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2月7日(土) 2014年総選挙と今後の展望(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建『建設労働のひろば』No.93、2015年1月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

はじめに

 寝込みを襲うような突然の解散・総選挙であった。国民が寝ぼけまなこをこすっているうちに、さっさと選挙をやって票をかすめ取ろうという作戦だったのかもしれない。圧倒的な無勢で奇襲攻撃をかけ、今川義元の多勢を打ち破った織田信長とは逆に、大軍をもって奇襲攻撃をかけた「逆桶狭間」の合戦だったという見方もある。
 安倍首相がこのような奇襲攻撃をかけたのはなぜか。考えられるのは、「政治とカネ」の問題で窮地に立たされたことだ。第2次安倍改造内閣が出発した直後、「目玉」とされた女性閣僚のうち小渕優子経産相と松島みどり法相が辞任するという予想外の事態が生じた。「政治とカネ」の問題はその後も止まず、11月28日には政治資金収支報告書の公表が予定されていた。安倍首相が記者会見で解散を発表したのは、その10日前の11月18日である。
 もう一つの理由は、消費増税再増税の延期問題だ。消費税を8%から10%へと再増税するかどうかについて判断する期限が迫り、苦慮した安倍首相は7~9月のGDP成長率が2期連続でマイナスを記録したのを見て再増税の延期を決断する。そうすれば自らの責任問題が生じ、財務省からの激しい抵抗も予想された。責任を回避し、抵抗を押し切るためには政権基盤の再編が必要だった。そのために解散・総選挙に踏み切ったという見方である
 さらに、安倍内閣の支持率の低下も無視できない要因だった。改造内閣の発足直後は「ご祝儀相場」的な支持率の回復があったが、長期的には低下傾向であることは否めない。日本経済新聞社とテレビ東京による10月の世論調査で安倍内閣の支持率は48%と9月の前回調査より5ポイント下がり、7月と並んで最低となった。この先、支持率が上昇する可能性も低いということで、野党の選挙準備が整っていない今のうちに解散・総選挙に打って出た方が得策だという判断が働いたのではないかというのである。
 どのような理由が正しいかは分からない。しかし、政権基盤を強化するための解散であり、そのことによって当面の難局を乗り切り、15年秋の自民党総裁選挙での再選を果たして長期政権への道を開きたいという打算が働いていたことは確かだろう。問題は、その打算通りになったのか、ということである。

