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11月10日(土) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 これほど異常な政権が、かつてあったでしょうか。右派的な改憲志向の政権はありました。中曽根康弘政権などはその一例です。しかし、改憲をスケジュールに上らせことはありませんでした。
 総理大臣の犯罪が断罪されたことはありました。ロッキード事件で逮捕された田中角栄元首相がそうでした。しかし、首相の夫人までが疑惑をもたれ、公文書を書き換えて証拠隠滅を図ろうとしたことはありませんでした。
 中曽根元首相は「きれいなタカ」だったと言えるかもしれません。田中元首相は「汚いハト」と呼ばれることがありました。「きれいなハト」は三木武夫元首相でしょうか。
 これらの先輩に比べても、安倍晋三首相は異例であり異常です。自民党政権でも、これまでに存在することのなかった「汚いタカ」だからです。スキャンダルまみれで改憲志向の首相は稀有だと言うべきでしょう。
 この点で、安倍首相は戦後最悪で最低の首相です。その安倍首相は自民党の規約を変えてまで3選され、第4次安倍改造内閣を発足させました。内閣改造によって支持率は上がるどころか下がり、嵐の中での船出となったようです。
 同時に、内閣支持率は一定の水準を維持しており、ここに安倍政権の強みもあります。その秘密がどこにあるのかを、考えてみたいと思います。3年の任期をまっとうすれば憲政史上最長になる可能性のある長期政権が、最低最悪の安倍首相によって、どうして実現されようとしているのでしょうか。
 その背景と要因は何か。安倍異常政権の深層を探り、それを阻止するにはどうすれば良いのか。これらを検討し明らかにするのが、本稿の課題です。

1、「賞味期限」が切れた安倍政権

 自分でやらなければならなくなった「後始末」

 9月20日に自民党の総裁選挙が実施され、安倍晋三総裁が3選されました。でも、安倍首相は3選されない方が良かったのではないでしょうか。2期6年で首相の座を去っていた方が、「有終の美」を飾れたはずです。
 しかし、憲政史上最長の政権を実現したいという野望には打ち勝てなかったと見えます。わざわざ3選禁止の自民党規約を変え、総裁選挙で当選し9年の長期政権を視野に入れることになりました。とはいえ、その任期を全うできるという保障はどこにもありません。すでに、「賞味期限」が切れているのですから。
 安倍首相が2期6年で政権の座を去っていれば、過去6年にわたって続いてきた失政の後始末は、次の首相に任せることができました。自らがかかわり疑惑をもたれてきたスキャンダルからも逃げおおせて、知らん顔ができたかもしれません。
 しかし、まだ3年間も首相の座にとどまることになりました。そのため、「安倍首相夫妻と不愉快な仲間たち」によって引き起こされた森友・加計学園疑惑から逃げられなくなったのです。国民の側からすれば、真相解明と責任追及の期間もあと3年保障されたことになります。
 安倍首相にとって支持率を安定させる手段は経済と外交でした。しかし、鳴り物入りで進められてきたアベノミクスは破たんが明らかになっています。日銀の黒田総裁が進めてきた異次元金融緩和は失敗し、2%のインフレ目標の達成時期はあいまいにされました。景気は改善されず、収入は増えていません。
 金融緩和政策は終了するときこそ難しいと言われています。3選されたために、安倍首相自身がその「出口」戦略を担わざるを得なくなりました。総裁選で「トリクルダウンなどと言ったことはない」と弁解していましたが、間接的に失敗を認めたようなものではありませんか。「尻拭い」を自らの手でやらざるを得ないということに、今になって気が付いたのかもしれません。
 「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」など鳴り物入りで始めた「目玉政策」の数々もスローガンだけが先行し、一向に成果は上がっていません。労働者の働き方を改善して過労死や過労自殺を解決するはずの「働き〝過多〟改革」は、働かせ放題で残業代ゼロの「高度プロフェッショナル制度」の導入によって全く逆のものになってしまいました。

