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8月30日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月30日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「説明不足どころか嘘ばかり 処理水放出をめぐる世論調査の裏側」

■なぜこのタイミングだったのか

 「海洋放出に国民が理解を示しているのは、処理水は科学的に安全だとIAEAからお墨付きをもらったり、他に方法がないという政府の説明を大メディアが喧伝してきた啓蒙活動の成果でしょう。しかし、処理水放出にはいくつものゴマカシがある。政府・東電や大メディアは、ALPS処理水の問題をことさらトリチウムの濃度に矮小化して『安全だ』とアピールしていますが、ALPSではトリチウム以外にも除去しきれない核種が残ることが分かっています。他国が原発の冷却水を海洋放出していることと比較するのもミスリードでしょう。通常運転の原発で発生するトリチウム水と、原発事故で溶け落ちた核燃料デブリに触れた水を同等に扱うことは本当に科学的なのか。岸田首相は地元漁業者と会おうともせずに放出を強行しましたが、なぜこのタイミングだったのかについても、納得いく説明はありません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 政府と東電は2015年に福島県漁連と「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」という約束を文書で交わしている。岸田が今回の海洋放出を決めた際、地元漁業者は反対の声を上げていたが、首相ご自慢の「聞く力」はいささかも発動しなかった。「一定の理解を得た」と都合のいいことを言って海洋放出を決めてしまった。

 処理水の海への放出を受けて、さっそく中国は日本の水産物を全面禁輸。中国国内の日本人学校への投石や、日本国内への嫌がらせ電話なども相次いでいる。

 「迷惑電話はやりすぎで筋違いですが、中国側の過剰反応の背景にあるのは日本政府に対する不信感です。これまで中国に対して、冷静な対応を求められるような関係を築く努力をまったくしてこなかった。それどころか、米国の尻馬に乗り、中国を仮想敵国とする安全保障文書まで作成して挑発してきたツケと言わざるを得ない。そもそも約束を守らない、破っても謝罪しない。そういう政府と東電をどうして信じられるのか。幾度となくデータ改ざんなどの不正も明らかになった東電は、柏崎刈羽原発では原子力規制委員会が事業者としての適格性がないとまで判断している。それなのに、処理水のデータだけは信用できるという根拠はどこにもないし、いくら『安全だ』と言われても信用できないのは当然です。説明不足というレベルではなく、嘘まがいのデタラメで処理水の海洋放出が強行された。風評被害をつくり出している一番の原因は、政府と東電の不誠実な態度なのです」(五十嵐仁氏=前出)

 中国の対応に関し、岸田は28日、嫌がらせ電話などが相次いでいることは「遺憾だ」と表明。そのうえで水産事業者の支援策を検討し、週内に具体的な内容を整理して発表すると明らかにしたが、あまりに後手に過ぎないか。中国側がこうした反応をすることは分かっていたはずだ。漁業関係者の支援策にしても、事前に十分に検討して海洋放出への理解を求めるのが常識だろう。後先なーんも考えず海に流してしまったというなら、政権担当能力を疑わざるを得ない。

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8月27日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月27日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「無策の末の処理水放出 東電と政府の尻拭いになぜ血税?」

 政府は常に「最後は金目」で、税金を自分たちのカネだと思って都合よく使いたがるが、冗談ではない。金を出す国民に満足のいく説明をすべきだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

 「実害がないことが証明されて初めて『風評』です。溶け落ちた核燃料に直接触れた汚染水を処理しても、通常原発の排水とは含まれる放射性核種は異なる。その検証もロクにしなければ国民の不安は募るばかりです。それなのに、岸田首相は福島原発を視察した際も東電関係者にハッパをかけただけで、地元の漁業者らとは面会さえしなかった。国民の理解と納得を深めるという民主的プロセスを踏まず、『やってる感』の演出のみ。このタイミングでの放出は窮屈な政治日程をにらんだ結果で、どこまでも自己都合が最優先。異なる意見を出し合い、より良い解決策を探るのが成熟した民主社会です。首相はその前提となる信頼構築を度外視しています」

 この国では全くと言っていいほど、民主主義は機能していない。



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8月25日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月25日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「処理水放出は永久に続く「後は野となれ山となれ」の無責任」

