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11月18日(火) 総選挙で問われるもの-歴史的意味を考える [論攷]

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〔以下の論攷は、東京土建一般労働組合が発行している『建設労働のひろば』第68号(2008年10月号)に掲載されたものです。〕

自民党政治の終焉
総選挙で問われるもの-歴史的意味を考える

 福田首相の突然の「政権投げだし」によって、麻生新政権による総選挙が目前にせまりました。今回の総選挙では何が問われているのか、歴史的に見るとどういう意味を持っているのかを、法政大学大原問題研究所所長の五十嵐仁先生に聞きました。

 安倍、福田と2年続けての政権投げ出しはなぜ起こったのか

 安倍さんや福田さんでは立て直せないほどに、自民党政治がいきづまってしまったということです。本当は、2000年の森首相のときに自民党政治はアウトだったのです。
ところが、小泉首相がたくみなパフォーマンスで新自由主義的構造改革という“劇薬”を投ずることによって、一時的な延命に成功しました。しかし、生き延びはしたものの、構造改革によって、地方、高齢者、業界団体、派閥や官僚との関係など、それまで自民党政権を支えていた社会基盤や支持構造もズタズタになってしまいました。
それに気がつかず、「今がチャンス」だと勘違いしたのが安倍前首相です。構造改革がもたらした「激痛」の緩和こそが急務だったのに、「戦後レジームの転換」や「新憲法制定」など、まったくとんちんかんな復古主義に走り、参議院選挙で大敗北して挫折しました。
辞任後、体調不良が原因だと明かされましたが、今ではピンピンしているではありませんか。腹の調子が悪いから首相を辞めるなんて、「身命を賭して職に当たる」覚悟がなかったと言われても仕方ありません。一国を預かる宰相としての資質に欠けていたということでしょう。
福田首相は、構造改革路線を修正して、従来の官僚主導型の自民党政治に戻そうとしたのですが、そのために自民党内部の亀裂を拡大させて立ち往生してしまいました。構造改革の負の遺産の克服は、自民党の枠内にとどまるかぎり、誰がやってもうまくいきません。
福田さんの突然の辞任の背景には、三つの亀裂が存在していました。新テロ特措法の延長問題をめぐるアメリカとの亀裂、総選挙時期や定額減税などをめぐる公明党との亀裂、そして構造改革をめぐる自民党内の亀裂です。
直接的な引き金は公明党との亀裂でしたが、インド洋での給油問題をめぐって、福田さんはアメリカと公明党との板挟みになってしまいました。進退窮まった末に、総理の椅子を投げ出して華々しく総裁選挙をやり、新首相の人気があるうちに総選挙を実施しようと考えたのです。しかし、自民党のために国政に対する責任を放棄するというのは、まったくの本末転倒で大きな問題です。そこまでやらなければならないほどに、自民党は追いつめられたということでしょう。積年のウミが出て、統治能力を失っているのです。

歴史的には今回の総選挙はどのような位置づけにあるのか

戦後最大の選挙であり、21世紀はじめの大きな政治的枠組みを決定する選挙です。半世紀以上与党だった自民党に今度こそ引導を渡す選挙だということです。
1955年の結党以来、自民党は統治政党であり続けました。93~94年の一時期、野党になりましたが、あれは武村正義さんや小沢一郎さんたちが分裂して自民党を出ていったためで、選挙で負けた結果ではありません。そのせいもあって、すぐに自民党は政権に復帰してしまいました。
今回は、選挙の結果として、明確な民意によって自民党政権に引導を渡さなければなりません。昨年の参議院選挙で、自民党の“息の根”は半分とまっています。今回の総選挙は、後の半分をとめて、政権から引きずり下ろすチャンスです。
ですから、自民党も延命に必死です。5人の候補を並べての総裁選でも、候補同士は論争などせず、民主党攻撃ばかりでした。明確に総選挙を意識した、総選挙対策としての総裁選だったからです。
マスコミも情けないじゃありませんか。3年前の「郵政選挙」で、小泉さんの思惑に乗せられて上手く利用されてしまったのに、また今度も、自民党の宣伝に利用されています。少しは学習して、自民党の狙いを見破って欲しいものです。

