、そうできない事情があります。政治献金などスポンサーとして金づるを握られている財界の意向を無視できないという「弱み」があるからです。

 このために、病状が悪化してきているにもかかわらず、治療するための「薬」と一緒に、これまでと同じ「毒」を飲ませ続けなければならないというわけです。これでは病気が治るわけがありません。
 ブレーキを踏んで事故を防がなければならない時に、一緒にアクセルを踏もうとしているわけです。これでは事故を防げないだけでなく、かえって危険です。
 実は、このような「毒」は働く人や日本社会、国民経済にとってマイナスであるだけでなく、企業活動にとっても大きなマイナスを生み出しています。それに気が付いているまともな経営者は労働時間の短縮や賃上げなどの手を打ち、独自の対策に取り組み始めています。

 安倍政権もそうすれば良いのに、財界の顔色をうかがい、その財界を構成している大企業の経営者が無能ときています。規制緩和の旗を振り、法の網の目をくぐることばかりに専心してコンプライアンスを無視し、社会的な責任への自覚を失って企業利益ばかりに目を奪われてきました。
 この間に明らかになった、東芝や神戸製鋼、東レ、JR西日本、ゼネコン大手4社など日本を代表する大企業の不正や不祥事は、このような企業経営者が生み出してきた問題の「氷山の一角」にすぎません。しかも、これらの企業経営者は経済財政諮問会議や規制改革会議などの戦略的政策形成機関のメンバーとなって国政に関与し、それを歪めて安倍首相夫妻による国政私物化の仕組みづくりにも加担してきました。
 日本経済の地盤沈下とともに経営者の能力が弱まり、財界の衰退が始まっているのではないでしょうか。政官財の全てが公的な立場を忘れて倫理観を失い、私的利益を優先し、多少は持っていた矜持すら投げ捨て、極右・従米という矛盾に満ちた安倍首相による改憲・戦争志向の軍事大国化路線に迎合し、日本の政治と社会だけでなく経済をもぶち壊そうとしています。

 「働き方改革国会」で問われなければならないのは、労働時間規制にかかわる労働基準法の改正問題だけではありません。「毒」と「薬」を同時に飲ませるような処方や、アクセルを踏み続けたままブレーキを踏むような危険な運転を、これからも続けていくのかという問題です。
 それを避けるためには、「毒」ではなく「薬」だけを服用し、アクセルから足を話してブレーキを踏まなければなりません。安倍首相という藪医者を辞めさせること、運転手を交代させることこそが、その大前提であることは言うまでもないでしょう。

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1月5日(金) 安倍首相の年頭会見での改憲発言における3つの矛盾とジレンマ [憲法]

 4日は仕事始めのところも多かったと思います。私も昨日の夕方、故郷の新潟から帰ってきました。
 幸い雪は積もっていず、時折ちらつく程度の穏やかな正月でした。とはいえ、あい変わらずどんよりとした冬空で、雪が降って白くなったりたまに日がさしたりという変幻極まりない雪国特有の天気でした。まるで、今の日本の政治のような空模様です。

 安倍晋三首相は4日、三重県伊勢市の伊勢神宮を参拝後、現地で記者会見し、憲法改正について「戌(いぬ)年の今年こそ、新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示し、憲法改正に向けた国民的な議論を一層深めていく。自由民主党の総裁として私はそのような1年にしたい」と述べる一方、「スケジュールありきではない」として具体的な検討については党に任せる考えを強調したと報じられています。
 そもそも、「戌(いぬ)年」であることと改憲とは何の関係もありません。牽強付会の最たるものですが、この記者会見での発言には安倍首相がめざす9条を中心とした改憲論の矛盾とジレンマがはっきりと示されています。

 第1に、「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示」するという点です。今の時点で安倍首相が打ち出している改憲案はわずか4項目にすぎず、「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿」と言えるような代物ではありません。
 それは、9条をそのままにして自衛隊の存在を書き込むこと、高等教育を無償化すること、参院の合区解消のために一票の価値の平等の例外を定めること、緊急事態における国会議員の任期を延長することの4点に限られています。これがどうして、「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿」なのでしょうか。
 9条を除けばほんの部分的な手直しにすぎません。維新の会を「釣り上げる」ために付け加えた高等教育の完全無償化にしても、財政上の制約があるために「完全」を取り去って維新の会の反発を招いています。

