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8月6日(月) 今日の政党・政治運動―ポピュリズムとの関連をめぐって(その5) [論攷]

 〔以下の論攷は、2017年11月11日に開催された労働者教育協会の基礎理論研究会での報告に加筆・修正したもので、同協会の会報『季刊 労働者教育』No.161 、2018年7月号、に掲載されました。5回に分けて、アップさせていただきます。〕

 5、展望と課題―立憲野党の誕生とポピュリズム

 今後の展望と課題です。いまは大きな時代の過渡期であり、戦後政治の第2段階から第3段階へと移っていく、その第2段階の最後の局面だと捉えていいのではないか。もはや第2段階をそのまま維持することはできず、ここから抜け出す必要があります。そして、そのための動きが生じていることは明らかです。ただし、それが右への退行なのか、左への活路なのか。方向性はまだ定まっていません。脱出路と解決策が模索されている段階です。
 欧米では、右派ポピュリズムと左派ポピュリズムとが生まれ、その両者によって脱出路が模索されています。さしあたり右への脱出路が選択されているようですが、これは第3段階への移行ではなく、第2段階の問題の解決を先延ばしして混迷を深めるだけです。とりわけ、貧困の増大や格差の拡大という点では、右への退行によって解決策はもたらされないと思います。
 ポピュリズムの機能は、大衆迎合というよりも人民主義、疎外された大衆による政治変動の活発化です。時代の転換期には、このようなポピュリズム的現象によって政治が大きく動くことが必要です。とりわけ左派ポピュリズムは、既存政治の外部からの大衆的な参入による民主主義の活性化をもたらすという点で評価できます。
 日本でも政治への参加と介入が大きな規模でおこなわれ、市民の行動力が高まって市民運動が変わってきたことがその兆候です。市民政治が新たな段階に達しつつある。政治や選挙への自発的参加も増えています。
 よく言われるように、いままで日本の市民運動は政治との距離を一定程度とるという特徴がありました。しかし、2015年安保法反対運動などを経て市民運動と政治・政党との連携が生まれ、その後、参議院選挙、首長選挙にも取り組み、今回の衆議院選挙では選挙への市民運動からの自発的参加という状況も目立ちました。
 このようななかで、新たな運動手法も開発され定着してきています。国会前集会が頻繁に開催されています。市民連合というかたちで学者、文化人、弁護士、主婦、青年など、これまであまり政治に関わらなかった人たちが積極的に政治に関与し、選挙に介入し、野党間の連携を仲立ちするという例が生まれました。今回の衆議院選挙では、選挙区ごとにこのような動きがありました。
 このようにして若者などが加わるなかで、十分ではありませんが、運動のやり方も変わってきています。たいへんビジュアルになっています。今回、立憲民主党がある種の「ブーム」を生んだ背景には、インターネットとSNSの有効活用と同時に、集会の開き方などの工夫もありました。
 宣伝カーの上から演説するのではなく、ビール箱の上に枝野さんが立ち、周りを大勢の聴衆が取り巻く。真ん中にスポットライトが当たる。枝野さんは以前からそうやっていたようですが、国会前集会のやり方ともよく似ています。
 これが「インスタ映え」するということで、写真や動画などで拡散されました。こういう面もあり、それまで政治にあまり関心のなかった層を惹きつけ、自発的に手伝う人も生まれます。立憲民主党が立ち上げたツイッターのフォロアー数があっという間に自民党を抜くということが話題になりました。
 それがさらに注目度をあげます。カンパをしたいがどうしたらいいのかという声が殺到し、お金が集まるということもありました。「枝野立て」というインターネット上の声に押され、市民に求められて新しい政党が誕生し、市民に育てられるというような現象が生まれました。そのなかで運動手法としても、政治文化としても、新たな境地が切り開かれたのではないかと思います。
 無党派・新規・素人によって政治が担われ、動かされるという、これまでになかったような状況が端緒的ではあっても生まれたということは重要な点です。新しい日本の政治のあり方、市民政治と政党政治との連携・結合、左派ポピュリズムを生み出す希望が、「希望の党」の外に生まれたといってもいいと思います。
 安倍暴走政治によって生み出された政治不信を背景に、「素人の乱」が芽を出し育っているといえるのではないでしょうか。変化への期待と行動力の高まりを大切にし育成していけば、新しい政治の地平が見えてくるのではないかと期待しています。

