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2月10日(金) 嘘とデタラメで巻き込まれる戦争などマッピラだ―大軍拡・大増税による戦争への道を阻止するために(その2) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻518号、23年2月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

2,日米軍事同盟の危険性とアメリカの狙い

 〇着々と進む戦争準備―これまでにない危険性

 戦争法の「存立危機事態」による集団的自衛権の行使は、アメリカが始めた戦争への参戦システムにほかなりません。ベトナム戦争やイラク戦争のときのように、戦闘への参加を断ることができるのでしょうか。憲法9条という「防波堤」によって守られてきた自衛隊が、いよいよ米軍の指揮・統制のもとに実際の戦闘に加わるリスクが現実のものになろうとしています。
 しかも、現在想定されている「有事」はインドシナ半島や中東地域ではなく、日本の周辺です。「台湾有事」ということになれば南西諸島や沖縄が戦場になる危険性があります。中国が勢力圏を確保するために設けた海洋上の防衛ラインである第1列島戦は、九州沖から沖縄、台湾フィリピンを結んでいるからです。
 アメリカはこれを安全保障上の脅威と考え、ミサイル網などを整備しようとしています。日本政府も南西諸島の「要塞化」を計画し、与那国島から奄美大島までの琉球弧の島々に自衛隊の基地やミサイル部隊を展開しつつあります。
 そればかりではありません。統合司令部を設置して統合司令官ポストを新設する、沖縄の陸上自衛隊第15旅団を強化する、宇宙空間での作戦行動を強化するために航空宇宙自衛隊に改称するなどの方針を打ち出し、宇宙空間での攻撃への日米共同対処も合意されました。
 在日米軍もこれと連携する体制を強め、沖縄に即応部隊として海兵沿岸連隊(MLR)を新設し、ハワイにあるインド太平洋軍の指揮権を横田に移そうとしています。自衛隊での統合司令部創設を受けての再編であり、自衛隊はますます深く在日米軍に組み込まれることになります。
 在日米軍は現状においても大きな被害を与え、罪を犯しています。先進国ではありえない首都周辺での基地の存在と横田空域の占有、米軍基地周辺でのフッ素化合物(PFAS)による水質汚染の疑い、オスプレイによる市民生活への脅威、米軍将兵による犯罪被害と地位協定での特別扱い、特に沖縄での基地強化と辺野古新基地の建設、「思いやり予算」による財政の圧迫など、数え上げたらきりがありません。これらを減らすのではなく拡大しようというのです。今後も基地負担の増大とリスクの拡大は避けられません。

 〇アメリカは過ちを犯さなかったのか
 
 ここで問われるべきは、これまでのアメリカは過ちを犯さなかったのか、アメリカという国は信用できるのか、ということです。歴史を振り返ってみれば、いずれの問いにも「ノー」と答えざるを得ません。
 ベトナム戦争ではトンキン湾事件をでっちあげて攻撃を開始しました。ペンタゴン・ペーパーによる情報操作もありました。嘘をついて戦争を始めた過去があるのです。そして、ベトナムの人々を130万人も殺し、自国の若者をベトナムに送って5万8000人の命を奪ってしまいました。
 イラク戦争では重大な判断ミスを犯しています。大量破壊兵器を開発・保有しているとして攻撃し、フセイン大統領を捉えて処刑しましたが、結局、大量破壊兵器は見つかりませんでした。完全な濡れ衣で政権を倒してしまったのです。無法な戦争によって過ちを犯したのはアメリカでした。
 「台湾有事」における主導権はアメリカに委ねることになりますが、それで大丈夫なのでしょうか。このような過ちに満ちた過去を持つアメリカなのに。日本に対する攻撃に「着手」したという情報と判断はアメリカ頼りにならざるを得ないのですから。嘘をついて戦争を始め、判断ミスによって政権を転覆してしまった過去を持つ国に、これほど深く依存し日本の命運と国民の命を預けても良いのでしょうか。
 ベトナム戦争では、アメリカの要請によって韓国は延べ30万人の軍隊を派遣し、自国の若者5000人近くの命を失う結果になりました。憲法9条を持つ日本は出撃基地になったものの憲法の制約によって部隊を派遣することはなく、誰一人殺すことも殺されることもありませんでした。ここに「防波堤」としての憲法9条の威力があったのです。
 この威力を自ら放棄し、韓国が犯した過ちと同様の道を歩もうとしているのが今の日本です。「台湾有事」に巻き込まれ、他国と自国の若者の命を奪うようなことを、この国の政府に許して良いのでしょうか。
 アメリカはベトナム戦争で大きな過ちを犯しました。沖縄に米軍基地が無ければ避けられたかもしれない過ちです。沖縄の米軍基地はアメリカにとっても無いほうがよかったのです。
 「台湾有事」でも、沖縄や南西諸島の基地の存在は偶発的な衝突を本格的な戦争へと発展させる誘因になるかもしれません。基地が無ければ断念せざるを得ないのに、基地あるがゆえに戦争へと踏み切ってしまうリスクがあるからです。
 しかも、戦後のアメリカは中南米やアフリカ、インドシナや中東などで、不当な軍事介入を繰り返して失敗を積み重ねてきました。日本政府はこれに追随するばかりでした。北朝鮮や中国に対してだけアメリカは間違えず、日本政府も自主的な対応が可能だと言えるのでしょうか。

