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3月9日(土) 労働規制緩和の攻勢をかける経営者団体-日本経団連『経営労働政策委員会報告』批判(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『自然と人間』2013 年3月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

労働規制の緩和に動き始めた安倍政権

 報告書は、労働規制の緩和を進めるように提言しています。安倍政権の動きをみると、この方向に進んでいくものと思われます。
 経済財政諮問会議をつくって骨太の方針を出そうというのですから、すでに小泉亜流の構造改革を進めようという意思表示です。しかも、日本経済再生本部の産業競争力会議のメンバーに竹中平蔵氏が入りました。小泉純一郎元首相の懐刀だった竹中氏ですから、規制緩和の方向に進むことは明白です。実際、竹中氏は最初の会議で「規制改革が一丁目一番地」だと発言しています。それを受けて、安倍首相も規制改革という形で規制緩和を進めようとしています。
 さらに、小泉元首相の秘書だった飯島勲氏が内閣官房の参与になりました。構造改革の結果、非正規労働者が急増し、リーマンショック後のリストラで「派遣切り」が社会問題となり年越し派遣村ができました。この年越し派遣村の村長だった湯浅誠氏が民主党政権では内閣府参与でした。同じ「参与」という形で飯島氏が官邸入りしたわけですから、180度の転換です。反構造改革から構造改革に復帰する象徴的な人事だと思います。
 ただ、安倍政権の政策は、政策的な整合性がありません。一方では古い自民党がやっていた利益誘導型のバラ撒き政策を掲げていますが、借金が膨らんで破綻したから、小泉政権が「構造改革」を新たに進めたのです。他方では、それも復活させるという。それぞれを代表するのが麻生氏と竹中氏ですが、すでに意見がぶつかり始めています。
 安倍政権の政策は、バラ撒きで借金を増やし、新自由主義的規制緩和で貧困と格差を拡大させ、復古的なタカ派政策で周辺国と関係悪化させてきたという、これまでの失敗のミックスです。既に破綻した政策ばかりで、三拍子そろった「ワーストミックス」と言うべきものです。

無制限の長時間労働を強いるホワイトカラー・エグゼンプション

 労働規制の緩和という方向も、この報告書ではっきりと打ち出されています。たとえば、「事務職・研究職の自主的・自律的な労働時間管理を可能とする仕組みの導入」とあります。「研究職」だけでなく、「事務職」も加えられている点がポイントでしょう。
 ホワイトカラー全体が対象になります。「自主的・自律的な労働時間管理」と称して働かせ放題になるのではないか、過労死を増やすのでは、との大きな反発があって一度は引っ込めたホワイトカラー・エグゼンプションの復活です。
 一日の労働時間は8時間です、それを越えたら残業代を払いなさい、無制限に働かせてはいけませんという労働時間の規制を撤廃しようという、とんでもない制度の導入を考えているわけです。
 もう一つは、「柔軟な労働市場を構築していく必要性」を強調しています。これは、整理解雇4要件などの解雇規制を緩和し、解雇の金銭解決を導入するということです。これは、今後、成長戦略の一環として打ち出されてくると思われます。
 労働政策の提言の最初で、「経営環境の悪化に拍車をかけるような規制強化策ばかり」だと書いています。経済界はそういう認識なのです。民主党政権でわずかながら改善された労働諸法制さえ、もう一度ひっくり返し、さらに緩和していこう狙っているのです。

さらに解雇しやすい制度を求める経団連

 しかも、報告書はさまざまなところで「弾力性・柔軟性」ということを強調しています。労働規制に対し、「需給変動への柔軟な対応に支障」とか「労働者派遣制度の最大のメリットを減殺」と非難し、労働規制は企業活動の障害となっていると言っています。これは、必要がなくなったら速やかに解雇できるようにするということに過ぎません。
 労働市場の弾力化・柔軟化が、非正規雇用を拡大し、雇用の不安定化につながり、若者の生活破綻などの大きな社会問題となったのは記憶に新しいことです。「近年、“非正規雇用”の増加を問題視する向きも多いが、そもそも、契約期間など雇用形態のみをもって、“正規”か“非正規”かという二項対立的に捉えること自体が、現状に合致しているとは言い難い。もとより、非正規雇用という呼称自体にも否定的なニュアンスが含まれており、抗した用語を用いることも適切ではない」と居直っています。
 「非正規」という言い方がよくないとされていますが、用語が不適切なのではありません。労働者の働かせ方が不適切なのです。経営者団体は、その現実を認めて反省すべきだと思います。雇用の基本は、無期・直接雇用です。有期雇用や間接雇用は、必要性が明らかな場合の限定的・臨時的措置にとどめなければなりません。
 しかし、現実は非正雇用は賃金が低く、雇い止めしやすい働き方として利用されています。なぜ正規・正規の区別があるのかというと、賃金や処遇がまったく違うからです。
 報告書は、賃上げよりも雇用の安定が重要だと言っていますけれども、現在やられている電機産業のリストラに何も言っていません。13万人とも言われている電機リストラにストップをかけ、雇用安定に逆行すると批判すべきだと思いますが、経団連にとってはこれも「雇用の弾力化・柔軟化」の一つなのでしょうか。
(続く)
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