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8月12日(金) 参院選の結果と憲法運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕


2 選挙戦の特徴と要因

(1)厳しい情勢と岸田政権の手ごわさ

 以上に見たように、参院選の結果を一言でいえば野党側の自滅と言ってよいものでした。このような結果をもたらした背景と要因は何でしょうか。
 今回の参院選の背景となった情勢はもともと野党にとっては厳しいものでした。野党側はそのような情勢の下での決戦を強いられ、効果的な反撃ができずに自滅したということです。それは、大きく分けて長期・中期・短期の3層構造をなしていました。
 長期的に見れば、第2次安倍政権以降、着々と進行してきた日本社会の右傾化・保守化という問題があります。これは実質賃金の停滞や年金の削減、2度にわたる消費税の増税、アベノミクスと新自由主義政策の失敗、新型コロナウイルス禍による生活苦と営業・雇用の困難などを通じた中間層の没落と貧困化の進展を背景にしたものでした。それは維新の会への支持の増大、NHK党の勃興や今回の選挙での参政党の進出、労働組合・連合の保守化と自民党への接近などの要因にもなっています。
 中期的には、岸田政権の登場とロシアのウクライナ侵略による好戦的雰囲気の拡大、国民の不安の増大と安全保障への関心の強まり、大軍拡・9条改憲の大合唱などを挙げることができます。強権的な安倍・菅政権という前任者とは異なるソフトでリベラルな印象の岸田文雄首相の手ごわさ、内閣支持率の安定と自民党支持率の高さなどに加え、「聞く力」を前面に対立を避け、安全運転に徹して聞き流すだけで何もしない岸田首相の政治姿勢が功を奏したということでしょうか。
 そして短期的には、安倍晋三元首相に対する銃撃と死去という衝撃的な事件の影響があります。参院選投票日2日前の最終盤という微妙な時点で勃発したこの事件によって自民党に同情が集まり、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)の名前が隠され安倍元首相との関係も明らかにされることなく、その死が政治的に利用されたようにみえます。
 序盤で堅調とされていた与党ですが、物価高騰が選挙戦の争点に浮上してくるなかで守勢に回り勢いが弱まっていたのではないでしょうか。それが安倍首相の死によって巻き返しに転じ、自民党は当初の堅調さを回復して勝利したというわけです。

(2) 野党の失敗と混迷

 このように厳しい情勢の下で、ただでさえ弱体化した野党は決戦を強いられました。本来であれば、対抗するための強固な陣形を築くべきだったにもかかわらず、右往左往するばかりでした。「これでは勝てない」と選挙の前からある程度予想できるような対応に終始した結果、負けるべくして負けてしまったようにみえます。
 何よりも大きな問題は、昨年の総選挙の総括を間違えたことにありました。政権との対決の強化と野党間の共闘の再建こそ野党勢力にとって必要な最善の策だったにもかかわらず、その逆を選択してしまったからです。
 総選挙後、自民党やメデイアなどから野党に対して「批判ばかりだ」という批判が沸き起こり、それにたじろいだ国民民主は政権にすり寄りました。当初予算に賛成して内閣不信任案に反対するなど補完政党へと転身したのです。これに引きずられる形で立憲民主も政権批判を手控えて対案路線に転ずるなど、維新の会を含めた翼賛体制づくりの波にのまれていきました。これでは政権の問題点が明らかにならず、与党を追い詰めることもできません。
 加えて、「共闘は野合」「立憲共産党」などの分断攻撃に屈し、連合による揺さぶりによって腰が引けた立憲民主党の執行部は、共産党との連携や野党共闘に対して消極的な姿勢を強めてきました。まさに、自民党の思うつぼにはまってしまったというわけです。
 その結果、32ある一人区での共闘は11にとどまり、たったの4勝に終わりました。こうなることは選挙の前からある程度予想されていたことです。一人区での分裂が自民党に漁夫の利を与えて参院選での勝利をもたらすことは自明でした。
 野党間の共闘に向けて真剣な取り組みを行わなかった立憲民主と、背後から揺さぶりをかけ続けた連合の責任は大きいと言うべきでしょう。形だけの共闘によって表面を取り作ってみても、真剣さが欠けていれば本気の共闘にはならず、力を発揮することができないのは当然です。
 このように、政権チェックという野党の本分を忘れて批判を手控えるという戦術的な失敗と、連合政権を展望した共闘の構築から後退して形だけの選挙共闘に矮小化するという戦略的な混迷に陥った点に大きな問題がありました。この戦術的な失敗と戦略的な混迷こそが、今回の参院選で野党のオウンゴールを生み出した最大の要因だったのです。


