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10月31日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』10月31日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「止めを刺すのは有権者 次々に競り負ければ自民党の瓦解が始まる」

 岸田は、世論の7割が望む「安倍・菅政権からの転換」を求める声には耳を塞ぎ、「モリカケ桜」はおろか、自分の地元・広島の選挙買収事件に絡む1・5億円問題すら検証せず、反省ゼロ。それで批判されると、党を挙げて「共産の力を借りて立憲が政権を取れば日米同盟は終わりを迎える」と悪質なデマを飛ばし、イチャモンでしかない野党連合批判に血道を上げるのだから始末に負えない。

 庶民に寄り添い、耳を傾けているのは与党なのか、野党なのか。一目瞭然である。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「あの『岸田ノート』は逆効果ですよ。『国民の声を聞く』と言いながら、具体的な新しい政策を打ち出すことなく、安倍菅路線を踏襲している。『国民の声は聞いたけど、無視します』と言っているようなものです。岸田首相の言う『分配』は成長が前提で、アベノミクス頼みにどんどん戻ってしまっている。一方の野党連合は、消費税を5%に戻すことで4党が一致したことが大きい。いまや、大企業への課税強化は国際的なトレンドです。米国ですら舵を切っている。与野党どちらの政策がいいのかは明確です」

 岸田は「自公の与党で過半数」を勝敗ラインに置くが、それがクリアできたとしても、問題は自民単独で過半数が取れるのかどうかだ。西銘復興相や若宮万博相ら、現職大臣どころか、甘利幹事長までが落選危機にある。

 接戦区を次々落とせば、不満がマグマのようにたまった地方組織から執行部批判や責任論が噴出するだろう。岸田の求心力は低下し、政権の足元は揺らぎ、大混乱となって自民党の瓦解が始まる。

 「与党が絶対安定多数の261議席を下回り、自民が単独過半数の233を割り込む。そうして自民党が混乱するのは、国民にとっては良いことです。新しい政治への転換の生みの苦しみだと思えばいいのです。国民の声を無視して、1強が力ずくで全てを推し進めるような政治が、これ以上続いていいわけがない。安倍菅政権で行われてきた政治や行政の歪み、立憲主義、平和主義、民主主義の破壊。これらをどうやって是正するのかが問われる選挙にならなければなりません。国民がきっちり審判を下し、『今までのやり方を転換します』と自民党に言わせないといけない」(五十嵐仁氏=前出)

 そうだ。トドメを刺すのは有権者なのである。

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10月30日(土) 市民と野党の共闘で新しい希望の政治に向けての扉を開こう [解散・総選挙]

 いよいよ明日が投票日になりました。選挙運動ができるのは今日一日です。
 日本の命運を決める総選挙です。棄権することなく、ぜひ投票所に足を運んで一票を投じていただきたいと思います。
 とは言っても、政治を変えたいと考えている方は、与党に入れてはなりません。自民党や公明党に入れて与党をアシストすれば、今まで通りの政治が続くだけですから。

 だからと言って、野党であればどの政党でも良いというわけではありません。日本維新の会のように、自民党以上に右翼的で新自由主義的な野党もありますから。
 国民民主党のように、共闘に背を向けてあいまいな態度を取り続けている政党もあります。共闘の分断に手を貸している連合に応援されているような政党にはお灸をすえなければなりません。
 市民と野党の共闘に加わっている政党に入れてこそ、新しい希望の政治に向けての扉を開くことができ政治を変えられる一票になります。市民連合を仲立ちとして政策合意を行った立憲民主党・日本共産党・社会民主党・れいわ新選組の4党です。

 小選挙区では、この4党の候補者のうち、最も当選可能性の高い候補者に票を集中するべきです。この点では、与党とそれに追随する野党、とりわけ維新の候補者を蹴落とすために戦術的投票が必要です。
 今回は候補者調整がなされて一本化されている場合が多くなっていますから、それほどむずかしい選択ではないでしょう。投票所に足を運ぶだけでなく、これらの野党共闘に加わっている候補者に投票していただきたいものです。
 今回の総選挙で野党共闘による統一候補が多く当選すれば、これからの選挙でのお手本となります。今後の各種選挙での市民と野党の共闘の発展にとって、統一候補の当選は大きな意味を持つにちがいありません。

 比例代表では日本共産党への投票をお願いしたいと思います。野党共闘の推進力で機関車の役割を果たしてきただけでなく、小選挙区での候補者一本化のために候補者を取り下げるなど自己犠牲的な対応を行ってきたからです。
 戦前から戦争に反対し続けてきた99年の歴史を持ち、筋金入りの反戦平和の党です。政党助成金を受け取らないただ一つの党で、企業・団体献金にも頼らず、最も清潔で「政治とカネ」の問題からは無縁の政党です。
 私の住む八王子では吉川ほのかさんという26歳の若い女性の候補者が立候補しています。他の選挙区や比例代表でも女性の候補者が多く、ジェンダー平等に本気で取り組んでいる政党でもあります。

