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8月30日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月30日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「場当たり、迷走続く岸田政権 もがけばもがくほど支持率下落」

 そんな中、安倍国葬の「本当の費用」について驚愕の試算を伝えているのが、「週刊ポスト」の最新号だ。過去のデータや専門家の検証をもとに試算したところ、累計は最低でも33億円を超えるというのである。

 内訳で最も多いのは、警察・消防・自衛隊による警備費で推定26億円。全国の警察から応援に来る機動隊員に対する出張手当や超過勤務費、食費、宿泊費などを積み上げただけでも23億円くらいになるという。

 戦後の国葬は貞明皇后(大正天皇の皇后)、吉田茂元首相、昭和天皇の3例のみ。昭和天皇の「大喪の礼」でも当時の警備費用は約24億円かかっていただけに、あり得ない数字ではなさそうだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

 「ましてや安倍元首相の銃撃事件で警察庁長官が『警備の不備』を認め、引責辞任したタイミングです。警備費用がもっと膨らんでも、おかしくない。巨額の税金をつぎ込むクセに、閣議だけで国葬実施を決めるのは論外。少なくとも岸田首相は国会で国民の代表者である議員に対し、経費を含めて国葬実施の根拠を説明し、議決を得なければいけません。でなければ、国葬は内閣の勝手な思い込みによる暴走になってしまう。国葬を平穏無事に実施したいのであれば、なおさらです」

 茂木幹事長は散々、党と教団の組織的関係は「一切ない」と突っぱねてきたのに、今さら党所属議員の接点の有無を調査したところで時すでに遅し。しかも、ペラ1枚のアンケート形式で相変わらず「点検」は、議員の自己申告に委ねるとは、とうに「やっているふり」は国民に見透かされている。

 「岸田首相は教団と関係を持たないことを自民党のガバナンスコードに盛り込み、チェック体制の強化を表明しました。本気で決別する気なら、度が過ぎた関係を持った議員は処分し、調査対象に安倍元首相も加えるべきです。安倍氏と教団との深い仲は明らかで、教団票を取りまとめる“胴元”だったとの指摘もあるほど。第三者機関を通じた形式で調査を尽くさなければ、国葬への理解は到底、得られません」(五十嵐仁氏=前出)

 統一教会との関係断絶は、自民党と安倍その人との永久決別に等しい。それができれば大したモノだが、迷走・錯乱寸前に見える岸田政権に期待するだけムダである。


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8月29日(月) 混沌としてきた改憲動向 今こそ9条の「ありがたさ」を語ろう(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、日本機関紙協会の『機関紙と宣伝』No.1072,9月号に軽視されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕


軍事への忌避感が薄れてきた

 こんな時だからこそ、世論の動向が決定的に重要だと思います。
 その点で最近気になるのは、改憲世論の強まりです。9条については、まだ「守るべき」という声が多いものの、憲法全体については改憲への支持が増えているようです。「時代に合わなくなっているのだから変えてもいいんじゃないか」という意識ですね。
 そうなったのは、与党が憲法の規範力を弱めてきたことの影響ではないでしょうか。憲法を守らず、逆に反することを閣議決定し、既成事実化するやり方を取ってきました。憲法の正統性を掘り崩し、権力を規制する力を弱めてきたことが大きいと思います。
 もう一つ、憲法9条を支えてきたのは戦争体験に基づく「軍事」への忌避感情。軍隊は信用できない、戦争はもうこりごりだという思いだったのではないでしょうか。しかし、災害救助などで自衛隊の市民権が拡大し、軍隊として忌避する感情が薄れてきた。そこに、ロシアによるウクライナ侵略が起きました。やっぱりそれなりの軍隊を持つ必要があるという感覚、軍事・戦争を身近なものとして受け止め、軍事力の強化に理解を示す声が強まったように見えます。

憲法9条の「5つのありがたさ」

 こうした状況も踏まえ、改憲を阻止する上でいま何が必要かをあらためて考えたい。
 まず、日本は「軍事対軍事」を選択できない国なのだということを、国民合意として改めて確認する必要があると思います。日本は世界の中で「平和国家」のブランドを保ってきました。9条のありがたさ、有効性を捨て去るのではなく、再確認し強調すべきだと思います。
 それは5点。①憲法9条は戦争加担への防波堤となってきた②自衛隊員を戦火から守るバリアーだった③戦後における経済成長の原動力だった④学術研究の自由な発展を促進する力でもあった⑤平和外交を生み出す力になるはずだった――ということです。
 戦争加担への防波堤という点について言えば、ベトナム戦争が好例です。米国の同盟国は軍の派遣を要請され、韓国は延べ30万人を送り、約5000人が戦死しています。日本は戦争に加担したものの自衛隊を送らず、戦死者を出していません。9条という憲法上の制約があったからです。「台湾有事」が懸念され戦争法もできている状況で9条が改憲されれば、名実ともに米国の戦闘に全面的に巻き込まれることになります。
 自衛隊員を守る点でも9条は威力を発揮してきました。イラクのサマーワに派遣された陸上自衛隊の任務は給水と道路の補修で、戦闘に加わることはありませんでした。これも憲法9条があったおかげです。
 こうしたことを国民に訴え、理解してもらう活動が大事になります。事実に照らして、草の根から「戦争は駄目だ」「9条は大切」の声を大きくしていきたいですね。

