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3月17日(火) 「戦後70年談話」をめぐって形成されつつある安倍包囲網 [首相]

 安倍首相にとっては頭の痛い問題になりつつあるのではないでしょうか。「戦後70年」
に当たって発表するとしている談話です。

 これについては、当初、新しい談話を出すことによって村山談話を換骨奪胎することを狙っていたようです。萩生田光一自民党総裁特別補佐が明らかにしていたように、新談話によって「上書き効果」を生じさせ、事実上、村山談話の内容を修正することが目指されていました。
 しかし、ここにきて次第に様子が変わってきたように見えます。「戦後70年談話」をめぐって、安倍首相の目論みを許さない方向での包囲網が次第に形成されつつあると言って良いのではないでしょうか。
 安倍首相の大きな誤算は、「戦後70年談話」が思いのほか国際的な注目を浴びるようになってしまったということにあります。それは、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいく」と言い続け、「部分的には引き継がない」ことを示唆してきた安倍首相本人がもたらした結果でもあるのですが……。

 すでに今年の初めにアメリカからのジャブが繰り出され、アメリカ政府がこの問題に大きな関心を抱いている事実が明らかになりました。サキ報道官が1月5日の記者会見で「村山談話、河野談話が示した謝罪は、日本が近隣諸国との関係改善に努力をする中で重要な一章を刻んだというのがわれわれの見方だ」と強調し、村山談話や河野談話を踏襲するようクギを刺したからです。
 これに対して安倍首相は、「先の大戦への反省、そして戦後の平和国家としての歩み、そして今後、日本としてアジア太平洋地域や世界のために、さらにどのような貢献を果たしていくのか。世界に発信できるようなものを、英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく考えであります」と述べ、「大戦への反省」を口にせざるを得なくなりました。この発言を受けて、サキ報道官も「(安倍氏の発言は)歴史問題と戦後日本の平和への貢献に前向きなメッセージを含んでおり、歓迎する」と発言しました。
 このサキ報道官の発言について前日の発言を「訂正」したという報道がありましたが、それは「訂正」ではなく、首相の釈明を「歓迎」するものだったのです。これによって、少なくとも安倍首相は「戦後70年談話」で「先の大戦への反省」に言及することを約束した形になりました。

 その後、首相談話に関する政府の有識者会議「21世紀構想懇談会」が発足しました。その座長代理を務める北岡伸一国際大学長は3月9日、東京都内で開かれた国際シンポジウムのパネル討論で、先の大戦に言及して「日本は侵略戦争をした。私は安倍首相に『日本が侵略した』と言ってほしい」と述べています。
 安倍首相はこれまで、「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」として、「先の大戦」が侵略戦争であったかどうかについて、あいまいな発言を繰り返してきました。これに対して、北岡さんは「侵略戦争」であったことをはっきりさせるべきだとクギを刺した形になります。
 この発言が有識者会議の答申にどう生かされるかは分かりません。しかし、集団的自衛権行使容認に向けての露払い役を務めた北岡座長代理でさえ、「侵略」であった事実を認め、それを明言することを求めた事実は重要でしょう。

 さらに、先日訪日したドイツのメルケル首相も歴史認識に触れ、「過去の総括は、和解をするための前提になっている。和解の仕事があったからこそ、EUを作ることができた」と、地域の安定には自国の「過去の総括」が必要だという見方を示しました。また、かつての敵国とどのようにして和解することができたのか、との質問には、「隣国が寛大でなければ和解は実現しないものだったが、ドイツが真摯に歴史に向き合おうとしたことが重要だった」と述べ、周辺国と和解した経緯を紹介しています。
 和解のための努力が必要だということ、その前提は「過去の総括」であり、そのためには「真摯に歴史に向き合おうとする」ことが重要だというのが、メルケル首相から安倍首相に対する忠告でした。この報道に接して、以前、ポーランドのワルシャワ郊外でユダヤ人を強制的に隔離したゲットーの跡地を訪れた時のことを思い出しました。
 ここには、西ドイツ時代のブラント首相が訪問して慰霊碑にひざまずき花輪をささげている姿を刻んだレリーフが残されていたのです。日本の首相で、かつての植民地支配や侵略戦争での残虐行為に対して、このような明確な行動によって謝罪した人が一人でもいたでしょうか。

 逆に安倍首相は、過去の「談話」という形での謝罪でさえ、その効果を曖昧にし失わせようとしています。それは、これまでの和解のための努力を無にしてしまう愚かな行為であるということが分かっているのでしょうか。
 メルケル首相の言うように、「戦後70年談話」の前提は「過去の総括」であり、そのためには「真摯に歴史に向き合おうとする」ことが必要です。「戦後70年談話」をめぐっては、このような形で国際的にも包囲網が形成されつつありますが、それによって安倍首相は自縄自縛に陥ってしまったのではないでしょうか。

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