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9月20日(水) 解散・総選挙を前にした情勢と課題 改憲を阻止し、今こそ活憲の国づくりをめざそう(その1) [論攷]

〔以下の講演記録は『生きいき憲法』No.84 、9月5日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

司会 東京連絡会の8月の懇談会を始めたいと思います。岸田内閣はずっと改憲を唱え維新がそれにハッパをかけると、解散・総選挙もいつ行われるか分からないという状況の中で9条の力を高めて打ち破る。そのために今回は、五十嵐仁さんをお招きして講演をお聞きし、その後、抱えている問題とか今後の進め方などについてヒントを持ち帰られるような会になればと思っております。それでは始めたいと思います。五十嵐先生よろしくお願いいたします。

五十嵐 皆さんこんばんは。五十嵐です。よろしくお願いします。改憲、解散・総選挙を前にした情勢をお話ししたいと思います。ただし9条の会ですから、ここで改めて安保と9条の関係についてお話させていただこうと思っています。今の状況を考えるうえで、歴史を振り返ってどういう時点に差し掛かっているのかということをしっかり認識することが何よりも重要になっていると思うからです。
 講演の要請があったときは解散・総選挙が近いとされていました。しかし、今の状況ですと早くて10月の臨時国会冒頭解散あるいは終盤、11月から12月という可能性に変わりました。通常国会で予算が成立した後の3月か4月、あるいは通常国会の最終盤の東京都知事選挙と同じ7月、一緒にやるかもしれない。なぜ解散・総選挙かと言いますと、来年9月に自民党総裁選挙があります。ここで再選を狙う。それまでに選挙で一定の成果を収め、再選を確実にしたいと岸田首相は考えているからです。
 ただし、内閣支持率がどう推移するかによって、解散できるかどうかが左右されます。我々としては内閣支持率を下げて解散に追い込み、総選挙を勝ち取るという攻勢的な姿勢で取り組んでいく必要があると思います。そういう点からいっても、今の状況を明らかにし、岸田首相が狙っている大軍拡・大増税や安保と憲法9条との関連などについて、もう一度理解を深めることが何よりも重要になっているのではないかと思うわけです。

 「崖っぷち」にさしかかった日本

 レジュメに書きましたけれど、端的に言って歴史的岐路にさしかかってきている。というよりも、いよいよ「崖っぷち」ではないか。ダラダラと坂を下ってきたわけですけど、このまま奈落の底へ真っ逆さまという極めて危機的な転換点に直面しつつある。
 その大きな背景として、プーチンが仕掛けたウクライナ戦争があるわけです。昨年の2月に戦争が始まり、これによって世界中にきな臭い空気が漂った。それまで日本国民も戦争は嫌だという気持ちが強く、軍事にはあまり関わりたくないという気分があったわけですけども、ウクライナ戦争で変わりました。
 「日本は大丈夫なのか」という気持ち。岸田首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と危機感を煽り、ウクライナ戦争という惨事に便乗して大軍拡・改憲路線を打ち出してきた。国民の不安が高まり、「軍備を強めなければならないんじゃないか、9条で平和や安全は守れるだろうか」と考える。
 軍事に対する忌避感情、嫌だという感覚が、だんだん薄れてきているのではないか。こういうなかで、再び9条の意義、その「ありがたさ」を確認する必要が生まれている。水や空気のように、あるから当たり前だと思っている、だからなくならないと分からない。
 しかし、なくならなくても歴史を振り返れば分かります。9条を大切だと思っている人の中でも、そのありがたさがしっかりと認識されていないんじゃないか。国民の多くは「安保があったから平和が保たれたんだ、日本は安全だったんだ」と思っていますが、逆なんです。
 安保があったから、日本は戦争に引きずり込まれた。9条があったからかろうじて踏みとどまってきたんですよ。後で詳しく話しますけれど、この関係をもう一度しっかりと見ておかなければならない。9条は「命綱」だ。これが切られてしまうんじゃないか。その意義、ありがたさが分かっていないから、9条を亡き者にしようという人が出てきてしまう。
 このような妄言にしっかりと反論できなければならない。そのためには9条を守らなければならないわけですけれども、必要なのはそれだけじゃない。守るだけでなく、活かさなければならない。憲法どおりの日本をつくる。このことが極めて重要になってきている。
 憲法どおりの日本になっていないから。G7サミットで日本は赤っ恥をかいた。G7のほかの国の駐日大使から日本は性的少数者の権利を促進し、同性婚を認める法的整備をしなさいと申し込まれた。岸田首相は先進国と価値観を共有していると言っているけれど。そんなことはないんです。
 LGBTQという性的少数者に対する人権保障も不十分。新しい理解増進法で「不当な差別はあってはならない」と定めた。じゃあ「正当な差別」はあっても良いのか。ジェンダー平等でも日本は146カ国中125番目です。人権、女性の権利、過去の戦争責任や植民地支配への反省などの点で。G7の他の6カ国よりずっと遅れている後進国だ。
 なぜかと言えば、憲法をちゃんと守っていないからです。憲法どおりの政治を行っていないからですよ。平和で豊かな社会、人権と環境を守りジェンダー平等を実現するという点で遅れているのは、日本国憲法が政治と生活に活かされてこなかったからだ。そのツケが回ってきているということを最初に言っておきたい。

