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4月1日(土) 英国民も米国民も自らの選択がいかに間違っていたかを知るのはこれからだ [国際]

 イギリスもアメリカも、アングロサクソンの国です。第2次世界大戦前、イギリスは世界を支配する帝国であり、同様にアメリカは戦後の世界を牛耳る覇権国でした。
 しかし、この二つの国はかつての栄光と支配力を失おうとしています。その道は国民による選択の結果によるものですが、それがいかに間違ったものであったかを思い知るのはこれからのことになるでしょう。

 英国民は国民投票の結果、EUからの離脱を選択しました。先日、メイ首相は正式にEU離脱を通告し、2年間の交渉期間中に合意を目指しています。
 しかし、この合意はイギリスにとって過酷なものとなり、国民は自らの選択に対するツケを払わされるにちがいありません。EU首脳部はイギリスに続いて離脱する国が出ることを警戒していますから、離脱がいかに割に合わないものであるかを示そうとするからです。
 トゥスク欧州理事会常任委員長(EU大統領)が31日、離脱協定と通商協定を並行して協議するを認めないと表明したように、イギリスは大きな譲歩を求められ、それを受け入れなければ交渉はまとまりません。イギリスとの合意を犠牲にしても自らの存続を確実にし結束を固める道をEUが選択することは火を見るよりも明らかです。

 米国民は大統領選挙の結果、共和党のトランプ候補を選択しました。総得票数ではクリントン候補の方が多かったとはいえ選挙人の数で上回り、現行の選挙制度に基づいて当選したのはトランプさんです。
 過激で差別的な発言は選挙キャンペーン用で、当選すればまともになると見られていたフシもありました。実際には、中東6カ国からの入国制限、メキシコとの壁の建設、オバマケアの見直しなど、選挙中の公約の実現を目指して大統領令が署名されています。
 しかし、共和党主流派とのギクシャクもあっていずれも頓挫しており、支持者の期待は裏切られ続けています。政権の前途には暗雲が漂い、民主党から政権を奪い取った時点でトランプさんの役割は終わってしまったかのようです。

 イギリスとアメリカで生じた驚天動地の選択は世界を震撼させました。それぞれの国内だけでなく、世界中の人々の反発と不安を高めています。
 英国の離脱はEU崩壊と極右の台頭を懸念する人々の反発を強め、一定の揺れ戻しを生み出しました。アメリカ国内でもトランプ新政権に対する警戒と反発が生じ、支持率はかつてない低さになっています。
 公的権力の介入を排して規制緩和を推し進め、新自由主義によって貧困と格差を拡大してきた戦後政治の第2段階は、その病状を極大化させ、末期症状を呈してきているように見えます。このような「過渡期」を経て、どのような第3段階が姿を現すかが問われているのではないでしょうか。

 日本も例外ではありません。トランプ大統領は31日、日本や中国などを対象とする貿易赤字を制限する大統領令に署名しました。
 これによって保護主義的な通商政策が本格的に始動することになります。4月上旬に開催される予定の日米経済対話の中で、日本に対して厳しい要求がなされることは避けられません。
 日本でも、公的権力の介入を排して民営化や規制緩和を進め、新自由主義によって貧困と格差が広がってきました。このような戦後政治の第2段階の行き詰まりは、わが国でも明らかになっています。

 第2次安倍内閣の4年間によって、日本国民は安倍首相を選んだことがいかに間違った選択であったかを十分に学んだはずです。それはイギリスやアメリカに先んじており、アベ政治の暴走による害悪は「これから」ではなく、「これまで」も事実として積み重なってきました。
 そこからの脱出路がどこにあるのか、どのようにしたら脱出できるのかを発見し、英国民や米国民に示すのが、先んじて害悪を被って来た日本国民の責務でしょう。これこそが、通常国会後半戦における最大の課題だということになります。

 なお、4月の講演などの予定は以下の通りです。お近くの方や関心のある方に足を運んでいただければ幸いです。

4月1日(土)18時30分 船橋勤労市民センター:選挙で変える4区船橋市民の会
4月13日(木)18時30分 多摩市民館:川崎市多摩区・麻生区革新懇
4月14日(金)18時30分 全理連ビル:渋谷9条の会
4月16日(日)13時30分 新潟市ユニゾンプラザ:新潟県革新懇
4月22日(土)14時 甲府市ピュア総合(男女共同参画推進センター):山梨革新懇
4月28日(金)18時30分 八王子労政会館:八王子合同法律事務所

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1月25日(水) こんなトランプ大統領を「信頼できる指導者」だなどと持ち上げた安倍首相の重大責任 [国際]

 2017年も、疾風怒濤の年になるような予感がします。アベ政治は暴走を続けていますが、年を取ったのか、最近では「逆走」も目立ちます。

 昨日は、国会での答弁で「訂正云々(うんぬん)」と言うべきところを、「訂正でんでん」と答えてしまいました。「云々」と「伝々」を間違えたのでしょうが、これも年齢のせいかな。
 それにしても、「云々(うんぬん)」なら分かりますが、「伝々(でんでん)」では意味が通じませんし、そんな日本語はありません。安倍首相は自分で読んでいる文の意味が分かっていたのでしょうか。
 安倍首相にしてもトランプ大統領にしても、「逆走」を早くストップさせないと大きな事故につながりかねませんが、その前に「自滅」する可能性が高まっています。安倍さんに立ちはだかる最初の壁は「トランプ・リスク」であり、トランプさんに立ちはだかるのは自らの「バカの壁」ではないでしょうか。

