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11月3日(日) 参議院選挙後の情勢と課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、改憲をめぐる情勢と今後の課題

 とりあえずのブレーキがかかった

 参院選の結果、自民・公明・維新などの改憲勢力は3分の2の議席を割りました。新たに当選したN国党を加えても、参院での改憲発議は不可能です。毎日新聞の調査では、当選者の41%が9条改憲に反対しています。安倍9条改憲の野望に、とりあえずブレーキがかかりました。
 これは9条改憲の阻止をめざしてきた人びとにとって3度目の勝利です。
 1度目の勝利は草の根での改憲世論を変え、9条改憲に反対する世論を多数派にしてきたことです。3000万人署名などで国民1人1人に働きかけてきた努力のたまものでした。
 2度目の勝利は、昨年の通常国会や臨時国会での改憲発議を阻止してきたことです。通常国会では森友・加計学園問題などで安倍政権が追い込まれ、改憲どころではなくなりました。臨時国会で態勢を立て直し憲法審査会での審議再開を狙ったものの、下村博文自民党改憲本部長の「職場放棄」発言に野党が反発し、憲法審査会はほとんど開かれずに終わりました。
 こうして、今回の参院選で改憲勢力が3分の2を割るという3度目の勝利が達成されたわけですが、それはある程度予想されていました。だからこそ、安倍首相は憲法について議論する政党を選んでもらいたいと選挙で訴え、改憲そのものではなく議論へと争点をすり替えてハードルを下げたのです。
 選挙が終わってからも、このような後退と譲歩は続きました。安倍首相は自民党が提案している改憲4項目にはこだわらないと言い出したからです。とにかく憲法審査会を再開して議論を始め、どこを変えたらよいのか野党からも提案して欲しいというわけです。
 不都合があるからそこを変えるというのではなく、どこでも良いから変えさせてほしいというのでは、改憲の自己目的化ではありませんか。初めて改憲に成功した総理として歴史に名を残したいという野心を満足させるためだけの改憲にほかなりません。
 また、改憲施行の期限も先延ばししています。参院選の投開票日に記者会見した安倍首相は、「私の任期中に」実行したいと発言しました。さりげなく、2020年から2021年へと1年間延長したことになります。
 今後は野党を分断しつつ、国民民主党などを改憲勢力に引き込もうとするにちがいありません。国民投票でのCM規制についての独自案を出している立憲民主党に対しても、それを丸呑みしてでも改憲議論に参加させようとするかもしれません。立憲野党が団結して、安倍首相の狙う改憲発議にどこまで抵抗できるかが試されています。
 改憲発議の期限は再来年の通常国会までとなっており、残された時間は多くありません。困難さを増した改憲野望の実現に向けて、安倍首相はハードルを下げつつ依然として執念をたぎらせています。その顕著な現れは改造内閣の顔ぶれでした。

