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8月13日(土) 参院選の結果と憲法運動の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕


3 今後の課題と展望

(1)命と暮らしを守り、経済と社会保障を再建する課題

 参院選後、新型コロナウイルス感染の急拡大が生じ、第7波がやってきました。オミクロン株のBA.2型がBA.5型に急速に置き換わっているからです。コロナ感染防止のための検査体制の強化やワクチン接種などの対策を急ぎ、病床の確保などで医療体制のひっ迫を防がなければなりません。
 参院選でも大きな争点となった物価高騰の大波が到来するのはこれからです。選挙で野党が一致して求めた消費税の減税を引き続き要求し、中小企業や業者を苦しめるインボイスの導入を中止させることが必要です。岸田政権は実効性の低い賃上げ政策や小手先の物価対策に終始し、実質賃金は2か月連続でマイナスになっています。
 アベノミクスによって儲けを拡大した大企業は内部留保を466兆円もため込み、異次元の金融緩和が「黒田円安」を生み、物価高に拍車をかけています。三本の矢を堅持する「新しい資本主義」ではなく。新自由主義とアベノミクスから転換し、内部留保への課税や金融所得課税、富裕層への累進課税の強化などが必要です。
 「全世代型社会保障」を口実に世代間対立をあおって負担増・給付減を正当化してはなりません。10月からの75歳以上の病院窓口「2割負担」導入に反対し、6月支給分から減額された年金をこれ以上カットさせず、防衛費倍増の財源として狙われている社会保障を削減するのではなく、その充実を求めていく必要があります。

(2)大軍拡と改憲を阻止し、外交・安全保障を立て直す

 参院選でも国民は改憲への信任を与えたわけではありません。選挙の結果を受けて実施された共同通信の世論調査では、改憲について「急ぐ必要はない」が58.4%と過半数を超え、「急ぐべき」は37,5%にすぎません。参院選で重視した項目も「物価対策・経済政策」が42.6%の最多で、「憲法改正」は5.6%という少なさです。
 このような国民の声を無視して、9条改憲に突き進むことは許されません。まして、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有論や11兆円もの規模を目指す防衛費GDP2%への倍増論などは論外です。
 このような方針は戦後保守政治の質的転換を示すもので、これまでの延長線上でとらえてはなりません。質的に異なる本格的な軍事大国路線を選択しようとしているからです。戦後保守政治が採用した解釈改憲の枠に入らないからこそ、憲法の条文を変える明文改憲に転じようとしているのです。
 この点では、9条改憲によって日本は何を失い、どのようなリスクを招くのかが明らかにされなければなりません。大軍拡と9条改憲によって目指されているのは、簡単にいえば、次のような軍事大国の姿にほかならないからです。
 ① GDP2%の11兆円を超える世界第3位の軍事力
 ② 米軍とともに戦う自衛隊の自由な海外派兵
 ③ 日本が攻撃されていなくても集団的自衛権による参戦
 ④ 外国の指揮統制機能等の中枢を攻撃しせん滅する攻撃能力
 ⑤ 攻撃される前に行う国連憲章違反の先制攻撃
 このような国のあり方が憲法の平和主義の原則に反し、専守防衛の国是を吹き飛ばすものであることは明らかです。周辺諸国の警戒心を強めて軍拡競争をあおり、戦争のリスクを高めるにちがいありません。
 これに対して、憲法9条の平和主義原則に沿った外交・安全保障政策は、本来、以下のようなものでなければならなかったはずです。
 ① 必要最小限度の防衛部隊に徹し海外派兵を行わない
 ② 軍事同盟に加盟せず外国の軍事基地を置かない
 ③ 仮想敵国を持たず対立する国のどちらにも加担しない
 ④ 東南アジアの非核武装地帯を東北アジアにも拡大する
 ⑤ 特定の国を敵視せず全ての国を含む集団安全保障体制を構築する
 これこそが、憲法9条が求めている外交・安全保障政策の具体化ではないでしょうか。しかし、現在の自公政権ではとうてい実行できません。だからこそ、このような政策を実施し、憲法を活かして東アジアの平和と安全を実現できる「活憲の政府」が必要なのです。

(3)政治におけるモラルを回復し、疑惑の真相を解明する

 今回の参院選においても、政治家や候補者の暴言が繰り返されました。桜田義孝前五輪相は少子化に言及し、「女性も、もっともっと、男の人に寛大になっていただけたらありがたい」と発言し、現役大臣である山際経済再生担当相は「野党の人から来る話は、われわれ政府は何一つ聞かない。皆さんの生活を本当に良くしようと思うなら、自民党、与党の政治家を議員にしなくてはいけない」と言って松野博一官房長官に注意され、釈明に追い込まれました。
 たびたび問題発言を繰り返してきた麻生副総裁もロシアによるウクライナ侵略に触れながら「子どもの時にいじめられた子はどんな子だった。弱い子がいじめられる。強いやつはいじめられない」と発言しています。まるで攻められたウクライナの側に責任があるかのような物言いではありませんか。
 これらは政治家としての資質が疑われるような暴言ばかりです。それが本音であっても普段は口をつぐんで表には出てきません。選挙になれば、街頭演説をする必要が生まれます。多くの聴衆を前にした演説をするとき、受け狙いでポロット出てしまったのです。
 自民党ばかりではなく維新の会やNHK党も同じです。有権者に対する誠実さのかけらもなくモラルを欠いた政治家の本質に早く気付いてほしいと思います。この点では、ウソを言い続けて信頼を失ったジョンソン首相を引きずり下ろしたイギリスを見習ってもらいたいものです。
 同時に、これらの暴言よりさらに大きな問題なのが「政治とカネ」をめぐる疑惑です。とりわけ真相解明が急がれるのは、安倍元首相のモリカケ桜と言われる疑惑の数々で、桜を見る会前夜祭での後援会による会費の補填、ホテルの便宜供与、サントリーによる酒類の無償提供など、いずれについても真相解明が急がれます。
 また、安倍元首相については、その死去をめぐって急浮上してきた旧統一協会との深い闇の解明も必要です。祖父の岸信介元首相からつながりがあり、安倍元首相だけでなく自民党政治家の多くが旧統一協会を利用し、利用されてきました。旧統一協会の支援で当選した自民党の井上義行議員をはじめ、このような持ちつ持たれつの関係に光を当て、自民党とカルト教団との腐れ縁を断ち切らなければなりません。

