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9月21日(木) 解散・総選挙を前にした情勢と課題 改憲を阻止し、今こそ活憲の国づくりをめざそう(その2) [論攷]

〔以下の講演記録は『生きいき憲法』No.84 、9月5日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 アメリカの思惑と狙い

 アメリカは何を狙っているのか。その目的は覇権の維持。どんどん中国に追い上げられているからだ。80年代から90年代には日本に追い上げられた。これを繰り返したくない。だから、勃興する中国の頭を押さえ低迷する日本の足を引っ張って、中国に覇権を奪われず日本が再びライバルにならないようにしなきゃならない。
 そのために、中国を包囲し日本に軍拡を焚きつけてきた。岸田首相がその思惑に乗って二階に上ったから、「もういいや」と梯子を外された。アメリカの国務長官や財務長官が中国に行って密かに手打ちしたじゃないですか。その前にCIA長官も行っていたんですよ。中国との関係を改善し、秋には習近平がアメリカに行ってバイデンとトップ会談をする予定だ。
 アメリカとしても、あまりに緊張が激化し自国が戦争に巻き込まれては困る。といって、緊張がなくなっても困る。なくなったら、日本や韓国、台湾に武器を売りつけることができなくなるから。適度な緊張の高まりとその継続が望ましいんです。
 台湾に武器援助するのだって、自国の軍需会社にお金を払っている。日本や韓国には高い武器を売りつける。在庫整理のために、トマホークや国内では調達を停止しているオスプレイなどを売りつけようとしている。
 日本はアメリカから最新鋭の武器を購入していますが、そのまま日本が自由に使えるわけじゃないんですよ。IC化された重要な部分は全てブラックボックスになっている。だから、中枢部分についてはアメリカの軍需会社、製作している会社に委ねる。トマホークだってアメリカの製作会社の許可がなければ発射できない。従属国そのものですよ。絵に描いたような植民地になっている。

 ウクライナ戦争こそ「専守防衛」

 さらに大きな問題がある。ウクライナでの戦争が今回の大軍拡のきっかけになっているわけですけれど、岸田首相が目指している戦争はウクライナ以上のものなんです。どういうことかというと、ウクライナが今戦っている戦争は、典型的な「専守防衛」型の戦争だからですよ。基本的にはウクライナの自国領土とその周辺だけで戦闘し、戦場になっている。
 アメリカはウクライナがロシアの領土を攻撃することを禁じ、NATOもこれに同調している。ゼレンスキー大統領はロシアの領土を攻撃しないことを約束して、アメリカやNATOから兵器の供与を受けているんです。
 アメリカはハイマースという長距離ロケット砲を供与しましたが、わざわざ射程距離を短くしている。イギリスもロシア領土を攻撃しないと約束させてストームシャドーという長距離巡行ミサイルを供与した。F16戦闘機は飛行機だからどこでも飛んでいけるけれど、ロシアの領空には入らない約束で供与された。現に、領空には入っていません。
 ウクライナの首都・キーウがミサイルで攻撃されたからといって、ウクライナはモスクワをミサイル攻撃していますか。長距離砲で砲弾を撃ち込んでいますか。巡航ミサイルやF16で爆撃していますか。やっていません。
 ところが、岸田首相は相手国領土にミサイルを撃ち込むという。そのために、当面間に合わないからトマホークを購入する。トマホークだって実際には役に立たないんですよ。20年前の兵器で時速880キロ、航続距離1,600キロです。1,600キロ先の目的に到達するのに2時間近くかかっちゃう。
 我々は全然これらのことを知らされていない。いや、本当は知らされているんだけど、ちゃんと認識していないんです。ウクライナ戦争こそが、9条に基づく国是である「専守防衛」型の戦争だと、誰も言わない。9条のないウクライナが専守防衛で戦い、9条を持つ日本が専守防衛を踏み越えた戦争を戦おうとしている。このことをテレビなどはちゃんと報道せず、評論家や解説者もその事を指摘しない。誰も言わないんです。
 なぜ言わないのか。岸田大軍拡の危険性や間違いが明らかになってしまうからです。ウクライナがやっていない、アメリカにさえやるなと言われている戦争を、岸田首相はやろうとしている。このことを、もっとみんなに知らせてもらいたい。国民の皆さんに知ってもらいたい。僕はそう思いますね。