 「トランプ政権への期待」という見出しが目を引きました。『朝日新聞』1月24日付に掲載された映画監督であるオリバー・ストーンさんのインタビュー記事です。
 トランプ大統領を評価するかのようなストーン監督の発言が注目を浴びました。これまで政権批判の映画を撮り続けてきたのに、「トランプ大統領もあながち悪くない」という評価が違和感を持って受け取られたからです。
 しかし、それは「介入主義を捨て戦争への道を避ける」という点での「プラスの変化を起こせるように応援しようじゃありませんか」というものです。トランプ大統領の全てを認めて応援しようというわけではありません。

 トランプ大統領は就任演説で「すべての国が自国の利益を第一に考える権利がある。我々は自分たちの生活様式を他人に押し付けない」と述べています。この発言が「自分たちの背活様式」であったこれまでのアメリカの覇権主義と介入主義を見なおすということであれば、それは悪くないというのは当然です。
 戦後のアメリカは、ベトナムやイラク、アフリカや中東、中南米諸国に軍事介入してきました。よく「世界の警察官」と言われますが、実態は「世界の暴力団」のようなもので、その過ちを是正して戦争への道を避けるというのであれば間違いではありません。
 これについてストーン監督も、「米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるならすばらしいこと」だとし、「米国は世界をコントロールしたがり、他国の主権を認めたがらず、多くの国家を転覆させてきました。そんな情報機関をけなしているトランプ氏に賛成です」と述べていますが、その通りでしょう。

 ただし、すぐ付け加えなければならないのは、このようなトランプ大統領の姿勢を過大に評価することはできないということです。核軍拡を進める意向を示していますし、イスラエル寄りの姿勢を強めて中東の紛争を拡大する危険性もあるからです。
 これまでのアメリカの帝国主義的な外交・安全保障政策を転換するというのであれば評価できます。しかし、そこからどのような方向を、どのようにめざしていくのかという点では楽観できません。
 「自国第一主義」や差別と排外主義による孤立と分断、新自由主義的な規制緩和の拡大などでは問題を解決できないどころか、さらに拡大し混迷を深めるだけでしょう。貧困と格差の拡大からの真の脱出路は右方向への逃走では得られず、矛盾を深めて絶望を生み出すことになります。

 それでは、どのような脱出路があるのでしょうか、どうすれば良いのでしょうか。
 このような問いへの回答の一つが『朝日新聞』1月25日付に掲載された「ピケティコラム」での指摘です。フランス大統領選挙について、ピケティさんは「マリーヌ・ルペン氏が率いる右派ナショナリストが勝利に近づいている可能性も排除できない」としつつ、「かたや急進左派は、ジャンリュック・メランション氏の勝利が期待されているが、悲しいかなありそうにない」と述べていますが、それでも次のように指摘しています。
 「この難題に的確な解決策を構築するには、国際主義的なポピュリスト勢力――スペインの左派新党ポデモス、ギリシャの急進左翼進歩連合シリザ、サンダース氏やメランション氏のような急進左派――を頼りとするしかない。さもないとナショナリズムと排外主義のうねりにさらわれかねない。」

 このような「ナショナリズムと排外主義のうねり」を阻むうえで、メディアの役割は決定的ともいえる重要性を持っています。この点で、『毎日新聞』1月25日付に掲載された「時論フォーラム」の森健「[トランプ大統領誕生]ネットのうそ、メディアの役割」は示唆的な論攷です。
 ジャーナリストの森さんは、既存メデイアとインターネット、権力者との関係について考察し、結論的に次のように指摘しています。
 「SNSという似た考えの人たちの環境の中で主張を強めつつ、不都合な事実や気に入らない報道は認めない。そして、言いたいことはネットで一方的に発信する。トランプ政権の社会では、報道はいかに考えの異なる人たちに届かせるかが課題になってくるだろう。」

 この部分を読んで、まるで通常国会の代表質問に臨んだ安倍首相について書かれた文章のようだと感じたのは、私だけではないでしょう。この文章の一部を入れ替えれば、次のようになります。
 「日本会議という似た考えの人たちの環境の中で主張を強めつつ、不都合な事実や気に入らない報道は認めない。そして、言いたいことは答弁で一方的に発信する。安倍政権の社会では、報道はいかに考えの異なる人たちに届かせるかが課題になってくるだろう」
 先の文章に続けて、森さんは「顧みて、日本。かの地の課題はけっして遠い話ではないだろう」と書いています。その通りですが、実際には「遠い」どころか、すでに安倍さんはトランプさんの先を言っているのではないでしょうか。

 トランプ大統領はTPPからの永久離脱を表明しました。NAFTAの再交渉を行おうとしており、日本の自動車の対米輸出について根拠のない攻撃も行っています。
 安倍首相の成長戦略や自動車産業など輸出企業にとっては大問題です。安倍首相はこれからトランプさんを説得するとか説明するとか言っていますが、ちょっと待ってください。
 安倍さんはもうすでにトランプさんに会っているではありませんか。せっかく世界に先駆けて大統領になる前のトランプさんに会ったのに、その場で一体何を話し合ったというのでしょうか。

 まさか、高額のクラブを贈ってゴルフ談義で終始したなどということはないでしょうね。日本に関してだけでも、これだけトンデモない政策や発言を連発するトランプさんを「信頼できる指導者」だなどと持ち上げてしまった安倍首相の責任は極めて重大だと言うべきでしょう。

