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5月3日(火) 岸田政権の危険な本質と憲法闘争の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.303 、2022年5月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

3,憲法を活かす活憲政府の樹立に向けて

 野党共闘の威力

 国会議員や国務大臣、公務員は憲法99条によって憲法を尊重し、擁護する義務を負っている。しかし、このような義務は投げ捨てられ、変えることを自己目的とする改憲論が堂々と主張されている。政府・与党だけでなく維新などの野党の一部も、もはや99条を守る意思を持っていない。
 このような現状を変え、憲法を尊重し擁護するだけでなく、その理念や原則に沿った政治を実行し、憲法を政治や生活に活かすことのできる活憲政治を実現しなければならない。このような新しい希望の政治を生み出すことができる唯一の手段が、野党連合政権の樹立である。
 昨年の総選挙では共産党を含む野党が市民と手を結び、初めて政権にチャレンジする選挙をたたかった。野党共闘は59選挙区で勝利し、33選挙区で接戦に持ち込むなどの成果を上げた。立憲民主党は14議席を減らしたが、共闘した小選挙区では9議席増となっている。比例代表で23議席減となったのは、支援団体である連合の裏切りによって組合員が「行き場を失った」からである。
 自民党は安定多数を得たものの神奈川13区で現職の甘利明幹事長が落選して辞任した。東京8区では石原伸晃元幹事長が落選して復活することもできなかった。どちらの選挙区でも、当選したのは野党統一候補だった。共闘しなければ、このような結果にならなかったにちがいない。
 野党共闘は小選挙区で1対1の構図を生み出し、大きな成果を上げた。全体として前進できなかったのは、共産党を含む共闘の力に恐れをなした自公政権の側が反共攻撃などによって必至の反撃に転じ、一部の補完勢力がこのような分断攻撃に加担したからである。
 このような野党共闘を破壊し、その力を弱めようとする分断攻撃は総選挙後も続いている。連合政権樹立への道を確かなものとするためには、このような攻撃を打ち破り、参議院選挙での立憲野党の勝利を確かなものとしなければならない。

 「悪魔の囁き」に惑わされない

 野党共闘を立て直すために重要なことは、総選挙後から繰り返されている「悪魔の囁き」に惑わされず、その誤りを明らかにして打ち砕くことである。その際たるものは「野党共闘には意味がなかった」かのように言う言説だが、すでに述べたように、大きな効果があったことを確認しておかなければならない。加えて、以下のような言説に対しても、的確に反論する必要がある。
 その第1は「野合」批判であるが、2016年以降、国政選挙のたびに立憲野党は合意事項を明らかにしてきた。昨年の総選挙に向けても、市民連合を仲立ちにして6柱20項目の政策合意を明らかにしている。これにたいして、連立を組んでいる自民・公明両党は一度としてこのような合意事項を明らかにして選挙を闘うことはなかった。
 昨年の総選挙でも、両党は別個に独自の公約を掲げて選挙に取り組んだ。だからこそ、選挙が終わってから公明党が約束した子どもへの10万円支給問題で大混乱することになった。事前に合意していれば混乱するはずはない。政権を担うことだけを目的にした連携こそ「野合」ではないのか。当選だけを目的にした大阪での維新と公明の住み分けは、このような「野合」の最たるものだ。
 第2は共産党との「限定的な閣外からの協力」への批判である。総選挙後、これについて十分な理解が得られなかったという「反省」が、立憲民主党の代表選挙などを通じて相次いだ。しかし、これについて十分理解していなかったのは、そう言う人々のほうである。
 というのは、「限定的な閣外協力」はすでに始まっていたからだ。岸田新政権発足に際しての首班指名選挙で、共産党を含む野党4党は立憲の枝野代表の名前を書いた。もし総選挙で多数になれば再び枝野代表の名前を書き、当初予算案に賛成し、合意した政策についての法案成立で協力したはずだ。これは当たり前のことで、それなしに連合政権を樹立し、維持することはできない。
 そして第3に、総選挙が終わってから急に大きくなった「野党は批判ばかり」という言説で、必要なのは「対案や提案だ」というのである。実際には野党は批判ばかりしているわけではないが、しかし批判しなかったら野党ではない。
 三権分立の行政府に対する立法府のチェックを実質的に担っているのは野党である。この野党という「虎の牙」を抜いて猫に変えようとするのが、このような主張にほかならない。寅年なのに猫になってどうするのか。三権分立は形骸化し、議会制民主主義も崩壊してしまうだろう。

