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4月30日(木) 労働組合に何ができるか-恐慌下、大量解雇と貧困のなかで(2) [論攷]

 昨日の続きです。今回は2回目で、明日で終わりです。

Ⅱ ピンチはチャンス-世界恐慌下のアメリカの経験に学ぶ

1、ニューディール政策とオバマ政策の類似点

 ここから少し話を変えて、アメリカのニューディール政策とオバマ新大統領の国内政策についてお話しすることにします。皆さん、あまりご存じないと思うのですが、私もある研究会で篠田徹早稲田大学教授の話を聞くまでは良く知りませんでした。彼の話を聞き、今回の講演を準備する過程で、これは重要だということ気づいた次第です。

 まず最初に指摘すべきことは、今のアメリカのオバマ新政権の政策がルーズベルトのニューディール政策とよく似ているということです。オバマ大統領が今やろうとしている政策は、ニューディールとオーバーラップしている。

 そのひとつは、産業復興法(NIRA)と中産階級対策本部の設置です。産業復興法第7条A項は、産業規約の締結を産業界に求め、その中に団体交渉権の承認を盛り込むこと、最低賃金と最高労働時間についての規定を入れることを要求しました。それまではこういうものは全くなかった。労働組合は完全に敵視され、労働組合も政府に頼ろうとはしませんでした。労働運動は通商に対する妨害だとして刑事罰を問われ、裁判になればだいたい負ける。それで、政治や行政は信用ならないもの、運動は独自に自主的に展開しなければならないものだとされ、政府は口を出すなというのが当時の労働組合の言い分で、できるだけ政治的行政的関与を避けようとしていたのです。

 ところが、経済危機のもとで、労働組合を強化することによってなんとか危機を乗り越えようとルーズベルト大統領は考え、そのための対策として産業復興法第7条A項を定めたのです。同じようにオバマ大統領は、1月30日に中産階級の生活向上のための対策本部を立ち上げ、労働組合を強化する大統領令に署名しています。ここで言う中産階級とは、基本的には白人労働者のことです。「強い中間層は、強い労働運動なしには生まれない」というわけです。

 二つ目は、社会保障法と医療保険法の類似性です。ニューディールでは、連邦社会保障法を制定して、老齢年金、失業保険、障害者扶助、母子衛生および児童福祉事業等を定めました。同じように、オバマ大統領は公的な医療保険制度の導入をめざしています。アメリカは公的な医療保障がないのはよく知られていますが、2月4日にオバマ大統領は低所得家庭の児童向け公的医療保険制度の導入を発表し、これに350万人の無保険児童を含める改正法案に署名しました。その財源はタバコ税だそうです。

 しかも、3月4日には医療保険改革に関する諮問会議を開催し、オバマ大統領は「包括的な医療保険改革を今年末までに成立させることが目標だ」と演説しています。実は、クリントン大統領のときにヒラリー夫人がやろうとして失敗した前例があります。今度、オバマ大統領がこれに取り組もうというわけで、それが成功するかどうかが注目されます。

 三点目がニューディールの労働関係法、ワグナー法として日本でもよく知られていますが、これとオバマの従業員自由選択法の類似性です。ワグナー法は、団結権、団体交渉権、スト権の再確認をしただけでなく、不当労働行為を列挙して禁止し、不当労働行為があった場合は全国労働関係委員会による行政救済を定めました。

 同じように、3月10日にオバマ大統領は従業員自由選択法を上程しています。カードチェック法ともいいます。アメリカの場合、労働組合を結成する時には交渉単位の過半数の賛成がなければ結成することができない。この過半数の賛成を、一人ひとりの賛成をカードでチェックすることによってできるようにする。そういう方式をとっていいか悪いかは、経営者が認めなければできないというのが今までのやり方でした。これに対して、組合側はカードチェックで組合を結成できるようにしたいと長い間要求してきましたが、これを認める法案が上程されました。これから審議されます。

 もし、これが認められれば、労働組合の結成が今までより容易になります。トム・ハーキンという民主党の上院議員は、「週40時間労働・最低賃金の米国労働関係法が大恐慌を抜け出し空前の繁栄期を迎える助けになったように、従業員自由選択法もわが国経済を再活性化する助けとなろう。今日こそ、新法を導入し、真にわが国経済の背骨である人々の手に力をとりもどすべき、歴史的転換点だ」と言っています。

 ということはつまり、オバマ大統領は、その内容からして、ニューディールの時のルーズベルト大統領と似たようなことをやろうとしているということです。しかし、第2次世界大戦後、ニューディールで認められた諸権利が逆転し、タフト・ハートレー法のような形で労働組合の活動に対する規制が強化されました。その後、新自由主義的な政策のもとで反労働組合的な姿勢や政策が強められていきます。南部の州では労働組合を結成すること自体が、商業の自由を阻害するということでほとんど禁止されるような状況になりました。いわば、労働組合への敵意をもった仕組みができてしまったわけです。こうして、資本家・経営者の側の自由裁量権を拡大し続けた結果、今日の事態が生み出されました。いわば、資本の大暴走です。

 労働にかかわるルール、労働政策などや労働組合は資本主義システムにおいてはハンドルとブレーキのようなものです。ハンドルをよくきかないようにし、ブレーキをゆるくしてきたのが新自由主義でした。その結果、マネーゲームにひた走ることになり、資本主義が暴走してしまった。当然の結果です。これを防ぎ是正するためには何が必要か。ハンドルを良く効くようにし、ブレーキを強めて、必要な時にはちゃんと止まれるようにしなければなりません。そうすれば、衝突や暴走を防ぐことができます。従って、労働に関するルールを再建し、規制力を復活させることが必要です。また、労働組合が資本の暴走を阻止する、是正することができるような牽制力を持たなければなりません。