 歴史的事実が示す9条のありがたさ

 歴史的事実が示す安保の危険性と9条のありがたさということについても、再度、ここで強調しておきたいと思います。アメリカの本質は軍産複合体なんです。アメリカは「死の商人」国家ですよ。戦争をやればやるほど、戦争があればあるほど儲かる。自国の富が増えるんです。
 自分の国が戦場になるのはさすがに困る。だけど、適度な緊張の激化、他国の戦争は「蜜の味」なんです、東アジアでの緊張の増大、日本にとっては困る、自国の安全に大きなリスクが生ずるから。でも、アメリカにとっては困らない。戦争の危機があればあるほど、兵器が売り込めるから。
 日本の利害や国益とアメリカの利害や国益とは違うんです。当たり前だ。別の国だから違うのは当然。岸田首相はそれが分かっていない。もう、頭の中がアメリカナイズされているから。脳みそがCIA化している。
 安保3文書を検討した有識者会議にもアメリカ帰りの人がたくさんいる。みんなCIAのエージェントじゃないのか。佐々江賢一郎座長は元外務事務次官で元駐米大使だからね。アメリカに行けばCIAに工作されちゃう。岸信介元首相や読売新聞社社主だった正力松太郎、自由党総裁の緒方竹虎だってCIAの関係者だった。
 こういう人たちに日本の政治を任せていることが間違いなんだ。日本とアメリカの区別がつかない。自国の利益ではなくアメリカの思惑に応えようとする。アジアの緊張を緩和し、日本の安全を確保するためのソフトパワーを増大させ、近隣諸国との友好関係、共存共栄の環境をつくることこそが日本の利益だということが理解できない。岸田さんは日本の首相なんだから、日本の立場に立って物を考えてもらいたいと思いますね。
 アメリカは今でこそ「正義の味方」みたいな顔をしているけれど、戦後78年のうち37年間は外国に軍隊を送って軍事介入していた。2年前まではアフガニスタンにも軍事介入していたじゃないですか。グラナダやパナマに侵攻したり、中南米やアフリカに軍隊を送ったりしてきた。クーデターで政府が倒れたニジェールには、今も米軍が駐留していますよ。
 トンキン湾事件をでっちあげて軍事介入したベトナム戦争で、アメリカは自国の若者5万8000人を犠牲にしてしまった。ベトナム人300万人以上の命を奪ったじゃないですか。ドルを垂れ流して経済的困難に陥り、国際社会での地位を低下させた。アメリカは大きな失敗を犯して撤退せざるを得なかった。
 このベトナム戦争で日本はアメリカの出撃・補給基地になった。安保があったから、断りきれなかったんです。米軍基地があったために不正義のベトナム戦争に引きずり込まれた。沖縄に基地があったから、米軍機が飛び立った。基地がなければ戦争を始めることも続けることも難しかったかもしれません。沖縄の米軍基地は、沖縄や日本にとってだけでなく、アメリカにとってもない方が良かったのです。
 しかし、自衛隊を送ることはなかった。なぜ自衛隊がベトナムに行かなかったのかと言えば、9条という憲法上の制約があったからですよ。韓国、タイ、フィリピン、ニュージーランド、オーストラリアなどの同盟国は軍隊を送った。9条がなかったからです。
 延べ30万人をベトナムに送った韓国は約5000人の自国の若者をベトナムで殺してしまった。民間人虐殺事件で生き残った1人の女性が裁判を起こし、その判決がソウル中央地裁であり、韓国政府は有罪になった。過去の話じゃない。今年の2月7日に判決が出たんだ。
 日本はそういうことをやってこなかった。やらずに済んだ。ベトナムで自衛隊員は1人も従軍していない。9条が守ったんです。9条の威力ですよ。安保があったから戦争に協力させられたけれど、9条があったから自衛隊は行かなかった。1人の死者も出さず1人も殺さなかったのです。
 しかし、イラクには行かされた。金だけじゃなく人も出せというアメリカからの圧力に屈してしまった。ペルシャ湾に海上自衛隊。バグダッド空港に航空自衛隊。イラクのサマーワに陸上自衛隊を派遣した。陸上自衛隊は行ったけれど、非戦闘地域だった。水を配ったり道路を補修したり、学校を建て直したりという非戦闘業務に従事しました。銃弾を一発も撃たなかった。
 なぜ、そういうところに行き、そういう業務を行ったのか。9条があったからですよ。自衛隊がイラクに引きずり出されたのは、安保があったからです。しかし、自衛隊を守ったのはまさに9条です。危険な戦闘業務から距離を置くことができたペルシャ湾の海上自衛隊も、バクダッド空港の航空自衛隊も、そしてサマーワに行かされた陸上自衛隊も、「9条のバリアー」によって守られていたんですよ。
 ドイツは戦後日本と同じような形で出発した、ほとんど非武装でした。海外派兵などできない。しかしその後、国防軍を再建して再軍備を始め、海外に軍隊を出せるようにしてしまった。憲法裁判所がこれを認めた。
 アフガニスタン紛争にドイツ国防軍が派遣され、輸送業務に従事していたとき、現地の武装勢力に襲撃されて55人のドイツ兵が殺されてしまった。同じように戦後出発したドイツは死者を出し、日本の自衛隊は出していない。ドイツに9条がなく、日本には9条があったからです。
 他方で、ドイツは原発政策や環境保護、人権や性的少数者の権利擁護、ジェンダー平等、ナチスの戦争責任の追及などでは、日本よりずっと進んでいます。周辺諸国との友好関係も日本より良好です。なぜなのか。ちゃんとした政権交代があったからです。日本ではそれが不十分だった。
 ドイツの戦争責任についても、国家指導者が明確に謝罪しています。私はワルシャワに行ったときユダヤ人を収容していたゲットーの跡地に行きました。そこにはレリーフがあった。西ドイツのブラント首相がワルシャワを訪問した際にゲットーを訪れ、ひざまずいて花輪を捧げ謝罪している姿がレリーフに刻まれ残されていた。
 ユダヤ人迫害に対し、ひざまずいて謝ったプラント首相。日本の首相はそういうことをやっていません。従軍慰安婦問題がなかったかのごとき言動を繰り返し、まともに謝罪していない。韓国に行ってナヌムの家を訪問して従軍慰安婦だった高齢女性に「ご苦労をかけましたね。申し訳ありません」とひとこと言いさえすれば、この問題は解決していたはずです。
 そうできるような政権を我々は持たず、そういう首相を生むことができなかった。これはドイツとの違いです。ドイツには9条がなく、日本にはきちんとした政権交代がなかった。これが両国における戦後史の違いを生んだ教訓です。ということで、9条こそ自衛隊を守ってきた安全保障の要だったということを再度指摘しておきたいと思います。

