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10月1日(日) 現代史のなかでの岸田政権をどう見るか(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.842、2023年10月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 『東京新聞』2023年5月28日付は「データでみる失われた30年」という特集を組んでいます。そこに掲載されている「企業の時価総額ランキング」は衝撃的でした。日本の企業は1989年にトップ10に7社も入っているのに2023年には1社もなく、トップ100でも39位のトヨタだけなのです。日本企業の凋落ぶりを象徴するようなデータでした。
 戦後の日本は復興を成し遂げ、高度経済成長によって1968年には国民総生産(GNP)でアメリカに次いで世界第2位となりました。『Japan as No.1』(ジャパンアズナンバーワン)という本が出版されたのは1979年です。それからの10年間が戦後日本の絶頂期だったのかもしれません。
 その後の「失われた30年」を経て、今の日本はどのような地点にあるのでしょうか。長い坂をダラダラと下り、とうとう崖っぷちにさしかかっているようにみえます。足を踏みはずせば、奈落の底へと真っ逆さまに転落してしまうような崖っぷちに。
 この危機的な局面を招いているのが岸田政権であり、その特徴と問題点を歴史的に位置づけて解明したいと思います。時事通信が行った8月の世論調査によれば内閣支持率は26.6%で危険水域に突入しました。崖っぷちに立っているのは、岸田政権も同様かもしれません。

 「新しい戦前」を招き寄せる外交・安保政策

 岸田政権の安保3文書に基づく大軍拡・大増税路線の欺瞞と危険性については、これまで何度も指摘してきましたので繰り返しません(『学習の友』6月号掲載の拙稿「ウクライナ戦争に便乗した『新たな戦前』を避けるために」参照)。ここで指摘したいことの第1は、既成事実を先行させて国会審議自体を影の薄いものとしてきた手法の問題です。
 岸田大軍拡は1960年の安保改定、2015年の戦争法制定に次ぐ第3の政策転換でした。安保改定は条約交渉と国会での審議・承認を必要とし、国民的な反対運動が巻き起こり、戦争法制定でも国会での審議を契機に大きな反対運動が展開されました。
 岸田首相はこれを避けようとして有識者会議での密室審議を優先し、閣議決定と3文書公表の後に防衛産業支援法と防衛財源確保法を通常国会に提出しています。順番を逆転させることで反対世論の高まりを避ける姑息なやり方をとったわけです。その結果、大軍拡についての国民の理解は深まらず、国会審議も低調に終わりました。
 第2は、対米従属の深化とNATOへの急接近です。日本との貿易摩擦に苦慮したアメリカは1980年代中葉から軍事分担圧力を強め、中曽根内閣はこれを受け入れます。イラク戦争で日本は自衛隊を派遣しますが、憲法9条の制約によって非戦闘地域や非戦闘業務にとどまりました。憲法によって守られていたのです。
 ところが、岸田首相は進んで軍事費増を表明し、専守防衛を踏み越える積極的能動的な従米路線に転換しました。しかも、ウクライナ戦争に乗じてNATOやヨーロッパ諸国との軍事的連携を強めています。これまでとは大きく異なる安保の変質が生じているのです。
 第3は、日米韓3か国による新たな軍事ブロック形成の危険性です。キャンプデービッド会談(23年8月)で結束を確認した3か国首脳は「共同声明」で安保協力の強化を目的に首脳・外相・防衛相・安保担当の政府高官それぞれによる協議体を設け、「定例化」して年1回以上開催することを約束しました。
 これは日米間の軍事協力をNATO並みに引き上げ、ギクシャクしてきた日韓の外交的軍事的連携を強化し、政権が変わっても揺らぐことのない枠組みを作り出そうとするものです。このような新たな軍事ブロックの形成は東アジアにおける分断と対立を深め、軍事対軍事の競争をエスカレートさせ、緊張を緩和するどころかますます激化させるだけです。

 生活を破壊する経済・財政政策

 戦前の日本は「富国強兵」政策を採用しました。今の岸田大軍拡は軍事大国化して貧しくなる「強兵貧国」政策です。これから戦争になるかは国際情勢いかんですが、貧しくなることは確実です。これまでも「失われた30年」によって下り坂を辿ってきたことはすでに指摘した通りです。
 国内総生産(GDP)は今年中にドイツに抜かれて4位になると予想されています。一人当たりGDPはさらに貧しく27位です。国際競争力は37位へと後退しています、実質賃金は低迷し続け、過去10年間で24万円の減少です、最低賃金(全国平均)が時給1000円を超えて騒がれていますが、オーストラリアの最賃2200円の半分以下にすぎません。
 このような経済の低迷を抜け出すとしていたのがアベノミクスでした。しかし、その「3本の矢」(金融政策、財政政策、成長戦略)は実現せず、マイルドなインフレになれば景気が回復するというリフレーション理論や、富める者が富めば貧しいものにも富が滴り落ちるというトリクルダウン理論は幻に終わりました。
 とりわけ深刻なのは異次元金融緩和の後遺症です。黒田日銀総裁の後を受けた植田和夫新総裁も脱出に苦慮しており、「誘導する長期金利は0%、めどは0.5%、上限は1%」というあいまいな方針しか出せず、継続か修正か分からない「日銀文学」だと皮肉られているほどです。
 今後も実質賃金や最低賃金の引き上げ、年金の増額は期待できません。コロナ禍の苦境を救うために世界103か国・地域で実施された消費税の引き下げもなく、インボイス制度の導入で実質的に消費税を引き上げようとしています。防衛財源確保法の制定で生活支援の財源は軍拡に回され、増税も予定されており、少子化対策の財源確保のために社会保険料も増額されようとしています。
 ウクライナ戦争を契機とした物資不足と値上げラッシュの下にある国民生活は異次元の金融緩和による円安のツケが回ってきて、まさに崖っぷちに立たされています。政治を変えて経済・財政政策を転換しなければ生活を守ることのできないギリギリの局面にあるのが現状です。

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