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5月24日(木) 比例区定数の大幅削減ではなく小選挙区制の廃止こそ [選挙制度]

 昨日の国会は大忙しだったようです。野田首相が出席して衆院社会保障・税特別委員会が開かれ、同時に与野党の幹事長・書記局長会談があり、それと並行して「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」(衆議院倫理選挙特別委員会)が行われていたのですから。
 幹事長・書記局長会談では、衆院選挙制度に関する各党協議の不調について報告され、会期末の6月21日までに結論を出すことで大筋合意されたということです。来週にも具体的な協議に入るとのことですが、是非、昨日の意見陳述を参考にしてもらいたいものです。

 この意見陳述について昨日夜7時のNHKニュースで報道されたことは、すでに昨日のブログで書いたとおりです。もっと詳しくは、今日の『しんぶん赤旗』の2面に掲載されています。
 「80削減に批判や疑問 選挙制度改革で参考人質疑」という見出しでの記事が出ていました。私の写真も掲載されています。
 昨日のNHKニュースでは、「0増5減案が選挙制度の抜本的改革を先送りする口実であってはならない」という私の一言だけが報じられました。『しんぶん赤旗』の方には、比例定数80削減について、「身を切る改革ではなく民意を切る改悪だ」という私の言葉が出ています。

 ここでも紹介されているように、他の参考人も80削減には批判的でした。しかし、現行の小選挙区比例代表並立制と小選挙区制についての評価は、肯定的な曽根泰教・加藤秀治郎両参考人と批判的な田中善一郎参考人と私という形で2分されました。
 ただ、加藤先生はドイツの専門家であり、そのドイツは小選挙区併用型の比例代表制です。基本的には比例代表での獲得議席がベースとされ、それに小選挙区での当選者を当てはめるというやり方です。
 したがって、ドイツの選挙制度も小選挙区制ではなく比例代表制です。ドイツでは連立政権も普通のことですから、どうして比例代表制ではなく小選挙区制の方を評価されるのか、私には理解できません。

  意見陳述の冒頭、私は次のように述べました。

 私は今から約20年前の1993年に『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』という本を出し、小選挙区制を批判いたしました。この本の中では、連用制の問題点も指摘しています。その4年後の1997年に、前年に初めて実施された並立制での総選挙を分析した『徹底検証 政治改革神話』という本も出しております。小選挙区制に問題があることは約20年前から明らかでした。
 そのような私からすれば「何を今さら」と言いたい気持ちですが、過ちを改めることは良いことです。今がその絶好のチャンスだと思いますので、以下、小選挙区制の問題点と望ましい選挙制度のあり方について発言させていただきます。

 以下、「小選挙区制の制度的欠陥」として、①少数と多数が逆になる、②少数が多数に読み替えられる、③多くの「死票」が出て選挙結果に生かされない、④過剰勝利と過剰敗北によって激変する、⑤政党規模に対して中立的ではないという5点を指摘しました。
 続いて、「実際に生じてきた問題点」として、①政権の選択肢は事実上2つしか存在していない、②選挙互助会的な政党の登場、③風向き(世論動向)による短期間での多数政党の交代、④一方での連立や翼賛化への誘惑と他方での連立・連携の困難というジレンマ、⑤地域や民意との乖離・切断、⑥議員の質の低下について述べました。
 特に、民主党の議員を前にしての第2点は、大変、言いにくいものでした。また、第6の点も、現職の国会議員を前にして、その質の低下を問題にしたわけですから、議員の皆さんにとっては面白くなかったでしょう。質問の際に、民主党の議員からは「大変厳しいご指摘をいただいた」と言われました。
 さらに、「制度改革に関するいくつかの論点」として、①連用制は小選挙区「反比例」代表並立制であって比例代表部分で投じられた有権者の意思が歪められ、「正当に選挙された国会における代表者」(憲法前文)とはいえないこと、②日本の国会議員は多くなく、比例区定数の削減は小選挙区の比率を高め、その害悪を増大させること、③0増5減案は当面の緊急避難で湖塗策にすぎず、抜本的改革を先延ばしするための口実ではないのか、④民意の反映か、集約かという議論については、民意の反映が選挙、民意の集約は国会であり、選挙での民意の集約論は国会の自己否定にほかならないことを明らかにしました。
 最後に、「望ましい選挙制度の提案」として、①11ブロックでの比例代表制、②全国一区での比例代表制、③都道府県単位での比例代表制、④定数3を基本とした中選挙区制を掲げ、そのメリットとデメリットについて検討しました。

 そして、次のような言葉で、陳述を締めくくりました。

 今から約20年前に小選挙区制を批判し、連用制の問題点も指摘した私としましては、今日、このような形での意見陳述を行う機会を得たことは誠に感慨無量であります。ここで述べたような問題が生ずることは以前から分かっていたことではありますが、「政治改革神話」が崩れつつあること自体は、歓迎したいと思います。
 是非、この機会に「政治改革」をやり直して小選挙区制を廃止し、より民主的な選挙制度に改めてください。先輩が犯した過ちを繰り返すことなく、より民主的で民意が反映されるような選挙制度に改革していただきたいと思います。
 このことを強くお願いいたしまして、私の発言を終わらせていただきます。

 なお、この意見陳述に関連する参考文献としては、以下のようなものがあります。

五十嵐仁「選挙制度改革をめぐる動き」『法と民主主義』5月号(№468)(近刊)
五十嵐仁「民意を反映しない小選挙区制はワースト制度―早急に改めるべきである」『日本の論点2011』文藝春秋社、2010年11月
五十嵐仁『18歳から考える日本の政治』法律文化社、2010年
五十嵐仁『現代日本政治-「知力革命」の時代』八朔社、2004年
五十嵐仁『徹底検証 政治改革神話』労働旬報社、1997年
五十嵐仁『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』労働旬報社、1993年

 また、来る6月2日(土)、日本民主法律家協会憲法シンポジウム「国会と選挙はどうあるべきか」でも、只野雅人氏(一橋大学大学院法学研究科教授・憲法)や高田健氏(許すな!憲法改悪・市民連絡会)と共に、選挙制度改革問題について講演する予定です。午後1時半からで、場所は伊藤塾東京校5号館(法学館ビル)(東京都渋谷区桜丘町17-5、JR渋谷駅西口より徒歩3分)ですので、興味と関心のある方はお出で下さい。

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