(4)野党共闘を再建し、解散・総選挙を勝ち取る

 昨年の総選挙後、野党共闘は大きな困難に直面しました。そうなったのは、共闘の中心となるべき立憲民主党とその支援団体である連合の腰が定まらなかったためです。
 なぜでしょうか。それは立憲民主の泉健太代表も連合の芳野友子会長も、市民と野党の共闘の戦略的重要性を理解していなかったからです。野党共闘は選挙に勝つための便宜的な方策にとどまらず、新しい政府を作るための唯一可能な戦略的目標だったのに。
 自公政権に対抗し政権交代を目指している立憲も連合も、立憲単独での政権獲得が可能だと考えているのでしょうか。それが無理だというのであれば、連立するしかありません。その相手と想定している国民民主を「兄弟政党」だと言ってみても、先方は共闘に応じようとしていません。
 そうなれば、ともに連携して政権交代を迫ることのできる政党と手を結ぶしかありません。その相手は、現状では共産・れいわ・社民の3党になります。これらの政党との連携は、政権交代を実現するための「パン種」なのです。大切にして発酵するのを待つのが、立憲のとるべき態度ではないでしょうか。
 ところが、立憲はこのような共闘の戦略的重要性を理解せず、攻撃されればすぐにぐらついてしまいます。政権交代に向けての可能な道はこれしかないということ、活路はこれらの政党との共闘にしかないということが分かっていれば、もっと腰の据わった本気の共闘が実現できたはずです。
 連合にしてもこの間の対応は不可解なものでした。芳野会長は共産党との共闘をかたくなに拒んでいましたが、かつて共産党ともかかわりの深い全労連と「花束共闘」という形でエールを送りあったり、メーデーの時差開催で舞台を共有したりしたことを知らないのでしょうか。
 立憲も連合も存在意義が問われています。立憲は連合という一部の労働組合のためにあるのでしょうか。連合は傘下の大単産の組合員だけの利益のためにあるのでしょうか。そうではないでしょう。全ての国民と全ての働く人々のためにあるのではありませんか。
 今回の参院選の総括を通じて共闘の再建のためにどのような方針を打ち出すのかが、試金石となるにちがいありません。昨年の総選挙以来の教訓をしっかり学び、野党の共闘態勢を立て直してもらいたいと思います。
 来年5月に広島で開かれる主要国首脳会議(G7)後、有利な情勢だと判断すれば岸田首相が解散に打って出るかもしれません。来年秋以降、総選挙から2年を経て解散風が吹き始める可能性もあります。「黄金の3年間」を待つことなく、それ以前に政権を追い詰めて解散・総選挙を勝ち取り、野党共闘による政権交代を迫ることがこれからの課題です。

 むすび―憲法運動における新たな課題

 参院選の結果、憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」は179議席となり、改憲発議に必要な3分の2である166議席を大きく上回りました。岸田首相は改憲に向けて「できるだけ早く発議し、国民投票に結び付けていく」と強調しています。いよいよ改憲発議の阻止に向けて正念場を迎えることになります。
 この点では安保体制による日米軍事同盟と憲法9条の相互関係、憲法上の制約を生み出している9条の意義の再確認が重要です。9条改憲によって「失うものの大きさ」と「招き寄せるリスクの危うさ」を幅広く知らせていくことが、ますます大きな意味を持つことになるからです。
 特に強調しておきたいのは憲法9条の効用であり、その「ありがたさ」です。9条改憲を主張している人々はもちろんのこと、それに反対している人々を含めて、その意義や効用が十分に理解されず、9条改憲によって「失われるものの大きさ」が良く分かっていないからです。
 その第1は、憲法9条が戦争加担への防波堤であったということです。安保条約に基づく日米軍事同盟によって日本はアメリカが始めた不正義のベトナム戦争やイラク戦争に協力させられましたが、9条という憲法上の制約があるために全面的な加担を免れました。ベトナムに延べ30万人以上の兵士を派遣して5000人近い戦死者を出し、虐殺事件まで引き起こした韓国とは、この点で大きく異なっています。
 第2に、自衛隊員を戦火から守るバリアーだったということです。安保体制によって自衛隊はイラク戦争に引きずり込まれましたが、「非戦闘地域」で活動した陸上自衛隊は基本的には「戦闘」に巻き込まれず、殺すことも殺されることもなかったのは9条のおかげでした。
 第3に、戦後における経済成長の原動力だったということです。これが「9条の経済効果」であり、平和経済の下で国富を主として民生や産業振興に振り向けることができた結果、一時はアメリカと経済摩擦を引き起こすほどの経済成長を実現することができました。
 第4に、学術研究の自由な発展を促進する力でもあったということです。日本学術会議は9条の趣旨を学術にあてはめて軍事研究を拒否してきたため、兵器への実用化や軍事転用などに惑わされることなく地道な基礎研究に専念し、ノーベル賞並みの研究成果を上げることができました。
 第5に、平和外交の推進を生み出す力だったということです。しかし、残念ながらこれは可能性にとどまりました。日本外交はアメリカの後追いにすぎず、平和な東アジアを構想する力がなく将来のビジョンもうち出すことができなかったからです。9条を活かした「活憲の政府」による独自外交に期待するしかありません。
 今回の参院選は憲法を放棄する「棄憲の国」か、憲法を活かす「活憲の国」かという二つの道の分かれ目にありました。前者は現在の与党と維新などの補完野党による9条改憲によって作られる国であり、後者は立憲野党の連合政権によって築かれる国です。日本の未来を切り開き希望を生み出すのは、後者の道しかありません。そのためのたたかいはこれからも続きます。

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8月12日(金) 参院選の結果と憲法運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕


2 選挙戦の特徴と要因

(1)厳しい情勢と岸田政権の手ごわさ

 以上に見たように、参院選の結果を一言でいえば野党側の自滅と言ってよいものでした。このような結果をもたらした背景と要因は何でしょうか。
 今回の参院選の背景となった情勢はもともと野党にとっては厳しいものでした。野党側はそのような情勢の下での決戦を強いられ、効果的な反撃ができずに自滅したということです。それは、大きく分けて長期・中期・短期の3層構造をなしていました。
 長期的に見れば、第2次安倍政権以降、着々と進行してきた日本社会の右傾化・保守化という問題があります。これは実質賃金の停滞や年金の削減、2度にわたる消費税の増税、アベノミクスと新自由主義政策の失敗、新型コロナウイルス禍による生活苦と営業・雇用の困難などを通じた中間層の没落と貧困化の進展を背景にしたものでした。それは維新の会への支持の増大、NHK党の勃興や今回の選挙での参政党の進出、労働組合・連合の保守化と自民党への接近などの要因にもなっています。
 中期的には、岸田政権の登場とロシアのウクライナ侵略による好戦的雰囲気の拡大、国民の不安の増大と安全保障への関心の強まり、大軍拡・9条改憲の大合唱などを挙げることができます。強権的な安倍・菅政権という前任者とは異なるソフトでリベラルな印象の岸田文雄首相の手ごわさ、内閣支持率の安定と自民党支持率の高さなどに加え、「聞く力」を前面に対立を避け、安全運転に徹して聞き流すだけで何もしない岸田首相の政治姿勢が功を奏したということでしょうか。
 そして短期的には、安倍晋三元首相に対する銃撃と死去という衝撃的な事件の影響があります。参院選投票日2日前の最終盤という微妙な時点で勃発したこの事件によって自民党に同情が集まり、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)の名前が隠され安倍元首相との関係も明らかにされることなく、その死が政治的に利用されたようにみえます。
 序盤で堅調とされていた与党ですが、物価高騰が選挙戦の争点に浮上してくるなかで守勢に回り勢いが弱まっていたのではないでしょうか。それが安倍首相の死によって巻き返しに転じ、自民党は当初の堅調さを回復して勝利したというわけです。

