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11月11日(日) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「安倍一強」を生み出した背景と要因

 制度改革の「成功」と「失敗」

 安倍政権の異常性はますます明瞭になり、日本が取り組んで解決すべき課題とのミスマッチは拡大し、民意との乖離も増大しています。それなのに国政選挙で勝利し続け、内閣支持率は上下しながらも急落することを免れています。それは何故でしょうか。
 そこには「安倍一強」を生み出した背景と要因があるからです。制度改革の「成功」と「失敗」、支配装置としての教育とマスコミ、社会や国民意識の変容と右傾化という3つの側面から、これについて検討してみることにしましょう。
 まず、歴史的に取り組まれてきた各種の「改革」によって生じた政治的な機能について指摘する必要があります。とりわけ、「一強」体制を生み出した要因として「政治改革」「行政改革」「構造改革」が重要です。
 第一の政治改革によって小選挙区制が導入され、自民党は選挙区で4割台の得票率で7割台の議席を占め、国会内で「一強」体制を確立しました。自民党内でも派閥が力を弱めて多元的な柔構造が失われ、候補者の擁立や資金の分配などに関する権限を執行部が握り、党の中央集権化がすすみます。
 2つ目の行政改革では、2001年の省庁の再編によって内閣府が登場し、官邸機能や首相権限が強められました。2014年には内閣人事局が発足し、官僚に対する官邸の支配力が格段に強化されています。
 3つ目は構造改革です。法形成のルールを緩めて国会を通さずに「政治主導」を貫くことをめざして経済財政諮問会議や規制改革会議、ワーキンググループなどが設置されました。加計学園問題では、国家戦略特区諮問会議によって岡山理科大学の獣医学部新設が認められています。このような仕組みこそ、政治や行政の私物化、忖度が蔓延する状況を生み出す制度的な背景にほかなりません。
 これ以外にも、安倍政権が取り組んで来た「改革」は「やってる感」を国民に与え、内閣支持率の安定に寄与してきました。しかし、実際には効果を上げていません。「安倍一強」を生み出したという点では「成功」したかもしれませんが、日本が直面している問題を解決して状況を改善するという点では完全に「失敗」に終わっています。
 詳述する余裕はありませんが、非正規労働者を増大させた「雇用改革」、教育と教科書の内容に介入し管理・統制を強めて現場を荒廃させてきた「教育改革」、予算を減らして研究能力を低下させてきた「大学改革」、弁護士の数を増やして処遇を低下させた「司法改革」、社会保障サービスを切り捨てて消費税を引き上げるための口実にすぎなかった「税と社会保障の一体改革」など、惨憺たるものです。これに、前述した「農業改革」を加えれば、死屍累々たる姿が浮かび上がります。まさに「改革」失敗のオンパレードではありませんか。

 支配装置としての教育とマスメディア

 安倍内閣への支持調達においてとりわけ重要な役割を果たしているのは、教育とマスメディアです。安倍首相にとっては「(戦前の)日本を取り戻す」ための社会的な仕組みだと言っても良いでしょう。特に、若者の内閣支持率を高めるうえで大きな役割を担っています。
 戦後民主教育と日教組に対する敵視と介入は、自民党の伝統的な施策の一つでした。それをバージョンアップしたのが安倍首相です。第1次安倍内閣で教育基本法と関連3法を改定して愛国心という言葉を盛り込み、内閣府直属の教育再生会議を舞台に教育への介入を強めようとしました。
 第2次安倍内閣もこの流れを引き継ぎ、教育再生実行会議を発足させて教育への介入と管理を強めてきました。教科書検定の強化と内容への介入、道徳の教科化と愛国心教育の重視、労働強化による先生の疲弊と教師集団の分断、教職員会議の形骸化、労組攻撃による教職員組合の組織率低下など、教育内容と教育現場の荒廃が急速に進んでいます。
 その結果、正しい歴史認識を持たず、権力に従順で空気を読みすぎる過剰な同調性を身に着けた若者が生まれました。若者と高齢者との政治・社会意識の対立は世代間の格差ではなく、戦後民主教育で育った高齢者と安倍教育改革によって取り込まれた若者との違いから生じています。
 自民党による長年の日教組や全教への攻撃と安倍教育改革による介入と管理強化は、森友学園でなされていた教育勅語を暗唱させるような国粋主義的戦前教育の復活をめざしていました。だからこそ、それを目にした安倍首相夫人の昭恵氏が感激し、森友学園の小学校用地取得のために一肌脱ごうとしたのではないでしょうか。
 戦前の軍国主義教育によって多くの若者が洗脳され自ら進んで戦地に赴きました。今また、教育の変質によってある種のマインドコントロールがなされ、希望や展望をもたない若者は変革への意欲を失い、現状は変わらないものと思い込んで諦めてしまっているように見えます。
 戦前において猛威を振るった教育の恐ろしさはよく分かっていたはずです。安倍首相も教育の持つ力を十分に理解していたのでしょう。だからこそ、「(戦前の)日本を取り戻す」方策の手始めとして教育改革に取り組み、今になってその「成果」が徐々に出てきたということではないでしょうか。
 もう一つの安倍内閣への支持調達の手段は、マスメディアに対する懐柔と統制です。その結果、新聞やテレビ報道は大きく変容してしまいました。一部の報道は権力への監視や批判というジャーナリズムの役割を忘れ、安倍首相の御用新聞、御用チャンネルになっています。
 事実がきちんと報道されない、安倍首相が過度に美化されている、政権に不利になるような報道は手控えるというような忖度や配慮が日常的に行われています。大手全国紙のスタンスは「親安倍」と「反安倍」に分かれ、テレビではNHKの政権寄りの姿勢が目立つようになりました。その結果、政権にとって不利にならないような情報環境が拡大してきています。
 しかも、若者はこのような新聞やテレビさえ視聴している人が減っています。情報入手の手段はインターネットやSNSで、フェイスブックやツイッターによる場合が大半です。そして、このような手段を通じて流布されるものには、多くのフェイクニュース(虚偽情報)も含まれています。
 フェイク(虚偽)に打ち勝つ力はファクト(事実)です。情報を見極める「リテラシー(読解力)」が必要であり、そのような力は教育によって培われます。現場での教員の奮闘が求められますが、それを包み込むような父母による運動や安倍「教育改革」を阻止する政策転換を急がなければなりません。

