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7月10日(水) 決戦・参院選―安倍改憲に終止符を(その2) [論攷]

〔下記の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.43、2019年7月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます〕

2、参院選をめぐる情勢と対決点

 風向きが変わった

 5月26日、安倍首相は来日したトランプ米大統領をもてなし、ゴルフ、大相撲観戦、炉端焼きの会食と「TOKYOの休日」を満喫しました。ゴルフ場で撮られたと思われる、満面の笑みを浮かべたツーショットの写真もネットに公開されています。このときが、安倍首相にとって得意の絶頂期だったと思われます。
 令和という新しい元号による「改元フィーバー」、天皇の代替わりを利用した「奉祝ムード」の盛り上げ、初の国賓としてトランプ米大統領を招いての接待攻勢などを利用し、6月末のG20首脳会議で外交成果を上げて参院選になだれ込むというのが、安倍首相の作戦だったと思われます。それは、この時まで順調に推移していました。
 だからこそ安倍首相は5月30日、経団連の定時総会で「風という言葉に今、永田町も大変敏感だ」「風は気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではない」と発言したのです。夏の参院選とのダブルとなる衆院の「解散風」にかこつけて軽口をたたき、野党を牽制する余裕があったということでしょう。
 しかし、すでにこのとき「気まぐれな風」は「追い風」から「向かい風」へと変わり始めていました。逆風に転じつつあった風向きの変化に、安倍首相は気がついていたでしょうか。
 5月27日の日米首脳会談終了後の共同記者会見で、トランプ大統領は「8月には両国にとって良い発表ができるだろう」と発言し、日米貿易交渉をめぐって「密約」が交わされたことをほのめかしました。日本の選挙が終わるまで待つから、その代わりに言うことを聞いてもらえそうだと。
 この時、安倍首相にイランとの仲介役を依頼したとも言われています。その口車に乗って安倍首相はイランに出かけ、思いもかけぬタンカー攻撃を受けてアメリカとイランの板挟みという窮地に陥りました。トランプ大統領のような、信ずるに値しない人物を信用してしまった安倍首相の「身から出た錆」というべきでしょうか。

 強まり続ける逆風

 『毎日新聞』6月13日付の記事の見出しに目が留まりました。「逆風三重苦」と書いてあったからです。「逆風」が吹き始めていることが初めて指摘された記事でした。そのリードは次のようになっています。
 「夏の参院選を控え、にわかに巻き起こった三つの『逆風』に政府・与党が警戒感を強めている。夫婦の老後資金として公的年金以外に『30年間で2000万円が必要』とした金融庁の審議会の試算への批判と並行して、秋田市での設置を目指す陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』を巡る防衛省の不手際や、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の不透明さが次々に発覚し、『三重苦』の様相だ。」
 なかでも、強烈な突風として吹き付けたのは年金問題の急浮上でした。金融庁審議会の報告書はそれまで政府や自民党、閣僚などが言ってきたことと変わりませんが、選挙前というタイミングで「不都合な真実」が突きつけられたことに慌てたのでしょう。麻生副総理兼金融担当大臣は報告書の受け取りを拒否し、森山自民党国対委員長も「なくなっているわけですから。予算委員会にはなじまないと思います」と居直りました。
 安倍政権が年金問題についてこれほど過敏になっているのは、大きなトラウマが残っているからです。第1次安倍政権のときの12年前の参院選で「消えた年金」が大問題になり、37議席と第一党の座を民主党に奪われる歴史的惨敗を喫し、その後の退陣につながりました。亥年には自民党苦戦のジンクスがあり、「鬼門」とされている年金問題が持ち上がったために安倍首相が慌てたのです。
 加えて、イージス・アショア配備をめぐる防衛省の不手際、加計学園問題と同様の国家戦略特区WGの不透明さなどが明らかになりました。そのうえ、日米貿易交渉についての「密約」が暴露され、農産品で打撃を受ける農村票が離反する恐れがあります。
 3年前の参院選ではTPPへの怒りが巻き起こり、東北や甲信越の1人区で自民党が敗北しました。農村部には選挙に行く高齢者が多く、今回は「年金問題」も影響すると見られています。消費税の再増税もあり、自民党が強いはずの西日本の1人区にも逆風が吹くのではないでしょうか。

 鮮明になった対立軸

 5月29日、市民連合の要望を受け、立憲・国民・共産・社民・「社会保障を立て直す国民会議」の5野党・会派が「共通政策」に合意し、署名しました。6月13日には、この5党・会派の幹事長・書記局長会談が開かれ、32の1人区すべてで一本化が完了したことが確認されました。これで参院選に向けて、本格的なスタートが切られたことになります。
 このような市民連合と立憲野党との政策合意の出発点は、2016年の「5党合意」でした。これは7月の参院選に向けて結ばれたものです。この時の合意は4項目で、政策的には「安保法制の廃止」だけが掲げられていました。
 その翌年の2017年9月26日、総選挙を前にして市民連合は「野党の戦い方と政策に関する要望」を提出しました。それは、①9条改憲反対、②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回、③原発再稼働を認めない、④森友・加計学園、南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明、⑤保育、教育、雇用に関する政策の拡充、⑥働くルール実現、生活を底上げする経済、社会保障政策の確立、⑦LGBT(性的マイノリティー)への差別解消、女性への雇用差別や賃金格差の撤廃という7項目です。
 今回の「共通政策」は13項目となり、政策合意の幅はさらに拡大しました。新たに加わったのは、①防衛予算、防衛装備の精査、②沖縄県新基地建設中止、③東アジアにおける平和の創出と非核化の推進、拉致問題解決などに向けた対話再開、④情報の操作、捏造の究明、⑤消費税率引き上げ中止、⑥国民の知る権利確保、報道の自由の徹底の6項目です。
 項目が約2倍になっただけではありません。内容的にも、改憲発議阻止や日米地位協定の改定、原発ゼロの実現、税制の公平化、最低賃金「1500円」、公営住宅の拡充、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリティ)の実現、内閣人事局のあり方の再検討、新たな放送法制の構築など、充実が図られています。
 作成過程も前回とは異なっています。作成に加わった共産党の笠井亮政策委員長は「市民連合から政策の原案が提起され、5野党・会派で協議して練り上げ、市民連合に提起するという1カ月間にわたるキャッチボールがあり、そのうえで最終的な調印となりました」と証言しています。
 他方、自民党は6月7日に参院選に向けての公約を発表しました。重点項目で「早期の憲法改正を目指します」「本年10月に消費税率を10%に引き上げます」と明記し、重点項目の6つの柱の第一を「外交・防衛」として「防衛力の質と量を抜本的に拡充・強化」することを掲げ、沖縄の「普天間飛行場の辺野古移設」についても「着実に進める」ことを打ち出しています。原発についても再稼働を進めることを明記しました。
 自民党の参院選公約と5野党・会派が合意した「共通政策」の内容は、真っ向から対立しています。参院選に向けての対立軸はより鮮明になり、野党の共通政策は安倍政治を転換した後の方向性も示しました。単なる数合わせの「野合」どころか、自公政権後の新たな野党連立政権樹立に向けての政策的な基盤をつくり出すものだったのです。


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