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5月27日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月26日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「常軌を逸した自画自賛 解散風を煽っているのは岸田首相の高揚」

 24日の集中審議でも、解散に関する質問が頻発。そのたびに岸田は「今は解散等については考えていない」という常套句を口にするのだが、支持率も株価も上がっている「今なら確実に勝てる」と、早期解散を望む声が自民党内で大きくなっている。

■「指摘は当たらないと強気一辺倒

 「サミットが評価されて支持率が上がったことと、衆院解散はまったく別の話です。賛否両論あるテーマについて国会での議論を深め、争点を示して国民に聞くのが本来の解散総選挙のあり方でしょう。岸田政権が推し進める大軍拡や、そのための財源確保法案がちょうど国会で審議中なのだから、徹底審議した上で国民に信を問うなら分かります。しかし、岸田首相は何を聞かれてもマトモに答えようとはしない。それでいて、4年間の衆院議員任期を2年以上も残しているのに、与党側の都合で勝てる時に選挙をやるというのは筋が通りません。あまりに国民をバカにしています」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 24日、防衛費増額のための財源確保法案が参院で審議入り。野党から「増税などの国民負担を強いる方針を国会審議を経ず決めた」「憲法をないがしろにしている」などと追及された岸田は、ことごとく「指摘は当たらない」と突っぱね、サミットの成果を誇った。異様なまでの興奮、全能感。この強気の姿勢が、解散風を煽るのだ。

 「被爆地で開催されたサミットで核抑止を正当化し、ウクライナへの戦争支援を大々的に発信するなんて、ヒロシマを冒涜しているとしか思えません。しかし、中央メディアの記者はサミット期間中だけ現地について行って、政府関係者から聞いた手柄話を垂れ流すわけです。政権の思惑通りの提灯報道が支持率を上げ、解散風を後押ししている。欺瞞に満ちた広島サミットを検証したり、サミットの勢いを借りて解散に突き進むことを戒めるべき大メディアが政府の広報機関になってしまっています。その方が売れるからといって、メディアが一斉に政治と同じ方向に走ることは、国民から判断材料を奪うことになり、実に危うい。サミット成功だから解散という無理筋の理屈が幅を利かせる現状では、ジャーナリズムの役割も問われています」(五十嵐仁氏=前出)

 戦時中もそうだった。戦争を正当化する軍部に同調する世論が高まると、当初は批判的だった大新聞も迎合して大本営発表を垂れ流すようになり、それに呼応した国民がさらに戦争を支持する。そういう負のサイクルから抜けられなくなった末の敗戦だったのではないか。メディアが権力監視の役割を見失えば、国全体が誤った方向に進んでしまう。そのツケを負うのは結局、われわれ国民だということを忘れてはいけない。


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5月26日(金) ウクライナ戦争に便乗した「新たな戦前」を避けるために──敵基地攻撃論の詭弁と危険性(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.838、2023年6月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 「防衛」ではなく集団的自衛権行使のため

 このような政策転換は、日本を「防衛」するためのものではありません。そもそも、今回の「安保3文書」によって名指しされ「懸念」が示されている中国・北朝鮮・ロシアは、日本を攻めると公式に表明したことは一度もなく、これらの国を「仮想敵国」とする根拠はありません。
 それどころか、中国との間では1972年の共同声明で「唯一の合法政府」と認め、2008年の共同声明などでも「たがいに脅威とならない」ことをくり返し確認してきました。北朝鮮も米朝首脳会談中はミサイルを発射せず、核実験を中断していました。ロシアとの間では北方領土問題での交渉や経済協力がなされてきたのは周知の事実です。これらの交渉や対話をなぜ継続したり、再開したりしないのでしょうか。
 政策転換の目的が日米同盟の強化であり、アメリカの対中戦略の転換に伴って最前線となった日本が集団的自衛権を行使できるようにするためだからです。「私は、小泉純一郎内閣の時に集団的自衛権の行使容認を何とか実現できないかと思っていたのです。小泉首相に、05年の郵政民営化関連法が成立した後、残り任期の最後の1年で行使容認をやりましょう、と言ったら、小泉さんは『君の時にやれよ』と仰った」(『安倍晋三回顧録』115~116頁)と書いているように、それは安倍晋三元首相の悲願でもありました。
 これを安倍元首相は平和安保法制(戦争法)の制定によって10年後に実現しましたが、それは「枠組みを整えた」にすぎず、実態を伴っていませんでした。今回は「実践面で大きく転換」することで集団的自衛権を実行可能にすることをめざしています。
その結果、「存立危機事態」と認定されれば、自衛隊は米軍と一体となって戦闘に参加できるようになります。
 具体的には、アメリカが地球規模で張り巡らす「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」に加わることが想定されています。台湾周辺で軍事衝突が生じれば、日本が攻められていなくても自衛隊は戦争に巻き込まれることになります。自衛隊が米軍と融合しその指揮下でたたかえば、自首相の指揮権も日本の国家としての主権も奪われることになるでしょう。

