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12月18日(水) 軍事大国化の流れを変える起点に―憲法、政治情勢、軍事費(その2) [論攷]

〔本稿は、全国労働組合総連合と労働者教育協会の合同編集による『学習の友 2020春闘別冊』に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 政治情勢―疾風怒涛の荒海を乗り切れるのか

 発足したばかりの新内閣を襲ったのは、これまでにない大きな台風でした。台風15号では大規模で長期にわたる停電など千葉県南部を中心に大きな被害が生じました。内閣改造の最中で、初動に遅れが出たために被害が拡大したという問題もあります。
 台風19号による被害はこれを上回り、関東から東北にかけて堤防の決壊は7県で70カ所以上も発生し、死者・行方不明者は90人を超えました。これに対して自民党の二階幹事長は「まずまずで収まった」と発言して批判され、撤回しています。その後も台風21号の影響で猛烈な大雨が襲い大きな被害が出ました。新内閣は、まさに嵐の中で船出したことになります。
 内閣が真っ先に取り組むべき最優先の課題は、この台風や大雨による激甚災害への対応であり、被災地の復旧・復興に全力を尽くすことです。長期的には、温室効果ガスの削減など環境問題に本腰を入れて取り組まなければなりません。
 年金を含む社会保障の将来像についての検討も大きな課題です。安倍首相は「全世代型社会保障改革検討会議」を設け、「若年層に手厚く」という口実で高齢者の福祉サービスの削減・負担増を押し付けようとしています。
 10月から消費税が増税されました。国民生活や消費への打撃は大きく、不公平感も拡大し、複雑な税制による混乱や消費不況への懸念が強まっています。消費税を5%に引き下げ、企業減税を止めて払えるところから税を取る応能原則に基づく税制を導入しなければなりません。
 外交も手詰まり感が強く、漂流を始めています。パリ協定やイラン核合意などから一方的に離脱し、中国に貿易戦争を仕掛けて国際協調に背を向ける米国のトランプ政権に対し、安倍首相は手をこまねいているだけです。日米貿易交渉や武器購入でも米国に押しきられてきました。北方領土をめぐるロシアとの交渉は進展が見えず、前提条件なしでの実現を目指すとしている日朝首脳会談も展望が開けないままで、戦後最悪となっている韓国との対立は徴用工の問題から通商、安全保障分野にまで拡大し、九州などの観光業に大打撃を与えています。
 臨時国会冒頭で追及された関西電力役員による金品受領の闇と原発マネーの還流疑惑、「あいちトリエンナーレ」の企画「表現の不自由展・その後」に対する文化庁と名古屋市の補助金不交付、NHKによるかんぽ報道に対する日本郵政からの圧力と経営委員会の屈服などの問題も真相が解明されなければなりません。いずれも原発やエネルギー政策、表現の自由や報道の自由などにかかわる重大問題です。
 安倍改造内閣の発足を受けて共同通信社が実施した緊急電話世論調査によれば、優先して取り組むべき課題(二つまで回答)として挙げられたのはトップが「年金・医療・介護」(47・0%)で、「景気や雇用など経済政策」(35・0%)がこれに続き、「憲法改正」(5・9%)は8番目にすぎません。参院選後に読売新聞が行った調査でも、「今後、安倍内閣に、優先的に取り組んでほしい政策」(6択)という質問で、「年金など社会保障」41%がトップで「景気や雇用」16%が続き、「憲法改正」はわずか3%と6番目で最低の数字になっていました。
 これが国民の率直な意見なのです。「今そこにある危機」は社会保障や景気に関わるもので、優先すべきは改憲などではありません。日本は外国から攻められる前に内部から崩壊してしまうのではないかと国民は危機感を高めているのです。このような難問の解決に正面から取り組むことを避け、危機を煽って改憲問題に逃げ込もうとしているのが安倍首相にほかなりません。

