3月15日(土) 日銀総裁人事をめぐる混乱をどう見るか [省庁]
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同意が得られないから決まらない。だったら、同意が得られる人を出せばよい。
小学生にでも分かるはずのこの道理が、一国の首相に分からないとは、情けないかぎりではありませんか。
現在、混迷を深めている日銀総裁選びの話です。このまま、次期総裁が決まらなければ空白が生じ、日本の国際的な信用ががた落ちになり、大変な事態になると見られています。
だったら、早く決めればよいでしょう。そもそも、こんなせっぱ詰まった時期にまで先延ばしせず、もっと早く提案すれば良かったではありませんか。
それを、ギリギリになるまで待って、「さあ、これで認めろ。認めなければ大変なことになるぞ」と、脅しにかかっているわけです。「時間がないから、文句があっても飲むべきだ」と言いたいのでしょうが、そうは問屋が卸しません。
すぐに決めたいのであれば、野党も同意できる人物を提案すれば良いではありませんか。どうして、武藤さんにこれほどこだわるのでしょうか。
野党が反対している理由は、武藤さんが旧大蔵省身・財務省出身で、財政と金融の分離という観点から好ましくないからです。財務省の次官として、また、日銀の副総裁として、低金利政策や量的緩和政策決定など、この間の財政・金融政策の運営に深く関わってきており、そこで生じた問題の責任を負うべき立場にもあります。
このような過去が問題だとして野党が反対しているのですから、そのような過去を持たない人を提案すれば良いではありませんか。どうして、武藤さんでなければならないのでしょう。
実は、福田さんがこだわっている理由も、恐らく、この過去にあるのでしょう。旧大蔵省出身で初代財務事務次官であるという武藤さんの過去に……。
福田さんは、この過去の故に武藤さんをどうしても日銀総裁にしたいと考え、野党は、この過去の故に武藤さんに反対しているのです。
それでは、福田さんのこだわりはどこにあるのでしょうか。それは、このケースが官僚に恩を売り、小泉さんなどによって壊された「政官関係」を修復する絶好の機会だと考えているからです。
小泉元首相は、自民党の族議員や官僚を「抵抗勢力」だとして、徹底的な排除をめざしました。財務省の予算編成権限を初めとして官僚の権限や既得権を剥奪し、「官邸主導」を貫こうとしたわけです。
しかし、ポスト・小泉の安倍政権と福田政権は、このようにして「壊れた」自民党や官僚との関係の修復に着手します。その象徴は、郵政造反議員の復権でした。
小泉さんが標的にしていた道路特定財源や暫定税率を、コロッと態度を変えて維持しようと躍起になっているのも、道路をめぐる「政官業」の癒着構造と既得権益擁護の姿勢を示すためなのです。
このような文脈では、武藤さんの日銀総裁への就任は「古い自民党」復活のシンボルを意味し、自民党と官僚との「手打ち式」での捧げもののようなものです。福田さんが、これに固執すればするほど、小泉さんによって失われてしまった官僚の信頼が回復することになります。
福田さんは、官僚の利益擁護のために身体を張っている姿を見せたいのです。野党の反対や世論の批判をものともせず、日銀総裁の空白やそれによって生ずるかもしれない国際的な信用の低下というリスクをも覚悟のうえで、官僚出身者を重用しようとする姿を焼き付けておきたいのでしょう。、
誰にかって? 武藤さんに続く高級官僚の皆さんに対して、です。
でも、もうこれで十分だと思っているかもしれません。これまででも、十分なパフォーマンスを行ったのですから……。
今頃、財務省の次官にでも電話をして、「これくらいでいいかな。別の人を出そうと思うんだけど」「これで十分です。総理の真意は伝わりましたから」などという会話を行っているかもしれません。
福田さんが、月曜日に誰を提案するか分かりませんが、もし、武藤さんと別の人が出てくれば、このような形での了解が得られたということになります。まだ、固執するというのであれば、その時には、日本の金融システムの正常な機能や国際的な信用よりも、官僚との義理の方を優先したということになるでしょう。
