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5月31日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月31日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「庶民はよく考えた方がいい 大増税の「軍事大国」を目指すのか」

■必要なのは大砲か、バターか

 増税ありきの防衛費増額もそうだが、大事な情報は国民には知らされない。朝日新聞デジタルの解説記事(28日)によれば、「敵基地攻撃能力」の保有については、すでに安倍政権下の13年の防衛計画大綱で布石が打たれていた。「敵基地攻撃」という言葉は使われなくとも<我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力のあり方についても検討の上、必要な措置を講ずる>と明記。

 実際に長射程巡航ミサイルの開発・導入の関連予算が既に計上されているというのだから、巧妙かつ狡猾だ。

 日本製兵器の輸出緩和も着々。岸田政権は、戦闘機やミサイルなど大型の攻撃型兵器でも、個別に協定を結んだ国なら提供できるよう検討を進めているという。来月まとめる「骨太の方針」に盛り込む方向だ。

 だが、敵基地攻撃は専守防衛を逸脱した先制攻撃になりかねない。日本が輸出した兵器が戦場で殺戮に使われる恐れがある。憲法9条が脅かされる。

 軍事大国化のための大増税。社会保障費や教育費が削られることにもなり、庶民生活はますます苦しくなる。世論調査では防衛費増額に「容認」が多数だが、そこまで分かったうえで、増額を是としているのかどうか。庶民はよくよく考えた方がいい。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「食料品や燃料費など値上げラッシュが続いている。国民生活のサポートこそが最優先されるべきで、そのために税金を使うべきでしょう。今、本当に必要なものは大砲なのか、バターなのか。野党は自民党がつくり出す好戦的な空気に巻き込まれることなく、冷静に問題提起して、国民に示すべきです」

 ウクライナ戦争を奇貨として、なし崩しの亡国政治が大政翼賛会で加速化してしまったら、参院選を前にして絶望しか残らない。

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5月24 日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月24 日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「首相も大メディアも大ハシャギ 異様なバイデン大統領の来日狂騒」

 米大統領の来日に合わせ、東京都心の警備は厳戒態勢が続いている。交通規制が敷かれ、警察官1万8000人を動員して警戒中だ。

 岸田も万全の“おもてなし”態勢を整えるべく、22日午後2時から2時間ほど、公邸で官邸や外務省の幹部と詰めの打ち合わせを行っていた。23日の首脳会談では、GDP(国内総生産)比2%を念頭に防衛費を大幅に増額する意向を伝える予定だ。

 「ロシアによるウクライナ侵攻を背景にした今回の米大統領来日で確認される事項は大きく3つ。日本の防衛費増額、対ロシア制裁とウクライナ支援、クアッドやIPEFによる中国包囲網です。そのすべてが米国の国益に関することであり、日本政府は盲目的に従う姿勢を示すわけです。日本にとってどういうプラスがあり、何がマイナスかという議論はまったくないまま、無条件に米国に隷従する。それを大メディアは日米同盟の結束強化などともてはやし、さも素晴らしいことのように喧伝する。それを真に受けた国民が対米追従政権を支持するという構図です。自国の利益を度外視して米国に従うのが正義だなんて、政府もメディアも植民地根性がしみついているとしか思えない。他国首脳が米軍基地から入国して、我が物顔で首都上空をヘリで移動するのをありがたがって報道している。こんなバカげた話はありません」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)


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5月23日(月) 岸田政権の性格と参院選の争点―何が問われ、何が訴えられるべきか(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.826 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

3, 危機便乗型改憲論と憲法の危機

 侵略に悪乗りした改憲論

 ロシアのウクライナ侵略に悪乗りして、軍備拡大や日米軍事同盟のさらなる強化、自衛隊の海外での武力行使を可能にする改憲を主張する動きが強まっています。岸田首相は自民党大会で日米軍事同盟と防衛体制の強化を強調するなど、改憲姿勢では前任者以上の積極姿勢を示しました。
 自民党や日本維新の会などからも、中国の脅威を強調し、核兵器共有や非核三原則の廃止、専守防衛の見直しなど、憲法9条を大きく逸脱する主張が出てきています。自民党の安全保障調査会の提言は、敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」と変え、攻撃対象に「指揮統制機能等」も含めることを求めています。
 防衛費についても、国内総生産(GDP)比2%以上をめざすとしています。現状は約1%で5.4兆円ですから、11兆円もの巨額になります。この提言を受けて、岸田政権は年内に改定する外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」など3文書の検討を開始しました。
 専守防衛の国是を踏みにじり、全面戦争を想定した無謀な大軍拡に突き進もうというわけです。そのために、歯止めになっている9条の縛りを解こうというのが惨事便乗型改憲論の狙いです。戦争か平和かをめぐる激動の情勢のもとで迎える参院選は、東アジアと日本の命運がかかった重大な選択が問われることになります。

 新たな局面の展開

 岸田首相は、自民党の「憲法改正推進本部」を「実現本部」に改め、タスクフォースを立ち上げて全都道府県連で少なくとも1回の集会を開くことを打ち出しました。憲法審査会を舞台にした発議に向けての準備だけでなく、本腰を入れて世論工作を始めています。
 総選挙の結果、日本維新の会と国民民主党が議席を増やして改憲に前のめりとなり、国民投票の手続きを定めた国民投票法が改定され、立憲民主党が妥協的な対応を示し始めました。改憲発議に向けて、これまでにない危険な局面が訪れています。
 しかし、このような動きは国民の意識を反映していません。NHKが昨年の衆院選に際して調査した最も重視する選択肢は「経済・財政政策」が34%、「新型コロナ対策」が22%などで、「憲法改正」は最も少ない3%にすぎませんでした。国民は「憲法改正」を望んでいるわけではないのです。
 参院選で、自民党は憲法を主要な争点の一つにしようとしています。「改憲ノー」の世論を高めて改憲勢力を3分の2以下に減らすことは差し迫った課題になっています。