 孤立し漂流を始めた外交

 経済がかげりをみせはじめただけでなく、もう一つの外交も漂流を始めています。朝鮮半島の非核化と平和構築に向けて米朝首脳会談が開催されましたが、「圧力一辺倒」の安倍首相は事態の急進展に対応できず、完全に孤立してしまいました。東アジアでの緊張緩和が進むなかで、安倍政権が進めてきた軍事大国化を目指した好戦的政策はほとんど無意味になりつつあります。
 拉致問題や北方領土問題は全く進展せず、個人的な関係を強めてきたプーチン大統領からは、突然、平和条約締結を持ち出されてオロオロするばかりでした。北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされず、韓国の文在寅大統領とは相変わらず慰安婦問題などでギクシャクしたままです。成果ゼロではありませんか。「外交の安倍」だなんて、聞いてあきれます。
 「カヤの外で飛び回る一匹の蚊」のようになった安倍首相は、中国の習近平主席に助けを求めてすり寄っています。他方で、極右の反中勢力の反発を抑えるために南シナ海で潜水艦訓練を行ったり、米軍の戦略爆撃機と空自の共同訓練を行ったりというチグハグぶりです。これまで精力を費やしてきた中国敵視政策と「中国包囲網」づくりによって大きなジレンマに追い込まれてしまいました。
 日米関係にも暗雲が漂い始めています。9月に行われた首脳会談で、これまで避けてきた貿易に関する2国間協議を呑まされてしまったからです。「日米物品貿易協定(TAG)」と看板を変えて誤魔化し、「全く異なる」と安倍首相は弁解していますが、基本的な内容は「自由貿易協定(FTA)」と変わりありません。合意文書の翻訳で日本政府が改ざんした疑惑まで生じています。
 合意される関税はTPPの水準を越えないとされていますが、要するに自動車輸出を守るために農産物自由化を受け入れるということにほかなりません。すでに、種子法の廃止で農業生産にとって大切な種子が多国籍企業の餌食とされ、「農業改革」によって中小零細や兼業農家の切り捨てが始まっています。そのうえ、輸入農産物の関税が下げられれば日本の農業と農村は壊滅するでしょう。
 
 沖縄県知事選挙の衝撃

 9月30日に、安倍3選後初の大型選挙となった沖縄県知事選挙が実施されました。結果は玉城デニー候補が39万6632票、佐喜真淳候補が31万6458票で、その差は8万174票という圧倒的なものでした。
 前回の翁長候補の得票は36万票でしたから、それより3万票も多くなっています。この玉城候補の得票は過去最高でした。つまり、「辺野古に新基地はいらない」という沖縄県民の民意がこれまでで最も多くの票によって、明確に示されたことになります。
 この選挙では、菅義偉官房長官と小泉進次郎衆院議員が3回も応援に入り、二階俊博幹事長や石破茂元幹事長、小池百合子東京都知事までが沖縄入りしました。前回は自主投票だった公明党が支持に回り創価学会の幹部も応援に入るなど異例の対応を行い、前回下地幹郎候補を立てた維新も佐喜真候補を支持しました。
 安倍政権側は総力戦を展開し、官房機密費などの金をバラマき、基礎票や陣立てとしては圧倒的に有利な態勢で取り組んだのにコテンパンに敗北したのです。それだけ県民の意志は強固で明白だったということになります。政権丸抱えの総力戦がかえって県民の反発を招いたのではないでしょうか。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿です。辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の選挙では、辺野古での新基地建設や普天間飛行場の返還問題とともに、民主的な政治制度としての選挙のあり方や与党が編み出した「勝利の方程式」も大きな争点になりました。辺野古での新基地建設という最重要争点についての態度を明らかにしない「争点隠し選挙」が有権者の厳しい審判を受けたことになります。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら事前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、このような力づくで屈服させようという強権的な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果だったのではないでしょうか。
 こんなやり方は、もう通用しません。自民党は「根腐れ」してしまったと言うべきです。長期政権の「緩み」や「驕り」が露呈し、自民党も安倍首相も「賞味期限」が切れて腐り始めています。国民が「食中毒」で倒れてしまう前に安倍政権を倒す必要性はますます強まっているのです。

