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1月9日(土) 規制改革会議は延命させるべきではない [新自由主義]

 このところ「仮死状態」にあった規制改革会議が、息を吹き返しそうです。このような組織を延命させるべきではありません。

 本日の『しんぶん赤旗』の報道によれば、昨日、仙谷由人国家戦略・行政刷新担当相は政務三役会議で、行政刷新会議の下に規制改革の分科会を新たに設置する方針を決めました。12日に正式決定されるそうです。
 これは、09年度末で設置期限を迎えた規制改革会議の後継組織で、議長を務めている草刈隆郎日本郵船相談役らもメンバーになるといいます。看板を架け替えての存続ということでしょう。
 規制改革会議は、経済財政諮問会議とともに、これまで「構造改革」の旗振り役を果たしてきた組織です。その廃止を主張してきた私としては、このような形での実質的な存続を認めることはできません。

 もちろん、私は「規制改革」そのものに反対しているわけではありません。世の中には、不要な規制もあれば、既得権擁護のための規制もあります。
 時代が移り社会が変化すれば、それ以前には有効であった規制も不要になったり、変更したりする必要も出てくるでしょう。政権交代によって政治のあり方が変わるわけですから、規制のあり方も含めて、それまでの政治の仕組みを見直そうということになるのは当然です。
 しかし、規制改革会議には、そのような役割を担うことはできません。民営化と規制緩和の旗を振り続けてきた過去の実績をみれば、規制改革会議それ自体が見直しの対象とされるべきものです。

 もし、政権交代に伴う「規制改革」が必要であるとすれば、これまでとはまったく異なった陣容によって、新しい組織を立ち上げればいいんです。これまで議長を務めてきた草刈日本郵船相談役らの再任など、とんでもありません。
 まして、規制改革会議労働タスクフォースの「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」の事実上の起草者とされている福井秀夫政策研究大学院大学教授などをメンバーに加えてはなりません。しかし、残念ながら福井さんが加わる可能性は高いでしょう。
 というのは、先に行われた「仕分け作業」でも、行政刷新会議第2ワーキンググループの「仕分け人」として福井さんも加わっていたからです。こんな人が紛れ込むなんて、「仕分け人」についての「仕分け作業」が不十分だったといわざるを得ません。

 福井さんの「仕分け人」への採用や規制改革会議の実質的な延命などに見られるように、鳩山政権は新自由主義のくびきから完全には離脱していません。ここに鳩山政権の限界と制約があります。
 それは、第1に、もともと民主党は新自由主義に対して親和的だったからです。小泉政権の初期には小泉首相にエールを送り、規制緩和路線を競い合うこともありました。
 つまり、民主党の中には新自由主義にシンパシーを持つ人々もたくさんいたということです。もちろん、「私も当初、一瞬だけですが、小泉さんの改革に、もしかしたらシンクロできるのではないか、という期待感を持ったことがありました。……(しかし)今では、小泉さんの規制緩和はアメリカのためだったのではないか、と思っています」(野田佳彦『民主の敵―政権交代に大義あり』新潮新書、2009年、54~55頁)と書いている野田さんのように、今では反省している人もいますが、それが全体のものになっていないということでしょうか。

 第2に、「生活が第一」「コンクリートから人へ」の転換が、戦略的なものではなく戦術的なものだったからだと思われます。このような形で民主党の政策が「転換」するのは小沢さんが代表になってからですが、簡単に言えば、自民党との違いを際だたせるための「方便」としての側面がありました。
 少なくとも、この「転換」は構造改革の結果に対する批判であり、主として選挙対策のための戦術的な対応だったのではないでしょうか。そのために、貧困と格差をもたらした構造改革に対する根本的な総括や反省、新自由主義そのものからの脱却という点で、不十分さを残すことになったように思われます。
 鳩山政権に対しては、哲学や理念、国家像が不明であるとか、明確なビジョンが打ち出されていないという批判があります。このような批判が生まれるのも、構造改革路線や新自由主義的な国家像を明確に否定し、それに代わる新しい理念や国家像を対置できないからではないでしょうか。

 第3に、これらを含めて、やはり鳩山政権は過渡的な中間段階の政権であると言わなければなりません。あらゆる点で、中途半端だからです。
 普天間基地の移設問題、労働者派遣法の改正、後期高齢者医療制度の見直し、政官関係の組み替え、予算の仕分けや税制の再編など、着手はしても、その内容は不徹底で、方向は不明確です。
 これまでの自公政権が生み出した問題を解決しようという意図は評価できますが、国民が求めるような形で決着するかどうかは分かりません。「新米ドライバー」の運転ですからやむをえない面はありますが、どこに向かおうとしているのか、地図は持っているのか、いまひとつはっきりしないのです。