平和外交が今ほど大切な時はない

 そもそも島国の日本が戦争に巻き込まれたら、私たちは生きていけません。食料とエネルギーの自給率は低く、陸続きのウクライナのように他国に逃げることもできません。貿易では中国がトップで密接な関係にあり、戦争などやれるはずがありません。
 平和外交が今ほど大切な時はない。戦後の日本は外交・安保について米国に追随し、9条を生かした自主外交を怠ってきました。米国追随では、平和と安全を確保することはできません。戦後の米国は間違いだらけで、ベトナム、イラク、アフガニスタンを見ただけでも、うまくいった戦争などないのですから。
 「米中対立」でも、日本は中国に自制を求めると共に、米国にも中国を挑発するなと忠告するべきです。9条に基づく自主的な外交を展開し、対立緩和と戦争回避を最優先にした独自の取り組みを行わなければなりません。

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8月29日(月) 混沌としてきた改憲動向 今こそ9条の「ありがたさ」を語ろう(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、日本機関紙協会の『機関紙と宣伝』No.1072,9月号に軽視されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕


軍事への忌避感が薄れてきた

 こんな時だからこそ、世論の動向が決定的に重要だと思います。
 その点で最近気になるのは、改憲世論の強まりです。9条については、まだ「守るべき」という声が多いものの、憲法全体については改憲への支持が増えているようです。「時代に合わなくなっているのだから変えてもいいんじゃないか」という意識ですね。
 そうなったのは、与党が憲法の規範力を弱めてきたことの影響ではないでしょうか。憲法を守らず、逆に反することを閣議決定し、既成事実化するやり方を取ってきました。憲法の正統性を掘り崩し、権力を規制する力を弱めてきたことが大きいと思います。
 もう一つ、憲法9条を支えてきたのは戦争体験に基づく「軍事」への忌避感情。軍隊は信用できない、戦争はもうこりごりだという思いだったのではないでしょうか。しかし、災害救助などで自衛隊の市民権が拡大し、軍隊として忌避する感情が薄れてきた。そこに、ロシアによるウクライナ侵略が起きました。やっぱりそれなりの軍隊を持つ必要があるという感覚、軍事・戦争を身近なものとして受け止め、軍事力の強化に理解を示す声が強まったように見えます。

憲法9条の「5つのありがたさ」

 こうした状況も踏まえ、改憲を阻止する上でいま何が必要かをあらためて考えたい。
 まず、日本は「軍事対軍事」を選択できない国なのだということを、国民合意として改めて確認する必要があると思います。日本は世界の中で「平和国家」のブランドを保ってきました。9条のありがたさ、有効性を捨て去るのではなく、再確認し強調すべきだと思います。
 それは5点。①憲法9条は戦争加担への防波堤となってきた②自衛隊員を戦火から守るバリアーだった③戦後における経済成長の原動力だった④学術研究の自由な発展を促進する力でもあった⑤平和外交を生み出す力になるはずだった――ということです。
 戦争加担への防波堤という点について言えば、ベトナム戦争が好例です。米国の同盟国は軍の派遣を要請され、韓国は延べ30万人を送り、約5000人が戦死しています。日本は戦争に加担したものの自衛隊を送らず、戦死者を出していません。9条という憲法上の制約があったからです。「台湾有事」が懸念され戦争法もできている状況で9条が改憲されれば、名実ともに米国の戦闘に全面的に巻き込まれることになります。
 自衛隊員を守る点でも9条は威力を発揮してきました。イラクのサマーワに派遣された陸上自衛隊の任務は給水と道路の補修で、戦闘に加わることはありませんでした。これも憲法9条があったおかげです。
 こうしたことを国民に訴え、理解してもらう活動が大事になります。事実に照らして、草の根から「戦争は駄目だ」「9条は大切」の声を大きくしていきたいですね。

平和外交が今ほど大切な時はない

 そもそも島国の日本が戦争に巻き込まれたら、私たちは生きていけません。食料とエネルギーの自給率は低く、陸続きのウクライナのように他国に逃げることもできません。貿易では中国がトップで密接な関係にあり、戦争などやれるはずがありません。
 平和外交が今ほど大切な時はない。戦後の日本は外交・安保について米国に追随し、9条を生かした自主外交を怠ってきました。米国追随では、平和と安全を確保することはできません。戦後の米国は間違いだらけで、ベトナム、イラク、アフガニスタンを見ただけでも、うまくいった戦争などないのですから。
 「米中対立」でも、日本は中国に自制を求めると共に、米国にも中国を挑発するなと忠告するべきです。9条に基づく自主的な外交を展開し、対立緩和と戦争回避を最優先にした独自の取り組みを行わなければなりません。