 51年廃炉を目指す東電の計画は、大甘を通り越した机上の空論。汚染水放出は永遠に続くといっても過言ではないだろう。福島県内にある除染土にしても、東電は45年までに県外で最終処分するというが、これも道筋をつけられていない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「放出強行をめぐる問題は、政府が平然と約束を破っただけにとどまりません。IAEA(国際原子力機関)が『国際的な安全基準に合致する』との報告書を公表したのを錦の御旗に、科学的な安全基準をクリアしていると強調していますが、そもそも東電は信用に値する企業なのか。柏崎刈羽原発のテロ対策をめぐっては、原子力規制委員会から原発を運転する適格性を疑われている。侵入検知器は多数故障し、社員がIDカードを使い回すメチャクチャをやっていた。東電は当事者意識を決定的に欠いています」

 岸田政権が放出を決定した関係閣僚会議に出席後、ぶら下がり取材に応じた小早川は「風評を起こさないという強い覚悟、責任を果たしていくことが重要だ。私の責任の下、取り組みを実現していきたい」と言っていたが、その後、東電が開いた会見に姿なし。「漁業者の理解は得られたのか」と問われた汚染水対策責任者の口から出たのは、「〈関係者の一定の理解を得た〉という政府の認識の下、放出時期が示された」という逃げ口上だった。

 「政府も東電も風評を払拭すると強調しますが、それは実害がないのが前提。汚染水をALPS(多核種除去設備)で処理することでほとんどの放射性物質を基準値未満にし、除去できないトリチウムは薄めて放出するから影響はないといっても、長い間に蓄積し、悪影響を及ぼす恐れはゼロではない。シャニムに突っ走るのは、地元などの理解を得る自信がない裏返し。そうした姿勢がむしろ風評被害をエスカレートさせているのがなぜわからないのか」(五十嵐仁氏=前出)


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8月24日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月24日付に掲載されたものです。〕

*記事「岸田首相がハッシュタグ“#STOP風評被害”のデタラメ 処理水海洋放出強行に国内外から猛反」

 そもそも、〈STOP風評被害〉と訴えるのであれば、海洋放出を止めればいい、ということのようだ。処分方法を巡っては、代替案も検討されてきた経緯がある。

 国のALPS小委員会が約3年にわたって議論を重ね、5つの処分方法のうち海洋放出と水蒸気放出を〈現実的な選択肢〉として採用。2020年2月の報告書で海洋放出について、〈社会的影響は特に大きくなる〉と結論付けた。ALPS小委員会も、海洋放出は、風評被害を招く恐れがあると認識していたということだ。

 こうした議論の過程があったにもかかわらず、翌21年4月、当時の菅政権が海洋放出の方針を決定。処理水を貯める福島原発の貯蔵タンクが満杯に近づき、今回の放出開始に至った。海洋放出を選んだ政治判断が、風評被害を懸念しているのは間違いない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。

 「処理水にはトリチウムやその他の放射性物質も残存しています。希釈すれば安全なのか、実害が生じるのではないかとの懸念は拭えません。IAEAの“お墨付き”を得て政府は『安全』と言い張っていますが、『安全』と『安心』は別物。風評被害が出るのではないかという不安をよそに、スケジュールありきで海洋放出を強行しようとしている政府の姿勢こそ、風評被害を拡大させています。たとえコストや手間がかかったとしても、国民や周辺国が安心できる処分方法を採用するべきです」

 岸田首相は「聞く力」を自慢しているが、「聞かない力」の間違いだ。

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8月22日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月22日付に掲載されたものです。〕

*記事「菅前首相「ふるさと納税」2兆円目標ブチ上げ…歪んだ制度を“手柄”と勘違いする無知と無神経」

 一方で、都市部の自治体は住民税の減少に苦しんでいる。特に地方交付税による“補填”のない東京23区は深刻だ。昨年度の流出額が98億円と東京23区で最大の世田谷区は、老朽化した公共施設の建て替えなどへの影響を懸念している。47.9億円の減収となった杉並区は、ホームページに「ちょっとヘンだぞふるさと納税」という項目を設け、〈区の財源は減り、行政サービスの低下につながります〉〈受益と負担という税制本来の趣旨を逸脱した、地方自治の根幹を破壊するものです〉と訴えている。

 そんな現状でもお構いなしなのが菅前首相だ。2015年の制度拡充で「高所得者が優遇される」と問題点を指摘した総務官僚を左遷させたほど、「ふるさと納税」への思い入れは強い。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

 「菅さんは無神経のうえ無知。ふるさと納税は『地方発特売プロジェクト』に成り下がっているうえ、税構造をゆがめるさまざまな問題が出ているのを知らないのか。知ってても、自分が始めたメンツから、問題を認めたくないのでしょう。高所得者は行政サービスが低下しても困らないが、ふるさと納税とは無縁で公的サービスに依存している人にはデメリットばかり。こんな制度を『手柄』だと思っていること自体、とんだ勘違いです」