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8月11日(木) 参院選の結果と憲法運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 参院選が終了し、与党の勝利、野党の敗北という結果が出ました。野党にとっては厳しい情勢の下での選挙となり、結果も残念なものとなりました。とりわけ、改憲勢力とされる政党の合計議席が参院での発議に必要な3分の2を超えたことは重大です。
 この結果が憲法の改定を目指す勢力にとっては有利に、改憲阻止を目指す勢力にとっては不利に働くことは否定できません。9条改憲を阻もうとする憲法運動にとっては重大かつ危険な局面が生じ、大きな課題を提起するものとなりました。
 このような結果になった背景としては、新型コロナウイルス感染第6波の収束、ウクライナ侵略による好戦的雰囲気の強まり、大軍拡と改憲の大合唱、岸田政権の支持率の安定と自民党支持率の高さ、野党の分断と一人区での共闘の不十分さがありました。それに加えて、選挙最終盤での安倍晋三元首相への銃撃・殺害による自民党への同情票の増大などがあったと思われます。
 参院選がなぜ、どのようにしてこのような結果になったのか。各党の選挙結果とその意味はどのようなものなのか。それが今後の政治と憲法運動にどのような課題を提起することになるのか。憲法運動はどう対応するべきなのか。以下、これらの問題について検討したいと思います。

1 参院選の結果

(1)勝たせてもらった与党

 参院選での各党の当選者数は、別表(省略)の通りになっています。全体の特徴は「与党が勝利した」というよりも、野党間の共闘の不十分さや乱立による票の分散などで対応を間違え、「野党が敗北した」といった方が良いような形になりました。オウンゴールによって自民党は勝利を「プレゼント」されたのです。
 自民党は選挙区で45議席、比例で18議席の合計63議席となり、改選前から8議席増やしました。今回の選挙で争われた選挙区74議席と比例50議席に神奈川選挙区の欠員を合わせた125議席の過半数を単独で確保し、メディアでは「大勝」「圧勝」などと報じられています。
 しかし、その内実は全く違っています。自民党が支持を増やした結果ではないからです。政党支持の実態が比較的正確に示される比例で昨年10月の総選挙と比べれば165万票も減らし、議席で1議席減となっています。有権者全体の中での支持を示す絶対得票率は16.8%にすぎず、2割を切りました。
 自民党が支持を減らしているにもかかわらず議席を増やした秘密は選挙区にあります。特に32ある一人区では28勝4敗となり、前回より6議席も増やしています。特に沖縄県を除く西日本では自民党が全勝しました。
 公明党は選挙区で現職7人が立候補して全議席を維持しましたが、比例では昨年の総選挙に比べて93万票減らし、1議席減の6議席となって計13議席にとどまりました。支持者の高齢化などに加え、自民との相互推薦の難航が背景にあるとみられています。
 公明党も選挙区では野党乱立の恩恵を受けました。大阪の場合、59万票で最下位の4位当選でしたが、共産・立憲・れいわが調整して一本化すれば65万票となり、当選は難しかったかもしれません。
 
