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1月10日(火) 改憲・大軍拡を阻止し9条を守り活かすための課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、自治労連・地方自治問題研究機構が発行する『季刊 自治と分権』No.90、2023年冬号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 日米安保と憲法9条の相互関係

 〇戦争への「呼び水」と「歯止め」

 改憲発議と大軍拡という日本の軍事大国化をめざす2つの道を阻むためには、日米安保体制の危険性と憲法9条が果たしてきた役割について、改めて確認しておく必要があります。日米安保と憲法9条の相互関係についての正確な理解は、現在直面している安全保障政策の大転換の危険性を知るうえで欠かせない前提条件になっているからです。
 そのためには、戦後の歴史を振り返ってみる必要があります。戦後のアメリカはインドシナ半島や中東などで誤った軍事介入を繰り返し、それに日本は引きずり込まれ協力させられてきました。安保体制の根幹をなす軍事同盟をアメリカと結んでいたからです。安保体制は日本を戦争に引きずり込む「呼び水」だったのです。
 これに対して、重要な「歯止め」となったのが憲法9条でした。9条があったために、これまで自衛隊は戦闘に巻き込まれることなく、戦闘行為によって誰1人殺さず、誰も殺されずに今日に至っています。憲法9条は戦争に対する防波堤であり、自衛隊員を守るバリアーの役割を果たしてきたのです。
 この日米安保体制と憲法9条の相反する意味と役割を明らかにし、それを幅広く情報発信することが必要です。日本人の多くは安保体制を評価していますが、それは歴史的な事実を十分認識せず、その危険性を正しく理解していないからです。憲法9条についても、その「ありがたさ」が十分に分かっていません。その両者について明らかにし、好戦的な世論を変えていくことが重要です。

 〇ベトナム戦争とイラク戦争の教訓

 戦争への「呼び水」としての安保体制と、戦争への「歯止め」としての9条の相互関係を示す実例を2つ挙げたいと思います。ベトナム戦争とイラク戦争です。その教訓を学ぶことが今ほど大切になっているときはありません。
 アメリカが介入したベトナム戦争に対して、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、フィリピン、韓国などの同盟国は軍を派遣しています。特に韓国は猛虎や青龍などの師団をはじめ延べ30万人以上の部隊を派遣し、ハーミーやフォンニの虐殺事件などを引き起こしました。その結果、5000人近い自国の若者の戦死者を出しています。
 しかし、日本は重要な出撃拠点となり、軍需物資の補給や修理、兵員の休養など戦争に協力させられましたが、自衛隊を送っていません。一方で安保体制によって戦争に協力させられましたが、他方で他の同盟国のように軍を派遣することも、一人の戦死者を出すこともありませんでした。隣国の韓国とはこの点で根本的に異なっています。まさに、戦争への「歯止め」としての憲法9条の威力が発揮されていたのです。
 米太平洋軍司令官が「沖縄なくして、ベトナム戦争を続けることはできない」と語ったように、沖縄の基地がなければ米軍はベトナムに介入したり、戦争を継続したりできませんでした。アメリカはベトナムで自国の若者5万8000人を犠牲にし、ドルの支配体制の崩壊を招くなど痛恨の失敗を犯しました。沖縄に米軍基地がなければ避けられたかもしれない過ちです。沖縄の米軍基地は沖縄にとってだけでなく、アメリカにとってもないほうがよかったのです。
 イラク戦争に際しても、同様の教訓を確認することができます。安保体制によって陸・海・空の自衛隊がイラクに派遣されました。このとき、陸上自衛隊が赴いたのは「非戦闘地域」とされるサマーワでした。このような地に派遣されたのは憲法上の制約があったからです。
 そこで陸上自衛隊は戦闘行為に加わらず、飲料水の供給や道路の補修などの非軍事的業務に従事し、殺すことも殺されることもなく引き上げてきました。その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)によって約30人の自殺者が出るという悲劇が生じましたが、イラクでの自衛隊員は9条のバリアーによって守られていたのです。
 日本を戦争から遠ざけ自衛隊員のバリアーとなってきた憲法上の制約が失われれば、もはや戦争への「歯止め」はなくなり、自衛隊は戦火にさらされることになります。そうならないことを祈るような気持ちで見つめているのは、自衛隊員とその家族や関係者の皆さんではないでしょうか。

