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12月14日(金) 今回の総選挙でも明らかになりつつある小選挙区制の害悪 [選挙制度]

 総選挙の最終版でも、自民党の好調さが伝えられています。このまま行けば、自民党は衆院でV字回復することになるでしょう。

 このような自民党の復調が可能になっているのは、なぜでしょうか。主な理由は三つあります。
 第1に、民主党の裏切りに対する失望の反動であり、第2に、民主党や自民党に対抗すべき「第3極」の乱立であり、第3に、このような状況が自民党に利をもたらすシステムの存在です。
 この第3の点が重要です。それは、小選挙区制のカラクリにほかなりません。

 先日発表された『毎日新聞』の調査(12月11日付で報道)によれば、自民党の比例代表区での獲得議席は最大66と予想されています。これは全体の37%に当たります。
 ところが、小選挙区では最大243と予想されており、これは全議席の81%に当たっています。比例代表区より44ポイントも高くなっており、3割台の得票率で8割台の議席を獲得することになりかねません。
 このような差が生ずるのは、小選挙区では相対多数の支持を得た候補者が当選するからです。5党が立候補してきれいに票が割れれば、得票率が21%で当選できます。

 今回の選挙では、このような多数の政党が候補者を擁立する小選挙が沢山あります。そこで、公明党のアシストを受けた自民党が評判の悪い民主党より相対的に多数の得票をすれば、当選できるということになります。
 このようにして、中小の政党に投じられた票は無駄にされるでしょう。今回の選挙では、今まで以上に「死票」が多く出ると予想されています。
 「死票」とは、議席に結びつかない票であり、議員を通じて国会に代表されることのない民意です。制度によって「殺されて」しまう民意であると言っても良いでしょう。

 このような状態を、いつまで続けるつもりなのでしょうか。これでは、せっかく選挙をやりながら、民意をドブに捨てているようなものではありませんか。
 たとえ、それが議席に結びついた場合でも、大きな問題があります。相対的に多数であるにすぎない得票を絶対的な多数に読み替え、有権者の意思を大きく歪めてしまうからです。
 民主党に嘘をつかれ裏切られて、懲らしめたいと軽い気持ちで自民党に投じられた票が、いつの間にか膨らんで巨大な議席を与えることになってしまいます。そうなってから、「そんなつもりではなかったのに」と慌ててみても、もう遅いのです。

 このように、小選挙区制は民意を歪める最悪の選挙制度です。「政治改革」を言うのであれば、このような制度を抜本的に改めて小選挙区制を廃止しなければなりません。
 今回の総選挙でも明らかになりつつある小選挙区制の害悪を直視する必要があるでしょう。それを廃止するところからしか、民意に基づいた議会の復権、すなわち議会制民主主義の回復は望めないのではないでしょうか。

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6月23日(土) NHKのラジオ番組「私も一言!夕方ニュース」に出演してきた [選挙制度]

 昨日の夕方、NHKのラジオ番組「私も一言!夕方ニュース」に出演してきました。行きは研究所から電車でしたが、帰りは自宅までタクシーで送ってもらいました。
 帰り際、スタジオの横で写真を撮られました。今日のHPにアップされています。http://www.nhk.or.jp/hitokoto/backnumber/

 これまでも、何回かテレビなどでの収録の経験がありましたが、ラジオのスタジオでの生放送は初めてです。以前、テリー伊藤さんのラジオ番組に出たことがありますが、研究所からの放送でした。
 いずれにしても、これまでの経験では、ほんの一言くらいしか放送されませんでした。しかし、今回は40分近い放送時間中、かなり言いたいことを言わせていただいたように思います。
 お陰で、気持ちよく終われました。担当ディレクターはじめ、関係者の皆様に感謝申し上げます。

 とはいえ、素人の生放送ですから、言い足りなかったことや誤解を受けることがあったかもしれません。私の立場や言いたかったことをご理解いただくために、事前に送った文書を以下に掲げておきましょう。
 参考にしていただければ幸いです。

