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2月8日(日) 2014年総選挙と今後の展望(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建『建設労働のひろば』No.93、2015年1月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

二、 各党の消長

1 与党の消長―自民党と公明党

 自民党は予想されていたような300議席突破はならず、当選前の293議席より2議席減らして291議席となった。議席を減らしたのだから勝利したわけではない。自民党に投票した有権者の割合(絶対得票率)は小選挙区で24.5%、比例代表で17.0%と、4分の1以下にすぎない。
 とはいえ、単独で安定多数を維持しているから、依然として強引な国会運営を行う基盤を得たことになる。「信任を得た」としてスピードアップする危険性もあり、「暴走」してきた安倍首相に「給油」するような形になってしまったという見方もできる。
 しかし、安倍首相は景気回復の一点に争点を絞って支持を求めており、自民党への投票は「景気が良くなるなら、もう少し様子を見てみよう」というもので、一種の「執行猶予」による支持であったと思われる。それを勘違いして、集団的自衛権や原発再稼働などで新たな「暴走」を始めれば、その時こそ、大きなしっぺ返しを食らうことになるだろう。
 公明党は選挙前の31議席から4議席増やして35議席になった。その結果、与党では1議席増の326議席で衆院議席の3分の2を超え、参院で否決された法案の再可決が可能な勢力を維持した。
 与党としての勢力にほとんど変化はなかったが、その内部で公明党の比重が増えたことには意味がある。これまでの安倍首相の暴走に不安を感じた国民の一部が、「ブレーキ役」としての期待をかけたのだろう。
 しかし、それは錆びついていて十分に作動するとは限らない。このことは集団的自衛権の閣議決定に至る過程で示されており、関連法の改定でどれだけ効くかは不明だ。消費再増税に際しての「軽減税率導入」という約束とともに、今後の対応が試されることになる。
 今回の選挙でも、小選挙区で自民党は公明党の支援を受けており、相互依存の構造はさらに定着したように見える。自民党は公明党の意向を無視して政権運営を行うことは不可能になりつつある。今回の選挙のタイミングも、来春の統一地方選挙とかち合うことを避けたい公明党の考えを反映していたと見られている。

2 野党の消長―民主党と「第三極」

 民主党は11議席増やして73議席になったが、予想されたほどには回復しなかった。党内には敗北感が漂い、小選挙区で当選できず、比例でも復活できずに落選した海江田万里代表は辞任した。
 有権者の期待を裏切り失望を買った民主党政権の後遺症を癒すにも、野党の再編や選挙協力を進めるためにも、2年間は短かすぎたということだろうか。この点では、安倍首相による「今のうち解散」という戦術にまんまとはまってしまったということができる。
 加えて、消費増税や原発再稼働、TPP参加などの政策には民主党も反対しているわけではなく、改憲についての党内の意見も割れており、安倍首相の暴走に対してブレーキなのかアクセルなのか不明だという曖昧さがあった。海江田代表のキャラクターもあって支持は盛り上がらず、維新の党から批判されるなど選挙協力は不発で、十分な結果を生むには至らなかった。
 「第三極」では維新の党は1議席減の41議席と、ほぼ現状維持にとどまったかに見える。しかし、前回の総選挙では54議席と躍進した。これに比べれば、13議席の減少になり、大きな後退だと言える。
 維新の党は得票でも、小選挙区で262万票、比例代表で388万票の減少となった。どちらも、今回票を減らした政党の中では最大となっている。
 維新の党の地盤である大阪では、前回14人出て12人当選したが今回は14人出て選挙区では5人の当選にとどまった、しかし、比例代表では自民党を上回る第1党で、32.4%の得票となって7人が復活当選している。
 当初の予想よりもかなり復調したように見える。それは世論調査で自民党が300議席で圧勝と報道されたことが影響したのではないか。そんなに勝たせてもよいのか、勝つなら入れる必要はないということで、自民党から維新に票が流れたと思われる。
 前回の総選挙で健闘して18議席を獲得したみんなの党は、今回の選挙では姿を消し、渡辺喜美元代表は落選した。まことに無残な末路だが、そのために投票先を失って棄権してしまった支持者も少なくなかっただろう。
 最も安倍首相に恨みをぶつけたいと思っているのは、次世代の党の平沼赳夫代表ではないだろうか。次世代の党は公認48人に対して当選は2議席と惨敗し、19議席が17も減って壊滅的な打撃を受けた。
 次世代の党は安倍首相の応援団として行動し、自民党を右に引っ張る役割を演じた。今回の選挙では「ネトウヨ」などを頼りに保守色を前面に出し、「生活保護は日本人に限定」「慰安婦問題はでっちあげ」などと主張した。このような極右政党を見限ったところに、日本の有権者の見識が示されている。
 しかし、この党をあなどってはならない。ネット上の動画の再生回数は30万回を越え、ツイッターのフォロワーも自民、公明に次いでいる。比例代表の得票数は141万票に上り、社民党の131万票や生活の党の103万票よりも多い。日本社会の右傾化を示す兆候として警戒する必要があるだろう。

3 史上最低投票率の意味と背景

 今回の総選挙で注目されたのは52.66%という投票率の低さであった。それは、突然実施された無意味な選挙に対する有権者の無言の抗議だったという見方もできる。このような選挙で信任が得られたなどとは言えず、まして、「白紙委任」を受けたなどと強弁することは許されない。
 このような低投票率を生み出した背景については、悪天候や投票時間の繰り上げの増加、市町村合併などの影響で投票所が減って遠くなった、自民党が「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」を出したためにマスコミが委縮し、選挙報道を手控えたなどの背景があった。加えて、以下のような背景や原因が考えられる
 その第1は安倍首相の責任だ。消費増税の延期やアベノミクスの継続による景気回復など、国民の反対しにくい課題を争点に据え、集団的自衛権の行使容認、改憲、TPPへの参加、沖縄での新基地建設、農業・医療・労働分野での規制緩和など、他の重要な争点を隠す「争点隠し戦術」に出たからだ。
 第2は野党の責任だ。民主党と「第三極」は安倍首相の暴走に対する選択肢を提起できず、政治が変わるという期待も可能性も有権者に示すことができなかった。民主党について言えば、小選挙区で候補者の擁立が少なかったという点が決定的だ。加えて、政策的に大きな違いがある維新の党などと選挙協力を行ったことも、有権者にとっては当選目当ての「野合」と映り、選挙への関心を低下させたことだろう。
 第3に、小選挙区制という選挙制度の責任だ。衆院選の投票率は小選挙区比例代表並立制が導入された1996年に初めて60%を割り、50%台になったのは、03年、12年に続いて今回が4度目になる。この制度の下で投票率の低下が際立っているが、このことは拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』(労働旬報社、1993年)の78頁で指摘していたように、制度の導入前から予想されていたことだ。
 第4に行政の責任だ。9条の会主催の講演会への後援とりやめや俳句の公民館便りへの掲載拒否などの理由は、政治的なテーマで意見の違いがあるということだった。しかし、政治にかかわるどのような問題でも賛否両論があることは避けられず、それを理由に後援や掲載をとりやめれば、市民や住民を政治から遠ざけることになってしまう。このような形で普段は有権者を政治から「隔離」しておきながら、選挙になった途端に「政治に関心を持ちましょう。選挙に行きましょう」と言い出すことの滑稽さが、自治体などの行政担当者に分かっているのだろうか。


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