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1月29日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月29日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「物見遊山の外遊で「土産を買うのが公務」とは ぶったまげた国民愚弄」

 岸田自身も翔太郎氏と同じ年の頃に、衆院議員だった父・文武氏の秘書となり、政界でのキャリアをスタートさせた。自分の「来た道」を歩ませることは近い将来、長男を後継ぎにする布石だろう。政治経験も行政経験もないのに、実の息子というだけで、いきなり首相秘書官という公職に抜擢したのは「世襲」を意識した箔付けに過ぎない。

 これぞ「異次元の少子化対策」を掲げる岸田の「子育て政策」なら、まさに国民の感覚とは次元が異なる。「ハナから『世襲ありき』のあからさまな人事は公私混同の極み。だから秘書官の長男も『公私』の分別がつかなくなるのです」と言うのは、法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)だ。こう続けた。

 「岸田首相は国民に対する『緩やかな挑戦』を繰り返しています。施政方針演説で『検討も決断も議論も全て重要であり必要だ。それらに等しく全力で取り組む』と豪語しておきながら、今国会も何一つまともに答弁しようとしません。いわゆる『敵基地攻撃能力』の保有についても、『専守防衛』から逸脱しているのは明白なのに、『必要最小限度の自衛の措置』と言い張って、かたくなに譲らない。これでは議論は成り立ちません。こうした嘘とゴマカシは、長男の『公用車観光』を正当化する言い訳にも、にじみ出ている。『神は細部に宿る』とは言ったもので、官邸総出で総理の息子をかばう詭弁にも、国民愚弄の政治姿勢は如実に表れています」

 ぶったまげた特権意識で国民をナメ切って、反省の色をおくびにも出さないのが岸田家の血統ならば、この親にして、この子ありか。

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1月27日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月27日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「物価高騰なのに軍拡増税 「新しい戦前」はもう始まっている」

 2023年も値上げラッシュとなるのは間違いない。帝国データバンクによると、4月までに値上げすることが決定している食品は、7000品目を突破しているという。給料も上がらないのに、国民の暮らしは、どうなってしまうのか。こういう時こそ、政治の出番なのではないか。ところが岸田首相は、国民が物価高に苦しんでいるのに、さらに負担増を強いる「防衛費増税」を強行しようとしているのだから完全にトチ狂っている。

 肝心の春闘については、関心が薄いのか、財界に賃上げを“お願い”している程度だ。

 「世論調査では、71%の人が物価高によって『生活が苦しくなった』と答えています。1世帯あたり年間7万円の負担増なのだから当然です。国民を守るということは、暮らしを守ることのはずです。ところが岸田首相は、差し迫ってもいないのに戦争に備えて防衛費を2倍にしようとしているのだから、どうかしています。いま攻撃を受けているのは、国土ではなく庶民の暮らしでしょう。軍拡より、まず暮らしの手当てです。優先順位が間違っている。防衛費をGDPの1%から2%に倍増するとしていますが、その分を生活支援に回すべきでしょう」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

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1月24日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月19日付に掲載されたものです。〕

*記事「岸田首相は甘すぎる 狭まる「反増税」包囲網」

 防衛財源に増税以外の方策を検討する「特命委員会」が16日、自民党内に発足。萩生田政調会長を委員長として、19日に初会合を開く。防衛財源については、年1兆円分を増税する方針は昨年決まったものの、その時期は未定。反増税派は増税そのものをひっくり返そうと虎視眈々だ。毎日新聞によれば、反増税派の一人は「血みどろの戦いにいなる」と今後を占ったという。「岸田おろし」の狼煙を上げたと騒ぎになっている菅前首相も反増税派だ。

 「コロナ禍に値上げラッシュと続き、世論の増税反対の声が大きくなるのは当然です。そんな時に税金を上げるという発想をするなんて、政治家の資格はありません。増税は簡単にはやれませんよ」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 岸田の見通しは甘いのではないか。通常国会での野党の進化も問われる。