4, 危機の克服と野党共闘

 活憲の政府に向けて

 参院選では、生命と生活の危機、平和と安全の危機、大軍拡と憲法の危機をどのようにして克服するのかが正面から問われることになります。気候危機打開に向けての取り組みやジェンダー平等の実現なども重要な争点になるでしょう。昨年秋に発足した岸田政権に対する中間評価の機会でもあります。
 岸田首相はリベラルで軽武装、経済主義という衣をまとって登場しましたが、単なる幻想にすぎません。違って見えても、安倍・菅政治と中身は同じだからです。改憲・軍拡路線を一段と強め、異なったやり方で実行しようとしているだけです。
 岸田政権の本質を明らかにし、憲法の理念や原則に沿った活憲政治を実現しなければなりません。このような新しい希望の政治を生み出すことができる唯一の手段が、野党連合政権の樹立です。
 昨年の総選挙では共産党を含む野党が市民と手を結び、初めて政権にチャレンジする選挙を闘いました。野党共闘は59選挙区で勝利し、33選挙区で接戦に持ち込むなどの成果を上げましたが、全体として前進できませんでした。共産党を含む共闘の力に恐れをなした自公政権が反共攻撃などによって必至に巻き返し、一部の補完勢力が加担したからです。
 野党共闘を破壊し、その力を弱めようとする分断攻撃は総選挙後も続いています。連合政権樹立への道を切り開くためには、参院選でそれを打ち破り、立憲野党の勝利を確かなものとしなければなりません。国政選挙のない「黄金の3年間」での改憲発議を抑え込むためにも。

 野党共闘の再構築

 野党の勝利にとって不可欠な条件は、1人区での一本化です。32ある1人区のうち10以上で野党が競合している現状を打開し、共闘を実現する必要があります。野党の分断と競合は自民党を利するだけだということは明らかなのですから。
 総選挙の結果、立憲民主党の党首が交代し、国民民主党が改憲論議に積極的になって政府予算案に賛成するなど、野党共闘に新たな困難が生じました。また、労働組合の連合が自民党との接近を強めるという変化も起きています。
 そのようななか、立憲民主党の泉代表が共産党、社民党、れいわ新選組に対して1人区での候補者調整の申し入れをおこない、市民連合は「政策調整と候補者一本化」などを求める要望を5党(立憲、国民、共産、社民、れいわ)2会派(沖縄の風、碧水会)に行っています。
 立憲野党は政策の面でも自公政権とは異なる明確な選択肢を提供する必要があります。自民党にすり寄る維新の会や国民民主党には、そのような選択肢を示すことはできません。新自由主義的なタカ派路線は同じですから。
 さまざまな困難や障害をのりこえ、候補者と政策の両面で与野党対決の構図を作り出し、共闘の力で立憲野党の勝利をめざさなければなりません。一致した政策の実現を追求する共闘の前進こそが、参院選後の解散・総選挙を実現し、連合政権樹立の足掛かりをつくり出すにちがいないのですから。

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5月22日(日) 岸田政権の性格と参院選の争点―何が問われ、何が訴えられるべきか(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』No.826 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 参院選が間近に迫ってきました。参院議員の任期は6年で3年ごとに半数が改選され、解散はありません。つまり、参院選は3年ごとの間隔で定期的に繰り返される選挙です。しかし、今度の参院選は今までにない大きな意義を持っています。
 まず、2020年初頭から2年半続いた新型コロナウイルスの感染拡大が6回にわたる大きな波となって国民を苦しめた後の選挙だということです。この間の新型コロナ対策がどうであったのか。安倍・菅・岸田と続いた政権による対策の功罪が問われることになります。
 次に、今年の2月から始まったロシアによるウクライナ侵略が勃発した後に実施される初めての国政選挙だということです。どのような形で侵略戦争に対する国際的な包囲網を形成して戦火を収めるのか。戦争と平和の問題が正面から問われることになります。
 そして第3に、このウクライナでの戦争を契機に高まっている改憲論を大きな争点にして戦われる選挙でもあります。日本の安全のためにも9条を守り、その理念をどのように生かしていくのかが問われることになります。
 第4に、コロナ禍を乗り切って国民の生活を守り、戦争の惨禍を収めて憲法を活かすことのできる希望の政治に向けての展望を切り開く選挙でもあります。そのための唯一の解決策である野党連合政権の樹立に向けて足固めを図ることが大きな課題となります。
 このような意義と重要性を持つ選挙です。投票において選択を誤ってはなりません。岸田政権の性格と参院選での争点を改めて確認し、選挙で何が問われ、何が訴えられるべきかを明らかにしたいと思います。

1, コロナ対策と生活の危機
 
 コロナ感染再拡大の危惧と懸念

 新型コロナウイルスの感染拡大と政府による対策の遅れが国民生活を深刻な状況に追い込んでいます。まだ新規感染者数が多いうちに政府は「まん延防止等重点措置」をすべて解除しました。しかし、感染者数はなかなか減らず、再び増加する傾向もあります。感染力の強いオミクロン株の別系統BA.2に置き換わっているからです。感染再拡大の危惧と懸念を拭い去ることはできません。
 今後も新たな感染拡大と医療体制の確保に備えての対策が必要なことは明らかです。そのためにも、安倍内閣以降の施策に対するきちんとした検証と反省が不可欠です。とりわけ第6波では、感染の急拡大に対応できずに自宅療養者が急増し、「医療崩壊」が生じました。
 PCR検査やワクチンの3回目接種の遅れなどが繰り返され、成り行き任せで後手に回った岸田政権の不手際も目立ちました。経済・社会活動を重視するあまり、感染拡大がおさまらないうちに規制を緩めて再び感染拡大を招くという悪循環も繰り返されています。本腰を入れて新たな感染拡大に備える必要があります。
 新自由主義的な政策のもと、医療や公衆衛生体制の整備を放置し続けてきたツケが回ってきました。地域医療構想によって急性期病床削減を進めようとしていることは本末転倒です。これらの誤りを改め、ワクチン3回目接種の遅れを取り戻して検査を拡充し、地域医療への支援を強化して医療体制のひっ迫が起きないようにしなければなりません。