 いつまでも“手柄”に執着していないで、もう引っ込んでいたらどうか。


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8月15日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月15日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「ガソリン価格は天井知らず お盆休みで思い知らされた無能政権の物価対策」

 資源高騰のあおりで書籍価格の値上がりも加速する中、気持ちのいい買いっぷりだ。岸田の書店訪問は昨年の大みそか以来。数カ月かけて読破するんだろうか。

 2日目は裕子夫人と日本橋三越本店で洋服や食品などを買い込み、ショッピングをエンジョイ。広島市の原爆死没者慰霊式・平和祈念式に出席するために地元入りした折も、百貨店でワイシャツや靴下を買い求めていた。家計を気にしない素晴らしさといったらない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「岸田政権の物価対策は小手先で、全く本腰を入れていない。インフレが加速する中、10月にインボイス制度を導入したらどうなるか。消費税の軽減税率導入に伴い、事業者同士が取引する際に互いに税額を確認するためという触れ込みですが、これまで消費税納付を免除されていた個人事業主や中小事業者には税負担や事務処理増加が重くのしかかる。コスト高のさなかに徴税強化。事業を継続するか否かの地獄の選択を迫られることになります。

 コロナ禍以降、世界の100カ国・地域が市民生活を守るため、何らかの形で消費税の減税を実施している。日本でも消費減税を求める声は強いのに、岸田首相は一顧だにしない。国の一般会計の2022年度の税収は約71兆1373億円。物価高の影響で消費税収などが伸び、3年連続で過去最高です。

 にもかかわらず、物価対策を手厚くするでもなく、剰余金を防衛費倍増の財源に回そうと画策し、軍拡にシャカリキ。一体、どれほどの国民がそれを望んでいるのか。まずは消費減税し、インボイスは凍結。そうしなければ、景気は悪化の一途です」


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8月11日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月11日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「麻生暴言は岸田とタッグの確信犯 受け入れるメディアと世論の恐ろしさ」

忘却の罪が新たな戦争を引きつける

 大体、戦争を起こさせないために「戦う覚悟」が必要とはムチャクチャな理屈だ。核兵器廃絶のために核抑止論を肯定する「広島ビジョン」にも通じる倒錯したロジックである。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう指摘する。

 「中国が生意気だから威嚇し、力で抑えつけようとする発想は戦前の『暴支膺懲』(横暴な支那を懲らしめよ)の論理と同じ。そもそも日中双方には『互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない』との合意を重ねてきた経緯がある。その外交原則を一方的に破棄するような暴言で、本来なら日本政府も許してはいけない。気になるのは『非常に強い抑止力』なる表現。核による抑止力を指すのであれば『原爆の日』に核廃絶を誓う広島や長崎の人々を冒涜しています。二重三重に誤った大暴言です」

 1972年の断交後、現職副総裁として初という異例の訪台に踏み切った麻生。中国挑発の背景には、緊張が高まる台湾海峡情勢を念頭に岸田政権の姿勢を内外に示す狙いもあったようだ。同行した鈴木馨祐政調副会長は9日夜のBSフジの番組で麻生の発言は「政府内部を含め、調整をした結果だ」と説明。となると、麻生暴言は岸田とタッグの確信犯である。

 麻生は1940(昭和15)年9月生まれ。4歳で敗戦を迎えた。出生地は福岡・飯塚市。ほど近い北九州市・小倉地区(当時は小倉市)が、2発目の原爆投下の第1目標だったことも恐らく知っているだろう。小倉が雲に覆われていたため、第2目標の長崎が“身代わり”となったことに小倉の人々は心を痛めた。だから戦後の小倉市民と市議会は原水爆禁止運動の先頭に立ったのだ。そんな歴史的経緯を知っているなら、麻生はなぜ、あんな暴言を吐けるのか。「存じ上げない」と言うのであれば、あまりにも無知。政治家失格である。

 「驚くのは、麻生氏の暴言についてメディアの批判が弱いこと。いくら頻発する暴言に慣れていようが、今回は『またか』では済まされない。戦争のリアリティーが全く欠落した『戦う覚悟』をメディアや世論まで受け入れるなら、戦前のような危うさを感じます。戦争の悲惨な体験を語り継ぐことが、平和国家の本当の『抑止力』だったのに、この国から戦争に対する想像力が失われてしまっている証拠です。やはり、忘却は『罪』です」(五十嵐仁氏=前出)

