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10月19日(月) 松川事件60周年全国集会、POSSE3周年シンポジウムに参加してきた [社会運動]

 すごい数の人です。「どうしてこんなに集まったのか」と、不思議になるほどの数でした。
 実行委員会では300人程を予想していたものの、どうもそれでは間に合わないということで資料を900部用意したそうですが、結果的に1200人もの参加者であふれました。福島大学で開かれた松川事件60周年記念全国集会です。

 松川事件というのは、戦後最大のえん罪事件です。戦前の最大のえん罪事件である大逆事件に匹敵するもので、同じ頃に起きた下山事件や三鷹事件と同様、謀略色の濃い事件でした。
 1949年8月17日、福島県松川町を通過中だった東北本線上り列車が突如、脱線転覆しました。死亡者の3人は、列車を牽引していた蒸気機関車の乗務員で、発足したばかりの国鉄の職員です。
 事件の現場は東北本線松川駅-金谷川駅間のカーブの曲がり鼻で、検証の結果、何者かによる意図的な列車妨害であったことが判明しました。これを共産党の仕業であるかのような談話を発表したのが、吉田内閣の増田官房長官です。

 こうして、当時、解雇反対や工場閉鎖反対で闘争中だった国労福島支部幹部の10人、東芝松川労組幹部等の10人、計20人が犯人にでっち上げられ、逮捕されます。その結果、労働運動は大きな打撃を受けました。
 被告となった労働者は無罪を訴え、この人々を救おうと、作家の広津和郎氏などをはじめとして「松川運動」「大衆的裁判闘争」と呼ばれる全国的な運動が展開されました。それがどれほどの底力を持っていたかを、今回の全国集会で改めて再認識させられた次第です。
 このような裁判闘争や救援活動の結果、1963年9月に最高裁で全員が無罪になりました。しかし、事件の真相は未だに不明であり、真犯人は捕まっていません。

 現場の近くにある福島大学での全国集会の様子については、昨日付の『しんぶん赤旗』の4面に詳しい記事が出ていますので、そちらをご覧下さい。そこにも書かれていますが、初日の集会の最後に私もあいさつをさせていただきました。
 というのは、大原社会問題研究所には、松川事件関係の裁判資料が保管されているからです。どなたでも閲覧できますので、興味のある方はお出で下さい。
 福島大学には大きな教室がないということで、3つの教室を使ってモニターで中継するほどでした。階段教室の通路まで、人、人、人でいっぱいです。

 地元、松川の人々が大挙してやってきたそうです。全国からも多くの方が集まりましたが、福島大学にある松川事件関係の資料を収集・保存している資料室の存続が危ないということで危機感が高まり、この集会が最後かもしれないという思いに駆られたのかもしれません。
 グループでの申し込みが多かったそうですから、若い頃に「松川運動」に参加した人々が仲間と一緒にやってきたのかもしれません。なかには、この機会に福島の温泉と紅葉を楽しもうという人もいたかもしれません。
 色々な理由が考えられますが、それにしても、当初の予想を4倍も上回る人々が、どうしてこれほど集まったのでしょうか。社会運動の「ミラクル」であり、これ自体が一つの研究課題であるように思いました。

 私も、思いがけない方々にお会いしました。集会であいさつをされた元共産党衆院議員の松本善明さん、学生時代に三鷹事件に遭遇して被害者の救助に当たったことがある元『朝日新聞』東京編集局次長の堀越作治さん、『朝日新聞』記者で夕刊で大逆事件についての連載を行った早野透さん、元下関市立大学学長の下山房雄先生などです。
 松本善明さんは、遠い昔、電話で問い合わせを受けてお話したことがありましたが、ご本人は覚えておられませんでした。83歳ということでしたが、大変、お元気そうでした。
 宿舎の土湯温泉「向瀧旅館」で同宿となった本田昇さんは、一審と二審の控訴審で死刑判決を受けた被告の1人でした。この方も83歳ということでしたが、お元気でした。

 60周年の集会で83歳ということは、事件が起きた1949年には23歳だったということになります。被告の中には、10代の青年もいたそうです。
 このような若い、前途有為の青年を20人も犯人にでっち上げ、その青春を奪い人生を狂わすことになった捜査当局の責任は重大であり、激しい怒りを覚えます。その人々全員の無罪を勝ち取って獄窓から救い出した「松川運動」こそは、戦後日本社会の正義と良心を示すものだったと言うべきでしょう。

 その裁判資料を保存している研究所の所長となったのは、私にとっては偶然です。しかし、恩師の塩田庄兵衛先生が『松川運動全史』や『松川15年』に一文を寄せられているように、必ずしも、偶然ということではないのかもしれません。
 塩田先生のご遺志を継ぐような形で、今回、全国集会であいさつし、この運動に関われたのは、私にとっても幸いでした。今後とも、「研究所にある松川関係の資料を大切に保管していかなければ」という使命感のようなものを強く感じた次第です。

 集会で私は、「当研究所の資料とは異なって、福島大学松川資料室によって収集・保存されている松川関係資料は、松川運動の力によって探索され、収集されたものであり、資料収集自体が一つの運動であったと言うべきでしょう。このような形で収集された福島大学松川資料室の資料は、当研究所所蔵の資料と双璧をなすものであり、互いに補い合うものであると思います。今後とも力を合わせて、松川事件の風化を防ぐと共にその真相を伝え、二度と再び、このようないまわしい事件が起きないよう、基本的人権と民主主義が守られる社会の実現のために力を尽くす所存でございます」とあいさつしました。
 大学法人化によって福島大学も財政的人的に困難な条件を抱えているようですが、引き続き資料の収集と保存に尽力されることを、関係者の1人として、強く望みたいと思います。