民主党が提案した選挙制度改革法案への総括的な評価

 最悪の選挙制度である小選挙区制以外であれば、どれも検討に値するというのが、私の基本的な立場です。提案された案は、現行制度よりも大政党の有利・小政党の不利という問題点が緩和されている点でベターだと言えます。
 然し同時に、問題点もあります。

 その第1は、比例代表の定員40削減が組み合わされており、次々回の選挙ではさらに40削減するとされている点です。今回の法案は、このような比例80削減というマニフェストの案を実現するための「エサ」ではないかとの疑いがあります。ですから、すんなり、これで結構というわけにはいかないでしょう。

 第2には、小選挙区での獲得議席が多くなればなるほど、比例区での議席が少なくなってしまうという連用制の問題です。この制度によって、小選挙区比例代表並立制は部分的に小選挙区「反比例代表」並立制に変質します。この党に頑張って欲しいと小選挙区で応援すればするほど、比例区では足を引っ張ることになってしまうわけで、有権者からすればどうすれば良いんだということになりかねません。

 第3の問題点は、制度が複雑で分かりにくいという点です。20歳以上の全国民が有権者であり、皆さん普通の人々です。選挙制度は投票する一般庶民にも分かりやすい簡単で明瞭なものでなければなりません。分かりにくいために選挙への関心が低下し、ただでさえ低くなっている投票率が低下するということになっては困ります。

 これらの点を勘案すれば、このまま成立させて良いのか、判断に迷っても当然でしょう。最低限、比例区の定数削減を抱き合わせにすることはやめてもらいたいと思います。そうすれば、一歩前進と言いやすくなります。しかし、それでも小選挙区制は残りますから、その害悪や問題点、とりわけ一票の不均衡については、人口移動が続く限り再び問題になることは避けられないでしょう。

 以上が、事前に送った文書の内容です。これを前提に、番組では、今後の可及的速やかな抜本的改正を確約させ、比例区の定数削減を切り離したうえで、当面の緊急避難策としての「0増5減案」の実現を主張しました。これなら、各党で合意できるのではないかと思ったわけです。
 もちろん、民主党の提案に公明党が賛成し、民主・公明の両党で成立をめざす可能性もあります。消費増税に向けての3党合意を踏まえて自民党が共同歩調をとったり、強く反対せず黙認するような対応をすれば、そうなるかもしれません。
 通常国会は9月8日まで延長されましたので、このような案を含めて国会で議論されることになるでしょう。今後の推移を注目したいと思います。

 なお、明日(24日)、東京土建幹部学校で講演するために、また渋谷に行きます。東京土建の皆さん、渋谷でお会いしましょう。

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6月19日(火) 民主党が提出した衆院選挙制度改革法案をどう考えるか [選挙制度]

 今日の『朝日新聞』を読んでいて、オヤオヤと思いました。「小党に有利 連用制導入」という3面の記事で、私の発言が引用されていたからです。
 記事には、次のように書かれていました。

 (連用制については)民主党内にも「わかりにくい」との指摘がある。5月の衆院政治倫理確立・公選法改正特別委員会では、参考人の五十嵐仁・法政大教授(政治学)が「有権者が票を投じれば投じるほど、比例区の議席が減ってしまうという形でゆがめられる」と述べた。

 昨日、民主党が国会に提出した衆院選挙制度改革法案には、公明党が主張していた比例代表の連用制が盛り込まれたからです。この連用制は、1993年の政治改革でも民間政治臨調が提案したことがあり、決して新しいアイデアではありません。
 今回民主党が単独で提出した法案は、衆院小選挙区で5、比例区で40の計45議席を削減するというものです。比例区については定数140のうち35議席分について「連用制」を採用し、現行の11ブロックは全国比例に改めるとしています。
 この選挙制度に基づいて、2009年衆院選の結果から試算すると、民主党は87から47へ、自民党は55から30へと激減し、逆に、公明党は21から29へ、共産党は9から17へ、社民党は4から7へ、みんなの党は3から8へと大幅に増え、幸福実現党も1議席を獲得する計算だといいます。