 物価高騰と生活苦の増大

 コロナ感染への懸念が収まらないなか、物価高騰という新たな危機が国民の暮らしと営業を直撃しています。賃金は上がらず、年金もカットされ、そのうえ物価高ですから、生活が苦しくなるのは当たり前です。その背景には、コロナ禍からの回復による世界的な需要の高まり、ロシアのウクライナ侵略と経済制裁による資源不足の影響などがありますが、もうひとつ重要な要因となっているのが日銀の「異次元金融緩和」政策による急激な円安です。
 東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル=131円台と約20年ぶりの円安水準になりました。円安は輸出企業への追い風となりますが、輸入物価コストを引き上げて企業や家計の負担を高める悪影響をもたらします。その原因は日米の金利差の拡大です。日銀が超低金利政策を続ける一方で米国など先進国がインフレ抑制のために金利を引き上げ、低金利の円が売られやすくなったのです。
 しかし、日銀の黒田総裁は安倍元首相に遠慮してアベノミクスの3本柱の一つであった「異次元金融緩和」を止めることができません。ここにも新自由主義的な政策とアベノミクスの悪影響が及んでいます。参院選ではこのような政策を転換し、経済と国民生活の危機をどう克服するのかが鋭く問われることになります。
 消費税の減税や内部留保への課税、累進課税の強化を含む税制見直し、社会保障制度の拡充、最低賃金の引き上げなど、富の偏在を改めて再分配を図る施策の実現をめざさなければなりません。また、食糧自給率の向上なども重要な課題となっています。今後も円安傾向は続くと見られており、経済と暮らしの問題が参院選に向けての重大な対決点になることは確実です。

2, ウクライナ侵略と平和の危機

 ロシアによる侵略と戦争犯罪

 2月に始まったロシアによるウクライナへの侵略は平和の危機、人道的危機を引き起こし、多数の人命が奪われています。プーチン大統領は集団的自衛権による「特別軍事作戦だ」と言い訳していますが、国連憲章に反する侵略であり国際秩序を覆す暴挙です。戦闘を停止しロシア軍の即時撤退を求める声を上げ続けなければなりません。
 戦争にもルールがあります。攻撃は軍人や軍事施設に限られ、一般の市民を故意に殺害したり、捕虜を虐待したりすることは許されません。民間施設への攻撃やブチャで発見された大量の民間人の虐殺はジュネーブ条約や国連人道法に反する戦争犯罪です。
 今回のウクライナ侵略が明らかにしたことは、いかなる理由があっても戦争を始めてはならないということです。戦争になれば必ず犠牲者が生まれます。対立や紛争は武力によってではなく、話し合いで解決されなければなりません。対立を激化することなく友好関係を維持しながら緊張を緩和することが必要です。
 相手より強い力を持てば抑止できると考えて軍拡や軍事同盟に依存すれば、安全になるどころか対立と挑発を強めて武力行使を引き起こすことも明らかになりました。安全を確保しようとして軍事力依存を強めれば逆効果となり、安全を損なって戦争のリスクを高めます。このようなジレンマが安全保障のパラドクス(逆説)であり、その罠にはまってはなりません。

 国際的包囲網の形成と核脅迫への反撃

 ロシアのウクライナ侵略に対して、国際社会では侵略戦争を止めさせる努力が重ねられてきました。日米欧などが経済制裁で足並みを揃え、ウクライナに対する人道的支援を強めています。侵略反対の国際的包囲網の形成によって一日も早い戦争終結を実現する必要があります。
 国連の安全保障理事会(安保理)の常任理事国であるロシアによる拒否権の発動で安保理は十分に機能していません。そのために「国連は無力だ」との声も上がりました。しかし、国連は多面的な活動に取り組んでおり、決して無力ではありません。
 国連は2度の総会特別会合を開いてロシアの軍事行動を侵略として断罪し、国際人道法の順守を求める決議を140カ国以上で採択しました。国連人権委員会はロシアの理事国としての資格をはく奪し、国際司法裁判所は軍事行動を直ちにやめるよう命じ、国際刑事裁判所は戦争犯罪についての調査を始めています。グテレス事務総長も仲介に乗り出しました。
 窮地に陥ったプーチン大統領は生物・化学兵器や核兵器の使用をほのめかしています。このような核の使用をためらわない指導者の登場によって核抑止論は無力になり、核兵器の廃絶が急務であることが明らかになりました。唯一の戦争被爆国である日本こそ、核脅迫に対する反撃の先頭に立たなければなりません。核兵器禁止条約の批准を可能とする非核の政府への道すじをつけることも参院選の重要な課題です。

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5月20日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月20日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「政界一寸先は闇「参院選での自民圧勝」を庶民は警戒」

■日本をどう立て直すかが問われる

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。

 「国民の命を危険にさらすのは、改憲、核共有、原発再稼働だけじゃありません。そもそも新自由主義で国民生活をぶっ壊してきたのが自民党政権です。『新しい資本主義』にしても、これまで自分たちがやってきた経済政策が行き詰まり、袋小路に陥っているから出てきたフレーズじゃないですか」

 円安効果により、輸出大企業は22年3月期決算で過去最高益が続出。円安対策のガソリン補助金は、石油元売り企業に注入されるだけで、店頭価格はたいして下がらず、消費者が受ける恩恵はわずかだ。

 昔も今も、自民党政権の視線の先にあるのは、財界や業界団体。石油でボロ儲けしている企業に補助金を出し、庶民を切り捨てる経済政策を支持するのかどうかも争点である。

 「今度の参院選は、壊れつつある世界と日本にどうやってストップをかけ、立て直すのかが問われる選挙です。ロシアが壊してしまった平和や安全、グローバル化した経済システムをこれからどうしていくのか。既に大きく壊れてしまっているこの国の政治、経済、社会をどう立て直すのか。少子高齢化は喫緊の課題です。ここでなんとか踏みとどまらないと、取り返しのつかないことになります」(五十嵐仁氏=前出)

 自民が圧勝ならこの国はオシマイ。そんな冷静な警戒感を抱いているマトモな庶民もいるはずだ。政界は一寸先が闇。寅年の参院選は与党が苦戦するというジンクスがある。今年だって分からない。

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5月14日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月14日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「国民は本当にこの路線でいいのか 「戦争国家」に準備着々」

■先人の教えに耳を傾けろ

 米軍との一体化の総仕上げが、ハト派の宏池会のはずの岸田首相まで前のめりの改憲だ。既に平和憲法の理念は風前のともしびだが、さらに明文化して自衛隊を書き込み、専守防衛までをも消し去ろうとしている。自民党改憲案4項目のひとつの「緊急事態条項」だって、いざとなったら政府に全権委任の独裁国家準備法になってしまう。