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1月23日(月) 世界中で実証された「反響の法則」 [国際]

 太鼓を小さく打てば小さな音しかしません。強く打てば大きな音がします。これが「反響の法則」です。
 トランプ米新大統領は過激で差別的な発言や自国最優先の保護主義的な政策によって、世界中の太鼓を力いっぱい叩いたようです。そのために、大きな「反響」が地球全体に広がっています。

 トランプ大統領就任翌日の21日、女性蔑視の言動などに反発する抗議活動が全米で行われました。このようなデモは世界各地に広がり、「反トランプ」の声が国際社会に渦巻いています。
 首都ワシントンでは、女性蔑視の発言を批判する団体「ワシントン女性大行進」の主催で抗議デモが行われ、白人女性だけでなく男性や人種的少数者、幅広い年齢層の人たちも集まり、想定の2倍を超える50万人以上に膨らみました。特設ステージには、女優のスカーレット・ヨハンソンさんら著名人も登壇し、歌手のマドンナさんは「革命はここから始まる」と訴え、女優のウーピー・ゴールドバーグさんら著名人も駆けつけています。
 抗議デモはニューヨークやロサンゼルスなどの全米各地をはじめ、ロンドンやパリなど世界約80ヵ国670ヵ所以上に上り、全世界で約470万人が参加したとみられます。このような抗議の波は、これからも世界各地で大きく盛り上がることでしょう。

 他方で、欧州の右派勢力はトランプ大統領の保護主義的な政策への共感を示し、トランプ新政権の誕生を歓迎しています。米国で浮き彫りとなった自国最優先の反移民政策と「分断」は、世界に拡散し始めました。
 反欧州連合(EU)や移民排斥などを主張して支持を伸ばしてきた欧州各国の右派・極右政党の党首たちは21日、ドイツ西部のコブレンツで「オルタナティブ(もう一つの)欧州サミット」と位置付けた会合を開きました。出席したのは、今年選挙を迎えるフランス極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首、ドイツ新興右派「ドイツのための選択肢」(AfD)のフラウケ・ペトリ党首、オランダ極右「自由党」のヘルト・ウィルダース党首など3人を含む9カ国の政党関係者です。
 移民への強硬姿勢に共鳴しているハンガリーやセルビアなど東欧諸国の首脳らもトランプ大統領を歓迎しています。一方、フランスのオランド大統領はアメリカの孤立主義に警鐘を鳴らし、ドイツのメルケル独首相は経済問題や防衛政策について、これまでの友好国との国際的枠組みを尊重するよう求めました。

 このようななかで、「信頼できる指導者」だとトランプさんを持ち上げてきた安倍首相は祝辞を送り、去年11月にニューヨークで行われた会談に触れ「ご自宅で胸襟を開いて意見交換を行えたことを大変うれしく思う」と述べ、「今後、ともに手を携え、アジア太平洋の平和と繁栄を確保し、世界が直面するさまざまな課題にともに取り組んでいくことを楽しみにしている」と、トランプ新政権の誕生を歓迎しています。
 また、「日米同盟は、わが国の外交・安全保障政策の基軸であり、大統領との信頼関係の上に、揺るぎない同盟の絆を一層強化していきたい」とし、「できるだけ早く再びお目にかかり、地域や世界のさまざまな課題について幅広く意見交換を行い、日米同盟の重要性を世界に向けて発信したい」と呼びかけました。差別と分断に警鐘を鳴らすことも注文を付けることもなく、ひたすら歓迎の意を表している安倍首相の姿は極めて異例だというべきでしょう。
 
 安倍首相はどちらの側にいるのでしょうか。反トランプの抗議行動に立ち上がった民衆の側なのか、それとも「自国第一」に共感して愛国主義への共鳴を狙う右派勢力の側なのかが、厳しく問われなければなりません。
 相も変わらぬ従米姿勢から抜け出すこともできず、新政権への批判や抗議の片りんも見せない安倍首相の姿勢は、アメリカの新しい指導者にしっぽを振ってすり寄っている「ポチ」のように見えます。それはトランプ当選の直後から一貫したものでした。
 とはいえ、早期の首脳会談を開きたいと希望していた1月27日には、日本の安倍首相ではなくイギリスのメイ首相との会談が設定されています。まるで、すり寄っても邪険にされ追い立てられている犬のような姿ではありませんか。

 いよいよ、絶望と希望とがせめぎあうような新しい時代が始まったのです。希望の光を消さないためにも、諦めてはなりません。
 アメリカを始め全世界で鳴り響いている「反響」に和して、私たちも声をあげようではありませんか。絶望に打ち勝つためには、少しでもまともな明日への望みを抱いて歩み続けることしかできないのですから……。

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1月22日(日) トランプをめくっても「ハートのエース」は出てこなかった [国際]

 世界が悲鳴を上げていると言っても良いでしょう。確実なことは、不確実性が高まり、この先どうなるのかが見通せないということです。

 注目されていたトランプ米新大統領の就任演説でした。選挙中に過激発言を繰り返した「悪いトランプ」ではなく、当選直後に融和を呼びかけたような「良いトランプ」が顔を出すのではないかと期待されていました。
 しかし、トランプをめくってみても「ハートのエース」は出てきませんでした。やはり顔を出したのは「ジョーカー」だったようです。
 ジョーカーと言えば、映画「バットマン」の悪役でした。大統領就任式に登場したのは、「バットマン」ならぬ「バッドマン」だったのです。