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1月22日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月22日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「国民はよく黙っているものだ 支持率最低政権の“思いつき暴政”」

 作家の高村薫氏が週刊誌「AERA」で、〈岸田文雄首相はほんとうに目の前しか見えない人で、当面の政局や、自身の政治的な下心で動いているのが手に取るように分かります〉〈いろんな方面からつまみ食いで話を聞いて、アドバルーンを上げるんだけれども、いかんせんその先がない。現に「新しい資本主義」も、いまだに中身が見えません〉と言っていたが、その通りだろう。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「総裁選で勝利するために安倍元首相に跪いたのが岸田首相です。もともと、総理になって何をやりたいか、と問われ“人事”と答えたような人。最初から総理としてやりたい政策もなかったのでしょうが、今は総理でいること自体が最大の目的になっているのだと思います。何をしたいのか、この国をどこに導いていくのか、ビジョンや信念はなく、どうすれば政権浮揚につながるか、ということしか頭にないのでしょう」

 それにしても、中身のない男が、思い付きと打算だけで「防衛」や「原発」の大転換を図っているのだから、これほど恐ろしいことはないのではないか。

 国民が生活苦に喘いでいるのに、新年早々5カ国を外遊した首相は、機嫌がよく、ハイテンションだそうだ。この男は、どこを向いて政治をしているのか。

 「経世済民──世の中をよく治めて人々を苦しみから救うことが、政治の役割のはずです。ところが岸田首相は、聞く耳を自慢しながら、まったく国民の方を向いていない。防衛費増額で周辺国との緊張を高め、防衛費増税でただでさえ苦しい国民生活を追いつめようとしている。岸田首相が率いる宏池会が基本理念として掲げる『軽武装・経済重視』を完全に裏切っています」(五十嵐仁氏=前出)

 政権維持しか頭にない岸田に任せていたら、またトンデモ政策を打ち出してくるに違いない。これ以上、国民は沈黙していてはダメだ。

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1月21日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月21日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「【防衛費倍増】財源問題にすり替えれば狡猾・自民党の思うツボ」

 「1兆円分を増税で賄うことは決まったとはいえ、増税の時期は未定。まだまだ紆余曲折があるだろう。世論は増税に反対している。5月の広島サミット後、夏以降に岸田首相が追い詰められる可能性もある」(自民党関係者) 

 だが、自民党内のコップの中の争いにだまされちゃいけない。防衛費倍増を財源問題にすり替えられてしまったら、狡猾自民の思うツボだ。

 そもそも防衛費については、来年度の1年分だって、まだ予算案は成立していないし、国会審議にすら入っていない。バイデン米国に報告しただけで、43兆円ありきはおかしい。

 「岸田政権がやろうとしていることは、日米の盾と矛の役割分担を変えるものであり、平和憲法の下での戦後日本の防衛政策の大転換です。財源や必要な装備といった各論ではなく、なぜ防衛費を倍増しなければならないのか、日本のあるべき安全保障政策とはどういうものなのか、といった総論から始めるべきでしょう。自民党が根本の議論を避けるのは、軍拡と戦争のリアリティーを国民が真剣に意識しだしたらまずいので、意図的に財源論に矮小化しているのです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 とどのつまり、いま岸田政権が進めている憲法破壊の軍備増強は、国民生活を安全にするというより、むしろ戦争に近づけるものだということだ。岸田はその説明をすっ飛ばしているし、国民にもその覚悟ができているとは思えない。

 「メディアは自民党が言うことを垂れ流し、野党も自民党の土俵にのっかって、財源論の議論をしている。軍拡をしなければ、防衛費を増額する必要はないのです。野党には国会で、軍拡の妥当性を問う議論を期待したい」(五十嵐仁氏=前出)

 「新しい戦前」なんて、誰も来て欲しくないはずだ。この国は正念場にある。

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1月18日(水) 共存・共栄が憲法の理念 [コメント]