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11月8日(木) トランプ大統領の暴走へのブレーキを生み出した米中間選挙 [国際]

 注目の米中間選挙が終わりました。残念ながら、共和党の地滑り的大敗はありませんでした。
 しかし、トランプ大統領が豪語するような「とてつもない勝利」とはほど遠いものです。「とてつもない敗北」が回避されただけなのですから。

 中間選挙の結果は、上院では共和党の勝利、下院では民主党の勝利となり、痛み分けの形になっています。一勝一敗ですから、「引き分け」のように見えます。
 しかし、そうではありません。同時に実施された州知事選挙でも、民主党は改選前の16州から23州へと増やし巻き返しています。
 上院選挙は定数100で改選は35にすぎず、改選されなかった選挙区では、当然ながら上院議員の選挙は実施されていません。しかも、改選されるべき選挙区の現有議席は共和党9、民主党26で、もともと共和党に有利な形での改選でした。

 その上院で、予想通り共和党は勝利したにすぎません。全選挙区で改選された下院と州知事選挙で巻き返されたわけですから、共和党は1勝2敗です。
 しかも、大統領選挙で勝利した州でも、今回は知事選で敗北しています。これらの州では次の大統領選挙で共和党候補が敗北する可能性があるということになります。
 再選を狙うトランプ大統領にとって、実は上院での勝利より州知事選や下院での敗北の方が気になる結果だったのではないでしょうか。前回の大統領選挙で勝てたところでも、黄色の信号が灯ったことになるのですから。

 このような民主党の勝利を導いた要因は、青年、女性、マイノリティの投票率が上がったことにあります。これらの人々はトランプ大統領の発言や政治手法への危惧や反発から投票所に足を運んだものと見られます。
 初めて投票した有権者の投票先は民主党が61%で共和党が36%、30代以下の若者では民主党に68%、共和党に31%が投票したそうで、タフツ大学の調査でも、若者の投票率は21%から31%へと10ポイントも上昇したそうです。CNNの出口調査では、男性は民主48%、共和51%なのに対し、女性は民主59%、共和39%。白人は民主45%、共和54%、非白人は民主76%、共和22%となっています。
 その結果、女性やイスラム教徒、先住民出身者など、多様な人々の代表が議会に送り込まれました。このような議員を支援する民主党の新しい波こそが、今回のような選挙結果をもたらした最大の要因だったと言えるでしょう。

 このような形で若者や女性、マイノリティの人々を投票所に引き寄せ、その結果、投票率をかつてなく上昇させ、民主党を勝たせたのは、トランプ大統領の「お陰」だったと言えます。大統領がトランプ氏でなければ、この間の暴走が有権者の分断を強めなければこれほど投票率は上がらず、今回のような結果にはならなかったでしょうから。
 その結果、上院は共和党、下院は民主党という形での「ネジレ」が生じました。このような「ネジレ」は決められない政治として否定的に語られます。
 しかし、両院の多数派が同じでは院が二つ存在する意味はなく、その多数派が異なって初めて両院制の意味が出てきます。しかも、これまではアクセルが二つもあってトランプ大統領の暴走を止められませんでしたが、これからは民主党が多数派の下院というブレーキが装備されることになります。

 トランプ大統領はこれまでと同じような暴走を続けられなくなるでしょう、国境の壁の建設、オバマケアの撤廃、富裕層や中間層向けの更なる減税は難しくなりました。
 ロシア疑惑や脱税疑惑などについてのさらなる調査や捜査が行われる可能性が強まります。早速、司法長官が解任されましたが、大統領弾劾を避けるために先手を打ったものと見られます。
 ツイッターでの強気なツブヤキとは裏腹に、選挙結果へのいらだちと今後の政権運営への不安は大きいのではないでしょうか。民主党との連携を呼びかけたのはその表れですが、同時に、政治の停滞が生じた場合の責任を民主党におっかぶせるための布石かもしれません。