(2) 野党の失敗と混迷

 このように厳しい情勢の下で、ただでさえ弱体化した野党は決戦を強いられました。本来であれば、対抗するための強固な陣形を築くべきだったにもかかわらず、右往左往するばかりでした。「これでは勝てない」と選挙の前からある程度予想できるような対応に終始した結果、負けるべくして負けてしまったようにみえます。
 何よりも大きな問題は、昨年の総選挙の総括を間違えたことにありました。政権との対決の強化と野党間の共闘の再建こそ野党勢力にとって必要な最善の策だったにもかかわらず、その逆を選択してしまったからです。
 総選挙後、自民党やメデイアなどから野党に対して「批判ばかりだ」という批判が沸き起こり、それにたじろいだ国民民主は政権にすり寄りました。当初予算に賛成して内閣不信任案に反対するなど補完政党へと転身したのです。これに引きずられる形で立憲民主も政権批判を手控えて対案路線に転ずるなど、維新の会を含めた翼賛体制づくりの波にのまれていきました。これでは政権の問題点が明らかにならず、与党を追い詰めることもできません。
 加えて、「共闘は野合」「立憲共産党」などの分断攻撃に屈し、連合による揺さぶりによって腰が引けた立憲民主党の執行部は、共産党との連携や野党共闘に対して消極的な姿勢を強めてきました。まさに、自民党の思うつぼにはまってしまったというわけです。
 その結果、32ある一人区での共闘は11にとどまり、たったの4勝に終わりました。こうなることは選挙の前からある程度予想されていたことです。一人区での分裂が自民党に漁夫の利を与えて参院選での勝利をもたらすことは自明でした。
 野党間の共闘に向けて真剣な取り組みを行わなかった立憲民主と、背後から揺さぶりをかけ続けた連合の責任は大きいと言うべきでしょう。形だけの共闘によって表面を取り作ってみても、真剣さが欠けていれば本気の共闘にはならず、力を発揮することができないのは当然です。
 このように、政権チェックという野党の本分を忘れて批判を手控えるという戦術的な失敗と、連合政権を展望した共闘の構築から後退して形だけの選挙共闘に矮小化するという戦略的な混迷に陥った点に大きな問題がありました。この戦術的な失敗と戦略的な混迷こそが、今回の参院選で野党のオウンゴールを生み出した最大の要因だったのです。


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8月11日(木) 参院選の結果と憲法運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は憲法会議の機関誌『憲法運動』第513号、8月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 参院選が終了し、与党の勝利、野党の敗北という結果が出ました。野党にとっては厳しい情勢の下での選挙となり、結果も残念なものとなりました。とりわけ、改憲勢力とされる政党の合計議席が参院での発議に必要な3分の2を超えたことは重大です。
 この結果が憲法の改定を目指す勢力にとっては有利に、改憲阻止を目指す勢力にとっては不利に働くことは否定できません。9条改憲を阻もうとする憲法運動にとっては重大かつ危険な局面が生じ、大きな課題を提起するものとなりました。
 このような結果になった背景としては、新型コロナウイルス感染第6波の収束、ウクライナ侵略による好戦的雰囲気の強まり、大軍拡と改憲の大合唱、岸田政権の支持率の安定と自民党支持率の高さ、野党の分断と一人区での共闘の不十分さがありました。それに加えて、選挙最終盤での安倍晋三元首相への銃撃・殺害による自民党への同情票の増大などがあったと思われます。
 参院選がなぜ、どのようにしてこのような結果になったのか。各党の選挙結果とその意味はどのようなものなのか。それが今後の政治と憲法運動にどのような課題を提起することになるのか。憲法運動はどう対応するべきなのか。以下、これらの問題について検討したいと思います。

1 参院選の結果

(1)勝たせてもらった与党

 参院選での各党の当選者数は、別表(省略)の通りになっています。全体の特徴は「与党が勝利した」というよりも、野党間の共闘の不十分さや乱立による票の分散などで対応を間違え、「野党が敗北した」といった方が良いような形になりました。オウンゴールによって自民党は勝利を「プレゼント」されたのです。
 自民党は選挙区で45議席、比例で18議席の合計63議席となり、改選前から8議席増やしました。今回の選挙で争われた選挙区74議席と比例50議席に神奈川選挙区の欠員を合わせた125議席の過半数を単独で確保し、メディアでは「大勝」「圧勝」などと報じられています。
 しかし、その内実は全く違っています。自民党が支持を増やした結果ではないからです。政党支持の実態が比較的正確に示される比例で昨年10月の総選挙と比べれば165万票も減らし、議席で1議席減となっています。有権者全体の中での支持を示す絶対得票率は16.8%にすぎず、2割を切りました。
 自民党が支持を減らしているにもかかわらず議席を増やした秘密は選挙区にあります。特に32ある一人区では28勝4敗となり、前回より6議席も増やしています。特に沖縄県を除く西日本では自民党が全勝しました。
 公明党は選挙区で現職7人が立候補して全議席を維持しましたが、比例では昨年の総選挙に比べて93万票減らし、1議席減の6議席となって計13議席にとどまりました。支持者の高齢化などに加え、自民との相互推薦の難航が背景にあるとみられています。
 公明党も選挙区では野党乱立の恩恵を受けました。大阪の場合、59万票で最下位の4位当選でしたが、共産・立憲・れいわが調整して一本化すれば65万票となり、当選は難しかったかもしれません。
 
(2) 試練に直面した立憲野党
 
 立憲民主党は神奈川県選挙区での5位補欠当選(任期3年)を含めて選挙区6減の10議席、比例は改選7を維持して合計17議席を獲得しました。改選前からは6議席減ですが、それは全て一人区での敗北でした。一人区では、青森と長野で勝利しただけで、旧民主党の力が強かった岩手と新潟でも議席を失っています。
 一人区での議席減は野党共闘が不十分だったことの結果です。前回は全てで共闘が成立し10勝をあげましたが、今回は11選挙区に限られ、青森と長野、沖縄で当選しただけです。本来であれば、野党第一党として共闘のかなめになるべき立憲民主が十分な役割を果たすことできず、野党支持者の失望を招きました。
 立憲民主の得票は、昨年の総選挙での比例と比べて472万票も激減しています。これは共闘しなければ勝てないことが分かっているのに背を向けた立憲への支持者の怒りの表れではないでしょうか。支持団体である連合の干渉と妨害に屈し、国民民主の与党へのすり寄りに動揺して共闘に積極的に取り組まず、市民と野党の政策合意にしても協定に各党の党首が署名するのではなく口頭での約束にとどまりました。
 日本共産党は東京選挙区で議席を維持しましたが、比例では2議席減の3議席となって合計4議席にとどまっています。昨年の総選挙の比例から55万票も減らし、3年前の19年参院選比例と比べても86万票の減です。
 共産党はその要因について、常任幹部会声明で「指導的イニシアチブを十分に果たせなかった」ことと「自力をつけるとりくみ」の「立ち遅れ」を指摘しています。野党共闘を進めるとともに、共産党の自力を強め支持をどう増やすのか、有事における自衛隊「活用」論についての理解をどう広げていくのかが今後の課題でしょう。
 同時に、東京で示された前進面を学ぶ必要もあります。NHKの出口調査では無党派層の投票先で1位でした。選挙ボランティアに若い人の姿も目立ち、SNS(ネット交流サービス)での情報発信も有効でした。山添拓候補は憲法9条にもとづく平和構築を直球で訴え、ほかの野党との違いを明確にし、大軍拡や9条改憲に反対する都民の願いを受け止め維新を退けて当選することができたのです。
 れいわ新選組も東京選挙区で山本太郎代表を当選させ、比例で2議席を得て合計3議席となりました。若い層や革新無党派層からの支持を広げ、一定の地歩を確保しています。
 社会民主党は比例で福島瑞穂党首が当選して改選前の1議席を維持し、得票率も2%を超えたために政党要件を維持できました。2%に達しなかった昨年の総選挙より24万票増やしたためですが、それは共産支持者による戦略的投票の結果かもしれません。