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8月28日(日) 混沌としてきた改憲動向 今こそ9条の「ありがたさ」を語ろう(その1) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、日本機関紙協会の『機関紙と宣伝』No.1072,9月号に軽視されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 7月の参院選では、改憲に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」が179議席となり、発議に必要な3分の2(166議席)を大きく上回りました。きわめて危険な状況ですが、8月半ばの時点でみると政局は改憲一直線とはなっていません。むしろ混沌としてきたという印象を持っています。このような状況の下で私たちは何をなすべきかを考えてみたいと思います。

改憲勢力が3分の2を確保しているが…

 確かに参院選では改憲勢力が3分の2を確保(維持)し、衆参ともに改憲発議が可能な状況です。安倍晋三元首相の遺志を継いで、岸田文雄首相も一気に発議へと進むつもりだったかもしれません。
 特に、昨年の衆院選を経て、改憲に前のめりの状況が生まれていました。改憲手続法が改定され、法的ブレーキが解除されました。日本維新の会が議席を増やし、改憲アクセルが強まりました。その結果、衆院の憲法審査会が質的に変化。以前のように、野党の意見を尊重する姿勢・ルールが後退していきました。むしろ、維新など「野党」側からこうしたルールを破る動きが強まったのです。衆院憲法審査会の暴走が始まっていました。
 参院の憲法審査会は衆院ほどひどくはありませんでしたが、今回、参院でも維新が議席を増やしたため、衆院と同様の暴走が始まるのではないかと心配でした。改憲勢力にとっては国政選挙がない「黄金の3年間」となり、改憲に反対する側にとって容易ならざる危険な局面を迎えていました。

統一協会との闇の関係で支持率低下

 ところが、です。安倍元首相の銃撃事件によって、状況はガラリと変わったように見えます。
 第一に、安倍氏の死去によって改憲の推進力・旗振り役がいなくなりました。もともと岸田氏は改憲にそれほど積極的ではありません。安倍さんの支持を得るために顔色を見ながらリップサービスをしてきましたが、もうそんな気遣いをする必要はなくなったのです。
 岸田という人は先頭に立って引っ張るというよりも、周りからせっつかれて腰を上げるタイプの政治家です。「公家集団」と言われた派閥(宏池会)の伝統的なカラーを色濃く受け継いでいるように思います。
 第二に、改憲への積極的な旗振りをしてきた維新の動向です。代表の松井さんの辞任で、後任をめぐって内部はすったもんだの混乱状況となっています。改憲への取り組みも、今後どう展開するかわかりません。
 第三に、自民党と統一協会との闇の関係が明らかになり、岸田政権として対応に苦慮しています。世論の関心も高く、内閣支持率が急落するなどの悪影響が出ています。

世論の反発を招く岸田政権

 そのうえ、岸田政権に対して世論の一層の反発を招く問題が起きています。
 その一つが、大軍拡路線を突っ走ろうとしていることです。軍事費の2倍化に向けて動き出し、敵基地攻撃能力(「反撃能力」)の保有もめざしています。収入が伸びず、物価が高騰して生活が苦しい中で、なぜ防衛費だけ大幅増加なのか、という疑問が出るのは当然です。
 さらに、安倍元首相の国葬実施をあっという間に閣議で決めてしまいました。事件の衝撃は強く、多くの弔問客が悼む姿を見て即断即決したのでしょうが、世論を見誤りましたね。その後の調査を見れば、国葬について「賛成」よりも「反対」の方が多い。国民の過半数が反対している調査もある。今後、反対はもっと増えるでしょう。
 支持率低下に焦ったためでしょうか、追い込まれる形で内閣改造を決断し、前倒しで実施しました。統一協会との関係を払拭し、人心一新でリセットするのが目的だったと思われます。これで乗り切ろうとしたわけですが、新内閣でも統一協会と関係した閣僚数は変わらず、腐れ縁を断ち切る方向は見えてきません。

「金メッキの3年間」に?

