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10月5日(火) 統一を妨げているものは何か 歴史認識と「反共主義」の克服―いま「連合」を考える(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、日本民主法律家協会の機関誌『法と民主主義』第561号、2021年8・9月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕


2, 政策合意と将来ビジョン

 どのような世界と日本をめざすのか

 行動の統一のためには、一致点を確認しなければならない。最新の政策合意は9月8日に立憲・共産・社民・れいわの野党4党が合意した「共通政策」に示されており、6本柱20項目の政策が掲げられている。なかでも注目されるのは、新自由主義による「格差と貧困を是正する」と「原発のない脱炭素社会を追及する」の2点である。かつての民主党政権はこの点が明確ではなく、それが瓦解の一因であった。
 とりわけ、コロナ禍のもとで新自由主義の限界が明らかになっており、資本主義に代わる新しい政治経済システムの構想も模索されている。効率ではなくケア優先の社会をめざすのは当然である。「消費税減税」についても合意され、初めてれいわ新選組も加わった。
 脱原発と再生エネルギーへの転換は、電力総連や電機連合と関わりの深い連合や国民民主党が抵抗しているが、この点を明確にしなければ野党連合政権にとっての「つまずきの石」となろう。地球環境の保全と脱原発は世界的な流れで、時代の趨勢となっている。抵抗するものを切り捨てなければ前には進めない。
 同時に、これらの当面の政策について合意するだけでなく、どのような世界と日本をめざすのかが明確にされなければならない。内閣支持率が低下しても野党支持が増えないのは、新しい政権が何をめざし、どのような将来展望を抱いているのかが曖昧だったからである。この弱点を克服するためにも将来ビジョンを明確にする必要がある。
 この点で注目されるのが、安保・自衛隊政策と「天皇制」の問題である。これらについて、共産党は不一致点を持ち込まないとしているが、将来展望としても連合や国民民主党は異議を申し立てている。この点を解明しなければならない。

 安保と自衛隊

 共産党は安保体制について、日米安保条約を10条に基づいて廃棄通告し、代わりに日米友好条約を結んで対等・平等・友好の日米関係をめざすとしている。このような将来ビジョンは荒唐無稽で不当なものだろうか。
 第1に、紛争解決は国連憲章と国際条約に基づく話し合いと交渉を基本とするものでなければならない。軍事力や軍事バランスによる平和というパワーポリティクスも、国際社会で正統性を失いつつある。軍事に頼らない紛争解決のシステムを構想することは正当であり、間違ってはいない。
 第2に、日本の外交・安全保障政策は対米従属によって多くの過ちを犯してきた。最近ではアフガニスタンへの軍事介入の失敗がある。ベトナム戦争やイラク戦争でもアメリカは大きな誤りを犯し、日本はこれに追随してきた。従米から転じて真の独立を回復するためには、アメリカの核の傘と軍事同盟体制から抜け出さなければならない。
 したがって第3に、どのような政党であっても、日本の国家的自立と対等・平等な日米関係を展望するのであれば、日米軍事同盟の解消と米軍基地の撤去、それを可能にするような国際環境の改善を目指すのは当然である。このような将来展望を示してこそ、核兵器禁止条約への参加、日米地位協定の改正、戦争法の廃止と自衛隊海外派兵の阻止、沖縄の新基地建設とオスプレイ配備の撤回、米軍兵器の爆買いの中止と抜本的な軍縮など、当面の政策の説得力も増すにちがいない。
 また、自衛隊について共産党は憲法との矛盾を段階的に解消するとし、「もう自衛隊がなくても安心だ」という合意が成熟するまでかなりの長期間にわたって共存すること、その間に急迫不正の主権侵害や大規模災害が生じた場合には自衛隊を活用して国民の安全を守ることを明らかにしている。
 つまり、国民が納得するまで現状を変えないというのである。それが可能になるような国際環境の変化を生み出すための外交努力こそ、野党連合政権の外交・安全保障政策の基本となる。したがって、自衛隊の存在が当面の共闘の障害になることはありえない。

 「天皇の制度」をどうするのか

 もう一つ、共産党が掲げている将来ビジョンでしばしば問題とされるのが「天皇制」に対する対応である。ただし、2004年の第23回党大会で改定した綱領で「君主制の廃止」という課題を削除し、「天皇制」を「天皇の制度」と言い換えた。すでにこの点に、以下のような認識の変化と政策転換が示されている。
 第1に、日本国憲法の制定によって天皇は「象徴」となり、その性格と役割は根本的に変化した。「国政に関する権能を有しない」とされ国民の全面的なコントロールの下に置かれるようになった天皇は、「ブルジョア君主制の一種」ではなく「天皇の制度」にすぎない。
 第2に、天皇条項を非民主的だとしていた従来の立場を改め、この部分を含めた憲法全体を守るとしている。「天皇の制度」は社会変革の障害にはならないから廃止を求めず、政治利用の防止、制限規定の厳格な実施、憲法の条項と精神からの逸脱の是正が中心課題となる。
 第3に、「天皇の制度」は「世襲」に基づいて差別や身分的秩序をつくり出すものであり、「民主主義および人間の平等の原則」と両立するものではない。したがって、共産党は「民主共和制の政治体制の実現をはかるべきだとの立場に立つ」が、その存続は将来「国民の総意」によって解決されるべきもので、廃止のための運動をすることはない。
 この立場は民主主義者であれば誰でも共有できるものだろう。「天皇の制度」は好ましくはないが「無害」なので、その帰趨は国民に任せるというのである。存廃をめぐってどのような情勢が成熟するかは、遠い将来のこととされている。つまり、この問題も統一の障害となるような性質のものではない。


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