 安保3文書のウソと危険性

 先ず、安保3文書についてお話します。これはもう何回も言われているのでよく分っていると思いますけれど。ウソだらけの文書だ。「安全保障政策の基本は変わっておりません」と岸田首相は言っている。変わっていないんだったら、3つの文書を出す必要はなかったじゃないか。大きく変えたから、有識者会議を開いて政策転換を決めて閣議決定したから3文書を出した。「変えましたよ」ということを国民に示したんですよ。変えてなかったら、なんであの3つの文書を出したのか。ここには大きなウソがある。
 敵基地攻撃能力を保有すると言っています。これもウソです。攻撃するのは「敵基地」だけではありません。「基地」だけじゃない。指揮統制機能を持つ中枢を攻撃すると言っている。日本で言えば、永田町や霞が関、市ヶ谷の防衛省ですよ。もちろん基地も攻撃する。基地プラス政治的軍事的中枢を攻撃すると言っているじゃないですか。「敵基地」じゃなくて「敵地」なんですよ。
 これを「反撃」能力と言い換えていますが、これもウソです。反撃とは、攻撃されてからするものです。攻撃される前の「着手」段階で攻撃する。反撃じゃない。この着手というのは、誰がどのように判断するのか? 日本にはそんな能力はない。アメリカの情報に頼るしかない。しかし、アメリカはウソの情報を流すかもしれない。ベトナム戦争ではトンキン湾事件をでっち上げて攻撃したアメリカですよ。そのアメリカに着手したかどうかの情報を頼る。こんな危険なことはない。
 北朝鮮がミサイル発射をしたことを知らせるJアラート。ミサイルが日本を飛び越えてから鳴らしている。これが現状ですよ。そんな日本にこれから発射するという着手段階で対応できるのか。それはミサイル発射実験ではなく実際に攻撃するための発射だと、誰がどのように判断するのか。
 攻撃じゃなくただの実験だったのに、着手したとアメリカに言われて日本がミサイルを発射すれば先制攻撃そのものですよ、これは。国際社会から見たら日本が攻撃を仕掛けたと判断される。こんなことをやったら相手から反撃される。日本全土が攻撃されます。南西諸島の要塞化など全く無駄。南西諸島を攻撃する必要がない。日本全土が標的になる。
 北朝鮮のミサイルは日本を飛び越えている。中国の中距離ミサイルだって射程圏内に入っている。スタンドオフミサイルなんていっていますが、射程圏外なんてどこにもない、日本には。政府だって分かっている、そんなことは。だから。全国の自衛隊基地283地区1万2636棟を強じん化、地下化するというわけです。なぜ地下に入らなきゃいけないのか。ミサイルが飛んでくるからですよ。こういうことを今やろうとしているということを我々はしっかりと認識しなきゃならない。
 防衛政策の基本は変わっていないとも言っています。半分本当なんですね。平和安全法制(戦争法)が制定された段階で変わっていたからです。日本が攻撃されていなくても、アメリカが攻撃されれば米軍防護ということで一緒に戦争できる。日本の存立危機事態であると認定すれば、集団的自衛権に基づいて参戦できます。これは2015年に既に変わっていたんです。
 ただし、それをやるための実力、実践的能力を自衛隊は持っていなかった。それを今、本格的に身につけようというのが、今回の安保3文書の趣旨です。枠組みや制度はできている。それを実際に、やれるようにしようというのが岸田大軍拡の狙いなんです。