一、 本当に「勝った」のはどこか

1 総選挙の結果

 衆院は11月21日に解散し、12月2日公示、14日投・開票という日程で実施された。その結果は、第1表(省略)に示される通りである。
 安倍首相は選挙での獲得目標として、与党で過半数以上という低い目標を設定した。マスメデイアはこの策略にのせられ、実際には解散前とほぼ同程度の勢力を維持したにすぎないのに、自民党が「圧勝」したかのような印象を与えられ、そのような情報を振りまいた。
 しかし、第1表(省略)と第2表(省略)を見れば分かるように、今回の選挙で最も議席と得票を増やしたのは共産党で13議席増、小選挙区で234万票、比例代表で237万票の増となっている。最も議席を減らしたのは次世代の党で17議席減という惨敗である。このような議席の増減から選挙の結果を端的にいえば、国会内での手ごわい反対勢力である左翼を増やし、「是々非々」で政権の応援団にもなる極右を減らしたことになる。
 国会を解散して総選挙を実施しなければこのような結果にはならなかったはずだ。少なくともあと2年間は安倍政権にとっては好ましい勢力関係を維持できたにちがいない。しかし、突然の解散・総選挙によって安倍首相はこのような勢力関係を変えるリスクを犯し、結果として共産党や民主党の議席を増やして左翼の比重を高めることになった。まことに皮肉な結果だったというべきだろう。
 さらに詳しく今回の総選挙での票の動きを見ると、次のようなことが分かる。前回の2012年に日本維新の会、みんなの党、日本未来の党で約2000万票(比例)を得票した「第三極」は、今回の総選挙で維新の党、次世代の党、生活の党で約1000万票と半減した。これら3党が失った票の半分(約500万票)は棄権に回り、そのために棄権が500万人、6.6ポイント増えた。
 残りの約半分(400万票)は、今回得票を増やした共産(237票)、自民(104万票)、公明(19万票)、民主(15万票)に投じられた。このうち共産党が増やした得票数は半分以上の237万票だから、比例代表での票の変化を見ても、今回の総選挙での勝者は共産党であったということ、有権者の共産党への期待がいかに大きかったかということが示されている。
 また、自民党は「圧勝」したとされているが、議席総数で2議席、小選挙区では223議席と14議席減らし、小選挙区の得票数も2546万票で18万票の減少だ。小選挙区での得票数の推移を見れば、自民党は09年に522万票減、12年に166万票減、そして今回も18万票減と一貫して減らしてきた。
 それにもかかわらず多数議席を獲得してきたのは、比較第1党が議席を独占できる小選挙区制のカラクリのためであり、今回も48.1%の得票率で75.3%の議席を獲得している。この間、有権者は自民党にダメを出し続けているにもかかわらず、その意思は全く議席に反映されていない。
 今回は小選挙区で得票数だけでなく議席も減らしたが、それでも自民党が「圧勝」できたのは比例代表で11議席増の68議席を獲得したからだ。しかし、増やした得票数は104万票で、共産党が増やした票の半分にも及ばない。
 つまり、安倍首相が進めているアベノミクスによる一定の受益とその「おこぼれ」に対する期待は確かにあり、それは比例代表での104万票増に反映されている。しかし、アベノミクスに対する危惧と反対も強く、安倍首相の暴走にストップをかけてほしいという有権者の願いの方が2倍以上も多かったのだ。
 安倍首相は奇襲攻撃のような突然の解散・総選挙によって与党全体としての現状維持に成功した。しかし、それはアベノミクスに対する異議申し立ての機会としても有効に活用され、国会の勢力関係を変えて強力な反対者の登場を促す結果となった。
 それは、安倍首相の目論見を大きく覆すものだったと言って良いだろう。総選挙の結果は必ずしも安倍首相の「作戦勝ち」とは言い切れないものだったのである。

2 鮮明になった「自共対決」の構図

 共産党は公示前の8議席から13議席も増やして21議席となり、議案提案権を獲得しただけではない。沖縄1区では辺野古での新基地反対の「一点共闘」という「統一戦線の萌芽形態」によって赤嶺政賢候補を当選させ、「小選挙区制の壁」を突破することに成功した。
 東京の比例代表の投票では、自民党の185万票、民主党94万票に次いで共産党は89万票を獲得して第3党になった。しかも、無党派層の投票先では一番多かったのが共産党で22.5%、自民党は20.6%、民主党は20.3%だったという。
 これまでも政策的には「自共対決」と言うべき構造が存在していた。今回の選挙では、有権者の投票行動においても、これからの国会での勢力分野としても、一段と「自共対決」の構図が鮮明になった。
 共産党躍進の最大の理由は安倍首相の暴走に対する信頼できる「ブレーキ」という役割への期待だ。それは今回が初めてではなく、昨年の東京都議選でも参院選でも示されてきた。しかし、今回の選挙は、参院選によって衆参両院の「ねじれ状態」が解消され、日本版NSCと言われる国家安全保障会議の設置や特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認の閣議決定など「安倍カラー」の強い政策が相次いで具体化され、靖国神社の参拝など「暴走」が一段と激しくなった後に行われた選挙だった。共産党にたいする「ブレーキ役」としての期待はさらに強まり、それが得票増にはっきりと示されている。
 安倍首相は、国民の反発を買うような暴走を続けた挙句、それに対する審判を下す機会を国民に提供した。安倍首相が国民世論を無視して強権的な姿勢を強めてこなければ、国民はこれほど強く反発しなかったにちがいない。そして、国民が反発を強めることがなければ、共産党への支持がこのような形で高まることもなかっただろう。
 総選挙の結果、共産党はこれまで十分でなかった国会の各種委員会での委員を確保し、いままでよりずっと多くの共産党議員が幅広い領域で論戦に参加できるようになる。様々な情報へのアクセスも容易になって調査能力が格段に向上し、省庁への影響力も強まり、独自の議案提案権によって法案を提出することができる。また、党首討論に志位委員長が出て直接安倍首相と渡り合うことにもなる。
 これほど、安倍首相にとって困った事態はない。今からでも国会運営の難しさにたじろぐ思いなのではないだろうか。

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