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6月9日(土) 許されない大飯原発の再稼働 [原発]

 今日の新聞に、大きく「国民生活守るために必要」という見だしが出ていました。昨日の野田佳彦首相の記者会見についての記事です。
 野田首相は大飯原子力発電所3、4号機について「国民の生活を守るために再起動すべきというのが私の判断」と述べたからです。でも、本当は「電力会社を守るために再起動すべき」と「判断」したのではなないでしょうか。

 首相は、政府の最終決定に向け「立地自治体のご理解を改めてお願いしたい」と福井県に呼びかけました。今回の会見は、福井県の西川一誠知事が「再稼働の必要性について首相は国民に訴えていただきたい」と要望したために行われたからです。
 当初、野田首相はこのような形で表明することに積極的ではありませんでした。頭の中は消費増税問題で一杯だったからです。
 しかし、何かあったときに政府が責任逃れをし、原発再稼働の責任を全面的に背負わされることを警戒した福井県知事から、「首相の責任で」と迫られました。野田さんとしても、最終責任は逃れたいところだったでしょうが、再稼働のためにはやむを得ないと観念したのでしょう。

 でも、野田首相にしても、何かあったとき、どのような形で責任を負うことができるのでしょうか。野田さんは「東京電力福島第1原発を襲ったような地震、津波でも炉心損傷に至らない」と言い切りましたが、政府や国会の事故調査委員会の検証作業は終わっていませんし、事故の原因が特定されているわけではありません。
 事故対策についても、事故時に構内での指揮・作業拠点となる「免震事務棟」は大飯原発では完成していないのです。事故対策が途上にあるのに、もう大丈夫だと、どうして言い切れるのでしょうか。
 そのうえ、関西電力大飯原発の敷地内にある断層について、名古屋大の鈴木康弘教授と東洋大の渡辺満久教授は「活断層の可能性がある」とする分析結果をまとめ、再稼働前の現地調査の必要性を指摘しています。関電は「活断層ではないと判断しており、再調査の必要はない」としていますが、重要なのは「判断」ではなく事実でしょう。

 大飯3、4号機以外の原発の再稼働についても、野田首相は「スケジュールありきで再起動は考えない。個別に安全性を判断していく」としていますが、誰が、どのようにして、「安全性を判断」できるというのでしょうか。専門家でもない野田首相に、そのような「判断」が可能なのでしょうか。
 また、野田さんは「原子力発電を止めたままでは日本の社会は立ち行かない。計画停電がなされうる事態になれば、実際に行われるか否かに関わらず日常生活や経済活動は大きく混乱する」とも強調しました。しかし、脱原発依存によっても「日本の社会は立ち行」き、「日常生活や経済活動は大きく混乱」しないようにすることこそ、「フクシマ」後の為政者が引き受けるべき責任ではありませんか。
 需給がひっ迫する時期だけに限定した稼動について、野田首相は「夏場限定の再稼働では国民生活は守れない」と拒否しました。原発の存在そのものによって「国民生活は守れない」ことが、すでに明らかになっているというのに……。

 この首相の意向表明を受けて、福井県は来週にも原子力安全専門委員会の結論など所定の手続きを経て、再稼働に関する政府要請に同意する見通しだそうです。最終的には首相ら関係4大臣が再稼働を正式決定することになります。
 この再稼働決定の発表を目だ立たなくする秘策が密かに練られているという噂があります。まさか、オウム真理教の高橋克也の逮捕とぶつけるために泳がしている、などということはないでしょうね。

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4月17日(火) なぜ急ぐ、大飯原発の再稼働 [原発]

 「オーイ、大丈夫か」と言いたくなります。大飯原発3、4号機の再稼働をめぐる動きです。

 どうしてこんなに急ぐのでしょうか。枝野経済産業相は脱原発を進めたいのでしょうか、それとも再稼働を急ぎたいのでしょうか。
 枝野さんは揺れています。悪く言えば、2枚舌を使っています。どちらが得になるか、首相への道を開いてくれるのか、計りかねているのでしょう。
 一方には、再稼働反対55%(『朝日新聞』調査)という世論があり、他方には、電力危機を回避せよという財界からの圧力があります。この世論と財界の間で判断に迷っているために、発言がブレてしまうのです。

 枝野さんは15日の講演で、北海道電力泊原発3号機が5月5日に定期検査で運転を止めると、「5月6日から(国内で稼働する原発は)一瞬ゼロになる」と述べました。大飯原発の再稼働が間に合わなくなることを認めたようです。
 それとも、稼働している原発がゼロになったら大変だから、たとえ「ゼロ」になっても、「一瞬」のうちに再稼働すべきだと言いたかったのでしょうか。そうしなかったら、大変なことになると。
 この場合の「大変」には、二つの意味があります。一つは、供給不足になって電力危機が生じたら大変だという意味であり、もう一つは、供給が減っても電力危機にならなかったら大変だという意味です。前者は再稼働に向けての脅しです。後者はそうなったら再稼働できなくなってしまうかもしれないという危機感です。

 このような脅しの根拠になっているのが、関電側が示した今年の夏の電力需給の見通しです。関電は、①原発が再稼動せず、2010年の夏のような猛暑に襲われると、ピーク需要に対し19.6%の電力が不足する、②11年並の暑さで節電しても7.6%の不足する、③3火力発電所がトラブルで停止すると最大23.3%が不足するというものです。
 しかし、このような数字には、需要側の節電努力が考慮されていません。昨年夏、東京では供給能力の90%を越えた日は1日しかありませんでしたが、それは需要側が節電したからです。
 国民の生活スタイルは、震災前とは変わってきています。電気を自由に好きなだけ使えた時代との比較は無意味です。