 軍拡大増税による生活破壊

 岸田政権は今年度から5年間の防衛費総額を約43兆円とし、2027年度には関連予算をふくめて国民総生産(GDP)比2%にすることを打ちだしました。この目標額は北大西洋条約(NATO)加盟諸国にアメリカが要求した額であり、必要経費を積み上げたものではありません。日本はNATO加盟国ではなく憲法第9条を有する平和国家ですから、NATOに追随するのは誤っています。
 新たに必要となる財源のうち、4分の3は歳出改革、決算剰余金の活用や東日本大震災の復興特別所得税の流用などの税外収入でねん出し、残りを法人・所得・たばこ税の増税で賄うとしています。この税外収入を積み立てて使う「防衛力強化資金」を新設する「財源確保法案」も審議入りしました。
 しかし、このような財源の確保や増税がそもそも必要なのか、なぜ防衛力を倍増させる必要があるのかが充分に議論されていません。復興のための税金を軍事に横流しして増税を押しつけ、医療や年金、社会保障費などを削減し、国債発行に手をだすという「禁じ手」だらけの暴挙にほかなりません。
 GDP比2%以上の軍拡は将来にわたって継続されます。そうなれば防衛費は11兆円となり、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になります。年間5兆円超もの財源があれば、医療費の窓口負担の無料化などを実現できます。国民生活を破壊して防衛財源を絞りだすような政策は「富国強兵」ならぬ「強兵貧国」政策にほかなりません。

 むすび――歴史の教訓に学べ

 2023年2月7日、韓国のソウル中央地裁で一つの判決がありました。ベトナム戦争での民間人虐殺を生き延びた女性が韓国政府相手に提訴し、賠償額約310万円の有罪を勝ちとったのです。韓国政府は延べ30万人を派遣して自国の若者約5000人を犠牲にするという痛恨の誤りを犯しました。
 日本もベトナム戦争の出撃基地となるなど協力しましたが、自衛隊を送ることなくだれ一人殺すことも殺されることもありませんでした。韓国政府のような誤りを犯さずに済んだのは憲法の制約があったからで、第9条の威力のおかげです。
 イラク戦争では自衛隊を派遣しましたが非戦闘業務に従事し、犠牲者をだすことはありませんでした。このときも憲法第9条にまもられていたのです。第9条があったからこそ、韓国の悲劇を避けることができたのです。必要なことは、この第9条の威力を活かした外交力を発揮することではないでしょうか。
 歴史に学ぶことが必要です。岸田政権による「かげに隠れてこそこそ」作戦に対抗し、私たちは「光を当ててみえる化」作戦を実行しなければなりません。学び伝えることこそ、世論を変える力になります。岸田政権の詭弁と危険性が明るみにだされれば、戦争を望まない多くの国民が反対に転ずることは明らかなのですから。


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5月25日(木) ウクライナ戦争に便乗した「新たな戦前」を避けるために──敵基地攻撃論の詭弁と危険性(その1) [コメント]