 ここまで危うい事態なのに、大マスコミはただただウクライナ戦争の戦況を垂れ流し、「日本もウクライナになりかねない」と脅威だけ煽る無責任。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。

 「好戦的な戦争前夜の雰囲気が漂う中で、メディアは間違った道をたどったあの時と同じ役割を果たすのでしょうか。ウクライナで戦争が行われている中で、国民が安全保障や平和に関心を持ち、不安になるのはある意味当然です。だからこそ、メディアは一歩踏みとどまって、冷静な判断を伝える役割があるはずです。このタイミングでトップが来日したEUやフィンランドは、NATO(北大西洋条約機構)を強化する方向に進もうとし、国際的にも浮足立っています。いま日本で行われているのは、多国間や2国間の連携を強めるという軍事同盟強化のための外交になってしまっている。本来進めるべきは、相互の緊張を解き、信頼感を高める外交努力のはずです」

 岸田以下、自民党議員は、「もう二度と戦争はやっちゃいかん」と訴えていた先人の教えに耳を傾けたらどうか。浮足出っていては、決して良い結果は生まれない。


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5月13日(金) ロシアによるウクライナ侵略 憲法9条でなければ日本は守れない(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『東京革新懇ニュース』第472号、2022年5月5日付、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 惨事便乗型改憲論の誤り

 戦争という惨事に便乗して持論である改憲を声高に叫んでいるのは、安倍元首相や維新の会です。敵基地攻撃能力の保有(敵基地攻撃論)と中枢(指揮統制機能)打撃論、核共有論が際立っています。これと共に改憲に向けての動きも強まっています。これは大きな誤りです。
 第1に、敵基地攻撃論は「専守防衛」の範囲を踏み越えるものであり、明確な憲法違反となります。これはミサイル発射を念頭に未然に防ごうというものですが、「敵基地」を特定することは困難です。だから中枢打撃論が唱えられるのですが、それでは全面戦争になってしまいます。実行不可能な空理空論にすぎません。
 第2に、核共有論ですが、さらに荒唐無稽な主張です。「非核三原則」の「持ち込ませず」、核の平和利用を定めた原子力基本法、核兵器の移転などを禁じた核拡散防止条約などに反し、核兵器禁止条約にも逆行する暴論にほかなりません。在日米軍基地や自衛隊基地に核を貯蔵する施設が作られ、自衛隊が核攻撃に参加することになれば、最初に攻撃目標となり有害でしかありません。
 第3に、憲法条文の書き換えの動きも強まっています。自衛隊明記の目的は「最小限の実力部隊」で「軍隊ではない」とされてきた自衛隊の「国軍化」を実現し、アメリカによる対中国戦略の前線に立たせることです。緊急事態条項の新設は国会を有名無実化し、政府による専制を生みだそうとするものです。その狙いは戦争と独裁の合法化にあります。
 なお、このような改憲策動の先頭に立っている安倍元首相の責任についても指摘しておく必要があります。27回もの首脳会談を行って北方領土の2島返還を示唆しただけでなく、共同経済開発事業に3000億円もの国費を差し出し、プーチンにすり寄って翻弄され国益を害した外交の失敗は明らかです。改憲の旗を振る前に、この失敗を真摯に反省すべきではないでしょうか。

 再確認すべき9条の威力

 日本を軍事力で守ることはできません。戦争してはならないだけでなく、戦争できない国だからです。
 第1に、憲法9条の縛りがあります。これを変えることは国際社会の脅威にならないという誓約を破ることになり、周辺諸国に誤ったメッセージを送ることになります。紛争や対立はあくまでも外交で解決するという決意を固め、「喧嘩を売っているのか」と思われるような姿勢をとらず、従米路線を改めて自立した独自外交に転換しなければなりません。
 第2に、エネルギーと食料を他国に依存しているという決定的な問題があります。エネルギーの自給率は12%、食料の自給率は37%ですから、戦争になって輸送が途絶えればお手上げです。貿易での中国との相互依存も高く、輸出入総額の24%で第1位ですから戦争などとんでもありません。貿易面からすれば、アメリカも中国との戦争など不可能です。
 第3に、「9条の経済効果」が失われます。国の富みを軍事ではなく民生につぎ込むというあり方が戦後の経済成長の原動力となりました。しかし、今では重武装をめざして国内総生産(GDP)の2%以上もの大軍拡が模索されています。そんなお金がどこにあるのでしょうか。国民生活や産業投資が圧迫されるのは明らかではありませんか。
 いま一度、この「9条の経済効果」の威力を再確認するべきです。それが失われれば、軍拡競争による膨大な財政負担によって国民生活と社会・経済活動が破壊され、戦争になって外から攻められる前に内から崩壊するということになりかねないのですから。


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5月12日(木) ロシアによるウクライナ侵略 憲法9条でなければ日本は守れない(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『東京革新懇ニュース』第472号、2022年5月5日付、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 直ちに停戦を実現させよう

 「許せない」という思いでいっぱいです。ウクライナでは、この瞬間にも多くの犠牲者が出ています。一刻も早く停戦が実現し、戦火が収まることを願っています。この戦争を仕掛けたのはロシアのプーチン大統領であり、その責任は免れません。
 プーチン大統領は集団的自衛権による「特別軍事作戦だ」と言い訳をしています。しかし、「主権の尊重」「領土の保全」「武力行使の禁止」を加盟国に義務付けた国連憲章をはじめとする国際法に反する明確な侵略行為です。決して認めることのできない無法な蛮行だと言わなければなりません。
 戦争にもルールがあります。攻撃は軍人や軍事施設に限られ、民間人や一般の施設に対する無差別の攻撃は許されません。戦闘員ではない一般の市民を故意に殺害したり、捕虜を虐待したりすることは戦争犯罪にあたります。ロシア軍も民間人の犠牲者はでっちあげだと言い訳していますから、守るべきルールがあることは認識しているようです。
 しかし、実際にはこのようなルールは守られていません。病院や学校、駅、大型商業施設や集合住宅などが攻撃され、無抵抗の多くの市民が連れ去られ虐殺されています。ジュネーブ条約や国連人道法に反する戦争犯罪にほかならず、国際刑事裁判所によって裁かれるべき人道に反する罪が犯されているのです。
 プーチン大統領の罪は明らかです。侵略の引き金を引き、人道に反する罪を犯している責任を逃れることはできません。核使用の恫喝によって、核抑止力論の無力さも明らかになりました。国際的な世論を高めて包囲網を形成し、一刻も早く戦火を収めなければなりません。