 アメリカのドナルド・トランプ新大統領は20日正午ごろ、連邦議会議事堂前で就任宣誓し、第45代大統領に就任しました。この場所は私も訪れたことがありますが、それは2001年のブッシュ大統領就任式の前、2001年1月1日のことでした。
 実業家出身のトランプさんは政治や行政経験、軍歴のない米国史上初の大統領で、1期目としては最高齢での就任になります。共和党は8年ぶりの政権奪還で、任期は2021年までの4年間ですが、果たしてこの任期を全うできるのでしょうか。
 「アメリカ第1主義」を掲げてこれまでの政治からの大転換を目指し、超大国アメリカのかじとりを担うことになりますが、その前途には暗雲が漂っています。トランプ大統領の就任に反対する全米での抗議デモには数百万人が参加するなど、分断と不安がアメリカ社会を覆い、切り裂くような形になっているのですから。

 トランプ新政権の政策は、選挙中での公約をほぼ踏襲するものになっています。この点でも、「良いトランプ」に変わるのではないかという期待は真っ向から裏切られてしまいました。
 就任演説では、通商政策を大きく転換して自由貿易から貿易や税制などあらゆる分野でアメリカの利益を最優先し、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱と北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を宣言しました。大統領令では、医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを指示しています。
 また、「イスラム過激派によるテロを地球上から根絶させる」と約束し、積極的に軍事行動をとることも表明しました。「私たちは国境を守らなければならない」と呼びかけ、メキシコ国境への壁建設を伴う不法移民対策に乗り出す構えです。

 まるで、これまでの世界秩序を脅かす「怪物」の登場のようなものです。この「怪物」を「信頼できる指導者」だと請合ったのが安倍首相でした。
 通常国会冒頭の施政方針演説で、TPPを「今後の経済連携の礎」と位置付けた安倍首相ですが、その直後にトランプ新大統領によって真っ向から否定される結果になりました。いかに人を見る目がなかったか、ということでしょう。
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11月24日(木) 無残というしかない安倍外交における破産の数々 [国際]

 外交というのも恥ずかしいほどの破産ぶりです。安倍首相が行ってきた対外政策のことごとくが失敗してしまいました。
 安倍暴走政治の破産の始まりです。その責任を、安倍首相はどのように取るのでしょうか。

 昨日の朝日新聞の一面には、「TPP発効不可能に トランプ氏『就任日に離脱』」という大きな見出しが出ていました。今日の新聞には、オバマ大統領もTPPの任期中の議会承認を断念する考えを正式表明という記事が出ています。
 もう、終わりです。現行のTPPは発効が不可能となり、「TPPを成長戦略の柱としてきた安倍政権は根本的な戦略の見直しを迫られそうだ」と、新聞は伝えていました。
 それなのに、参院ではまだTPP承認案権についての審議を続け、そのために国会の会期延長まで画策されているそうです。何という往生際の悪さでしょうか。安倍首相の意地と見栄のために、国会審議の時間と費用を無駄遣いするようなことは直ちにやめるべきです。

 昨日の新聞には、ベトナム国会が日本からの原発輸入を撤回する案を可決したという記事も掲載されています。これも原発の輸出を成長戦略の一環に置付けて推進してきた安倍外交の失敗にほかなりません。
 成長戦略の一環としては、軍事技術の輸出も進められてきました。その輸出先として有望視されていたオーストラリアへの潜水艦技術の売り込みにも失敗しています。
 原発技術や軍事技術の輸出を成長戦略の柱と位置付けるようなことはやめるべきだとの批判があるにもかかわらず、安倍政権はそれを無視し強行してきました。それらがいずれも挫折したということになります。

 外交的な失敗ということで言えば、国連総会第1委員会での「核兵器禁止条約」の交渉を来年開くとした決議に米露など核保有国とともに反対したことも大問題でした。唯一の戦争被爆国である日本こそ、その先頭に立たなければならないはずなのにまったく逆の態度を取ったことになるからです。
 また、TPP条約の批准を優先したために地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」の批准が遅れたという失敗もあります。結局、第1回締約国会合には間に合わず、日本は決定に異議の申し立てができないオブザーバーとして参加することになりました。
 どちらも、アメリカの顔色を窺った結果の失敗です。日本独自の外交政策を展開する自主定な判断能力を持たない安倍政権だからこそ、このような迷走を繰り返すことになってしまいました。

 さらに、日露関係をめぐる問題もあります。12月の首脳会談に向けて領土問題で大きな進展があるのではないかとの観測は幻に終わりそうです。
 安倍首相は日露間の経済協力の拡大をテコに領土問題を打開し、それを成果として解散・総選挙に打って出るのではないかと見られていました。しかし、この戦略にも狂いが生じているようです。
 プーチン大統領は領土問題で日本に譲歩する意志はないようで、経済協力だけを「食い逃げ」するかもしれないからです。これも、安倍外交の失敗となる可能性が強まっています。

 中国や韓国、北朝鮮など周辺諸国との間でも、関係改善に向けての展望は開けていません。まさに、八方ふさがりと言っても良い状況です。
 「朝貢外交」よろしく慌ててトランプ詣でを行い、54万円のゴルフクラブを送って媚びを売り、「信頼できる指導者だ」と請合ってトランプのマジックを手伝うことで世界中に恥をさらした安倍首相です。このような外交破産のオンパレードもむべなるかなというところでしょうか。

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11月20日(日) トランプ当選による容易ならざる事態を打開するために何が必要か [国際]