 新自由主義のもたらした害悪をきちんと総括し、そこからの離脱を明確にするべきでしょう。そのような観点から、構造改革の残りかすを一掃し、明確な転換のための国家ビジョンとそこにいたる見取り図を示さなければなりません。
 政官財による開発主義という「古い自民党政治」と、民営化や規制緩和による新自由主義という「新しい自民党政治」のいずれでもない、国民生活と家計を重視した新福祉国家路線への転換こそ、目指すべき目標です。もし、鳩山さんがそのような目標もそこへの地図も持っていないというのであれば、新しいドライバーを採用するためのさらなる政治変革が必要になるでしょう。

2月5日(木) この人まで、こんなことを言い出した [新自由主義]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
 ご注文はhttp://tinyurl.com/4moya8またはhttp://tinyurl.com/3fevcqまで。
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 この人まで、こんなことを言い出しました。中曽根康弘元首相の発言です。

 小泉純一郎内閣時代の「自由放任」「小さな政府」「規制解除」といった米国流のやり方を是正すべき時期に来た。麻生首相が小泉流を是正する方向に動いていることを支持する。……米国流の資本主義が唯一ではない。市場原理は基本線だが、世界は多元的哲学で動いている。

 これは、『毎日新聞』2月5日付の「危機を解く」欄に掲載されています。「『日本の好機』自覚せよ」と題された中曽根元首相の発言の一部です。
 さすが、「風見鶏」と呼ばれただけのことはあります。「風向き」の変化への適応能力はまだ残っていると言うべきでしょうか。
 ということは、中曽根さんですら、「風」の向きが変わったということに気がついたということになります。小泉内閣時代の「米国流のやり方」はもう通用しないということを……。

 しかし、中曽根さんは、このような「米国流のやり方」を日本政治に導入したことに対して責任はないのでしょうか。「小泉流」の元祖は、中曽根さん自身だったのではありませんか。
 レーガノミックスやサッチャーリズムと足並みをそろえ、「臨調・行革路線」を打ち出して「国鉄民営化などを手がけ」、「米国流のやり方」を日本に導入しようとしたのは、中曽根首相自身だったではありませんか。
 そのための大きな水路となったのが、「ロン=ヤス関係」でした。もう90歳だそうですから記憶は薄れているかもしれませんが、しかし、「忘れた」とは言わせませんよ。

 とはいえ、その中曽根さんですら、もはや「米国流」の「市場原理」主義を手放しで弁護できなくなりました。今回の中曽根発言はこのことを明瞭に示しており、注目されます。
 この中曽根発言は、12月30日付のブログ「規制改革会議『第3次答申』と厚労省による批判」で紹介した森喜朗元首相の「反省」と共通するものがあります。森さんは『毎日新聞』12月24日付夕刊の「特集ワイド」のインタビューで、次のように述べていました。

 このごろ、しみじみ思うんだよ。市場原理の経済は良かったのかと。アメリカ式じゃなく、まろやか、おだやかな世界をつくらないと、東洋的な世界をね。負け組にも入れない国民を生み出す政治はどうにか直さなきゃいかん。そのために政治のかたちを変えなきゃいかんと考えているんだよ

 中曽根さんと森さんの発言に共通しているのは、「アメリカ・モデル」に追随して「市場原理」一辺倒になってしまったのは間違っていたという反省です。もう一つの共通点は、それを後押しした自己の責任については何も語っていないということです。
 新自由主義的な政策によって生じた欠陥や過ちを、全て小泉さんに押し付けてしまおうという訳でしょうか。必ずしも、「米国流」に従ったのは「小泉流」だけではなく、また、その小泉さんを陰で支えたのは、一体、誰だったのですか。
 与党政治家の無責任さが、この点に明瞭に示されています。同時に、小泉さんだけを「悪者」にして自らの責任をチャラにしてしまおうという意図も……。

 いずれにしましても、中曽根さんや森さんなどの総理経験者の「反省」は重要です。もはや、「アメリカ流」や「小泉流」は自民党内で主流ではないということを明示しているからです。
 また、自民党町村派は今日の総会で、町村信孝元官房長官を会長に昇格させることを決めました。中川秀直元幹事長は代表世話人を続投しますが、事実上の降格です。
 これらの発言や動きには、新自由主義の黄昏を告げる「晩鐘」の響きがあると言うべきでしょうか。拙著『労働再規制』で読み解いた2006年からの「反転」は、ここまで進んできたことになります。