(3) 存在感を示した補完野党

 日本維新の会は選挙区で4議席、比例で8議席の合計12議席を獲得し、改選前の6議席から倍増しました。特に、比例区では立憲民主党を上回り、野党第一党となって存在感を示しました。
 しかし、東京と京都では次点で落選しています。大阪・兵庫などの近畿以外での当選は神奈川だけでしたが、松沢成文候補は元県知事ですべてが「維新票」とは言えません。基本的に「全国政党」化は成功せず、一時の勢いを失って頭打ちとなりました。
 昨年の総選挙での比例と比べても、20万票ほど減らしています。その支持層の多くは比較的恵まれた現役世代のホワイトカラーなどで、貧困化が進み中間層が没落するなかで不満を強め、将来への不安もあって「改革幻想」に期待を寄せた人ではないかとみられます。その一部は同じような性格のNHK党や参政党に流れたかもしれません。また、維新は暴言やスキャンダルなどが多く、問題候補者の「吹き溜まり」のようになっています。その実態が知られるようになって支持を失っている可能性もあります。
 国民民主党は選挙区で2議席、比例区で3議席の合計5議席を獲得しました。改選前からは2議席の後退です。「対決から解決へ」と言って予算案に賛成し、政権への接近を強めた国民民主の変身は必ずしも効果を生んでいるとは言えません。
 NHK党は82人を立候補させて比例で1議席を獲得し、選挙区・比例とも得票率2%に達して政党要件を維持しました。立花孝志党首は政党助成金目当ての大量立候補を公言し、22年度は2億6000万円が助成されると推計されています。このような立候補が許されるのか、改めて助成金の趣旨に反する問題点を浮かび上がらせました。
 諸派では新たに参政党が比例で1議席を獲得し、政党要件を満たしました。参政党が力を入れて取り組んだユーチューブへの動画投稿などSNSを通じて急速に関心を広げた結果だとみられています。

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8月8日(月) 自民に「漁月夫の利」与えた参院選(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『全国商工新聞』第3517号、8月1日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 分断攻撃に屈し 戦術戦略で失敗

 このような不利な情勢の下で選挙に臨んだ野党でしたが、昨年の総選挙の総括を間違えて戦術的な失敗と戦略的な混迷に陥りました。政権との対決の強化と野党間の共闘の再建こそが必要な策であったにもかかわらず、その逆を選択してしまったからです。
 総選挙後、「批判ばかりだ」という批判にたじろいだ国民民主は「対決より解決」を掲げて政権にすり寄り、これに引きずられた立憲も政権批判を手控えて対案路線を打ち出すなど、維新の会を含めた翼賛体制づくりの波に飲み込まれました。これでは政府・与党を追い詰めることはできません。
 加えて、「共闘は野合」などの分断攻撃に屈し、連合による揺さぶりによって腰が引けた立憲は野党共闘に消極的な姿勢を強め、自民党の思うつぼにはまってしまいました。立憲が比例で大きく得票を減らしたのは、野党共闘の要としての役割を果たせず有権者の失望を招いたからです。
 その結果、32ある1人区での共闘は11にとどまり、自民28勝、野党4勝という結果に終わりました。こうなるのはある程度予想されていたことで、一人区での分立が自民党に漁夫の利を与え、勝利をプレゼントしたのです。共闘に向けて真剣な取り組みを行わなかった立憲と、背後から足を引っ張った連合の責任は大きいと言うべきでしょう。

 「活憲の政府」へ 展望生む運動を

 今後の課題の第1は、コロナ禍と物価高から命と暮らしを守るために、医療体制を整備し、消費税の減税とインボイスの中止などを求めていくことです。新型コロナの第7波が訪れ、値上げの大波が押し寄せてくるのはこれからですから。
 第2の課題は、大軍拡・9条改憲阻止のための憲法闘争です。選挙後、岸田首相は改憲に向けて「できるだけ早く発議」することを強調していました。戦争に巻き込む安保体制とそれへの防波堤となってきた憲法9条の相互関係、9条改憲によって「失うものの大きさ」と「招き寄せるリスクの危うさ」を、事実に照らして説得的に訴えることがますます重要になります。
 第3の課題は、野党共闘を再建することです。きちんとした総括と反省の上に立って、草の根から立て直していかなければなりません。
 これらを通じて、憲法に寄り添い活かせる「活憲の政府」に向けての展望を生み出すことが第4の課題です。国政選挙での審判を受けることのない「黄金の3年間」を許さず、自民党と旧統一協会の闇の解明などによって早期に与党を追い込んで、解散・総選挙を勝ち取りましょう。

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8月7日(日) 自民に「漁夫の利」与えた参院選(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『全国商工新聞』第3517号、8月1日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

消費税減税、憲法闘争広げ
共闘再建で解散総選挙早く

 日本の命運をかけた参院選が終わりました。新型コロナ禍や物価高などによって傷ついた国民生活をどう立て直すのか、ロシアによるウクライナ侵略を受けて日本の安全保障をどうするのか―などが大きな争点となった選挙でした。
 選挙結果は与党が過半集を維持して勝利しています。自民党は改選過半数の63議席を確保し、1減で13議席となった公明党と合わせて76議席になりました。しかし、自民党は比例で昨年の総選挙から165万票も減らし、有権者全体の中での絶対得票率は16.8%でした。支持を減らしているにもかかわらず、一人区で議席を増やして勝たせてもらったのです。
 憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」は179議席となり、発議に必要な3分の2である166議席を上回りました。
 対する野党は、立憲民主党が選挙区で6減の10、比例は改選7を維持して17議席、維新の会は選挙区で1増の4,比例は5増の8となって12議席に倍増しました。比例では立憲を上回って野党第一党となっています。
 日本共産党は東京で1議席を得たものの比例では2減の3となって合計4議席、国民民主党も改選7から2減の5議席、れいわ新選組は3議席、社民党は1議席を得て得票率が2%を超え、政党要件を維持しました。このほか、NHK党と諸派の参政党がそれぞれ比例で1議席を得ています。

 野党不利の情勢 銃撃事件加わり

 野党が敗北した理由の一つは、厳しい情勢の下での選挙だったということにあります。事前の選挙予測でも与党の堅調が伝えられていました。
 その第1は、安倍内閣以降、顕著になってきた日本社会の右傾化や保守化の流れがあります。実質賃金の低下や2度にわたる消費税の増税、新型コロナ禍での生活苦や営業の困難などによる中間層の没落、貧困化などからくる不満や不安が未来志向の「改革」幻想に期待を寄せ、維新の会やNHK党、参政党への支持増大、連合の保守化などをもたらしました。
 第2は、岸田政権の登場とロシアのウクライナ侵略による好戦的雰囲気、安全保障への関心の強まりと大軍拡・9条改憲の大合唱などです。ソフトな印象の岸田首相の手ごわさ、内閣支持率の安定などに加え、「聞く力」を前面に対立を避け、安全運転に徹して聞き流すだけで何もしない岸田首相の政治姿勢が功を奏しました。
 そして第3には、安倍元首相に対する銃撃死という衝撃的な事件の影響があります。投票日2日前に勃発したこの事件によって自民党に対する同情が集まり、物価高対策で失った支持を盛り返したのではないでしょうか。
(続く)



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8月4日(木) 参院選の結果とたたかいの課題 [論攷]