〔以下の談話は『しんぶん赤旗』1月16日付に掲載されたものです。〕

 岸田政権の「安保3文書」の改定は、ウソとでたらめに満ちています。一方で「戦後安全保障政策の大転換」としながら、他方で基本的な政策は変わらない、専守防衛にも変化はないと言っています。変わらなかったら「大転換」ではありません。
 岸田首相は「あらゆる選択肢を排除しない」と言いますが、大きな間違いです。憲法尊重擁護義務を負っているのですから、憲法の平和主義の趣旨に反する選択肢はきっぱりと排除しなければなりません。軍事力に頼らず、「諸国民の公正と信義に信頼して」「安全と生存を保持」しようと憲法に書かれている。その理念や趣旨に反することをやってはならない。いかすことが求められる。当たり前のことです。
 日本共産党は、憲法9条をいかした外交ビジョンとして、特定の国を「排除」ではなく「包摂」を、と言っています。その通りだと思います。今の時代の課題は分断と対立を克服していくことだからです。
 日本を取り巻く国際環境でいえば、中国の覇権主義的な行為、とりわけ武力行使は許されない。批判しなければなりません。だからといって、アメリカと一緒に戦争することはあり得ない。立場や価値観の違いが、中国や北朝鮮とはある。そういう違いがあっても、平和的に共存し交流することを目指すべきだと思います。
 分断と対立を強めるのではなく、それを解消して平和的に共存・共栄できるような東アジアを作っていく。そういうビジョンを持たなければなりません。その路線こそが、平和憲法の理念であり趣旨でもあるだろうと思います。

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1月17日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月17日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「世界もたまげた軍拡外遊 あれよあれよの戦争準備に国民は慄然」

ブロック化の先兵となった「歴史的犯罪者」

 覇権主義的な行動を強める中国を敵対視する米国の安保戦略を丸のみしたことで、日米の軍事一体化は加速する。台湾有事を想定する米国に従い、日米が連携して日本の南西諸島の防衛を強化。日米の施設の共同使用を拡大し、共同演習・訓練を増やす。米側は沖縄の海兵隊を2025年までに改編し、離島防衛に即応する「海兵沿岸連隊(MLR)」を設置するという。戦後の日本は自衛隊が専守防衛、在日米軍が他国への攻撃を担う「盾と矛」の関係を貫いてきた。これを清算すれば、日本は名実ともに米国の不沈空母化。自衛隊が米軍の手先となって戦闘に駆り出されることになる。岸田は米国にスリ寄り、列島全体を前線基地化するだけでなく、世界中で軍事同盟を強化し、独自の平和外交をかなぐり捨てたのだ。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「岸田首相の欧米歴訪は、文字通り軍事一辺倒。本来、G7議長国に期待される人権問題や環境問題など、世界的課題についてはマトモに議論した形跡がない。米国が企図するブロック化の先兵になってしまっています。岸田首相は安保3文書の改定について〈戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ〉と胸を張りながら、〈非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ、今後とも専守防衛は堅持していく〉とも言っている。〈一体何を言っているんだ!〉と言いたい。そもそも、〈全ての選択肢を排除しない〉と繰り返してきたこともメチャクチャ。憲法違反の選択肢は排除しなければダメ。言うまでもないことです」

 憲法は前文でこう謳っている。

 〈日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した〉

 「岸田首相は総理大臣や国会議員に対し、憲法尊重擁護義務を定めた憲法99条にも明確に違反する。歴史的な犯罪者です」(五十嵐仁氏=前出)

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1月13日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月13日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「軍拡増税に反対多数 国民も気づき始めた岸田政権のデタラメと横暴

 JNNが7、8日に実施した世論調査では、今後5年間で防衛費を倍増させる政府の方針について「反対」が48%で、「賛成」の39%を上回った。昨年12月の前回調査では「賛成」が53%と半数を超え、「反対」は36%だった。年をまたいで賛否が逆転した格好だ。岸田政権は、中国や北朝鮮の脅威を煽れば“バカな国民はついてくる”と踏んでいたのだろうが、とんだ見当違いだ。