〔以下の論攷は『学習の友』No.838、2023年6月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 は じ め に

 ロシアによるウクライナ侵略は日本国民に大きな衝撃を与え、戦争への不安と危機感を高めました。これに便乗して岸田政権は戦後の安全保障政策を大きく転換し、2022年末に「安保3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を発表しました。
 岸田首相は基本的立場に変化はないと説明し、「国家安全保障戦略」も「わが国の安全保障にかんする基本的な原則を維持しつつ、戦後のわが国の安全保障政策を実践面から大きく転換する」とのべています。はたたしてどちらが本当なのでしょうか。
 「維持」するのか、「転換」するのか。「維持」するのであれば、このような文書をあらためて作成する必要はありません。「大きく転換」するからこそ、そのための文書が必要になったのです。ただし、その「転換」は「実践面から」であって、「基本的な原則」は「維持」しているといいわけをしながら。
 これは詭弁ではないでしょうか。それにもとづいて打ちだされた「敵基地攻撃能力」という新たな方針を「反撃能力」といいかえるのも詭弁です。
 このような詭弁に満ちた方針転換は、日本を「新たな戦争」へとひきよせることになるでしょう。その危険性を見抜き、それを避けるためにどうすべきかを学び情報を発信していく必要があります。

 憲法と専守防衛に違反

 憲法前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書かれています。敵基地攻撃能力など武力への依存は、このような「決意」に反するものです。また、第9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言しています。「戦争」や「武力の行使」だけでなく、「武力による威嚇」も放棄されているのです。
 だからこそ、1959年の国会答弁で伊能繁次郎防衛庁長官は「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な、脅威を与えるような兵器をもっていることは、憲法の趣旨とするところではない」とのべていました。他国に脅威を与え威嚇するような拡大抑止政策は憲法違反だと明確に指摘していたのです。
 また、専守防衛との関係についても、中曽根康弘防衛庁長官は1970年の答弁で、「具体的には本土並びに本土周辺に限る、核兵器や外国に脅威を与える攻撃的兵器は使わない」と言明し、田中角栄首相も1972年に「相手の基地を攻撃することなく、専らわが国土およびその周辺において防衛をおこなうことだ」と答弁していました。国外に戦場をもとめず、先に手をださないということです。
 岸田首相は憲法にもとづく基本的な方針である「専守防衛」は堅持すると主張していますが、これは真っ赤な嘘です。憲法や専守防衛と敵基地攻撃能力の保有は真っ向から反し、両立しません。

 国際法に反する先制攻撃

 岸田政権が「反撃能力」として保有しようとしている装備とは何でしょうか。それは国境を越えて直接的に敵基地を攻撃することのできる兵器群です。具体的には、12式地対艦誘導弾能力向上型、高速滑空弾、極超音速誘導弾などの長射程ミサイルですが、開発に時間がかかるので当面は射程1600㌔のトマホークをアメリカから400発購入することとし、そのための予算を2113億円計上しています。
 これらのミサイルが沖縄などの南西諸島に配備されれば、中国や北朝鮮の主要都市が射程に入り、相手にとっては重大な脅威になります。もし日本への攻撃が「着手」されたとみなされれば、直ちに発射されますが、「着手」の認定をどのような場合にどのようにおこなうのかは不明です。相手国からすれば発射以前に「反撃」されることになり、国際社会からは先制攻撃とみなされることになります。
 このようなかたちで先制攻撃すれば報復を招くことは避けられません。ミサイル基地となる南西諸島や沖縄だけでなく、日本全土が攻撃され焦土と化す危険があります。それが想定されているからこそ、283地区の自衛隊基地の1万2636棟を地下化するなどの強靭化計画をすすめようとしているのです。日本全土が火の海となり、周辺の市街地が焦土と化しても基地だけは生き残れるようにしようというわけです。


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5月24日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月24日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「サミットで有頂天なのは首相だけ 列島を覆う「新たな戦前」のキナ臭さ」