 なお、一昨日、研究所に『産経新聞』の記者から電話がかかってきました。「かんぽの宿」の一括売却問題と宮内さんについて聞きたいというのです。
 いつ掲載されるか分かりませんが、そのうち記事になるかもしれません。記事になったら、このブログでも紹介させていただきます。

 また、昨日、リクルート社が出している『R25』という雑誌の取材を受けました。非正規切りと再就職の問題について聞きたいというのです。
 このインタビューも、そのうち雑誌に掲載されるでしょう。活字になるようでしたら、このブログでも紹介させていただきます。

 さらに、先日、取材を受けた春闘についてのインタビューが、写真付きで『北海道新聞』2月1日付に掲載されました。これについては、明日、このブログで紹介させていただきます。

12月16日(火) 構造改革の継続・継承か、それとも反転・転換か [新自由主義]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
 ご注文はhttp://tinyurl.com/4moya8またはhttp://tinyurl.com/3fevcqまで。
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 こんなの有り!?
 今日の『日本経済新聞』3面下の広告を見て、そう思いました。そこには、中谷巌さんの『資本主義はなぜ自壊したのか-「日本」再生への提言』という本の広告が、大きく出ていたからです。

 これは私の『懺悔の書』である――。
 「構造改革の急先鋒」といわれてきた著者は、なぜグローバル資本主義に疑問を!?
 広がる格差、止めどない環境破壊、迫り来る資源不足、そして未曾有の金融危機――。すべての元凶は新自由主義にあった。構造改革は日本人を幸福にしたかを検証する。

 これが、この本の宣伝文句です。ここに書かれていることはその通りです。
 でも、それを「構造改革の急先鋒」といわれてきた中谷さんの本の宣伝として書かれると、大きな違和感を持たざるを得ません。いくら、「懺悔の書」であったとしても……。
 もちろん、新自由主義を信奉し、構造改革の旗を振ったことを悔い、反省したのであれば、それはそれで結構です。が、中谷さんを信じて新自由主義に同調し、構造改革の波に呑まれていった人々はどうなるのでしょうか。

 この本には、「構造改革の急先鋒」といわれて構造改革を推進してきたこと、その結果、このような日本作り出してしまったことに対する反省は、きちんと述べられているのでしょうか。中谷さんは、「構造改革の急先鋒」であった自らの責任をどう考えているのでしょうか。
 新自由主義によって資本主義の自壊に道を開くことでひと儲けし、それが自壊したら、「なぜ自壊したのか」について書いて、もうひと儲けする。あまりに、美味しい商売じゃありませんか。
 その結果、日本の経済と社会は壊れ、「派遣切り」や「期間工切り」によって職と住を失い、年末の寒空に放り出された人々が続出しています。これらは皆、構造改革による労働の規制緩和の犠牲者たちではありませんか。

 でも、自らの誤りを自覚し、「懺悔の書」を出した中谷さんは、まだずっとマシな方なのかもしれません。いまだに「懺悔」もせず、「すべての元凶」である新自由主義と構造改革の旗を振り続けている人もいるのですから……。
 その最たる方は、同じ『日本経済新聞』の一面に登場している竹中平蔵さんです。「世界同時不況 今、何をすべきか」という連載で、「将来への投資、実行の時」というインタビュー記事が掲載されています。
 そこで、竹中さんは、次のように述べています。

 「構造改革で既得権益を失った人はたくさんいる。甘い汁を吸っていた人は懐かしい時代を取り戻したいだろう。しかし世界の常識はそうではない。何もしなければ09年は『最も失われた1年』になる。我々はたいへん大きな分かれ道にいる」

 竹中さんは、「既得権益」について語っています。私は、「新得権益」について語りたいと思います。
 確かに、構造改革によって「既得権益」を失った人はいたでしょう。その反対に、構造改革によってもたらされたビジネス・チャンスを利用して新たに権益を得た人もいたはずです。
 これが「新得権益」です。その典型例は、「平成の政商」と言われているオリックスの宮内義彦さんです。宮内さんは、各種の規制緩和の委員会の責任者となって規制を緩和し、「新得権益」を得ることによって事業を拡大してきました。