 本来、改憲に向けた「黄金の3年間」を手に入れたはずでしたが、「金メッキの3年間」に変わりつつあるように見えます。これからこのメッキが剥げるのではないでしょうか。
 もともと改憲の動きは安倍元首相が「変えたい」と言って始まった。変えること自体が自己目的化していました。憲法を変えなければならない「立法事実」がないのに、改憲を主張してきたのです。
 例えば、9条への自衛隊明記。「違憲状態に終止符を打つ」と言いながら、他方で自衛隊は合憲だと言ってきました。国民の中でも自衛隊はおおむね市民権を得ており、合憲だと思っている人も少なくありません。合憲ならわざわざ改憲する必要はないわけで、これは大きな自己矛盾です。
 私は9条改憲を、集団的自衛権の行使と自衛隊の海外派兵を合理化し全面的に可能にするためだと見ていますが、自民党からすれば、安保法制という名の戦争法を制定し、敵基地への先制攻撃も打ち出すなど、実質改憲を進めてきました。いまさら、明文改憲に時間とエネルギーを費やすのがいいのかという声が出て来かねません。せっかく実質改憲をやってここまできたのに、明文改憲に手を出して国民投票で失敗したらどうするのか、というリスクとジレンマがあるからです。


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8月27日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月27日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「誰が得するのか 原発新増設という悪魔の選択」

 岸田が原発政策の大転換を表明したのは、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の場。「再生エネルギーや原子力はGXを進めるうえで不可欠な脱炭素エネルギーだ」と強調していたが、脱炭素を錦の御旗にしていることもうさんくさい。

 これまで日本政府は地球温暖化対策に消極的で、2019年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)に出席した小泉進次郎環境相(当時)が、環境NGOから不名誉な「化石賞」に選ばれたことが大きなニュースになった。昨年開かれた「COP26」でも、日本は2回連続の「化石賞」受賞だった。

 それがウクライナ戦争で原油や天然ガスが高騰し、ガソリンや電気料金の値上がりが家計を圧迫すると一転、「脱炭素だ」「原発だ」と騒ぎ出す。今年3月と6月には電力需給逼迫警報が発出され、電力不足に対する国民の不安感は嫌でもあおられた。参院選後の今がチャンスと、岸田が考えただろうことは想像に難くない。

 「原発ムラの要望を受け、政府はずっと原発推進に転換したいと思い続けてきた。ロシアのウクライナ侵攻で格好の『口実』が生まれたわけです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 日本政府が経済制裁しているロシアとの取引である。民間企業にとってはリスクが高いが、岸田政権は当初から「サハリン2から撤退しない」と言い続け、経産省が萩生田前大臣の時から、両社に継続出資をモーレツにプッシュしてきた。それに応えた形である。

 しかし、ロシアを非難・制裁しながら、一方でロシアに頭を下げてLNGを売ってもらうのは、どう考えても矛盾している。さらには、その一方で戦争によるエネルギー価格高騰と電力逼迫を理由に原発回帰に走るのも、矛盾だ。

 「それが岸田首相のスタイル。いろんな話に耳を傾けながら、言われた通りに動く。政策に一貫した理念はなく、整合性にもこだわらない」(五十嵐仁氏=前出)

 姑息な首相である。原発を新増設して、一体だれが喜ぶのか。

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8月25日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月25日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「理事の“腹ひとつ”という五輪の闇 呆れるズサンさ、どんぶり勘定」

 「週刊新潮」(2020年2月20日号)は、招致当時の菅官房長官が、安倍元首相とも近いセガサミーホールディングスの里見治会長に「アフリカ人を買収するのに4億~5億円の工作資金が必要」「嘉納治五郎財団に振り込んでくれれば会長に迷惑はかからない。この財団はブラックボックスだから足はつかない」などと持ちかけ、実際に3億~4億円が財団に入ったと報じていた。

 裏金のトンネルになった疑いがあるこの財団の代表理事は森元首相だった。しかし、20年末でひっそりと活動を終了。財務状況などは今もよく分からない。

 「巨大ビジネスの五輪は利権のかたまりで、そこに有象無象が群がる構図です。当然、カネのにおいに敏感な政治家も関わっている。国民や都民の税金が投入されているのに、密室で物事が決まって巨額のカネが動き、凄まじい中抜きがされている。森元首相はその全容を知っているのでしょうか。菅前首相が五輪開催を強行したのも、この利権構造を確保することが目的だったのではないかと考えてしまいます。
 安倍元首相もゴルフや会食などでAOKIの会長と13~17年の5年間に8回も会っていた。公邸に招いたこともあるという親しい関係ですから、安倍元首相の存命中は特捜部も五輪の闇に手を突っ込めなかったのかもしれません。ただ、本気で政治家に切り込む覚悟があるのかどうか、検察の本気度が問われています」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 高橋はAOKIとスポンサー契約を結ぶ前後に組織委会長だった森と引き合わせたと供述しているというが、森側は否定している。もっとも、AOKIの贈賄なんて、大会の利権全容からすれば、おそらくチンケな話なのだ。

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8月24日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月24日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「支持率急落、コロナ罹患で暗転 岸田内閣は国葬がトドメになる予感」