(2) 試練に直面した立憲野党
 
 立憲民主党は神奈川県選挙区での5位補欠当選(任期3年)を含めて選挙区6減の10議席、比例は改選7を維持して合計17議席を獲得しました。改選前からは6議席減ですが、それは全て一人区での敗北でした。一人区では、青森と長野で勝利しただけで、旧民主党の力が強かった岩手と新潟でも議席を失っています。
 一人区での議席減は野党共闘が不十分だったことの結果です。前回は全てで共闘が成立し10勝をあげましたが、今回は11選挙区に限られ、青森と長野、沖縄で当選しただけです。本来であれば、野党第一党として共闘のかなめになるべき立憲民主が十分な役割を果たすことできず、野党支持者の失望を招きました。
 立憲民主の得票は、昨年の総選挙での比例と比べて472万票も激減しています。これは共闘しなければ勝てないことが分かっているのに背を向けた立憲への支持者の怒りの表れではないでしょうか。支持団体である連合の干渉と妨害に屈し、国民民主の与党へのすり寄りに動揺して共闘に積極的に取り組まず、市民と野党の政策合意にしても協定に各党の党首が署名するのではなく口頭での約束にとどまりました。
 日本共産党は東京選挙区で議席を維持しましたが、比例では2議席減の3議席となって合計4議席にとどまっています。昨年の総選挙の比例から55万票も減らし、3年前の19年参院選比例と比べても86万票の減です。
 共産党はその要因について、常任幹部会声明で「指導的イニシアチブを十分に果たせなかった」ことと「自力をつけるとりくみ」の「立ち遅れ」を指摘しています。野党共闘を進めるとともに、共産党の自力を強め支持をどう増やすのか、有事における自衛隊「活用」論についての理解をどう広げていくのかが今後の課題でしょう。
 同時に、東京で示された前進面を学ぶ必要もあります。NHKの出口調査では無党派層の投票先で1位でした。選挙ボランティアに若い人の姿も目立ち、SNS(ネット交流サービス)での情報発信も有効でした。山添拓候補は憲法9条にもとづく平和構築を直球で訴え、ほかの野党との違いを明確にし、大軍拡や9条改憲に反対する都民の願いを受け止め維新を退けて当選することができたのです。
 れいわ新選組も東京選挙区で山本太郎代表を当選させ、比例で2議席を得て合計3議席となりました。若い層や革新無党派層からの支持を広げ、一定の地歩を確保しています。
 社会民主党は比例で福島瑞穂党首が当選して改選前の1議席を維持し、得票率も2%を超えたために政党要件を維持できました。2%に達しなかった昨年の総選挙より24万票増やしたためですが、それは共産支持者による戦略的投票の結果かもしれません。

(3) 存在感を示した補完野党

 日本維新の会は選挙区で4議席、比例で8議席の合計12議席を獲得し、改選前の6議席から倍増しました。特に、比例区では立憲民主党を上回り、野党第一党となって存在感を示しました。
 しかし、東京と京都では次点で落選しています。大阪・兵庫などの近畿以外での当選は神奈川だけでしたが、松沢成文候補は元県知事ですべてが「維新票」とは言えません。基本的に「全国政党」化は成功せず、一時の勢いを失って頭打ちとなりました。
 昨年の総選挙での比例と比べても、20万票ほど減らしています。その支持層の多くは比較的恵まれた現役世代のホワイトカラーなどで、貧困化が進み中間層が没落するなかで不満を強め、将来への不安もあって「改革幻想」に期待を寄せた人ではないかとみられます。その一部は同じような性格のNHK党や参政党に流れたかもしれません。また、維新は暴言やスキャンダルなどが多く、問題候補者の「吹き溜まり」のようになっています。その実態が知られるようになって支持を失っている可能性もあります。
 国民民主党は選挙区で2議席、比例区で3議席の合計5議席を獲得しました。改選前からは2議席の後退です。「対決から解決へ」と言って予算案に賛成し、政権への接近を強めた国民民主の変身は必ずしも効果を生んでいるとは言えません。
 NHK党は82人を立候補させて比例で1議席を獲得し、選挙区・比例とも得票率2%に達して政党要件を維持しました。立花孝志党首は政党助成金目当ての大量立候補を公言し、22年度は2億6000万円が助成されると推計されています。このような立候補が許されるのか、改めて助成金の趣旨に反する問題点を浮かび上がらせました。
 諸派では新たに参政党が比例で1議席を獲得し、政党要件を満たしました。参政党が力を入れて取り組んだユーチューブへの動画投稿などSNSを通じて急速に関心を広げた結果だとみられています。