 ウクライナ侵略の教訓は何か

 プーチン大統領はウクライナに対して、北大西洋条約機構(NATO)への加盟断念だけでなく、ドンバス地方の2州とクリミア半島の併合という領土拡張を求めています。第2次世界大戦後の国際秩序へのあからさまな挑戦です。その背後にあるのは、自分たちは偉大で周りの国を導かなければならないという夜郎自大な大国主義・覇権主義的な思い込みです。その結果、「解放」という名の侵略に乗り出しました。
 そこから導かれる教訓の第1は、戦争が始まれば多くの死傷者や難民が出ることは避けられないという当たり前の事実です。いかなる理由があっても戦争を始めてはならず、戦争が始まってしまえば双方に甚大な被害が出ます。国内外で1200万人という人口の4分の1以上の避難民が生まれ、故郷を追われました。戦場に駆り出されたロシアの若者もある意味での犠牲者です。このような悲劇はいかなる理由があろうとも正当化できません。
 第2に、対立や紛争は武力によってではなく、話し合いで解決されなければならないということです。武力に対して武力によって対抗しようとすれば、必ず破局をもたらし犠牲を生みます。最善の解決策は、対立を激化させず、敵愾心を持たれることなく、友好関係を維持しながら緊張を緩和することです。
 第3に、力の論理や抑止力論の落とし穴にはまってはならないということです。相手より強い力を持てば抑止できると考えて軍拡や軍事同盟に頼ることは逆効果になります。NATOへの加盟によって安全を確保しようとしたウクライナは、逆にロシアとの対立を激化させ緊張を高めました。安全を確保しようとして軍事力依存を強め、結局、安全を損なって戦争のリスクを高めたのです。このようなジレンマが、安全保障のパラドクス(逆説)にほかなりません。
 他方、プーチン大統領が主張したロシアの論理は、「敵基地攻撃論」と同じ誤りを示しています。ウクライナがNATOに加盟すれば大きな脅威となるから、それを阻止するために攻撃したという説明は、ミサイルを発射されれば大きな脅威となるから、その前にせん滅すべきだという主張と紙一重です。どちらも、相手国に対する先制攻撃を正当化するための屁理屈にすぎません。
 重要なのは戦争を回避するためにあらゆる外交努力を行うことです。戦争で犠牲になるのは一般市民で、武器を供給して大もうけできる武器商人や軍産複合体が喜ぶだけです。戦争回避に必要なのは武力ではなく、対立を解消して友好的な互恵関係を築くための外交なのです。

 丁寧な説明で懸念を払拭するべきだ

 このプーチン大統領による戦争をきっかけに「9条で日本は守れるのか」という声が高まっています。ロシアによるウクライナ侵略を利用して改憲世論を強めようとする狙いによるもので、他国の不幸に便乗する改憲論は許されません。
 同時に、ロシアの蛮行を目撃して日本の安全への懸念を強め、素朴な疑問としてこのように心配している人がいます。平和と安全への関心が高まっているのは重要です。それを頭ごなしに退けるのではなく、このような心配や関心の高まりに応え、丁寧に説明することが必要ではないでしょうか。「9条でなければ日本は守れない」と。
 もし、ロシアに9条があればプーチン大統領によるウクライナ侵略は不可能だったでしょう。もし、ウクライナに9条があれば、侵略を狙うプーチン大統領に口実を与えることもなかったでしょう。9条は軍拡と軍事同盟依存に対する歯止めになるからです。このような歯止めがある限り、他国を侵すことも、侵されることもありません。
 憲法9条はどの国に対しても脅威にならないという約束を世界に示したものです。「専守防衛」を国是としていますから、他国への侵略も先制攻撃も行いません。敵基地攻撃論はこの約束を破ることであり、信用できず油断のならない国に変わることを宣言するようなものです。
 ロシア軍の短期決戦の失敗と苦戦は、大国でも侵略は困難であることを示しています。ナチス・ドイツによるポーランド侵略、大日本帝国による満州侵略、戦後のアメリカによるベトナム戦争など、大国による侵略の失敗は枚挙に暇がありません。この歴史の教訓をプーチン大統領も学ぶべきだったでしょう。
 9条は軍事に頼らない安全保障の路線を自国に課した政策的な縛りでもあります。ミサイル技術の発展によって、軍事的な防衛は極めて困難になりました。国家間の対立や紛争は話し合いでしか解決できず、軍事力で安全を確保することはできないのです。
 戦争は外交の失敗です。政治や外交で汗も流さず「攻めてきたらどうするのだ」と恫喝する人がいますが、攻められないようにするのが外交の役割であり政治家の仕事ではありませんか。そのための努力もせずに軍備増強だけを声高に叫ぶのは本末転倒で、政治家失格ではないでしょうか。

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5月3日(火) 岸田政権の危険な本質と憲法闘争の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.303 、2022年5月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

3,憲法を活かす活憲政府の樹立に向けて

 野党共闘の威力

 国会議員や国務大臣、公務員は憲法99条によって憲法を尊重し、擁護する義務を負っている。しかし、このような義務は投げ捨てられ、変えることを自己目的とする改憲論が堂々と主張されている。政府・与党だけでなく維新などの野党の一部も、もはや99条を守る意思を持っていない。
 このような現状を変え、憲法を尊重し擁護するだけでなく、その理念や原則に沿った政治を実行し、憲法を政治や生活に活かすことのできる活憲政治を実現しなければならない。このような新しい希望の政治を生み出すことができる唯一の手段が、野党連合政権の樹立である。
 昨年の総選挙では共産党を含む野党が市民と手を結び、初めて政権にチャレンジする選挙をたたかった。野党共闘は59選挙区で勝利し、33選挙区で接戦に持ち込むなどの成果を上げた。立憲民主党は14議席を減らしたが、共闘した小選挙区では9議席増となっている。比例代表で23議席減となったのは、支援団体である連合の裏切りによって組合員が「行き場を失った」からである。
 自民党は安定多数を得たものの神奈川13区で現職の甘利明幹事長が落選して辞任した。東京8区では石原伸晃元幹事長が落選して復活することもできなかった。どちらの選挙区でも、当選したのは野党統一候補だった。共闘しなければ、このような結果にならなかったにちがいない。
 野党共闘は小選挙区で1対1の構図を生み出し、大きな成果を上げた。全体として前進できなかったのは、共産党を含む共闘の力に恐れをなした自公政権の側が反共攻撃などによって必至の反撃に転じ、一部の補完勢力がこのような分断攻撃に加担したからである。
 このような野党共闘を破壊し、その力を弱めようとする分断攻撃は総選挙後も続いている。連合政権樹立への道を確かなものとするためには、このような攻撃を打ち破り、参議院選挙での立憲野党の勝利を確かなものとしなければならない。