 アメリカのトランプ大統領候補の当選について様々な論評がなされています。今後の行く末についても、楽観論と悲観論の両方があります。
 日本に対する政策やその影響についても、様々な憶測が流れていました。これらの観測や憶測に対して、新政権の陣容が整うにつれて次第に回答が明らかになりつつあります。

 トランプ当選を生み出した力は、第1に、グローバル化や新自由主義によって生み出された貧困化と格差の拡大に対する白人労働者を中心とする不満の増大であり、第2に、対立候補であったクリントンさんの不人気とオバマ前大統領の「チェンジ詐欺」に騙された人々によるオバマ後継候補に対する反発であり、第3に、選挙人を選ぶという間接選挙の制度的不備でした。これらが重なりあって、トランプの「ババ抜き」でジョーカーを引くような結果を生み出してしまったのではないでしょうか。
 トランプさんは当選後、「すべての国民のための大統領になる」と宣言して過激な言動を抑制し、融和を口して柔軟姿勢を示しました。そのために、「それほど極端なことはやらないのではないか」という希望的な観測や楽観論が広まりましたが、これは新政権の陣容によって裏切られる結果となっています。
 今日の『朝日新聞』で「現実的路線や議会との調和を演出しつつ、自身がこだわる政策では譲らないという思いが透けて見える」「今回の人事は、移民問題やテロ対策などの看板政策では、たとえ批判を受けようとも、自身の考えに近い布陣で実現に向けて突き進むという姿勢を示しているかのようだ」と評されているように、閣僚人事は人種差別主義者や右派・タカ派の強硬論者のオン・パレードとなりつつあります。この陣容を見れば、トランプ新大統領は選挙戦で語っていた過激な政策を変更するつもりがないこと、その主要な政策を実行するつもりであることが分かります。

 このような危険な本質を見誤り世界中に恥をさらしてしまったのが、日本の安倍首相です。トランプ当選に慌てて、御機嫌うかがいのためにニューヨークに飛んでいったからです。
 そして、安倍首相はトランプさんにコロッと騙されてしまいました。会見後、安倍首相はトランプさんが「信頼できる指導者だということが分かった」と述べましたが、信頼できない指導者である安倍さんにそう言われたからといって、信頼できるわけがありません。
 トランプさんを世界中に売り込んで不安を払しょくするために、安倍首相は使われてしまったようです。トランプの「手品」の「サクラ」として、うまく利用されたというところでしょうか。

 トランプ当選による悪影響は、すでに具体的な現実として姿を現しています。アメリカ国内では抗議デモやマイノリティに対する差別的言動が繰り返されているからです。
 当選後、融和を口にしたトランプさんですが、このような分断の動きに対してまったく対応しようとしていません。それどころか、新政権の中枢に差別主義者を起用して、このような分断を拡大する危険性を生み出しています。
 このような新政府の陣容からすれば、日本に対しても厳しい注文が寄せられる可能性があります。トランプの「手品」に魅せられ取り込まれてしまった安倍首相は、これにきちんと対応できるのでしょうか。

 日本では先の参院選で、衆参両院で改憲勢力が3分の2を越え、安倍首相の任期延長も決まりました。海の向こうでは、トランプ新大統領が日本に対してこれまでとは全く異なったアプローチを行う可能性が強まっています。
 日米両国で、容易ならざる情勢が生じたということになります。今後の推移を注視する必要があるだけでなく、このような危機をどう打開し、どのように抜け出すかが問われなければなりません。
 そのために何ができるでしょうか。どうする必要があるのでしょうか。

 私たちにできることは、トランプ新大統領の忠実なしもべとして取り込まれてしまった安倍首相の退陣に向けて、衆院選への取り組みを本格化させることです。衆院選で政権交代を実現することが最善ですが、少なくとも与党を大敗させれば安倍首相は政治責任を問われ、退陣に追い込まれる可能性が生まれます。
 そのためには、自民党が恐れている野党共闘を推進し、小選挙区での候補一本化を実現することです。ことここに及んでも共産党との共闘に消極的な姿勢を示している民進党の蓮舫代表は、そのような「贅沢」を言っていられるような場合ではないこと、それは許されざる利敵行為にほかならないということを自覚しなければなりません。

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11月12日(土) 米大統領選挙で負けているのに勝ってしまったトランプ候補 [国際]

 アメリカ大統領選挙の衝撃は、その後も世界を震撼させているようです。株式市場での「トランプ・ショック」はそれほどでもなかったようですが、国際政治に対する衝撃は今も続いています。

 このような結果に直面して、「あのような差別的で過激な発言を繰り返していたトランプ候補が、何故大統領に当選できたのか」という疑問が沸いてきます。様々な形で、その背景や原因が論じられていますが、ここで重要な事実を忘れてはなりません。
 それは、今回の大統領選挙でトランプ候補の票がクリントン候補の票よりも少なったという事実です。米東部標準時で10日午前8時現在、有権者投票者数ではクリントン候補が59,814,018票、トランプ候補が59,611,678票となり、クリントン候補が過半数を取得したことが明らかとなりました。それでもトランプ勝利となったのは選挙人の数が上回ったからで、それは間接選挙という制度に助けられた勝利だったのです。
 このような得票総数と選挙人の数の逆転はこれまで4回もあり、私がハーバード大学の客員研究員としてアメリカに渡った2000年の大統領選挙でも目撃しました。このような逆転は小選挙区制などの間接選挙では避けられない問題点であり、だからこそ比例代表制や直接選挙にすべきだという議論が生ずるわけです。