 これまでの「アベスガ政治」にノーを突きつけたいと思うのであれば、最も強烈なパンチを繰り出すのが効果的です。自民党と対極に位置し、最も厳しく追及することで恐れられ警戒されているのはどの政党でしょうか。
 自公政権に対する最強の敵手を増やすことこそ、悪政にストップをかけ国民の声に耳を傾けさせる最良の方法です。そのためにどの政党を選ぶべきなのか、有権者の眼力と判断力も試されているのではないでしょうか。

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10月29日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』10月29日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「比例は現有以上? 「与党で過半数」もう勝った気の自民党」

■詐欺集団はトップの顔が替わっても同じ

 「安倍・菅政権で内閣支持率が下がっても、自民党の政党支持率は一貫して高かった。だから菅前首相から岸田首相に表紙をスゲ替えた効果がテキメンで、比例区が好調なのでしょう。しかし、それでは自民党の思うツボです。国民は本当にそれでいいのでしょうか。岸田首相は3A(安倍元首相、麻生副総裁、甘利幹事長)の傀儡で、安倍氏にまつわる疑惑の再調査もしないというし、総裁選でアピールしていた『分配』も衆院選では言わなくなった。格差を拡大して庶民を貧しくするだけのアベノミクスを継承する政権なのです。その3Aが自民の顔として応援演説で全国を飛び回り、デマまがいの野党攻撃を繰り出し、麻生氏はコメ農家の努力を踏みにじるような発言もしている。そんな自民党に投票すれば、ますます図に乗って過去の疑惑はなかったことにされ、庶民イジメの悪政が続くだけです。比例区の得票が激減すれば、さすがに自民党も国民の声を聞かざるを得なくなる。安倍長期政権の権力私物化で腐りきった政治を変えるチャンスなのに、比例で大量議席を与えて自民を増長させるのは非常にもったいないことだと思います」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 コロナ禍でも自民党政権はマトモに機能せず、自宅待機を余儀なくされるなどして多くの命が失われた。一方で中抜き事業は活発で、国民の命と健康より利権優先だった。岸田に表紙が替わったからといって、自民党の体質は変わらない。詐欺集団がトップの顔を替えれば信用できるようになるのかというレベルの話だ。

■「岸田ノート」より投票行動が確実

 「ここで自民を大勝させたら、国民は見くびられ、何をやっても許されると勘違いした権力者が永遠にのさばる無責任政治が続いてしまう。その背景には“野合”で権力を維持してきた公明党の存在もあります。コロナ禍の苦しみは飲食店だけでなく、全国の各階層に及んでいる。このまま自公政権を続けさせていいのか。自分たちの生活を考えたら、政治に無関心ではいられないはずです。比例票が激減すれば、庶民を見殺しにしてきた自民党も有権者の声に耳を傾けざるを得なくなります」(五十嵐仁氏=前出)

 国民の声を届けるには、いつも表紙しか見せない「岸田ノート」に記されるわずかな可能性に期待するより、投票行動が格段に効果的だ。選挙で得票できなくなれば、国民の声を聞かざるを得なくなる。政治とカネの問題を抱える甘利幹事長が権勢を振るうようなナメた真似もできなくなるだろう。

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10月28日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』10月28日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「選挙直前怪情報の真偽 小沢一郎と中村喜四郎は劣勢なのか」

 安倍・菅政治からの転換はそぶりだけ

 衆院選の前哨戦に位置付けられ、岸田政権初の国政選挙だった先日の参院静岡と山口の両補選は自民がマサカの1勝1敗。いずれももともとは自民の議席で、余裕の戦いだったはずが、静岡はドンデン返しで敗北。無党派層の7割が野党系候補を支持した。告示日と終盤の2度も静岡入りして異例のテコ入れを図った岸田が「選挙の顔」にならないことを裏付けた戦いだった。6月の県知事選で自民公認候補を大差で下して4選した川勝知事が野党系候補を全面支援した効果はもちろん無視できないものの、反自民の受け皿が整えば、有権者は動くことが証明されたが、総選挙は最後までわからない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「この9年で目の当たりにさせられた民主主義の破壊、政治とカネの問題、政治行政の私物化。4年ぶりの総選挙で自公政権への審判をキッチリと下さなければなりません。長期的には安倍元首相独特の政治の歪み、強権的支配、国家私物化をどう評価するのか。岸田政権でもゾンビのごとく蘇ったアベノミクスは国民生活を豊かにしたのか。もちろん答えは否で、厳しく点検しなければなりません。中期的には、楽観バイアスにとりつかれた菅政権のコロナ失策。東京五輪を強行したことで過去に経験したことのない感染拡大の第5波を招き、医療提供体制を崩壊させ、入院できずに自宅で亡くなる患者が相次ぎました。短期的には岸田政権のありようです。国民の7割近くが決別を望む安倍・菅政治から転換するそぶりを見せながら、実態は3A(安倍、麻生前財務相、甘利幹事長)の跳梁跋扈を許している」