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8月10日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月10日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「飛び交う人事情報 目くらまし内閣改造に加担の大マスコミ」

 8日に公表されたNHKの最新世論調査(5~7日実施)で、内閣支持率は3週間前の前回から13ポイントもの大幅下落の46%。昨年10月の岸田内閣発足後で最低に落ちた。自民党の統一教会“汚染”が影響したのは確実で、「統一教会と政治との関係について、政党や国会議員が十分説明していない」が82%に上った。

 10日の改造に向け、大マスコミが人事の情報を連打し続け、改造後も新大臣の横顔やら抱負やらを報じてくれれば、支持率への悪い影響は緩和されると岸田はシメシメ。統一教会隠しの国民目くらましに、メディアがまんまと乗っかってくれる。岸田は笑いが止まらないだろう。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「統一教会問題では現職閣僚との歪んだ関係があったり、安倍派が最も親密だったりと、人事に絡めた報道がそもそも多かった。そこへ内閣改造ですから、安倍派の処遇はどう変化するのか、派閥ごとの閣僚の人数は……などに焦点を当てた報道ができるので、メディアにとって今回の改造は、いつにも増して格好の材料になっている。それこそが岸田首相の狙い通り。名称変更問題など統一教会に政治が便宜を図った可能性があるのか、教団がどこまで政治に浸透しているのかなど、国民が知りたい疑問を追及する報道が改造をきっかけに減ってしまう恐れがある。メディアには岸田首相の邪な狙いにハマらないようにしてもらいたい」

 統一教会の組織票によって、1人の議員の当落が左右される。そして、当選した議員は今も堂々と自民党に所属している。「党との組織的な関係はない」と繰り返す茂木幹事長の詭弁はチャンチャラおかしい。

■持ちつ持たれつの腐れ縁

 「自民党と統一教会の関係は、持ちつ持たれつの腐れ縁で、お互いに利用価値があるから続いている。自民党は業界団体頼みの選挙をやってきた。しかし、時代が移り、業界団体がどんどん弱体化している。そんな中で、頼りになるのが宗教団体です。『社会的に問題が指摘される団体との関係は十分注意し』と岸田首相は言いますが、関係議員はできれば手を切りたくない、いつまでも裏で支えてもらいたい、というのが本音でしょう」(五十嵐仁氏=前出)

 だからなのか、岸田は発言とは裏腹に、統一教会問題に腰が引け気味だ。


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8月8日(月) 自民に「漁月夫の利」与えた参院選(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『全国商工新聞』第3517号、8月1日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 分断攻撃に屈し 戦術戦略で失敗

 このような不利な情勢の下で選挙に臨んだ野党でしたが、昨年の総選挙の総括を間違えて戦術的な失敗と戦略的な混迷に陥りました。政権との対決の強化と野党間の共闘の再建こそが必要な策であったにもかかわらず、その逆を選択してしまったからです。
 総選挙後、「批判ばかりだ」という批判にたじろいだ国民民主は「対決より解決」を掲げて政権にすり寄り、これに引きずられた立憲も政権批判を手控えて対案路線を打ち出すなど、維新の会を含めた翼賛体制づくりの波に飲み込まれました。これでは政府・与党を追い詰めることはできません。
 加えて、「共闘は野合」などの分断攻撃に屈し、連合による揺さぶりによって腰が引けた立憲は野党共闘に消極的な姿勢を強め、自民党の思うつぼにはまってしまいました。立憲が比例で大きく得票を減らしたのは、野党共闘の要としての役割を果たせず有権者の失望を招いたからです。
 その結果、32ある1人区での共闘は11にとどまり、自民28勝、野党4勝という結果に終わりました。こうなるのはある程度予想されていたことで、一人区での分立が自民党に漁夫の利を与え、勝利をプレゼントしたのです。共闘に向けて真剣な取り組みを行わなかった立憲と、背後から足を引っ張った連合の責任は大きいと言うべきでしょう。