 「改憲シフト内閣」の登場

 第四次安倍再改造内閣は10月11日に実施されました。安倍首相は改造後の記者会見で、改憲について「困難な挑戦だが、必ずや成し遂げる決意だ」と語りました。「令和の時代にふさわしい憲法改正原案の策定に向け、衆参両院で第一党の自民党が憲法審査会で強いリーダーシップを発揮すべきだ」と強調し、「与野党の枠を超えて活発な議論をしてもらいたい」と、再び各党に改憲案の提起を促しています。
 国民投票法の改正案については「憲法審査会の場でしっかりと議論していただきたい」と改憲論議との並行審議を求めました。参院選結果に関して「憲法議論は行うべきだというのが国民の声だ」と重ねて訴えていますが、議論を呼びかけた選挙で議席を減らして3分の2を割り込んだわけですから、国民は改憲を望んでいるわけではありません。
 今後優先すべき課題についての調査では、朝日新聞では社会保障が38%で、憲法改正は3%にすぎません。安倍首相に近いとされる読売新聞の調査でも、社会保障は41%で、憲法改正は最低の3%となっています。年金問題や子育て支援、高齢化による介護や医療サービスの充実などを最優先に取り組んでほしいというのは当然の要求でしょう。
 それと真っ向から反しているのが、新閣僚の顔ぶれです。戦前回帰を目指す右派組織である「日本会議」を支援する国会議員懇談会の幹部がずらりと勢ぞろいしました。高市早苗副会長が総務相、橋本聖子副会長が五輪相、衛藤晟一幹事長が1億総活躍相、加藤勝信副幹事長が厚労相、江藤拓副幹事長が農林水産相、西村康稔副幹事長が経済再生相、萩生田光一政策審議副会長が文科相になっています。
 改造に当たって、安倍首相は「安定と挑戦」をキャッチフレーズにしました。その意味は、側近や盟友をかき集めて政権の「安定」を図り、改憲に向けて世論に「挑戦」するということのようです。「お友達内閣」との批判や反発をものともせず、これほどあからさまな人事を行ったのは改憲に向けて並々ならぬ決意を示すためだったと思われます。
 自民党の役員人事でも、政権の安定を重視して二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長を続投させました。安倍首相はその条件として改憲への協力を求め、2人は今までになく改憲への意欲を示しています。
 同時に、自民党改憲本部長に安保法制を取りまとめた細田博之元自民党幹事長、衆院憲法審査会長に野党人脈が豊富な佐藤勉元国会対策委員長を起用しました。野党への懐柔を意識した布陣です。安倍首相は硬軟両様の挙党態勢で、改憲発議をめざすつもりのようです。
 しかし、改憲勢力とされている公明党は、一貫して慎重姿勢を崩していません。山口代表は安倍首相の改憲への前のめりの姿勢について「少し強引」だと牽制し、公明党の当選者の77%は9条改憲に反対だとの調査もあります。
 参院選後、一時的に改憲論議に加わるそぶりを示した国民民主党の玉木代表は、内外からの批判に直面して釈明し、その後、立憲民主党との統一会派結成へと舵を切りました。立憲民主党の枝野代表は安倍首相の下での改憲論議を拒否しています。
 安倍首相に時間はあまり残されていません。焦りを募らせて強引に憲法論議を進めようとすれば、かえって反発を強めてしまうリスクがあります。さし当りは融和路線で野党を引き込もうとするでしょうが、それには時間がかかります。最強布陣で「改憲シフト」を組んだ安倍首相ですが、このようなジレンマをどのように打開するつもりなのでしょうか。

 待ち構える難局と山積する難問

 安倍改造内閣の前途には難局が待ち構えています。アベノミクスによって幻想を与えている間に年金問題は深刻化し、貧困化と格差の固定化が進み、少子化による人口の減少と高齢化、原発事故による汚染水問題など多くの難問が積み重なりました。
 自民党の人事で幹事長と政調会長を留任させ、内閣でも麻生太郎副総理と菅義偉官房長官という政権の中軸を維持しつつ盟友や側近など身内で固めたのは、このような「荒海」での困難な航海が予想されたからです。
 まず、外交・安全保障政策ですが、かつてない八方ふさがりになりました。最大の問題は日韓関係です。元徴用工問題を契機に対立がエスカレートし、日本政府は報復として対韓経済制裁を打ち出し、対抗して韓国政府が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を決めるなど泥沼化しています。
 安倍政権は河野外相を防衛相に横滑りさせるなど、韓国への対決姿勢を維持しています。姿勢を変えないのであれば、別の姿勢を示す政権に取り換えるしかありません。日韓関係の打開のためにも、安倍政権の打倒は急務です。
 アメリカとの関係も不確実性が増しています。もともとトランプ米大統領は場当たり的で全体的な整合性に欠け、一貫した戦略を持っていません。親しいとされる安倍首相にとっても、いつ裏切られるか分からないリスクに満ちています。
 日米貿易交渉は日本が一方的に譲歩して協定に調印してしまいました。トランプ大統領は在日米軍の駐留経費負担について大幅増を日本に要求し、ホルムズ海峡などでの米国主導の「有志連合」への参加も求められ、日本はイランとの伝統的な友好関係維持と米国からの要請との板挟みになっています。
 日露関係では27回も会談を重ねてプーチン大統領との個人的関係を強めてきたにもかかわらず、平和条約交渉は停滞し北方領土問題は頓挫しました。安倍首相はプーチン大統領に手玉に取られ、経済開発による現状固定化を強めるために利用されただけではないでしょうか。
 日朝関係も進展の見通しは全くありません。拉致問題は打開の糸口すら見えていないのが現状です。多少、改善の兆しが見えるのは日中関係ですが、他方で中国を仮想敵にしたインド・太平洋構想を掲げて宮古島や石垣島などの南西諸島の要塞化を進めるというチグハグぶりです。
 米中貿易戦争は先が見えず、イギリスのEU離脱問題もどうなるか不明です。日本にも影響が及ぶことは必至で、安倍政権の前途に暗い影を落としています。
 経済や景気の面でも暗雲が漂っています。最大の問題は10月1日に消費増税が導入され、国内景気の腰折れが懸念されていることです。世界経済をめぐる波乱要因も多く、かじ取りは容易ではありません。
 日韓関係の悪化は経済面でも大打撃となっています。日本製品の不買運動で輸出は急減し、韓国への8月の食料品輸出額は前年同月より4割も減りました。8月の韓国からの旅行者数は前年同月比48・0%減と半減し、九州や北海道などの観光産業は深刻な影響を受けています。
 改造内閣は社会保障改革や働き方改革を重要課題に掲げており、臨時国会での大きなテーマになります。団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度から社会保障費が急増すると見込まれ、「全世代型社会保障検討会議」を立ち上げて年末までに中間報告、来夏までに最終報告を出そうとしており、与野党対決の焦点の一つになるでしょう。
 政府は、年金と介護保険について来年の通常国会に改革法案を提出し、医療の改革案は来夏にまとめる予定です。これまで先送りしてきた負担増や給付削減など「痛み」を伴う改革に踏み込む可能性があり、臨時国会で年金財政検証の結果や老後不安をめぐる野党との論戦が始まります。