 モリカケ桜疑惑、参院広島選挙区買収事件と党本部が提供した1・5億円の使途、総務省接待汚職、日本学術会議の任命拒否問題、度重なるコロナ失策。甘利の口利きワイロ疑惑も解明されていない。政権に近いオトモダチと国家を私物化し、物言う科学者をパージし、国民の命も健康も暮らしも危うくする。とてもお天道様の下を歩けないようなヤカラがのさばり、あるいはたやすく復権し、全国を飛び回っている。下野して蟄居が当然の自公政権の9年間なのを忘れてはいけない。

 「自民党は4月の衆参3選挙で全敗。与野党対決となった山形、千葉、静岡の各知事選でも敗北。7月の都議選でも歴史的な負け方をし、菅前首相のお膝元で実施された8月の横浜市長選で惨敗した。そして先週末の参院静岡補選です。自民党の退潮は明らかです。ここで自公政権を甘やかせば、失政はさらに拡大増幅しかねない」(五十嵐仁氏=前出)

 国民は常にないがしろの自公政権の継続を許すのか。国民の暮らしに目を向けるマトモな政治を取り戻すのか。この総選挙は紛れもない天下分け目の戦いだ。

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10月26日(火) 市民と野党の共闘こそが「勝利の方程式」(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、五十嵐仁・小林節・高田健・竹信美恵子・前川喜平・孫崎享・西郷南海子『市民と野党の共闘で政権交代を』あけび書房、2021年、に収録された拙稿です。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 市民と野党の共闘―その源流と発展

 「戦争法」(平和安全法制)の反対運動が盛り上がったとき、上智大学の中野晃一教授が「敷き布団と掛け布団」の例を出して両方の大切さを指摘していました。労働組合やさまざまな各種社会運動団体など以前から活動しているのは「敷布団」。一方、新しく加わってきた個々の市民、SEALDs (自由と民主主義のための学生緊急行動)などの青年・学生や「ママの会」などの女性、学者の会や弁護士などは「掛け布団」だというのです。「敷布団」と「掛布団」が合わさってこそ、大きな力になると中野さんは言っていました。そのとおりだと、私も思います。
 「敷布団」ということで言えば、労働組合の注目すべき動きがありました。リーマン・ショック後、日比谷公園での「年越し派遣村」の経験です。派遣切りをされ職と住を失った労働者を支援するために、連合系の労働組合と全労連や全労協が一緒になって食糧支援などに取り組みました。これは今日に至る野党共闘の一つの源流だといえます。
 高田健さんが中心になっている「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に、連合の旧総評系労働組合が結集する団体の元締めである福山真劫さん(前「平和フォーラム」代表)や前全労連議長の小田川義和さんなどが参加しています。つまり、総がかり行動実行委員会の中で労働組合がしっかり連携する枠組みができあがっている。それが土台となって、そのうえに個々の市民や様々な市民団体、全国革新懇(平和・民主・革新の日本をめざす全国の会)や九条の会などが結集する形になっているわけです。このような重層的構造が、今日の市民運動の活動や共闘を支えていることを忘れてはなりません。

 「統一戦線」とは、政治的理念や政策が様々である政治・社会運動団体が、共通する目標や目的のもとに「行動を統一」するということです。1930年代、コミンテルン(Communist International)の下で出された統一戦線政策は、ファシズムに対して民主主義と自由を守ろう、戦争をめざすような勢力に対して平和を守ろうという目標で一致する人たちが行動を統一して始まりました。
 これは「反ファシズム人民選」へと発展し、フランスやスペインなどで成功する。社会党や共産党が統一戦線を組んで反ファシズムの人民連合政府を作りました。中国でいえば国民党と共産党との「国共合作」です。
 思い返せば、私が提出した法政大学大学院での修士論文は「コミンテルン初期における統一戦線政策の形成―特にドイツ共産党との関係を中心に」というもので、法政大学社会学部『社会労働研究』という学術誌の1978年2月号に掲載されました。私にとっては初めて活字になった論文で、研究者生活の出発点が統一戦線の研究だったのです。
 その後、「平和安全法制」(戦争法)反対運動が高揚した2015年5月の講演で、私は皆さんに中国の辛亥革命のときの「国共合作」と同じように、「民共合作」を目指すべきだと訴えました。「民」は民主党(その後、民進党)で「共」は共産党です。民主党と共産党の両党が手を結んで共闘する「民共合作」が戦争法阻止を求める勢力にとって必要なものだと考えたからです。
 その年の9月15日に自公政権の強行採決で「戦争法」が成立しましたが、その日の午後に共産党は立憲野党による「国民連合政府」の樹立を呼びかけました。これは当時、かなり唐突なものと受け取られましたが、それがめざす方向性は正しかったと思います。
 結局、翌2016年7月の参議院選挙に向けて、2月に5つの野党による「五党合意」が結ばれます。こうして、参議院選挙の1人区を中心とする選挙共闘という流れになっていきました。