 電力危機とは、最も需要が高まる夏の平日午後1~4時頃のピーク時に供給が追いつかなくなることを言います。そうなれば、家庭でブレーカーが落ちるように、一斉停電が生じます。
 家庭であれば、ブレーカーが落ちないように電気の使い方を工夫するはずです。夏の暑い盛りの真っ昼間に、冷房をガンガン効かせて、テレビを見ながらホットプレートで焼き肉をするようなことは避けるでしょう。
 別の日にするか、電力消費量の多いホットプレートを使わずに焼くか、テレビを消すか、何らかの工夫をすればブレーカーは落ちません。社会全体でこのような意識的な対応を行えば、ピーク時の電力使用量を減らして平準化することができます。

 政府が今やらなければならないことは、このような工夫を国民に呼びかけることでしょう。揚水発電や蓄電池によるピークシフト、電力会社間の融通、電力需給を自律的に調整するスマートグリッドの普及など、そのための手だてを尽くすことこそ緊急の課題なのです。
 しかし、それで電力需要のピークを乗り切られたら困るというのが、財界や原子力ムラの心配なのです。だから、政府も腰が引けて、この緊急課題に取り組むことができないのでしょう。
 与党民主党も、「脱原子力依存」に向けて政策転換を先導する形にはなっていません。仙谷政調会長代行など、「脱原発依存が実現するまで、真っ暗な中で生活を送るわけにはいかない」、あるいは「止めた原発を一切動かさないなら、日本は集団自殺するようなことになってしまう」と脅している始末です。

 原発だけが発電しているわけではありません。このような荒唐無稽な脅しで世論をミスリードするようなことはやめるべきです。
 このような根拠のない脅し発言を、あの仙石さんがやるとは情けない。人権派弁護士といえども、権力の座にすわるとどこまで腐ってしまうかを、象徴的に示すような事例ではないでしょうか。

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2月20日(月) 何というユニークな杉並での脱原発デモ [原発]

 これがデモ?
 インターネットで流されている脱原発デモを見た感想です。でも、これもデモです。

 昨日、「素人の乱」などが呼びかけて杉並デモがあったというメールが流れ、共産党なども協力したということで、今日の『しんぶん赤旗』でも報道されました。このデモというか、パレードに5000人が参加したそうです。
 早速、その写真速報http://www.labornetjp.org/news/2012/0219shasinと動画(YouTubeのユニオンチューブチャンネル)http://jp.youtube.com/uniontube55を見ました。皆さんも、ぜひご覧下さい。
 デモのイメージが覆されます。私も講演などで、運動の発展のためにはステレオ・タイプの既成のスタイルを打ち破るべきだと話してきましたが、これがその一つの姿でしょう。

 今回のデモは主催者や代表者がいず、口コミやインターネットを通じて4回の準備会には毎回100人以上の人が集まり、多彩な発想が次々と飛びだしたそうです。この準備のあり方からして、すでにユニークです。
 デモの先頭は黄色い風船で飾られたベビーカートで、その後に「ほのぼのキッズ隊」「フォークダンス隊」「ドラム隊」などが続いたそうです。参加者も、幼児から若者、女性、お年寄りと幅広く、皆さん、楽しそうに歩いていました。
 全員で叫ぶシュプレヒコールはなかったようですが、思いの丈を叫び続ける「シュプレヒコール隊」はあったようです。シュプレヒコールも、やりたい人がやるというスタイルなのでしょう。

 動画を見てビックリし、また感心したのは「カラオケ隊」です。トラックの荷台にカラオケ機材一式を積んで、参加者が自由に歌っているようでした。選曲はほとんどが脱原発の替え歌だったそうです。
 後ろの方では、「素人の乱」の松本さんが屋台のようなものを引っ張っていて、参加者に飲み物などをサービスしていました。デモをしながら、このような形で参加者をサポートするなど、思いもよりませんでした。
 デモのサポートと言えば、「デモに参加した」と申告した客の代金を割り引く「デモ割り」を導入した飲食店もあったそうです。これもグッドアイデアで、店の商売で行けなかった飲食店の人も、これなら間接的にデモに参加できます。

 東京の杉並はビキニでの水爆実験を契機にした原水爆禁止署名運動の発祥の地でもあります。今回のユニークでアイデア溢れた脱原発デモ(パレード)が各地に波及することになれば、ここは再び新たな反核運動の発祥の地、少なくとも新しい大衆的アピールのスタイル発祥の地となるにちがいありません。
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10月15日(土) 九電社長の居直りと佐賀県知事の責任逃れを許してはならない [原発]

 呆れかえってしまいました。昨日の九州電力の眞部利応社長の記者会見です。

 眞部九電社長は、最終報告書を経産省資源エネルギー庁に提出後、福岡市の同社本店で記者会見して社長続投を正式に表明しました。そこで何と言ったと思いますか。
 「無実の可能性が高い方に『あなたが要請しましたよ』と言えないでしょ」と、佐賀県の古川康知事を擁護し、何度も「無実」と繰り返しました。自ら設置した第三者委員会の調査結果に反してまでも、古川知事を守ることを優先したというわけです。
 何という、居直りでしょうか。佐賀県知事と九電社長と、互いに身内をかばい合っている姿がこれほど鮮やかに示されるというのも珍しいでしょう。

