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11月16日(金) 北方領土をめぐる日ロ交渉について安倍政権がついた3つの嘘 [国際]

 一昨日の14日、シンガポールで安倍首相とロシアのプーチン大統領による首脳会談が行われました。そこで両首脳は1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意しました。
 この56年宣言は平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すと明記しています。従来、日本政府は国後と択捉の2島も含めた四島の一括返還を求めていましたが、安倍首相はこれを変更し、2島先行返還論に転換したように見えます。
 この方針転換と日露両首脳の合意は北方領土問題を前に進めたのでしょうか。それとも後退させてしまったのでしょうか。

 第1に、安倍首相の提案がこれまでの日本政府の方針を大きく転換したものであることは明らかです。15日に記者会見した菅官房長官は「実際の返還時期、態様、条件に付いて柔軟に対応する方針を堅持してきた」と述べ、国後と択捉が「後回し」になったとしても、従来の方針とは変わっていないと説明していますが、これは嘘です。
 今回の合意で安倍首相は「4島の帰属」については言及せず、北方4島の名前を列記し、その帰属問題を解決して平和条約を結ぶことを約束した93年の「東京宣言」も、4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを確認した2001年の「イルクーツク声明」も無視されてしまいました。「1956年の共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意した」ということですから、93年や01年の合意から56年の合意へと後退してしまったことになります。
 元外務次官の竹内行夫氏は、『朝日新聞』11月16日付の談話で「今回の合意は、日本の外交努力や成果を後戻りさせるものだ」と指摘している通りです。安倍首相が行ったのは「新たな提案」ではなく「古い提案」であり、領土問題についての合意を大きく後退させてしまったのです。

 第2に、これは「2島先行返還」論であり、しかもそれは「2島+α」だと説明されています。これも嘘で、「2島先行」に引き続いてさらに残された2島が返還されることはあり得ません。
 実際には「2島限定」の返還であり、場合によっては「2島上限」の返還ということになるでしょう。前掲の『朝日新聞』に「2島先行ではない。『2島ぽっきり』だ。首相もちゃんとわかっている」という「日ロ関係筋」の見方が紹介されている通り、残りの2島が返ってくる可能性は、今回の合意によってほぼ潰えたと言って良いのではないでしょうか。
 また、プーチン大統領は「56年宣言はすべてが明確なわけではない。2島を引き渡すが、どちらの主権になるのかは触れていない」と強調しています。「主権」抜きの「引き渡し」もあり得るということであり、そうなれば「2島+α」ではなく「2島-α」ということになります。

 第3に、安倍首相は歯舞と色丹の2島が日本に引き渡された後にも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたそうです。これも嘘になるでしょう。
 外務省は日米安保条約や地位協定について、「米軍はどこにでも基地を置くことを求められるが、日本が同意するかどうかは別だ」(幹部)と解釈しているそうですが(前掲『朝日新聞』)、その解釈に基づいて断ることができるのでしょうか。もし、そうできるのであれば、沖縄の辺野古での米軍新基地建設も断ることができたはずではありませんか。
 沖縄ではできないのに北方領土ではできる、というダブルスタンダードでごまかそうとしているのが安倍政権です。沖縄県民がこぞって反対している辺野古での新基地建設すら断れない日本政府が、米軍基地を島に置くことはないという約束を守れるはずがありません。

 このような問題があるにもかかわらず、すぐに分かるような嘘までついて、安倍首相はなぜ今回のような提案を行ったのでしょうか。それは残された任期中に大きな業績を残したいと焦っているためだと思われます。
 北方領土返還と拉致問題の解決は、改憲とともに、歴史に名を残す格好のテーマです。あと3年の任期内に、これらの問題の一つでも決着させて大きな業績を残したいと焦っているのではないでしょうか。
 領土問題では、来年1月の訪ロと6月のG20サミットでの日ロ首相会談を通じて成果らしきものをあげ、国民に幻想を与えたうえで衆参同日選挙に打って出るということを考えているのかもしれません。

 この安倍首相の焦りと目論見にプーチン大統領が付け込んだのが、今回の合意だったのではないでしょうか。そのことを国民に知られないようにするために大きな嘘をついているということなるでしょう。
 「思い出づくり」ならぬ「業績づくり」のために、憲法や領土、拉致問題などが利用されるようなことを許してはなりません。安倍首相の個人的な野望の犠牲となって苦しむのは国民であり、当事者たちなのですから。

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