 私の選挙制度についての基本的立場は、最悪である小選挙区制以外、どのような制度も検討の対象になるというものです。連用制も、小政党が有利になるという点で、小選挙区制に比べればましな制度だといって良いでしょう。
 ただし、この制度には、次のような問題点があります。第1に、『朝日新聞』の記事で引用されているように、有権者が小選挙区で票を投じれば投じるほど、比例区での議席が減ってしまうという形で、やはり民意が大きく歪められるという点です。
 第2に、これも民主党内の声として『朝日新聞』が紹介しているように、制度が複雑で分かりにくいという点です。とりわけ、今回の案では比例区全体が「連用制」になるのではなく、その一部である35議席だけに導入されるという形で、さらに複雑になっています。
 第3に、法律論としては、このような小選挙区「反比例代表」並立制によって選出された議員が、憲法前文にある「正当に選挙された国会における代表者」と言えるのかという問題があります。選挙後に提訴されれば、このような問題が争点となり、憲法違反とされるかもしれません。

 さらに、この問題を考えるうえで重要なことは、そもそも、何故、小政党への配慮が必要とされるのかという点です。それは、小選挙区制が大政党に有利な制度だからです。
 この制度的欠陥を是正するために、比例区で小政党に有利になる「連用制」を導入しようというわけです。つまり、小選挙区での歪みを、比例区での逆の歪みによって是正するということです。
 それなら、もともと歪みを生むような小選挙区制をなくせばいいじゃありませんか。そうすれば、比例区で是正する必要はなくなります。

 今回の連用制の採用には、小手先の是正策によって小選挙区制を維持しようとする姑息な意図が隠されているのかもしれません。消費増税法案に賛成してもらうために、公明党に秋波を送ったという政治的な意味合いもあるでしょう。
 さらに、今回の法案には、次々回の選挙での比例区40削減が前提されているという含みもあります。もし、このような形で比例区の定数が削減されれば、ますます小選挙区の比重が高まり、その害悪も大きくなるでしょう。
 「連用制」になれば議席が増えるという目先の利益に釣られて賛成すれば、将来、痛い目にあう可能性があります。公明党が賛成に回れば成立するかもしれず、また、そうなる可能性もありますが、公明党にはこれらの点を熟考してもらいたいと思います。

 選挙制度は、国民主権を実体化し、議会制民主主義を支えるための、極めて重要な仕組みです。自分の党の有利・不利や当面の利益に引きずられて軽々に判断しないよう、各党には慎重な対応を求めたいものです。

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5月30日(水) 衆院倫理選挙特別委員会での意見陳述 [選挙制度]

〔以下は、衆院政治倫理の確立・公職選挙法改正特別委員会(衆院倫理選挙特別委員会)の参考人質疑(23日)で私が行った意見陳述の要旨です。5月26日付『しんぶん赤旗』に掲載されました。〕