 第三者委員会が先月30日にまとめた最終報告書は、玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働に関して国が今年6月に開いた県民説明番組で、九電が組織的に再稼働賛成の意見投稿(やらせメール)をしたのは事前に知事が九電幹部に伝えた発言が発端だと認定しました。また、同原発へのプルサーマル発電導入を巡る05年12月の県主催討論会で、九電が質問者を仕込んだことへの県の関与も指摘しています。
 しかし、九電が提出した今回の最終報告書では、こうした知事や県の関与部分は一切触れられていません。都合の悪い事実は黙殺し、知事を守ったということです。
 会見した小野丈夫・経営管理本部長は「恣意(しい)的なつまみ食いでは」と指摘されると、「たとえ外から(要請が)あったにしろ、私どもの行為が問題なのだ」と反論しました。仕込み質問に関しても、「私どもとしては県の意向をそんたくし、独自にそういう動き方をしたのではと考えている」と第三者委員会の指摘を否定しています。

 このように、第三者委員会が指摘した知事のやらせへの関与や不透明な関係など、都合の悪いことは全く盛り込まれませんでした。そのためにかえって、古川知事との蜜月関係を印象付ける形となっています。
 そもそも、第三者委員会を設置したのは信頼回復のためではありませんか。「社内調査では信じてもらえないから第三者委を設けた」のに、それを「つまみ食い」して都合の悪い事実については黙殺するというのでは、信頼回復どころかますます不信感を高めるだけです。
 この程度のことも理解できない社長が、制御不能になるかもしれない原発を推進してきたというのですから、これほど恐ろしいことはありません。もっとも、「制御不能」になっているのは眞部社長の方かもしれませんが……。

 眞部九電社長は、原発をめぐる状況が大きく変化したことをほとんど理解していないように見えます。世論のあり方も、行政の側の対応も……。
 福島原発事故の前であれば、居直って逃げおおせるということもできたでしょう。しかし、今では世論もマスコミもそれを許すはずがありません。
 自民党政権であったなら、居直りへの援護射撃を期待できたでしょう。しかし、これまでの腐れ縁に縛られない民主党政権ですから、そのようなことは無理でしょう。

 現に、枝野幸男経済産業相は訪問先の中国で「原子力政策への国民的批判がある中で、こんなことをしているのは理解不能だ」と語り、九電の対応を厳しく批判しました。世論向けのリップサービスでも、これくらいのことを言わざるを得ない立場に置かれているわけです。
 また、「第三者委員会に調査を委ねた趣旨をどう考えているのか。大変深刻な問題だ」と述べて強い不快感を示しました。眞部社長らの続投を決めたことについても、「それ以前の問題として、報告書への佐賀県知事の関与を記載しなかったことがある」として、続投は問題外との認識を示したそうです。
 さらに、九電に最終報告書の再提出を求めることも検討していることを明らかにしました。問題は、これで収まらないということでしょう。

 他方、第三者委員会の委員長を務めた郷原信郎弁護士も東京都内で記者会見して九電を厳しく批判しました。最終報告書については、「第三者委の報告書の都合のいいところだけをつまみ食いしてちりばめたもので、何の意味もない」と……。
 また、眞部社長に対し、「独自見解を表に出すのは常識はずれで、体制の維持ばかり考える経営者の暴走」と断じ、「進退をしっかり考えていただきたい」と辞任を求めています。当然でしょう。
 九電の最終報告書が、佐賀県側の関与に言及しなかったことに対しても、「我々が本質と捉えた九電と佐賀県の不透明な関係を一切無視し、第三者委発足前の九電の認識とほとんど変わっていない」と非難。眞部社長が「やらせメール」の原因について「(古川康・佐賀県)知事の発言ではなく、発言のメモが発端」と主張していることにも、「メモは発言の後に作られており、理屈にならない」と強く批判しています。

 テレビに映し出された眞部九電社長の記者会見を見ながら、火に油を注いでいる姿を連想したのは私だけでしょうか。そうとは気づかずに、眞部さんはガソリンをぶちまけて大爆発を引き起こしてしまったように思われてならないのですが……。

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9月23日(金) 野田首相が国連で語るべきだったこと [原発]

 せっかくのチャンスだったのに、日本は国際社会の信頼を回復する機会を逃してしまいました。野田首相の国連での演説を聞いた国際社会は、「これだけ迷惑をかけたのに、まだ原発で儲けようというのか」と、日本に対する不信感を強めたのではないでしょうか。

 野田首相は国連本部での「原子力安全首脳会合」で演説し、原発の安全性を「世界最高水準に高める」としたうえで、各国への原子力技術協力や原発輸出を継続する考えを表明しました。第1原発原子炉の冷温停止は「年内に達成すべく全力を挙げる」と強調し、事故に関する全ての情報を国際社会に開示すると確約。事故調査・検証委員会の検証を踏まえ、来年中に最終報告を示すとしています。
 今後の方向については、「中長期的なエネルギー構成の在り方についても、来年夏をめどに具体的な戦略と計画示す」と述べたにとどまり、脱原発依存について言及していません。これについて、『東京新聞』は「今後のエネルギー政策に関して、原発依存度の低減、再生可能エネルギーの促進、省エネの徹底を三本柱にした『ベストミックス』(電源の最適な組み合わせ)の具体案を来年3月までに作成する方針を固めた」と報じ、「ベストミックス案を示すことは結果として『脱原発は高コスト』との印象を国民に与え、原発維持論を強めることにもなりかねない」と「解説」しています。