 軍事費―「富国」を投げ捨てた「強兵」への道

 人口減と生活苦によって、日本は量的縮小と質的瓦解の危機に直面しています。この危機を打開するためには、国民の収入増を図って生活を守り、景気を回復させなければなりません。しかし、安倍政権は全く逆の道を歩んできました。その象徴的な例は収入の停滞と防衛費(軍事費)の増大です
 安倍政権になってから軍事費は減少から増大に転じ、2015年に過去最高額を突破した後、それを更新し続けています。今後も、戦闘機F35の爆買いや陸上型イージスの設置、ヘリ空母「いずも」の改修、敵地攻撃も可能な巡行ミサイルの購入計画など、軍事費の増大に歯止めがかかる兆しはありません。
 安倍首相による経済政策「アベノミクス」が打ちだされた当初、それは「富国強兵」の現代版だと見られていました。軍事大国化(強兵)のための不況脱出による経済成長(富国)ではないのかというのです。しかし、それから7年近く経って明らかになったのは、経済成長なしの軍事大国化という現実でした。
 結局、アベノミクスはデフレ脱却に成功せず、景気を回復させることもありませんでした。今も実質賃金は8ヵ月連続でマイナス、9月の日銀の短観は3期連続の悪化で景気動向調査も下落となっています。
 「経済の安倍」は虚構でした。安倍首相が実施してきたのは軍事力の増強によって経済成長や国民生活を犠牲にする軍事大国化一本やりの路線にすぎず、「富国強兵」ですらなかったのです。
 日本の一人当たり名目GDPの推移を見ても、第2次安倍政権の発足以降、減少傾向にあることは明らかです。円高の影響があったとはいえ、民主党政権時代の方が増大していました。現在では、一人当たりGDPは世界で27番目になっています。
 軍事大国化は、システム、ハード、ソフトという3つの面で進行しています。第1のシステムは法律や制度の面での日本版NSC(国家安全保障会議)の新設、特定秘密保護法や戦争法などの制定によって、第2のハードは自衛隊基地や在日米軍基地の強化、「宇宙作戦隊(仮称)」などの部隊の新設、兵器など装備の充実によって、第3のソフトは愛国心や道徳教育の強化などの教育改革やマスコミの統制などによって、それぞれ実施されてきました。このプロセスを9条改憲で総仕上げしようというのが、現在の安倍改憲論の真の狙いなのです。
 したがって、9条改憲を阻止するだけでは不十分です。軍事大国化を目指す3つの面での具体化の一つ一つに対しても抵抗し、その実現を阻まなければなりません。軍事費増を阻止するだけでなく大幅に削り、国民の生活や産業支援、防災などの民生分野に振り向けることが必要です。そのためにも周辺諸国との関係を改善し、国民の不安を和らげ、「強兵」ではなく「富国」をめざすことのできる政府を実現しなければなりません。

 むすび―安倍政権に引導を渡す決戦の日は近い

 現在の衆院議員の任期は2021年10月までです。それまでには必ず解散・総選挙が実施されます。安倍政権に引導を渡す決戦の日は近いということです。
 改造内閣発足後1ヵ月半で、菅原一秀経産相と河合克行法相という2人の重要閣僚が辞任しました。英語の民間試験について「身の丈に合わせて頑張って」と発言した萩生田文科相も発言の撤回と試験導入の「延期」に追い込まれています。安倍首相の求心力は急速に低下し、いつ解散があってもおかしくありません。
 さしあたり予想されるのは、臨時国会最終盤です。12月解散の可能性がありますが、もし、この時に解散がなければ、来年の通常国会での予算成立後の春、オリンピック・パラリンピック後の秋なども有力な候補になります。いずれにしても、20年春闘への取り組みとともに、いつ解散・総選挙があっても対応できるような準備を進めなければなりません。
 総選挙勝利のカギは市民と野党との共闘にあります。これこそが「勝利の方程式」であり、「活路は共闘にあり」です。選挙区ごとに候補者を一本化しなければなりませんが、その前提として政権を共にする意思を固め、共通する政策での合意を図り、異なる独自政策の扱いについて確認することが必要です。
 政党間協議を待つことなく、市民の側がイニシアチブをとって共闘の場に政党を巻き込んでいかなければなりません。社会的に組織された勢力としての労働組合は大きな役割を発揮することが可能です。野党共闘によって連合政権樹立の展望を切り開くことができれば、労働組合の要求実現にとっても新たな地平を切り拓くことができるにちがいありません。

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