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3月23日(日) 「2006年の転換」に関連する与党内部の動き [論攷]

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 春の陽気と言うにふさわしい、うららかな気候になりました。浅川縁では、マラソン大会が開かれ、沢山の人が汗を流していました。
 先日降った雨で、南浅川にも水が流れています。それまでは、干上がっていたんですが……。
 
 さて、昨日の続きです。まず、次の発言をお読み下さい。

 調査会の初会合の前に、諮問会議のある幹部が、「労働市場の規制緩和は経営者の立場に立って議論しているのではない」と釈明しに来た。それに対し、私は、「御手洗(冨士夫・日本経団連会長)さんや八代さんにしても、どんどん、経済界の論理を振りかざしてもらって結構だ」と答えた。
 今回の議論ばかりは、自民党や政治家が労働市場の規制緩和に反対しても、「抵抗勢力」になることはあり得ない。負担ばかりを強いられてきた国民はそうはみない。むしろ、経営者の論理を理解する層の方がマイノリティー。こちらも言いたいことはどんどん言い、経済界にはヒール(悪役)になってもらう。

 この発言は、自民党の後藤田正純衆院議員のインタビューで、『エコノミスト』2007年1月2・9日付迎春合併号に掲載されたものです。その表題は、「経済界は、まだ金儲けが必要なのか」という刺激的なものでした。
 ここで、後藤田さんが「調査会」と言っているのは自民党内に結成された雇用・生活調査会のことで、初会合が12月13日でした。このインタビューは、その直後に行われたものだと思われます。「12月13日の初会合の様子はどうだったのか」という問いがあるからです。これに対して、後藤田さんは、次のように答えています。

 60人が参加し、20人が発言した。連合の労働法改正に関する要望書よりも、中身が広範囲で充実していたくらいだ。具体的には、最低賃金の問題から、採用の際の年齢制限の撤廃、パート労働者の労働条件・社会保障の充実、仕事と生活の両立である「ワークライフバランス」の考慮など様々な提言があった。これまで、労働法制は規制緩和の一点張りだったが、これからは党が責任を持って、規律ある労働市場の創設を働きかけていく。

 この発言は、与党内における「政の逆襲」の始まりを示しています。とりわけ、最後の言葉が重要でしょう。「これまで、労働法制は規制緩和の一点張りだったが、これからは党が責任を持って、規律ある労働市場の創設を働きかけていく」と言っているのですから……。
 「これからは」、「これまで」とは違うと言っているのです。「規制緩和の一点張り」ではなく、「党が責任を持って、規律ある労働市場の創設を働きかけていく」と……。
 このインタビューに答えている後藤田さんは、新たに結成された自民党雇用・生活調査会の事務局長で、「仮想敵」は経済財政諮問会議です。そのことを知っていたからでしょう、「諮問会議のある幹部が……釈明しに来た」というのですから……。

 この釈明しに来た「ある幹部」とは、誰だったのでしょうか。まさか、御手洗さんだったとは思えませんが、ひょっとしたら、ここに名前が出ている八代さんかもしれません。実は、八代さんは、この後に開かれた2007年1月18日の経済財政諮問会議の席上、次のように発言しているからです。

 わかりやすいという点では、労働市場改革も生産性向上に不可欠だが、なかなか国民に理解していただけない。今回のホワイトカラーエグゼンプションもそうだが、反対派が「残業代ゼロ法案」とワンフレーズで表現した。これに対してちゃんとした対応がとられていない。……これからは国民の理解を得るためにも、できるだけ分かりやすい説明をする。労働市場改革は決して企業の利益のためではなくて、労働者自身の利益のためにやるのだということを、是非、諮問会議の下の労働市場改革専門調査会でも訴えていきたい。

 ここで発言されている「労働市場改革は決して企業の利益のためではなくて、労働者自身の利益のためにやるのだ」という八代さんの弁明と、後藤田さんが紹介する「労働市場の規制緩和は経営者の立場に立って議論しているのではない」という釈明とを比べてみてください。ほとんど、同じような内容です。
 この発言からすれば、釈明のために後藤田さんを訪れたのは、八代さんだったのではないかと想像されます。もちろん、ご本人に、確かめたわけではありませんが……。

 いずれにせよ、このようにして、自民党内に新しい調査会が発足しました。これも、2006年の年末であったことにご注意下さい。
 自民党雇用・生活調査会の2006年12月13日の初会合もまた、私が「2006年転換説」を唱える根拠の一つになります。先に紹介したインタビューで、後藤田さんは「市場万能主義を主張する時期は終わりを告げている」として、次のように語っていました。

 経済と労働は切っても切れない関係だ。いくら、政府が経済成長戦略を掲げ、GDPを増やし税収増を目指しても、健全な労働市場と消費社会がなければ、経済・社会の安定はない。バブル崩壊後の経済を立て直すうえで、企業は「設備、借金、雇用」の3つの過剰を減らしてきた。そして、過剰雇用でリストラされた正社員を派遣、パートといった非正規雇用で補ったことが企業の利益につながっている。
 その結果、大手企業は「いさなぎ景気超え」を謳歌しているが、その一方で、生活保護を受けている世帯は100万世帯を超えている。最低賃金は先進国のなかで米国に次いで2番目に低く、ワーキングプアの問題は深刻だ。憲法25条の生存権の保障の精神からしても見て見ぬふりはできない。
 財界は、労働市場の一段の流動性が大事で、規制緩和を継続しろと言っているが、まだ、金儲けが必要なのか。市場万能主義を主張する時代は終わりを告げている。

 その通り!、と言いたいような発言です。さすが、故後藤田正晴の又甥だけのことはあります。
 イヤー、自民党はしぶとい。それに幅が広い。こういう人物を内部に抱え込んでいるわけですから……。
 民主党はどうでしょうか。これだけの認識を持ち、発言する議員はいるのでしょうか。
 もちろん、非正規雇用についての国会質問で大きな反響を呼んだ、共産党の志位委員長のような例もあります。各政党が、最低賃金の引き上げやワーキングプアの解決に向けて競い合うというような状況が、是非、生まれてもらいたいものです。

 いずれにせよ、このようにして、「政の逆襲」が始まりました。潮の流れは、与党内部でも変わりつつあったということです。
 そして、このような状況の変化によって、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入が葬り去られることになります。07年1月16日、安倍首相は日本記者クラブで記者会見を行い、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入について「今の段階では難しい」と発言し、通常国会への法案の提出を断念する意向を明らかにしました。
 「労働ビッグバン」の大きな柱が挫折した瞬間です。このような潮目の変化は、その後も続いていると見て良いでしょう。

 このような変化の背景には、以上に見たような与党内部における力学の変動があったわけですが、それは何故、生じたのでしょうか。そのような変化を生みだした力は、一体、何だったのでしょうか。


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