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5月31日(土) 労働者を食い物にする経営者・政治家・御用学者(その3) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『月刊日本』6月号に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

● 派遣法改悪を阻止しよう!

── 小泉政権の新自由主義政策によって格差社会が問題となり、2009年に誕生した民主党政権では新自由主義からの決別が模索されました。
五十嵐 2009年9月、民主党、社会党、国民新党の連立与党は、派遣法の再規制で合意しました。この三党合意に基づいて、2010年4月には労働者派遣法改正案が提出されましたが、やがて改正案成立を強く主張していた社民党が連立政権を離脱し、民主党は2011年に自民党、公明党との間で改正案に合意し、法案を骨抜きにしてしまいました。
 民主党の中も、規制強化派と規制緩和派に割れていたのです。民主党全体が合意できるような再規制をまずやり、それを積みあげていくというやり方があったかもしれません。2010年7月の参院選で与野党が逆転し、民主党・国民新党は少数与党となって再規制をすることは一気に難しくなってしまったのです。
 このように、民主党政権になってから派遣労働の再規制が模索されましたが、すでにそれ以前から労働の規制緩和に対する反省は高まっていました。私は、2006年が一つの転換点だったと見ています。
 同年9月に第一次安倍内閣が発足し、12月には「労働市場改革専門調査会」の会長に八代尚宏国際基督教大学教授が就き、「労働ビックバン」を一気に進めようとしました。しかし、労働の規制緩和推進派が進めようとしたホワイトカラー・エグゼンプションは「残業代ゼロ法案」と批判され、これが躓きの石となりました。
 このとき、自民党内や厚労省の抵抗が開始されていたのです。2006年末には、自民党内に雇用・生活調査会が誕生していました。この調査会に関して後藤田正純氏は、「これまで、労働法制は規制緩和の一点張りだったが、これからは党が責任を持って、規律ある労働市場の創設を働きかけていく」と語っていました。
 一方、厚労省には2007年2月に「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」が設置され、8月には「『上質な市場社会』に向けて」と題した報告書を発表します。副題に書かれている通り、この報告書は雇用労働政策における「多様性」以上に、「公正」と「安定」が重視されていました。厚労省には規制緩和がもたらした悪影響についての反省があります。労働分野で問題が生じた場合、その対応に追われるのは厚労省ですから、労働の規制緩和に慎重な態度をとらざるを得ないのです。

── 小泉時代の規制緩和の教訓をなぜ生かせないのでしょうか。
五十嵐 いまも自民党の中には規制緩和推進派と慎重派の二種類の立場があります。しかし、慎重派は安倍首相のリーダーシップの強さに押し切られ、党内で大きな声を上げられない状況にあります。安倍首相の政策に対して正面切って反対できないのです。厚労省も産業競争力会議などで規制緩和推進派から強い圧力をかけられ、押し切られています。

── どのようにして、派遣法改正をはじめとする労働の規制緩和を阻止していけばいいのでしょうか。
五十嵐 自民党内部の慎重派や厚労省が抵抗できるように、世論を喚起していくしかありません。2006年に潮目が変わった背景にも、マスコミや論壇の変化がありました。すでに、2005年2月にNHK総合テレビが「フリーター漂流」を、翌2006年7月には、NHKスペシャルで「ワーキングプア」の第一弾が放映されました。同年9月には『週刊東洋経済』が「日本版ワーキングプア」という特集を組みました。こうしたワーキングプアや格差社会を懸念する世論の高まりを背景に、2006年頃から転換が開始されたのです。
 また、マスコミの援護射撃とともに、労働者の側が抵抗運動を盛り上げていく必要があります。運動と世論の力を背景に政党や議員、厚労省の官僚などに働きかけ、一方的に経営者に有利となる派遣法改正案の成立を阻まなければなりません。少なくとも法案の修正や付帯事項をつけて、少しでもましな法律にするよう、運動を展開するべきです。

── わが国は、どのような労働政策を目指すべきですか。
五十嵐 アメリカは徹底した新自由主義で、規制緩和の最先端をいっています。それを模範にして日本ももっと規制緩和を進めるべきだと新自由主義者は唱えているのですが、1%の富裕層によって国民の99%が支配されるような超格差社会になり、アメリカ社会が崩れてしまっていることに注目する必要があるでしょう。
 そのようなアメリカを手本にしてはなりません。アメリカと違い、ヨーロッパ諸国は強い労働運動を背景に規制を維持し、経済危機を乗り切っています。ドイツもそうですし、北欧などもそうした路線を貫いています。日本は、そうしたヨーロッパ諸国に学び、人間らしい労働(デイーセントワーク)によって持続できる社会を目指すべきなのです。

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