 「活憲の政府」へ 展望生む運動を

 今後の課題の第1は、コロナ禍と物価高から命と暮らしを守るために、医療体制を整備し、消費税の減税とインボイスの中止などを求めていくことです。新型コロナの第7波が訪れ、値上げの大波が押し寄せてくるのはこれからですから。
 第2の課題は、大軍拡・9条改憲阻止のための憲法闘争です。選挙後、岸田首相は改憲に向けて「できるだけ早く発議」することを強調していました。戦争に巻き込む安保体制とそれへの防波堤となってきた憲法9条の相互関係、9条改憲によって「失うものの大きさ」と「招き寄せるリスクの危うさ」を、事実に照らして説得的に訴えることがますます重要になります。
 第3の課題は、野党共闘を再建することです。きちんとした総括と反省の上に立って、草の根から立て直していかなければなりません。
 これらを通じて、憲法に寄り添い活かせる「活憲の政府」に向けての展望を生み出すことが第4の課題です。国政選挙での審判を受けることのない「黄金の3年間」を許さず、自民党と旧統一協会の闇の解明などによって早期に与党を追い込んで、解散・総選挙を勝ち取りましょう。

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8月7日(日) 自民に「漁夫の利」与えた参院選(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『全国商工新聞』第3517号、8月1日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

消費税減税、憲法闘争広げ
共闘再建で解散総選挙早く

 日本の命運をかけた参院選が終わりました。新型コロナ禍や物価高などによって傷ついた国民生活をどう立て直すのか、ロシアによるウクライナ侵略を受けて日本の安全保障をどうするのか―などが大きな争点となった選挙でした。
 選挙結果は与党が過半集を維持して勝利しています。自民党は改選過半数の63議席を確保し、1減で13議席となった公明党と合わせて76議席になりました。しかし、自民党は比例で昨年の総選挙から165万票も減らし、有権者全体の中での絶対得票率は16.8%でした。支持を減らしているにもかかわらず、一人区で議席を増やして勝たせてもらったのです。
 憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」は179議席となり、発議に必要な3分の2である166議席を上回りました。
 対する野党は、立憲民主党が選挙区で6減の10、比例は改選7を維持して17議席、維新の会は選挙区で1増の4,比例は5増の8となって12議席に倍増しました。比例では立憲を上回って野党第一党となっています。
 日本共産党は東京で1議席を得たものの比例では2減の3となって合計4議席、国民民主党も改選7から2減の5議席、れいわ新選組は3議席、社民党は1議席を得て得票率が2%を超え、政党要件を維持しました。このほか、NHK党と諸派の参政党がそれぞれ比例で1議席を得ています。

 野党不利の情勢 銃撃事件加わり

 野党が敗北した理由の一つは、厳しい情勢の下での選挙だったということにあります。事前の選挙予測でも与党の堅調が伝えられていました。
 その第1は、安倍内閣以降、顕著になってきた日本社会の右傾化や保守化の流れがあります。実質賃金の低下や2度にわたる消費税の増税、新型コロナ禍での生活苦や営業の困難などによる中間層の没落、貧困化などからくる不満や不安が未来志向の「改革」幻想に期待を寄せ、維新の会やNHK党、参政党への支持増大、連合の保守化などをもたらしました。
 第2は、岸田政権の登場とロシアのウクライナ侵略による好戦的雰囲気、安全保障への関心の強まりと大軍拡・9条改憲の大合唱などです。ソフトな印象の岸田首相の手ごわさ、内閣支持率の安定などに加え、「聞く力」を前面に対立を避け、安全運転に徹して聞き流すだけで何もしない岸田首相の政治姿勢が功を奏しました。
 そして第3には、安倍元首相に対する銃撃死という衝撃的な事件の影響があります。投票日2日前に勃発したこの事件によって自民党に対する同情が集まり、物価高対策で失った支持を盛り返したのではないでしょうか。
(続く)



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8月6日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月6日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「岸田首相が豪雨やコロナ対策そっちのけで“高級会食三昧”! 参院選勝利で危機感ゼロに」

