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12月2日(水) 鳩山新政権への期待と問題点 [論攷]

〔下記の論攷は、国公労連が発行する『国公労調査時報』No.564(2009年12月号)に掲載されたものです〕

鳩山新政権への期待と問題点
                   
「2つの過去」からの決別と転換

 総選挙の結果、政権が交代した。09年8月は「変革の夏」であった。その「変革」は、民主党の勝利というよりも、自公政権の自滅であった。オウン・ゴールによって大敗を喫したのが、自公両党だったのである。
 自民党が政権を失った要因は、国民が「2つの過去」からの決別と転換を求めたからである。その一つは、政(族議員)・官・財(業界団体)癒着による利益誘導型の政治であった。いわば「古い自民党政治」による開発主義が拒否されたのである。もう一つは、小泉構造改革によって極限まで押し進められた生活と労働の破壊である。いわば「新しい自民党政治」による新自由主義もまた否定されたのである。
 したがって、転換の方向も二重でなければならない。「古い自民党政治」と「新しい自民党政治」がもたらした害悪を、それぞれ除去しなければならない。
 一つは、政・官・財癒着の是正であり、官僚主導型の国家体制の転換である。新政権は政治主導を掲げ、国家戦略室と行政刷新会議という新しい機構を設立して、これを実行しようとしている。
 もう一つは、構造改革によってズタズタにされた生活と労働の立て直しである。貧困の増大と格差の拡大という問題に対して、民主党は総選挙中に「国民の生活が第一」というスローガンを掲げ、直接的な生活支援策を打ち出している。
 これらの転換は、政策の内容だけでなく、その形成システムや枠組みの変更を目指すものとなっている。過去との決別は、政府の役割、与党との関係、政治と行政との関係、国会での審議や答弁のあり方、国会の構成など、極めて広範な変化を生み出そうとしている。その全貌は未だにハッキリしないが、公務のあり方にも大きな影響を及ぼすことは確実であろう。

小選挙区制の問題点

 鳩山新政権の閣僚には、マニフェストを金科玉条とし、総選挙で白紙委任を受けたかのような言動が目につく。自信たっぷりに広範な改革に着手しているのは、圧倒的な与党勢力が背後に存在しているからである。参院では過半数に達しないとはいえ、総選挙での圧勝によって民主党は衆院で308議席というかつてない強大な勢力を手に入れた。
 これに対して、敗れた自民党は119議席にとどまり、結党以来、初めて第一党の座を滑り落ちてしまった。これほどの大差による逆転劇が生じたのは、小選挙区制のマジックによる。比例代表区での得票率は民主42.4%対自民26.7%だから、その差は16ポイントほどにすぎない。それが約3倍にも開いたのは、小選挙区での「かさ上げ」効果が作動したからである。
 小選挙区で、民主党は47%の得票だったにもかかわらず、74%の議席を獲得した。27ポイントもの「かさ上げ」である。しかも、得票率では過半数以下なのに、議席率では4分の3近くの絶対多数となった。これほどの民意の歪曲があるだろうか。
 これ以外にも、公明党と共産党に投じられた票が全て生かされないなど、46%の票が死票になったという問題もある。選挙は民意を問うものであるにもかかわらず、問われたはずの民意は死票となって議席に全く反映されない。このような制度が民主主義と共存することは不可能である。
 各種の選挙制度にはプラス・マイナスがあり、最善の制度はないとされている。しかし、民主主義にとっての最悪の選挙制度はある。それが民意との大きな乖離を生み出す小選挙区制にほかならない。民主党がマニフェストで掲げている比例区定数の80議席削減は日本政治における小選挙区制の害悪をさらに強めることは明らかであり、とうてい賛成できるものではない。

鳩山新政権の課題と懸念

 鳩山新政権の課題は、何よりも「国民の生活が第一」という政権公約の実現を図ることである。そのためには、当面、雇用と生活、社会保障の立て直しに全力を注ぐ必要があろう。とりわけ、雇用の維持・拡大のための施策は重要であり、昨年のような「派遣村」の再現を防ぐための緊急の取り組みが求められている。
 前原国交相をはじめ、新政権の閣僚も矢継ぎ早に政策転換を打ち出してきた。ただし、その基本方向は正しくても、民主的な手続きという点では問題が指摘されている。政策転換には、きちんとした説明と見通しが示されなければならない。転換を急ぐあまり合意の形成をおろそかにすれば、新政権への信頼が損なわれることになろう。
 公務労働との関係では、労働基本権の回復、公務員制度改革、国家公務員総人件費2割削減という大きな問題が横たわっている。第1の労働基本権の回復問題では、協約締結権の回復による自律的労使関係の形成が課題となろう。
 第2の公務員制度改革問題では、「天下り」や「渡り」の防止、人事政策の転換などが課題となるが、優秀な公務員志望者を確保しつつ行政の機能不全や公務サービスの低下をもたらさないような移行措置が工夫される必要がある。
 第3の国家公務員総人件費2割削減という政権公約には多くの懸念が表明されている。過剰支出の是正や無駄を省くという意味なら問題はないが、公的部門の職員数の削減を意味するのであれば賛成できない。日本はすでに「小さな政府」であって、民主党がめざすハローワークのワンストップ・サービス化など雇用・社会保障の再建のためには、もっと「大きな政府」にする必要があるからだ。「こども手当」や農家の個別所得保障などの生活支援策の実施のためにも、多くの公務労働者が必要になる。
 現状でも、公務労働者は人員不足で、長時間・過密労働を余儀なくされている。さらなる人員の削減と給与水準の引き下げは労働環境を悪化させるだけでなく、民主党の公約実現にとっても大きな足かせとなろう。したがって、公務員は増やすことはあっても減らしてはならないということを、新政権には肝に銘じてもらいたい。


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