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6月21日(日) 安倍政権のコロナ対策を検証する(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』No.803 、2020年7月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

はじめに

 新型コロナウイルスが人類にとっての新た脅威として急浮上しました。5月30日現在、世界全体で感染者数は586万7727人、死亡者数は36万2238人、回復者が246万2386人となっており、日本国内では感染者数1万6759人、死亡者数882人、回復者数1万4254人と報告されています。
 現状では、感染の最盛期が過ぎピークアウトしたと見られています。世界では中国や欧米諸国などをはじめ、日本国内でも「出口戦略」が模索され、感染防止から経済再建へと重点が移りつつあります。しかし、再流行のリスクは高く、流行の第2波・第3波が訪れる可能性も少なくありません。ワクチンが開発されるか国民の多くが抗体を獲得する「集団免疫」の状態にならない限り、新型コロナウイルスの脅威が消え去ることはないでしょう。
 このコロナ禍に対して安倍政権はどう対応してきたのでしょうか。その背景や問題点はどこにあるのかを検証したいと思います。また、これが収束した後の「ポストコロナ社会」に向けて、私たちはどのような選択に直面しているのでしょうか。

1、失敗続きの新型コロナ対策

 安倍政権のコロナ対策における最大の問題は、感染防止を最優先できず命と健康を守ることを貫けないという点にあります。習近平国家主席の訪中を控えていた中国との関係、欧米などを含むインバウンドへの配慮、五輪・パラリンピック中止や企業の経済活動への懸念など、さまざまな政治的思惑によって対策は歪み、ブレ続けてきました。
 その結果、当初の水際対策やクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」内での感染拡大の防止などで後手後手の対応に終わっています。その結果、緊急事態宣言を出さざるをえなくなり、それでも感染拡大を防げず、約1カ月も延長することになりました。当初の水際対策が成功していれば宣言は必要なかったはずで、二重の失敗だったと言えます。
 具体的な根拠の乏しい一斉休校、巨額の国費を投じたアベノマスク2枚の配布、歌手とのコラボ動画の配信など、効果が不明で失笑を買うような対策が続きました。困窮世帯に30万円を条件付きで支給するという案も反発の高まりで撤回し、国民1人当たり10万円の支給に変更されています。
 このように、安倍政権は不手際続きの対応に終始し、緊急事態宣言も自粛と休業の要請や指示という緩い規制で、諸外国のような「都市封鎖」や強制措置を伴っていません。それにもかかわらず、欧米諸国より感染のスピードは遅く、感染爆発(オーバーシュート)は発生しませんでした。
 それは安倍首相というリーダーが愚かでも、日本国民の対応が賢かったからです。国民の高い倫理性と責任感が、要請にすぎない自粛や休業への主体的で積極的な協力を生み、清潔好きで室内では靴を脱ぎ、あいさつでは基本的にハグや握手をせず、手ではなく箸を使い、普段でもマスクをするという生活習慣、BCG接種や国民皆保険という制度が感染拡大を防ぎました。
 日本国民の同調性の高さや横並びの意識も、密閉・密集・密接 という「三密」を避けるような生活様式を生み出しています。ただし、このような行動規制への同調は自主的に選択されるべきもので、それを強要したり過剰な同調を求めたりすることは避けなければなりません。「自粛警察」のような対応は社会の活力をそぎ、新たな差別と偏見を生み出すことになるからです。

2、コロナ禍が深刻化した背景

 コロナ禍が深刻化した背景には二つの側面があります。一つは世界に共通する問題であり、もう一つは日本独自の問題です。日本の場合は、この二つが重なっていますが、すでに述べたような理由で、それでもなお相対的に感染者数と死者数が少数にとどまっています。ただし、PCR検査の数が少なく、これがどこまで実態を反映しているかは疑問です。
 世界に共通する問題としては、第1に資本主義という経済システムがあります。利潤最優先での競争とグローバル化、市場の拡大、開発などによって新たな害悪が生じました。資本主義にはもともと恐慌の発生という大問題があり、貧困化と格差の増大、市場拡大のための開発、生態系と地球環境の破壊が進められてきました。その結果、未開の地が市場に組み込まれ、グローバル化によって未知の感染症がまたたくまに世界中に拡大することになったのです。
 第2に、新自由主義の悪影響も深刻な結果をもたらしました。ショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)によって惨事を防ぐのではなく資本の支配と活動のために利用しようとするからです。その結果、資本主義の害悪は増幅され、官から民へというかけ声による公共の撤退と民営化、自己責任論による福祉・医療・介護の削減、医療費の抑制策、非正規労働者の増大などが進められてきました。その結果、新型感染症への抵抗力を削ぎ、脆弱な社会を生み出してしまったのです。
 日本独自の問題としては、トップリーダーが安倍首相だという不幸があります。トランプ米大統領への追随、科学的知見と専門家の意見を軽視する反知性主義に加えて、世論工作のために多用してきたネット利用も逆効果になりました。23カ国・地域を対象にして4月にオンラインで実施された政治指導者についての国際比較調査で日本が最下位となったように、安倍首相への信頼感の欠如と説得力のなさは際立っています。
 政策決定においても秘書官などの側近主導での不透明さが目立ちました。国民の協力を得て一丸となってコロナ禍を乗り切るためには、隠さず、嘘をつかず、信頼され、近隣諸国と連携できる誠実なリーダーが不可欠です。しかし、モリ・カケ問題、桜を見る会、検察庁法改定などでの公文書の隠蔽・改竄や国会答弁で嘘をつき、韓国を敵視する安倍首相にはどれも不可能です。