 このように、野田首相の演説や政府方針は極めて不十分なもので、一方で脱原発依存のポーズを取りながら、他方で原発維持・推進の方向も否定しないものとなっています。これを聞いた国際社会や国民は、野田首相や政府はどちらの方向に進むつもりなのかと、大きな疑問を感じたことでしょう。
 野田さんは揺れています。9月19日の6万人集会にも示されたような脱原発の世論には抗しがたいものの、原発推進を求める産業界の要望も拒むことはできないと考えているのでしょう。
 これでは困ります。相変わらずのリーダシップの欠如であり、フクシマ後の日本の最高責任者としては無責任きわまりない対応であると言わなければなりません。

 原発問題では、①国民の安全、②電力の安定供給、③温暖化の防止という3つを同時に達成する必要があります。野田さんにはその答えが見つかっていないから、明確な方針を出すことができないのです。
 しかし、国民の安全を第一に考えれば、原発をこれ以上推進することはできません。できるだけ早く原発依存から脱却し、自然エネルギーへと転換するためにイニシアチブを発揮することが首相としての最大の責務です。
 他方、電力の安定供給という点からすれば、直ちに全てを自然エネルギーに頼るということはできません。一定の過渡期が必要ですが、自然エネルギー買い取り法の改正や電力供給体制の改革などによってこの過渡期をできるだけ短くすること、その間のエネルギー供給を安定させることが必要です。

 ここで、第3の温暖化の防止との関連が生じます。昨日のブログでも書きましたが、原発は発生させる熱量の3分の1しか発電に回らず、3分の2は温排水となって海に放出されますから、この点でも原発は落第です。
 小出さんが著書で、原発は「海温め装置」だと書いているのはこのためです。海水温の上昇は法律で7度以下に抑えることが決められていますが、注水と排水が繰り返されれば、海水温はどんどん上昇していくでしょう。
 現在日本にある原発全てが稼働すれば、このような温排水は1000億トンにも上ります。1年間で日本の全ての河川から流出される水量4000億トンの4分の1に匹敵する量になり、これが周辺海域の温暖化を進めることは明らかでしょう。

 つまり、温暖化という点からも、原発の維持・推進は選択肢にならないということです。それに代わるものとして、当面は天然ガス(LNG)と石炭による発電を考えざるを得ません。
 天然ガスの発電によるCO2の発生は、石炭や石油による発電の3分の1ほどです。最近は、大量のシェールガスの発見によって供給量に問題はなく、国際基準よりも高い料金も、アメリカとの交渉や中国からの輸入などによって安くできるでしょう。
 石炭による火力発電も、チップとの混合によってCO2の発生を大きく減らす技術が開発されています。これについて『東京新聞』8月26日付の「特報」は磯子火力発電所のルポを掲載し、「日本の火力技術は世界トップレベルで、大気汚染物質は大幅削減され、いまや煙突からほとんど煙も出ない」と報じています。

 問題は、脱原発という方向を、政治の意思としてはっきりと確定させることです。そのうえで、脱原発のためにどうするのか、何が必要なのかを明言することこそ、野田首相が国連で語るべき言葉だったのです。
 フクシマでの原発事故によって大気と海洋を放射能で汚染し、日本は世界中の人々に迷惑をかけました。再びそのようなことのないように脱原発の方向に向かうことは、日本にとっての国際的責務にほかなりません。
 日本が脱原発による新しいエネルギー政策とそれに基づく成長モデルを作り出すことは、国際社会にとっても大きな利益になるでしょう。自然エネルギー技術の開発と輸出は、日本にも新しいビジネス・モデルをもたらすにちがいありません。

 フクシマでの過酷事故を教訓として、ドイツやスイス、イタリアは脱原発の方向を明確にしました。それにもかかわらず、日本がそのような方向を選択しないとなれば、国際社会からこう問われるにちがいありません。
 「フクシマは、一体どこの国にあるのか」と……。

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8月6日(土) 佐賀県知事の「やらせメール」指示メモを入手した『AERA』のスクープ [原発]

 とうとう出ましたね。佐賀県知事の「やらせメール」指示メモの内容です。

 今日は戦後66年のヒロシマ原爆の日です。原爆と原発という同じ核のあり方とその被害を問う特ダネだと言うべきでしょうか。
 このメモを入手して掲載しているのは、朝日新聞が出す月刊誌『AERA』です。今日の『朝日新聞』に、その宣伝が出ていました。
 「スクープ 佐賀『知事がやらせ指示』メモ入手」「九電3人組との秘密会合『全記録』と知事要請メールを入手」というのが、その見出しです。中味は、『AERA』をご購読いただきたいと思います。

 と、言いたいところですが、実は、その中味の一部が今日の『朝日新聞』夕刊に出ていました。新聞で報ずるだけのニュース・バリューがあると判断されたのでしょう。
 その記事の見出しは「原発再開へ『首相がリスク』 佐賀知事発言、九電メモに」というものです。記事には、次のように書かれています。

 メモによると、古川知事は停止中の玄海原発2、3号機を再開するため「(県議会の)議員への働きかけをするよう支持者にお願いしてほしい」と要請した。
 さらに「危惧される国サイドのリスクは『菅総理』の言動だ」と指摘した上で、「発電再開に向けて総理自身のメッセージが発せられない。首相の言動で考えているスケジュールが遅れることを心配している」としている。(以上、引用終わり)

 このメモについては、「九電側はメモ内容と実際の知事発言は異なるとしているが、メモが事実なら知事は政治的に厳しい状況に追い込まれる」と、書かれています。そりゃ、話した言葉通りではなく多少の違いがあるかもしれませんが、話してもいないことを聞いた側がメモするなどということはありえません。
 そんなことをしたら、発言をねつ造したことになってしまいます。メモを作成した九電幹部3人は知事を陥れるために嘘を書いたということになりかねません。
 もし、古川知事が「そんなことは言っていない。メモはデタラメだ」というのであれば、裁判にでも訴えて法廷で白黒をつけるべきです。それができないというのであれば、やはりメモは本物だということになります。