 1993年に本を書いて小選挙区制を批判し、連用制の問題点も指摘しました。小選挙区制に問題があることはこのときから明りょうでした。過ちを改めるには今が絶好のチャンスだと思います。
 小選挙区制は最悪の選挙制度であり、ぜひ廃止してもらいたい。
 小選挙区の制度的欠陥は第1に、多数と少数が逆転するからくりが仕組まれていることです。イギリスでは1951年と1974年の二度、総得票数と議席数が逆転しています。民主主義を口にするなら認めてはなりません。
 第2は、少数(の得票)が多数(の議席)に読み替えられるという問題です。2009年総選挙で、民主党は47%の得票率で74%の議席を得ています。
 第3に、多くの死票が出て選挙結果に生かされません。09年総選挙では、46%が死票になっています。
 第4に、「過剰勝利」と「過剰敗北」によって選挙の結果が激変します。
 第5に、政党規模に対して中立ではなく、小政党に不利になります。このように、小選挙区制は人為的に民意を歪める根本的な欠陥をもっています。
 実際にどのような問題が生じてきたか。
 政権の選択肢が事実上、2つしか存在しません。小選挙区で当選するための「選挙互助会」的な政党ができました。「風向き」によって短期間で多数政党が交代します。二大政党の間の有権者を奪い合うために相互の政策が似通ってくる。地域や民意とも離れ、議員の質も低下しています。
 制度改革についての議論では、連用制が提案されています。しかし、頑張ってほしいと有権者が小選挙区で票を投ずるほど、比例代表では減ってしまいます。民意が歪められ「正当に選挙された国会における代表者」という憲法前文に反する可能性があります。
 比例定数の削減案も出ていますが、日本の国会議員は国際的に見ても多くない。現在より少なくするのは反対です。身を切る改革と言われているが実際は民意を切る改悪です。比例定数の削減は小選挙区の比率を高め、問題点や害悪を増大させるだけでしょう。
 小選挙区の「0増5減」案は当面の緊急避難であり、人口移動が続けばいずれまた是正が必要になります。抜本的改革を先延ばしする口実であってはなりません。
 民意の反映か集約かという論争も以前からありました。選挙は民意を議会に反映するためのもので、その民意を討論によって1つの方向に集約していくのが国会の役割です。議会で民意を集約するべき議員自身が選挙での集約などと言うのは自己否定にほかなりません。
 今日、「政治改革神話」が崩れ、見直しの議論がされているのは歓迎すべきことです。小選挙区制を廃止して比例代表制的な選挙制度に変えることで、より民主的で本当に国民の願いが国会に反映されるような選挙制度に改革していただきたいと思います。


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5月26日(土) 衆議院倫理選挙特別委員会での意見陳述の要旨が掲載された [選挙制度]

 本日の『しんぶん赤旗』の4面に、先日行われた「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」(衆議院倫理選挙特別委員会)での私の意見陳述の要旨が掲載されました。ご笑覧いただければ幸いです。

 もう、こういう機会はないだろうと思いましたので、言いたいことを全てぶちまけたという感じです。何せ、20年間もの思いですから……。
 陳述の冒頭にあるように、私は1993年に『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』を労働旬報社から出して小選挙区制を批判し、同じく労働旬報社から、1997年に『徹底検証 政治改革神話』という本を出し、前年の1996年に初めて実施された並立制での総選挙を対象に政治改革の過ちを「徹底検証」しています。このときから、小選挙区制を廃止しなければならないと、思い続けてきました。
 この思いを、政治の現場で直接議員相手にぶつけるチャンスがめぐってきたのが、今回の意見陳述でした。このチャンスを何とか生かして、選挙制度をまともなものに変えて欲しいと、私が考えたのも当然でしょう。

 というわけで、かなり力の入った陳述を行いました、お陰様で、それなりの反響があったようです。
 推薦していただいた共産党の佐々木憲昭議員の秘書の方からはメールを受け取り、質問していただいた穀田恵二議員からはわざわざ「他の委員からも、とてもスッキリと分かりやすいと感想がありました」との礼状をいただきました。他党の議員にも訴えるものがあったようで、嬉しく思っています。
 また、周辺の友人・知人の方からも、「ニュースで見たよ」という反応が多くありました。さすがに、NHKの夜7時のニュースです。皆さん、ご覧になっているんですね。

 私にとっても得難い体験でした。せめては、これが契機となって、選挙制度の抜本的な改革に繋がって欲しいものです。
 政治とは「決定」であり、議会でそれを担当する代表者を選ぶのが選挙ですから、選挙とは政治の根本にかかわる重要な役割を担っています。そのあり方は、党利党略や政局への思惑などによって左右されてはなりません。
 20年近く前に犯した過ちを、是非、この機会に正していただきたいものです。この制度を導入した当事者の1人である河野洋平元自民党総裁も、「率直に不明をわびる気持ちだ。状況認識が正しくなかった」と陳謝し、「政治は劣化している。現職の皆さんの責任で選挙制度を変えてもらわなければならない」と言っているのですから……。

 なお、拙稿「選挙制度改革をめぐる動き」が掲載された『法と民主主義』5月号(№468)が発行され、昨日、自宅に送られてきました。こちらの方も、ご笑覧いただければ幸いです。
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5月24日(木) 比例区定数の大幅削減ではなく小選挙区制の廃止こそ [選挙制度]