 それは岸田首相の1日を報じる「首相動静」を見れば顕著だ。参院選後、4日までに岸田首相が家族以外と夜に会食したのは9回。相手は自民党議員、大メディア幹部、全銀協会長など大企業トップらで、先週は金曜を除く平日4日間びっちりだった。

 一方で、同期間にコロナ対策に当たる事務方と会ったのはわずか4回。動静に厚労省の事務次官や医務技監が登場したのは、7月11日、7月22日、7月28日、そして8月4日だけだ。永田町関係者は「昨夏の『第5波』では、当時の菅首相は毎日のように厚労次官や医務技監を呼んでいました。それに比べ、岸田首相は危機意識が薄いと言わざるを得ません」と呆れる。

 そもそも官邸内では、7月以降、官房長官や首相補佐官に加え、首相秘書官3人が次々感染するなど「クラスター発生」と呼んでもおかしくない状況だ。それでも岸田首相が会食を控えることはない。

 「参院選勝利で自民1強体制がさらに確立したため、状況を見くびり、緊張感が欠けている。岸田首相は積極的な対応策を取ろうとせず、今まで通りで切り抜けようとするタイプですしね」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

 この首相に舵取りを任せていてはヤバイ。


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8月5日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月5日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「カルト汚染、コロナ無策 それでも岸田内閣の支持率5割超とは」

 忘れてならないのは、岸田が大メディアの大アマ弛緩報道でいい気になっている間、国民生活がどんどん苦しくなっていることだ。

 ロシア軍のウクライナ侵攻と円安で、物価はかつてないほどの勢いで上昇。生活に欠かせない食料や光熱費など生活必需品の伸び率は6月に4.4%という高水準に達した。それでいて賃金はさっぱり上がらないのだからニッチもサッチもいかなくなる家庭が急増するのは当然。厚労省が3日発表した5月の生活保護の申請件数は全国で2万353件と、前年同月比で1953件も増加した。

 円安、物価高、低賃金、コロナ感染拡大を放置し、外遊もパッとしない。こんな政権がダラダラ続くことは国民にとって悲劇と言うより他ない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「岸田首相が掲げていた『聞く力』とは『聞き流す力』。党内や野党と対立しないよう『何もしない』ことで高い支持率を維持してきたわけで、それが今の新型コロナに対する政府の姿勢にも表れている。つまり、何もせず、自治体や医療機関、個人に対策を丸投げしているのです。物価高や円安について積極的に取り組む様子がみられないのも、ヘタに動けば反対意見などが出て対立する恐れがあるため、避けているのでしょう。今国会を3日間という短期間で閉じてしまうのも、苦境にあえぐ国民生活に本気で向き合う気がないと言えます」

 もはや「不作為犯」となった岸田政権に対し、国民は怒りの声を上げるべきだ。


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8月4日(木) 参院選の結果とたたかいの課題 [論攷]

〔以下のインタビュー記事は安保破棄中央実行委員会の機関紙『安保廃棄』第495号、8月号に掲載されたものです。〕

 改憲と大軍拡を止めるために何が必要か

◇今回の参議院選挙の結果をどのように見られますか。

 自民が支持減らして勝った理由

 五十嵐 自民党は勝ったというより勝たせてもらった、野党が負けたといったほうが良いのではないでしょうか。野党側のある種の“オウンゴール“だったと思います。自民党は支持を減らしたのに全体としての議席を増やし、改選過半数を獲得しました。その結果、公明党が1議席減らしたのに与党議席で参議院の多数を維持することができたのです。
 しかし、自民党の比例票を昨年の総選挙と比較すれば165万票も減っています。議席も1減っており、有権者比の絶対得票率は16.8%にすぎず2割未満です。
 自民党は支持を減らしていたのに、なぜ議席を増やすことができたのか。それは野党が1人区で「1対1」の構図に持ち込むことができず、自民党が28勝4敗と圧勝したからです。
 立憲民主は野党第1党として野党をまとめて自民党と対抗する陣立てをつくる責任がありました。しかし、共闘に対して後ろ向きで十分な役割を果たすことができませんでした。そのために期待を裏切って信頼を失い、とくに1人区で勝てず、大きな敗北を喫しました。共産党は比例で総選挙から56万票減らし、議席も6から4に後退しています。維新が議席を増やしたのは、生活苦に不満を持つ中間層の受け皿になったからではないでしょうか。