 そもそも古川知事は、俗に言う「九電一家」の一員で、中立的な第三者ではありません。お父さんは九州電力の社員で、玄海原子力発電所のPR館の館長だった人です。
 古川知事本人も、「古川康後援会」や資金管理団体「康友会」に知事就任2年後の05年から毎年、玄海原発所長、佐賀支店長現副社長(元佐賀支店長)などから累計で約50万円の政治献金を受けていました。役職が交代したときに引き継がれていますから、個人献金の形を取った事実上の企業献金です。
 つまり、古川知事は九電の「身内」で、本人の気持ちとしては、できるだけ早く玄海原発を再稼働させたいと思っていたわけです。その気持ちが、「(県議会の)議員への働きかけをするよう支持者にお願いしてほしい」「危惧される国サイドのリスクは『菅総理』の言動だ」「発電再開に向けて総理自身のメッセージが発せられない。首相の言動で考えているスケジュールが遅れることを心配している」などの発言から、はっきりとうかがい知ることができます。

 これらの発言が、県政を預かる知事としての公正・公平な立場を逸脱していることは明らかでしょう。先に表面化した「やらせメール」指示に加えて、このような発言を行っていたとすれば、新聞記事が指摘するように、「知事は政治的に厳しい状況に追い込まれる」のは当然です。
 しかし、これは佐賀県知事と九電との特別な例ではありません。このような自治体の首長と電力会社との癒着や腐れ縁は、多かれ少なかれ、どこにでもあったのではないでしょうか。
 つい最近も、九電が川内原発3号機の増設を申し入れていたとき、福岡市で上演されたミュージカル「ミス・サイゴン」の観劇券2枚を伊藤祐一郎鹿児島県知事に無償で提供していたこと、これは知事の側から求めたもので知事は夫妻で観劇していたことなどが発覚しています。知事は「増設のことは頭の中に何もなかった。まずいという意識は全くない」と話しているそうですが、「まずい」と思わない方が問題なので、それほどに癒着関係が日常化していたということになります。

 なお、この『AERA』8月15日号の宣伝の横に、小さく、『法政大学 by AERA』の広告も出ていました。これは、法政大学を特集した別冊号です。
 この号には、大原社会問題研究所も取材され、2頁分の記述があります。クーゲルマンへの献辞の入ったマルクス署名入り『資本論』の初版本など、ほとんどが研究所秘蔵の「お宝」の写真ですが、記事の中には私のインタビューも登場しています。
 定価780円(税込)で、現在発売中です。近くの書店などで目にとまるようなことがありましたら、お買い求めいただければ幸いです。

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7月31日(日) 「ブレーキ」が「アクセル」になってしまった「不安院」 [原発]

 原子力安全・保安院というのが正式な名称です。でも、こんなことをやっていたのでは、名前を変えた方がよいのではないでしょうか。「保安院」ではなく「不安院」と……。

 私は7月8日付のブログ「九電『やらせメール』は誰の指示だったのか」で、次のように書きました。

 つまり、停止中の原発の再稼働方針は経産省が打ち出したもので、その突破口として狙われたのが玄海原発だったのです。番組形式の説明会の主催者も県ではなく経産省であり、説明したのも県の役人ではなく経産省の下にある原子力安全・保安院の担当者でした。
 この説明会で玄海原発の再稼働について、反対ではなく賛成の方向が強まることを最も願っていたのは、一体、誰なのでしょうか。それは九電よりも、むしろ経産省の方だったのではないでしょうか。
 九電の元副社長や元常務は「よろしく頼む」などと部下に伝えたと報じられていますが、この言葉はさらに別の方から伝えられていたということはなかったのでしょうか。東の霞が関の方向から……。

 菅首相のストレステスト実施の指示によって海江田経産相は「はしご」を外されたと言われています。それ以上に「はしご」を外されたのは、停止中の原発の稼働再開を急いでいた経産省であり原子力安全・保安院だったように思われます。
 今回の「やらせメール事件」の背後に、果たしてこれらの勢力の画策はなかったのでしょうか。「やらせメール」をやらせたのは、一体、誰の指示だったのか、九電社内に限らず、とことん追及してもらいたいものです。(以上、引用終わり)

 ここで私は、九電の「やらせメール」の背後に、経産省や原子力安全・保安院の「画策はなかったのか」と問題を提起しました。その答えが出たようです。
 今回の「やらせメール」の発端は、直接的には佐賀県の古川知事の発言だったようです。九州電力玄海原発の説明番組が放送される数日前に、古川知事は九電の当時の副社長らと面談して「原発の再稼働を容認する意見を出すことが必要だ」と、番組にやらせ投稿を促すような発言をしていたことが明らかになったからです。
 そればかりではありません。今回の「やらせメール」と同じような「画策」を、あろうことか、原子力安全・保安院が以前から行っていたことも明らかになりました。