〔以下のインタビュー記事は安保破棄中央実行委員会の機関紙『安保廃棄』第495号、8月号に掲載されたものです。〕

 改憲と大軍拡を止めるために何が必要か

◇今回の参議院選挙の結果をどのように見られますか。

 自民が支持減らして勝った理由

 五十嵐 自民党は勝ったというより勝たせてもらった、野党が負けたといったほうが良いのではないでしょうか。野党側のある種の“オウンゴール“だったと思います。自民党は支持を減らしたのに全体としての議席を増やし、改選過半数を獲得しました。その結果、公明党が1議席減らしたのに与党議席で参議院の多数を維持することができたのです。
 しかし、自民党の比例票を昨年の総選挙と比較すれば165万票も減っています。議席も1減っており、有権者比の絶対得票率は16.8%にすぎず2割未満です。
 自民党は支持を減らしていたのに、なぜ議席を増やすことができたのか。それは野党が1人区で「1対1」の構図に持ち込むことができず、自民党が28勝4敗と圧勝したからです。
 立憲民主は野党第1党として野党をまとめて自民党と対抗する陣立てをつくる責任がありました。しかし、共闘に対して後ろ向きで十分な役割を果たすことができませんでした。そのために期待を裏切って信頼を失い、とくに1人区で勝てず、大きな敗北を喫しました。共産党は比例で総選挙から56万票減らし、議席も6から4に後退しています。維新が議席を増やしたのは、生活苦に不満を持つ中間層の受け皿になったからではないでしょうか。

◇野党が前進できなかった原因はどこにあると思いますか。

 政権すり寄りで野党共闘が後退

 五十嵐 端的にいえば、総選挙の総括を間違えたからです。その結果、とるべき方針とは逆の方向を選択してしまった。戦術的失敗と戦略的混迷です。
 戦術的失敗というのは、「野党は批判ばかり」という批判にたじろいでしまったことです。国民民主の場合は「対決よりも解決」として政権にすり寄り、立権民主も「対案路線」に転換し、選挙前の通常国会では政権批判を十分展開できませんでした。結局、「翼賛体制」づくりの波に呑まれたということです。これでは政権を追い込めません。
 2つ目の戦略的混迷とは、野党共闘の重要性を理解できなかったということです。野党共闘の意味は、当面の選挙で勝つための戦術というレベルにとどまりません。政権交代を単独で実現できない以上、立権・共産・社民・れいわの立憲野党による連立政権を戦略目標として追求するしかありません。この点で腹をくくらなければならなかったにもかかわらず、その位置づけが不十分で共闘に腰が引けたまま本気の取り組みができませんでした。
 総選挙の時は市民連合を仲立ちにして政策協定を結び、各党首が署名しました。しかし、今回は口頭了解で、32の1人区のうち、ようやく実現した11選挙区での共闘も形だけにとどまりました。複数区でも、野党が共闘すれば勝つ可能性がありましたが、それを汲みつくせず、野党は負けるべくして負けたと言えます。
 
◇選挙後の岸田政権の特徴とたたかいについて。

 改憲・軍拡が容易ならざる局面

 五十嵐 容易ならざる危険な局面に立ち至ったと思います。
 昨年の衆議院選挙で改憲議論に反対しない勢力が3分の2を超えていますし、今回の選挙でも、自民・公明・維新・国民民主が3分の2を大きく超えました。
 昨年の総選挙以降、衆議院の憲法審査会では予算審議と併行して議論したり、毎週議論したり、自民党の改憲4項目についても議論するなど、暴走が始まっています。今後は衆議院と歩調を合わせて暴走する危険性があります。自民と維新、公明と国民の間の違いがありますが、今後は改憲発議に向けて動き出す可能性もあり、それを阻止する運動が重要になってきます。
 また、岸田政権は年内に改定される国家安全保障戦略など3文書に大軍拡方針を書き込むこと、来年度予算に向けて軍事費を増やし、5年以内にGDP比2%、11兆円にまで増大することをめざしています。「反撃能力」=「敵基地攻撃能力」保有は、国連憲章の禁止する先制攻撃につながります。軍拡競争の激化を招くことは確実です。

 9条の役割を歴史に即し明確に

 この問題で大事なのは、憲法9条のありがたさ、これを変えることで失うものの大きさを説得的に発信することです。憲法9条は戦争に巻き込まれることを防ぐ「防波堤」です。逆に、安保条約=日米軍事同盟は日本を戦争に引き込む「呼び水」でした。
 その実例は、アメリカが始めた不正義のベトナム戦争やイラク戦争です。安保があるために日本は協力させられましたが、憲法9条があるために全面的な参戦は求められませんでした。ベトナムに自衛隊を送らなかったことは非常に大きなことです。韓国は延べ30万人の兵士を送り、5千人近い若者が命を失っています。日本は憲法9条の制約によって、このような悲劇をまぬかれました。
 イラク戦争で自衛隊はイラクに派遣させられましたが、サマワで陸上自衛隊は給水や道路補修などに従事して戦闘には加わっていません。殺すことも殺されることもなかった。イラクに行った自衛隊は9条のバリアーに守られていたのです。9条を変えることはこのバリアーをなくすことになります。このことを国民に思い出してもらうことが大切です。

 米軍基地・安保のない構想を

 沖縄の米軍基地も日本や沖縄にとってだけでなく、アメリカにとっても無いほうが良かったのです。ベトナム戦争でアメリカの若者が5万8千人も亡くなっています。アメリカはトンキン湾事件をでっちあげてベトナムに軍事介入しましたが、ベトナム戦争で国際的地位を低下させ、ドルの支配力を弱め、多くの若者を失いました。
 沖縄の基地がなければベトナム戦争に介入していなかったかもしれません。あれだけ長く続けられなかったかもしれない。アメリカは基地があったから、戦争という強硬手段に出てしまった。
 いま、アメリカが中国包囲網を強めて「台湾有事」が危惧されています。この問題でも、沖縄や南西諸島に米軍や自衛隊の基地が無いほうが良いのです。アメリカが始めるかもしれない戦争にブレーキがかかるからです。近くに基地があるからということで戦争を始められたら大変なことになります。戦争しにくい状態をつくっておくことこそが戦争を防ぐことになります。この点でも、沖縄の基地を1日も早く撤去することが重要です。
 日本は、本来であれば憲法9条に基づいて平和外交ビジョンを示さなければなりませんでした。それは、①必要最小限の防衛に徹して海外派兵を行わない、②軍事同盟に加盟せず外国の軍事基地を置かない、③仮想敵国をつくらず、対立する国のどちらにも加担しない、④東南アジアの非核武装地帯を東北アジアにも拡大する、⑤すべての国を含む集団安全保障体制を東アジアに構築するというものです。
 このようなビジョンの実現をめざして安保条約のない平和構想を示さなければなりません。それが9条改憲を許さない世論作りにも、大きな力になると思います。


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6月16日(木) 改憲阻止へ、学んで伝え、伝える言葉を選び、伝える手段の工夫を! [論攷]

〔以下の記録は5月15日に開催された茅ヶ崎革新懇主催の「春の政治教養講座」での講演の要旨をまとめたものです。『神奈川革新懇ニュース』NO.247 、2022年6月号、に掲載されました。〕