◇野党が前進できなかった原因はどこにあると思いますか。

 政権すり寄りで野党共闘が後退

 五十嵐 端的にいえば、総選挙の総括を間違えたからです。その結果、とるべき方針とは逆の方向を選択してしまった。戦術的失敗と戦略的混迷です。
 戦術的失敗というのは、「野党は批判ばかり」という批判にたじろいでしまったことです。国民民主の場合は「対決よりも解決」として政権にすり寄り、立権民主も「対案路線」に転換し、選挙前の通常国会では政権批判を十分展開できませんでした。結局、「翼賛体制」づくりの波に呑まれたということです。これでは政権を追い込めません。
 2つ目の戦略的混迷とは、野党共闘の重要性を理解できなかったということです。野党共闘の意味は、当面の選挙で勝つための戦術というレベルにとどまりません。政権交代を単独で実現できない以上、立権・共産・社民・れいわの立憲野党による連立政権を戦略目標として追求するしかありません。この点で腹をくくらなければならなかったにもかかわらず、その位置づけが不十分で共闘に腰が引けたまま本気の取り組みができませんでした。
 総選挙の時は市民連合を仲立ちにして政策協定を結び、各党首が署名しました。しかし、今回は口頭了解で、32の1人区のうち、ようやく実現した11選挙区での共闘も形だけにとどまりました。複数区でも、野党が共闘すれば勝つ可能性がありましたが、それを汲みつくせず、野党は負けるべくして負けたと言えます。
 
◇選挙後の岸田政権の特徴とたたかいについて。

 改憲・軍拡が容易ならざる局面

 五十嵐 容易ならざる危険な局面に立ち至ったと思います。
 昨年の衆議院選挙で改憲議論に反対しない勢力が3分の2を超えていますし、今回の選挙でも、自民・公明・維新・国民民主が3分の2を大きく超えました。
 昨年の総選挙以降、衆議院の憲法審査会では予算審議と併行して議論したり、毎週議論したり、自民党の改憲4項目についても議論するなど、暴走が始まっています。今後は衆議院と歩調を合わせて暴走する危険性があります。自民と維新、公明と国民の間の違いがありますが、今後は改憲発議に向けて動き出す可能性もあり、それを阻止する運動が重要になってきます。
 また、岸田政権は年内に改定される国家安全保障戦略など3文書に大軍拡方針を書き込むこと、来年度予算に向けて軍事費を増やし、5年以内にGDP比2%、11兆円にまで増大することをめざしています。「反撃能力」=「敵基地攻撃能力」保有は、国連憲章の禁止する先制攻撃につながります。軍拡競争の激化を招くことは確実です。

 9条の役割を歴史に即し明確に

 この問題で大事なのは、憲法9条のありがたさ、これを変えることで失うものの大きさを説得的に発信することです。憲法9条は戦争に巻き込まれることを防ぐ「防波堤」です。逆に、安保条約=日米軍事同盟は日本を戦争に引き込む「呼び水」でした。
 その実例は、アメリカが始めた不正義のベトナム戦争やイラク戦争です。安保があるために日本は協力させられましたが、憲法9条があるために全面的な参戦は求められませんでした。ベトナムに自衛隊を送らなかったことは非常に大きなことです。韓国は延べ30万人の兵士を送り、5千人近い若者が命を失っています。日本は憲法9条の制約によって、このような悲劇をまぬかれました。
 イラク戦争で自衛隊はイラクに派遣させられましたが、サマワで陸上自衛隊は給水や道路補修などに従事して戦闘には加わっていません。殺すことも殺されることもなかった。イラクに行った自衛隊は9条のバリアーに守られていたのです。9条を変えることはこのバリアーをなくすことになります。このことを国民に思い出してもらうことが大切です。