 つまり、アメリカ国民はトランプではなくクリントンを選んでいたのです。今回の選挙で国民の分断が進み、最左派のサンダース支持層、中道左派のクリントン支持層、共和党の主流派、そしてグローバル化の進展のあおりを食って没落しつつある白人労働者などを中心にしたトランプ支持層の4つの階層に分かれたと言われています。
 このうち多数派は、サンダース支持層の一部を惹きつけたと言われるトランプ支持層ではなくクリントン支持層でした。アメリカ国民における多数派が実はリベラルな人々であったという事実は、これからのトランプ新大統領の方針や政策を大きく制約する要因となるにちがいありません。
 この事実をトランプ氏自身も自覚しているようです。選挙中の差別的で過激な発言は影を潜め、意外に常識的で穏健な態度に終始しているからです。

 このような「猫をかぶった姿」を見て、「意外とまともじゃないか」と胸をなでおろした人も多かったことでしょう。株式市場で「トランプ・ショック」がⅤ字回復したことに、このような安ど感が如実に示されています。
 しかし、このような豹変は、新たな矛盾を引き起こすにちがいありません。選挙中の差別的で過激な発言や公約を信じて「虎」だと思って投票した支持者にとって、「猫」になってしまったトランプ氏は「裏切り者」にほかならないからです。
 これまでの政治を厳しく批判してきた発言や公約こそ、貧困化にさいなまれて現状打破を願い、既成政治に毒されていないと信じてその突破力に期待した白人労働者層を惹きつける原動力でした。当選2日後にオバマ大統領と会見して教えを乞い、「猫」をかぶって「まとも」になったトランプ氏はさっそく既成政治に取り込まれてしまったと失望を買い、選挙中の約束を反故にした裏切り者でペテン師だとの批判を免れないでしょう。

 クリントン氏を支持した多数派の目を恐れ、選挙中に生じた深い分断の修復を目指せば「裏切り者」となり、選挙中の発言や公約に忠実であろうとすると分断はさらに深まり、自らを支持しなかった多数派の「壁」にぶつかるかもしれません。トランプ氏は大きなジレンマに直面する可能性があります。
 白人労働者層などに蔓延した不満と現状打破への願いを追い風に、間接選挙という制度にも助けられて大統領の椅子を手に入れたトランプ氏ですが、前途は多難のようです。これからワシントンでめくるトランプには、果たしてどのようなカードが隠されているのでしょうか。

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11月9日(水) アメリカ大統領選挙でのトランプ当選をどう見るか [国際]

 驚天動地の結果となりました。アメリカの大統領選挙です。
 事前の予想を覆して、共和党のトランプ候補が当選しました。首相官邸で開票状況を見守っていた安倍首相は、頭を抱えていることでしょう。

 トランプ当選で大混乱に陥っているのは、日本政府だけではありません。外国為替市場と株式市場も同様です。
 トランプ大統領では世界経済の先行きが不透明になると警戒感が高まり、円買いが進みました。それに連動して日経平均株価も急落し、一時は下落幅が1000円を超えています。
 結局、この日の為替市場で円は102円代前半となり、株価の下げ幅は前日比で919円84銭安となっています。これからも、円高・株安の基調は続くでしょうから、外国為替や株式市場の関係者だけでなく、輸出産業の経営者なども頭を抱えていることでしょう。

 事前の予測を覆して、なぜトランプ候補が勝利できたのでしょうか。今回の大統領選挙は不人気者同士の争いで、より小さな悪の選択だと言われました。
 ということは、トランプ候補の方がクリントン候補よりもまだましだと見られたことになります。女性蔑視や過激な発言を繰り返していたトランプ候補への嫌悪感よりも、エリートとエスタブリッシュメントの代表で既成政治家の典型のようなクリントン候補への反感の方が大きかったということでしょうか。
 グローバル化が進む中で白人を中心とする中間層の没落による格差の拡大は激しいものでした。そのような状況を生み出したこれまでの政治に対する失望と、しがらみの無い突破力を持っているように見えたトランプ候補への期待が番狂わせを生み出した力になったのかもしれません。

 トランプ新大統領の登場は日本へも大きな影響を及ぼすものと見られます。現在審議中のTPPは空中分解するでしょうから、審議を続けることは無意味になります。
 アメリカ第1主義を掲げ、「世界の警察官であり続けることはできない」と明言していましたから、アジア重視の「リバランス政策」の転換は避けられず、中東やアジアから手を引くことになるでしょう。
 在日米軍基地については新たな費用負担を要求し、それが入れられなければ撤退すると言い出すかもしれません。さらなる分担要請が強まるかもしれませんが、他方で在日米軍の撤退など沖縄基地問題をめぐって新たな展開が生まれる可能性もあります。

 それにしても、選挙の力とは絶大なものです。イギリスのEU離脱といい、アメリカでのトランプ新大統領の誕生といい、いずれも一票の力が生み出した大変革でした。
 その結果への評価は様々でしょうが、このような結果が一票の積み重ねによって生み出されたことは間違いありません。一人一人の選択の積み重ねが予想を覆す巨大な変化を生み出したのです。
 それだけ、現状に対する不満と政治を変えたいという欲求が大きなものになっていたということでしょう。不満の高まりを政治変革の力とするための一票の役割を改めて再評価しなければなりません。