 本当は、安倍首相も2012年に作成した自民党改憲草案をそのまま提案したいと思っているにちがいありません。その全面的な改悪案であれば、安倍首相が考える「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿」を示すものだ言えるかもしれません。
 しかし、それでは国民の賛同を得られず、国民投票で否決される可能性が高いと判断したのでしょう。成立を優先して「迂回戦術」を取ったということです。
 北朝鮮危機を利用できる今なら、最も変えたい9条について手を付けても賛成が得られるという判断もあったにちがいありません。しかし、そのために部分的で中途半端なものになったという矛盾が生じ、石破さんなど自民党内からの反発を受けるというジレンマに直面しています。

 第2に、「自由民主党の総裁として私はそのような1年にしたい」と述べている点です。なぜ、首相なのに「内閣総理大臣として」と言わないのでしょうか。
 憲法99条の憲法尊重擁護義務が頭をかすめたにちがいありません。「国務大臣のトップである内閣総理大臣が改憲の旗を振るのは99条違反だ」という批判があるからです。
 だからわざわざ「自由民主党の総裁として」と言い変えたのだと思います。しかし、このような形で立場を使い分けなければならないところに矛盾があり、首相として旗を振るわけにはいかないというジレンマが示されています。

 とはいえ、このような形で立場を使い分けてみても、矛盾とジレンマは解消されません。憲法99条には「国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負う」と書かれているからです。
 安倍首相は「国務大臣」のトップとしてだけでなく、「国会議員」としても「公務員」としても憲法を尊重し擁護する義務を負っています。いわば3重の縛りがかけられていることになります。
 その人が先頭に立って「憲法を変えよう」と呼びかけるところに、大きな矛盾とジレンマがあると言うべきでしょう。言い変えたからといって立場が変わるわけではありませんし、それが解消されるわけではありませんが、安倍首相としてはそう言わざるを得ない程度の「気持ちの悪さ」を感じたのかもしれません。

 そして第3に、「スケジュールありきではない」としている点です。そう言いながら「今年こそ、……憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示し、憲法改正に向けた国民的な議論を一層深めていく」という「スケジュール」を「しっかり提示」しているところに、すでに矛盾が示されています。
 そして、ここにも安倍首相のジレンマがあります。自分の任期中に改憲したという実績を残して歴史に名を刻みたいという野望と、それにこだわるあまり「スケジュール」を前面に出すと大きな反発を買い、かえって改憲を遠ざけてしまうというジレンマがあるからです。
 この点で、慎重な手綱さばきが求められることになります。改憲の「押し付け」にならないように気を付けながら、2020年の改憲施行という当初の目標に近づけるという矛盾した対応を迫られるからです。

 とりわけ今年は、秋に自民党の総裁選挙があります。ここで3選されなければ、安倍首相の手による改憲という野望は水泡に帰します。
 そのうえ、9条改憲論をはじめとした4項目の改憲案については、自民党内でも異論が存在しており昨年中に党内をまとめることができませんでした。安倍首相からすれば「何をグズグズしているんだ」という思いで見ていたことでしょう。
 しかし、表立って尻を叩けば「スケジュールありきではないか」という批判を招き、さらに遅れてしまう可能性があります。少なくとも3選を確実にするまでは自民党内での反発を招かないような形での慎重運転に徹しなければなりませんが、そうすれば改憲「スケジュール」が大きく狂ってしまうかもしれないというジレンマが生まれます。 

 安倍9条改憲阻止をめざす側からすれば、これらの矛盾とジレンマにこそ、つけ入るスキがあるということになります。この「弱い環」を攻めていこうではありませんか。
 安倍首相が「憲法改正に向けた国民的な議論を一層深めていく」と言っている点も重要です。このような「議論」を「国民的」に広めていくなかで、安倍9条改憲論の危険性を明らかにするだけでなく現行憲法のすばらしさを確認し、その憲法を守るだけでなく活かし具体化していくことのできる新しい政府の実現に結び付けていく必要があります。
 そのためにも、安倍首相の自民党総裁3選を何としても阻止しなければなりません。全ての攻撃をここに集中し、安倍首相をその地位から引きずりおろすことが、今年前半の獲得目標だということになります。

 なお、年明け早々、今月も以下のような講演が決まっています。お近くの方や関係者の方に沢山おいでいただければ幸いです。

1月20日(土)14時 産業文化センターホール:埼玉5区市民連合
1月21日(日)13時30分 つくば市ふれあいプラザ:安倍9条改憲NO!市民アクションつくば連絡会準備会
1月23日(火)10時30分 埼玉平和委員会
1月24日(水)19時 文京シビックセンター:出版共産党後援会
1月26日(金)14時 北多摩西教育会館:都教組
1月27日(土)13時30分 秋田県民会館ジョイナス:秋田9条の会
1月28日(日)14時 川崎市宮前市民館:宮前田園革新懇
1月30日(火)19時 吹田市職員会館:吹田市労連春闘学習会


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