 反対意見が増えたのは、「防衛費倍増」がイコール個人の懐を痛める「増税」であることが広く国民に浸透したからだろう。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「年末年始で『防衛費倍増』の“正体”に、国民が気づき始めたのでしょう。ロシアとウクライナの戦争が長引き、中国の脅威が高まったことで、昨年時点では多くの国民が『防衛費倍増もやむなし』と受け止めていた。ところが、財源の一部として『所得増税』が必要だと分かり『それなら防衛費増はNO』と考えが変わってきたのだと思います」

 実際、JNNの世論調査では防衛増税について「反対」が71%で、「賛成」の22%を大幅に上回った。NHKの最新(7~9日)の世論調査でも、「反対」の61%が「賛成」の28%に倍以上の差をつけている。国民の意思が「増税反対」に大きく傾いているのは明らかだ。

 「防衛増税」の決め方自体も国民を愚弄するかのようなやり方だった。岸田は昨年12月8日、「現下の家計を取り巻く状況に配慮し、個人の所得税の負担が増加するような措置は行わない」と言っていたのに、たった8日後に決められた2023年度与党税制改正大綱で「復興特別所得税」を延長する形で事実上の「所得増税」を盛り込んだ。個人の所得からの「負担増はない」という発言は真っ赤なウソだったわけだ。

 「防衛政策を大転換し国民に負担を求めるのなら、国会で議論を重ね、国民の納得が得られるまで説明すべきでした。ところが、岸田首相は熟議を重ねることなく勝手に既成事実化してしまった。国民が反対するのは当然でしょう」(五十嵐仁氏=前出)

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1月11日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』1月11日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「「お願い」だけで賃上げが実現するのか 岸田首相の口から出まかせ」

 賃金が上がらない理由もハッキリしている。賃金が低い水準にある非正規雇用の増加だ。

 85年に約2割だった非正規労働者の割合は、直近の21年では4割近くまで上昇している。国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、21年の正社員の年間平均給与508万円に対し、正社員以外は198万円。正社員の約39%の水準に過ぎない。

 最大の転換点は05年の小泉政権による規制の大幅緩和だ。それまで禁じられてきた製造業での非正規雇用を全面解禁。企業は正社員の採用を大幅に抑え、非正規雇用を増やしていったのだ。労働法制に詳しい法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「この間、雇用政策は全般にわたって使用者への便宜に終始し、働く人の立場は無視された。日銀のインフレ政策を放置し、金融緩和のせいで預貯金に利息もつかない。国内市場の購買力低下は当然で、500兆円超の企業の内部留保という“死に金”が積み上がっただけ。このカネを市場に吐き出させて景気を刺激しなければ賃金は上がりません。年頭会見で『新自由主義的発想から脱却』と口にした以上、岸田首相は過去30年間の政策と決別し、減税など真逆の方針を掲げるしかない」

 それなのに、亡国首相は防衛費拡大や異次元の少子化対策の財源を巡り、増税をにおわせる。賃上げムードに水を浴びせながら、賃上げを迫る支離滅裂だ。口から出まかせも、いい加減にして欲しい。

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1月10日(火) 改憲・大軍拡を阻止し9条を守り活かすための課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、自治労連・地方自治問題研究機構が発行する『季刊 自治と分権』No.90、2023年冬号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 日米安保と憲法9条の相互関係