 いずれにしても、世界はこれまでの物差しが使えない未知の領域に入り込んだことだけは確実です。それが世界の平和と日本の安全、アベ暴走政治のストップに役立つように活用することが、これからの課題だということになります。

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9月13日(火) 北朝鮮による深刻な脅威を生み出した日本外交の失敗 [国際]

 北朝鮮による核弾頭の爆発実験が成功したと伝えられました。日本など周辺諸国にとっては深刻な脅威の増大です。
 国連の安保理決議にも違反するこのような核実験と核兵器の開発は許されず、断固として糾弾しなければなりません。同時に、北朝鮮による深刻な脅威の増大を防ぐことができなかった日本外交の失敗についても、厳しく批判する必要があります。

 でも、こうなることは分かっていました。これまでも、抗議決議や声明、制裁の強化はほとんど効果がありませんでしたから。
 また、9月3日のブログ「北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)は無駄だとなぜ言わないのか」で指摘したように、「そもそも北朝鮮に対するミサイル防衛(MD)は不可能であり、発射されたら『お手上げ』なのですから、そのための予算も装備も全く無駄」です。日本は北朝鮮に近すぎて、「もし北朝鮮がミサイルを発射すれば7~8分で着弾」するという最大の問題点について、今回の核実験についての論評でも誰も指摘していません。
 核ミサイルが現実の脅威となったとしても、軍事的に対抗することは不可能なのだと、なぜ言わないのでしょうか。だからこそ、対話などの外交努力が重要なのであり、このチャンネルを完全に放棄してしまった日本政府の外交的失敗こそが問題なのだと、なぜ誰も指摘しないのでしょうか。

 今回の核実験に対しても厳しい対応が行われていますが、それはほとんど「手詰まり」状態に陥っています。アメリカは韓国に対してB1戦略爆撃機の派遣や高高度迎撃ミサイル(THHAD)の配備、米韓共同演習など軍事的対応を強化しようとしていますが、それは逆効果です。
 北朝鮮が核開発やミサイル実験を繰り返しているのは、アメリカを恐れているからです。いつ攻められるのかという恐怖感に打ち勝つために核戦力を強化し、それを国民に示して金正恩党委員長の権威を強めようとしているのです。
 そのような北朝鮮に対して、さらに強い圧力をかけて「締め上げ」ようとすれば、もっと強い反発が返ってくるだけでしょう。安全を高めようとして「抑止力」を強めれば強めるほど、それへの反発も大きくなって軍拡競争が激化し、結果的に安全が損なわれてしまうという「安全保障のジレンマ」から抜け出すことこそが必要なのです。

 今日の『朝日新聞』の「オピニオン&フォーラム」欄に、国連「北朝鮮制裁委員会」の元専門家パネル委員の古川勝彦さんと東京国際大学国際戦略研究所教授の伊豆見元さんのインタビュー記事が出ていました。お2人の専門家のご意見は注目すべきものです。
 古川さんは「北朝鮮への制裁に比べ、イランの核開発疑惑に対する制裁は成功したとされています。何が違うのでしょう」と問われ、「大切なのは、制裁は外交の手段の一つに過ぎないということです。イランの核開発疑惑に対しては、制裁と同時並行で外交対話が続けられました。しかし、北朝鮮については、制裁のみで、外交はほぼ皆無でした」と答えています。
 問題は「制裁のみで、外交はほぼ皆無」だったという点にあるのです。転換しなければならないのは、この点にあるということにほかなりません。

 また、伊豆見さんも、「北朝鮮はこれまで全てをなげうって核開発をしてきたわけではなく、核開発を巡って米国との取引を考えた時期もありました。阻止できる時間はあったのです」としたうえで、以下のように指摘しています。

 「米国がオバマ政権になった09年以降、関係国は核開発をめぐって北朝鮮と取引することをほぼ放棄してきました。北朝鮮に一方的に要求をのませようとしたのです」
 「近年は北朝鮮と交渉をせず、制裁だけに頼ってきました」
 「制裁は北朝鮮経済にダメージを与え、いわば嫌がらせのようなことはできました。しかし、制裁の本来の目的は北朝鮮の核開発阻止だったはずです。その効果がないのに、制裁だけを続け、関係国は問題を先送りしてきました」
 「若い金正恩(キムジョンウン)氏や既得権益層は統治のために、正恩氏の権威を確立する必要がありました。制裁を受けて孤立が進むなか、権威確立には核開発しかないという論理です」

 こう述べたうえで、伊豆見さんは「国際社会はさらなる核開発を阻止するため、効果はなくても制裁は続け、強化すべきではあります」としつつも、「そのうえで、関係各国の首脳は再び北朝鮮との取引を検討する必要があります。大変不愉快ではありますが、北朝鮮とギブ・アンド・テイクの取引をする覚悟を決める時が来ています」と指摘しています。
 
 ようやく、外交や交渉の必要性を指摘する声が聞こえるようになってきたということでしょうか。6カ国協議の再開に向けて関係国は努力しなければなりませんが、カギを握っているのはアメリカです。
 今回の核実験に際して事前説明を受けた中国筋は、「北朝鮮当局者から(中国側に)米韓が北に対して外科手術的な方法を取ろうとしており、対抗するために核実験を行う必要があるといった話があった」と語っているそうです(『朝日新聞』9月13日付)。「外科手術的な方法」など取ろうとしていないということを、分からせなければなりません。
 また、必要なら無条件で直接対話にも応ずる姿勢を示すべきでしょう。核放棄という前提条件を付けたままでは、交渉や対話は一歩も進みません。

