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6月5日(日) 参院選の意義と民商・全商連への期待(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊民商』No.745 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 7月に予定されている参院選が間近に迫ってきました。参院選は3年ごとに繰り返される国政選挙で、選挙の結果、政権が交代することはありません。しかし、今回の参院選はこれまでになく大きな意義を持ち、重要な選択が問われます。
 何よりも、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まった後の選挙で、戦争か平和かという選択が問われることになります。これを契機に改憲機運を高め、軍事大国化への扉が開かれようとしています。憲法9条を変えるのか守るのかという選択肢も急浮上してきました。
 同時に、コロナ禍によって国民は疲弊し、急激な物価高騰の下で生活と営業はかつてない危機に瀕しています。健康と命、生活と営業を守るためにどうするべきかが明らかにされなければなりません。
 発足から約半年が経過した岸田政権は、これらの問題に対して効果的な対応を行ってきませんでした。しかし、内閣支持率は安定し、野党の足並みは乱れています。困難を打開し、立憲野党の勝利によって連合政権樹立への足掛かりを築くことも参院選の大きな課題になっています。

1, 戦争か平和か―ロシアによるウクライナ侵略の教訓

 武力対武力の罠にはまるな
 
 ロシアによるウクライナへの侵略は戦争の悲惨さ、むごさを改めて明白にしました。この戦争は「主権の尊重」などを義務づけた国連憲章や国際法に反する明確な侵略行為であり、一般の施設や民間人に対する無差別の攻撃は国連人道法に反する戦争犯罪です。核使用の恫喝によって核兵器は抑止力どころか威嚇の手段であることも明らかになりました。
 ウクライナでの惨劇を引き合いに出して「戦争になったらどうするのか」と問う政治家がいます。このような人を信じてはなりません。本来、問うべきなのは「戦争にしないためにどうするのか」ということであり、そのために知恵と力を尽くすことこそ政治家の仕事なのですから。
 どのような理由があっても、戦争を始めてはなりません。武力に対して武力で対抗しようとすれば、軍拡競争の悪循環に陥り対立を激化させます。重要なのは戦争を避けるためにあらゆる外交努力を行うことであり、最善の解決策は信頼を高めて緊張を緩和することです。
 相手より強い武力を持てば抑止できると考えて軍拡や軍事同盟に頼れば逆効果になり、緊張を高めて安全を損なってしまいます。すでに日本はこのパラドクス(逆説)の罠にはまりつつあります。大軍拡と日米軍事同盟の強化を図り、周りの国々の警戒心を高めて安全保障環境をますます悪化させているのですから。

 火事場泥棒的軍拡論

 ウクライナでの戦争によって国民が不安を抱き、安全保障への関心を高めているのは当然です。しかし、それを政治的に利用して持論を押し付けるような対応は許されません。このような火事場泥棒的軍拡論の典型が安倍晋三元首相の発言や自民党安保調査会による提言です。
 この提言は相手国のミサイル発射拠点などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、防衛費を国内総生産(GDP)比2%の11兆円以上に増額するよう要請しました。攻撃対象は「敵基地」にこだわらず「指揮統制機能等」も含むとしています。
 攻撃される前に「反撃」するなどというのは、大きなごまかしです。先制攻撃を正当化するための屁理屈にすぎず、「専守防衛」に反する明確な憲法違反です。攻撃的兵器の保有は軍拡競争を引き起こし、「自衛のための必要最小限度」を超えるのは確実です。
 安倍元首相や維新の会は「核共有」論まで主張しています。これは非核三原則、核の平和利用を定めた原子力基本法、核兵器の移転などを禁じた核拡散防止条約などに反し、核兵器禁止条約にも逆行する暴論です。米軍基地や自衛隊基地に核貯蔵施設が作られれば最初に攻撃目標となり、有害でしかありません。

2, 改憲か活憲か―憲法をめぐる対決

 9条改憲の新局面

 ウクライナでの戦争に便乗する形で、憲法9条に対する攻撃も強まってきました。憲法を変えるのか守るのか。9条をめぐる対決も参院選における大きな争点になります。
 昨年の通常国会で国民投票法が改定され、歯止めの一つが取り除かれました。総選挙で維新の会と国民民主党が議席を増やして改憲を煽るなど、野党内での歯止めも弱くなりました。動揺した立憲民主党が妥協的になって共産党が孤立し、憲法審査会がほぼ毎週開かれています。
 このような局面が訪れているなかでロシアによるウクライナ侵略が起こり、これを利用した改憲論も強まりました。容易ならざる情勢の下で、好戦的な方向での新たな危機が生じていることになります。国民の不安に応える形で憲法9条の意義をわかりやすく示していくことが、これまでになく重要になっています。
 同時に、憲法を変えればどうなるのか、具体的に示していくことも必要です。自衛隊を明記する目的は「国軍化」を実現し、アメリカによる対中国戦略の前線に立たせることにあります。緊急事態条項の新設は政府の緊急政令によって国会を無力化するためです。その狙いは戦争と独裁であり、日本を「戦争する国」に変えることにあります。

 9条でしか日本は守れない

 憲法9条は二度と再び日本の側から他国を攻撃したり戦争に加担したりすることはないという国際社会に対する誓いであり約束です。それを変えれば「いよいよ日本も戦争に乗り出すのか」と周辺諸国に警戒され、国際社会での立場を悪くすることは明らかです。
 極超音速ミサイルや巡航式長距離ミサイル、多弾頭化や変速軌道の採用など、急速度の技術開発によって軍事的な防衛は極めて困難になりました。日本を軍事力で守ることはできません。戦争してはならないだけでなく、戦争できない国だからです。
 日本の食料の自給率は37%で、エネルギー自給率は12%にすぎません。周りを海に囲まれていますから、輸送が途絶えればお手上げです。中国との相互依存度も高く、輸出入総額の24%で第1位ですから戦争などとんでもありません。
 現状の2倍以上もの大軍拡に転ずれば「9条の経済効果」が失われます。軍事ではなく民生に富をつぎ込んできたからこそ、戦後の経済成長が可能でした。それが失われれば国民の生活と社会・経済活動が破壊され、外から攻められる前に内から自壊することになりかねません。だからこそ、こう言わなければならないのです。「9条でしか日本は守れない」と。


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