それにしても、武藤さんが「余人をもっては代えがたい人物」だなんて、「よく言うよ」と思ってしまいます。
この方が、かつて「ノーパンしゃぶしゃぶ」問題の時、同僚をかばって嘘をつき、大蔵省の官房長から審議官に降格されたことをご存知のうえで、このようなことを言っているのでしょうか。
確かに、こんな人は他にはいないでしょうから、「余人をもって代えがたい」とは言えますが、それは日銀総裁にふさわしい理由にはなりません。逆でしょう。
武藤さんも武藤さんです。自分が提案されれば、このような混乱が生ずるということが分からなかったのでしょうか。再提案されれば、日銀総裁の空白という危機が生ずることが予測できないのでしょうか。
「このような危機は何としてでも避けなければならない」と考えるのであれば、問題は簡単です。「私はやりません」と、福田さんに電話を一本かければよいのです。
本人が嫌だといえば、いくら決断できない福田さんでも決断するでしょう。武藤さん以外の名前を出すしかないと……。
もし、これからも武藤さんの名前が出続ければ、このような判断も決断もできなかったということを意味します。開成高校、東大法学部、大蔵省、大蔵事務次官、初代財務事務次官というエリートコースを歩んできても、武藤さんには、その程度の判断力や決断力が培われなかったということになるでしょう。まったく、情けない。
9月20日(木) 「従米」のために日本の評判を傷つけた「害務省」 [省庁]
「古い自民党」の福田候補と「安倍亜流」の麻生候補との不毛の総裁選が続いています。結果の分かった勝負をいつまで続けるつもりなのでしょうか。
『東京新聞』の報道では、「首相臨時代理も置かずに、国会を『開店休業』とした結果、毎日、3億円近く、計約37億円が無駄になる」そうです。このお金、自民党は損害賠償として国庫に納めるべきでしょう。
マスコミも、いい加減に自民党のPRの手伝いを辞めるべきです。誰が船長になっても、「泥船」は沈む運命なのですから……。
その「泥船」をもっと早く沈めたいということなのでしょうか。外務省が、また馬鹿なことをやりました。あまりにも姑息で愚かな行為です。
国連安全保障理事会での決議を日本の国内政治に利用しようというのですから、呆れてものが言えません。アメリカに対する給油継続のためには手段を選ばずというわけです。
外国の意に沿うために、自国の名誉を傷つけるような行為をも「外交」と呼ぶべきなのでしょうか。このような自国に害を与える役所は、「害務省」と呼ぶべきではありませんか。
国連の安保理でアフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)の任務を1年間延長する決議が採択されました。そこには、日本が海上阻止行動に参加する米軍主導の「不朽の自由」作戦(OEF)参加国への「謝意」が初めて盛り込まれましたが、これは外務省の働きかけによるものです。
そのために、決議案は賛成14、棄権1(ロシア)で採択されました。2001年の米中枢同時テロ以後のアフガニスタン情勢をめぐる決議で、全会一致とならなかったのは今回が初めてです。
ロシアのチュルキン国連大使は、決議の本来の目的である国際治安支援部隊(ISAF)の任務延長を米国主導の対テロ作戦「不朽の自由」(OEF)からはっきり区別して「(OEFの有志)連合の活動は国連の枠外のものだ」と言い切り、「過去のISAFの任期延長決議に盛り込まれなかったOEFに言及する理由が不明確」と棄権の理由を述べました。
「安保理の一員でもない特定の国」(チュルキン大使)の国内事情を、安保理決議に持ち込んだ米国への反発があるとのことですが、この「特定の国」というのは、日本のことです。
ということは、日本の働きかけによる「これまでなかった海上阻止活動への言及」が全会一致が崩れた原因なのは明らかで、各国は「分裂は日本のせいだ」と見ているそうです。ロシアの協力を取り付ける時間が与えられないまま、不完全な成果と日本への反感だけが残ったといいます。