 「悪魔の囁き」に惑わされない

 野党共闘を立て直すために重要なことは、総選挙後から繰り返されている「悪魔の囁き」に惑わされず、その誤りを明らかにして打ち砕くことである。その際たるものは「野党共闘には意味がなかった」かのように言う言説だが、すでに述べたように、大きな効果があったことを確認しておかなければならない。加えて、以下のような言説に対しても、的確に反論する必要がある。
 その第1は「野合」批判であるが、2016年以降、国政選挙のたびに立憲野党は合意事項を明らかにしてきた。昨年の総選挙に向けても、市民連合を仲立ちにして6柱20項目の政策合意を明らかにしている。これにたいして、連立を組んでいる自民・公明両党は一度としてこのような合意事項を明らかにして選挙を闘うことはなかった。
 昨年の総選挙でも、両党は別個に独自の公約を掲げて選挙に取り組んだ。だからこそ、選挙が終わってから公明党が約束した子どもへの10万円支給問題で大混乱することになった。事前に合意していれば混乱するはずはない。政権を担うことだけを目的にした連携こそ「野合」ではないのか。当選だけを目的にした大阪での維新と公明の住み分けは、このような「野合」の最たるものだ。
 第2は共産党との「限定的な閣外からの協力」への批判である。総選挙後、これについて十分な理解が得られなかったという「反省」が、立憲民主党の代表選挙などを通じて相次いだ。しかし、これについて十分理解していなかったのは、そう言う人々のほうである。
 というのは、「限定的な閣外協力」はすでに始まっていたからだ。岸田新政権発足に際しての首班指名選挙で、共産党を含む野党4党は立憲の枝野代表の名前を書いた。もし総選挙で多数になれば再び枝野代表の名前を書き、当初予算案に賛成し、合意した政策についての法案成立で協力したはずだ。これは当たり前のことで、それなしに連合政権を樹立し、維持することはできない。
 そして第3に、総選挙が終わってから急に大きくなった「野党は批判ばかり」という言説で、必要なのは「対案や提案だ」というのである。実際には野党は批判ばかりしているわけではないが、しかし批判しなかったら野党ではない。
 三権分立の行政府に対する立法府のチェックを実質的に担っているのは野党である。この野党という「虎の牙」を抜いて猫に変えようとするのが、このような主張にほかならない。寅年なのに猫になってどうするのか。三権分立は形骸化し、議会制民主主義も崩壊してしまうだろう。

 国民民主党の与党化と連合

 このような「悪魔の囁き」がどのような効果をもたらすのかが、国民民主党の行動によって示された。「提案型路線」によって牙を抜かれた姿が露わになったからである。それは国民民主の急速な与党化であった。
 国民民主は政府が提出した2022年度当初予算に賛成し、与党に向けて一歩踏み出した。これに続いて玉木代表は岸田首相、山口公明党代表と会談し、ガソリン税の一部を引き下げる「トリガー条項」の凍結解除などを要請した。
 岸田首相は「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と言うだけで、その実行を確約したわけではなかった。玉木代表は自公国3党による政策協議も要請し、与党側は「これからも意見や要望があればうかがう」と一定の理解を示したが、これも野党分断の策略にすぎない。
 このような国民民主の与党化の背景には支持団体である連合の変質がある。芳野友子新会長の就任以降、自民党への接近を強め、総選挙では共産党との共闘に反対し、「全トヨタ労働組合連合会」が与党と連携する方針に転じて野党系の組織内候補を擁立しなかった。選挙後も、自民党の茂木幹事長や麻生副総裁と個別に面会し、岸田首相も連合の新年交換会に出席してあいさつした。
 他方で自民党も連合との距離を縮める動きを見せている。塩谷立雇用問題調査会長が清水秀行事務局長と会談して連合の要望に寄り添う姿勢を強調し、選挙区に自動車工場などを抱える有志が「自動車立地議員の会」を設立して自動車関係の労組を引き込もうとしている。2022年の運動方針案でも「連合並びに友好的な労働組合との政策懇談を積極的に進める」と連合の名前を明記した。
 国民民主も連合も手を取り合って自民党へとすり寄っている。国民の期待も組合員の信頼も振り捨てて補完勢力になろうとしているのである。翼賛化を進めることで与党の一角に加わることを夢見ているのかもしれないが、結局は自滅の道を歩むことになるだろう。活路は市民と野党の共闘にしかない。

 平和で安全な東アジアと民主国家日本というビジョン

 市民と野党の共闘によって樹立される活憲の政府は、どのようにして日本の平和と安全を確保できるのか。それは平和で安全な東アジアの実現による周辺環境の安定化と、それを牽引できる民主国家日本への転換によって可能になる。そのためには、どの国によるものであっても覇権主義的な現状変更と横暴を許さず、国連憲章と国際法に基づいてあらゆる紛争や対立を話し合いで解決する国際的な枠組みを作らなければならない。
 具体的には、東南アジア諸国連合(ASEAN)のように話し合いで紛争の解決と武力行使の放棄を義務付けた友好協力条約(TAC)を締結し、東アジア共同体の創設をめざすことである。それは、特定の国を排除したり包囲したりするのではなく、北朝鮮や中国なども含めた包括的な対話と協力の地域に変える構想である。
 それを実現するためには、日本が過去の侵略戦争や植民地支配という負の歴史に正面から向き合い、その過ちを反省すること、日米軍事同盟への依存や在日米軍との一体化を改め、国家的な自立を回復して独自の外交を展開することが必要である。そのためにも、憲法9条の理念を活かした平和共存の道を追及する外交努力に徹することが不可欠の条件となる。
 平和で安全な東アジアと民主国家日本という将来ビジョンは憲法によって示されている。それを政治と生活に活かすことこそが連合政権の歴史的な使命であり存在価値なのだ。そのためにも、憲法を変えてはならない。変えるのではなく、その理念と条文を全面的に具体化できる政府の樹立こそがめざされるべき目標なのである。

