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7月17日(木) 全労協「G8サミットにもの申す」集会での講演概要 [講演]

 北海道の洞爺湖サミットに向けて、7月3日に全労協の主催で「G8サミットにもの申す!」という集会が開かれました。ここで講演したこと、160人の方が出席され全水道会館の大ホールが一杯だったことは、7月4日付のブログに書きました。
 そのときの講演概要が、『人民新報』第1243号<統合336号>(2008年7月15日)http://www.rousyadou.org/1243.htmに掲載されています。なかなか良くまとまっていますので、ここに転載させていただくことにしましょう。

全労協「G8サミットにもの申す!」集会  五十嵐仁大原社研所長が講演

「いま潮目が変わった。こちらが追撃に転じなければならない。」

 G8サミットを前に、全労協主催の「地球・資源・食糧危機、貧困・格差拡大反対!『G8サミットにもの申す!』7・3労働者集会」が全水道会館で開かれ一六〇人が参加した。
 全労協藤崎良三議長は主催者あいさつで、全労協のG8サミットへの取り組みについて報告した。
 
 集会では、五十嵐仁法政大学教授・大原社研究所長が「新自由主義がもたらした貧困・格差社会~労働運動はそれとどう闘うか」と題して講演。
 いま市場の失敗が明らかになってきている。市場を支配するのは「神の手」といわれてきたが、実際には「悪魔の手」「泥棒の手」であり、戦争ビジネス、儲けだけのビジネスで環境は大きく破壊されている。小泉構造改革では宮内義彦などが規制緩和の尖兵になった。たとえばタクシーの自由化だ。宮内はオリックスというリース会社を経営しており、タクシーを貸し出してそこで儲けた。規制緩和の政策をだして自分の利益になるというのがその構造だ。
 ノーベル経済学賞をうけたスティグリッツは、「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」などの本を書いて、リスクの不公平な分散、格差の拡大と貧困化、雇用の破壊はグローバリゼーション、その実はワシントン・コンセンサスがもたらしたものだとしている。日本でも伊藤忠の会長で政府の経済財政諮問会議議員でもある丹羽宇一郎のような人も同じような批判をするようになった。
 こうしたなかで自民党雇用・生活調査会も結成され、生活の破壊、雇用の劣化、医療の崩壊、介護の空洞化、年金の不安、教育の混乱などに対処せざるをえなくなっている。その事務局長である後藤田正純衆議院議員は新自由主義改革の行き過ぎを批判している。与謝野馨前官房長官や加藤紘一元自民党幹事長も同様な主張をし始めている。
 振り返ってみてみると、二〇〇六年に内外情勢の大きな転換があったようだ。格差の拡大と貧困の増大がかなりのところまで行き着いて、そうした中でホリエモンとか村上ファンドの村上世彰の逮捕、企業不祥事などが続発し、小泉につづいて安倍が登場したが〇七年夏の参院選で与党は大敗した。国際的にはイラク戦争の失敗と経済の混乱によるアメリカの没落があり、「アメリカ・モデル」に対する疑念が増大した。労働運動でも非正規ユニオンの結成やパート労働者の組織化がすすみ、ナショナルセンター段階でも非正規労働センターなどができ、またさまざまな共同も進展した。マスコミもこうした動きをよく報じるようになっている。国際労働運動も、国際自由労連などが合流したITUC(国際労働組合総連合)が、あらたな取り組みを強めている。
洞爺湖サミットに先立って五月一一日から一三日までG8労働大臣会合が新潟市で開催されたが、ITUCや連合など労組は行動を行った。
 いまは資本主義対社会主義という対立ではなく、資本主義対資本主義という構造になっている。資本主義にもいろいろあり、新自由主義的資本主義が最悪だ。
 そしてその新自由主義の失敗が明らかになってきている。中南米はIMFなどによって新自由主義政策の最先端を走らされていたが、経済はズタズタになるという悲惨な状況になった。その一方で、アメリカはイラクで泥沼に入り込み、その間に、中南米はコロンビアを除いてすべて反米・非米の国となり、新自由主義反対のオルタナティブの最前線になっている。
 アジアでも同様だ。新自由主義政策で貧困にさらされたインドネシアや韓国の変化だ。ノ・ムヒョン政権が新自由主義政策を推し進めてきて、保守派のイ・ミョンバク政権に変わったが、その政権も期待はずれであり、政治的な危機に陥っている。
 日本でも小泉改革の負の側面が噴出して、先に触れたように自民党の「党内反乱」もおこっている。
マクドナルド、フルキャスト、すき屋、KDDIエボルバ、ガテン系連帯などでの闘いが注目されて、非正規労働者の問題がキャノンや日経新聞の提供の番組でも取り上げられたりしている。
 この間の闘いでは、ホワイトカラー・エグゼンプションの問題が大きかった。何か変なことがやられようとしていると多くの人が思い、「残業代ゼロ法案」などという名が一般化し、規制緩和派が守勢となり、法案は先送りされた。その後も、「名ばかり管理職」とか「なんちゃって店長」とかの問題での取り組みがもりあがり、広がっていっている。労働者派遣法改正問題では、全労連と全労協が共催集会をもつなど画期的なことがおこっている。
 いま潮目が変わった。こちらが追撃に転じなければならないときである。この夏からの臨時国会へ労働者派遣法の改正案がだされる状況になっているが、焦点の日雇い派遣だけでなく登録型そのものも廃止していかなければならない。そして、規制改革会議を孤立させ息の根を止めていかなければならない。
 世界的にも新自由主義は主流ではなくなってきている。反グローバル運動が登場し、世界社会フォーラムが「もう一つの世界は可能だ」とアピールしているし、EU・ヨーロッパ労連の役割が増大している。その組織率の高さ、協約適用率の広さ、政治的・社会的地位の高さ、影響力の大きさは「もう一つの道」を示す役割を果たしている。
 G8先進国首脳の会合は世界を豊かにできない。いまの課題は「モラル・エコノミーによるディーセント・ワーク(人間らしい適正な労働)の実現」ということだ。
 労働組合の果たすべきは、労働政策の規制緩和を押し返すことだが、これは〇六年から転換しはじめ、追い風が吹き始めた状況にある。小林多喜二の小説『蟹工船』がブームになっているが、これは労働組合の存在意義が高まっているということでもある。秋葉原無差別殺傷事件背後には働き方の問題があり、成果・業績主義による分断と孤立、メンタルヘルス不全という不安・不安定な状況からの脱出を求めていることがある。すでに「ポスト新自由主義」の時代が始まっているといえるが、これから「小状況(労働現場)」の変革と「大状況(政治)」の変革を結びつけることがいっそう重要になってきている。