 議会運営も困難になりますから、大統領権限で実行可能な分野でのトランプ流はかえって強まると見られています。その最たるものは外交で、日本などの貿易相手国への圧力が強まり、貿易交渉には厳しい姿勢で臨んでくるにちがいありません。
 とりわけ、中国との「貿易戦争」はさらに激しくなると思われます。一方で中国への接近を強め、他方でアメリカとの2国間交渉に臨まなければならない安倍首相にとって、極めて難しい対応が迫られることになります。
 米中間選挙の結果にいらだちと不安を高めているのは、トランプ米大統領だけではないかもしれません。安倍首相にとっても、前途に黒い雲がもう一つ広がってきたということでしょうか。

 アメリカ国民は今回の中間選挙を活用して「ネジレ状態」を生み出し、トランプ大統領の暴走をストップするためのブレーキを手に入れました。次は、私たちの番です。
 来年の参院選が衆参両院の「ネジレ状態」を生み出して安倍暴走政治へのブレーキを手に入れるチャンスです。そのためにも、市民と野党との共闘によって1対1の対決構図を生み出し、若者や女性、マイノリティの投票率を上げれば勝てるという「勝利の方程式」を充分に学ぶ必要があるのではないでしょうか。
 

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11月6日(火) 『日刊ゲンダイ』11月3日付に掲載されたコメント [コメント]

 〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』11月3日付巻頭特集「また居直り、スットボケ連発…全員“札付き”内閣の国民愚弄」に掲載されたものです。〕

 「片山大臣は規制改革担当相を兼務しており、安倍首相に直結する加計学園問題にも対応しなければいけません。週刊文春に新たに『消えた献金200万円』疑惑を報じられると、すぐさま政治資金収支報告書を訂正するなど防戦一方で、疑惑はますます深まるばかり。疑惑弁明の対応に追われ、とても本職の地方創生には手が回らないはずです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 前出の五十嵐仁氏が言う。
 「これだけ追及材料に事欠かない閣僚が多いのですから、今後の臨時国会は紛糾必至です。安倍首相も任命責任を問われ続け、閣僚のスキャンダルが続出し、辞任ドミノで内閣崩壊に至った第1次政権に酷似した状況に近づいていく。こんな政権が自衛隊明記の9条改憲の“アベ案”提出で憲法を弄び、庶民に消費増税を押しつけるなんて、もってのほか。安倍首相はレームダック化を避けるため、無理やり背伸びして国内外の“大荷物”を積み込み、求心力を高めたいのでしょうが、新たに元徴用工訴訟の賠償判決で日韓関係に亀裂が生じかねない外交難題も加わり、この政権はオーバーヒート寸前。もはや限界ですよ」

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11月3日(土) 憲法を尊重し擁護する義務はどのようにして果たされるべきか [憲法]

 72年前の今日、日本国憲法は公布されました。それが施行されたのは、半年後の1947年5月3日のことになります。

 安倍首相は今年の通常国会開会に当たっての施政方針演説で、「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う。国の形、理想の姿を語るのは憲法です」と述べて、改憲を呼びかけました。70年以上の生命力を発揮した現行憲法は、まさに自由と民主主義が保障された平和国家の建設という「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う」という「国の形、理想の姿」を示していたのではないでしょうか。
 この事実は安倍首相の誤った憲法観に照らしても、現行憲法は輝きを失わないということを意味しています。すでに「50年」を越えて、日本の政治と社会に定着してきたのですから。
 ちなみに、憲法とは権力者を縛るためのものです。安倍首相のようなトンデモナイ権力者が出て来て強権政治を強行しようとしたとき、国民と社会を守るための武器となるのが憲法なのです。

 それを変えるようにと、国民にたきつけているのが安倍首相です。不都合があれば変えなければならないのは当然です。
 しかし、どのような不都合があるというのでしょうか。共産党の志位委員長の代表質問に対して、安倍首相は「憲法改正について国民的議論を深めるためには、具体的条文案を示す必要がある」と答えています。
 不都合があるから提起したのではなく、改憲議論を深めるために提起したというのですから、自らの提案が改憲そのものを自己目的化したものであったということを、はっきりと告白した答弁にほかなりません。9条に自衛隊の存在を書き込んでも何も変わらないと誤魔化したり、自分のは「条文イメージ」であって自民党案とは異なると言ってみたり、各党に改憲案の提案を求めたりしていることも、端的に「ここが不都合だ」というわけではないことの証拠です。