 昨日の国会は大忙しだったようです。野田首相が出席して衆院社会保障・税特別委員会が開かれ、同時に与野党の幹事長・書記局長会談があり、それと並行して「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」(衆議院倫理選挙特別委員会)が行われていたのですから。
 幹事長・書記局長会談では、衆院選挙制度に関する各党協議の不調について報告され、会期末の6月21日までに結論を出すことで大筋合意されたということです。来週にも具体的な協議に入るとのことですが、是非、昨日の意見陳述を参考にしてもらいたいものです。

 この意見陳述について昨日夜7時のNHKニュースで報道されたことは、すでに昨日のブログで書いたとおりです。もっと詳しくは、今日の『しんぶん赤旗』の2面に掲載されています。
 「80削減に批判や疑問 選挙制度改革で参考人質疑」という見出しでの記事が出ていました。私の写真も掲載されています。
 昨日のNHKニュースでは、「0増5減案が選挙制度の抜本的改革を先送りする口実であってはならない」という私の一言だけが報じられました。『しんぶん赤旗』の方には、比例定数80削減について、「身を切る改革ではなく民意を切る改悪だ」という私の言葉が出ています。

 ここでも紹介されているように、他の参考人も80削減には批判的でした。しかし、現行の小選挙区比例代表並立制と小選挙区制についての評価は、肯定的な曽根泰教・加藤秀治郎両参考人と批判的な田中善一郎参考人と私という形で2分されました。
 ただ、加藤先生はドイツの専門家であり、そのドイツは小選挙区併用型の比例代表制です。基本的には比例代表での獲得議席がベースとされ、それに小選挙区での当選者を当てはめるというやり方です。
 したがって、ドイツの選挙制度も小選挙区制ではなく比例代表制です。ドイツでは連立政権も普通のことですから、どうして比例代表制ではなく小選挙区制の方を評価されるのか、私には理解できません。

  意見陳述の冒頭、私は次のように述べました。

 私は今から約20年前の1993年に『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』という本を出し、小選挙区制を批判いたしました。この本の中では、連用制の問題点も指摘しています。その4年後の1997年に、前年に初めて実施された並立制での総選挙を分析した『徹底検証 政治改革神話』という本も出しております。小選挙区制に問題があることは約20年前から明らかでした。
 そのような私からすれば「何を今さら」と言いたい気持ちですが、過ちを改めることは良いことです。今がその絶好のチャンスだと思いますので、以下、小選挙区制の問題点と望ましい選挙制度のあり方について発言させていただきます。

 以下、「小選挙区制の制度的欠陥」として、①少数と多数が逆になる、②少数が多数に読み替えられる、③多くの「死票」が出て選挙結果に生かされない、④過剰勝利と過剰敗北によって激変する、⑤政党規模に対して中立的ではないという5点を指摘しました。
 続いて、「実際に生じてきた問題点」として、①政権の選択肢は事実上2つしか存在していない、②選挙互助会的な政党の登場、③風向き(世論動向)による短期間での多数政党の交代、④一方での連立や翼賛化への誘惑と他方での連立・連携の困難というジレンマ、⑤地域や民意との乖離・切断、⑥議員の質の低下について述べました。
 特に、民主党の議員を前にしての第2点は、大変、言いにくいものでした。また、第6の点も、現職の国会議員を前にして、その質の低下を問題にしたわけですから、議員の皆さんにとっては面白くなかったでしょう。質問の際に、民主党の議員からは「大変厳しいご指摘をいただいた」と言われました。
 さらに、「制度改革に関するいくつかの論点」として、①連用制は小選挙区「反比例」代表並立制であって比例代表部分で投じられた有権者の意思が歪められ、「正当に選挙された国会における代表者」(憲法前文)とはいえないこと、②日本の国会議員は多くなく、比例区定数の削減は小選挙区の比率を高め、その害悪を増大させること、③0増5減案は当面の緊急避難で湖塗策にすぎず、抜本的改革を先延ばしするための口実ではないのか、④民意の反映か、集約かという議論については、民意の反映が選挙、民意の集約は国会であり、選挙での民意の集約論は国会の自己否定にほかならないことを明らかにしました。
 最後に、「望ましい選挙制度の提案」として、①11ブロックでの比例代表制、②全国一区での比例代表制、③都道府県単位での比例代表制、④定数3を基本とした中選挙区制を掲げ、そのメリットとデメリットについて検討しました。