むすび

 憲法をめぐる多面的で全面的な対決の天王山として、来る7月の参院選がたたかわれる。参院議員は任期6年で、半数ごとに改選される。したがって、選挙は3年ごとに繰り返されるが、今度の選挙は今までにない特別な意義と重要性をもっていることを強調しておきたい。
 それは総選挙で改憲勢力が議席を増やして3分の2を大きくこえ、明文改憲に向けて新たな局面を迎えて危険性を高めた時点での選挙になるからだ。したがって、その最大の課題は改憲勢力が3分の2の議席を超えることを阻止し、国会での発議を許さない力関係を作ることである。
 有権者の投票行動を通じて、明文改憲を許さないという意思を明確に表明できる貴重な機会になる。そのチャンスを生かさなければならない。まして、衆院が解散されなければ、今後3年間は国政選挙がない「黄金の3年間」となり、改憲に向けてじっくり取り組もうと狙っているからなおさらである。
 衆院選と異なって、参院選で野党が多数となっても政権交代に直結するわけではない。したがって、政権批判が直接に出やすいという傾向がある。まして、安倍・菅・岸田と続く「コロナ失政」によって国民の生命と健康、暮らしや雇用、経済がずたずたにされてしまった後の国政選挙である。国民無視の悪政に対する厳しい審判の機会としなければならない。
 また、この参院選は総選挙以降に強まった野党の弱体化と共闘の分断を狙う攻撃に対する反撃の機会としても重要である。一人区での共闘の維持と統一候補の勝利に努めるだけでなく、複数区では共闘に加わる立憲政党の議席拡大を目指さなければならない。市民と野党の共闘を再生・発展させ、立憲野党が全体として健闘・前進することによってこそ、来る総選挙での政権交代による活憲政府樹立に向けての展望を切り開くことができるからである。

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5月2日(月) 岸田政権の危険な本質と憲法闘争の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.303 、2022年5月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

2, 憲法闘争の多面的な課題

 明文改憲の阻止

 岸田政権の改憲策動に対しては、多面的で多角的な憲法闘争が展開されなければならない。その中心的な課題は、言うまでもなく明文改憲に向けての発議を阻止することである。そのためのたたかいの場は国会と地域にある。そして、この両者を媒介するのが情報戦とも言うべきメデイア環境をめぐる取り組みである。
 第1の国会での攻防は、一段と激しさを増している。維新の会が存在感を高め、憲法審査会で審議の促進を求め、予算委員会など各種委員会でも政府・与党の補完や牽引力として改憲を焚き付ける動きを強めているからである。これに対しては、立憲野党の孤立と動揺を防ぎ、共産党の排除を許さない取り組みが重要になっている。
 第2の草の根での攻防も強まっている。自民党が地方や地域から対話集会や講演会を開催するなど、世論の喚起に本腰を入れ始めたからである。これに対しては、「憲法改悪を許さない全国署名」を武器に、地方・地域や駅頭での宣伝活動、学習・講演活動に精力的に取り組む必要がある。
 そして、第3のメデイア環境をめぐる攻防も新たな局面を迎えている。旧来の情報伝達手段としての新聞やテレビ、週刊誌などに代わって、インターネットや会員制通信サービス(SNS)が台頭し、若者などを中心に社会的な影響力を高めているからである。これに対しては、読売新聞やNHKなどの政府寄りの報道姿勢を糾し、自民党の情報操作に対抗しなければならない。ネットなどでの個人の役割の増大に対応して、情報発信力の強化にも取り組む必要がある。
 これらの攻防の最終的な焦点は世論の争奪戦ということになるだろう。それが集約されるのが選挙であり、当面の決戦の場は夏の参院選である。この決戦に向けて、どれだけ改憲反対の世論を盛り上げられるかどうかが、改憲発議をめぐる勝敗を分けることになる。

 解釈改憲と実質改憲の是正

 岸田政権に対峙する憲法闘争は、改憲を阻止すれば良いというだけではない。改憲を阻止しても、反憲法政治の現状が残るからだ。したがって、憲法解釈の変更によって歪められた平和主義の回復と、それを定着させるための法や制度の改悪も是正しなければならない。最近でも、オンライン国会を可能にするための56条解釈を憲法審査会での多数で押し切るという動きがあった。このような解釈改憲の阻止と実質改憲の是正による活憲政治の実現が必要なのである。
 そもそも野党共闘の始まりは戦争法に対する反対運動にあった。それは特定秘密保護法や盗聴法、「共謀罪」法などの実質改憲に反対する運動を引き継いでいた。野党共闘にとって戦争法廃止は「一丁目一番地」だからこそ、市民連合を仲立ちとした政策合意の最初に「安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止」することが掲げられていたのである。
 しかも、戦争法の危険性は一段と高まっている。これによって集団的自衛権の行使が一部容認され、米軍支援のための自衛隊の海外派兵が可能とされたが、このとき想定されていたのは中東地域だった。しかし、「米中対立」が激化し、「台湾有事」が懸念されている今、米軍と共に自衛隊が活動するのは台湾周辺や東シナ海であり、「日本有事」に直結すると考えられている。
 22年1月7日の日米安全保障協議委員会2+2では「中国の脅威」に対して共同での「抑止」や「対処」を確認し、「日米は緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」するとまで踏み込んだ。偶発的な武力衝突が生じた場合でも、それが戦争法で規定する重要影響事態などに認定されれば、米軍防護などの名目で自動的に自衛隊が戦闘に巻き込まれることになる。
 このような事態を避けるためにも、戦争法の違憲部分の廃止は一刻の猶予もならない。火花が散る可能性がある地域にガソリンを積んで近寄るような愚行は避けるべきだ。必要なことは、たとえ火花が散っても燃え上がることのないように「水をかける」ことであり、そのために外交交渉で緊張の度合いを低めることである。