この国連安保理決議案について、与謝野官房長官は「日本は安保理のメンバーではないので、働きかけということではなく、(理事国に)日本の置かれている現状や活動、国会の見通しなどを説明した」と釈明しました。しかし、複数の安保理筋は「日本政府の意見も考慮した」と話しているそうですから、「日本政府の意見」が伝えられたことは明らかです。
日本政府・与党内には「そういう決議が出てくれば国民の理解をいただける」(大島理森自民党国対委員長)などと、民主党が補給活動延長に反対しにくくなるとの期待感もあったそうです。そのために国連を利用しようとしたわけで、何とも浅はかな行為というしかありません。
しかし、民主党の鳩山由紀夫幹事長は「党の考えは変わらない」として、「日本から感謝しろと強要するのは茶番だ。国民の失笑を買う。むしろ厳しく追及する」と語ったそうです。このような「茶番決議」に惑わされず、最後まで反対を貫いてもらいたいものです。
ところで、アフガン情勢と給油活動の継続問題について、今日の『毎日新聞』に注目すべき特集が組まれていました。そのなかでも、注目すべきは、アフガニスタン武装解除日本政府特別代表などを務めた伊勢崎賢治東京外語大教授の発言です。
伊勢崎さんは、次のよう述べています。
これまでアフガニスタンの「治安分野改革」で成功したのは、日本の武装解除だけです。なぜか。現場の私たちは「美しい誤解」という言葉を使いました。アフガン人はテロ特措法など知りません。日本は軍事行動をしていないという「美しい誤解」が、疑心暗鬼の武将たちに信頼醸成させた。……
……日本がなすべきは「美しい誤解」を崩すことではない。それは米国の国益にもならない。米国は日本がやった武装解除のお陰でアフガンに新しい国軍を作り、それが「不朽の自由作戦」の最前線で闘っているのです。
……結局、日本特有の役割をこれからの発揮するために、テロ特措法はあまり目立たないまま消えていってほしい。
……今、現地では「不朽の自由作戦」の空爆による2次被害が深刻です。
……イギリスやカナダ、ドイツは地方復興を真剣にやっている。そこで人心掌握に成功し始めているのに米国が空爆をして、また憎悪が増す。だから、「不朽の自由作戦」は自分たちの地域ではやるなと苦情を言っています。この問題はこれからさらに大きくなるでしょう。日本がインド洋で支援しているのは、一般人を殺しているこの作戦です。
この最後の指摘が最も重要な点です。「一般人を殺しているこの作戦」への「支援」を継続するかどうかが、インド洋での給油継続問題で問われている最大のポイントだからです。
伊勢崎さんは、日本は軍事行動をしていないという「美しい誤解」を崩さないために、「テロ特措法はあまり目立たないまま消えていってほしい」と訴えています。それが、日本だけでなく、米国の国益にもなるのだとも……。
イギリスやカナダ、ドイツなどにも「苦情」を言われるような作戦は直ちに止めるべきです。海上給油を中止すれば、このような誤った作戦を止めさせることに、一歩、近づくことができるのではないでしょうか。
ところで、この対談を最後まで読んで、私は目を丸くしてしまいました。岩間陽子政策研究大学院大准教授が、次のように発言していたからです。
岩間 今のご指摘は重要です。「不朽の自由作戦」は必ずしも現場で支持されていない面がある。イラク政策でも、米国は大きく間違った。そこから、日本が米国の同盟国であるとはどういうことなのかを考えないといけません。
これが、どうして目を丸くするようなものなのか、お知りになりたい方は、『毎日新聞』に掲載されたそれまでの彼女の発言をお読み下さい。岩間さんが、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーで、「日本が今、戦後積み重ねてきた安全保障観をもう一段階乗り越えなくてはならないところに来ているのは確かでしょう」と発言していることも、付け加えておきましょう。
このとき、岩間さんは、ご自分がどのような発言をしていたのか、気づいていたのでしょうか。自らの発言の論理的整合性を、どう考えておられるのでしょうか。