 米軍基地・安保のない構想を

 沖縄の米軍基地も日本や沖縄にとってだけでなく、アメリカにとっても無いほうが良かったのです。ベトナム戦争でアメリカの若者が5万8千人も亡くなっています。アメリカはトンキン湾事件をでっちあげてベトナムに軍事介入しましたが、ベトナム戦争で国際的地位を低下させ、ドルの支配力を弱め、多くの若者を失いました。
 沖縄の基地がなければベトナム戦争に介入していなかったかもしれません。あれだけ長く続けられなかったかもしれない。アメリカは基地があったから、戦争という強硬手段に出てしまった。
 いま、アメリカが中国包囲網を強めて「台湾有事」が危惧されています。この問題でも、沖縄や南西諸島に米軍や自衛隊の基地が無いほうが良いのです。アメリカが始めるかもしれない戦争にブレーキがかかるからです。近くに基地があるからということで戦争を始められたら大変なことになります。戦争しにくい状態をつくっておくことこそが戦争を防ぐことになります。この点でも、沖縄の基地を1日も早く撤去することが重要です。
 日本は、本来であれば憲法9条に基づいて平和外交ビジョンを示さなければなりませんでした。それは、①必要最小限の防衛に徹して海外派兵を行わない、②軍事同盟に加盟せず外国の軍事基地を置かない、③仮想敵国をつくらず、対立する国のどちらにも加担しない、④東南アジアの非核武装地帯を東北アジアにも拡大する、⑤すべての国を含む集団安全保障体制を東アジアに構築するというものです。
 このようなビジョンの実現をめざして安保条約のない平和構想を示さなければなりません。それが9条改憲を許さない世論作りにも、大きな力になると思います。


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8月2日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月2日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「こんな連中しかいないのか 自民党の2世3世のろくでもなさ」

 世襲議員の多い自民党内でも、祖父・父ともに首相経験者は福田のみ。ピカピカの政界サラブレッドは次世代の首相候補として、もてはやされている。昨年の総裁選では、かつて祖父が設立した「党風刷新の会」をもじり、若手有志「党風一新の会」を率いて岸田首相を支持。その論功もあって当選3回ながら“目玉人事”として総務会長に抜擢された。そんな恵まれ過ぎる政治家3世の「オツムのレベル」はたかが知れていることが、今回のデタラメ発言と認識でよ~く分かった。

 まさに2世、3世議員がはびこる自民党のお里が知れる劣化だが、その象徴は安倍元首相だろう。統一教会との癒着は親子3代。安倍自身、選挙のたびに統一教会の組織票を差配する役割を担っていた旨を、引退した伊達忠一前参議院議長に指摘されている。

 自民党と反社教団との癒着を深め、現トップの韓鶴子総裁に敬意を表するビデオメッセージまで送った人物が、長く首相を務めたというだけで最高位勲章「大勲位菊花章頸飾」の授与が決まり、国葬で見送られるのだから、世も末である。

 安倍の国葬に際し、小中学校に半旗掲揚を要請する自治体も相次いでいるが、このレベルの政治家を「偉大だ」と崇めていいのか。おまけに安倍後継の4代目も実兄の長男が有力視される一族タライ回しとなりそうで、それを当然のように認めるであろう自民党のトップはこれまた3代目。祖父も父も衆院議員だった岸田である。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。

 「親の信仰で自由や財産を奪われる『宗教2世』の問題がクローズアップされていますが、政界の2世、3世とは好対照です。不幸のどん底に追い込む統一教会に支援され、権力の座を世襲するとはいいご身分です。自民党内から教団との関係を切れという声が上がらないのは、もはや身内意識が強く、教団の実態を客観視できないからでしょう。また、世襲議員の多くは選挙に強く、世の動向とは無関係に当選するから、世論の批判に機敏に対応できない。苦労知らずの世間知らずは世襲3代の岸田首相も同じ。世論を見極めもせず、安倍元首相の国葬を即断即決したことに世襲議員の甘さがうかがえます」

 岸田以下、自民党内にはこんな連中しかいないのか。国民はただただボー然とするほかない。


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