 もはや岸田の神経を疑うほかない。「統一教会との関係を絶て!」と迫る9割近くの世論を黙殺。30年に及ぶ教団との“ズブズブ関係”を指摘されても、苦しい言い訳を重ねる萩生田政調会長をはじめ、「総汚染」とも言える陣容で押し切れると考えているなら、岸田は正気を失っているとしか思えない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「人事の前倒しで、岸田首相は“統一教会外し”を断行するかと思いきや、政務3役や党役員に計30人以上の“汚染議員”を起用。図らずも教団との『関係なし』では内閣を構成できない自民党の実態を露呈しました。それでも首相は国会の追及から逃げ回り、統一教会との関係の説明は閣僚ら個々の議員任せ。少なくとも教団と安倍派との選挙支援などの癒着関係は明白なのに、首相は最大派閥に配慮してか、党や政府として一斉調査に乗り出そうとしない。ウミを出し切る気概もなく、実態を小さく見せたがるから、個人レベルで次から次へとボロが出て、問題が長引くのです。支持率急落は『何もしない首相』の自業自得です」

 嵐は過ぎ去るのを待つとばかりに、政権運営は常に安全運転。しかし、平時ならまだしも、岸田が内閣改造時に豪語した通り、「今は戦後最大級の難局」だ。物価高に対する手当てもなく、コロナ無策を続け、何もしないままの首相でいいわけがない。

 一気に暗転した岸田政権に間違いなくトドメを刺すのは、来月27日に控える安倍の国葬だ。岸田政権が閣議決定した国葬への反対の声は日に日に増しており、毎日の世論調査でも「反対」が53%。識者や市民団体が声明や抗議行動を通じて撤回を求めている。

 「安倍氏の国葬は、憲法が定める『法の下の平等』に反した特別扱いです。『憲政史上最も長く務めた』という理由だけでは首相の功績とは言えず、国葬の費用を公金から支出する理由にもならない。しかも、安倍氏は“モリカケ・桜”の政権私物化など歴代総理の中でも、とりわけ在任中に問題を引き起こしており、今なお統一教会の組織票を差配していたと指摘されています。“あんな人を国葬に”という国民のモヤモヤした感情に対し、岸田首相は何ひとつ答えようとせず、先の臨時国会もたった3日で閉会。国葬の説明に逃げの姿勢を続ける限り、支持率は下がる一方です」(五十嵐仁氏=前出)


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8月16日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月16日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「統一教会総汚染で分かった 自民党の“自称保守”の身勝手な正体」

■保守ではなく保身の政治家

 「生前の安倍元首相を筆頭に、靖国参拝を重視するような自称保守派の政治家は、神道政治連盟や日本会議の影響を強く受けている。その多くが清和会を中心としたいわゆる自民党のタカ派です。ところが、そういう国粋主義に染まったウルトラ保守の政治家こそが、反日的なカルト宗教の統一教会と深く結びついていたことが分かってきた。統一教会は、侵略戦争と植民地支配という罪を背負っている日本は韓国に奉仕する義務があると教えている。本来なら、靖国を参拝するのは祖国のために命を落とした英霊に尊崇の念を表すことだと主張する自民党タカ派とは思想的に相いれないはずなのです。第2次安倍政権以降、顕著に嫌韓感情をあおりながら、一方では日本を蔑視する韓国の宗教団体とズブズブだったことの矛盾を清和会や支持者はどう納得しているのか。理解に苦しみます」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 実際、自民党と統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との“癒着”は底なしで、第2次岸田改造内閣において少なくとも7人の閣僚、20人以上の副大臣・政務官が接点を持っていたことが分かっている。

 就任後に判で押したように「知らなかった」「今後は関係を見直す」と言っているが、反省の色はなく、その場しのぎにしか見えない。

 嫌韓感情を助長した安倍を自称保守派は熱烈に支持してきたのに、日本を蔑視する韓国第一主義の教団が安倍の死を悼む。実はズブズブの関係だったという矛盾に、支持者はどう整合性を持たせるのか。

 「岸信介をはじめ、清和会はそもそも対米隷属ですから、成り立ちからして矛盾をはらんでいる。思想信条などないに等しいのです。安倍氏もそうですが、過去の歴史に向き合おうとしない修正主義だから、自分たちを正当化できればそれでいい。選挙で有利になるなら悪魔とも手を結ぶ。イデオロギーより利権が大事で、反日宗教と持ちつ持たれつの関係を続けることにも矛盾を感じないのでしょう。自分の利益のためには、国民の苦しみにも知らんぷりする。もはや“エセ保守”という言葉しか浮かびません」(五十嵐仁氏=前出)

 保守を標榜してきた政治家ほど統一教会と関係が深いという事実は、日本政界の闇としか言いようがない。保守とは何なのか、表層的な言葉に惑わされずに判断する力が国民にも求められている。政権中枢のカルト化を許すわけにはいかないはずだ。

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8月14日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月13日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「やはり自民党は総汚染 邪な内閣改造は悪評噴出で大失敗」

 改造前の岸田政権は、閣僚19人中9人が教団と関わりを持っていた。にもかかわらず、交代させたのはそのうち7人だけ。岸田派ナンバー2の林外相と、甘利前幹事長のゴリ押しで山際経済再生相は留任させた。