 統一戦線政策の歴史的継承

 歴史を振り返ってみれば、日本でも1937(昭和12)年から翌年にかけて人民戦線の結成を企てたとして、加藤勘十・大内兵衛ら日本無産党や労農派の関係者400余人が検挙された「人民戦線事件」がありました。私は法政大学の大原社会問題研究所で所長もやりましたが、大内さんは元の法政大学総長で、戦前は大原社研の研究員でしたから関連の資料が残っています。
 この人民戦線という考え方も、反ファシズム統一戦線と同様のものです。その考え方を大内さんが受け継ぎ、美濃部亮吉さんを都知事選挙に担ぎ出して1967年に革新都政を実現しました。社会党と共産党の共闘(社共共闘)の仲立ちをするわけです。これが革新自治体の時代を切り開くことになります。
 1980年に社会党と公明党との間で共産党を政権協議の対象から外す「社公合意」ができ、社共共闘が中断されたような形になりました。それを打開することをめざして革新懇ができました。私はいま、全国革新懇の常任世話人をやっています。先輩たちが統一・共闘の流れを絶やさずに引き継ぎ、歯を食いしばって力を尽くしてきたわけで、その努力がようやく報われるのではないかと期待しています。
 いまの政治を変えたいと思っている人たちはどんどん声を上げ、幅広くできる範囲で手を結んで行動し、発言していくことが必要です。いまでは、それが力になって大きな成果を挙げています。
 コロナ禍で集まるのは困難ですが、ネットなどを活用して署名を集めたり発言したりする。それが大きな効果を発揮しています。東京オリンピック組織委員会の森喜朗さんの会長辞任も、独断で決めた後継者を選び直させる際も、あるいは入管法改定法案が取り下げられたときもそうでした。リアルで行う集会などとともに、ネットでの反応が政治を動かし変える大きな力になってきています。

 先にも述べましたように、私の研究者生活の始まりは統一戦線研究でした。1993年に法律文化社から出した拙著『概説 現代政治―その動態と理論』の「あとがき」にも「日本共産党の力と政策を構成部分とする『大左翼』の結集」が必要だと書いています。統一の力で政治を変えたい。これが私の生涯をかけた「夢」だったのです。
 おこがましくも「共闘の伝道師」を自認してきましたが、ようやくリアリティをもって「夢」を語ることができるようになりました。こうなると、もう「夢」ではありません。共闘の力によって政権交代を実現できるかもしれない時代が訪れてきたわけで、まことに感慨無量です。それが実現するように、来る総選挙に期待しています。

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10月25日(月) 市民と野党の共闘こそが「勝利の方程式」(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、五十嵐仁・小林節・高田健・竹信美恵子・前川喜平・孫崎享・西郷南海子『市民と野党の共闘で政権交代を』あけび書房、2021年、に収録された拙稿です。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 総選挙はどうなるのか

 自公政権の新型コロナウイルス対策とオリンピック・パラリンピック(以下、オリ・パラ)の開催強行に対する批判も極めて大きい。このことは、自民が敗北し、都民ファーストが留まり、立憲・共産が善戦したことにはっきりと示されています。オリ・パラやコロナの感染状況がどうなるかにもよりますが、基本的に総選挙でもこの傾向は続くと思います。
 今後の展開を予測するうえでは、2009年に起きた政権交代の例が参考になります。この年も9月に衆院議員の任期切れが迫り、7月に都議選が実施されました。前年のリーマン・ショックや政治スキャンダルもあって麻生政権に対する不満と批判が高まり、8月の解散・総選挙で自民党は歴史的な敗北を喫して鳩山政権に交代しました。
 2009年8月30日の総選挙は、小選挙区300、比例区180の計480議席で争われました。自民党は公示前の300議席から119議席へと惨敗して初めて第1党の座を失い、公明党も31から21議席へと10減になりました。自公両党は合計140議席にとどまり、過半数の241議席を大きく下回っています。
 他方の野党は、民主党が115議席から2倍以上の308議席の第1党となり、地滑り的な勝利を収めました。共産党は9議席、社民党は7議席と公示前勢力を維持し、みんなの党は4議席から5議席に、国民新党は4議席から3議席、新党日本が1議席、新党大地も1議席となっています。
 これに先立つ都議選での当選者は自民38議席で、戦後最低の議席数でした。今回の当選者数は前回の24議席からは回復しましたが、この2009年の時より3議席少ない35議席で、戦後2番目の敗北です。