 軍事力に依存すれば結局は安全を損ねる

 ロシアによるウクライナに対する明らかな侵略が行われている。この時にプーチンが使った口実が、ウクライナがNATOに入ろうとしていることだった。
 国連憲章は、加盟国に対し、主権の尊重、領土の保全、武力行使の禁止を義務付けている。本来、国の在り方は主権者であるその国民が決めることであり、外国は干渉してはならない。ところがプーチンは、軍事力でウクライナに干渉し、占領して、民間人まで殺戮した。理由はどうあれ、プーチンのこの行為は許されることではない。
 ウクライナがNATOの軍事力に頼って安全を確保しようという行為が、逆に侵略を狙っている周辺国に口実を与え、侵略を引き寄せた。軍事による安全を求めても、逆に安全を損ねて侵略を呼び寄せる、一種のパラドックス(逆説)が生じた。これが安全保障のジレンマというものだ。武力を強化すればするほど周辺国が警戒心を高め、軍拡競争を引き起こし、逆に緊張が高まり危険になる。このことは教訓として記憶しておく必要がある。
 ロシアは圧倒的な軍事力をもっているが、それでもウクライナ侵略戦争は2か月以上たった今も続いている。アメリカはベトナム戦争で大規模な侵略をしたが、結局は撃退された。他国に軍隊を送って仕掛けた戦争は成功しない。侵略はますます困難になっている。これが歴史の教訓だ。
 かつてベトナム戦争で失敗したアメリカは、ドルの価値を大きく低下させ、ドル支配が破綻した。アメリカ国内の反戦運動も招いた。ロシアはこれから同じように経済危機を招くだろう。道徳的な敗北による国際的な威信低下は避けられない。いずれロシア国内で戦争を忌避する動きが強まり、国際的な反戦運動や包囲網と結び付いて戦火が収まることを期待したい。

 危機便乗型改憲策動を打ち破る憲法闘争を

 ウクライナ侵略で軍事力依存の危険性が目の当たりになった。それにもかかわらず、自公政府はこれを好機と軍事には軍事との好戦的雰囲気を盛り上げ、安全保障を前面に出して軍備の拡大、憲法改悪へ向けた動きを強めている。敵基地攻撃能力の保有、軍事予算の倍増、内閣は否定するものの自民党内では核共有待望論まで出ている。
 「敵基地攻撃能力」は誤解を招くとして、自民党の安全保障調査会は「反撃能力」と言い方を変えた。今のミサイルは進化していて、発射されたら迎撃が難しい。だから、ミサイルを発射される前に敵基地を攻撃しなければと考えているのだ。「攻撃」される前に「反撃」だなんて、日本語が分かっているのか。
 ロシアによるウクライナ侵略という惨事に乗じて、軍事には軍事との好戦的雰囲気を盛り上げ、改憲を一挙に進めようとしている。憲法9条は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」としている。
 ロシアに9条があれば、プーチンは戦争できなかった。ウクライナにも他国に軍事的脅威を与えないという9条があれば、プーチンに侵略の口実を与えなかったはずだ。軍事的な威嚇により互いに隙を伺うのではなく、信頼によって周辺の国との関係を保てば戦争にはならない。
 周辺国との平和な関係を保つ努力を放棄して、抑止力なる危険なパラドックスを信じていては平和を保つことはできない。日本には9条という政治資産がある。軍事費が抑えられてきたという経済効果、平和国家というブランドの効果がある。世界各地で人道支援に携わり、日本は信頼されてきた。
 ウクライナ戦争が契機になって安全保障に対する国民の関心が高まっている。だからこそ平和憲法の意義と9条の価値を知らせていくことが重要だ。国会で改憲勢力に3分の2の多数を与えず、憲法の書き換えを阻止するだけでなく、憲法に沿って現実を変えていく。憲法違反を許さない政府を作っていく。これらの努力を多面的に進めていかなければならない。

 参院選の特別の意義と活憲政府へ

 日本政府は極端な対米従属で自主性がない。ところが、そのアメリカは中南米、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン侵攻など、戦後は間違い続きの戦争をしてきた。「台湾有事」も懸念される。   アメリカの言うままに戦争の手伝いを続けても良いのだろうか。
 国内政治でも、岸田首相は当初こそ、貧富の差の拡大を問題にし、新自由主義からの転換や金融所得課税などを掲げていたが、つぎつぎと撤回し現状を追認している。「新しい資本主義」と言わざるを得なくなったのは、「古い資本主義」が行き詰まったからだ。しかし、今の危機を乗り越える力はない。
 次の参院選では、壊れ始めた日本にストップをかけ憲法を活かす野党連合政権の樹立へと流れを変えなければならない。市民を介しての立憲野党間の共闘再建を果たし、1人区での統一、草の根の力を発揮した複数区での躍進を実現させよう。
 何もしなければ何も始まらない。既成事実に屈せず、声を上げれば変わるという確信を持ち、学んで伝える。伝わる言葉を選び、伝える手段を工夫する。個人で多くの人に発信できるネットとSNSの活用を進めよう。参院選の公示まで時間が短くなったが、諦めず努力を続けましょう。
(文責編集委員会)


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6月6日(月) 参院選の意義と民商・全商連への期待(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊民商』No.745 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

3, 生活と営業を守るのか壊すのか―命と暮らしをめぐる対決

 コロナ禍が露わにした新自由主義の害悪

 中小業者にとって参院選での最大の争点は、何といっても生活と営業を守るのか、壊してしまうのかという問題です。コロナ禍が明らかにしたことは、まともな政権でなければ命も商売も守られないということでした。まさに命と暮らしをめぐる対決が、真正面から問われることになります。
 感染拡大への対策の遅れが国民生活を深刻な状況に追い込んできました。今後も新たな感染拡大に備えての医療体制の確保と対策が必要です。そのためにも、安倍内閣以降の対策がきちんと検証されなければなりません。
 とりわけ第6波ではPCR検査やワクチン3回目接種の遅れなどが繰り返され、成り行き任せで後手に回った不手際が目立ちました。自宅療養者も急増し、「医療崩壊」が生じました。病気になっても入院できずに自宅で死を待つなどということがあってよいのでしょうか。
 新自由主義的な政策のもとで医療や公衆衛生が切り捨てられてきた害悪が露呈しました。地域医療構想によって急性期病床削減を進めようとしているのは本末転倒です。社会保障の改悪を防ぎ、医療・介護や保健所機能の強化など、感染症対策の拡充を迫っていかなければなりません。

 押し寄せてきた物価高騰と「四重苦」

 コロナ感染が収束しきらず経営危機が深まるなか、収入が増えない下での急激な物価高騰という新たな危機が押し寄せてきました。その背景にはコロナ禍による物流の混乱とその後の需要の高まり、ロシアのウクライナ侵略と経済制裁による資源不足などがあります。そして、もうひとつ重要な要因となっているのが、日銀の「異次元の金融緩和」による急激な円安です。
 東京外国為替市場で約20年ぶりの円安水準になりました。その原因は日米の金利差の拡大です。アメリカがインフレ対策のために金利の引き上げを行う一方で、日銀は超低金利政策を維持しているために円が売られやすくなっているからです。
 しかし、日銀の黒田総裁は安倍元首相に遠慮して、アベノミクスの3本柱の一つであった「異次元の金融緩和」を止めることができません。参院選では、このような政策を転換して経済と国民生活の危機をどう克服するのかが鋭く問われることになります。
 消費税の引き上げ、コロナ禍による経営危機、急激な物価高、そして来年秋からはインボイス制度が始まります。まるで「四重苦」ではありませんか。81の国と地域が「付加価値税」(消費税)の減税を実施または予定しています。日本でも消費税の減税、内部留保への課税、累進課税の強化などをめざさなければなりません。希望の持てる経済社会の実現に向けて、経済と暮らしの問題が参院選での重大な対決点になろうとしています。