 そこへ新たに加わった加藤厚労相と高市経済安保担当相、さらに初入閣の寺田総務相、西村環境相、岡田地方創生相が教団と接点があった。まさか統一教会との関係において「経験と実力」を評価したわけではあるまい。

 改造後にも次から次へと出てくる怪しい癒着。“行って来い”の人事は、自民総汚染の裏返しでもある。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「岸田首相の言う『難局突破』はこの国が直面する難局ではなく、政権を取り巻く状況を指しているのでしょう。危機的状況を打開するためのリセット改造のはずが、問題の根深さを露呈しているのだから目もあてられません。医療崩壊を引き起こしつつある新型コロナウイルス第7波、出口が見えない物価高、それに統一教会問題と決して切り離せない安倍元首相の国葬に対する納得のいく説明。岸田首相が今やるべきことは、改造ではなく国会審議なのです。臨時国会をたった3日で閉じたりせず、与野党の英知を結集してこの事態を乗り切る政策を一刻も早く実行すること。発言と行動が矛盾に満ち満ちています」

 新たな船出は沈没までの時間稼ぎにすらならないかもしれない。

 共同通信の調査(10、11日実施)によると、支持率は54.1%。昨年10月の内閣発足以来最低となった前回調査(先月30、31日実施)から3.1ポイント増えただけだった。

 不支持率は28.2%で、ほぼ横ばい。統一教会と自民議員の関わりについて「説明が不足している」との回答は89.5%に達し、教団や関連団体と「関係を絶つべきだ」も84.7%に上った。安倍の国葬に関する岸田の説明に「納得できない」との回答も56.0%を占めた。

 「下落傾向の支持率が上昇基調に転じる要素は見当たりません。統一教会問題によって、岸田首相の政治手法の弱点がよりあらわになった。自らイニシアチブを取ることができないのです。党として教団との関わりを調査、検証、実態解明を指示することなく、個々の議員に丸投げ。組織として責任の所在を明らかにする考えは全くない。コロナ対策も物価対策も周囲に丸投げし、先頭に立ってリーダーシップを発揮しようという姿勢はいまだに見えない。周囲の意見を聞くだけで、具体的に動こうとしない。国のリーダーとしての資質を決定的に欠いていると言わざるを得ません」(五十嵐仁氏=前出)

 そうでなくても、この先は政治イベントが目白押しだ。今月下旬には閉会中審査を実施し、世論の賛否が割れる安倍の国葬について審議。安倍の「四十九日」となる今月25日には挙党態勢で臨む沖縄県知事選(9月11日投開票)が告示され、9月27日には国葬の本番が控える。


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8月13日(土) 参院選の結果と憲法運動の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕


3 今後の課題と展望

(1)命と暮らしを守り、経済と社会保障を再建する課題

 参院選後、新型コロナウイルス感染の急拡大が生じ、第7波がやってきました。オミクロン株のBA.2型がBA.5型に急速に置き換わっているからです。コロナ感染防止のための検査体制の強化やワクチン接種などの対策を急ぎ、病床の確保などで医療体制のひっ迫を防がなければなりません。
 参院選でも大きな争点となった物価高騰の大波が到来するのはこれからです。選挙で野党が一致して求めた消費税の減税を引き続き要求し、中小企業や業者を苦しめるインボイスの導入を中止させることが必要です。岸田政権は実効性の低い賃上げ政策や小手先の物価対策に終始し、実質賃金は2か月連続でマイナスになっています。
 アベノミクスによって儲けを拡大した大企業は内部留保を466兆円もため込み、異次元の金融緩和が「黒田円安」を生み、物価高に拍車をかけています。三本の矢を堅持する「新しい資本主義」ではなく。新自由主義とアベノミクスから転換し、内部留保への課税や金融所得課税、富裕層への累進課税の強化などが必要です。
 「全世代型社会保障」を口実に世代間対立をあおって負担増・給付減を正当化してはなりません。10月からの75歳以上の病院窓口「2割負担」導入に反対し、6月支給分から減額された年金をこれ以上カットさせず、防衛費倍増の財源として狙われている社会保障を削減するのではなく、その充実を求めていく必要があります。