 2009年の政権交代と似通った状況になっていますが、そのときよりも国民の苦難は大きいのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大で命がかかっている状況です。商売ができなくて職を失う。若者やひとり親家庭の生活苦は深刻で、食もままならず、女性の自殺率も高い。菅政権や自民党の支持率が回復する要素はほとんど見当たりません。
 菅義偉首相はワクチン接種とオリ・パラの成功に賭けてきましたが、これもうまくいく見込みがなくなってきました。オリ・パラは開催できても、緊急事態宣言下という異常な状況で国民の冷ややかな視線にさらされての強行です。成功とはほど遠く開催自体が目的となってしまいました。ワクチン接種も大混乱で、思惑通りに進んでいません。
 都議選でもオリ・パラの開催中止や延期を訴えていた候補に票が入り、都民の「こんな時にオリンピックかよ」という気持ちがにじみ出るような結果でした。菅首相が考えているように、コロナを抑え込んでオリ・パラを成功させて選挙に勝つことができるのか、暗雲が漂ってきています。国民の命を賭けて大きな博打を打って良いのかが問われていると思います

 新自由主義的な政治経済からの転換

 総選挙の争点の一つは、新自由主義を続けるのか、転換するのかという点にあります。新型コロナウイルスの感染拡大とその対策で明らかになったように、新自由主義的な政治や経済、社会のあり方が大きな脆弱性を持ち、根本的な限界が明らかになったからです。
 日本を含めた第2次世界大戦後の世界は、公共の力で資本活動を制御する仕組みを基本としてきました。資本の好き勝手を許さず、経済や社会に公的な力が介入したのです。いわゆる「修正資本主義」的な仕組みで、ヨーロッパなどの福祉国家がその典型でした。
 しかし、石油ショック後の新自由主義への転換によって「官から民へ」が主流となり、規制緩和や民営化が進められ、企業活動を最優先して邪魔になるセーフティネットを減らしてきました。自己責任や効率優先によって稼ぐことを目的に政治や経済を運営してきたために、医療・介護・保育・教育・福祉などが削られ、ケアに弱い社会を作ってきてしまった。これを再転換し、新自由主義的な自己責任・効率優先の社会からケ人々の命と生活を守るケア優先の社会へと変えていけるかどうかが、今度の総選挙での最大の争点です。

 もう一つの争点は、時代遅れの政治や政治家を一掃して世界標準の思考やルールへと根本的に転換することです。政治が問われているのは、従来の「右か左か」だけではありません。「新しいか古いか」という観点が付け加わってきています。いまの日本は、世界の潮流となっている「時代の流れ」がまったく分からないような人たちに政権が担われているからです。
 「反核の時代」になっているのに、いまだにアメリカの核兵器の傘に頼り、核爆弾の唯一の被爆国でありながら国連の「核兵器禁止条約」に参加できない。東日本大震災と福島第一原発事故で大きな被害を受けながら脱原発の方向に転換できない。いまだに原発の電力に頼ろうとしている政治家がいます。もう再生可能な電力に転換するときでしょう。
 環境問題にも真剣に取り組むべき時代になっています。今回のコロナウイルスの拡大にしても、大企業のやりたい放題で開発を進めてきたツケが回って来たようなものです。利益を高めるために際限なく自然を破壊し市場を拡大していくようなやり方では、もう地球は持たない。
 人間の尊厳を守り、個性を尊重し、差別を許さない社会への転換も、世界全体が直面している今日的な課題です。反ヘイト、人種差別反対、奴隷貿易や植民地支配の歴史の見直し、ジェンダー平等を進めて多様性を認める社会のあり方が模索されています。SDGs(持続可能な開発目標)をめざし、性的少数者であるLGBTQの権利を守り、選択的夫婦別姓を認めることは当たり前ではないでしょうか。
 このような方向に切り替えていく点で、日本の政治も政権党の政治家も極めて遅れています。大きく転換するためには、「古い政治」を担ってきた古い政治家たちを一掃しなければなりません。この点でも、日本を含む世界全体が時代の転換期にさしかかっていることを自覚すべきです。

 ホップ、ステップ、ジャンプで政権交代へ

 この本のタイトルは『市民と野党の共闘で政権交代を』ですが、まさに機は熟したといって良いでしょう。「古い政治」に代わる「新しい政治」を新しい政府が担う必要性・必然性が明白になってきているからです。それだけではありません。それを担うべき勢力も生み出されてきています。
 2009年の政権交代はある意味、麻生政権の「敵失」による「風頼み」によるものでした。今回は準備万端、整ったうえでの「決戦」ということになります。これまで野党共闘の実績と経験を積んできたからです。このような共闘の力は政権が誕生してからも大きな意味をもちます。「草の根」で連合政権を担い支える地域での基盤が出来上がりつつあるからです。
 秋の総選挙での政権交代に向けて、立憲野党は4月25日の北海道、長野、広島の3選挙全勝でホップ、今回の都議選の議席増でステップと勢いをつけてきました。この成果を「踏み台」に、野党連合政権の樹立による政権交代に向けて大きくジャンプすることが必要です。
 小選挙区制は勢いがついたら止まらない、一気に変わる、中途半端にならない結果を生むという特徴があります。都議選でも市民と野党の共闘の威力をはっきりと示したのは、1人区でした。小金井選挙区は野党の各政党・政派が協力して推薦した無所属候補が当選し、武蔵野選挙区では野党共闘で応援された立憲民主党の候補者が当選しました。野党が共闘した共産の候補者も4選挙区でトップ当選しています。対立構図によっては、小選挙区でも当選できる可能性を示したと言えます。