 岸田政権は防衛費を今後5年間で43兆円に増やし、巡航ミサイル「トマホーク」を400発購入し、海上自衛隊のイージス艦8隻すべてをトマホーク搭載可能に改修する。

 麻生副総裁らは「岸田総理は安倍元総理にもできなかったことを実現している。リーダーシップは安倍よりある」と手放しで褒め称えているが、この国が防衛費増額や敵基地攻撃能力保有の軍拡路線に乗り出すその先に、何があるのか。

 「米国の軍事分担方針に従い、防衛費を43兆円に増やせば、日本は世界3位の軍事大国になる。それは果たして身の丈に合ったことなのでしょうか。株価が上がったといっても、国内の産業は空洞化し、国際競争力も下がり続けている。少子化問題も根深く、これだけ国力が低下しているのに、軍事に傾斜すれば経済力はますます落ちる一方です。しかも、軍拡の財源は増税です。今も物価高に苦しんでいる国民生活が大増税に耐えられるのか。

 国土防衛や抑止力以前に、社会基盤が内部崩壊しかねません。かつて『富国強兵』で国を誤ったのに、その反省も忘れて、今度は『強兵貧国』の道を歩もうとしている。大国志向の妄想に取りつかれているのか、現実的に戦争の準備を始めているのか、いずれにしても暗黒の未来と言うほかありません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 軍事力と経済力は常にトレードオフの関係にある。戦後日本がめざましい成長を遂げたのも、専守防衛に徹して経済に注力できたことが大きい。その間も、世界中で戦争はあった。時には米国からの参戦圧力もあった。

 自衛隊の戦地派遣や、中には憲法改正を試みる政権が誕生しても、かつては世論がブレーキ役になっていたのだが、悲惨な戦禍と敗戦を肌感覚で知る世代が減り、戦争支援で結束したG7サミットを国民が評価して支持率が爆上がりしている現状は危うい。安倍政権以降、あっという間に国の姿が変わってしまった。

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5月23日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月23日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「これじゃあロシアに“宣戦布告”同然だ 岸田サミット あらゆる面で「ヒロシマ」を冒涜」

 大メディアのお祭り騒ぎも後押しし、内閣支持率が急上昇。週末(20、21日)に行われた毎日新聞の世論調査では、先月から9ポイント上がって45%となり、読売新聞も9ポイントアップの56%となった。狙い通りの結果で岸田は高揚感に浸っていることだろう。

 だが、今回のサミットは、「平和」を求める世論の願いとはむしろ逆に進んだ。全体を俯瞰してみれば、「ロシア非難」一色だったと言っていい。核の威嚇を批判し、経済制裁強化を打ち出した。戦争当事国の片方のトップが対面で会議に加わり、対決構図はより強まった。NATO(北大西洋条約機構)諸国と足並み揃えて“宣戦布告”した岸田は、果たしてロシアと戦う覚悟があるのか。

 「日本は北方領土問題を抱えているのですよ。経済面でも、ロシアと共同開発した石油・天然ガス開発事業『サハリン2』の権益を持っている。水産資源では、毎年漁業交渉をして漁獲高を決めている。そうした複雑な外交関係があるのに、ここまで敵対すれば、全部吹っ飛んでしまう。議長国だからとエエカッコするのはやめてほしい。インドになれとまでは言いませんが、どうして他のG7の国々とは違う独自の外交ができないのか」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 隣国ロシアと戦うなんてできないし、したくない。憲法9条を持つ日本が果たすべき役割は、ロシアを説得する仲介役だろう。

 欧米と一緒になってロシアを孤立させることじゃない。

 ウクライナに関するG7首脳声明には、軍事分野も含め「必要とされる限り支援を提供する」と明記された。防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有をアッサリ決めてしまった首相だ。政府与党が「防衛装備移転三原則」の見直しを始めているが、ウクライナ支援を口実に殺傷能力のある武器供与の一線も越えてしまいかねない。日米の軍需産業は高笑いだ。

 「バイデン大統領におだてられ、G7各国に引きずられ。岸田首相は政局的な思惑で動くので危険です」(五十嵐仁氏=前出)