 敵基地攻撃・先制攻撃論の誤り

 憲法解釈の変更をテコにした実質改憲の最たるものは、最近注目されている敵基地攻撃能力の保有(敵基地攻撃論)であり、ミサイル攻撃阻止のための先制攻撃の構想だ。いずれも、これまで国是とされてきた「専守防衛」の範囲を踏み越えるものであり、明確な憲法違反となる。
 敵基地攻撃能力とは、北朝鮮による度重なるミサイル発射実験を念頭に、ミサイルが発射される前に敵基地を攻撃して未然に防ごうというもので、自衛隊が相手国の領域にある発射地点を直接攻撃することを意味している。しかし、これは荒唐無稽で実行不可能な空理空論にすぎない。
 このような主張が生じてきたのは、イージスアショアなどによる弾道ミサイル防衛(BMD)が不可能になったからだ。ミサイル技術が格段に進歩し、極超音速ミサイルや変速軌道のミサイルは迎撃が困難だからこそ、発射される前に攻撃することで防ごうというのである。しかし、ミサイルを発射する「敵基地」とはどこなのか。個体燃料によって移動する車両や列車、潜水艦などから発射されれば攻撃目標を特定することはできない。
 敵基地攻撃のための相手国空域内での爆撃は「排除しない」と、岸信夫防衛相は憲法違反の答弁を行っているが、このような想定自体、空理空論にすぎない。それでも全土をせん滅するだけの軍事力を保有すれば抑止効果を上げることができるという妄言もあるが、そうなれば際限のない軍拡競争の泥沼に引きずり込まれるだけである。
 それではどうするのか。このような攻撃を防ぐ方法は一つしかない。どのような国でも、ミサイルを発射する意図を持たせないようにすればよい。そのための友好関係の確立と緊張の緩和を生み出す外交努力こそが、唯一の解決策なのである。
 軍事的に防ぐことができなければ、外交的に防ぐしかない。対話と交渉によって敵意を和らげて緊張を緩和し、脅威を減らすことによって安全を確保することこそ、唯一、実現可能で現実的な道なのである。そして、これこそ憲法9条が定める平和主義の路線にほかならない。

 新たな解釈改憲としての「核共有」論

 ウクライナを侵略したロシアが核兵器による威嚇を行ったことを口実に、日本でも米国との「核共有(ニュークリア・シェアリング)」の議論をすべきだという主張が安倍元首相ら自民党の政治家によってなされ、日本維新の会はそのための提言を出した。これは核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという「非核三原則」を踏みにじり、原子力基本法や核拡散防止条約に違反し、核兵器禁止条約にも逆行する暴論である。
 「核共有」とはNATOの方策で、米国はイタリア、ドイツヨーロッパ、トルコ、ベルギー、オランダの5カ国に核爆弾を計150発配備している。安倍元首相の言うように日本もそうすれば、在日米軍基地や自衛隊基地に核を貯蔵・管理する施設が作られ、自衛隊は核攻撃能力のある戦闘機を保有することになる。「非核三原則」が禁じた「核持ち込み」どころか自衛隊が核攻撃に参加するのである。
 これが核軍拡競争に一層の拍車をかけることは明白だ。万一、周辺国との紛争になれば、核爆弾を配備している日本の基地が攻撃の標的になる。米国との「核共有」という議論はプーチン大統領と同じ立場に立つことになり、有害でしかない。
 日本は広島と長崎に核爆弾を投下された唯一の戦争被爆国である。また、福島第1原発での放射能漏れなど、最悪の原発事故も経験している。核の怖さを最もよく知る日本は、世界に向けて核廃絶のメッセージを出して、核兵器と原発の廃止のために先頭に立つべき歴史的な使命を帯びている。憲法の解釈を変えて核をもてあそぶような愚行は断じて許されない。

 改憲反対とともに憲法に基づく政治の実現を

 歴代の自公政権は、明文改憲に向けての世論の喚起と共に、日米軍事同盟の強化、米軍基地の拡充、自衛隊の定着と国軍化を図ってきた。いずれも戦争を放棄し陸海空軍の戦力の不保持を規定する憲法9条に反する違憲の政治である。改憲に反対するとともに、このような政治のあり方を変え、憲法に基づく政治を実現しなければならない。
 日米軍事同盟がもたらす最大の問題は米軍基地と日米地位協定の存在である。首都の周辺を米軍基地が取り巻き、上空を軍用機が飛び交い、空域が占有されている。まるで占領状態が継続されている植民地のような扱いを受けている。いつまでこのような状態を続けるのか。
 日米地位協定において、このような占領状態の継続はさらに顕著である。米軍犯罪に対する裁判自主権はなく、締結以来一度も改定されていない。同様の条約を結んでいるイタリアやドイツ、フィリピンやオーストラリアなどとは大違いである。新型コロナ感染対策を徹底する点でも大きな抜け穴となった。これらの問題点を解決するための地位協定の改定は急務だ。
 なかでも、沖縄の辺野古で進んでいる新基地の建設は大きな問題を引き起こしている。軟弱地盤の存在が明らかになり、いつ完成するのか、どれだけの費用が掛かるのかが不明で、県民の多くが反対している。直ちに中止し、これとは別個に普天間基地の返還と基地負担の軽減を実現すべきである。
 鹿児島や沖縄の南西に広がる宮古島や石垣島でも、中国を仮想敵とした自衛隊基地の増強が行われつつある。本土を含む各地の自衛隊基地でも、無人偵察機や無人攻撃機、オスプレイなどの配備計画が進められている。このような南西諸島の攻撃拠点化や米軍・自衛隊基地機能の強化は攻撃されるリスクを高めて軍拡競争を引き起こすだけであり、直ちに中止しなければならない。
 米軍兵器の爆買い、ヘリコプター空母の改修、長距離ミサイルの導入など、軍事大国化を目指した防衛費の増大も毎年続き、岸田政権は昨年の総選挙でGDP2%枠の突破も視野に入れた公約を掲げた。憲法9条を理念とする平和国家のあり方はもはや「風前の灯」だと言わなければならない。

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