 ただし、秋の総選挙で一気に野党連合政権が実現できなくてもがっかりすることはありません。たとえ政権交代が実現しても。衆参の多数が異なる「ネジレ国会」なるだけですから。しばらくこの状態が続き、下野した自民・公明両党は連合政権の足を引っ張ろうと妨害活動を展開するでしょう。
 本当の「勝負」は、来年(2022年)7月の参議院選挙の際にやってくることになります。野党連合勢力が参院で過半数を超えることで、初めて安定した連合政権になる。この時までは、「過渡期の政権」ということになります。
 今度の総選挙で自民党が減ることは避けられません。問題はどれだけ減るかです。単独過半数を割るか、あるいは公明党を加えた自・公で過半数を割るか。さらには維新や国民まで入閣させて政権を維持するか。それでも足りなければ、これはもう政権交代です。
 自・公や維新・国民をかき集めてなんとか過半数を超えてしのいだとしても、次のチャンスは来年7月の参議院選挙でやってきます。この選挙で野党共闘側が多数を取れれば、夏から秋にかけて与党連合を解散・総選挙に追い込んで「最終決戦」を挑むことができます。
 このように、今度の総選挙でたとえ野党が多数にならなくても、政権交代の可能性は残ります。来年の参議院選挙と、その後の解散・総選挙の可能性というプロセスがあり得るからです。今年から来年にかけての1年間、日本の政治はまさに激突と激動の時代を迎えるにちがいありません。

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10月24日(日) 市民と野党の共闘こそが「勝利の方程式」(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、五十嵐仁・小林節・高田健・竹信美恵子・前川喜平・孫崎享・西郷南海子『市民と野党の共闘で政権交代を』あけび書房、2021年、に収録された拙稿です。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 都議選の「教訓」は何だったのか

 7月4日の東京都議会議員選挙の最大の「教訓」は、ひとことで言えば「野党が共闘すれば勝てる」というモデルケースになったことにあります。市民と野党の共闘こそが「勝利の方程式」だということが実際の選挙で証明されました。総選挙での政権交代を願っている人々は、「こうすれば良いんだ」と思ったにちがいありません。
 政治を変えなければならない、変えたいという人たちにとって、非常に勇気が出る確信の持てる結果になりました。次の総選挙に結び付く大きな展望が開けるような経験です。今の国政や都政のあり方に対してナントカしなければ、変えなければという人びとや政党が互いに手を結び候補者を調整して取り組んだ成果です。

 他方で、今後検証すべきことの一つが、国民民主党(以下、国民)が当選者ゼロだったことでした。野党共闘、とりわけ日本共産党(以下、共産)との連携に背を向けた国民がこのような結果になったことも教訓的です。その理由を直視する必要があります。
 労働組合ナショナルセンターの日本労働組合総連合会(以下、連合)が全面的に支援した国民は0勝4敗で、共産と連携して支援してもらった立憲民主党(以下、立憲)は7勝2敗でした。つまり、連合の支援は効果がなかったということです。連合よりも共産と共闘したほうが力になるということが実証されたわけで、選挙後に立憲の安住淳国会対策委員長が「リアルパワー」だと言ったとおりです。
 立憲の枝野幸男党首は「共産との連立政権は考えていない」などと発言していますが、政権を共にする意思を明確にしたうえで、選挙での共闘をめざすべきです。連合の神津里季生会長に対しても、このような野党共闘の輪に加わってほしいと説得する必要があります。少なくとも、「選挙のことは政党に任せて欲しい、労働組合は口を出して共闘の足を引っ張るな」くらいのことを言うべきでしょう。
 労働組合としての連合も賃金・労働条件の改善を目指す以上、経営側に立つ自民党政権と労働側の共産が関与する政権のどちらが労働運動にとってプラスなのか、よくよく考えるべきです。そのような判断すらできないというのであれば、労働運動指導者としての資格はありません。共闘に横槍を入れて足を引っ張ることは、自民党を助け喜ばせるだけだということは明らかなのですから。

 自民党支持基盤の瓦解と流動化

 今回の都議選で自民・公明・都民ファーストを合わせた得票割合は前回と比べて6.81ポイント減っています。一方、立憲・共産・生活者ネットは合わせて5.49ポイント増えています。立憲・共産の両党の獲得議席を合計すれば34議席で第一党になります。「勝者なき都議選」と言われていますが、共産・立憲などの「野党連合軍」こそ勝者だったと言って良いのではないでしょうか。
 政権への不満票が都民ファ―ストに流れたと言われています。自民党が選挙前の予想ほどは回復せず、今回は苦戦すると見られていた都民ファーストが、予想されていたほど議席を減らしませんでした。自民は過去2番目の少なさで、自公を合わせても過半数を回復できませんでした。敗北したのが自民党だったことは明らかです。