 米誌「タイム」の見出しにイチャモンをつけたが、やっぱり岸田は「長年の平和主義を捨て去り、自国を軍事大国にすることを望んでいる」のではないのか。正体を見抜かれている。

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5月20日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月20日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「高揚感の岸田首相 「歴史に残る」暗黒サミットになる懸念」

 岸田は核保有国と非核保有国の「橋渡し役」になると力説してきた。ウクライナ戦争や中台の問題でだって、G7の唯一のアジアの国という立ち位置を生かして、仲介役を目指すことだってできるはずだ。それなのに、ただただ米国に追随し、国際社会の分断を加速させようとしているのだから、どうしようもない。今回の広島サミットは恐らく、岸田が望むのとは逆の意味で「歴史に残る」暗黒サミットになるだろう。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。

 「国連のグテーレス事務総長が広島サミットを前にした記者会見で、核軍縮について『日本には道徳的優位性がある』と言っていました。それを踏まえ、岸田首相が世界に核廃絶をアピールするチャンスを生かすことができなければ、議長国として舞い上がっている程度の人物で、リーダー失格の烙印が押されるでしょう」

 まさに倒錯のサミット。平和の「象徴」の広島と被爆者が泣いている。


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5月13日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月13日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「NATOの東京事務所開設 なぜ議論にすらならないのか?」

 NATOは欧州防衛が本来の目的だ。ロシアによるウクライナ侵攻により、米国は対ロシアでウクライナ支援を続けなければならない。「二正面作戦」は取れない米国が、対中国はアジアの同盟国に関与を強めてもらいたい、ということなのだ。バイデン大統領が韓国の尹大統領を「国賓」としてもてなしたり、米国主導で日韓関係の融和が進められたのもその一環である。

 そんな米国の狙いが分かっているのか、いないのか、主体的にNATOに接近していく岸田は、「なぜ遠く離れたヨーロッパの戦争に、前のめりで首を突っ込んでいくのか」の疑問に、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返す。

 だが、台湾有事を煽っているのはむしろ米国ではないのか。NATOとの協力強化は、東アジアの安全保障に利するというが、米国からは遠く離れていても、中ロは日本の隣国。米軍との一体化やNATOとの一体化で、むしろ日本が危なくなるのではないのか。ええかっこしいの亡国外交ほど恐ろしいものはない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。

 「米国がやっているのは自国は無傷のままで、中ロとの対立に日本を引きずり込もうということ。戦場になるのはアジアであり、日本ですよ。NATOは軍事同盟です。NATOの一員のようになることは、『武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』とした憲法9条に違反します。戦争に向けて旗を振るトップリーダーでいいのでしょうか」

 岸田が米誌「タイム」の次号(12日発売)の表紙を飾る。「日本の選択」と題した特集の一部が電子版で先行公開され、10日から大きな話題になっているが、その中身に多くがア然だったのではないか。岸田が「長年の平和主義を捨て去り、自国を軍事大国にすることを望んでいる」と紹介されているのだ。

 何もこれは同誌の勝手な臆測ではない。岸田が4月28日に首相公邸で同誌のインタビューを受けた結果だ。

 外務省が異議を申し立てたらしく、きのう午後になって「軍事大国」の見出しが修正されたが、それで日本に対する見方が変わったわけではない。平和主義を捨て去り、軍事大国を望む--。これが今の日本に対する世界の捉え方だ。この国はいつから平和を捨てたのか? 憲法9条はどうなったのか? そもそも岸田は海外メディアに伝える前に、自国民に伝えたのか? フザケルな、である。

 軍事力を肩代わりしてくれるのだから、米国にとってはありがたい首相だろう。表紙になった自分を眺め、「安倍元首相にもできなかったことをやった!」と、また舞い上がる姿が目に浮かぶ。