(2)大軍拡と改憲を阻止し、外交・安全保障を立て直す

 参院選でも国民は改憲への信任を与えたわけではありません。選挙の結果を受けて実施された共同通信の世論調査では、改憲について「急ぐ必要はない」が58.4%と過半数を超え、「急ぐべき」は37,5%にすぎません。参院選で重視した項目も「物価対策・経済政策」が42.6%の最多で、「憲法改正」は5.6%という少なさです。
 このような国民の声を無視して、9条改憲に突き進むことは許されません。まして、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有論や11兆円もの規模を目指す防衛費GDP2%への倍増論などは論外です。
 このような方針は戦後保守政治の質的転換を示すもので、これまでの延長線上でとらえてはなりません。質的に異なる本格的な軍事大国路線を選択しようとしているからです。戦後保守政治が採用した解釈改憲の枠に入らないからこそ、憲法の条文を変える明文改憲に転じようとしているのです。
 この点では、9条改憲によって日本は何を失い、どのようなリスクを招くのかが明らかにされなければなりません。大軍拡と9条改憲によって目指されているのは、簡単にいえば、次のような軍事大国の姿にほかならないからです。
 ① GDP2%の11兆円を超える世界第3位の軍事力
 ② 米軍とともに戦う自衛隊の自由な海外派兵
 ③ 日本が攻撃されていなくても集団的自衛権による参戦
 ④ 外国の指揮統制機能等の中枢を攻撃しせん滅する攻撃能力
 ⑤ 攻撃される前に行う国連憲章違反の先制攻撃
 このような国のあり方が憲法の平和主義の原則に反し、専守防衛の国是を吹き飛ばすものであることは明らかです。周辺諸国の警戒心を強めて軍拡競争をあおり、戦争のリスクを高めるにちがいありません。
 これに対して、憲法9条の平和主義原則に沿った外交・安全保障政策は、本来、以下のようなものでなければならなかったはずです。
 ① 必要最小限度の防衛部隊に徹し海外派兵を行わない
 ② 軍事同盟に加盟せず外国の軍事基地を置かない
 ③ 仮想敵国を持たず対立する国のどちらにも加担しない
 ④ 東南アジアの非核武装地帯を東北アジアにも拡大する
 ⑤ 特定の国を敵視せず全ての国を含む集団安全保障体制を構築する
 これこそが、憲法9条が求めている外交・安全保障政策の具体化ではないでしょうか。しかし、現在の自公政権ではとうてい実行できません。だからこそ、このような政策を実施し、憲法を活かして東アジアの平和と安全を実現できる「活憲の政府」が必要なのです。

(3)政治におけるモラルを回復し、疑惑の真相を解明する

 今回の参院選においても、政治家や候補者の暴言が繰り返されました。桜田義孝前五輪相は少子化に言及し、「女性も、もっともっと、男の人に寛大になっていただけたらありがたい」と発言し、現役大臣である山際経済再生担当相は「野党の人から来る話は、われわれ政府は何一つ聞かない。皆さんの生活を本当に良くしようと思うなら、自民党、与党の政治家を議員にしなくてはいけない」と言って松野博一官房長官に注意され、釈明に追い込まれました。
 たびたび問題発言を繰り返してきた麻生副総裁もロシアによるウクライナ侵略に触れながら「子どもの時にいじめられた子はどんな子だった。弱い子がいじめられる。強いやつはいじめられない」と発言しています。まるで攻められたウクライナの側に責任があるかのような物言いではありませんか。
 これらは政治家としての資質が疑われるような暴言ばかりです。それが本音であっても普段は口をつぐんで表には出てきません。選挙になれば、街頭演説をする必要が生まれます。多くの聴衆を前にした演説をするとき、受け狙いでポロット出てしまったのです。
 自民党ばかりではなく維新の会やNHK党も同じです。有権者に対する誠実さのかけらもなくモラルを欠いた政治家の本質に早く気付いてほしいと思います。この点では、ウソを言い続けて信頼を失ったジョンソン首相を引きずり下ろしたイギリスを見習ってもらいたいものです。
 同時に、これらの暴言よりさらに大きな問題なのが「政治とカネ」をめぐる疑惑です。とりわけ真相解明が急がれるのは、安倍元首相のモリカケ桜と言われる疑惑の数々で、桜を見る会前夜祭での後援会による会費の補填、ホテルの便宜供与、サントリーによる酒類の無償提供など、いずれについても真相解明が急がれます。
 また、安倍元首相については、その死去をめぐって急浮上してきた旧統一協会との深い闇の解明も必要です。祖父の岸信介元首相からつながりがあり、安倍元首相だけでなく自民党政治家の多くが旧統一協会を利用し、利用されてきました。旧統一協会の支援で当選した自民党の井上義行議員をはじめ、このような持ちつ持たれつの関係に光を当て、自民党とカルト教団との腐れ縁を断ち切らなければなりません。