 社会や国民意識の変容と右傾化

 社会や国民意識の変容と右傾化も内閣支持を安定させている背景の一つです。いわば、社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」が、安倍首相を支えているということになります。このことを、最近話題になっている『新潮45』の休刊問題を例に考えてみることにしましょう。
 『新潮45』は8月号に杉田水脈衆院議員の「『LGBT』支援の度が過ぎる」という論文を掲載し、批判が殺到すると10月号で特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を組み、さらに大きな批判を招いて休刊に追い込まれました。その背景には出版不況があり、「炎上」も辞さない覚悟で「右寄り」の紙面づくりを行ったと言います。つまり、「右寄り」にすれば売れるという判断があったことになります。
 「LGBTは生産性がない」という差別論文や「偏見と認識不足に満ちた」(佐藤隆信新潮社社長)反論特集であっても、読者を増やすことができると考えたわけです。実際、中高年向けの雑誌は「右寄り」のものが売れているようです。「安倍晋三圧勝の秘密」「中国を叩き潰せ」などという記事を載せている『WiLL』11月号や「安倍総理 新たなるたたかいへ」「朝日新聞は国民の敵だ」などの記事がある『月刊HANADA』は、全国紙に大きな広告を出し書店で平積みされています。
 この両誌に登場しているケント・ギルバート弁護士は『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』という本を講談社という大手出版社から出して47万部も売れました。昨年の新書・ノンフィクション部門で最多の発行部数となり、2月には続編も出ています。中韓の人について「『禽獣以下』の社会道徳」などと差別的な記述のある本が売れているということは、それを歓迎する読者がいるということです。
 これらは一例にすぎませんが、ここに日本社会の醜い一面が示されています。安倍首相を持ち上げ、気に入らない対象を侮蔑し卑下することによって留飲を下げようとする人々が確実に存在するという事実です。これらの人々が、強固な支持者となって安倍政権を支えていることは明らかです。
 しかも、これらの右翼的な意識を持つ人々と安倍首相は同じ側に立ち、ある面では繋がっています。「安倍さんがやっぱりね、『杉田さんは素晴らしい!』って言うので、萩生田(光一・自民党副幹事長)さんが一生懸命になってお誘いして、もうちゃんと話をして、(杉田氏は)『自民党、このしっかりした政党から出たい』と」と、櫻井よしこ氏が語っているように、杉田氏を自民党の候補者として衆院中国ブロック名簿の上位に押し込んだ経緯に安倍首相が深くかかわっていました。だから、安倍首相は杉田氏を批判できないのです。
 反論特集に登場し杉田論文を擁護して大きな批判を浴びた自称文芸評論家の小川榮太郎氏も安倍首相と深いかかわりがあります。小川氏は安倍首相のブレーンである長谷川三千子埼玉大学名誉教授の弟子にあたり、2012年に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という本でデビューした人です。
 この本は最初から安倍氏を再び総理大臣にしようという運動のなかで出版されたもので、2012年の自民党総裁選の直前、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の事務局的な役割をしていた小川氏が評論家の三宅久之氏の指導で執筆し、安倍応援団の見城徹社長の幻冬舎から出されました。それがベストセラーになって売り切れになったりしたために話題になりましたが、それは安倍氏の資金管理団体「晋和会」が700万円以上も出して4000部も購入したからです。


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