 終戦記念日を前に、軍拡のためなら中国への挑発まで厭わない狂乱を放置していたら一巻の終わりだ。「過ちは繰返しませぬから」──広島の原爆死没者慰霊碑に刻まれた「不戦の覚悟」が、今こそ求められている。

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8月6日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月6日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「マイナカードだけではない 一事が万事の自民党政権は自分の都合とメンツだけ」

 結局、メンツにこだわる河野と加藤の強硬姿勢に押され、優柔不断な岸田は「廃止延期」を決め切れなかったという。そのドタバタ劇には、最後まで「国民のため」という発想はなかった。

 岸田が「廃止延期」を決められなかったのには別の理由もある。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「廃止延期を決めれば、法改正が必要となり、秋の臨時国会はマイナンバー一色になるでしょう。野党に追及の機会を与えることになり、政権への風当たりがさらに強くなるのは間違いない。岸田首相の解散戦略にも影響を与えることになります。だから、今回は廃止時期の判断を留保したのでしょう。結局、国民とは全く関係のない自分たちの都合とメンツを優先したということです。国民不在は明らかでしょう」

 岸田が先月下旬、自公両党に、防衛装備品の輸出緩和に向けた議論の加速を指示し、殺傷能力のある武器輸出に道を開こうとしているのもアメリカのためだ。今月18日にアメリカで開かれる日米韓首脳会談の“手土産”にする腹積もりともっぱらだ。

 勝手に決めた防衛費倍増も、アメリカの要望に応えたものだ。後に訂正したが、バイデン大統領に「私がキシダを説得した結果、日本は防衛費を飛躍的に増やした」と暴露されていた。

 ここまで国民不在の政治を続けるのは、国民の気持ちを理解しようとしないからではないか。

 「自民党の松川るい議員が、フランスのエッフェル塔の前でポーズをとる写真をSNSにアップし、批判を招いています。5年前も西日本豪雨のさなかに、自民党議員が議員宿舎で行った『赤坂自民亭』と呼ばれる飲み会の写真を投稿し、批判されていた。こうした写真を平 気で表に出すのは、国民がどれだけ苦しい生活を送っているのか、考えが及ばないからでしょう。『永田町』という世界の中だけで生きているから、想像力が働かないのだと思う。こんな調子だから、岸田政権の政策が、国民に寄り添ったものにならないのは当然です。デジタル化だって、国民の利益につながるとは思えません」(五十嵐仁氏=前出)

 このまま岸田政権に任せていてはダメだ。




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8月5日(土) 行き詰まる岸田政権 総選挙に向けての課題 [論攷]

〔以下の論攷は『全国革新懇ニュース』第451号、7・8月合併号に掲載されたものです。〕

 地獄の蓋が開いたような通常国会でした。日本は平和を維持できるのか、貧しさから逃れられるのか、という岐路に差しかかっています。というより、もはや「崖っぷち」でしょうか。
 1980年代を頂点に90年代からの「失われた30年」の間、下り坂をたどってきました。中曽根康弘首相の時代を転換点に、米国からの軍事分担要請に応じて「不沈空母論」という軍拡路線に転じ、日米構造協議や年次改革要望書などで米国の要求に屈してきたからです。
 政治・行政、経済・貿易、農業や研究開発の各分野で偽りの「改革」を強行し、その行き着いた先が日本の国力低下と自民党の右傾化・劣化でした。米国に隷属した大軍拡と人権・ジェンダー平等の無視という時代逆行の政策も目に余ります。その背景には日本会議と世界平和統一家庭連合(統一協会)の暗躍がありました。

 出口が見えない行き詰まり

 通常国会での悪法のてんこ盛りは、岸田政権が行き詰まり、先進諸国と価値観を共有せず、東アジアの平和を守れないことを示しています。経済の破綻と物価高によって命と暮らしを危機にさらし、難民やLGBTQなどの人権を守れずジェンダー平等を実現する意思を持たないことも明らかになりました。
 核をめぐっても、日本は福島第1原発の過酷な事故を経験し、広島・長崎での唯一の戦争被爆国であり、核廃絶に向けて先頭を切るべき特別の地位と役割をもっています。それにもかかわらず、原発依存から再生エネルギーへ、核抑止への依存から核兵器なき世界へという歴史の流れに逆らい続けてきました。
 マイナンバーカードの強要とマイナ保険証への切り替えの義務化でも様々なトラブルを生み出し、破綻が明瞭になってきています。カードの返上が50万枚近くに達するなど国民の不安と反発は高まっており、このまま強行すれば政権の命取りとなるでしょう。
 深刻なのはこれらの困難を打開するビジョンがなく、トラブルに対する解決策をもちあわせていないことです。出口が見えないという点では正真正銘の行き詰まりだというほかありません。本当の失敗は、失敗したことが明らかになってもやり直しができないことではないでしょうか。
 米国に踊らされて大軍拡に転じた途端に米国は方向転換を始め、「日本が二階に上ったからもういいや」と梯子を外そうとしています。対決路線一辺倒ではやっていけません。中国との緊張緩和、北朝鮮のミサイル発射や核実験の停止などをどう実現するのか。東アジアにおける平和と共存共栄に向けてのビジョンが本格的に問われることになります。
 大軍拡の裏付けとなる国民負担と大増税も大きな問題です。物価高にあえぐ国民生活を直撃することは明らかで、さらなる貧困化は避けられません。少子化対策のための財源確保も増税や負担増に結びつきます。税と社会保障関連費の国民負担率は約5割に近づき、まるで「五公五民」の江戸時代に逆戻りしたようなものです。