 〇憲法9条の意義と効用

 ここで特に強調しておきたいのは、憲法9条の効用であり、その「ありがたさ」です。9条改憲を主張している人々はもちろんのこと、それに反対している人々を含めて、その意義や効用が十分に理解されず、9条改憲によって「失われるものの大きさ」が良く分かっていないからです。
 ベトナム戦争とイラク戦争から明らかになった教訓は、憲法9条が戦争加担への防波堤となってきたことであり、自衛隊員を戦火から守るバリアーだったことです。これらに加えて、憲法9条の「ありがたさ」について、以下の点を強調しておきたいと思います。
 それは、戦後における経済成長の原動力だったということです。これが「9条の経済効果」と言われるものです。これによって軍事ではなく民生への投資を増やし、国富を主として経済成長や産業振興、福祉などに振り向け、戦後の高度経済成長を生み出すという大きな成果をもたらしました。
 その結果、アメリカにとって日本は経済摩擦を引き起こすほどの手ごわいライバルに成長したのです。そこでアメリカが持ち出してきたのが防衛分担と米国製兵器の購入拡大であり、最近では経済安全保障です。これらによって日本の経済成長の足を引っ張り、アメリカのライバルや脅威にならないようにしようと考えているのです。
 憲法9条は学術研究の自由な発展を促進する力でもありました。日本学術会議は軍事研究を拒否してきたため、兵器への実用化や軍事転用などに惑わされることなく地道な基礎研究に専念し、ノーベル賞並みの研究成果を上げることができました。
 ところが、最近になって自由な基礎研究ではなく軍事研究に学問を動員しようとする動きが強まりました。科学研究費助成を上回る軍事研究開発費や国際卓越研究大学法の10兆円の大学ファンドによる政策誘導、経済安保法による様々な規制などによって軍事研究が促進されています。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」では科学技術振興機構によって研究者を軍事研究に動員する枠組が提案されました。日本学術会議の会員6人に対する任命拒否も、このような学術研究に対する軍事的要請の一環にほかなりません。
 さらに、9条は平和外交の推進を生み出す力だったということも重要です。しかし、残念ながらこれは可能性にとどまりました。軍需産業に支配されているアメリカは緊張の緩和ではなく適度な緊張の継続を望んでおり、アメリカに隷従する日本政府は9条を活かした自主的な平和外交の展開を怠ってきたからです。
 国外での戦争を利益とするアメリカと、内外を問わず平和を希求する日本の立場は根本的に異なっています。米中対立や北朝鮮のミサイル発射についても、挑発の応酬ではなく、中国や北朝鮮に自制を求めるとともにアメリカにも緊張を激化させるなと忠告するべきです。憲法9条に基づく自主的な対話による緊張緩和と戦争回避を最優先した独自の取り組みこそ、これから求められる平和外交のあるべき姿なのですから。
 
 むすび―「活憲」の政治と政府を目指して

 大軍拡を阻止して憲法9条を守り活かすために何が必要でしょうか。
 何よりも世論を味方につけなければなりません。「ポスト真実」の時代には、何が事実であるかを知るだけでも大変な努力が必要です。このような情報戦における世論の争奪戦に勝利しなければなりません。
 そのためには教育をめぐる攻防で巻き返す必要があります。
 自民党は戦後一貫して教育への介入を進め、教科書を書き換えて教員に対する管理・統制を強化し、批判力を欠いた従順でおとなしい若者を育成しようとしてきました。その結果、若い世代ほど政権支持が高く現状肯定感が強くなっています。これを是正する必要があります。
 また、国民に事実を伝えるためには、メディアの役割も重要です。
 新聞やテレビなどの主要なメディアはチェック機能を低下させ政権に対する批判力を弱めています。権力にすり寄るメディアはジャーナリズムとは言えません。権力に立ち向かえる真のジャーナリズムの復権が必要です。
 さらに、情報を取得する手段としてはインターネットなどの役割が高まっています。
 若い世代の中ではメールやツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどが主流で、フェイクニュースの発信地になる例も急増しています。SNSを虚偽ではなく真実の発信地に変えていかなければなりません。
 新自由主義による自治体の変質と民営化に抗して住民の利益を守り福祉を増進するとともに、これらの情報戦においても自治体労働組合が大きな役割を果たすことを期待したいと思います。
 とりわけ今年(2023年)4月には統一地方選が実施されます。地方自治体でも統一協会の暗躍と汚染は広がっており、これらを一掃する機会として自治体選挙を活用しなければなりません。正しい情報発信と選挙への取り組みを通じて、憲法が活かされる「活憲」の政治と政府の実現を目指す先頭に立っていただきたいと思います。


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