 国民民主党の与党化と連合

 このような「悪魔の囁き」がどのような効果をもたらすのかが、国民民主党の行動によって示された。「提案型路線」によって牙を抜かれた姿が露わになったからである。それは国民民主の急速な与党化であった。
 国民民主は政府が提出した2022年度当初予算に賛成し、与党に向けて一歩踏み出した。これに続いて玉木代表は岸田首相、山口公明党代表と会談し、ガソリン税の一部を引き下げる「トリガー条項」の凍結解除などを要請した。
 岸田首相は「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と言うだけで、その実行を確約したわけではなかった。玉木代表は自公国3党による政策協議も要請し、与党側は「これからも意見や要望があればうかがう」と一定の理解を示したが、これも野党分断の策略にすぎない。
 このような国民民主の与党化の背景には支持団体である連合の変質がある。芳野友子新会長の就任以降、自民党への接近を強め、総選挙では共産党との共闘に反対し、「全トヨタ労働組合連合会」が与党と連携する方針に転じて野党系の組織内候補を擁立しなかった。選挙後も、自民党の茂木幹事長や麻生副総裁と個別に面会し、岸田首相も連合の新年交換会に出席してあいさつした。
 他方で自民党も連合との距離を縮める動きを見せている。塩谷立雇用問題調査会長が清水秀行事務局長と会談して連合の要望に寄り添う姿勢を強調し、選挙区に自動車工場などを抱える有志が「自動車立地議員の会」を設立して自動車関係の労組を引き込もうとしている。2022年の運動方針案でも「連合並びに友好的な労働組合との政策懇談を積極的に進める」と連合の名前を明記した。
 国民民主も連合も手を取り合って自民党へとすり寄っている。国民の期待も組合員の信頼も振り捨てて補完勢力になろうとしているのである。翼賛化を進めることで与党の一角に加わることを夢見ているのかもしれないが、結局は自滅の道を歩むことになるだろう。活路は市民と野党の共闘にしかない。

 平和で安全な東アジアと民主国家日本というビジョン

 市民と野党の共闘によって樹立される活憲の政府は、どのようにして日本の平和と安全を確保できるのか。それは平和で安全な東アジアの実現による周辺環境の安定化と、それを牽引できる民主国家日本への転換によって可能になる。そのためには、どの国によるものであっても覇権主義的な現状変更と横暴を許さず、国連憲章と国際法に基づいてあらゆる紛争や対立を話し合いで解決する国際的な枠組みを作らなければならない。
 具体的には、東南アジア諸国連合(ASEAN)のように話し合いで紛争の解決と武力行使の放棄を義務付けた友好協力条約(TAC)を締結し、東アジア共同体の創設をめざすことである。それは、特定の国を排除したり包囲したりするのではなく、北朝鮮や中国なども含めた包括的な対話と協力の地域に変える構想である。
 それを実現するためには、日本が過去の侵略戦争や植民地支配という負の歴史に正面から向き合い、その過ちを反省すること、日米軍事同盟への依存や在日米軍との一体化を改め、国家的な自立を回復して独自の外交を展開することが必要である。そのためにも、憲法9条の理念を活かした平和共存の道を追及する外交努力に徹することが不可欠の条件となる。
 平和で安全な東アジアと民主国家日本という将来ビジョンは憲法によって示されている。それを政治と生活に活かすことこそが連合政権の歴史的な使命であり存在価値なのだ。そのためにも、憲法を変えてはならない。変えるのではなく、その理念と条文を全面的に具体化できる政府の樹立こそがめざされるべき目標なのである。

むすび

 憲法をめぐる多面的で全面的な対決の天王山として、来る7月の参院選がたたかわれる。参院議員は任期6年で、半数ごとに改選される。したがって、選挙は3年ごとに繰り返されるが、今度の選挙は今までにない特別な意義と重要性をもっていることを強調しておきたい。
 それは総選挙で改憲勢力が議席を増やして3分の2を大きくこえ、明文改憲に向けて新たな局面を迎えて危険性を高めた時点での選挙になるからだ。したがって、その最大の課題は改憲勢力が3分の2の議席を超えることを阻止し、国会での発議を許さない力関係を作ることである。
 有権者の投票行動を通じて、明文改憲を許さないという意思を明確に表明できる貴重な機会になる。そのチャンスを生かさなければならない。まして、衆院が解散されなければ、今後3年間は国政選挙がない「黄金の3年間」となり、改憲に向けてじっくり取り組もうと狙っているからなおさらである。
 衆院選と異なって、参院選で野党が多数となっても政権交代に直結するわけではない。したがって、政権批判が直接に出やすいという傾向がある。まして、安倍・菅・岸田と続く「コロナ失政」によって国民の生命と健康、暮らしや雇用、経済がずたずたにされてしまった後の国政選挙である。国民無視の悪政に対する厳しい審判の機会としなければならない。
 また、この参院選は総選挙以降に強まった野党の弱体化と共闘の分断を狙う攻撃に対する反撃の機会としても重要である。一人区での共闘の維持と統一候補の勝利に努めるだけでなく、複数区では共闘に加わる立憲政党の議席拡大を目指さなければならない。市民と野党の共闘を再生・発展させ、立憲野党が全体として健闘・前進することによってこそ、来る総選挙での政権交代による活憲政府樹立に向けての展望を切り開くことができるからである。

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