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11月9日(水) 岸田政権を覆う統一協会の闇 癒着議員抜きでは組閣できず(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『治安維持法と現代』No.44、2022年秋季号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

はじめに

 参院選の最終盤。驚天動地の事件が勃発しました。7月8日に遊説先の奈良県近鉄大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が銃撃され、その後死亡が確認されたからです。
 選挙戦の最中、衆人環視の下で発生した白昼公然たる重大犯罪です。決して許されないものですが、その結果、明らかになった事件の背景も許されざるものでした。
 逮捕された山上徹也容疑者は「母親が宗教団体にのめり込んで破産した。家庭をめちゃくちゃにした団体を、安倍氏が国内に広めたと思って狙った」と述べたからです。世界平和統一家庭連合(統一協会)によって家庭を崩壊させられ個人的に恨みを抱いており、その関連団体にビデオメッセージを送って「広告塔」の役割を果たしていたのが安倍元首相だったので狙ったというわけです。
 その後の展開も驚愕の連続でした。これほど深い闇がかくも幅広く長い期間にわたって日本の政界を覆い、政治と行政を歪めてきたのかと、驚くほどの事実が次々と明らかになってきたからです。その中枢にあったのが自民党の清和会(安倍派)であり、安倍元首相でした。
 
安倍銃撃死で急変した参院選

 安倍元首相が倒れたのは参院選投票日の2日前です。この銃撃殺人は選挙の結果にも大きく影響したように見えます。事件に衝撃を受けた有権者は同情を寄せ、自民党は「弔い合戦」と位置付けて攻勢を強めたからです。メディアは当初、「特定の宗教団体」というだけで「統一協会」の名前を隠していました。
 参院選についてはすでに皆さんご存じのとおり、残念な結果に終わりました。与党の自公が多数を維持して立憲民主・共産の両党が議席を減らし、改憲勢力が3分の2を超えています。もともと選挙情勢は野党にとって厳しいもので、自民党の圧勝が予想されていました。
 安倍・菅政権の下で貧困化と格差の拡大が進み、中間層の没落を背景に社会の保守化と右傾化が深まりました。2月に始まったウクライナ侵略の影響で好戦的雰囲気が高まり、岸田新内閣に対する支持率も堅調に推移していました。
 これらの「逆流」に対して、野党は本気の共闘で巻き返す必要がありました。しかし、総選挙後に高まった「野党は批判ばかり」という批判にたじろいで追及を手控え、共闘についても32ある一人区での一本化は11選挙区にとどまりました。「漁夫の利」を得た自民党は有利な形で選挙を迎えることになったのです。
 しかし、選挙が始まってから、コロナ対策の失敗や医療崩壊、収入減や物価高騰への無策などもあって自民党は苦戦し始めました。この選挙情勢を一変させたのが、安倍元首相に対する銃撃事件です。失われかけていた支持が一気に回復し、再び与党優勢に転じたように思われます。

あぶり出された統一協会との癒着

 参院選に勝利した岸田首相は、解散・総選挙が無ければ国政選挙での審判を免れ、改憲発議などの諸課題の実現に専念できる「黄金の3年間」を手に入れました。岸田首相としてはじっくりと組閣構想を練って長期政権の基礎を固めるつもりだったでしょう。
 しかし、安倍銃撃事件を契機に統一協会と政治との癒着の闇に光が当たり、次々と新事実が明らかになるに及んで事態は急転しました。岸田内閣への批判が強まり始めたのです。危機感を強めた岸田首相は安倍元首相への弔意を支持回復に利用するために「国葬」とすること、統一協会と関係のある閣僚を排除するために内閣改造を早めることを決断しました。
 ところが、事態はさらに暗転します。とりわけ大きな批判を呼び起こしたのは安倍首相に対する「国葬」でした。戦前の国葬令は廃止され、憲法に反し、法的根拠はなく、国会での議論も議決もなしに閣議決定だけで決めてしまったからです。法に基づかない財政支出は財政民主主義に反します。特定の個人に対する特別扱いは法の下の平等に反し、弔意の強制は内心の自由を犯します。
 しかも、特別扱いされる対象が数々の批判と疑惑にさらされてきた安倍元首相でした。アベノミクスによって収入は減り、円安と物価高をもたらし、国民生活を苦しめています。特定秘密保護法や「共謀罪」法、戦争法(平和安全法制)の制定などによって憲法を踏みにじり、コロナ対策でも「アベノマスク」と一斉休校などの失政を繰り返してきました。
 アメリカの言いなりに武器を爆買いし、北方領土の「2島返還」論でプーチンに取り入り、拉致問題は利用するだけで一歩も動かず、モリカケ桜前夜祭については国会で118回も嘘の答弁を繰り返し、公文書の改ざんを苦にした自殺者まで出しています。このような人をなぜ17億円もかけて「国葬」し美化しなければならないのでしょうか。
 多くの疑問や批判が寄せられるのはあまりにも当然です。その後も「国葬」に対する国民の反対は高まるばかりで、改造されたにもかかわらず支持率はほとんど増えず、中には減ったものさえありました。
 最も象徴的なのは『毎日新聞』の世論調査で、内閣支持率は改造前から16ポイントも激減し、36%になってしまいました。通常の内閣改造では「ご祝儀」として支持率が上昇しますが、今回は「罰金」を取られたようなもので、3割台の「危険水域」に入り込んでしまったというわけです。

統一協会をめぐる政治の闇

 ところで、統一協会とはどのような団体なのでしょうか。1954年に文鮮明によって韓国で設立され、「世界基督教統一神霊協会」と名乗っていたように、キリスト教系の新興宗教の一種と見られています。2012年に教祖の文鮮明が死去した後は、妻の韓鶴子がその跡を継いで組織全体の責任者になりました。
 統一協会の発足にあたっては、アメリカのCIAや韓国のKCIAなどの支援があったとされています。日本に進出して以降は、岸信介元首相、笹川良一や児玉誉志夫などの右翼の巨頭と結びつきました。安倍元首相が深いつながりを持っていたのは、祖父の岸や父親の晋太郎と続く「3代の因縁」があったからです。
 一般のメディアなどで統一協会は「旧統一教会」と表記されていますが、その本質は反日謀略工作機関であり、反共・改憲推進団体にして反社会的詐欺集団です。宗教団体としての仮面はこの本質を隠すための隠れ蓑にすぎず、「教会」という表記は正しくありません。
 協会は1994年に「世界平和統一家庭連合」と名称を変更し、日本では2015年に文化庁が改称を認証しました。しかし、この名称変更は世論を欺いて批判をかわすためのものにすぎず、「協会」の本質は何も変わっていませんから「旧」をつけるのも正しくありません。
 その実態は宗教団体ではなく、反社会的なカルト団体です。したがって、「信仰の自由」の名で霊感商法や巨額献金、集団結婚や信者へのマインドコントロールを弁解することはできません。政治家との癒着や持ちつ持たれつの腐れ縁も「宗教と政治」との関係ではなく、政治家と反社会的カルト団体との結びつきが許されるのかという問題なのです。
(続く)

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