 9条こそ日本のソフトパワー

 この問題に関連して、最後に強調しておきたいことは、日本の安全を確保し東アジアの平和を守るという点だけで9条を評価してはならないということです。いわゆる「9条の経済効果」と言われている側面ですが、これも「経済」だけに限られない幅広い「効果」をもたらしてきたことに注目しなければなりません。
 9条という憲法上の「制約」によって、日本は軍事にお金をつぎ込まず、経済や産業発展、学術振興、福祉増進のために、経済成長の果実、国富をつぎ込んできた。高度経済成長を実現し、日本の国力を高めて豊かな社会を生み出すために9条の力が全面的に発揮されたということです。
 そして、日本という国の「平和国家」としてのイメージを生み出すうえでも、9条は非常に重要でした。この国家的イメージこそが、戦後78年かけて築き上げてきた日本の政治資産なのです。今、各国から観光客が来ているでしょ。インバウンドによる「観光立国」がこれからのビジョンであり、発展の道です。
 日本は世界中で憧れの国になっている。9条を持つ平和で穏やかな国としてのイメージ。加えて、自然が豊かで治安が良く親切で美味しい国というイメージが大きな力を発揮している。これこそが隣国との戦争を引き起こさない「抑止力」そのものです。そのような力を生み出す非軍事的な力、これこそがソフトパワーなのだということを強調しておきたい。
 それを次の世代に引き渡すことこそ、今に生きる私たちの最大の責務であり、歴史的使命なのです。来たる解散・総選挙をそのチャンスとして最大限有効に活かす、そのために市民と野党の共闘を再建し再構築しなければなりません。この課題の達成に向けて力を尽くしていただくことをお願いしまして、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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