4, 野党共闘の分断か再建か―危機打開に向けての対決

 翼賛体制の打破と野党共闘

 参院選は昨年秋に発足した岸田政権に対する中間評価の機会でもあります。岸田首相は「聞く耳」を売り物にリベラルな装いで登場しましたが、本質的には安倍・菅政権と変わりません。それどころか改憲・軍拡路線ではより積極的で、危険な姿勢を強めています。
 このような岸田政権の本質は十分に知られず、内閣支持率は比較的高いまま安定しています。維新の会は改憲を焚き付け、国民民主党は当初予算案に賛成するなど、自公政権にすり寄っています。労働組合の連合も反共姿勢を強めて自民党への接近を図ろうとしています。
 このような翼賛体制の形成を阻止し、野党共闘を再建する足掛かりを生み出すうえでも、参院選は重要な機会になります。昨年の総選挙では共産党を含む野党共闘が初めて政権にチャレンジして59選挙区で勝利し、33選挙区で接戦に持ち込むなどの成果を上げました。その教訓に学びながら、次の総選挙で政権交代に再挑戦できる条件を生み出すことが必要です。

 野党共闘の再構築を

 野党共闘を破壊し、その力を弱めようとする分断攻撃は総選挙後も続いています。連合政権樹立への道を切り開くためには参院選でそれを打ち破り、改憲派3分の2を阻止しなければなりません。国政選挙のない「黄金の3年間」での改憲発議を抑え込むためにも。
 野党の勝利にとって不可欠な条件は1人区での一本化です。32ある1人区で野党が競合している現状を打開し、共闘を実現する必要があります。野党の分断と競合は自民党を利するだけだということは明らかなのですから。
 立憲野党は政策の面でも自公政権とは異なる明確な選択肢を提供する必要があります。自民党にすり寄って翼賛体制づくりに手を貸している維新や国民民主党には、そのような選択肢を示すことはできません。新自由主義的なタカ派路線という本質では変わりありませんから。
 さまざまな障害をのりこえて候補者と政策の両面で与野党対決の構図を作り出し、共闘の力で立憲野党の勝利をめざすことが必要です。一致した政策の実現を追求する共闘の前進こそ、連合政権樹立の足掛かりをつくり出すにちがいないのですから。

 むすび――中小業者、民商・全商連への期待

 全商連は昨年、創立70周年を迎えました。コロナ禍で中小業者は事業継続の危機に瀕し、命と生活を守るために苦闘を重ねています。中小業者の社会的・経済的地位の向上を目指して活動してきた民商・全商連の存在意義と活動の重要性は、これまで以上に高まっています。
 民商・全商連は「平和でこそ商売繁盛」を信条として活動してきました。これはウクライナ侵略の下で一段と切実なものとなっています。ウクライナでの戦争とロシアに対する経済制裁によって原油や天然ガスなどのエネルギー資源、小麦や材木、希少鉱物などの原材料の輸入が途絶え、その影響もあって急激な物価高となっているからです。
 戦争が長引けば、このような資源不足や物価高はさらに深刻な悪影響をもたらすにちがいありません。まさに「平和でなければ商売ができない」ということが実感される事態となりました。
 平和と安全を守るためにも、改憲と軍拡をめざし国民の命と暮らしを危険にさらす岸田政権に「ノー」を突きつけなければなりません。中小業者の苦難に立ち向かってきた民商・全商連の70年に及ぶ経験と運動を継承・発展させ、皆さんが参院選で大きな役割を果たして野党連合政権に向けての展望を切り開かれることを期待しています。「平和でこそ商売繁盛」なのですから。


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6月5日(日) 参院選の意義と民商・全商連への期待(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊民商』No.745 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 7月に予定されている参院選が間近に迫ってきました。参院選は3年ごとに繰り返される国政選挙で、選挙の結果、政権が交代することはありません。しかし、今回の参院選はこれまでになく大きな意義を持ち、重要な選択が問われます。
 何よりも、ロシアによるウクライナへの侵略戦争が始まった後の選挙で、戦争か平和かという選択が問われることになります。これを契機に改憲機運を高め、軍事大国化への扉が開かれようとしています。憲法9条を変えるのか守るのかという選択肢も急浮上してきました。
 同時に、コロナ禍によって国民は疲弊し、急激な物価高騰の下で生活と営業はかつてない危機に瀕しています。健康と命、生活と営業を守るためにどうするべきかが明らかにされなければなりません。
 発足から約半年が経過した岸田政権は、これらの問題に対して効果的な対応を行ってきませんでした。しかし、内閣支持率は安定し、野党の足並みは乱れています。困難を打開し、立憲野党の勝利によって連合政権樹立への足掛かりを築くことも参院選の大きな課題になっています。

1, 戦争か平和か―ロシアによるウクライナ侵略の教訓

 武力対武力の罠にはまるな
 
 ロシアによるウクライナへの侵略は戦争の悲惨さ、むごさを改めて明白にしました。この戦争は「主権の尊重」などを義務づけた国連憲章や国際法に反する明確な侵略行為であり、一般の施設や民間人に対する無差別の攻撃は国連人道法に反する戦争犯罪です。核使用の恫喝によって核兵器は抑止力どころか威嚇の手段であることも明らかになりました。
 ウクライナでの惨劇を引き合いに出して「戦争になったらどうするのか」と問う政治家がいます。このような人を信じてはなりません。本来、問うべきなのは「戦争にしないためにどうするのか」ということであり、そのために知恵と力を尽くすことこそ政治家の仕事なのですから。
 どのような理由があっても、戦争を始めてはなりません。武力に対して武力で対抗しようとすれば、軍拡競争の悪循環に陥り対立を激化させます。重要なのは戦争を避けるためにあらゆる外交努力を行うことであり、最善の解決策は信頼を高めて緊張を緩和することです。
 相手より強い武力を持てば抑止できると考えて軍拡や軍事同盟に頼れば逆効果になり、緊張を高めて安全を損なってしまいます。すでに日本はこのパラドクス(逆説)の罠にはまりつつあります。大軍拡と日米軍事同盟の強化を図り、周りの国々の警戒心を高めて安全保障環境をますます悪化させているのですから。

 火事場泥棒的軍拡論

 ウクライナでの戦争によって国民が不安を抱き、安全保障への関心を高めているのは当然です。しかし、それを政治的に利用して持論を押し付けるような対応は許されません。このような火事場泥棒的軍拡論の典型が安倍晋三元首相の発言や自民党安保調査会による提言です。
 この提言は相手国のミサイル発射拠点などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、防衛費を国内総生産(GDP)比2%の11兆円以上に増額するよう要請しました。攻撃対象は「敵基地」にこだわらず「指揮統制機能等」も含むとしています。
 攻撃される前に「反撃」するなどというのは、大きなごまかしです。先制攻撃を正当化するための屁理屈にすぎず、「専守防衛」に反する明確な憲法違反です。攻撃的兵器の保有は軍拡競争を引き起こし、「自衛のための必要最小限度」を超えるのは確実です。
 安倍元首相や維新の会は「核共有」論まで主張しています。これは非核三原則、核の平和利用を定めた原子力基本法、核兵器の移転などを禁じた核拡散防止条約などに反し、核兵器禁止条約にも逆行する暴論です。米軍基地や自衛隊基地に核貯蔵施設が作られれば最初に攻撃目標となり、有害でしかありません。