 この全国集会の2日目には、参加できませんでした。午前中に東京に戻り、午後からNPO法人POSSE3周年記念シンポジウム「どう変わる? 新政権のセーフティネット」に出席しなければならなかったからです。
 こちらの集会には、70人ほどの方が参加されました。報告したのは、私と、ガテン系連帯代表の池田一慶さん、朝日新聞編集員の竹信三恵子さんの3人です。
 意外だった、というのは少々失礼かもしれませんが、参加者のほとんどが若い人たちで、私がいつも話をする集まりとは世代構成がほぼ逆転していたことです。シンポジウムが終わった後の交流会にも30人以上の若者が参加するなど、社会・労働問題に関心を持つ新たな運動の流れを実感することができました。

 このように、松川全国集会ではかつての運動の底力を再確認し、POSSEのシンポジウムでは新たな運動の息吹に触れることができました。このような動きが政権交代という政治的な変化とどのように連動しているのかは分かりませんが、社会運動における新たな変化の始まりであることを期待したいものです。

 なお、土曜日(10月17日)の『朝日新聞』夕刊の文化欄に、10月27日の「大原社会問題研究所創立90周年記念シンポジウム」についての告知記事が出ました。このフォーラムについて、詳しくは、http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/notice/90forum.pdfをご覧下さい。
 申込期限を過ぎていますが、まだ大丈夫です。参加をご希望の方は、研究所(tel:042-783-2306、fax:042-783-2311、e-mail:oharains@s-adm.hosei.ac.jp)まで、ご一報いただければ幸いです。

11月16日(日) 「反貧困運動」の「志士仁人」 [社会運動]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
 ご注文はhttp://tinyurl.com/4moya8またはhttp://tinyurl.com/3fevcqまで。
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 昨日、連合本部がある御茶ノ水の総評会館に出かけてきました。そこの会議室で開かれた「労働ビッグバン」研究会に出席するためです。

 この日の講師はNPO法人自立生活サポートセンター・もやいの事務局長として大活躍されている湯浅誠さんです。湯浅さんは、反貧困ネットワークの事務局長でもあります。
 湯浅さんは「貧困の現状と反貧困運動」というテーマで話をされました。司会は、これまた湯浅さんと共に八面六臂の活躍をされている首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さんです。
 湯浅さんにお目にかかるのは初めてすが、シャープな語り口の好青年です。河添さんは、私が非常勤講師として政治学を教えていた農工大時代の「教え子」です。

 講師が「時の人」とあって、研究会は40人くらいの参加者で一杯でした。普段の2倍ほどになりましょうか。
 会場の後ろでは、最近、旬報社から出版された『「生きづらさ」の臨界』という本を販売していました。前日の金曜日、旬報社の木内社長と企画編集部次長の田辺さんが打ち合わせのために大原社会問題研究所を訪問され、その時にいただいて読み始めたばかりでした。
 この本は湯浅さんと河添さんの報告と対談で構成されています。対談の相手は本田由紀、中西新太郎、後藤道夫さんの3人ですが、中西さんは私の都立大学時代の先輩で学生時代に大変お世話になりました。後藤さんとも以前からの知り合いで、秋の社会政策学会の折に盛岡で一緒に一杯やったばかりです。

 ということで、興味深く、湯浅さんの話を聞かせていただきました。日本における貧困の拡大と現状の深刻さは私の想像以上です。そう言えば、今日から『東京新聞』で「雇用破壊-派遣法改正案を問う」という特集が始まりましたが、そこに出てくる話は湯浅さんの報告とほぼ共通していました。
 特に、日本社会はこれまでいわば横に広い楕円形をしていたが、新自由主義の下で格差が拡大すると共に中間層も減少し、タテに細長い楕円形に変形してしまったという指摘は、重要です。下の部分が細長くなって貧困線以下に延びたため、貧困層が拡大したというわけです。
 しかも、その広がりは働く人々の下層をも巻き込んでいるために、働いているのに生活できないワーキングプアが急増しました。その結果、貧困問題と労働問題が重なり合い、労働と生活の両方をむすび合わせた運動の展開が必要になっているというわけです。

 こうして、反貧困運動と労働運動、社会保障運動との結合あるいは提携が必要になります。したがって、社会的ネットワークの広がり、運動領域の拡大は問題の性格から生ずる必然であるというのが湯浅さんの強調された点ですが、実際の運動としてはまだ始まったばかりで、今後の課題山積ということのようです。

 いずれにしましても、このような若い方が、社会運動や労働運動に情熱を燃やし、人生をかけて取り組んでいる姿を見るのは、心強く清々しい思いがします。私も、研究者としてできる限りのサポートをしたいものです。
 国際的な金融危機が拡大し、貧困が深まり反貧困運動の重要性はますます高まることでしょう。また、サポート企業の倒産が伝えられているように、資金面などでの困難性は増えることが予想されます。
 しかし、無能な政府や政治家とは異なり、有能な社会運動家は困難に打ち勝つにちがいありません。これら現代における「志士仁人」が、「地の塩」となって社会の変革を実現していただきたいものです。

 なお、本日の『朝日新聞』「読書」欄の「文庫・新書のおすすめ新刊」で拙著『労働再規制』が取り上げられ、次のように紹介されました。嬉しいですね。
 紹介してくださったのがどなたかは知りませんが、お礼申し上げます。ありがとうございました。

 ●五十嵐仁著『労働再規制』 高い支持を得た小泉「構造改革」。だが近年、格差と貧困の拡大が指摘され、新自由主義的政策は見直しを迫られている。著者はその転換点を06年とし、風向きの変化には、これまで抵抗勢力として抑え込まれてきた「官の逆襲」があるという。反転の構図を描く。(ちくま新書・777円)


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