(4)野党共闘を再建し、解散・総選挙を勝ち取る

 昨年の総選挙後、野党共闘は大きな困難に直面しました。そうなったのは、共闘の中心となるべき立憲民主党とその支援団体である連合の腰が定まらなかったためです。
 なぜでしょうか。それは立憲民主の泉健太代表も連合の芳野友子会長も、市民と野党の共闘の戦略的重要性を理解していなかったからです。野党共闘は選挙に勝つための便宜的な方策にとどまらず、新しい政府を作るための唯一可能な戦略的目標だったのに。
 自公政権に対抗し政権交代を目指している立憲も連合も、立憲単独での政権獲得が可能だと考えているのでしょうか。それが無理だというのであれば、連立するしかありません。その相手と想定している国民民主を「兄弟政党」だと言ってみても、先方は共闘に応じようとしていません。
 そうなれば、ともに連携して政権交代を迫ることのできる政党と手を結ぶしかありません。その相手は、現状では共産・れいわ・社民の3党になります。これらの政党との連携は、政権交代を実現するための「パン種」なのです。大切にして発酵するのを待つのが、立憲のとるべき態度ではないでしょうか。
 ところが、立憲はこのような共闘の戦略的重要性を理解せず、攻撃されればすぐにぐらついてしまいます。政権交代に向けての可能な道はこれしかないということ、活路はこれらの政党との共闘にしかないということが分かっていれば、もっと腰の据わった本気の共闘が実現できたはずです。
 連合にしてもこの間の対応は不可解なものでした。芳野会長は共産党との共闘をかたくなに拒んでいましたが、かつて共産党ともかかわりの深い全労連と「花束共闘」という形でエールを送りあったり、メーデーの時差開催で舞台を共有したりしたことを知らないのでしょうか。
 立憲も連合も存在意義が問われています。立憲は連合という一部の労働組合のためにあるのでしょうか。連合は傘下の大単産の組合員だけの利益のためにあるのでしょうか。そうではないでしょう。全ての国民と全ての働く人々のためにあるのではありませんか。
 今回の参院選の総括を通じて共闘の再建のためにどのような方針を打ち出すのかが、試金石となるにちがいありません。昨年の総選挙以来の教訓をしっかり学び、野党の共闘態勢を立て直してもらいたいと思います。
 来年5月に広島で開かれる主要国首脳会議(G7)後、有利な情勢だと判断すれば岸田首相が解散に打って出るかもしれません。来年秋以降、総選挙から2年を経て解散風が吹き始める可能性もあります。「黄金の3年間」を待つことなく、それ以前に政権を追い詰めて解散・総選挙を勝ち取り、野党共闘による政権交代を迫ることがこれからの課題です。

 むすび―憲法運動における新たな課題

 参院選の結果、憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」は179議席となり、改憲発議に必要な3分の2である166議席を大きく上回りました。岸田首相は改憲に向けて「できるだけ早く発議し、国民投票に結び付けていく」と強調しています。いよいよ改憲発議の阻止に向けて正念場を迎えることになります。
 この点では安保体制による日米軍事同盟と憲法9条の相互関係、憲法上の制約を生み出している9条の意義の再確認が重要です。9条改憲によって「失うものの大きさ」と「招き寄せるリスクの危うさ」を幅広く知らせていくことが、ますます大きな意味を持つことになるからです。
 特に強調しておきたいのは憲法9条の効用であり、その「ありがたさ」です。9条改憲を主張している人々はもちろんのこと、それに反対している人々を含めて、その意義や効用が十分に理解されず、9条改憲によって「失われるものの大きさ」が良く分かっていないからです。
 その第1は、憲法9条が戦争加担への防波堤であったということです。安保条約に基づく日米軍事同盟によって日本はアメリカが始めた不正義のベトナム戦争やイラク戦争に協力させられましたが、9条という憲法上の制約があるために全面的な加担を免れました。ベトナムに延べ30万人以上の兵士を派遣して5000人近い戦死者を出し、虐殺事件まで引き起こした韓国とは、この点で大きく異なっています。
 第2に、自衛隊員を戦火から守るバリアーだったということです。安保体制によって自衛隊はイラク戦争に引きずり込まれましたが、「非戦闘地域」で活動した陸上自衛隊は基本的には「戦闘」に巻き込まれず、殺すことも殺されることもなかったのは9条のおかげでした。
 第3に、戦後における経済成長の原動力だったということです。これが「9条の経済効果」であり、平和経済の下で国富を主として民生や産業振興に振り向けることができた結果、一時はアメリカと経済摩擦を引き起こすほどの経済成長を実現することができました。
 第4に、学術研究の自由な発展を促進する力でもあったということです。日本学術会議は9条の趣旨を学術にあてはめて軍事研究を拒否してきたため、兵器への実用化や軍事転用などに惑わされることなく地道な基礎研究に専念し、ノーベル賞並みの研究成果を上げることができました。
 第5に、平和外交の推進を生み出す力だったということです。しかし、残念ながらこれは可能性にとどまりました。日本外交はアメリカの後追いにすぎず、平和な東アジアを構想する力がなく将来のビジョンもうち出すことができなかったからです。9条を活かした「活憲の政府」による独自外交に期待するしかありません。
 今回の参院選は憲法を放棄する「棄憲の国」か、憲法を活かす「活憲の国」かという二つの道の分かれ目にありました。前者は現在の与党と維新などの補完野党による9条改憲によって作られる国であり、後者は立憲野党の連合政権によって築かれる国です。日本の未来を切り開き希望を生み出すのは、後者の道しかありません。そのためのたたかいはこれからも続きます。

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