 〇戦争への「呼び水」と「歯止め」

 改憲発議と大軍拡という日本の軍事大国化をめざす2つの道を阻むためには、日米安保体制の危険性と憲法9条が果たしてきた役割について、改めて確認しておく必要があります。日米安保と憲法9条の相互関係についての正確な理解は、現在直面している安全保障政策の大転換の危険性を知るうえで欠かせない前提条件になっているからです。
 そのためには、戦後の歴史を振り返ってみる必要があります。戦後のアメリカはインドシナ半島や中東などで誤った軍事介入を繰り返し、それに日本は引きずり込まれ協力させられてきました。安保体制の根幹をなす軍事同盟をアメリカと結んでいたからです。安保体制は日本を戦争に引きずり込む「呼び水」だったのです。
 これに対して、重要な「歯止め」となったのが憲法9条でした。9条があったために、これまで自衛隊は戦闘に巻き込まれることなく、戦闘行為によって誰1人殺さず、誰も殺されずに今日に至っています。憲法9条は戦争に対する防波堤であり、自衛隊員を守るバリアーの役割を果たしてきたのです。
 この日米安保体制と憲法9条の相反する意味と役割を明らかにし、それを幅広く情報発信することが必要です。日本人の多くは安保体制を評価していますが、それは歴史的な事実を十分認識せず、その危険性を正しく理解していないからです。憲法9条についても、その「ありがたさ」が十分に分かっていません。その両者について明らかにし、好戦的な世論を変えていくことが重要です。

 〇ベトナム戦争とイラク戦争の教訓

 戦争への「呼び水」としての安保体制と、戦争への「歯止め」としての9条の相互関係を示す実例を2つ挙げたいと思います。ベトナム戦争とイラク戦争です。その教訓を学ぶことが今ほど大切になっているときはありません。
 アメリカが介入したベトナム戦争に対して、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、フィリピン、韓国などの同盟国は軍を派遣しています。特に韓国は猛虎や青龍などの師団をはじめ延べ30万人以上の部隊を派遣し、ハーミーやフォンニの虐殺事件などを引き起こしました。その結果、5000人近い自国の若者の戦死者を出しています。
 しかし、日本は重要な出撃拠点となり、軍需物資の補給や修理、兵員の休養など戦争に協力させられましたが、自衛隊を送っていません。一方で安保体制によって戦争に協力させられましたが、他方で他の同盟国のように軍を派遣することも、一人の戦死者を出すこともありませんでした。隣国の韓国とはこの点で根本的に異なっています。まさに、戦争への「歯止め」としての憲法9条の威力が発揮されていたのです。
 米太平洋軍司令官が「沖縄なくして、ベトナム戦争を続けることはできない」と語ったように、沖縄の基地がなければ米軍はベトナムに介入したり、戦争を継続したりできませんでした。アメリカはベトナムで自国の若者5万8000人を犠牲にし、ドルの支配体制の崩壊を招くなど痛恨の失敗を犯しました。沖縄に米軍基地がなければ避けられたかもしれない過ちです。沖縄の米軍基地は沖縄にとってだけでなく、アメリカにとってもないほうがよかったのです。
 イラク戦争に際しても、同様の教訓を確認することができます。安保体制によって陸・海・空の自衛隊がイラクに派遣されました。このとき、陸上自衛隊が赴いたのは「非戦闘地域」とされるサマーワでした。このような地に派遣されたのは憲法上の制約があったからです。
 そこで陸上自衛隊は戦闘行為に加わらず、飲料水の供給や道路の補修などの非軍事的業務に従事し、殺すことも殺されることもなく引き上げてきました。その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)によって約30人の自殺者が出るという悲劇が生じましたが、イラクでの自衛隊員は9条のバリアーによって守られていたのです。
 日本を戦争から遠ざけ自衛隊員のバリアーとなってきた憲法上の制約が失われれば、もはや戦争への「歯止め」はなくなり、自衛隊は戦火にさらされることになります。そうならないことを祈るような気持ちで見つめているのは、自衛隊員とその家族や関係者の皆さんではないでしょうか。