 対米従属の変質と深化

 どういうふうにやるのか。集団的自衛権に基づいて、日米の軍事的一体化、融合するということですね。統合防空ミサイル防衛(IAMD)という新しい戦略的構想に自衛隊が組み込まれる。今の自衛隊は陸上・海上・航空に分かれています。この3自衛隊を一つにまとめて統合司令部を作る。そしてこの統合司令部とアメリカ軍が一体化する。アメリカ軍は今、ハワイにインド太平洋軍の司令部がある。これをハワイから横田に移し、自衛隊の統合司令部と合体し融合する。この計画はすでに発表されていて皆さんもご存じのはずなんですが、ほとんどマスコミで報じられていない。
 今まで対米従属と言ってきましたけれど、この従属のレベルが全く違ってきている。米軍と融合し一体化して自衛隊は米軍の傘下に組み込まれます。自衛隊の最高指揮官は首相ですが、その指揮権はなくなっちゃいます。日本の国家的自立、主権はどうなるのか。そんなものはみんな消えてなくなり、完全な従属国、植民地になる。
 今、この対米従属の質的転換が図られようとしています。1つは、その危険性が従来になく高まっていることです。今までも自衛隊は米軍と一緒に戦争に参加することが狙われ、海外派兵に向けて要請や圧力がかかってきました。そのときの戦場は中東地域です。今はそうじゃない。戦場は台湾周辺であり、東北アジアです。日本全土が戦争に巻き込まれ、戦場になってしまう危険性が生まれている。
 アメリカに言われて中国にミサイルを撃ち込んだりしたら、直ちに反撃されます。全面戦争になっちゃいます。アメリカと中国が戦えば、戦後初めて国連安全保障常任理事国同士の戦争になってしまう。第3次世界大戦あるいは核戦争に発展する大きなリスクがあることを、岸田首相は分っているのか。この戦争のリアリティに対する想像力が、岸田首相には決定的に欠けている。
 2つ目の問題は、北大西洋条約機構(NATO)への接近と連携の強化です。今、ウクライナはロシアと戦っていますけど、これは安全保障常任理事国同士ではない。ウクライナはNATOの一員でもない。ところが、日米軍事同盟・安保とNATOがドッキングしようとしている。
 岸田首相は盛んにNATO との接近を図ってNATO理事会に出席し、ヨーロッパの国々との軍事的連携を強めています。イタリアやイギリスと戦闘機の共同開発をし、フランスと合同軍事演習を行い、イギリスとも軍事協定を結んでいる。米中対立の場合、NATOと共に戦おうとしている。極めて危険な道を歩もうとしています。
 3つ目です。圧力の受け入れではなく、自発的な協力という形で従属の質が深まっている。今まで、アメリカから軍事分担圧力がかかってきても、9条があるからと断ることができた。受け入れる場合も、押し切られる形でした。しかし、安倍元首相や岸田首相はそうではない。自ら進んで、能動的に軍事同盟を強化しようとしている。
 バイデンは大統領選挙に向けての演説の中で、私は3回岸田と話して軍事費を増やすよう説得したと明かし、日本政府が「独自の判断だ」と申し入れた。そうしたらバイデンは訂正した。「首相はすでに決めていた。説得は必要なかった」と。岸田は自ら進んで軍事費増大を決めていたというのです。今までとは違うんです。
 安倍晋三元首相の回顧録にはなんて書いてあるのか。アメリカ・ファーストと言ってトランプが世界の安全保障から手を引こうとしたとき、「私は『国際社会の安全は米国の存在で保たれている』とトランプには繰り返し言いました。米国の国家安全保障会議(NSC)の面々と私は同じ考えだったので、NSCの事務方は、私を利用して、トランプの考え方を何とか改めさせようとすらしました」(179頁)。世界の警察官であり続けろと、安倍がトランプを説得したんです。こういう形に変化している。日米軍事同盟は変質し、その危険性が今まで以上に高まっていることを直視しなければなりません。