 むすび―解散・総選挙に向けて

 現在の衆院議員の任期は再来年の2021年10月までで、それ以前に解散・総選挙となることは確実です。臨時国会は10月4日から始まり、11月17日には天皇代替わりに伴う大嘗祭の式典があります。また、11月末には安倍首相の在任期間が史上最長となります。これらの事情からすれば、11月末までの解散はあまり考えられません。
 逆に言えば、これ以降であればいつ解散してもおかしくないということになります。最も早いケースは、臨時国会の最終盤である12月の解散・総選挙でしょう。そうするかどうかを占うカギの一つは景気で、もう一つは内閣支持率です。消費税導入後の景気悪化がすすみ、それに伴って内閣支持率が下がれば、解散は難しくなります。
 次のケースは五輪後の秋から冬にかけてということになるでしょう。これも、東京五輪・パラリンピックが成功するか、その時の経済状態がどうなっているかによって左右されます。いずれにしても、今年の暮れ以降、いつでも解散の可能性があると考えて備えなければなりません。
 そのための基本的な課題は市民と野党との共闘促進にあります。これが「勝利の方程式」であることはすでに実証されました。衆院選の各小選挙区での野党共闘を実現し、統一候補擁立の準備を進めることです。
 今回の参院選で新党のれいわ新選組が登場し、新たなシナリオの可能性が生まれました。参考になるのが1992年に結成された日本新党の例です。5月に細川護熙氏によって立ち上げられた日本新党は7月の参院選でブームを起こし、4議席を獲得しました。翌93年7月の総選挙では35人当選と大躍進して野党の8政党・党派が連立する非自民政権を樹立することに成功しています。
 今回も参院選直前に結党されたれいわがブームを起こし、次の衆院選では100人擁立しようとしています。これが「台風の目」となって安倍政権を打倒するというのが、最も望ましいシナリオです。しかも、今回は共産党との間で連立政権樹立と13項目の政策合意、野党間での候補者調整について合意されました。野党共闘の枠組みもできており、93年の政権交代の時より事前の準備は進んでいます。
 これが安倍政権を倒して日本を救うことのできる最も望ましい「希望のシナリオ」なのです。それを実現することが、これからの最大の課題となります。それを達成することこそ、市民と野党の共闘という「勝利の方程式」によって導き出される「正しい解」にほかなりません。

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