 そして、次のような言葉で、陳述を締めくくりました。

 今から約20年前に小選挙区制を批判し、連用制の問題点も指摘した私としましては、今日、このような形での意見陳述を行う機会を得たことは誠に感慨無量であります。ここで述べたような問題が生ずることは以前から分かっていたことではありますが、「政治改革神話」が崩れつつあること自体は、歓迎したいと思います。
 是非、この機会に「政治改革」をやり直して小選挙区制を廃止し、より民主的な選挙制度に改めてください。先輩が犯した過ちを繰り返すことなく、より民主的で民意が反映されるような選挙制度に改革していただきたいと思います。
 このことを強くお願いいたしまして、私の発言を終わらせていただきます。

 なお、この意見陳述に関連する参考文献としては、以下のようなものがあります。

五十嵐仁「選挙制度改革をめぐる動き」『法と民主主義』5月号(№468)(近刊)
五十嵐仁「民意を反映しない小選挙区制はワースト制度―早急に改めるべきである」『日本の論点2011』文藝春秋社、2010年11月
五十嵐仁『18歳から考える日本の政治』法律文化社、2010年
五十嵐仁『現代日本政治-「知力革命」の時代』八朔社、2004年
五十嵐仁『徹底検証 政治改革神話』労働旬報社、1997年
五十嵐仁『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』労働旬報社、1993年

 また、来る6月2日(土)、日本民主法律家協会憲法シンポジウム「国会と選挙はどうあるべきか」でも、只野雅人氏(一橋大学大学院法学研究科教授・憲法)や高田健氏(許すな!憲法改悪・市民連絡会)と共に、選挙制度改革問題について講演する予定です。午後1時半からで、場所は伊藤塾東京校5号館(法学館ビル)(東京都渋谷区桜丘町17-5、JR渋谷駅西口より徒歩3分)ですので、興味と関心のある方はお出で下さい。

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5月19日(土) 国会の衆議院倫理選挙特別委員会から参考人として声がかかった [選挙制度]

 来週の水曜日(23日)、国会に行くことになりました。衆議院の「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会(倫理選挙特別委員会)」で参考人として意見陳述するためです。

 私に声がかかったのは、月刊『法と民主主義』5月号(№468)の特集企画に「選挙制度改革をめぐる動き」という論攷を書いたからだと思います。これはまだ刊行されていませんが、日本民主法律家協会に相談が行き、私がこのようなものを書いていると教えられたのではないでしょうか。
 『法と民主主義』から私に声がかかったのは、恐らく、2010年11月に文藝春秋社から刊行された『日本の論点2011』に「民意を反映しない小選挙区制はワースト制度―早急に改めるべきである」という論攷を書いたからでしょう。この記事を見た誰かが、私の名前を挙げたのだと思います。
 さらに、その元を辿れば、『徹底検証 政治改革神話』(労働旬報社、1997年)と『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』(労働旬報社、1993年)という、2冊の本に行き着きます。いずれも、政治改革と並立制の問題を取り上げた拙著です。

 1993年の夏、お盆の頃でした。突然、自宅に労働旬報社の加藤さんから電話がかかってきました。「今、議論されている選挙制度改革についての本を出したいので、原稿を書いてくれないか」というのです。
 加藤さんは都立大学の大先輩で、私が入学したときにはもう卒業しておられました。知り合ったのは私が大学院に入ってからですが、その方からの依頼です。むげに断るわけにはいきません。
 それから集中して政治改革や選挙制度について勉強し、急いで書き上げたのが前掲の『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』という本です。奥付の刊行日が10月18日となっていますので、どれだけ急いで書いたかがお分かりになると思います。