2, 改憲か活憲か―憲法をめぐる対決

 9条改憲の新局面

 ウクライナでの戦争に便乗する形で、憲法9条に対する攻撃も強まってきました。憲法を変えるのか守るのか。9条をめぐる対決も参院選における大きな争点になります。
 昨年の通常国会で国民投票法が改定され、歯止めの一つが取り除かれました。総選挙で維新の会と国民民主党が議席を増やして改憲を煽るなど、野党内での歯止めも弱くなりました。動揺した立憲民主党が妥協的になって共産党が孤立し、憲法審査会がほぼ毎週開かれています。
 このような局面が訪れているなかでロシアによるウクライナ侵略が起こり、これを利用した改憲論も強まりました。容易ならざる情勢の下で、好戦的な方向での新たな危機が生じていることになります。国民の不安に応える形で憲法9条の意義をわかりやすく示していくことが、これまでになく重要になっています。
 同時に、憲法を変えればどうなるのか、具体的に示していくことも必要です。自衛隊を明記する目的は「国軍化」を実現し、アメリカによる対中国戦略の前線に立たせることにあります。緊急事態条項の新設は政府の緊急政令によって国会を無力化するためです。その狙いは戦争と独裁であり、日本を「戦争する国」に変えることにあります。

 9条でしか日本は守れない

 憲法9条は二度と再び日本の側から他国を攻撃したり戦争に加担したりすることはないという国際社会に対する誓いであり約束です。それを変えれば「いよいよ日本も戦争に乗り出すのか」と周辺諸国に警戒され、国際社会での立場を悪くすることは明らかです。
 極超音速ミサイルや巡航式長距離ミサイル、多弾頭化や変速軌道の採用など、急速度の技術開発によって軍事的な防衛は極めて困難になりました。日本を軍事力で守ることはできません。戦争してはならないだけでなく、戦争できない国だからです。
 日本の食料の自給率は37%で、エネルギー自給率は12%にすぎません。周りを海に囲まれていますから、輸送が途絶えればお手上げです。中国との相互依存度も高く、輸出入総額の24%で第1位ですから戦争などとんでもありません。
 現状の2倍以上もの大軍拡に転ずれば「9条の経済効果」が失われます。軍事ではなく民生に富をつぎ込んできたからこそ、戦後の経済成長が可能でした。それが失われれば国民の生活と社会・経済活動が破壊され、外から攻められる前に内から自壊することになりかねません。だからこそ、こう言わなければならないのです。「9条でしか日本は守れない」と。


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5月23日(月) 岸田政権の性格と参院選の争点―何が問われ、何が訴えられるべきか(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.826 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

3, 危機便乗型改憲論と憲法の危機

 侵略に悪乗りした改憲論

 ロシアのウクライナ侵略に悪乗りして、軍備拡大や日米軍事同盟のさらなる強化、自衛隊の海外での武力行使を可能にする改憲を主張する動きが強まっています。岸田首相は自民党大会で日米軍事同盟と防衛体制の強化を強調するなど、改憲姿勢では前任者以上の積極姿勢を示しました。
 自民党や日本維新の会などからも、中国の脅威を強調し、核兵器共有や非核三原則の廃止、専守防衛の見直しなど、憲法9条を大きく逸脱する主張が出てきています。自民党の安全保障調査会の提言は、敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」と変え、攻撃対象に「指揮統制機能等」も含めることを求めています。
 防衛費についても、国内総生産(GDP)比2%以上をめざすとしています。現状は約1%で5.4兆円ですから、11兆円もの巨額になります。この提言を受けて、岸田政権は年内に改定する外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」など3文書の検討を開始しました。
 専守防衛の国是を踏みにじり、全面戦争を想定した無謀な大軍拡に突き進もうというわけです。そのために、歯止めになっている9条の縛りを解こうというのが惨事便乗型改憲論の狙いです。戦争か平和かをめぐる激動の情勢のもとで迎える参院選は、東アジアと日本の命運がかかった重大な選択が問われることになります。

 新たな局面の展開

 岸田首相は、自民党の「憲法改正推進本部」を「実現本部」に改め、タスクフォースを立ち上げて全都道府県連で少なくとも1回の集会を開くことを打ち出しました。憲法審査会を舞台にした発議に向けての準備だけでなく、本腰を入れて世論工作を始めています。
 総選挙の結果、日本維新の会と国民民主党が議席を増やして改憲に前のめりとなり、国民投票の手続きを定めた国民投票法が改定され、立憲民主党が妥協的な対応を示し始めました。改憲発議に向けて、これまでにない危険な局面が訪れています。
 しかし、このような動きは国民の意識を反映していません。NHKが昨年の衆院選に際して調査した最も重視する選択肢は「経済・財政政策」が34%、「新型コロナ対策」が22%などで、「憲法改正」は最も少ない3%にすぎませんでした。国民は「憲法改正」を望んでいるわけではないのです。
 参院選で、自民党は憲法を主要な争点の一つにしようとしています。「改憲ノー」の世論を高めて改憲勢力を3分の2以下に減らすことは差し迫った課題になっています。

4, 危機の克服と野党共闘

 活憲の政府に向けて

 参院選では、生命と生活の危機、平和と安全の危機、大軍拡と憲法の危機をどのようにして克服するのかが正面から問われることになります。気候危機打開に向けての取り組みやジェンダー平等の実現なども重要な争点になるでしょう。昨年秋に発足した岸田政権に対する中間評価の機会でもあります。
 岸田首相はリベラルで軽武装、経済主義という衣をまとって登場しましたが、単なる幻想にすぎません。違って見えても、安倍・菅政治と中身は同じだからです。改憲・軍拡路線を一段と強め、異なったやり方で実行しようとしているだけです。
 岸田政権の本質を明らかにし、憲法の理念や原則に沿った活憲政治を実現しなければなりません。このような新しい希望の政治を生み出すことができる唯一の手段が、野党連合政権の樹立です。
 昨年の総選挙では共産党を含む野党が市民と手を結び、初めて政権にチャレンジする選挙を闘いました。野党共闘は59選挙区で勝利し、33選挙区で接戦に持ち込むなどの成果を上げましたが、全体として前進できませんでした。共産党を含む共闘の力に恐れをなした自公政権が反共攻撃などによって必至に巻き返し、一部の補完勢力が加担したからです。
 野党共闘を破壊し、その力を弱めようとする分断攻撃は総選挙後も続いています。連合政権樹立への道を切り開くためには、参院選でそれを打ち破り、立憲野党の勝利を確かなものとしなければなりません。国政選挙のない「黄金の3年間」での改憲発議を抑え込むためにも。

 野党共闘の再構築

 野党の勝利にとって不可欠な条件は、1人区での一本化です。32ある1人区のうち10以上で野党が競合している現状を打開し、共闘を実現する必要があります。野党の分断と競合は自民党を利するだけだということは明らかなのですから。
 総選挙の結果、立憲民主党の党首が交代し、国民民主党が改憲論議に積極的になって政府予算案に賛成するなど、野党共闘に新たな困難が生じました。また、労働組合の連合が自民党との接近を強めるという変化も起きています。
 そのようななか、立憲民主党の泉代表が共産党、社民党、れいわ新選組に対して1人区での候補者調整の申し入れをおこない、市民連合は「政策調整と候補者一本化」などを求める要望を5党(立憲、国民、共産、社民、れいわ)2会派(沖縄の風、碧水会)に行っています。
 立憲野党は政策の面でも自公政権とは異なる明確な選択肢を提供する必要があります。自民党にすり寄る維新の会や国民民主党には、そのような選択肢を示すことはできません。新自由主義的なタカ派路線は同じですから。
 さまざまな困難や障害をのりこえ、候補者と政策の両面で与野党対決の構図を作り出し、共闘の力で立憲野党の勝利をめざさなければなりません。一致した政策の実現を追求する共闘の前進こそが、参院選後の解散・総選挙を実現し、連合政権樹立の足掛かりをつくり出すにちがいないのですから。

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