2、ルーズベルト時代との相違点

 ただし、ルーズベルトの時代と今日ではいくつかの相違点もあります。世界がグローバル化した後の危機であるということが一つです。事実として、すでに国際的なネットワークが形成されている。従って、保護貿易や地域的ブロック化は、多少そういう動きも生まれていますが、多分、そうならないと思います。グローバル化には二つの側面があって、一つはこのような事実としての国際的ネットワークの形成、あるいは国際化の浸透ですが、もう一つは、グローバル化という名のものとに押し付けられたアメリカニゼーションでした。これはすでに破綻しました。それからの反転が、今始まっていると言ってよいでしょう。

 二つ目が中国や新興国の存在です。社会主義国というのは資本の暴走を国家として牽制しているわけですから、公的介入は絶えずなされていて、ある程度公的な力によって資本の暴走を制御できます。29年の世界大恐慌の時にもソ連が一定の役割を果たしました。しかし、今日の中国は当時のソ連以上に世界経済内での比重は高く役割は大きくなっています。3月の全人代では2年間で57兆円の経済対策を打ち出しました。GDPが6パーセント成長に低下したと最近話題になりましたが、6パーセントというのはマイナスではなくてプラスです。一時10パーセント前後、二桁成長でしたから、それに比べれば落ちはしましたがマイナスになったわけではない。中国の役割は大きい。最近言われているのはG2ですね。アメリカと中国です。また、新興国の役割も大きい。世界経済の回復に向けて、G8からG20へという形に変わってきているのが象徴的です。

 三つ目は、経済危機に対応しているのが、フーヴァーではなくオバマであるということです。1929年10月24日の「暗黒の日曜日」で世界恐慌が始まりましたが、ルーズベルトが当選して就任したのは34年3月です。5年近くもかかっています。リーマン・ショックは去年の9月15日で、11月にオバマ候補が当選し、今年の1月に大統領に就任している。この間、たったの4ヵ月です。このタイムラグの違いは大きい。ルーズベルトの前任者であったフーヴァーは全く無能で、経済は自由にすべきだとして全く手を打たなかった。そのために、事態をますます悪化させてしまいました。

3、オバマ政権に対する評価

 オバマ政権に対する評価では、二つの側面を見ておく必要があります。可能性と制約です。何でもできると思っている方がおられれば、それは過大評価です。何にもできないだろうというのは過小評価です。真理は、その中間にあるということです。所詮、アメリカの大統領ですから、できることに制約や限界があるのは当然です。でも、このような制約の枠内では、かなりまともな政権ではないかと思います。

 すでに紹介した国内政策をみてもそうですし、イラクからの撤兵、グァンタナモ収容所の閉鎖、キューバ制裁の緩和、イランとの接触、核廃絶の呼びかけなどは、歴代大統領の中ではピカ一でしょう。アフガンへの重点介入、イラクからアフガンへ力を移すという点では問題がありますが、同時に、非軍事的解決の模索ということも言っていますので、これからに注目したいところです。

 歴史の継承ということでは、緑のニューディールではルーズベルト政権、政権スタッフではクリントン政権を、オバマ政権は継承しています。労働者の力の回復による経済の再建が内政のポイントで、労働者を勇気づける、製造業への重点的投資を行う、中産階級(白人労働者)を重視するという面があります。そういう点では、これからのアメリカ労働運動は政府の後押しを受けてかなり復活するのではないかと思います。そのことを、オバマ大統領も期待しているように見えます。

 というようなことが、アメリカにおける「恐慌」からの脱出路として模索されているとすれば、この日本でも同じことがあってしかるべきではないか。アメリカは中産階級を再建しようとしているではないかと、労働者を元気づけようとしているではないかと、労働組合を後押ししようとしているではないかと、労働運動の側が意識的に政府に求めていく、行政側に問題を提起することが必要なのではないかと思います。

 経済危機はピンチではありますが、労働運動の側からすれば大きなチャンスでもあります。働く人々は現状に甘んずることはできず、変革に向けての大きなエネルギーが生まれるからです。そのようなエネルギーは、産業と経済の復興のためにも必要とされるものです。労働者が元気にならなければ経済を立て直すことはできません。不況からの脱出のために、為政者は労働者の協力を求めるということ、それは労働運動にとって有利な条件を生み出す可能性があるのだということ、つまり、労働運動にとっては勃興と発展のチャンスでもあるのだということを強調しておきたいと思います。

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yutakarlson

■93兆円の財源確保へ=医療保険改革で-米大統領―オバマ大統領社会変革に本気で取り組む-日本はどうなのか?
こんにちは。オバマ大統領どうやら、本気で社会変革にのりだそうとしているようです。実際に大きな社会問題である、医療保険改革のために、98兆円の財源確保をしようとしています。いくら社会改革をしようにも、善意だけで念仏を唱えていては何も変わりません。ひるがえって、日本はどうでしようか。社会問題に本格的に手をつけるような気配はみられません。日本は、本来的には経済より社会を優先してきて成功した国です。ポール・クルーグマンは、日本の経済対策は方向性は間違えていないが、投資額があまりに小さいとしています。私もそう思います。ここいらで、日本でも、年金問題、少子高齢化、医療、教育などの社会改革に対して少なくとも新たに50兆超円の対策を打っていくべきだと思います。これによって、多くの国民から社会に対する先行き不安が解消されれば、実体経済にもかなり良い影響を及ぼすものと思います。詳細は是非私のブログをご覧になってください。
by yutakarlson (2009-06-14 10:51) 

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by モンクレール (2011-08-24 12:34) 

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