 むすび

 今回の総選挙において、立憲野党の周囲に左派ポピュリズムの芽が生じました。これが政治と政党、政治運動と政党政治を活性化させる可能性が生まれています。分断から再生へ、失望から希望へという流れです。野党第一党は量的には減少しましたが、質的には強化されました。
 立憲民主党が野党第一党になったという点が重要です。民進党は分裂して4つに別れましたが、合わせれば以前の民進党よりも多くの議員と得票数を獲得しています。比例代表の得票で自民党と公明党を足した得票数2554万票よりも、立憲民主党、希望の党、共産党、社民党の4党の合計得票数2610万票の方が多い。自民党だけを比べてみれば、自民党の1856万票よりも立憲民主党と希望の党の合計得票2076万票の方が多くなっています。
 野党第一党である立憲民主党だけを取り上げれば量的に減少していますが、連携できる可能性を孕んでいる野党全体を視野に入れれば増大している。中心に座る立憲民主党が明確に立憲主義を掲げ共闘を志向しているという点からみれば、民進党よりも政治的政策的にしっかりしているという点で質的に強化されています。
 新しい可能性が生まれていると言えます。市民政治と野党共闘がリニューアルされ、選挙と運動で連携すれば勝てるという展望も生じています。いままで安倍内閣の支持率が下がっても、自民党の支持率はなかなか下がりませんでした。野党第一党であった民進党の支持率も上がらず、無党派層が増えるという傾向がありました。
 ですから、安倍首相としては、内閣支持率が下がっても自民党の支持率が高ければいいと考えていたと思います。民進党の支持率が上がらなければ怖いものはないと思っていたでしょう。しかし、これからは野党第一党のイメージが変わります。民主党からずっと引き継いできた「裏切り者」という薄汚いイメージが、前原さんと小池さんによって希望の党の方にいき、立憲民主党はこのイメージから脱け出すことに成功したと言えるのではないでしょうか。
 選挙後におこなわれた支持率調査で立憲民主党は、それまで民進党がなかなか超えられなかった10%の壁を一気に突破しました。内閣支持率の変動が政党支持率の変動へと結びつく新しい状況が生まれるかもしれない。たしかに、「一強体制」を維持するという点で安倍首相は成功しましたが、しかし、市民政治と野党共闘のリニューアルによって生じた新たな局面は、安倍内閣の支持率を下げ、世論状況の変動によって安倍内閣を行き詰まらせる可能性を生み出しています。
 野党共闘の弁証法的発展ということで言えば、革新統一戦線全体として、70年代におけるテーゼ(正)、80年代以降のアンチテーゼ(反)、15年安保闘争、16年の5党合意以降のジンテーゼ(合)というかたちになっていると思います。同時に、ジンテーゼのなかでも、野党共闘の機運が安保法反対闘争のなかで高まり、共産党によって国民連合政府という構想が提起され、5党合意がなされ、参議院選挙の1人区での統一候補擁立によって試され、それが新潟県知事選挙や仙台市長選挙などに拡大しました。そして今回、アンチテーゼ(反)にぶつかったわけです。
 立憲野党の共闘の中心になるべき民進党が総選挙前に突如として姿を消してしまうという逆流と試練がありました。しかし、これを乗り越えて新しく共闘の中心になり、さらにそれを推進する立場に立つ野党第一党が登場するというかたちで刷新され、これから本格運用が始まることになるでしょう。
 こうしてジンテーゼ(合)の段階を迎えることになります。希望的観測も含めて、そうなることを期待したいし、ぜひそうあってほしい。そのために力をつくすことがこれからの大きな課題だということを強調いたしまして、私の報告とさせていただきます。


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