 北朝鮮との国交回復交渉を打ち切ってしまった日本政府の過去の対応も完全な誤りでした。拉致問題の解決を優先するということで、交渉より制裁を選択したからです。
 小泉内閣のときに交渉を進めて日朝間の国交を回復していれば、その後の拉致問題についての進展も核やミサイル開発の経過も大きく違っていたのではないでしょうか。拉致問題の解決を優先したために、かえって拉致問題の解決の手がかりを失ってしまったという痛恨の失敗を繰り返してはなりません。
 北朝鮮を話し合いの場に引き出すことでしか問題解決の道はないということは、はっきりしています。しかし、そのような道を選ぶ意思も能力も今の安倍政権にはないというところに、本当の危機が存在しているのではないでしょうか。

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9月8日(木) ドイツの経験は何を教えているか [国際]

 ドイツでは基本法を60回も改正しています。だから、一回も改正していない日本は異常だという意見があります。
 しかし、このドイツの憲法改正は、私の言う「改憲」であって、「壊憲」ではありません。9月6日のブログ「民進党の代表選挙と憲法問題への対応をどう見るか」で紹介したように、「基本法79条は、人間の尊厳の不可侵、民主的な法治国家、国民主権、州による連邦主義などに触れることは許されていない、と規定」されていますから、これらを破壊する「壊憲」は許されないからです。

 日本国憲法には、このような形で明確に「壊憲」を禁ずる条項はありません。しかし、前文や各条項を通じて国民主権、平和主義、基本的人権の尊重などの原則が定められています。
 これが、一般に「憲法の三大原理」として知られているものです。憲法の条文を書き換えることは許されるが、ドイツ基本法79条の規定と同様、このような原理に「触れることは許されていない」と言うべきでしょう。
 これが改憲に当たっての基本的な立場であり、国政に携わる者すべてが共有しなければならない原則にほかなりません。したがって、憲法審査会をはじめとした今後の憲法論議の前提として「憲法の三大原理に触れることは許されない」という原則を確認し、与野党間で申し合わせるべきでしょう。

 このように、ドイツでは60回も改正されている基本法ですが、その原理に反する改正は行われていません。すなわち、「壊憲」は一度もないということになります。
 しかし、そのドイツであっても、それに近いことが行われたことがあり、その過ちは今も大きな傷跡としてドイツの人々を苦しめています。このドイツが犯した過ちとそれがもたらした負の教訓を、日本の私たちもしっかりと学ぶ必要があるように思います。
 というのは、ドイツでは基本法で軍の出動は北大西洋条約機構(NATO)同盟国の「防衛」などに限られると規定され、NATO域外では活動できないと解釈されてきたにもかかわらず、その解釈を変えて中東地域に出動させてしまったからです。これはドイツの人々にとって、痛恨の過ちでした。

 このような解釈変更の契機となったのは、1991年の湾岸戦争でした。ドイツが派兵しないことに、米国から強い批判が噴出したのです。
 自衛隊を派遣しなかったために、「一国平和主義ではないのか」という批判を浴びた日本と同様の事態が生まれたわけです。しかも、ナチスによるユダヤ人の虐殺という負の歴史を持つドイツは、「イスラエルに対する特別な責任がある」としてイスラエル周辺地域への出兵を決め、反戦平和から出発した野党の90年連合・緑の党でさえ「派遣の成功が中東和平プロセスを前進させる」として賛成に回りました。
 このようななかで1994年、基本法の番人であったはずのドイツ憲法裁判所は連邦議会の事前承認を条件に域外派兵を認めてしまいました。その2年後の99年にドイツ軍はユーゴスラビア空爆に参加し、NATOや欧州連合(EU)、国連の活動範囲内で十数カ国に派兵を積み重ね、特にアフガニスタンでは2002年から国際治安支援部隊(ISAF)に毎年4000~5000人を派兵しました。
 
 長年、集団的自衛権の行使を認めていなかったにもかかわらず過去の最高判決を持ち出して解釈を変え、内閣法制局のお墨付けをもらって閣議決定を行い、安保法を制定して海外派兵を可能にしてしまった安倍内閣と、うり二つでありませんか。「平和の党」の看板を掲げていた公明党が「部分的なら」ということで容認に回ってしまったところもそっくりです。
 ドイツでも戦闘行為への参加には世論の反発が強かったと言います。そのため、当時のシュレーダー政権は米軍などの後方支援のほか、治安維持と復興支援を目的とするISAFに参加を限定しました。
 しかし、現地では戦闘の前線と後方の区別があいまいで、独国際政治安全保障研究所のマルクス・カイム国際安全保障部長は「ドイツ兵の多くは後方支援部隊にいながら死亡した。戦闘現場と後方支援の現場を分けられるとい考え方は、幻想だ」と指摘しています。ISAFに加わった元独軍上級曹長のペーター・ヘメレさんは「平和貢献のつもりだったが、私が立っていたのは戦場でした」と話しており、この時点で兵士55人が死亡、わかっているだけでPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者が431人となるなどの深刻な結果をもたらしていました。

 これがドイツの経験であり、これから日本が向かおうとしている未来の姿です。ドイツではすでに実行され、多くの犠牲者が出てしまいました。
 日本ではこれからですから、今ならまだ間に合います。このようなおぞましい未来を招き寄せてもよいのか、そのような間違いを繰り返すための「壊憲」を許してもよいのかが、いま私たちに問われています。

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