 〇憲法9条の意義と効用

 ここで特に強調しておきたいのは、憲法9条の効用であり、その「ありがたさ」です。9条改憲を主張している人々はもちろんのこと、それに反対している人々を含めて、その意義や効用が十分に理解されず、9条改憲によって「失われるものの大きさ」が良く分かっていないからです。
 ベトナム戦争とイラク戦争から明らかになった教訓は、憲法9条が戦争加担への防波堤となってきたことであり、自衛隊員を戦火から守るバリアーだったことです。これらに加えて、憲法9条の「ありがたさ」について、以下の点を強調しておきたいと思います。
 それは、戦後における経済成長の原動力だったということです。これが「9条の経済効果」と言われるものです。これによって軍事ではなく民生への投資を増やし、国富を主として経済成長や産業振興、福祉などに振り向け、戦後の高度経済成長を生み出すという大きな成果をもたらしました。
 その結果、アメリカにとって日本は経済摩擦を引き起こすほどの手ごわいライバルに成長したのです。そこでアメリカが持ち出してきたのが防衛分担と米国製兵器の購入拡大であり、最近では経済安全保障です。これらによって日本の経済成長の足を引っ張り、アメリカのライバルや脅威にならないようにしようと考えているのです。
 憲法9条は学術研究の自由な発展を促進する力でもありました。日本学術会議は軍事研究を拒否してきたため、兵器への実用化や軍事転用などに惑わされることなく地道な基礎研究に専念し、ノーベル賞並みの研究成果を上げることができました。
 ところが、最近になって自由な基礎研究ではなく軍事研究に学問を動員しようとする動きが強まりました。科学研究費助成を上回る軍事研究開発費や国際卓越研究大学法の10兆円の大学ファンドによる政策誘導、経済安保法による様々な規制などによって軍事研究が促進されています。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」では科学技術振興機構によって研究者を軍事研究に動員する枠組が提案されました。日本学術会議の会員6人に対する任命拒否も、このような学術研究に対する軍事的要請の一環にほかなりません。
 さらに、9条は平和外交の推進を生み出す力だったということも重要です。しかし、残念ながらこれは可能性にとどまりました。軍需産業に支配されているアメリカは緊張の緩和ではなく適度な緊張の継続を望んでおり、アメリカに隷従する日本政府は9条を活かした自主的な平和外交の展開を怠ってきたからです。
 国外での戦争を利益とするアメリカと、内外を問わず平和を希求する日本の立場は根本的に異なっています。米中対立や北朝鮮のミサイル発射についても、挑発の応酬ではなく、中国や北朝鮮に自制を求めるとともにアメリカにも緊張を激化させるなと忠告するべきです。憲法9条に基づく自主的な対話による緊張緩和と戦争回避を最優先した独自の取り組みこそ、これから求められる平和外交のあるべき姿なのですから。
 
 むすび―「活憲」の政治と政府を目指して

 大軍拡を阻止して憲法9条を守り活かすために何が必要でしょうか。
 何よりも世論を味方につけなければなりません。「ポスト真実」の時代には、何が事実であるかを知るだけでも大変な努力が必要です。このような情報戦における世論の争奪戦に勝利しなければなりません。
 そのためには教育をめぐる攻防で巻き返す必要があります。
 自民党は戦後一貫して教育への介入を進め、教科書を書き換えて教員に対する管理・統制を強化し、批判力を欠いた従順でおとなしい若者を育成しようとしてきました。その結果、若い世代ほど政権支持が高く現状肯定感が強くなっています。これを是正する必要があります。
 また、国民に事実を伝えるためには、メディアの役割も重要です。
 新聞やテレビなどの主要なメディアはチェック機能を低下させ政権に対する批判力を弱めています。権力にすり寄るメディアはジャーナリズムとは言えません。権力に立ち向かえる真のジャーナリズムの復権が必要です。
 さらに、情報を取得する手段としてはインターネットなどの役割が高まっています。
 若い世代の中ではメールやツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどが主流で、フェイクニュースの発信地になる例も急増しています。SNSを虚偽ではなく真実の発信地に変えていかなければなりません。
 新自由主義による自治体の変質と民営化に抗して住民の利益を守り福祉を増進するとともに、これらの情報戦においても自治体労働組合が大きな役割を果たすことを期待したいと思います。
 とりわけ今年(2023年)4月には統一地方選が実施されます。地方自治体でも統一協会の暗躍と汚染は広がっており、これらを一掃する機会として自治体選挙を活用しなければなりません。正しい情報発信と選挙への取り組みを通じて、憲法が活かされる「活憲」の政治と政府の実現を目指す先頭に立っていただきたいと思います。


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