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3月7日(金) 試されているのは日本の保守だ [国際]

 少し古くなりますが、2月28日付の『毎日新聞』に興味深いインタビュー記事が掲載されていました。答えているのは若手の保守の論客として知られる櫻田淳東洋大学教授で、『「常識」としての保守主義』という本の著者でもあります。

 櫻田さんは、「戦後日本の保守層には二つの対外政策上の方向性がある」として、①「『敗戦国』の境遇を受け入れつつ、国際秩序の現状維持勢力として役割を幅広く果たしていこうという意図」と、②「『敗戦国』の境遇を汚辱としてとらえ、その汚辱をそそごうという意図」の二つを区別しています。
 日本の保守勢力に二つの流れがあることは、以前から知られていました。一つは、吉田に始まり、池田・佐藤・田中・大平などに受け継がれていく「保守本流」とされる流れであり、もう一つは鳩山から始まって、岸・中曽根などに受け継がれてきた「保守傍流」の流れです。
 櫻田さんの言う「二つの対外政策上の方向性」も基本的にはこの流れに属するもので、前者は「保守本流」、後者は「保守傍流」の対外政策だと言って良いでしょう。もちろん、安倍さんは後者に属しており、その最も右寄りに位置しています。

 ここで興味深いのは、このような区分けではありません。それを行ったうえで、櫻田さんが後者について「つまり日本は『戦勝国』にずっと頭を押さえつけられてきたが、それをどうやって取っ払おうかという意図で、米国や欧州諸国には受けられないだろう」と述べている点です。
 つまり、櫻田さんの目からみても、後者の「保守傍流」的対外政策は、国際的に「受け入れらない」ものだとされている点です。櫻田さんからしても、それは保守の「常識」をはずれた路線で、とんでもないものだということになるわけです。
 その上で、「安倍首相の政治姿勢における最大の不安は、その二つの意図の『どっちなのか』がはっきりしない点にある」として、後者に属する人物として安倍首相を捉えていません。安倍首相の危険性に対する驚くべき過小評価であると言うべきでしょう。

 安倍首相は、「戦後レジームからの脱却」を唱えた第1次内閣の時から一貫して、これまで「常識」であった保守政治の枠(つまり「保守本流」としての政策構想)から飛び出そうとしてきました。それはもはや、保守内での「右翼」というよりむしろ「極右」といわれる政治空間への突出を意味しており、この点にアメリカや公明党を含む旧来の保守層からも警戒感を呼び起こす原因があります。
 それは、明確に「『敗戦国』の境遇を汚辱としてとらえ、その汚辱をそそごうという意図」に基づくもので、「軍国日本」や「ナチス・ドイツ」への否定から出発した戦後の国際秩序の「ちゃぶ台返し」をやろうとしているようなものです。このような危険性に、櫻田さんは気がついていないのでしょうか。
 櫻田さんが指摘しているように「後者を支持する層が安倍首相の靖国神社参拝に快哉を叫び、首相周辺人脈の最近の言動が疑念を膨らませている」のは、そのような人々に支持され、そのような人脈を持つ安倍首相自身が、そのように考えているからではありませんか。その証拠に、安倍首相は「疑念」を晴らすような努力をせず、それをかばい増幅させて「疑念」を強めるような言動を繰り返しています。

 「国際社会と良い関係を築くために何が必要ですか」と問われて、櫻田さんは「自由で繁栄した、人権を守る社会をつくろうという戦後日本の方向性を評価し、国際秩序安定の一翼を担うという意思を明確にすべきだ」と述べています。これについては私も賛成ですが、それなら櫻田さんは自民党の改憲草案や安倍首相とその「お仲間」の言動に反対し、強く批判しなければなりません。
 その櫻田さんにしても、「日米同盟を軸に『アジア・太平洋版NATO(北大西洋条約機構)』を結成すべきだ」と時代遅れの構想を唱えています。この提案に悪乗りして、自民党幹事長の石破さんは「中国を敵視するわけではないが、これからは日米だけではなく、東南アジア各国などとも相互防衛の関係を結び、将来的には『アジア版NATO』のような機構をつくることを考えていかなければならない」と述べたそうです。
 多分、この記事を読んだのではないかと思われますが、もはや軍事同盟によって「国際秩序安定」を図ろうというような時代ではありません。しかも、ASEAN諸国は明確にそのような方向を拒んでいるということを知らないのでしょうか。

 この「アジア・太平洋版NATO」の提唱に続けて、櫻田さんは「日本は米国や豪州、インド、東南アジア諸国などとどのような枠組みを作り、何をするか議論を始めるべきだ。集団的自衛権の行使も憲法改正も、その先の構想があれば『今』は実現に向けた一つの過程になる」と言っています。オヤオヤと思いました。
 どうして、この「枠組み」から、韓国や中国など近隣の東アジア諸国が抜け落ちているのでしょうか。突然、石破さんが持ち出した「アジア版NATO」は中国包囲網の形成を意図しているようですが、櫻田さんの言う「枠組み」もそのようなものになるのでしょうか。
 もしそうだとしたら、極東の緊張は一段と高まるにちがいありません。「集団的自衛権の行使も憲法改正も」含めた「その先の構想」に対する国際社会の警戒心を強め、さらなる日本の孤立化を深めるだけでしょう。

 このインタビューの最後に「保守はどこに向かうのか。有識者らに聞いた」とあります。まさに今、一体「どこに向かうのか」が問われているのは、日本の保守なのです。
 櫻田さんも、その先の構想がなければ「『今』の意味は一変し、『前後不覚』『右往左往』という漂流と孤立に至る岐路になりかねない」と述べています。「集団的自衛権の行使も憲法改正も」という安倍首相の「構想」こそ、このような「『前後不覚』『右往左往』という漂流と孤立」へと日本を導く最悪の選択にほかなりません。
 国際社会に受け入れられる形で、この国の政治の行く末を構想し導いていく資格と能力があるのか。周辺諸国のみならず国際社会が息を詰めて安倍政治を注視していることに、櫻田さんを含めた日本の保守を支持する人びとや石破さんなどの保守政治家はどれだけ気がついているのでしょうか。

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