 古川知事によれば、説明番組開催を5日後に控えた6月21日朝、退任あいさつに訪れた段上守・前副社長や大坪潔晴・佐賀支社長ら九電幹部3人と知事公舎で20~30分間面談したとき、番組も話題となったそうです。知事は「自分に寄せられる意見はほとんど反対意見ばかりだが、電力の安定供給の面からも再稼働を容認する意見も経済界にはあるように聞いている。この機会を利用し、そうした声を出していくのも必要」という趣旨の発言をしたといいます。
 3人はこの後、佐賀市内の飲食店で会食しましたが、その際、番組への意見投稿を増やす必要性で一致し、その後、部下らが「やらせメール」の発信などを指示したといいます。この経過を見れば、面談の時の知事の発言が「やらせメール事件」の直接的な引き金になっていたことは明らかです。
 九電第三者委員会の郷原信郎委員長は、記者会見で「古川知事の発言がやらせメール問題の発端になった可能性が十分にある」と指摘しましたが、誰が見てもそう思うでしょう。知事は「軽率のそしりを免れないが、やらせを依頼したことはない」と釈明していますが、中立の立場で再稼働の是非を判断すべき県トップが「再稼働を容認」する方向で事実上の世論誘導を促していたことは重大であり、その責任は免れないでしょう。

 また、昨日(7月30日)付『朝日新聞』の一面に大きく、「保安院 やらせ指示」という記事も出ていました。記事は次のように伝えています。

 中部電力と四国電力は29日、原子力関連の国主催シンポジウムで、経済産業省原子力安全・保安院から、推進側の参加者動員や発言を指示されていたことを明らかにした。九州電力に端を発した原発のやらせ問題は、原発を規制する立場の保安院まで関与していたことが発覚。原子力を取り巻く不透明な癒着の構図が浮き彫りになってきた。
 経産省は九電の「やらせメール」の問題を受け、過去5年、計35回の国主催の原子力関連シンポジウムについて、電力7社に調査を指示。29日に各社が報告した。海江田万里経産相は、記者会見で「極めて深刻な事態。徹底解明したい」と述べ、第三者委員会による調査を指示した。8月末までに結果を出す方針だ。
 保安院がやらせを指示したのは、2006年6月に四電伊方原発のある愛媛県伊方町、07年8月に中部電浜岡原発のある静岡県御前崎市であったシンポジウム。使用済み核燃料をリサイクルして使う「プルサーマル発電」の是非をめぐる重要な説明会だった。(以上、引用終わり)

 原子力安全・保安院の「やらせ指示」は、今回の九電の説明番組についてではありません。しかし、九電に対しても、過去には参加への動員要請があったようです。
 今回の「やらせメール事件」についてはどうだったのでしょうか。これについても、きちんとした調査と報告を求めたいものです。
 いずれにしても、このような「やらせ」は、過去において「慣習」だったと言いますから、呆れてしまいます。管理・監督する立場にある原子力安全・保安院と原子力業界との癒着・一体化はこのような形で進行していたということになります。

 このような恐れがあるから、原子力安全・保安院は経産省から分離・独立させるべきだったのです。しかし、これに対して経産省は抵抗し続けてきました。
 自民党政権時代の甘利明経産相は、「経産省から規制(を担う保安院)を分離すると、推進だけが残り、ブレーキのきかない車になる」と国会で答弁していました。よく、こんなことが言えたものです。
 実際には、保安院は「ブレーキ」どころか、「推進」のための「アクセル」だったではありませんか。本来、「ブレーキ」役を務めるべきだった保安院は、経産省に取り込まれ、いつの間にか「アクセル」に変質していたのです。

 その結果、原発政策には「ブレーキ」が効かなくなりました。「推進だけが残」ったのです。
 いや、正確に言えば、新しい「アクセル」が組み込まれたということになるでしょう。プルサーマルの推進のために、肯定的な発言までやらせていたのですから……。
 経済産業省、原子力安全・保安院、原子力産業が一体となって、プルサーマル発電推進の「世論」作りに精を出していたというわけです。それは、従来の原発以上に危険なものだったにもかかわらず……。

 この保安院による「やらせ事件」は、昨日の新聞各紙の一面に出ていました。しかし、驚くべきことに、昨日(30日)朝のNHKニュースではほとんど報じられませんでした。
 さすがに、電力会社の社債を374億円も大量に保有し、経営委員の一部に電力会社の幹部を迎えているNHKらしい報道姿勢だと言うべきでしょうか。

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7月26日(火) 九電「やらせメール」問題についての新事実と弁護論 [原発]

 「原発の闇」について、その後も新たな事実が明らかになっています。原発の「安全神話」を支えてきた「闇」の暗さと広がりは、私たちの想像をはるかに超えていると言うべきでしょうか。

 玄海原発の再稼働を巡る「やらせメール」問題についての新たな事実が報道されました。過去に国や佐賀県などが主催した原発関係の6件の住民説明会やシンポジウムなどで、九州電力が毎回、社員や関連会社員ら数百人に参加を呼びかけていたことが九電の内部調査でわかったというのです。
 これに対して、住民説明会やシンポジウムなどに参加を呼びかけることは「市民参加の政治スタイル」であって問題とするには当たらないとする弁護論を目にしました。今日の『朝日新聞』の「やらせメールの深層心理」という記事で、米国カリフォルニア工科大学の下條信輔教授は次のように述べています。

 「やらせメール」問題が耳目をにぎわわせた。原発再開を巡る番組の公平性を損ねた、実にけしからぬ。世論はそういう糾弾路線で一致したが、微妙な違和感を持った。
 アメリカ的な価値観で言うと、動員をかけること自体は問題ではない。市民参加の政治スタイルとして、むしろ当然だ。またたとえ組織がトップダウンで指令しても、たいていは強制たり得ない。不当な強制力を行使した場合に対する内部告発の反動もまた強大だ。(以上、引用終わり)