 この本が出てから19年の月日が経ちました。政治改革によって小選挙区制が導入され、新しい制度の下で5回の総選挙が実施され、二大政党化が進み、待望の政権交代も実現しました。
 ところが、政治の現実はどうでしょうか。期待されたような形で、「改革」されたでしょうか。
 実際には、この制度を導入した河野洋平元自民党総裁でさえ、「まず選挙制度の改革を」となって、「流れはどんどんそちらに行き、小選挙区制に踏み切りました。でも今日の状況を見ると、それが正しかったか忸怩たるものがある。政治劣化の一因もそこにあるのではないか。政党の堕落、政治家の質の劣化が制度によって起きたのでは」と反省の弁を述べているほどです(『朝日新聞』2011年10月8日付)。そして、「率直に不明をわびる気持ちだ。状況認識が正しくなかった」と陳謝し、「政治は劣化している。現職の皆さんの責任で選挙制度を変えてもらわなければならない」と訴えています。

 私に声がかかったのは、このような現状があるからです。もはや、定数不均衡の手直し程度の湖塗策ではどうしようもないほど、政治の劣化と閉塞感が強まってしまいました。
 期待された二大政党制は政治の閉塞感を強めるばかりで、政権交代も国民の期待を裏切りました。その根底には選挙制度の問題があるということが、否定しがたいほどに誰の眼にもはっきりと分かるようになってきたのです。
 私に言わせていただければ、このようになることは約20年前から分かっていました。「だから、言ったじゃないの。何を、今さら」と言いたい気持ちで一杯ですが、遅きに失したとはいえ、過去の過ちを振り返り、是正しようというのは、大変、結構なことです。

 ということで、国会に出かけていって、思いの丈をぶつけてこようと思っています。せっかくの機会(とは言っても発言時間は15分にすぎませんが)ですので、小選挙区制の根本的な欠陥や害悪、選挙制度改革の間違いをきっぱりと指摘してくるつもりです。
 なお、前掲拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』の「あとがき」の一部を、ここに紹介しておきましょう。この時に書いた「思い」は、19年後の今日においても全く変わっていませんので。

 ……民意が正確に反映されるかどうかは、代議制度、ひいては議会制民主主義の根幹にかかわる問題です。議会への民意の正確な反映は、憲法で保障された国民主権を具体化する上での基本的な条件です。それは、他のあれこれの問題と同列に論じられるようなものではないはずです。中選挙区制の「制度疲労」を言い、それに代えて小選挙区制を含む選挙制度を導入しようとする人びとは、この一番肝心なところに口をつぐんでいます。マスコミも、なぜか、ふれようとしません。
 民意に基づく政治が民主政治ということであれば、民意をゆがめ、無視するような制度は、民主政治における制度として、基本的な必要条件を欠いているということになります。たとえば、政権交代があったとして、それが民意をゆがめたり逆転させたりした結果であれば、このような政権交代もまた、民主的なものではないということになります。
 この点からいえば、政権交代をしやすくしたり、二大政党制にするために制度改革をやるというのも問題です。政権を交代させるか、二大政党制にするかどうかは、国民が判断することです。国民の意思を増幅させたり、ゆがめたりして、むりやり政権交代や二大政党制を作り出すような制度は、国民主権に反します。
 選択をするのは国民です。結果を決めるのも国民です。このような国民の意思や選択をゆがめるような制度の導入は、主権者としての国民の権利をゆがめ、日本の民主主義を危うくします。
 主権者は誰なのか。政治家ではありません。それは国民です。それが主権在民ということの意味です。このようなことは全く常識的なことで、わざわざ文にして書くこともあるまい、とおっしゃる方も少なくないと思われます。しかし、その常識があやしくなっているのが日本の現状ではないでしょうか。本書が、常識が通る国会、国民が主人公となる政治、わかりやすい政治の実現にむかっての頂門の一針となることを願ってむすびといたします。

 1993年9月17日
 政府・連立与党が政治改革関連四法案を提出した日に


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