 そうなった背景の1つは、自民党支持者の約43%が他の政党に投票したことです。なかでも一番多く流れたのが都民ファーストでしたが、立憲や共産にも流れています。自民に愛想をつかした都民の多くは都民ファーストを、きついお灸を据えたいと考えた人々は共産や立憲を支持したということです。
 このことは自民党支持基盤の瓦解が起きているということを示しています。すでに、千葉や山形、静岡県などの一連の首帳選挙や4月の3選挙(北海道2区での衆院補選、長野での参院補選、広島での参院再選挙)で野党は勝利し、広島では自民党支持者の約3割が野党に投票しました。今回の都議選で自民党に投票しなかった人が国政選挙で自民に戻るとは考えにくい。都民ファ―ストが踏みとどまれたのは、自民批判票の受け皿として利用されたからです。
 もう1つは、支持政党なし層の多くが自民ではなく、野党に投票したことにあります。従来から、この層の人々は野党を支持する傾向がありました。今回はさらにこの傾向が強まったようです。この人たちも、総選挙になれば野党に入れる可能性が高い。野党統一候補なら、なおさらです。
 国政には都民ファーストがないから、そちらに流れた票は総選挙になれば戻ってくると自民党の関係者は思っているかもしれませんが、その可能性は少ない。都議選での自民党の敗北の意味は深く、かつてなく大きいと言えます。

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10月21日(木) 10・31総選挙 政権を変えるしかない! [コメント]

〔以下の記事は、『連合通信』No.1307、2021年10月20日号、に掲載されたものです。〕

政権を変えるしかない!― 五十嵐仁法政大学名誉教授に聞く ―

 安倍・菅の両政権が二代続けてコロナ対応で批判を浴び、退陣に追い込まれました。その後を継いだ岸田政権をどう見るべきか。五十嵐仁法政大学名誉教授は「隠然とした安倍支配が今も続いている。政権を丸ごと変えるしかない」と指摘します。

 「安倍支配」隠しで総選挙

 岸田文雄首相は総裁選時から「人の話を聞く」「成長だけでなく分配を」「新しい資本主義をめざす」など、清新な印象を振りまいてきました。まるで野党が使うようなスローガンが並びます。
 その理由は、8年半続いた安倍・菅両政権の深刻な弊害があります。政治の私物化、説明責任の放棄、格差の拡大、富の一極集中。これらの弊害を覆い隠すために、新たな「幻想」が必要になった。それが岸田政権だと、五十嵐教授は説明します。
 9月に行われた自民党総裁選では、安倍氏や麻生氏が属する二大派閥が連携し、「ハト派」でリベラルとされる岸田氏を総裁に据えました。併せて、安倍晋三元首相や、盟友である麻生太郎副総裁らが、党内人事を使って裏から岸田政権を操る「隠然とした安倍支配」(同教授)の仕組みを作り上げたのです。
 安倍氏が属する派閥の優遇をはじめ、甘利明幹事長、麻生副総裁の「3A」が要所を押さえ、にらみを利かせています。
 政策づくりを担う党政調会長には、安倍氏肝いりの高市早苗氏を配置しました。このほど発表された衆院選公約には、防衛費の国内総生産(GDP)比2%以上への増強や、選択的夫婦別姓の検討取り下げなど、高市色が強く出ています。
 新政権と与党は、野党が求める予算委員会は開かず、議論をしないまま、解散から投票まで史上最短の17日という日程を組みました。若手を閣僚に抜てきして見栄えをよくし、本性がばれないうちに選挙を乗り切る魂胆です。

 自民党に政治を変える力なし

 岸田氏は総裁選で「金融所得課税強化」を掲げていましたが、首相に就任するやすぐに引っ込めました。米国のバイデン新政権が富裕層への増税を決めたように、コロナ感染拡大で傷んだ生活や事業を支える財源が必要ですが、早々に白旗を揚げたのです。森友学園問題での公文書改ざんの再調査についても極めて及び腰です。
 公約では、コロナ対応の給付金の拡充や、賃上げ促進も掲げています。しかし、具体策はなく、今までなぜできなかったかについての反省がありません。最低賃金の引き上げには触れずじまい。コロナ病床確保の掛け声の裏で、全国400超の公立公的病院の統廃合計画は推進の構えです。
 憲法改正についても、岸田首相は持論の護憲を捨てて「任期中に改憲のめどをつける」とし、軍事大国化や、専守防衛の国是に反する「敵基地攻撃能力」の保有に舵を切ろうとしています。
 憲法を無視し「戦争できる国づくり」を進めてきた安倍政治そのもの。五十嵐教授は「岸田さんは総理・総裁のポストを得るために魂を売った。今の政治を変える力は、自民党から生まれてこないということが、総裁選と組閣人事で明らかになった。もはや腐りきった政権を丸ごと変えるしかない」と話します。(了)