総選挙は「二大政党」の選択選挙なのか

自民党と民主党という二つの大きな与野党が対峙している以上、そう見えることは否定できません。また、民主主義の作動という点でも、世界に例のない半世紀以上続いている自民党政権を交代させることには、大きな意味があります。政権交代なしには、日本政治の民主的変革が次の段階にいかないということも明らかでしょう。
しかし、政治のあり方から言えば、国民が本当に選択すべきなのは「第3の道」であると思います。これは今回の選挙だけでなく、一つの時代における新しい選択肢です。
自民党は、小泉政権の「アメリカ型」(新自由主義的な構造改革)によって、「旧日本型」(官僚主導の利益分配政治)のために行き詰まった袋小路から脱出しようとしました。しかし、かえって貧困化や格差の拡大、将来への不安など多くの問題を生んでしまった。福田さんは、そこから旧日本型に戻そうとしましたが、構造改革路線の継続か転換かをめぐって亀裂を深めました。その結果としての政権投げ出しであったことは、先に述べたとおりです。
民主党にも前原さんのように「アメリカ型」を目指す勢力がいますが、今は小沢さんの下で「旧日本型」に近い勢力が強くなっています。しかし、自民党と同様、このいずれの路線であっても、いずれ行き詰まることは明らかです。
このいずれとも異なる路線が「第3の道」です。図(省略)に示されているように、現在では、共産党、社民党、そして民主党の一部がこの道を志向しています。その政策的な軸は三つあると言って良いでしょう。
第1は、日本国憲法を守る立場に立つことです。憲法の理念を実際の政治に活かす「活憲」をめざせば、なお結構です。
第2は、アメリカから自立することです。新テロ特措法など、外交・安全保障の問題だけでなく、経済や金融についてもそうです。
第3は、新自由主義政策と手を切り、大企業の側ではなく労働者、生活者の側に立つということです。労働の再規制を目指さなければなりません。
総選挙では、この「第3の道」を21世紀の日本の進路として大きく示せるかどうかが重要な争点になるでしょう。また、このような勢力を大きくすることが、自民党やアメリカ、財界などに妥協しがちな民主党をけん制することにもなります。

総選挙の結果によって日本はどうなるのか

今度の選挙ではっきりしていることは、自民党にとって勝利はなく、負けをどの程度に押さえられるかということだけです。麻生さんが暴言・失言で新首相としての人気を失う可能性もありますから、自民党にとっては厳しい選挙でしょう。
もし、自公で過半数を制したとしても、これまでのように「3分の2」を越える議席をもつことは考えられません。「衆議院での再可決」が不可能になった状態での参議院との「ねじれ」になります。きわめて不安定な政権になるでしょう。
それを克服しようとして、民主党に対してさまざまな工作が行なわれる可能性があります。福田さんがこころみた「大連立」や民主党の一部を取り込む「政界再編」の働きかけです。しかし、過半数を維持したとしても、自民、公明は議席を減らしますし、次の選挙では民主党政権ができるかもしれないのですから、その実現はむずかしいと思います。「勝ち馬」に乗る人はいても、「負け馬」に乗る人はいないでしょう。
衆議院で「3分の2」を越える与党議席を持っていても、1年足らずでいきづまったのが福田政権です。次の政権が自公で過半数を維持しても、また解散・総選挙となる可能性が高いと思います。
もし、自公両党で過半数を失って政権交代となると、自民党の方が分裂の危機におちいります。というより、この機会に分裂させ、完膚なきまで打ちのめさなければなりません。94年の村山政権の時は、せっかく社会党が首相を握ったのに自民党が許容する政策の枠内でしか動けず、その延命と復権を手助けする結果になりました。この轍をふむべきではありません。野党になった自民党が再起不可能になるくらい決定的な打撃を与えるべきです。
自民・公明と民主・社民の与野党勢力がいずれも過半数を得られなければ、共産党がキャスティングボートを握る可能性が出てきます。そのときにはどういう対応をとるのでしょうか。もしそうなれば、現実政治を動かす政党としての判断や力量が問われることになるでしょう。
共産党についていいますと、この間の貧困問題や非正規雇用問題などへの対応もあって、社会的評価が高まっていますし、若者にも人気がある。総選挙では前進すると思います。全選挙区には候補者を立てないという方針も、革新無党派層に評価されています。しかし、力不足の選挙区に立てないということではなく、与野党の立候補状況を踏まえて候補者の擁立を政治戦略的に判断するということも必要ではないでしょうか。
戦後、日本はアメリカにずっと追随してきました。新自由主義政策の採用や構造改革も、アメリカ追随の結果でした。しかし、アメリカはアフガニスタン攻撃やイラク侵攻で大失敗しました。経済でも、リーマン・ブラザーズは破綻し、住宅金融会社2社やAIGを公的資金の導入で救済しました。これらは市場万能の新自由主義とは正反対の政策で、80年代以降の「マネー資本主義」の失敗を物語っています。
国際的にも、中南米諸国は新自由主義から反転し、アメリカ支配から脱け出しています。アジア諸国も政策転換しています。ヨーロッパ諸国はもともとアメリカとは異なる道を歩んできました。
このような世界的・歴史的な流れに、日本も合流すべきでしょう。そのチャンスが今回の総選挙にほかなりません。そのチャンスを生かすことができるかどうかが、今、私たちに問われているのだと思います。

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