 これを読んで、「微妙な違和感を持った」のは、私だけではないでしょう。というのは、過去6回に及んだ「動員」は、会場までバスで送迎したり、社員に休暇を取らせて参加させたりしていたもので、「アメリカ的な価値観」からしても、「むしろ当然」などと言えるものではなかったからです。
 調査結果によれば、動員が明らかになったのは、①玄海原発3号機へのプルサーマル発電導入に関する公開討論会やシンポジウムの3件、②川内原発3号機増設に関する公開ヒアリングなど3件だそうです。
 九電は、原子力部門の上層部の指示で、社員や関連会社員、協力会社員らに口頭や文書の回覧、電子メールなどで参加を要請していました。会社ごとに参加人数を割り振り、動員を呼びかけた数は毎回数百人規模に上ったといいます。

 これはまさに会社による組織的な「動員」であり、「組織がトップダウンで指令」したものでした。それは明らかに「不当な強制力を行使した場合」に当たりますが、「内部告発の反動」は、これまで一度もありませんでした。
 確かに、今回の「やらせメール」問題の発覚は関連会社社員からの内部告発によるものでした。しかし、それは初めてのことで、過去にも同様の「やらせ」があったことは今回の調査によって初めて明るみに出てきたものです。
 しかも、過去の例では、会社がバスで送迎したり、休暇を取らせたりしていたというのですから、「強制」であることは明瞭です。下條さんは「当事者達の自発性を軽視し過ぎている」と反論されていますが、このような状況の下でどれだけ「当事者達の自発性」が担保されていたのでしょうか。

 下條さんが前提にされているのは「アメリカ的な価値観」であって、日本の電力会社の現実ではありません。そのために、意図せざる弁護論を展開する結果になっています。
 日本の企業では、「たとえ組織がトップダウンで指令」せず、ちょっと示唆しただけでも部下がその意図を斟酌して行動します。そのために、「たいていは強制」になってしまうのです。
 労働者が会社と一体化し、労働組合ですら規制力を発揮できない電力会社の現実について、あまりにも無知であると言わざるを得ません。このような現実を何も知らないからこそ、下條さんは「微妙な違和感を持った」のではないでしょうか。

 九電の「やらせメール」問題は、日本の企業と社員との不正常な関係をも明らかにしています。それを「アメリカ的な価値観」によって弁護するのではなく、断罪することこそが、必要なのではないでしょうか。


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7月24日(日) 次々と明るみに出てくる電力会社の闇 [原発]

 先日のブログで、電力会社の背後には深い闇があると指摘しました。それは、一般に考えられているよりも、ずっと深くて暗いものだったようです。

 まず、明らかになったのは「やらせメール問題」でした。このような「やらせ」は、それまでにもあったということが、その後明らかになりました。
 たとえば、九州電力は以前、プルサーマル発電計画を進めるために地元で説明会を開いた際や、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)3号機の増設計画についての説明会でも、九電の社員や関連会社の社員に動員をかけていたそうです。
 玄海原発への賛否が、「やらせメール」のために逆転していたことも判明しました。玄海原発の住民説明会に出席した7人の市民代表のうち1人が九電の息のかかった人物だったということも、ネットなどでは話題になっています。

 次に、明らかになったのは、様々な形での利益供与でした。玄海原発の地元の玄海町長が原発利権の受益者であること、実弟が社長をしている建設会社が多額の原発関連工事を受注していたことが明るみに出ました。
 その後、町議会の原子力対策特別委員長の次男が経営する建設会社「中山組」も同じように原発関連交付金を財源とした工事を受注していたことが報じられました。受注額は2009年度までの4年間で少なくとも12件、総額約4億200万円分になるそうです。
 玄海町の町長と町議会の原子力対策特別委員長が、ともに原発からの受益者であったというわけです。再稼働に好意的な動きをするはずです。

 さらに、電力会社と自民党との癒着についても、色々な事実が明らかになっています。東北3県の自民党県議77人に対する「役員報酬」名目での資金供与については、すでに、このブログにも書きました。
 以前、原発のない沖縄電力を除く9電力会社の役員ら206人が、自民党側に2009年の1年間に判明しただけで、約2800万円の献金をしていた事実が報じられたことがありました。その後、共同通信の調査で、東京電力など電力9社の役員・OBらによる自民党の政治資金団体「国民政治協会」本部への個人献金についての疑惑が明らかになりました。
 それによれば、2009年分の個人献金額の72.5%が電力会社の役員・OBらによるものであること、当時の役員の92.9%が献金していたこと、電力業界は1974年に政財界癒着の批判を受け、企業献金の廃止を表明したが、このような献金は遅くとも76年に始まっていたこと、献金額は35年前から各社役員ほぼ横並びで固定化していたことなどが判明したそうです。つまり、電力会社が足並みをそろえて、個人献金の形をとった企業献金を行ってきたというわけです。

 このほか、マスコミ・世論対策の実態も徐々に明らかになってきています。『しんぶん赤旗』の報道によれば、1986~89年にかけて、当時の科学技術庁が反原発運動を監視し、その結果は89年6月に原子力局原子力調査室名で「最近の原子力発電に対する反対運動の動向について」としてまとめられたそうです。
 また、日本原子力文化振興財団の「世論対策マニュアル」は、「繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る」と、原発容認意識を国民に刷り込む施策を求めているそうです。「原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦出来るようにしておく」などと、文化人、マスメディア取り込み作戦も具体的に提起していると言いますから、呆れてしまいます。
 さらに、原子力施設立地推進調整事業のうちの「即応型情報提供事業」の目的は「新聞、雑誌などの不適切・不正確な情報への対応を行う」ことだそうです。担当者によれば、記事を収集する対象は、『朝日新聞』や『読売新聞』などの全国紙や『日刊工業新聞』などの専門紙、福井や青森、福島など原発立地県の地方紙など約30紙で、間違った記事があった場合、資源エネルギー庁に報告し、訂正情報も作成していたといいます。