 規制緩和によって新たな権益を得た受益者は、宮内さんばかりではありません。労働の規制緩和による非正規雇用の拡大で過去6年間にわたって大もうけを続けてきた大企業は、その最たるものではないでしょうか。
 竹中さんご自身も、構造改革の旗振り役として大臣の椅子を手中にし、参院議員にまでなりました。その過程で名前を売り、多くの本を書いて大儲けしたはずです。
 竹中さんは、「構造改革で既得権益を失った人はたくさんいる。甘い汁を吸っていた人は懐かしい時代を取り戻したいだろう」と仰っていますが、ご自身を含めて「構造改革で新得権益を得た人はたくさんいる。甘い汁を吸っている人はこの時代を続けたいだろう」と言うべきだったのではないでしょうか。

 「しかし世界の常識はそうではない」のです。もはや、新自由主義ではやっていけないことは、誰の目にも明らかになっています。
 「広がる格差、止めどない環境破壊、迫り来る資源不足、そして未曾有の金融危機――。すべての元凶は新自由主義にあった」と、かつて「構造改革の急先鋒」といわれた中谷巌さんの本の宣伝で書かれているとおりなのです。
 その「元凶」である新自由主義を、さらに継続せよと仰るのでしょうか。竹中さんには、「広がる格差、止めどない環境破壊、迫り来る資源不足、そして未曾有の金融危機」が目に入らないのでしょうか。

 竹中さんが「何もしなければ09年は『最も失われた1年』になる。我々はたいへん大きな分かれ道にいる」と仰るのは、正しいと思います。「何もしなければ」、この間の構造改革によって自壊を始めた資本主義はより大きな破局へと突き進むことになるでしょう。
 「何もしなければ09年は『最も失われた1年』になる」というのは、その通りです。新自由主義の害悪を取り除くための反転が必要です。
 構造改革の誤りを是正するための転換に着手しなければなりません。規制緩和によって廃墟と化した労働の荒野に、再規制の力によって人たるに値する労働(ディーセントワーク)の苗を植え付け、緑なす人間の世界を取り戻す必要があります。

 今、問われているのは、新自由主義によって自壊させられてしまった経済と社会を立て直すことができるかどうかという問題です。それはすなわち、構造改革の継続・継承か、それとも反転・転換かという選択なのです。
 竹中さんとは逆の意味で、私も次のように言いたいと思います。「何もしなければ09年は『最も失われた1年』になる。我々はたいへん大きな分かれ道にいる」のだと……。



9月26日(金) 小泉引退をもたらした新自由主義幻想の破綻 [新自由主義]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』ちくま新書で10月10日刊行予定。
 240頁、本体740円+税。ご注文は筑摩書房http://www.chikumashobo.co.jp/まで。
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 もう、嫌になっちゃったんでしょうね。小泉元首相が、次の総選挙に立候補せず、政界から引退することを表明したそうです。

 「新自由主義幻想の破綻」というのは、今度刊行される拙著の帯に書かれる予定の言葉です。小泉さんの引退は、まさにそのものズバリと言って良いでしょう。
 すでに、自民党総裁選挙において、新自由主義政策に対する批判の強まりは顕著でした。このことは、9月17日のブログ「新自由主義幻想の破綻」で書いたとおりです。
 また、小泉さんの影響力の衰退については、9月22日「ようやく茶番劇の幕が下りた」で、次のように指摘しました。

 それでも、この総裁選で注目すべき点がなかったわけではありません。小池さんと小泉さんの動静です。
 小池さんは小泉構造改革路線の継承を掲げて立候補を表明し、小泉さんは小池さんへの支持を明らかにしました。そのために、小池さんは自民党内における新自由主義路線の影響力を推し測るリトマス試験紙の役割を演ずることになりました。
 結果は、惨敗です。小泉構造改革路線の凋落と「小泉神話」「小池神話」の破綻が明瞭になりました

 この時点で、小泉さんは自分の役割が終わったことを自覚したのでしょう。日本における新自由主義政策の終焉に向けて、最後の幕がおり始めたということでしょうか。
 「2006年の転換説」を取る私としては、小泉引退は来るべきものが来たにすぎません。この「転換」の行き着いた先が、小泉引退にほかならないからです。
 そこにいたる「転換の構図」については、ぜひ拙著をご覧になっていただきたいと思います。どうして小泉さんが引退を表明するまで追いつめられていったのか、ご理解いただけるものと思います。

 しかし、どうせ辞めるにしても、あと2週間ほど発表を待ってくれれば良かったんです。そうすれば、拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』の発売にピタリと合い、このうえもないグッドタイミングとなったんですが……。

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