 〇アメリカの思惑と隠された狙い

 日米軍事同盟の危険性を考える際に最も重要なことは、日本とアメリカとは異なる立場と利害を持っているということです。両国は独立した別々の国ですから当たり前のことですが、日本政府はもとより国民の多くもこのことを忘れています。
 日本はサンフランシスコ条約によって独立しましたが、多くの基地は残り半占領状態が続きました。最も深刻なのは精神的なアメリカ依存であり、軍事的外交的な隷属です。これは解消されなかったばかりか国際的な分断とブロック化が進む下でさらに強まっているように見えます。
 日本とアメリカの最も大きな違いは、東アジアの緊張への対応にあります。日本は周辺地域の緊張緩和を必要としていますが、アメリカは必ずしもそうではありません。適度な緊張の発生と継続は「軍産複合体」に支配されているアメリカに大きな利益をもたらすからです。
 ウクライナでの戦争は米製兵器の在庫処分と新型兵器の見本市のようになっています。兵器などの軍事支援のほとんどは軍需産業の売り上げとしてアメリカに還流し、ボーイング社などの軍需産業は「死の商人」として利益を上げ、一部を政治献金しています。さすがにアメリカも自国が戦場になるのは望んでいないでしょうが、他国の戦争は「蜜の味」なのです。
 アメリカ政府は昨年暮れに台湾への4億2800万ドルの武器売却を発表しました。これはバイデン政権になってから7度目になります。このような商売は台湾海峡での緊張の増大があるからこそ成立するのです。
 日本も同様です。トマホークの購入経費2100億円が来年度予算案に計上されました。「台湾有事」への懸念がなければ「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有や古くさくなり有効性が疑問視されている巡航ミサイルの爆買いなどあり得ません。まさに、東アジアでの緊張激化が米軍需産業に巨大な利益をもたらしているのです。
 アメリカと日本の違いはこれだけではありません。中国との関係でも大きな違いがあり、利害関係は異なっています。中国と日本は歴史的な関係も深く、身近な大国で最大の貿易相手国です。中国に進出している日本の企業は1万3000社を数え、そこに住んでいる日本人は10万人以上でアメリカに次ぐ多さです。
 このような国と戦争できるのでしょうか。仮想敵国として考えること自体、大きな間違いです。たとえアメリカとの武力紛争が生じたとしても、日本が攻撃されない限り、その紛争に日本は関わらないという立場を明確にするべきでしょう。
 また、アメリカには隠された狙いがあることにも注意が必要です。それは、東アジアでの緊張と安全保障政策を口実にして日本をコントロールし、その足を引っ張ろうとしていることです。急速な経済成長で日本が強力なライバルとなり、貿易摩擦まで引き起こした過去の教訓を学んでいるからです。
 このアメリカの隠された狙いに気づかず、日本政府は隷従路線を強めています。経済安全保障を名目にした産業活動への規制や日本学術会議への攻撃はその具体的な表れでした。経済や産業と科学技術の自主的で自由な発展こそが「成長戦略のカギ」であるにもかかわらず、アメリカの圧力に屈して軍事に動員しようとしているからです。手ごわい競争相手となった過去の歴史を繰り返さないという、アメリカの狙いを見抜かなければなりません。
 国の富を経済発展や産業育成、民生分野につぎ込んできた「9条の経済効果」と軍事にかかわらない自由で基礎的な学術研究の発展こそ、日本の強みの源泉でした。その強みがあったからこそ、アメリカに対抗し貿易摩擦を生み出すほどの力を発揮できたのです。
 その力の源泉が奪われようとしているのです。中国を敵視することによって東アジアの危機を作り出し、それを利用しながら軍拡へと誘導することで成長への芽を摘み弱体化を図るというのが、アメリカの隠された狙いなのではないでしょうか。



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