 全く、メチャクチャではありませんか。驚くようなことばかりです。
 原発についての説明会や意見聴取の機会があれば、社員や関連会社の社員が大挙して出席する。あるいは、事前に手を回してメールなどで賛成意見を送ったりする。
 県知事など地元の首長にも政治献金を怠らない。首長や有力議員の親族の会社には関連工事をまわして原発利権に取り込む。
 原発推進の自民党には、役員やOBによる個人献金を装って政治資金を提供する。地方の自民党議員には名目的な役職についてもらって役員報酬を支払う。
 原発に好意的な学者や文化人、マスコミに金を注ぎ込んで「安全神話」を広める。普段から監視を怠らず、異論や疑問に対しては目を光らせ、訂正情報を作成していつでも反論できるようにする。

 これが電力業界・電力会社の「やり口」です。こうして、原発を推進する政治勢力や受け入れる世論が作り出されてきました。それが可能だったのは、電力会社が豊富な資金を持っていたからです。
 その背景には、電源3法交付金などの国家による支援、電力会社による市場の独占、コストに利益を上乗せして設定できる独特の料金システムなどがありました。おんぶにだっこされるような形で電力会社は甘やかされ、電気料金や税金などの形で国民がそのツケを払わされてきたわけです。
 そのような甘やかしをやめて、電力会社を本来の私企業に戻すべきです。国家による支援を止めて自立させること、独占ではなく市場競争を回復すること、一般の企業と同じような普通の料金システムにすることが必要でしょう。

 そうすれば、割に合わない原子力発電事業から、電力会社は自然に手を引くことになるのではないでしょうか。そうなれば、電力料金も、今よりずっと安くなるかもしれませんよ。

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7月17日(日) 菅首相の「原発ゼロ」表明を「無責任」な「絵空事」に終わらせてはならない [原発]

 菅首相の「将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」という「原発ゼロ表明」に対して、関係閣僚と調整せず、唐突にエネルギー政策を転換する方針を示したとの批判が浴びせられています。「個人の夢」(野田佳彦財務相)や「単なる願望」(仙谷由人官房副長官)などという指摘もありました。

 私は13日のブログで、「今後、巻き返しにあう可能性もあります」と書きましたが、予想通りの反応です。『読売新聞』は「深刻な電力不足が予想される中で、脱原子力発電の“看板”だけを掲げるのは無責任」と批判し、『産経新聞』は首相の説明について「内容は全く不十分で、無定見ですらある」として「一刻も早い退陣こそ求めたい」と書いています。
 このようななかで、菅首相も15日午前の閣僚懇談会で「私個人の考えだ」だなどと釈明し、無責任な対応を示しました。冗談じゃありません。
 首相としての発言は、「個人」ではなく「公人」としてのものに決まっているじゃありませんか。首相としての責任をきちんとわきまえてもらいたいものです。

 原発推進勢力の巻き返しにあって、菅首相自身がたじろいでしまっては困ります。このまま曖昧にされれば、やっぱり「無責任な放言にすぎなかったのか」ということになりかねません。
 具体的な施策によって裏打ちされなければ、単なる「絵空事」に終わってしまうでしょう。それは菅首相の望むところでもないはずです。
 菅首相の「原発ゼロ」に向けての表明を「無責任」な「絵空事」に終わらせてはなりません。そのためには、3つのことが必要です。

 第1には、閣内や民主党内を「原発ゼロ」をめざす方向でまとめることです。事前の協議や調整がなかったというのであれば、これからきちんと詰めればよいのです。
 閣議で、閣僚1人1人の意見を確認するべきでしょう。もし、従わないというのであれば、罷免すれば良いだけのことです。
 原発を減らすことや菅さんが打ち出した方向性については、一応の合意があるはずです。「将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」という思いを共有する点で、閣内や民主党首脳部との意思統一を図るべきでしょう。

 第2には、後継政権への継承を確実にすることです。これは、有力な次期後継者がいる閣内での意思統一を図ることで、かなりの部分は達成されます。
 それに加えて、具体的な施策を実現しなければなりません。その第一歩になりうるのは、再生エネルギー促進法案の成立です。
 これは、菅首相の「退陣3条件」の一つでもあります。この法案の成立に目処を付けることは、菅首相の早期退陣を求める人々の意にもかなうことでしょう。

 第3には、具体的な段取りや計画を策定することです。菅首相は、先の記者会見で「原発に依存しない社会を目指すべきだと考え、計画的、段階的に原発依存度を下げる」と述べましたが、そのための具体的な計画を示しませんでした。
 早急に、これを策定しなければなりません。電力供給の不足を招かない形での原発依存度の低下が可能であることを、具体的に示す必要があるでしょう。
 財界や電力会社、経産省などは、猛烈な電力不足キャンペーンを展開して巻き返しを図っています。これを押し返すためにも、政府が責任を持って具体的な計画を示さなければなりません。

 それにしても、閣僚や民主党幹部の中で、「原発ゼロ」という目標を明確にしているのが菅首相しかいないというのは誠に残念です。このような状況こそが、菅首相が居座る最大の理由になっているということに、どうして気がつかないのでしょうか。
 もし、首相の早期退陣を願うのであれば、「原発ゼロに向けての思いは分かりました。後は私たちに任せてください」と言えば良いのです。逆に、「そんなのは個人的な願望にすぎない」などというものだから、菅さんは「やっぱり、俺がやらねば」と思い詰めてしまうんじゃないでしょうか。

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