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10月20日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』10月20日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「争点は人権か利権か 甘利幹事長“体制選択選挙”とは大笑い」

■大メディアもデマ拡散に加担

 共産主義の脅威を拡散しようとする与党の妄言を垂れ流す大メディアも問題だ。甘利の発言や、「日本が共産主義に染まってしまうのかどうかが問われる選挙だ」とアジる河野広報本部長の応援演説をそのまま報道して拡散に加担している。これでは、フェイクニュースで野党を誹謗中傷して物議を醸してきたツイッターの匿名法人アカウント「Dappi」とやってることは変わらない。選挙を控えて、自民デタラメ政治から目先をそらす役割を買って出ているのだ。それでいいのか、しっかりしろよ、と言いたくなる。

 「この総選挙の争点は、自由民主主義VS共産主義などでは断じてない。約9年間続いてきた安倍菅政治、そしてそれを継承する岸田政権のデタラメ政治への審判に他なりません。公文書改ざん問題やモリカケ桜、河井夫妻の1億5000万円問題、その他にも数々の金銭授受があった。それらの問題はウヤムヤにされ、立憲主義や民主主義、法治国家という国の根幹が壊されてきた。少なくとも、この4年間に自公政権が何をやってきたかが問われる選挙です。不正を嘘と隠蔽、ゴマカシで異論を抑え込むファッショ政治から、民主主義を取り戻す選挙なのです。この期に及んで国民を脅し、狡猾にだまして勝とうなんて、自公政権の横暴は目に“あまり”ます」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 甘い利権にどっぷりつかった幹事長が、デマまがいの共産批判で「体制選択選挙」とは大笑い。選挙の争点は火を見るよりも明らかで、問われるのは人権か利権か、民主主義か独裁政治かである。自由と民主主義を愛する有権者は、よくよく考えて投票して欲しい。


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10月19日(火) 共闘の力で科学と学術を尊重する新たな政権の樹立を [論攷]

〔以下の論攷は、日本科学者会議の『東京支部つうしん』No.648 、2021年10月10日付に掲載されたものです。〕

 メディアを乗っ取ったようなバカ騒ぎの末に、自民党の総裁選が幕を閉じました。菅首相の突然の不出馬表明、4人の候補者の乱立、派閥の流動化と乱戦、決選投票の果てに、ようやく自民党のトップが決まったのです。結局、総裁に選出されたのは岸田文雄前政調会長でした。
 総裁選をめぐる一連の動きで明らかになったのは、「安倍支配」の継続です。1年前に辞任した安倍晋三前首相ですが、後継の菅義偉首相を通じて影響力を維持し、今回の総裁選でもその力を見せつけました。米誌『ワシントン・ポスト』も書いていたように、「総裁選の勝者は安倍晋三」だったのです。
 安倍前首相は高市支持を鮮明にしてテコ入れし、岸田氏と河野氏も安倍氏にすり寄りました。「反安倍」の立場を取ってきた石破氏は立候補すらできませんでした。高市支持が急伸したのも、今の自民党がいかに「安倍支配」に毒されているかを示しています。
 安倍前首相が固執していた改憲路線や敵基地攻撃能力の保有などを、4人の候補者全員が受け入れていたことも象徴的です。菅首相による日本学術会議の人事への介入も、元をただせば安倍首相時代から始まっていたことで、菅首相はそれを踏襲したにすぎません。
 このように、今の自民党は「安倍支配」の影に覆われています。新しい首相が選出され「本」の表紙が変わっても、1ページ目には「安倍晋三に捧ぐ」という献辞が出てくるようなものです。「安倍支配」を打ち破るためには「本」そのものを取り換えなければなりません。
 その機会は間もなくやってきます。11月には必ず総選挙が実施されるからです。この機会を逃してはなりません。安倍・菅政治とその「背後霊」に支配されている後継政権を打倒し、論理と倫理に基づき科学と学術を尊重する新しい政権を樹立する必要があります。
 すでに市民連合を仲立ちとした政策合意が野党4党間で結ばれ、市民と野党の共闘に向けての「陣立て」ができました。各選挙区での統一候補の擁立も進み、「一対一の構図」も生まれています。
 とはいえ、情勢は楽観できません。総裁選でのバカ騒ぎと新首相誕生での「ヨイショ」報道で新内閣の支持率は上昇するにちがいありません。菅内閣への批判という「追い風」があった都議選や横浜市長選の時とは状況が一変しています。
 コロナ失政と菅首相による「敵失」をあてにすることはできなくなったのです。野党は「逆風」の中での選挙戦を覚悟する必要があります。どのような状況であっても揺るぎのない共闘態勢を組むことでしか、この「逆風」を跳ね返すことはできません。
 「安倍支配」を打ち破り、国民の声を聞き専門家の意見に耳を傾ける新しい政治を実現しましょう。市民と野党の共闘の力でこそ、それは可能になります。野党連合政権になれば、その最初の閣議で学術会議の6人の会員を任命し直すこともできるのですから。


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