SSブログ

9月3日(水) 「代わったけれど、変わらない」滞貨積み残しの内閣改造 [内閣]

 これでは、「代わったけれど、変わらない」と言うべきでしょう。自民党の党役員と内閣の顔ぶれは確かに代わりましたが、その骨格に変化はなかったのですから……。
 過去の改造では「滞貨一掃内閣」などと言われることもありましたが、今回の改造で「滞貨」は一掃されませんでした。いわば、「滞貨積み残し内閣」です。

 こうなった理由は、はっきりしています。安倍首相が、本当は改造などしたくなかったからです。
 しかし、第2次安倍内閣が発足してから1年8か月にもなり、衆院5回以上、参院3回以上の「大臣適齢期」に達した議員が59人もいるそうです。これらの「入閣待望組」の不満が募っている現状を放置できなくなりました。
 というわけで、党役員人事と内閣改造を決断したわけですが、これまでの骨格を変えたくないために主要閣僚は軒並み留任しました。だから、内閣の基本も政策の方向も「変わらない」ということです。

 自民党の3役は全員交代しましたが、「官邸主導」が確立していますから顔ぶれを変えても大きな影響はないと考えたのでしょう。それでも、安倍さんなりの工夫をうかがうことはできます。
 最も注目されるのは石破幹事長の後任に自民党総裁の経験者である谷垣禎一前法相を据えたことで、その他の3役として総務会長には二階俊博さん、政調会長には稲田朋美さんを起用しました。加藤紘一さんに近く穏健なリベラル派で中国とも関係の深い谷垣さんや、旧田中派の流れを汲む二階さんなどのベテランの起用は、選挙の看板として利用するためであるとともに、党内の結束を図りつつ総裁再選への布石を打ち、公明党との関係を強め、中国との関係改善を期待してのものであると思われます。
 保守派の論客として知られる稲田さんの起用は、安倍さんに近い女性議員の知名度を上げ後継者として育てる意図があってのことでしょう。このような役員体制の強化は、一面では政権基盤を安定させるかもしれませんが、他面では役員の力を強め消費税の10%への引き上げや対中国政策などで政府との不協和音を生み出すリスクもあります。

 希望していた幹事長の続投を断念させられた石破茂さんは、地方創生担当相として閣内に取り込まれることになりました。これは石破さんの敗北ではありますが、必ずしも安倍首相の勝利とは言えません。
 先の総裁選挙で自民党の地方組織の支持では安倍さんを上回っていた石破さんは、もともと地方に強い基盤を持っています。「地方創生」の看板を掲げてこの基盤強化に取り組んで総裁選に向けての力を蓄えることができるわけですから、石破さんにとってもマイナスとは言えないでしょう。
 それに、安倍内閣としては「集団的自衛権の行使容認について意見が違う」ことを公言した異分子を抱え込んだことになり、「閣内不一致」で追及される可能性があります。今後の国会審議などで答弁を求められたとき、石破さんは安倍首相の方針を受け入れるのでしょうか、それとも自己の信念に従うのでしょうか。

 今回の改造では女性の起用も注目され、高市早苗総務相、山谷えり子拉致問題担当相、有村治子女性活躍推進相、小渕優子経済産業相、松島みどり法相の5人が入閣し、過去最多に並びました。安倍首相としては、女性の活用を訴えていた自らの言葉に縛られた結果だといえます。
 特に注目されるのは、これまでも数々の問題発言を繰り返してきた高市総務相であり、男女共同参画や夫婦別姓に反対する山谷拉致担当相です。閣僚としては歴史認識問題などでの持論を封印した稲田さんを含め、これら安倍首相に近い右翼的な女性大臣や党幹部が今後どのような言動をするのか、注視する必要があるでしょう。
 5人の大臣はいずれも女性であるが故の入閣とみられ、それぞれの担当分野をこなせるだけの能力を持っているかどうかは未知数です。大臣への女性抜擢はその活躍推進の象徴として必ずしも悪いわけではありませんが、それなりの実績を示すことができなければ単なるパフォーマンスと人気取りにすぎなくなり、国民の批判を受けることになるでしょう。

 このような骨格の維持や石破さんの取り込み、女性の重用などの結果、18人という大臣の枠は次々と埋まってしまいました。同時に、実務重視の布陣としたために塩崎恭久元  官房長官の再登場もあります。
 その結果、女性以外の新しい顔ぶれは、西川公也農林水産相、江渡聡徳防衛・安保法制担当相、竹下亘復興相、山口俊一科学技術相の5人にすぎなくなりました。59人もいると言われていた入閣待望組の1割に満たず、大半は「積み残された」わけですから党内の不満がうっ積するのは避けられないでしょう。
 今回の改造では、マスコミ報道で従来以上のバカ騒ぎが目につきましたが、これは国民の関心を高めて支持率を回復したいという官邸側の思惑にマスコミが乗せられた結果だと思われます。しかし、このような変わり映えのしない顔ぶれでは限界があり、その思惑通りにいくのでしょうか。

 安倍内閣の支持率の低下傾向も、改造への「ご祝儀」で一時的に増えるかもしれませんが、結局は「代えたけれど、変わらない」ということになるかもしれません。果たして、これまで以上に重要課題が山積する秋の政局を、このような陣容で乗り切ることができるのでしょうか。

nice!(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

トラックバック 0