 不都合などがないから、国民は改憲を求めていません。毎日、朝日、読売、共同、NHK各社の世論調査だけでなく、政府寄りとされている産経の調査でも臨時国会に自民党改憲案を提出することに賛成が42.9%、反対が48.3%と、反対の方が多くなっています。
 安倍首相は「憲法改正や改憲案の本国会提出に賛成する人が一定程度認められる現状で、議論することまでを否定するべきではなく」述べています。「賛成する人が一定程度認められる」ことは事実ですが、それ以上に反対する人が多いのですから多数意見に従うのが民主主義というものでしょう。
 確かに、改憲について議論することまでは「禁止」されているわけではありませんが、それを総理大臣が、自衛隊という中立であるべき実力組織や国会という立法府を前に呼びかけることが、憲法の趣旨からして許されるのかということが問われているのです。憲法99条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書かれていることは、いくら安倍首相でも知らないはずがありません。

 言うまでもなく、安倍首相は国会議員であるだけでなく国務大臣・公務員であり、そのトップにして国民を代表する立場にあります。二重三重に憲法を尊重し、擁護しなければならない縛りがかけられているのです。
 最近はやりの言い方で言えば、二重三重に重なっている「檻」に入れられている「ライオン」が安倍首相なのです。そのような立場にある者は改憲議論を呼びかけることについても抑制的であるべきだというのが、自民党を含めたこれまでの首相の共通理解でした。
 憲法は最高法規ですからその扱いは慎重でなければならず、三権分立の趣旨からして行政府の長が立法府での議論のあり方に関与・介入するべきではないということも、自民党を含めた国会議員の共通理解であり常識でした。しかし、そのよう共通理解を持たず、常識も通用しないのが安倍首相という人なのです。

 臨時国会は難題山積で期間も短く改憲など提起する余裕があるのか、しかも、与党の公明党まで腰が引けているから発議は相当困難なのではではないか、という見方は常識的なものです。しかし、このような常識も安倍首相には通用しません。
 国会での答弁に示されているように、安倍首相は今もなお改憲の野望と執念を持ち続け、スキあらば改憲発議に持ち込みたい、少なくとも憲法審査会での議論の俎上に乗せたいと考えているはずです。
 安倍首相は説明だけでもさせて欲しいとトーンダウンしたと言われていますが、維新の会などの「援軍」を利用し、国民投票法で野党を分断して国民民主党を引き込み、何とか足掛かりを見出したいと考えているにちがいありません。

 首相の狙いは、臨時国会でまず改憲案を憲法審査会に提示し、通常国会への継続も視野に入れて時間をかけたという実績を作り、チャンスがあれば発議に持ち込むということにあります。野党の側としては、国会での追及によって安倍政権を防戦一方に追い込んで改憲論議の余裕を与えないという「水際阻止作戦」に取り組むべきであり、それこそが99条に規定された憲法尊重擁護義務を果たす最善の道にほかなりません。

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11月2日(金) 『日刊ゲンダイ』10月31日付に掲載されたコメント [コメント]

 〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』10月31日付巻頭特集「逆回転の官邸主導 安倍政権は臨時国会を乗りきれるのか」に掲載されたものです。〕

 「国会での議論をできるだけ避け、官邸が通したい法案を優先して成立させるという安倍首相の意向をくんだものでしょうが、立法府の役割を何だと思っているのか。猛反発を招くのは当たり前です。それを承知で強気の姿勢に出てきたのは、焦りの裏返しでしょう。会期の短い臨時国会にあれこれ詰め込んで、強行突破でやろうとした。しかし、いきなり腰砕けで、冒頭から国会運営に暗雲が漂っています」(政治学者の五十嵐仁氏)