 「評価されていると勘違いして、自画自賛するのでしょうね。岸田首相というのは、流れに任せて状況に対応するだけの人。将来的なNATOのリスクを自覚していない。ウクライナ戦争を契機に軍拡を望む世論の高まりがありますが、それが、いつか来た道へ踏み出すことにつながることを、国民はきちんとわかっているのでしょうか」(五十嵐仁氏=前出)

 「抑止力強化」「防衛力強化」のはずが世界も認める「軍事大国」。米国に乗せられ、“汚れた称号”をもらおうとしているのが、この国の現実だ。これでいいのか。

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5月11日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月11日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「ゼロ金利、五公五民の庶民苛めで軍拡政治 お人好しの国民はいつまで黙っているのか」

■狂った自公政権に代わる政府を

 対中包囲網を構築したいバイデン政権の顔色をうかがった岸田が日韓関係の改善にシャカリキになり始めた途端、表に出てきたのが日米韓3カ国の事実上の軍事同盟化である。米国を媒介にして日韓のレーダーシステムを接続し、情報の即時共有を進めるという。北朝鮮の弾道ミサイルを探知・追尾する能力を引き上げ、迎撃体制の強化につなげる狙いとされているが、米軍と一緒に戦う体制づくりにほかならない。ゼロ金利、五公五民の庶民苛めで軍拡政治。お人好しの国民はいつまで黙っているのか。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。

 「日韓関係が改善されたことで、日米韓の連携は確かに深まる。だとしたら、外交で問題を解決する手段が増えたのに、なぜ軍事VS軍事のエスカレーションに走るのか。平和主義を掲げる憲法9条との整合性は言うまでもなく、軍拡の必要性やそれに伴うリスクなどの議論が全くされていない。防衛費増額ありきで手順が逆転しています。そもそも、この国に軍備増強に回すカネがどこにあるのか。減税し、社会保険料率を引き下げれば、可処分所得が増えて消費に回るのに、そうした手当ては一切検討されない。自公政権は狂っています。国民の収入を増やし、将来の不安を軽減する社会福祉政策を真剣に考える政府をつくらなければ、この国は沈みゆくばかりです」

 年金の受給開始年齢が現行の62歳から64歳へ引き上げられるフランスでは、反発が収まる気配はない。メーデーの1日に各地で行われた抗議デモは凄まじかった。内務省によると、参加者は全国で78万2000人。11万2000人が集まったパリなどでは一部の過激グループが火炎瓶や花火を投げ、逮捕者は全国で291人に上り、参加者との衝突で少なくとも108人の警官が負傷したという。

 むろん、暴力による主張は正当化されない、だが、羊の群れのようにおとなしくしていては、権力者の思うツボだ。

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5月10日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』5月10日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「能登地震で改めて痛感 地震大国で原発60年超稼働の狂気」

 脱炭素をお題目に、原発の60年超運転などを可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が連休直前の4月27日の衆院本会議で与野党の賛成多数で可決された。

 「どういう場合に60年を超えて運転できるのか、使用済み核燃料の問題はどうするのかなど、経産委員会で野党が質問しても、『状況に応じて検討する』『具体的な運用は、法改正後に決める』など政府の答弁は曖昧で、国会での議論が深まらないまま拙速に原発再稼働が進められています。原子力政策の大転換なのに、岸田政権はGXに関係する5本の法律をまとめた“束ね法案”で国会に提出してきた。5本の中には賛成できる法律もあります。安保法制の時もそうでしたが、野党が反対しづらい束ね法案の形で出してくるのが実に姑息です。ウクライナ危機や物価高騰で電気料金が高騰している今なら、原発再稼働に国民の賛意を得られるという計算もあるのでしょう。しかし、使用済み核燃料や事故処理を考えたら、原発ほど割高な発電はない。日本人は忘れっぽいといわれますが、電力不足も電気料金高騰も原発を動かしたい原子力ムラの思惑が背景にあることを忘れてはいけません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 ウクライナ危機と物価高騰で、国民世論は原発稼働容認に傾いている。電力会社と政府にとっては絶好のタイミングなのだろうが、国民にとってはどうなのだろうか。いま一度立ち止まって考える必要があるのではないか。

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