 打開への唯一の活路

 これらの困難を打開する唯一の活路は「市民と野党の共闘」です。先の総選挙で、負ければ下野という危機に瀕した自公政権は全力で巻き返し、「第三極」が受け皿となって政権批判が途中下車する結果となりました。
 しかし、維新や国民などの「第三極」との連携では政権の「交代」ではなく政権「後退」になってしまいます。これしかない唯一無二の選択肢が市民と立憲野党の共闘にほかなりません。政権獲得は立憲単独は不可能で、維新は拒否しています。できるところと手を組むしかないでしょう。
 立憲を支持しながら共産党との共闘に反対している連合は、イデオロギー的な偏見を捨て、労働者の利益になるかどうかで判断すべきです。共産党と協力・共同の関係にある全労連とは、実質賃金や最低賃金の引き上げ、労働条件の改善、働く者の人権の重視という点で大きな違いはありません。
 通常国会では、防衛産業支援法以外のすべての法案で立憲と共産は共同歩調をとり、岸田内閣不信任案に賛成したのも立憲と共産だけでした。通常国会の審議では事実上の共闘が実現していたのです。
 これを次期衆院選でも選挙共闘として定着させなければなりません。一時、立憲の泉代表は共産党を含めて選挙協力せずと発言しましたが、立憲内で野党の一本化を求める動きが強まり、実情に応じて柔軟に対応するとの姿勢に変わりました。岡田幹事長も一本化調整を徹底的に追求すると言明しています。
 市民連合を介したなし崩しの連携では「本気の共闘」になりません。小選挙区での統一候補の当選が62、惜敗率80%以上が54、1万票以内が31という前回総選挙の実績を踏まえ、共闘の意思を確認して政策協定を結ぶことが必要です。そのための働きかけを草の根から強めることが総選挙に向けての最大の課題であり、そこにこそ行き詰まった政治の混迷から抜け出せる唯一の活路があります。

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8月2日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月2日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「当時の官邸中枢は何をどこまで知っていたのか 広がる木原事件余波」


■真犯人究明と政治介入は別の問題

 佐藤氏ら現場の刑事が“ホシ”を挙げようと懸命になっていた再捜査が突然、中止になったのはなぜなのか。佐藤氏は文春の取材に対し、捜査の過程で木原から「おまえなんて、いつでもクビ飛ばせるぞ!」と怒髪天を衝く勢いで言われたことを明かしている。また、佐藤氏はタクシー車内で木原が妻の手を握り、「俺が手を回しておいたから心配すんな」と語りかける様子もドライブレコーダーの映像で確認したという。権力をカサにきた恫喝や捜査介入がもし事実なら大問題だ。

 「事件の真相や、殺人事件だった場合に誰が犯人なのかという話は捜査当局に任せるしかない。ただし、政治的権力を持つ人が捜査に圧力をかけていたとしたら、これは別の話で、見過ごすわけにはいきません。その点に関して木原氏が清廉潔白だというのなら、正々堂々と記者会見でもすればいいのです。疑念を持たれるようなことがあれば、しっかり説明するのが政治家の務めでしょう。捜査にあたった元刑事が実名告発までして疑問を呈しているのに、このままフタをしたのでは、政治不信に加えて警察不信も高まりかねません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 この事件に関して「週刊文春」が7月6日発売号で「岸田最側近・木原副長官 衝撃音声『俺がいないと妻がすぐ連行される』」という記事を最初に報じた際、木原サイドは即座に「事実無根」で「想像を絶する人権侵害」だとして、「刑事告訴を含め厳正に対応する」とした「御通知」を記者クラブメディア宛てに出した。それ以降、公の場には出てきていない。


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