 「臨時国会は会期も短い。党内にも異論がある改憲案や、外国人労働者受け入れのための入管法改定案をゴリ押しするだけの力が今の安倍官邸にあるのでしょうか。総裁選で圧勝できず、その後の地方選挙でも負けが込んでいることで、求心力の低下は著しい。そんな中で、求心力を高めるために強行突破をしようとすれば、与党内にも反発が広がります。安倍改憲には世論の支持もない。推進力なき船が風雲の中を独り善がりに進もうとしても、難破する可能性が高いと思います」(五十嵐仁氏=前出)


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11月1日(木) 植民地支配への反省と被害者救済こそが問題の本質ではないのか [国際]

 元徴用工の訴えに対する損害賠償を認める韓国最高裁の判決が大きな波紋を呼んでいます。1965年に結ばれた日韓条約(日韓請求権協定)によって問題は最終かつ完全に解決されたと理解されてきたからです。
 日本政府は韓国政府に対して、この立場から対応し善処することを求めています。日韓関係を悪化させたくない韓国政府も最高裁の判決を尊重しつつ外交問題ではなく国内問題として解決する姿勢を示しています。

 しかし、日本政府としても日韓条約は国家間の請求権問題を決着させただけで個人の財産・請求権そのものを消滅させるものではないと受け取れる余地のある認識を示したこともありました。1991年12月の参議院予算委員会における柳井俊二外務省条約局長の答弁がそれです。
 ここで柳井局長は、「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます」としながら、「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」と答えています。
 この答弁をどう解釈するのか。誰でも持っている一般的な「個人の請求権」は消滅していないというにすぎないのか、日韓条約で「最終かつ完全に解決した」とされている請求権も個人のレベルでは消滅していないと言っているのかが問題になります。日韓両政府の立場は前者で、韓国最高裁の立場は後者に近いということでしょう。

 しかし、問題の本質はそこにあるのでしょうか。かつて韓国が日本の植民地であり、韓国の人々が日本の支配下で苦難の生活を強いられ、アジア・太平洋戦争中に日本製鉄(現新日鐵住金)で強制連行・奴隷労働をさせられたことは事実ではありませんか。
 このような植民地支配と強制連行・奴隷労働への反省や補償が不十分なまま、日韓条約が締結されたこと自体に大きな問題があったのです。従軍慰安婦の問題を含めて、侵略戦争と植民地支配の過去に対する戦後処理が不十分であったため、今もなおこのような問題が繰り返され、日韓両国にとっての「棘」となっている点に最大の問題があるのではないでしょうか。
 歴代の自民党政権が戦争責任に誠実に対応してこなかったツケが、このような形で回ってきたというべきです。日韓条約で解決済みだと突っぱねて解決を韓国政府に委ねるような強硬な対応は、今もなお日本が過去を反省していないのではないかという疑念と憤りを強め、さらなる訴訟を誘発して混乱を拡大するだけでしょう。

 韓国政府がどう対応するかを見守るだけでなく、日本政府としても被害者の救済に向けて協力する姿勢を示すべきではないでしょうか。原因を生み出したのは日本の企業なのですから。
 いずれにしても、安倍政権は新たな難問を抱え込むことになりました。文在寅大統領の年内訪日が難しくなって日韓両国の接近にブレーキがかかるだけでなく、同様の問題を抱えている中国にも波及する可能性があります。
 非核・平和構築に向けた朝鮮半島の緊張緩和に日本が関与しにくくなり、日朝首脳会談の開催や拉致問題の解決に向けて韓国の仲介も期待できなくなるでしょう。臨時国会が始まったばかりなのに、安倍政権はかじ取りの難しい新たな外交的困難に直面することになりました。

 なお、今月も以下のような講演が予定されています。お近くの方や関係者の方に沢山おいでいただければ幸いです。

11月4日(日)10時30分 全日通霞が関ビル:憲法共同センター
11月5日(月)18時30分 札幌エルプラザ:北海道憲法共同センター
11月10日(土)15時 大和市桜丘学習センター:大和市革新懇
11月17日(土)14時 守山生涯学習センター:名古屋市守山革新懇
11月18日(日)14時 豊田産業文化センター:豊田革新懇
11月25日(日)13時30分 大江山農村環境改善センター:新潟市大江山革新懇

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