 やってはならずできもしない大軍拡

 このような中でアメリカと一緒に戦争しようとするのが岸田大軍拡の構想です。しかし、それはやってはならないことだ。憲法の制約があるからです。武力による威嚇を強め、国際社会の分断と対立を拡大するからです。資料として憲法前文、9条と防衛庁長官や首相などの言葉を掲載しましたが、これはもう皆さんよくご存じのことです。
 9条には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書いてある。戦争や武力の行使だけじゃない、「武力による威嚇」もやらないと書いてある。
 トマホークを400発も購入するというのは「武力による威嚇」そのものじゃないですか。やらないと言ったことをやろうとしている。しかも、トマホーク1発アメリカ国内では2億円だけど、対外有償軍事援助(FMS)で2.5倍の5億円で売りつけようとしている。だから2113億円もかかる。
 オスプレイだって、アメリカ国内ではもう調達停止している、なぜか? 落ちるからですよ。この前だって落ちた。構造的欠陥がある。こんな欠陥機、アメリカ国内で軍はもう買わない。在庫をどうしようかっていうことで日本に売りつける。良いお得意さんだ、日本は。佐賀空港の横に、オスプレイのための飛行場を作っているんだから。こういうばかなことをやっているんですよ。岸田さんは。
 それだけではない。岸田大軍拡を、そのまま実行できる可能性は極めて低い。そのための金がない、人がいない、技術もないからだ。1,000兆円を超える国債が積み上がっている。これから5年間で43兆円、実際には60兆円ものお金をつぎ込んで、世界第3位の軍事大国になる。軍事大国にならないというのも真っ赤なウソだ、
 軍事費の調達をどうやるのか。増税は必要になるけど開始時期は未定で、2025年以降に先送りされそうです。どうやって税金を集めるかは、まだ決まっていない。歳出改革や決算余剰金、国有財産の売却などの税外収入も当てにしているが、どれも確実な金額を出せるほど安定した財源にはならない。
 人がいないという問題もある。今、自衛隊の定員は24万7,000人ですが、1万人以上不足しています。なり手がいない。なってからもやめる人が多い。これからますます人材は奪い合いになります。企業・公務員・教員、みんな人手不足で、自衛隊員の募集は苦戦するにちがいありません。
 しかも、今までは「いや、人助けできますから」と言ってきた。「災害救助で自衛隊、頑張っているでしょ」と言ってね、お宅の息子さんどうぞ自衛隊に入れてくださいよと勧誘してきた。しかし、これからは戦争になるリスクが高まる。「いやあ、人殺しできますよ」と言って勧誘するのか。それで自衛隊に入れたいと思う親がいるのか。入りたいという若者がいるか。
 今でも中途退職者が増えている。防衛大学校も退学者や任官拒否者続出ですよ。かき集めた人たちの質も問題。同僚に銃をぶっ放すような人がいたり。パワハラやセクハラもある。自殺未遂や集団詐欺事件まで起こしていると防衛大学校の等松春夫という現役教授が実名で告発しています。電子化された最新鋭の兵器をかき集めても、兵器の山ができるだけ。管理し運用できるのかということです。
 その兵器だって国産で改良するという、これが3番目の問題で、そのような技術があるのか。一二式地対艦誘導弾や極超音速誘導弾とかを開発する技術力があるのでしょうか。三菱重工とJAXAに任せようとしているけど、三菱重工は中距離旅客機(MRJ)の自主開発を断念した。JAXAの宇宙開発も失敗だらけ。H3ロケットの発射は延期され、能代でやっていたイプシロンSのエンジン燃焼試験で爆発しちゃった。旅客機やロケットは駄目でもミサイルなら作れるのか。

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